(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139472
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】水素同位体濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 59/38 20060101AFI20220915BHJP
C01B 4/00 20060101ALI20220915BHJP
B01D 61/42 20060101ALI20220915BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220915BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20220915BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20220915BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220915BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220915BHJP
C25B 9/40 20210101ALI20220915BHJP
C25B 11/037 20210101ALI20220915BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20220915BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20220915BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20220915BHJP
【FI】
B01D59/38
C01B4/00 D
B01D61/42
B01D71/02 500
B01D61/58
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B9/40
C25B11/037
C25B11/032
C25B11/081
C25B11/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039878
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】保田 諭
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 秀人
(72)【発明者】
【氏名】松島 永佳
【テーマコード(参考)】
4D006
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA13
4D006HA41
4D006KA31
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA56
4D006KB01
4D006MA03
4D006MC02
4D006PA02
4D006PB20
4D006PB66
4K011AA23
4K011AA30
4K011BA07
4K011DA11
4K021AA01
4K021BB03
4K021DB12
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB20
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】水素と重水素の混合ガスから気体状態の重水素を安価に得る。
【解決手段】第1電極11は水素(H成分、D成分)を透過させる金属(水素透過金属)で構成された電極であり、この水素透過金属は例えばPdである。第1電極11を透過したHイオン、Dイオンは、プロトン伝導層20中を第2電極12側に流れる。第1電極11が陽極として、第2電極12が陰極として用いられた場合、Hイオン、Dイオンはプロトン伝導層20中を図中左側から右側に流れる。この際、入力ガスにおける水素成分が重水素成分よりも陰極側の雰囲気中に流れやすくなり、入力ガス中のH/D組成比よりも、生成ガス中のH/D組成比が高くなる。入力ガスのうちこのようにH成分、D成分が消費された後で排出される排出ガスにおいてはD成分が濃縮される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素(1H)と、前記水素の同位体である水素同位体とが混在した入力ガス中の前記水素同位体の前記水素に対する濃度を高めた出力ガスを出力する水素同位体濃縮装置であって、
水素の正イオンを伝導させるプロトン伝導体で構成され、対向する2つの主面を具備するプロトン伝導層と、
パラジウム(Pd)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)のいずれかである水素透過金属の薄膜で構成され、前記プロトン伝導層の一方の主面において形成された第1電極と、
前記プロトン伝導層の他方の主面において形成された第2電極と、
を有する膜電極集合体を具備し、
前記膜電極集合体において、
前記第1電極と前記第2電極の間に直流電圧が印加され、前記第1電極、前記第2電極のうち陽極とされた一方の側と接する前記入力ガス中の前記水素及び前記水素同位体が前記第1電極と前記第2電極との間を流れ、前記第1電極、前記第2電極のうち陰極とされた他方の側で生成ガスが生成され、
前記生成ガスを生成するために前記水素及び前記水素同位体が消費された後の前記入力ガスである排出ガス、前記生成ガス、のうち前記水素同位体の濃度が高くなった側の一方が前記出力ガスとして取り出されることを特徴とする水素同位体濃縮装置。
【請求項2】
前記第2電極は白金(Pt)粒子を含み、
前記第1電極における前記水素透過金属は、前記第2電極における白金よりも緻密な構造を具備することを特徴とする請求項1に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項3】
前記第2電極は、前記水素透過金属の薄膜で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項4】
前記薄膜は前記水素透過金属の蒸着膜であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項5】
前記第1電極に正側、前記第2電極に負側の電位が印加され、
前記排出ガスが前記出力ガスとされたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項6】
前記第2電極に正側、前記第1電極に負側の電位が印加され、
前記生成ガスが前記出力ガスとされたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項7】
単原子層グラフェンを介して前記第1電極と前記プロトン伝導層とが接することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項8】
前記入力ガスが入力されてから前記出力ガスが出力されるまでに複数の前記膜電極集合体が段階的に用いられ、
前段の前記膜電極集合体からの前記出力ガスが、隣接する後段の前記膜電極集合体に対する前記入力ガスとして用いられることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項9】
一つの前記膜電極集合体における、前記排出ガス、前記生成ガスのうち前記出力ガスとされなかった一方が、当該一つの前記膜電極集合体よりも前側の段の前記膜電極集合体に対する前記入力ガスとして用いられることを特徴とする請求項8に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項10】
前記第1電極、前記第2電極、及び前記プロトン伝導層を具備する膜電極集合体母材が用いられ、前記複数の前記膜電極集合体の各々は、単一の前記膜電極集合体母材における面内の異なる領域として形成されたことを特徴とする請求項8又は9に記載の水素同位体濃縮装置。
【請求項11】
前記水素同位体は二重水素(2HあるいはD)、又は三重水素(3HあるいはT)であることを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の水素同位体濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素(1H)と重水素が混在する中で重水素を選択的に濃縮する水素同位体濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する水や水素ガス等を構成する水素の安定同位体として、質量数が1である(原子核が1個の陽子のみからなる)水素1H(以下、H)と、質量数が2である(原子核が1個の陽子と1個の中性子からなる)重水素2H(以下、D)があり、Dの存在比率はHに比べて圧倒的に小さい。H、Dの化学的性質はほぼ同様であるが、原子力分野や半導体製造分野においては、Dが特に有効となる用途が知られている。このため、HとDが混在する水や水素ガスの中から特にDを選択的に抽出する(分離する)技術が求められている。ただし、HとDを瞬時に完全に分離することは実質的には不可能であるため、実際にはこれらが混在する物質(水、水素ガス等)に対して、いずれか一方(特にD)の濃度が高くなるような処理が分離のために行われる。
【0003】
HとDの化学的性質はほぼ同様であるため、化学的な手法では一般的には両者は容易には分離されず、その特性、例えば沸点や蒸気圧の違いを用いて両者を分離する技術が知られている。しかしながら、このような技術においては高温や極低温、複雑なプロセス、高価な化学物質等が必要となり、Dを安価に得ることは困難である。また、HとDの零点振動エネルギーや原子サイズの違いを用いてこれらを分離する技術も知られているが、この場合においても極低温の環境が要求されるため、同様にDを安価に得ることは困難である。
【0004】
また、非特許文献1に記載されるように、水素を透過させる金属(Pd等)中のHとDの拡散係数が異なることを利用して、これらの分離を行う技術も知られている。この方法は前記の化学的な手法等に比べれば単純な構成で容易に実現することが可能であるが、使用される金属が水素によって脆化するという問題が存在する。脆化の影響を低減するためには、例えば金属(Pd等)を厚くすることが有効であり、その厚さは例えば数百nm~数十μmとされる。また、この金属を他の金属(Ag等)との合金として用いることも有効である。ただし、これらの場合には、この金属材料が高価となる、あるいは分離効率が低下する等の問題がある。また、この処理を高温で行うことも有効であるが、これによって装置構成が複雑となる。更に、水素をこの金属中において透過させるためには、この金属を挟んだ上流側と下流側で圧力差を設けることも必要であり、このためには複雑な装置構成も必要となる。
【0005】
これに対して、特許文献1には、燃料電池として機能する膜電極集合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を用いてHとDの分離を行う技術が記載されている。このMEAにおいては、電極(陽極、陰極)間にプロトン伝導体が挟まれ、陽極側にHとDが含まれる水素ガスが、陰極側に酸素ガス(大気)が供給される。この場合、陽極側から供給されてプロトン伝導体を通過した正のHイオン又はDイオンが陰極側で酸素と反応して水が生成されると共に、陽極・陰極間に起電力が発生するという、水の電気分解と逆の作用が発現する。プロトン伝導体としては、ナフィオン(Nafion:登録商標)等が用いられる。ここで陽極側に供給される水素ガス中には、正確にはH2、HD、D2が存在し、陰極側で生成される水は正確にはH2O、HDO等の混合物となる。この際、HイオンとDイオンのプロトン伝導体中の伝導の状況や反応速度の違いの違いに起因して、陰極側ではH2OよりもDが含まれるHDOが生成されやすくなるため、陰極側ではD成分が陽極側よりも増加する。
【0006】
ここで、陽極側では酸化反応、陰極側では還元反応が発生し、陽極、陰極を構成する材料は、これらの反応を促進する触媒として機能する材料で構成される。このような材料として、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)等の貴金属等が用いられる。ただし、燃料電池においては、この電極全体を例えば緻密にPtで構成するよりも、Pt微粒子を分散させて構成した方が、触媒反応に供するPtの表面積を増大させることができ、かつプロトン伝導体中にHイオン、Dイオンを輸送しやすくなるために、より高効率となる。このため、この場合の電極としては、非特許文献2等に記載されるように、陽極、陰極として、Pt微粒子がカーボン(C)シートに分散された構成のPt/C電極が特に好ましく用いられる。この装置によれば、非特許文献1に記載の装置を用いた場合よりも、安価に重水素を濃縮することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鈴木康夫、木村尚史、「パラジウム合金膜を用いるトリチウムを含む水素同位体の分離に関する研究」、生産研究、第36巻6号293頁(1983年6月)
【非特許文献2】深沢大志、梅武、鈴木直俊、「燃料電池向け触媒層の省白金化技術」、東芝レビュー、第68巻4号54頁(2013年)
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や非特許文献2に記載の技術においては、濃縮(分離)によって得られるのはHDO等の液体であり、気体の状態のD(HD、D2等)を得ることは困難であった。更に、非特許文献1に記載の技術や特許文献1に記載の技術においては、HとDの分離効率は低いため、更に安価にDを得ることができる技術が求められた。
【0010】
このため、水素(H)と重水素の混合ガスから気体状態の重水素を安価に得るための技術が求められた。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の水素同位体濃縮装置は、水素(1H)と、前記水素の同位体である水素同位体とが混在した入力ガス中の前記水素同位体の前記水素に対する濃度を高めた出力ガスを出力する水素同位体濃縮装置であって、水素の正イオンを伝導させるプロトン伝導体で構成され、対向する2つの主面を具備するプロトン伝導層と、パラジウム(Pd)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)のいずれかである水素透過金属の薄膜で構成され、前記プロトン伝導層の一方の主面において形成された第1電極と、前記プロトン伝導層の他方の主面において形成された第2電極と、を有する膜電極集合体を具備し、前記膜電極集合体において、前記第1電極と前記第2電極の間に直流電圧が印加され、前記第1電極、前記第2電極のうち陽極とされた一方の側と接する前記入力ガス中の前記水素及び前記水素同位体が前記第1電極と前記第2電極との間を流れ、前記第1電極、前記第2電極のうち陰極とされた他方の側で生成ガスを発生させた後で、前記生成ガスを生成するために前記水素及び前記水素同位体が消費された後の前記入力ガスである排出ガス、前記生成ガス、のうち前記水素同位体の濃度が高くなった側の一方が前記出力ガスとして取り出されることを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記第2電極は白金(Pt)粒子を含み、前記第1電極における前記水素透過金属は、前記第2電極における白金よりも緻密な構造を具備することを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記第2電極は、前記水素透過金属の薄膜で構成されたことを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記薄膜は前記水素透過金属の蒸着膜であることを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記第1電極に正側、前記第2電極に負側の電位が印加され、前記排出ガスが前記出力ガスとされたことを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記第2電極に正側、前記第1電極に負側の電位が印加され、前記生成ガスが前記出力ガスとされたことを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置は、単原子層グラフェンを介して前記第1電極と前記プロトン伝導層とが接することを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記入力ガスが入力されてから前記出力ガスが出力されるまでに複数の前記膜電極集合体が段階的に用いられ、前段の前記膜電極集合体からの前記出力ガスが、隣接する後段の前記膜電極集合体に対する前記入力ガスとして用いられることを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、一つの前記膜電極集合体における、前記排出ガス、前記生成ガスのうち前記出力ガスとされなかった一方が、当該一つの前記膜電極集合体よりも前側の段の前記膜電極集合体に対する前記入力ガスとして用いられることを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置は、前記第1電極、前記第2電極、及び前記プロトン伝導層を具備する膜電極集合体母材が用いられ、前記複数の前記膜電極集合体の各々は、単一の前記膜電極集合体母材における面内の異なる領域として形成されたことを特徴とする。
本発明の水素同位体濃縮装置において、前記水素同位体は二重水素(2HあるいはD)、又は三重水素(3HあるいはT)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、水素(H)と重水素の混合ガスから気体状態の重水素を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る水素同位体濃縮装置において用いられる膜電極集合体及びその周辺の構成を示す図である。
【
図2】第1電極を陽極、第2電極を陰極とした本発明の実施例1に対して測定が行われた際の構成を示す図である。
【
図3】実施例1(a)、比較例1(b)において、生成ガスにおけるH、D、HDに対応するイオン電流の時間変化を測定した結果である。
【
図4】実施例1、比較例1、2の生成ガスの組成比を測定した結果である。
【
図5】実施例1、比較例1、2の排出ガスにおけるD濃縮率を算出した結果である。
【
図6】印加電圧を変えて実施例1、比較例1、比較例2についてD濃縮率を測定した結果である。
【
図7】実施例1と比較例2における排出ガスの組成を測定した結果である。
【
図8】第1電極を陰極、第2電極を陽極とした本発明の実施例2に対して測定が行われた際の構成を示す図である。
【
図9】実施例2~5の生成ガスにおけるD濃縮率を算出した結果である。
【
図10】実施例1に対応した膜電極集合体が複数用いられた水素同位体濃縮装置である第1の変形例の構成を示す図である。
【
図11】第1の変形例を更に変形した第2の変形例の構成を示す図である。
【
図12】実施例2に対応した膜電極集合体が複数用いられた水素同位体濃縮装置である第3の変形例の構成を示す図である。
【
図13】第3の変形例を更に変形した第4の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る同位体分離装置について説明する。この同位体分離装置においては、特許文献1に記載された装置と同様に、膜電極集合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が基本的な構成要素として用いられる。
図1は、このMEA M及びその周辺の構成を示す図である。この構成においては、直流電圧が印加される2つの電極(第1電極11、第2電極12)と、これらに挟まれるプロトン伝導層20が用いられる。ここでは、第1電極11(端子A)・第2電極12(端子B)間には直流電圧が印加され、第1電極11側が正とされる場合、第2電極12側が正とされる場合があるが、初めは第1電極11側が正とされる場合について説明する。第1電極11側(
図1における第1電極11の左側)の雰囲気、第2電極12側(
図1における第2電極12の右側)の雰囲気は共に気体とされる。
【0016】
図1において、陽極とされる第1電極11の表面がある空間(図中左側の空間:陽極側ガス室31)には、水素Hと重水素Dが含まれるガス(H
2、D
2の混合ガス)が図中上側で入力し、このガスを入力ガスとする。この入力ガス中におけるH
2、D
2が第1電極11(陽極)表面で解離し、H成分、D成分が以下に説明するように反応をして消費される。一方、このH成分(Hイオン)、D成分(Dイオン)はプロトン伝導層20を図中右側に移動し、第2電極12(陰極)の表面で結合することによって、第2電極12の表面がある空間(図中右側の空間:陰極側ガス室32)において再びH
2、D
2が形成される。このように陰極側で生成されるガスを生成ガスとする。
【0017】
第1電極11は水素(H成分、D成分)を透過させる金属(水素透過金属)で構成された電極であり、後述するように、この水素透過金属は例えばPdである。第1電極11を透過したH(正)イオン、D(正)イオンは、プロトン伝導層20中を第2電極12側に流れる。入力ガスのうち、H2、D2の一部が陽極からこのように陰極側に流れて消費されて排出ガスとなる。第1電極11がこのようにPdを含む場合において、Pdが以下の(1)(2)式の触媒反応を生じることによってH+、D+が生成され、これらがプロトン伝導層20中を図中右側に流れる。
【0018】
【0019】
プロトン伝導層20を構成する材料としては、例えば特許文献1に記載されたようなナフィオン(Nafion:登録商標)等、Hイオン、Dイオンの伝導体(プロトン伝導体)を用いることができる。これらのイオンがプロトン伝導層20を図中左側から右側に流れ、第2電極12で再び酸化反応を生じることによって、第2電極12側で入力ガスと同様のH2、D2等が生成ガスとして生成される。
【0020】
図1において第1電極11が陽極として、第2電極12が陰極として用いられた場合、Hイオン、Dイオンはプロトン伝導層20中を図中左側から右側に流れる。この際、入力ガスにおける水素(H)成分が重水素(D)成分よりも陰極側(図中右側)の雰囲気中に流れやすくなる場合は、入力ガス中のH/D組成比よりも、生成ガス中のH/D組成比が高くなる。このため、入力ガスにおけるH
2はD
2よりも多く消費され、入力ガスのうちこのようにH成分、D成分が消費された後で排出される排出ガスにおいてはD成分が濃縮されるため、この排出ガスを、D成分の濃度が高められた出力ガスとすることができる。
【0021】
逆に、
図1の構成において、入力ガスにおけるD成分がH成分よりも陰極側(図中右側)の雰囲気中に流れやすくなる場合は、入力ガス中のD/H組成比よりも、生成ガス中のD/H組成比が高くなる。このため、この生成ガスを、D成分の濃度が高められた出力ガスとすることができる。
【0022】
ここで、特許文献1に記載された燃料電池においては、陽極と陰極では同じ材料(白金(Pt)等)が用いられ、特に、触媒作用を有するPtが微粒子の形態でカーボン粒子と組み合わされたPt/C触媒が電極材料として用いられる場合が多い。この場合、Ptが微粒子の形態で用いられることによってその表面積を大きくして触媒作用を強くし、かつ水素はこの電極を容易に透過することができる。一方、このMEA Mにおける第1電極11としては、パラジウム(Pd)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)のいずれかである水素透過金属の薄膜が用いられる。ここで、この薄膜は前記のPt/C触媒におけるPtよりも緻密な構造を有し、例えば真空蒸着によって形成される薄膜である。ここで用いられる水素透過金属は、このような緻密な構造を有していても水素は十分にこの薄膜を透過することができる。
【0023】
以下にこの点についての実験結果について説明する。ここでは、プロトン伝導層20として膜厚52μmのナフィオンが用いられ、
図1において第1電極11が陽極、第2電極12が陰極とされた。また、第2電極12としてPt/Cが用いられた上で、第1電極11として各種の材料が用いられた。ここで、Pt/Cとは、燃料電池と同様の、カーボンシート上にPt/C触媒が担持された電極である。Pt/C触媒とは、平均粒径10~50nm程度のカーボン微粒子上に平均粒径数nmのPt微粒子を多数担持されたものである。このPt/C電極は一般的に燃料電池の電極に用いられ、この場合にはカーボンシートが主に電極として機能し、Pt微粒子は主に触媒として機能する。
【0024】
ここでは、第1電極11の材料として、第2電極12と同じPt/Cを用いた場合(比較例1)、Pt/CにおけるPt微粒子をPd微粒子に置換したPd/Cを用いた場合(比較例2)、蒸着によるPd薄膜を用いた場合(実施例1)の3種類が用いられた。比較例1は、第1電極11と第2電極12において同じ材料を用いた場合であり、特許文献1等に記載の燃料電池と同様の構造に対応する。実施例1と比較例2では共にPdが用いられているが、その態様が異なる。Pd薄膜(実施例1)の膜厚は6nmとされた。実施例1におけるPd薄膜中のPdは、比較例2におけるPd/CのPd、あるいは比較例1におけるPt/C中におけるPtよりも緻密な構造をもつ。すなわち、実施例1と比較例2におけるPdは、その緻密性が大きく異なる。
【0025】
これらの3種類を用いた場合におけるD濃縮率を測定した。
図2は、この測定を行った際の装置構成を模式的に示す。図における一点鎖線で囲まれた部分がこの水素同位体濃縮装置1に対応する。ここで、第1電極11側の実際の入力ガスとしては、それぞれがマスフローコントローラ(MFC)101、102、103で流量が制御されたAr、H
2、D
2の混合ガスが用いられた。ここで、Arはキャリアガスとして用いられた。また、プロトン伝導層20(ナフィオン)における伝導には水(H
2O)成分が必要であるため、第2電極12(生成ガス)側においても、Arがマスフローコントローラ104で流量が調整されたArがバブラ105においてH
2Oでバブリングされた後で流された。
図2において、第1電極11側、第2電極12側の雰囲気は共に大気圧とされ、プロトン伝導層20等は室温とされた。第2電極12側の生成ガスのH、D組成分析は、生成ガスを真空排気系110(ターボ分子ポンプとドライポンプの組み合わせ)で排気した上でQ-mass(四重極質量分析器)120によって行われた。入力ガスのH、D組成は、MFC102、103によって設定された。
【0026】
この場合には、後述するように実施例1における生成ガス中のH/D組成比が高まったため、前記のように、
図1、2における排出ガスを出力ガスとすることができる。この場合において、初めに投入された入力ガス中のD/H組成比(モル比)であるD/H
inと、上記のようにH、Dが消費されて排出された排出ガス中のD/H組成比であるD/H
outを比較した(D/H
in)/(D/H
out)をD濃縮率とすることができる。このD濃縮率が1の場合には
図1の構成におけるHとDの選択性は全くなく、このD濃縮率が1を超える場合には、前記のような入力ガス中のHを選択的に除去する効果があることを意味する。ただし、ここで実際にH、Dの組成比が実測されたのは入力ガス(組成D/H
in)と、陰極側で生成された生成ガスである。前記の排出ガスの組成であるD/H
outは、入力ガスのうちの反応効率を乗じた分のH、Dが上記の反応をして生成ガスの組成が実現されたものとして、算出できる。ここでは、この反応効率を50%と仮定してをD濃縮率を算出した。
【0027】
図3は、第1電極11・第2電極12間に、流れる電流量が0.025Aとなるように電圧をそれぞれ印加した場合(この場合、電圧は0.01~0.1V程度となった)において、Q-mass120において質量に応じて分離して認識されたH
2、HD、D
2組成に対応するイオン電流の時間変化を、実施例1(a)、比較例1(b)について測定した結果である。どちらにおいても、上記の反応が進行し、Hイオン、Dイオンが陰極側に流れることによって、陰極側でH
2、D
2が徐々に生成され、かつHDも生成され、45min程度の経過の後には各組成が一定となる(飽和する)ことが明らかである。
【0028】
生成ガスの組成の飽和値を生成ガスの各組成とした場合の組成比を前記の3種類の第1電極11(陽極)の材料毎に
図4に示す。また、この場合において前記のように陽極側での反応効率を50%とした場合における、出力ガス(排出ガス)における前記のD濃縮率を各材料毎に
図5に示す。これらの結果から、特に陽極においてPd薄膜が用いられた実施例1において、
図4に示されるように生成ガス中に選択的にH成分を多く発生させて入力ガス中のH成分をより多く消費させることができ、
図5に示されるように出力ガス(排出ガス)におけるD組成を高める(D濃縮率を1より大きくする)ことができる。
【0029】
図5において、陽極としてPd/C(比較例2)、Pt/C(比較例1)を用いた場合にはD濃縮率は1.0に近く、これは、これらの場合にHとDの選択性が有意に見られないことを意味する。一方、Pd薄膜(実施例1)を用いた場合においてのみ、D濃縮率=3.0となり、排出ガス中のD濃度を高めることができる。
【0030】
図6は、印加電圧を変えて実施例1、比較例1、比較例2についてD濃縮率を測定した結果である。ここで、電極間に流れる電流と反応効率は1対1に対応するため、横軸は印加電圧に対応した電流から換算された反応効率としている。この結果より、第1電極11・第2電極12間の電圧によらず、Pt/Cが用いられた比較例1ではD組成の濃縮はできず、Pdが用いられた実施例1、比較例2でD組成が濃縮される。ただし、この効果はPd薄膜が用いられた実施例1で特に顕著となり、Pd/Cが用いられた比較例2では小さい。なお、ここでは
図5の場合と測定の態様が異なることに起因してD濃縮率の絶対値が
図5とは若干異なる。
【0031】
Pdの表面積は比較例2の方が実施例1よりも大きいため、陽極11上で水素分子等(H
2、D
2)が解離する反応(酸化反応)の効率は比較例2の方が高い。このため、上記の結果は、高いD濃縮率には、この酸化反応ではなく、これ以外の反応、例えばその後のHイオン、Dイオンの陽極への吸収、拡散が寄与することを意味する。また、前記のように実施例1ではPdの膜厚は6nmと、非特許文献1に記載されたような独立した水素透過膜として用いられる場合よりも薄い状態で用いられるため、この陽極を安価とすることができる。また、このようにPdが薄い場合でも
図1の構造の主体は厚いプロトン伝導層20となるため、Pdが水素によって脆化することによる問題は発生しにくい。また、薄いPdが用いられるため、上記の構成を安価に得ることができることも明らかである。
【0032】
上記の実施例1(陽極がPdの場合)における出力ガス(
図1、2における排出ガス)の組成分析を詳細に行った結果を、特に同様にPdが用いられた比較例2の結果と比較した。ここで、同一の入力ガスが用いられた際の出力ガスにおけるH
2、D
2、HDの組成が測定された。
図7は、実施例1と比較例2におけるこの測定結果である。この結果より、比較例2においては出力ガスにおけるHDの存在が顕著であるのに対して、実施例1においてはHD成分は極めて少ないことが顕著である。
【0033】
図2の構成においては入力ガス中にはHDは本来存在せず、Pdの触媒作用によって解離したH、Dが結合したことによってこのHDが生成される。このため、
図4に示されたような生成ガスの場合と同様に、Pd表面積が大きく触媒作用の大きなPd/Cが陽極に用いられた比較例2において特に多くのHDが陽極側で生成されたと考えられる。気体状態の重水素として特に求められるのは、DがHと結合したHDではなく、DのみからなりHが含まれないD
2であるため、この観点からも、重水素の濃縮装置として、Pd薄膜(蒸着膜)が用いられた実施例1が好ましい。
【0034】
次に、前記の例とは逆に第1電極11を陰極、第2電極12を陽極に用いた場合、更に第1電極11の材料としてPd以外の材料を用いた場合の結果について説明する。この測定を行った際の装置構成を
図2に対応させて
図8に模式的に示す。図における一点鎖線で囲まれた部分がこの水素同位体濃縮装置2に対応する。
図2の構成では入力ガスは第1電極11がある空間に入力されたのに対し、この場合には入力ガスは第2電極12がある空間に入力する。このため、
図8の構成では
図2の場合と比べて第1電極11と第2電極12の位置が逆転しているが、陽極側ガス室31、陰極側ガス室32の位置、作用は変わらない。この場合においては、実施例における生成ガス中のD/H比率が入力ガスよりも高まったために、前記のように、生成ガスが出力ガスとされる。この場合には、
図8の構成におけるQ-mass120によって出力ガス(生成ガス)の組成が測定される。
【0035】
ここでは、第1電極11が陰極(図中右側)、第2電極12が陽極(図中左側)として用いられ、第2電極12に前記と同様のPt/Cを用い、この際に第1電極11にPdを用いた場合、及びこの際に陰極12の材料としてPdと同様に水素を透過可能な金属であるバナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)を用いた場合をそれぞれ実施例2~5とし、同様の測定を行ってD濃縮率を測定した。この場合においても、入力ガスは陽極(第2電極12)側の表面と接するように構成され、Hイオン、Dイオンは陽極側から陰極(第1電極11)側に向けてプロトン伝導層20中を流れる。この場合におけるD濃縮率の測定結果を
図9に示す。ここでは、陽極、陰極が共にPt/Cとされた前記の比較例1の結果も示す。ここで、実施例2~5の第1電極11としてはMEAの取り扱いの都合上、Pd、V、Ta、Tiの膜厚が50μmとされた金属箔が用いられた。ただし、実施例1における第1電極となった蒸着膜を20nmと厚くした場合においても実施例1と有意差のない結果が得られたため、この金属箔と蒸着膜の間に本質的な相違はなく、少なくともこれらの膜厚の範囲においては、膜厚による違いはないと考えられる。
【0036】
この結果より、実施例2~5においても、1よりも十分に大きなD濃縮率が得られた。すなわち、緻密な構造を有するこれらの金属を陰極(第1電極11)に用いることによって、入力ガス中におけるDが濃縮された出力ガス(生成ガス)を得ることができる。この際、Pd以外でも、V、Ta、Tiを同様に用いることができる。これらの水素透過金属は、前記のようにHイオン、Dイオンを透過させる金属であり、第1電極11として、このような水素透過金属を緻密な構造として形成されたものを用いることが好ましい。なお、上記の実施例2と同様に、上記の比較例2(陽極がPd/C、陰極がPt/C)における材料を陽極と陰極で逆転させた場合(陽極がPt/C、陰極がPd/C:比較例3)の場合には、D濃縮率は1であった。
【0037】
また、第1電極11、第2電極12を共にPd薄膜とした場合(実施例6)について同様の測定を行った結果、D濃縮率は2.9程度と、やはり大きくなった。以上の結果より、上記のようなD濃縮の効果は、特に第1電極11あるいは第1電極11/プロトン伝導層20界面の特性によってもたらされ、基本的には極性や第2電極12には依存しないと推定される。また、どちらの極性とされた場合においても、入力ガスは陽極側と接するように入力され、D濃度が高められた出力ガスは、第1電極11側(
図2においては陽極側、
図8においては陰極側)から取り出される。この際、実施例1、2、6においてはPd薄膜が用いられたが、実施例3~5の結果より、V、Ta、Tiの薄膜を用いた場合でも同様の結果が得られると推定できる。
【0038】
次に、第1電極11において、水素透過金属以外の材料で構成された薄い層が追加された場合の結果について説明する。ここでは、このような層として、S.Hu、M.Lozada-Hidalgo、F.C.Wang、A.Mishchenko、F.Schedin、R.R.Nair、E.W.Hill、D.W.Boukhvalov、M.I.Katsnelson、R.A.W.Dryfe、I.V.Grigorieva、H.A.Wu and A.K.Geim、「Proton Transport Through One-Atom-Thick Crystals」、Nature、Vol.516、p227~230(2014年)に記載されたような、Pd等と同様に水素を透過させることができるグラフェンが用いられた。Hイオン、Dイオンはグラフェンの六角形の結晶構造中を透過する。
【0039】
ここでは、このような実施例(実施例7)として、前記の実施例1のように陽極として厚さ6nmのPdが蒸着により形成される前に、単原子層のグラフェンがプロトン伝導層20の表面に形成された(この場合における陽極の電極材料を以下ではPd/Grとする)。陰極としては実施例1等と同様の第2電極12であるPt/Cが用いられた。この場合におけるD濃縮率は6.7と、実施例1よりも高くなった。すなわち、単原子層のグラフェンをPd(第1電極11)とプロトン伝導層20の間に介在させることによって、更にD濃縮率が向上する。
【0040】
この原因としては、第1電極11側のプロトン伝導層20におけるHイオン、Dイオンの零点振動エネルギーの差が、グラフェンが存在する場合にはグラフェンがない場合と比べて大きくなるためであると考えられる。すなわち、このようにHイオンとDイオンの零点振動エネルギーの差を大きくすることができ、かつ水素(Hイオン、Dイオン)を透過させることができる物質を水素透過金属とプロトン伝導層20の間に介在させることによって、D濃縮率を特に高めることができる。なお、実施例7の極性を逆転させた場合(第1電極11及びグラフェンが陰極側とされた場合:実施例8)においても、1よりも大きなD濃縮率が得られた。ただし、この場合のD濃縮率は2.1程度であり、前記の実施例7よりも小さくなった。すなわち、グラフェンを第1電極11と組み合わせる構成は、これらを陽極側とした場合において特に有効である。
【0041】
上記の実施例、比較例において測定されたD濃縮率を表1に示す。この結果より、上記の水素透過金属の薄膜を電極として用いた場合において、特に高いD濃縮率が得られる。
【0042】
【0043】
次に、上記のMEA Mを複数用い、D成分の濃縮を多段階にわたり行い、濃縮効率を高めた構成について説明する。
図10は、この場合において
図2あるいは実施例1のように第1電極11を陽極、第2電極12を陰極として用いた構成を3段にわたり設けた水素同位体濃縮装置3(第1の変形例)の構成を示す。ここでは、MEA M1、M2、M3が上流側(図中上側)から順に用いられ、濃縮前の入力ガスは、初段のM1の入力ガス(第1入力ガス)として入力し、最終的にD濃度が最も高められた出力ガスは、最終段(3段目)のM3の排出ガス(第3排出ガス)となる。前記の通り、この場合にはM1、M2、M3のいずれにおいても、第1電極11(陽極)側の排出ガスが、D濃度が高められたガスとなる。なお、
図10においては便宜上M1のみに電圧が印加されるように記載されているが、実際にはM1、M2、M3の全てに並列に電圧が印加されている。また、
図10においては、第2電極12側の構成はM1、M2、M3でそれぞれ独立であり、かつ作用に無関係であるために記載が省略されている。
【0044】
ここでは、M1における排出ガス(第1排出ガス)がそのまま次段のM2に対する入力ガス(第2入力ガス)に、M2における排出ガス(第2排出ガス)がそのまま次段のM3に対する入力ガス(第3入力ガス)となるように、隣接するMEAの陽極側ガス室31同士が接続される。この構成によって、M1の入力ガス(第1入力ガス)のD濃度をM1、M2、M3によって順次高めてM3の排出ガス(第3排出ガス)として出力することができる。
【0045】
図10の構成の変形例となる水素同位体濃縮装置4(第2の変形例)の構成を
図11に示す。ここでは、、MEA M1~M4が上から順に用いられ、、前記と同様に、前段の排出ガスが次段の入力ガスとなるように、MEA M1~M4の陽極側ガス室31が接続されている。ただし、ここでは、
図1における生成ガスもフィードバックして用いられる点が異なる。
【0046】
図11において、各段からの排出ガス及び各段への入力ガスのD濃度は、下段に向かうほど高まる。このため、排出ガスのD濃度も、必然的に下段に向かうほど高まる。この場合、前記のように一つのMEAにおいては生成ガスのD濃度は入力ガスや排出ガスのD濃度よりも低くなるものの、後の段の生成ガスのD濃度がこれより前の段の排出ガスのD濃度より高くなる場合がある。
図11の構成において、M3の生成ガス(第3生成ガス)のD濃度がM1の排出ガス(第1排出ガス)のD濃度よりも高ければ、M3の陰極側ガス室32から生成ガス(第3生成ガス)を取り出してM1の排出ガス(第1排出ガス)と合流させてM2の入力ガス(第2入力ガス)とすれば、第2入力ガスのD濃度をより高めることができ、これによってM2の排出ガス(第2排出ガス)のD濃度をより高めることができる。同様に、M4の生成ガス(第4生成ガス)とM2の排出ガス(第2排出ガス)を合流させてM3の入力ガス(第3入力ガス)とすることができる。これによって、特に水素同位体濃縮装置4全体によるD濃縮率を高めることができる。
【0047】
上記のMEA Mを
図8あるいは実施例2の場合と同様に第1電極11を陰極、第2電極12を陽極として用いた構成を複数段にわたり設けることもできる。
図12は、
図10に対応してこのMEAを3段階で用いた水素同位体濃縮装置5(第3の変形例)の構成を示す。ここでは、MEA M1、M2、M3が左側(上流側)から順に用いられ、濃縮前の入力ガスは、初段のM1の入力ガス(第1入力ガス)として入力し、最終的にD濃度が最も高められた出力ガスは、最終段(3段目)のM3の生成ガス(第3生成ガス)となる。前記の通り、この場合にはM1、M2、M3のいずれにおいても、第1電極11(陰極)側の陰極側ガス室32中の生成ガスが、D濃度が高められたガスとなる。
【0048】
ここでは、M1におけるこの生成ガス(第1生成ガス)がそのまま次段のM2に対する入力ガス(第2入力ガス)に、M2における生成ガス(第2生成ガス)がそのまま次段のM3に対する入力ガス(第3入力ガス)となるように、各MEAの陰極側ガス室32と次段の陽極側ガス室31とが接続される。この構成によって、M1の入力ガス(第1入力ガス)のD濃度をM1、M2、M3によって順次高めてM3の生成ガス(第3生成ガス)として出力することができる。
【0049】
図12の構成の変形例となる、
図11に対応した水素同位体濃縮装置6(第4の変形例)の構成を
図13に示す。ここでは、MEA M1~M4が上流側(図中左側)から順に用いられ、、前記と同様に、前段の生成ガスが次段の入力ガスとなるように、MEA M1~M4の陰極側ガス室32Aと次段の陽極側ガス室31とが接続されている。ただし、ここでは、
図11の構成と同様に排出ガスもフィードバックして用いられる点が異なる。
【0050】
図13において、各段の生成ガス及び各段への入力ガスのD濃度は、下流(図中右側)に向かうほど高まる。このため、生成ガスのD濃度も、必然的に下流に向かうほど高まる。この場合、前記のように一つのMEAに対しては排出ガスのD濃度は入力ガスや生成ガスのD濃度よりも低くなるものの、下流の段の排出ガスのD濃度がこれより前の段の生成ガスのD濃度より高くなる場合がある。
図13の構成において、M3の陽極側ガス室31から排出される排出ガス(第3排出ガス)のD濃度がM1の生成ガス(第1生成ガス)のD濃度よりも高ければ、M3の排出ガス(第3排出ガス)をM1の生成ガス(第1生成ガス)と合流させてM2の入力ガス(第2入力ガス)とすれば、第2入力ガスのD濃度をより高めることができ、これによってM2の生成ガス(第2生成ガス)のD濃度をより高めることができる。同様に、M4の排出ガス(第4排出ガス)とM2の生成ガス(第2生成ガス)を合流させてM3の入力ガス(第3入力ガス)とすることができる。
【0051】
図10~13に記載された構成は、上記のMEAを用いた場合には、入力として用いられる物質(入力ガス)だけでなく、陽極側ガス室31から排出される排出ガス、及陰極側ガス室32から排出される生成ガスがいずれも気体であるために、特に容易に実現することができる。
【0052】
また、
図11の例においては、M3、M4の生成ガス(第3生成ガス、第4生成ガス)がこれらよりも1段前のM2、M3の入力ガス(第2入力ガス、第3入力ガス)の一部として、あるいは
図13の例においては、M3、M4の排出ガス(第3排出ガス、第4排出ガス)がこれらよりも1段前のM2、M3の入力ガス(第2入力ガス、第3入力ガス)の一部として、それぞれ用いられた。しかしながら、より多くのMEAが用いられる場合には、生成ガス(
図11の場合)や排出ガス(
図13の場合)を、この生成ガスや排出ガスを発生したMEAの2段以上前の入力ガスの一部として用いてもよい。この設定は、各MEAにおける入力ガス、排出ガス、生成ガスのD濃度に応じて行うことができる。
【0053】
また、上記の構成において、M1~M3(M4)としては、独立したMEAを用いることもできるが、各層の材料、膜厚が同一であるMEAを用いることもできる。この場合には、実際には、M1~M3(M4)を、単一の大きなMEA(膜電極集合体母材)の面内における異なる領域として設けることができる。すなわち、第1電極11、第2電極12を領域毎に分離し、かつ第1電極側ガス室11A、第2電極側ガス室12Aを異なる3つ(4つ)の領域において形成すれば、
図10~
図13の構成を容易に実現することができる。こうした構成は、上記のようなD濃縮作用が気体の状態、及び室温で行われるため、特に容易に実現することができる。より多くのMEAを同様に接続して用いることも容易である。
【0054】
なお、上記の例では重水素(2H、D)が水素(1H、H)とが混在する気体から重水素成分を選択的に濃縮することについて示されたが、原理的に、三重水素(3H、T)も同様に濃縮することができることは明らかである。他の水素同位体についても同様である。
【符号の説明】
【0055】
1~6 水素同位体濃縮装置
11 第1電極
12 第2電極
20 プロトン伝導層
31 陽極側ガス室
32 陰極側ガス室
101~104 マスフローコントローラ(MFC)
105 バブラ
110 真空排気系
120 Q-mass(四重極質量分析器)
M、M1~M4 膜電極集合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)