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特開2022-139781粘度経時変化予測パラメータ算出方法、粘度経時変化予測方法、プログラム、及び粘度経時変化予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139781
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】粘度経時変化予測パラメータ算出方法、粘度経時変化予測方法、プログラム、及び粘度経時変化予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
G01N11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040310
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉本 有輝
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ペースト材料の粘度経時変化予測パラメータを算出できる粘度経時変化予測パラメータ算出方法を提供する。
【解決手段】有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータをコンピュータが算出する粘度経時変化予測パラメータ算出方法であって、粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤の吸着エネルギーと、有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する第1の算出ステップと、吸着エネルギー及び相互作用エネルギーに基づいて、金属粉末の表面から有機溶剤が脱離し、代わりにバインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される粘度経時変化予測パラメータを算出する第2の算出ステップと、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータをコンピュータが算出する粘度経時変化予測パラメータ算出方法であって、
粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、前記金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する第1の算出ステップと、
前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づいて、前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出する第2の算出ステップと、
を有する粘度経時変化予測パラメータ算出方法。
【請求項2】
前記ペースト材料が含む前記分散剤を替えた複数の前記基準材のそれぞれについて、実測済みの粘度の経時変化量、複数種類の酸化状態それぞれの前記金属粉末の表面での面積占有率、及び前記金属粉末の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの前記分散剤の被覆率、を取得する取得ステップ、
を更に有する請求項1記載の粘度経時変化予測パラメータ算出方法。
【請求項3】
前記第1の算出ステップは、前記取得ステップで取得した前記複数種類の酸化状態それぞれの前記金属粉末の表面での面積占有率及び前記金属粉末の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの前記分散剤の被覆率に基づいて、前記金属粉末の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの複数の前記基準材に含まれる前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する
請求項2記載の粘度経時変化予測パラメータ算出方法。
【請求項4】
前記第2の算出ステップは、前記第1の算出ステップで算出した前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づき、前記有機溶剤及び前記分散剤が吸着した前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーと前記有機溶剤が吸着した前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーとによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出する
請求項3記載の粘度経時変化予測パラメータ算出方法。
【請求項5】
前記第2の算出ステップで算出した前記粘度経時変化予測パラメータと、実測済みの前記基準材の粘度の経時変化量と、の関係を算出して、前記ペースト材料の粘度の経時変化量を予測する粘度経時変化予測式を作成する作成ステップ、
を更に有する請求項1乃至4の何れか一項に記載の粘度経時変化予測パラメータ算出方法。
【請求項6】
コンピュータが、有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出し、前記粘度経時変化予測パラメータを用いてペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測方法であって、
粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、前記金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出するステップ、
前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づいて、前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出するステップ、
前記粘度経時変化予測パラメータと、実測済みの前記基準材の粘度の経時変化量と、の関係から作成された粘度経時変化予測式を用いて、前記ペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するステップ、
を有する粘度経時変化予測方法。
【請求項7】
有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出し、前記粘度経時変化予測パラメータを用いてペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するコンピュータに、
粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、前記金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出するステップ、
前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づいて、前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出するステップ、
前記粘度経時変化予測パラメータと、実測済みの前記基準材の粘度の経時変化量と、の関係から作成された粘度経時変化予測式を用いて、前記ペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するステップ、
を実行させるためのプログラム。
【請求項8】
有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出し、前記粘度経時変化予測パラメータを用いてペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測装置であって、
粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、前記金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する第1原理計算部と、
前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づいて、前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出する粘度経時変化予測パラメータ算出部と、
粘度の経時変化量を予測する前記ペースト材料の指定をユーザから受け付けるペースト材料指定受付部と、
前記粘度経時変化予測パラメータと、実測済みの前記基準材の粘度の経時変化量と、の関係から作成された粘度経時変化予測式を用いて、前記ユーザからの指定を受け付けた前記ペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測量算出部と、
算出した前記ペースト材料の粘度の経時変化予測量を出力する粘度経時変化予測量出力部と、
を有する粘度経時変化予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘度経時変化予測パラメータ算出方法、粘度経時変化予測方法、プログラム、及び粘度経時変化予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ペースト材料の粘度は金属粉末の分散性で説明される。また、金属粉末の分散性は粒子間の静電相互作用とファンデルワールス相互作用を考慮したDVLO理論(デリャーギン・ランダウ・フェルウェー・オーバービーク理論)により説明される。しかしながら、分散剤を含んだペースト材料の場合は、分散剤の金属粉末への表面改質効果が予測困難であり、既存モデルで定量的に粘度の経時変化を予測できない。
【0003】
特許文献1では、モリブデン粉末の有孔率と、出来上がったモリブデンペーストの粘度の間にはきわめて高い直線相関が存在することから、ペースト中に使用されるモリブデン粉末の有孔率を測定することにより、モリブデンペーストの粘性を予測している。しかしながら、特許文献1は分散剤の金属粉末への表面改質効果を考慮していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-200402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示が解決しようとする課題は、ペースト材料中の分散剤による金属粉末への表面改質効果を考慮したペースト材料の粘度経時変化予測パラメータを算出できる粘度経時変化予測パラメータ算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータをコンピュータが算出する粘度経時変化予測パラメータ算出方法であって、粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、前記金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤の吸着エネルギーと、前記有機溶剤、前記バインダー樹脂、及び前記分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する第1の算出ステップと、前記吸着エネルギー及び前記相互作用エネルギーに基づいて、前記金属粉末の表面から前記有機溶剤が脱離し、代わりに前記バインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって表される前記粘度経時変化予測パラメータを算出する第2の算出ステップと、を有する粘度経時変化予測パラメータ算出方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ペースト材料中の分散剤による金属粉末への表面改質効果を考慮したペースト材料の粘度経時変化予測パラメータを算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの一例の構成図である。
図2】本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
図3】本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの一例の機能構成図である。
図4】金属粉の表面から有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得の算出について説明するための一例の図である。
図5】本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの処理手順の一例を表すフローチャートである。
図6】基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースから取得するデータの一例の構成図である。
図7】粘度経時変化予測パラメータの算出に利用するデータの一例の構成図である。
図8】異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータとの関係を示すデータの一例の構成図である。
図9】ペースト材料組成と粘度経時変化予測式の定数C1及びC2との関係を示すデータの一例の構成図である。
図10】ペースト材料組成が同一であり、分散剤が異なるペースト材料ごとの粘度の経時変化予測量を示すデータの一例の構成図である。
図11】分散剤の一例を示す図である。
図12】異なる分散剤を用いたペースト材料の実測粘度経時変化量と、そのペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxとの関係を示した一例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0010】
本実施形態に係るペースト材料の粘度経時変化予測パラメータ算出方法、粘度経時変化予測方法、プログラム、及び粘度経時変化予測装置を実現する粘度経時変化予測システム1は、例えば図1に示すように構成される。図1は、本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの一例の構成図である。図1に粘度経時変化予測システム1は、粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4を備える。
【0011】
DB4は、粘度の経時変化量を実測済みであるペースト材料を基準材としてデータを記録し、管理している。DB4が管理している基準材についてのデータは、粘度経時変化予測装置2が粘度経時変化予測パラメータを算出するために利用する。また、DB4は粘度の経時変化予測量を算出するペースト材料の組成のデータを記録し、管理している。DB4が管理しているペースト材料の組成のデータは、粘度経時変化予測装置2がユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するために利用する。
【0012】
粘度経時変化予測装置2は、有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末、及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出する。また、粘度経時変化予測装置2は算出した粘度経時変化予測パラメータを用いて、ユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する。
【0013】
ユーザ端末3は、粘度経時変化予測量を算出するペースト材料の指定操作をユーザから受け付ける入力機能と、粘度経時変化予測装置2が算出したペースト材料の粘度の経時変化予測量をユーザに提示する表示機能と、を有する情報処理端末の一例である。
【0014】
なお、粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4は、様々な情報又はデータを伝送できるように接続されている。粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4が様々な情報またはデータを伝送するための通信資源は、有線接続又は無線接続される様々な伝送路を含んでおり、例えばインターネット網などの通信路、携帯機器向けの通信路等である。
【0015】
また、図1の粘度経時変化予測システム1の構成は一例であり、図1の構成に限定されない。例えば図1の粘度経時変化予測システム1は、粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4を1つのコンピュータで実現してもよい。また、図1の粘度経時変化予測システム1は粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4を、更に細分化した構成で実現してもよい。
【0016】
本実施形態に係る粘度経時変化予測システム1の粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4は例えば一般的なコンピュータを構成するハードウェアと、コンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)との協働により実現することができる。本実施形態に係る粘度経時変化予測システム1の粘度経時変化予測装置2、ユーザ端末3、及びDB4は、図2のコンピュータ20が所定のプログラムを実行することで、本実施形態に係るペースト材料の粘度経時変化予測パラメータ算出方法、粘度経時変化予測方法、プログラム、及び粘度経時変化予測装置を実現できる。
【0017】
図2は、本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。図2に示したコンピュータ20は、例えば図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)21などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)22やRAM(Random Access Memory)23などのメモリと、HDD(Hard Disk Drive)24などのストレージデバイスと、処理結果をユーザに提示する表示デバイスなどの出力装置25と、ユーザから操作を受け付ける入力デバイス等の入力装置27と、表示デバイスや入力デバイス等の機器又はネットワークを接続するためのI/F部26と、これら各部を接続するバスとを備えた一般的なコンピュータとしてのハードウェア構成を有する。
【0018】
上記のプログラムは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録されて提供され、HDD24などに格納される。プログラムを記録する記録媒体は、コンピュータ20が読み取り可能な記録媒体であれば、何れの記憶形式の形態であってもよい。また、プログラムはコンピュータ20に予めインストールされた構成であってもよい。プログラムはネットワークを介して配布され、コンピュータ20に適宜インストールされる構成であってもよい。
【0019】
上記のコンピュータ20で実行されるプログラムは、例えば後述の粘度経時変化予測装置2の各処理部を含むモジュール構成となっている。CPU21がプログラムを適宜読み出して実行することにより、後述する各処理部は、RAM23などのメモリ上に生成されるようになっている。
【0020】
本実施形態の粘度経時変化予測装置2は、複数台のコンピュータ20を通信可能に接続したシステムとして構成し、後述の各処理部を複数台のコンピュータ20に分散して実現する構成であってもよい。また、本実施形態の粘度経時変化予測装置2は、クラウドシステム上で動作する仮想マシンであってもよい。
【0021】
図3は本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの一例の機能構成図である。図3に示す粘度経時変化予測装置2は、データ取得部30、算出部40、粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50、及び粘度経時変化予測部60を備える。なお、本実施形態に係る粘度経時変化予測システム1の説明に不要な機能構成については図示を適宜省略する。
【0022】
データ取得部30はDB4からデータを取得する。DB4は、基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースと、ペースト材料の組成のデータベースと、を備える。DB4の基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースは、粘度の経時変化量を実測済みのペースト材料を基準材としてデータを記録し、管理している。また、DB4のペースト材料の組成のデータベースは、粘度の経時変化予測量を算出するペースト材料の組成のデータを記録し、管理している。データ取得部30は、粘度経時変化予測パラメータを算出するために利用するデータと、ユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するために利用するデータと、をDB4から取得する。
【0023】
算出部40はデータ取得部30がDB4から取得したデータに基づいて、粘度経時変化予測パラメータ及び粘度経時変化予測式定数などを算出するための各種計算を行う。算出部40は、第1原理計算部42、粘度経時変化予測パラメータ算出部44、及び粘度経時変化予測式定数算出部46を備えている。
【0024】
第1原理計算部42は、データ取得部30がDB4から取得したデータに基づき、後述する吸着エネルギー、及び相互作用エネルギーを算出する。粘度経時変化予測パラメータ算出部44は、第1原理計算部42が算出した吸着エネルギー、及び相互作用エネルギーに基づいて、後述の粘度経時変化予測パラメータを算出する。
【0025】
粘度経時変化予測式定数算出部46は、データ取得部30がDB4から取得したデータに含まれる実測済みの基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータ算出部44が算出した粘度経時変化予測パラメータとの関係を算出する。なお、実測済みの基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータとの関係は、後述する粘度経時変化予測式の定数により表すことができる。
【0026】
粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50は、算出部40が算出した、実測済みの基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータとの関係を、後述する粘度経時変化予測式の定数により記憶する。
【0027】
粘度経時変化予測部60は、ユーザ端末3を操作するユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する。粘度経時変化予測部60はペースト材料指定受付部62、粘度経時変化予測量算出部64、及び粘度経時変化予測量出力部66を備えている。
【0028】
ペースト材料指定受付部62は、粘度の経時変化量を予測するペースト材料の指定を、ユーザが操作するユーザ端末3から受け付ける。粘度経時変化予測量算出部64は、粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50に記憶された、実測済みの基準材の粘度の経時変化量と粘度経時変化予測パラメータとの関係から後述のように粘度経時変化予測式を作成する。粘度経時変化予測量算出部64は、作成した粘度経時変化予測式を用いることで、指定されたペースト材料の粘度経時変化予測パラメータから粘度の経時変化予測量を算出する。
【0029】
粘度経時変化予測量出力部66は、粘度経時変化予測量算出部64が算出したペースト材料の粘度の経時変化予測量をユーザ端末3に出力する。なお、粘度経時変化予測量出力部66は粘度経時変化予測量算出部64が算出したペースト材料の粘度の経時変化予測量をDB4に出力してもよい。
【0030】
ユーザが操作するユーザ端末3は、ペースト材料指定部70及び粘度経時変化予測量表示部72を備える。ペースト材料指定部70は粘度の経時変化予測量を算出するペースト材料をユーザに指定させる画面などを表示し、粘度の経時変化予測量を算出するペースト材料の指定操作をユーザから受け付ける。粘度経時変化予測量表示部72は粘度経時変化予測装置2の粘度経時変化予測部60が算出したペースト材料の粘度の経時変化予測量を画面に表示し、指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量をユーザに提示する。
【0031】
このように粘度経時変化予測システム1は、粘度の経時変化量を実測済みのペースト材料(基準材)のデータを取得してペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出し、算出した粘度経時変化予測パラメータを用いて、粘度経時変化予測パラメータと実測済みの基準材の粘度の経時変化量との関係(後述する粘度経時変化予測式の定数)を算出する設定工程と、粘度経時変化予測パラメータと実測済みの基準材の粘度の経時変化量との関係から作成された粘度経時変化予測式を用いて、ユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測工程と、を実行する。以下、設定工程と、粘度経時変化予測工程とについて順次説明する。
【0032】
(設定工程)
有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末及び分散剤を含むペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータは、粘度の経時変化量を実測済みの基準材に含まれる、金属粉末の表面での複数の酸化状態に対する有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤の吸着エネルギーと、有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出し、その吸着エネルギー及び相互作用エネルギーに基づいて、金属粉末の表面から有機溶剤が脱離し、代わりにバインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーによって算出する。
【0033】
まず、ペースト材料を構成する有機溶剤、バインダー樹脂、金属粉末、及び分散剤が多種に渡っても粘度の経時変化を適切に予測するための基準として、基準材の粘度の経時変化量を実測する粘度経時変化試験を行う。
【0034】
一般に、ペースト材料の一例である導電性ペーストは、導電性金属粉末、バインダー樹脂、有機溶剤、及び分散剤を含み、分散剤を用いて導電性金属粉末を有機溶剤中に分散させて粘度調整している。
【0035】
導電性金属粉末は、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を適宜選択する。以下では、ニッケル(Ni)を例に説明するが、特にニッケルに限定されない。
【0036】
バインダー樹脂は、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、若しくはニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、又はブチラール系樹脂など、有機溶剤に溶解するものを用いる。
【0037】
有機溶剤は、有機ビヒクルの構成成分として、バインダー樹脂を溶かすことができる。また、有機溶剤は、導電性金属粉末、及び有機ビヒクルを分散させて、導電性ペースト全体の粘度を調整し、導電性ペーストを所定のパターンで印刷できるようにすることができる。
【0038】
分散剤は、導電性金属粉末同士の凝集や、バインダー樹脂と導電性金属粉末の分離を抑制するために用いられる。例えば、アミド結合を有するアミノ酸、炭素数11以上の高級脂肪酸、又はそれらの誘導体から選ばれる1種以上の酸系分散剤が挙げられる。不飽和カルボン酸でも飽和カルボン酸でもよく、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、又はリノレン酸など炭素数11以上のものが挙げられる。
【0039】
高分子界面活性剤としては、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N-アルキル(C14~C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキル・ジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N'、N'-トリス(2-ヒドロキシエチル)-N-アルキル(C14~18)1,3-ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択されるカチオン系界面活性剤が挙げられ、例えば、アルキルモノアミン塩型、具体的にはグリシンとオレイン酸の化合物であるオレオイルザルコシンや、オレイン酸の代わりにステアリン酸あるいはラウリン酸などの高級脂肪酸を用いたアミド化合物である。
【0040】
これらのうち、粘度の経時変化量が異なる二つの粘度経時変化試験の結果を得られるように、異なる分散剤を用いた(分散剤以外の組成が同一の)基準材を用意する。例えば粘度の経時変化量が大きいラウリルジメチルアミンと粘度の経時変化量の小さいポロオキシエチレンラウリルアミンをそれぞれ分散剤とした2つの基準材を用意する。粘度経時変化試験は、粘度計を用いて、JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)に準拠して例えば初期の粘度と所定期間(例えば3週間後など)後の粘度との測定結果から粘度の経時変化量を算出すればよい。
【0041】
ここで、ペースト材料の粘度の経時変化量を予測する際に必要な粘度経時変化予測パラメータの設定について説明する。金属粉末を含むペースト材料の粘度は、バインダー樹脂が金属粉末間・分子鎖間での架橋により構造体を形成し、金属粉末が凝集することで増大する。また、金属粉末の凝集度合いは経時により進行する。
【0042】
このため、ペースト材料には粘度の経時変化の抑制のために分散剤が添加される。分散剤は金属粉末の表面に吸着し、金属粉末の表面とバインダー樹脂との結合を抑制することにより、金属粉末間・分子鎖間での架橋による構造体の形成を抑制し、ペースト材料の粘度の経時変化を抑制する。
【0043】
ペースト材料の粘度の経時変化は、全相互作用エネルギーの変化で説明できると考えられる。一方で、分散剤の全相互作用エネルギーへの影響は、分散剤と、金属粉末、バインダー樹脂、又は有機溶剤それぞれとの相互作用が複合して発現し、加えてマイクロメートルからナノメートルスケールにわたる、異なる空間スケールの物理現象を考慮する必要があると考えられる。したがって、メカニズムの複雑さから、分散剤が与えるペースト材料の粘度の経時変化への影響は、予測が困難であるとされていた。
【0044】
本実施形態では、分散剤が与えるペースト材料の粘度の経時変化への影響を予測するために、ナノメートルスケールの物理現象に注目する。特に本実施形態は、金属粉末の表面でのバインダー樹脂、有機溶剤、及び分散剤の吸着を考慮すればよいとの着想に基づくものである。
【0045】
具体的には、バインダー樹脂、有機溶剤、及び分散剤のいずれか2つの分子が金属粉末の表面に吸着された状態の表面モデルを想定した。この場合、バインダー樹脂、有機溶剤、及び分散剤のいずれか2つの分子間での相互作用を含んだ形での吸着エネルギーを算出することにより、バインダー樹脂の金属粉末の表面での吸着安定性を算出できる。このバインダー樹脂の金属粉末の表面での吸着安定性は、ペースト材料の粘度の経時変化量と比例関係にある。
【0046】
例えば分散剤Xを添加した場合のバインダー樹脂の金属粉末(以下、金属粉と呼ぶ)の表面での吸着安定性を表すパラメータ(以下、粘度経時変化予測パラメータと呼ぶ)Sxは以下の式(1)のように表すことができる。
【0047】
【数1】
粘度経時変化予測パラメータの設定には、以下のパラメータA、E、及びDxの考慮が必要となる。パラメータAは、ペースト材料中の金属粉の表面の酸化状態を表す。金属粉の表面の酸化状態は、例えば光電子分光測定又は中和滴定等の実験値を用いることが望ましい。パラメータEは、平衡状態(分散剤分子や有機溶剤分子が金属粉の表面に吸着して金属粉の表面に保護層を形成した状況)を想定し、この状況から、バインダー樹脂分子が保護層を壊してまで吸着する(置換反応に至る)傾向にあるかを表す。バインダー樹脂分子の置換反応の傾向は、例えば第1原理バンド計算、量子化学計算、又は分子動力学等での表面計算で得られる、吸着エネルギーを用いて求めるのが望ましい。パラメータDxは分散剤分子のすべてが吸着した場合を想定して、金属粉の表面を被覆可能な面積の割合を表す。パラメータDxは、金属粉の表面積より分散剤分子が十分添加されていない場合に金属粉の表面の改質が不完全となる効果を考慮するため、導入している。
【0048】
A酸化:光電子分光測定から得られるNiの価数状態や中和滴定等から得られる表面の酸塩基状態を用いて算出される、金属粉の表面のうち酸化面が占める面積の割合(金属粉表面酸化物率)
A水酸化:光電子分光測定から得られるNiの価数状態や中和滴定等から得られる表面の酸塩基状態を用いて算出される、金属粉の表面のうち水酸化面が占める面積の割合(金属粉表面水酸化物率)
EX 酸化:有機溶剤及び分散剤が吸着した金属粉の酸化表面から、有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得(図1の溶剤-樹脂置換エネルギー参照)
EX 水酸化:有機溶剤及び分散剤が吸着した金属粉の水酸化表面から、有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得(図1の溶剤-樹脂置換エネルギー参照)
E溶剤 酸化:有機溶剤が吸着した金属粉の酸化表面から、有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得(図1の溶剤-樹脂置換エネルギー参照)
E溶剤 水酸化:有機溶剤が吸着した金属粉の水酸化表面から、有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得(図1の溶剤-樹脂置換エネルギー参照)
DX:以下の式(2)により算出
【0049】
【数2】
次に、金属粉の表面から有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得の算出について説明する。図4は、金属粉の表面から有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときのエネルギー利得の算出について説明するための一例の図である。
【0050】
図4の例では、バインダー樹脂-分散剤の分子間での相互作用を含んだ形での有機溶剤の吸着モデルを算出する表面モデルと、有機溶剤-分散剤の分子間での相互作用を含んだ形でのバインダー樹脂の吸着モデルを算出する表面モデルと、の差分から、金属粉の表面から有機溶剤分子1つを脱離させ、代わりにバインダー樹脂を吸着させたときの置換反応の反応エネルギーを算出している。
【0051】
上記のパラメータA、E、及びDxを、基準材ごとに求めれば、ある一つの分散剤xを添加した時に得られる粘度の経時変化量Vxは、粘度経時変化予測パラメータSxを用いた粘度経時変化予測式(3)により表すことができる。
【0052】
【数3】
なお、粘度経時変化予測式(3)の定数C1及びC2は、以下のように算出する。まず、異なる2種類の分散剤を用いた基準材の粘度経時変化予測パラメータSx1及びSx2をそれぞれ算出すると共に、粘度の経時変化量Vx1及びVx2をそれぞれ測定する。粘度経時変化予測パラメータSx1及び粘度の経時変化量Vx1を代入した粘度経時変化予測式と、粘度経時変化予測パラメータSx2及び粘度の経時変化量Vx2を代入した粘度予測式から、基準材と分散剤以外の組成が同一のペースト材料の粘度経時変化予測式の定数C1及びC2を決定できる。
【0053】
(粘度経時変化予測工程)
粘度経時変化予測工程では、設定工程で決定した定数C1及びC2が設定されたペースト材料の粘度経時変化予測式を用いることで、粘度の経時変化量を予測するペースト材料の粘度経時変化予測パラメータから粘度の経時変化予測量を算出できる。
【0054】
(処理)
図5は、本実施形態に係る粘度経時変化予測システムの処理手順の一例を表すフローチャートである。図5では、粘度の経時変化量を実測済みのペースト材料(基準材)のデータを取得してペースト材料の粘度の経時変化予測に用いる粘度経時変化予測パラメータを算出し、算出した粘度経時変化予測パラメータを用いて粘度経時変化予測パラメータと実測済みの基準材の粘度の経時変化量との関係を算出する設定工程をステップS1~S4に示している。また、図5では、粘度経時変化予測パラメータと実測済みの基準材の粘度の経時変化量との関係から作成された粘度経時変化予測式を用いて、ユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測工程をステップS11~S14に示している。
【0055】
ステップS1において、粘度経時変化予測装置2のデータ取得部30はDB4の基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースから、図6に示すようなデータを取得する。図6は基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースから取得するデータの一例の構成図である。
【0056】
図6(A)は、粘度の経時変化量を実測済みであり、異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量と、分散剤添加率(分散剤分子数)と、ペースト材料組成と、を示している。図6(B)は、図6(A)に示したペースト材料組成の金属粉表面積と、金属粉表面酸化物率と、金属粉表面水酸化物率と、を示している。
【0057】
複数種類の酸化状態それぞれの金属粉の表面での面積占有率、及び金属粉の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの分散剤の被覆率は、基準材の組成と粘度の経時変化量のデータベースから取得したペースト材料組成の金属粉表面積、金属粉表面酸化物率、及び金属粉表面水酸化物率から求めることができる。
【0058】
酸化状態とは、物質中の原子の酸化の度合を示すもので、化合物中の原子が形式的に示す荷電数である。金属粉の表面の酸化状態は分散剤の種類によって変わらないため、ある分散剤を添加したペースト材料の酸化状態の情報は、他の分散剤を添加したペースト材料に適用できる。また、ここでいう面積占有率とは、金属粉表面における、ある酸化状態を持つ金属酸化物の占める割合である。分散剤の被覆率は、金属粉表面における分散剤分子の吸着量の実験値(例えばLC―MS試験;液体クロマトグラフ質量分析試験)に分散剤1分子が金属表面を被覆する面積を乗じ、さらに金属粉表面積の実験値で除することで算出できる。
【0059】
ステップS2において、粘度経時変化予測装置2の第1原理計算部42は、複数種類の酸化状態それぞれの金属粉の表面での面積占有率、及び金属粉の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの分散剤の被覆率に基づいて、図7に示す粘度の経時変化量を実測済みの基準材の、金属粉の表面での複数の酸化状態に対する有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤の吸着エネルギーと、有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する。図7は粘度経時変化予測パラメータの算出に利用するデータの一例の構成図である。
【0060】
図7は、粘度の経時変化量を実測済みであり、異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量、分散剤の吸着エネルギー、有機溶剤の吸着エネルギー、バインダー樹脂の吸着エネルギー、バインダー樹脂-分散剤の相互作用エネルギー、バインダー樹脂-有機溶剤の相互作用エネルギー、有機溶剤-分散剤の相互作用エネルギー、分散剤添加率、分散剤酸化面面積、分散剤水酸化面面積、及びペースト材料組成を示している。
【0061】
ステップS3において、粘度経時変化予測装置2の粘度経時変化予測パラメータ算出部44は、上記の式(1)で表した粘度経時変化予測パラメータSxを用いて、図7に示したデータから、基準材に対応した分散剤及び有機溶剤が吸着した金属粉の表面から有機溶剤が脱離し、代わりにバインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーを算出する。ステップS3の処理により、粘度経時変化予測装置2は図8に示すような異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量と、基準材に対応した分散剤及び有機溶剤が吸着した金属粉の表面から有機溶剤が脱離し、代わりにバインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギー(粘度経時変化予測パラメータ)との関係を算出できる。図8は異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータとの関係を示すデータの一例の構成図である。
【0062】
ステップS4において、粘度経時変化予測式定数算出部46は上記に示した粘度経時変化予測式(3)を用いて、図8に示したような異なる分散剤を用いた基準材の粘度の経時変化量と、粘度経時変化予測パラメータとの関係を示すデータから、定数C1及びC2を算出する。粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50は、図8の「ペースト材料組成」を含むペースト材料の粘度経時変化予測式(3)の定数C1及びC2を、例えば図9に示すように、ペースト材料組成と対応付けて記憶する。図9は、ペースト材料組成と粘度経時変化予測式の定数C1及びC2との関係を示すデータの一例の構成図である。図9に示すように、粘度経時変化予測装置2はペースト材料組成と粘度経時変化予測式の定数C1及びC2との関係を、粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50に記憶できる。
【0063】
ユーザが操作するユーザ端末3から粘度の経時変化を予測するペースト材料の指定を受け付けた粘度経時変化予測装置2の粘度経時変化予測部60は、ユーザから指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出する粘度経時変化予測工程をステップS11~S14で実行する。
【0064】
ステップS11において、粘度経時変化予測部60の粘度経時変化予測量算出部64はDB4のペースト材料の組成のデータベースから、ユーザが指定したペースト材料の粘度の経時変化予測量を算出するために必要な組成のデータを取得する。ステップS11で取得するデータは図6に示したデータから粘度の経時変化量の項目が削除されたデータであり、ユーザが指定したペースト材料の分散剤添加率(分散剤分子数)と、ペースト材料組成と、を含む。また、ペースト材料組成の金属粉表面積と、金属粉表面酸化物率と、金属粉表面水酸化物率と、を含む。
【0065】
ステップS12において、第1原理計算部42は、複数種類の酸化状態それぞれの金属粉の表面での面積占有率、及び金属粉の表面での複数種類の酸化状態それぞれでの分散剤の被覆率に基づき、ユーザから指定されたペースト材料の、金属粉の表面での複数の酸化状態に対する有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤の吸着エネルギーと、有機溶剤、バインダー樹脂、及び分散剤のいずれか2つの部材間のそれぞれの相互作用エネルギーと、を算出する。なお、ステップS12で算出するデータは図7に示したデータから粘度経時変化量の項目が削除されたデータである。
【0066】
ステップS13において、粘度経時変化予測装置2の粘度経時変化予測パラメータ算出部44は、上記の式(1)で表した粘度経時変化予測パラメータSxを用いて、ステップS12で算出したデータから、ユーザの指定したペースト材料に対応した分散剤及び有機溶剤が吸着した金属粉の表面から有機溶剤が脱離し、代わりにバインダー樹脂が吸着する置換反応の反応エネルギーを算出する。ステップS13の処理により、粘度経時変化予測装置2はユーザから指定されたペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxを算出できる。
【0067】
ステップS14において、粘度経時変化予測量算出部64は、粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部50に、ペースト材料組成と対応付けて記憶された粘度経時変化予測式(3)の定数C1及びC2から、ユーザの指定したペースト材料のペースト材料組成に対応する粘度経時変化予測式(3)の定数C1及びC2を取得する。そして、粘度経時変化予測量算出部64は、取得した定数C1及びC2を用いて、ユーザから指定されたペースト材料の粘度経時変化予測式(3)を作成する。粘度経時変化予測量算出部64は作成した粘度経時変化予測式(3)を用いることで、ユーザの指定したペースト材料の粘度経時変化予測パラメータから粘度の経時変化予測量を算出できる。
【0068】
粘度経時変化予測量出力部66は、粘度経時変化予測量算出部64が算出したペースト材料の粘度の経時変化予測量をユーザ端末3に出力する。したがって、ユーザが操作するユーザ端末3は、粘度経時変化予測装置2が予測したペースト材料の粘度の経時変化予測量を画面に表示し、指定されたペースト材料の粘度の経時変化予測量を例えば図12に示すようなデータとしてユーザに提示できる。
【0069】
図10は、ペースト材料組成が同一であり、分散剤が異なるペースト材料ごとの粘度の経時変化予測量を示すデータの一例の構成図である。したがって、ユーザは図10に示すデータを参照することで、所望する粘度の経時変化量を実現可能な分散剤と、ペースト材料組成との組み合わせを判断できる。
【0070】
図11は分散剤の一例を示す図である。図11の分散剤を用いて図5のフローチャートの処理を行い、異なる分散剤を用いた(異なる分散剤を添加した)ペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxをそれぞれ算出した。また、図11の分散剤を用いたペースト材料の実測済みの粘度の経時変化量(実測粘度経時変化量)と、そのペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxとを比較した結果を、図12に示している。
【0071】
図12は、異なる分散剤を用いたペースト材料の実測粘度経時変化量と、そのペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxとの関係を示した一例の図である。図12に示したように、異なる分散剤を用いたペースト材料の実測粘度経時変化量と、そのペースト材料の粘度経時変化予測パラメータSxとは、1次の関係が成立している。
【0072】
式(1)に示した本実施形態の粘度経時変化予測パラメータは、前述したようにペースト材料中の分散剤による金属粉末への表面改質効果を考慮している。このため、本実施形態の粘度経時変化予測パラメータを用いることで、粘度の経時変化量を実測していないペースト材料の粘度の経時変化予測量を精度良く予測できる。本実施形態は、式(1)の粘度経時変化予測パラメータを用いた粘度経時変化予測式で粘度の経時変化予測量を算出することにより、粘度の経時変化量を実測していないペースト材料の粘度の経時変化予測量を精度良く算出できる。
【0073】
以上、本実施形態によれば、ペースト材料中の分散剤による金属粉への表面改質効果を考慮したペースト材料の粘度経時変化予測パラメータを算出できる。また、ペースト材料中の分散剤による金属粉への表面改質効果を考慮した粘度経時変化予測パラメータを用いて、粘度の経時変化量を実測していないペースト材料の粘度の経時変化予測量を精度良く算出できる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 粘度経時変化予測システム
2 粘度経時変化予測装置
3 ユーザ端末
4 DB(データベース)
30 データ取得部
40 算出部
42 第1原理計算部
44 粘度経時変化予測パラメータ算出部
46 粘度経時変化予測式定数算出部
50 粘度経時変化予測パラメータと粘度の経時変化量の関係の記憶部
60 粘度経時変化予測部
62 ペースト材料指定受付部
64 粘度経時変化予測量算出部
66 粘度経時変化予測量出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12