(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140101
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】二次電池用活物質、二次電池用電極、二次電池及び飛行体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20220915BHJP
C07D 241/46 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/60
C07D241/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040756
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴也
(72)【発明者】
【氏名】西山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】高柳 良基
(72)【発明者】
【氏名】宮川 絢太郎
(72)【発明者】
【氏名】八尾 勝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 南
(72)【発明者】
【氏名】安藤 尚功
(72)【発明者】
【氏名】竹市 信彦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA01
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA19
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB19
5H050CB20
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050HA02
5H050HA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】蓄電セルのエネルギー密度の更なる向上が可能な二次電池用電極活物質、二次電池および二次電池を利用した飛行体を提供する。
【解決手段】二次電池に用いられる活物質が、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体を含む。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。二次電池に用いられる活物質は、フェナジン又はその塩若しくは誘導体を含んでもよい。上記のフェナジン類は、フェナジン構造に含まれるベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の活物質として用いられる二次電池用活物質であって、
前記活物質は、下記の一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物又はその塩を含む、
二次電池用活物質。
[一般式(1)]
【化1】
〔一般式(1)において、R
101~R
108は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
101~R
108が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
101~R
108のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(2)]
【化2】
〔一般式(2)において、R
201~R
210は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
201~R
210が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
201~R
210のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(3)]
【化3】
〔一般式(3)において、R
301~R
310は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
301~R
310が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
301~R
310のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(4)]
【化4】
〔一般式(4)において、R
401~R
410は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
401~R
410が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
401~R
410のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(5)]
【化5】
〔一般式(5)において、R
501~R
512は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
501~R
512が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
501~R
512のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(6)]
【化6】
〔一般式(6)において、R
601~R
612は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
601~R
612が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
601~R
612のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
[一般式(7)]
【化7】
〔一般式(7)において、R
701~R
712は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
701~R
712が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
701~R
712のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【請求項2】
前記化合物は、対称性を有する、
請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項3】
前記化合物は、
【化8】
であるか、又は、その完全還元体若しくは部分還元体であり、
上記の化学式において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を示す、
請求項1に記載の二次電池用活物質。
【請求項4】
二次電池の活物質として用いられる二次電池用活物質であって、
前記活物質は、下記の一般式(8)、一般式(9)、一般式(10)又は一般式(11)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含む、
二次電池用活物質。
[一般式(8)]
【化9】
〔一般式(8)において、R
801~R
806は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
801~R
806が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
801~R
806のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
[一般式(9)]
【化10】
〔一般式(9)において、R
101~R
104は、それぞれ独立して、酸素原子、又は、-OMで表される基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
101~R
104が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
[一般式(10)]
【化11】
〔一般式(10)において、R
201~R
206は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
201~R
206は、が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
201~R
206のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
[一般式(11)]
【化12】
〔一般式(11)において、R
501~R
508は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
501~R
508が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
501~R
508のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【請求項5】
前記二次電池用活物質は、下記の化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含む、
請求項4に記載の二次電池用活物質。
[化学式8-1]
【化13】
〔化学式(8-1)において、nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【請求項6】
Mは、H、Li、Na、K、Mg又はCaである、
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の二次電池用活物質。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の二次電池用活物質を含む、
二次電池用電極。
【請求項8】
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
電解質と、
を有し、
前記正極活物質又は前記負極活物質は、請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の二次電池用活物質を含む、
二次電池。
【請求項9】
前記正極活物質は、請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の二次電池用活物質を含む、
請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記二次電池は、非水二次電池である、
請求項8又は請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
請求項8から請求項10までの何れか一項に記載の二次電池と、
前記二次電池に蓄積された電気エネルギーを利用して推進力を発生させる推進力発生装置と、
を備える、飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用活物質、二次電池用電極、二次電池及び飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、酸化還元活性を示す有機材料として、ナフタザリン骨格がジチイン環等の非共役系の環で縮合した化合物からなる非水二次電池用電極活物質が開示されている。特許文献1に記載された非水二次電池用電極活物質を用いることで、エネルギー密度が400[Wh/kg‐蓄電セル]程度の蓄電セルが作製され得る。しかしながら、蓄電セルのエネルギー密度の更なる向上が望まれている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2018-085243号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、二次電池に用いられる活物質である二次電池用活物質が提供される。上記の活物質は、例えば、下記の一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物又はその塩を含む。
【0004】
[一般式(1)]
【化1】
〔一般式(1)において、R
101~R
108は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
101~R
108が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
101~R
108のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0005】
[一般式(2)]
【化2】
〔一般式(2)において、R
201~R
210は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
201~R
210が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
201~R
210のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0006】
[一般式(3)]
【化3】
〔一般式(3)において、R
301~R
310は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
301~R
310が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
301~R
310のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0007】
[一般式(4)]
【化4】
〔一般式(4)において、R
401~R
410は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
401~R
410が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
401~R
410のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0008】
[一般式(5)]
【化5】
〔一般式(5)において、R
501~R
512は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
501~R
512が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
501~R
512のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0009】
[一般式(6)]
【化6】
〔一般式(6)において、R
601~R
612は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
601~R
612が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
601~R
612のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0010】
[一般式(7)]
【化7】
〔一般式(7)において、R
701~R
712は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
701~R
712が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
701~R
712のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。〕
【0011】
上記の活物質において、上記の化合物は、対称性を有してよい。上記の活物質において、上記の化合物は、下記の化合物であるか、又は、その完全還元体若しくは部分還元体であってよい。なお、下記の化学式において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を示す。
【化8】
【0012】
本発明の第2の態様においては、二次電池に用いられる活物質である二次電池用活物質が提供される。上記の活物質は、例えば、下記の一般式(8)、一般式(9)、一般式(10)又は一般式(11)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含む。
【0013】
[一般式(8)]
【化9】
〔一般式(8)において、R
801~R
806は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
801~R
806が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
801~R
806のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【0014】
[一般式(9)]
【化10】
〔一般式(9)において、R
101~R
104は、それぞれ独立して、酸素原子、又は、-OMで表される基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
101~R
104が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【0015】
[一般式(10)]
【化11】
〔一般式(10)において、R
201~R
206は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
201~R
206は、が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
201~R
206のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【0016】
[一般式(11)]
【化12】
〔一般式(11)において、R
501~R
508は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR
501~R
508が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R
501~R
508のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【0017】
上記の活物質は、下記の化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含んでもよい。
[化学式8-1]
【化13】
〔化学式(8-1)において、nは、重合度を示す2以上の整数である。〕
【0018】
上記の第1の態様及び第2の態様に係る二次電池用活物質において、Mは、H、Li、Na、K、Mg又はCaであってよい。
【0019】
本発明の第3の態様においては、二次電池用電極が提供される。上記の二次電池用電極は、例えば、上記の第1の態様及び第2の態様に係る二次電池用活物質を含む。
【0020】
本発明の第4の態様においては、二次電池が提供される。上記の二次電池は、例えば、正極活物質を含む正極活物質層と、負極活物質を含む負極活物質層と、電解質とを有する。上記の二次電池において、正極活物質又は負極活物質は、例えば、上記の第1の態様及び第2の態様に係る二次電池用活物質を含む。
【0021】
上記の二次電池において、正極活物質は、上記の第1の態様及び第2の態様に係る二次電池用活物質を含んでよい。上記の二次電池は、非水二次電池であってよい。
【0022】
本発明の第4の態様においては、飛行体が提供される。上記の飛行体は、例えば、上記の第1の態様及び第2の態様に係る二次電池を備える。上記の飛行体は、例えば、二次電池に蓄積された電気エネルギーを利用して推進力を発生させる推進力発生装置を備える。
【0023】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】飛行体100のシステム構成の一例を概略的に示す。
【
図3】試験例1(実施例1の化合物を正極活物質として用いた半電池の放電試験:初期放電曲線)の結果を示すグラフである。
【
図4】試験例2(実施例1の化合物を正極活物質として用いた半電池の放電試験:初期放電曲線)の結果を示すグラフである。
【
図5】試験例3(実施例1の化合物を正極活物質として用いた半電池の放電試験:初期放電曲線)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態によれば、二次電池用の活物質として、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体が用いられる。特定の有機化合物の誘導体としては、当該有機化合物を母体として考えたときに、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物が例示される。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。二次電池用の活物質として、フェナジン又はその塩若しくは誘導体(フェナジン類と称される場合がある。)が用いられてもよい。上記のフェナジン類は、フェナジン構造に含まれるベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態によれば、上記の活物質を含む二次電池用電極、当該二次電池用電極を含む二次電池、及び、当該二次電池を含む飛行体が提供される。上述されたとおり、本実施形態において、活物質は、その構造の少なくとも一部に1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む。また、上記の2以上のベンゼン環には、少なくとも4個の酸素原子が結合している。これにより、活物質の単位質量あたりの容量[mAh/g‐活物質]が向上する。その結果、例えば、単位質量あたりのエネルギー密度が500[Wh/kg‐蓄電セル]以上の蓄電セルが得られる。本実施形態に係る蓄電セルを備えた二次電池は、単位質量あたりのエネルギー密度が大きいので、飛行体の用途に特に適している。
【0027】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0028】
本明細書において、数値範囲が「A~B」と表記される場合、当該表記はA以上B以下を意味する。また、「置換又は非置換」とは、「任意の置換基で置換されている、又は、置換基で置換されていない」ことを意味する。上記の置換基の種類は、明細書中で言及されない限り、特に制限されない。また、上記の置換基の個数は、明細書中で言及されない限り、特に制限されない。
【0029】
図1は、飛行体100のシステム構成の一例を概略的に示す。本実施形態において、飛行体100は、蓄電池110と、電力制御回路120と、1又は複数の電動機130と、1又は複数のプロペラ140と、1又は複数のセンサ150と、制御装置160とを備える。本実施形態において、蓄電池110は、1又は複数の蓄電セル112を有する。
【0030】
本実施形態において、飛行体100は、蓄電池110に蓄積された電気エネルギーを利用して飛行する。飛行体100としては、飛行機、飛行船又は風船、気球、ヘリコプター、ドローンなどが例示される。
【0031】
本実施形態において、蓄電池110は、電力制御回路120を介して、外部の充電装置(図示されていない。)から電気エネルギーを受領し、当該電気エネルギーを1以上の蓄電セル112に蓄積する。また、蓄電池110は、電力制御回路120を介して、1以上の蓄電セル112に蓄積された電気エネルギーを電動機130に供給する。
【0032】
本実施形態において、蓄電セル112は、電気エネルギーを蓄積する(蓄電セル112の充電と称される場合がる)。また、蓄電セル112は、蓄積された電気エネルギーを放出する(蓄電セル112の放電と称される場合がある)。蓄電セル112は、二次電池であってよい。蓄電セル112は、非水二次電池であってよい。
【0033】
非水二次電池としては、ナトリウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、リチウム空気二次電池、リチウム硫黄二次電池、マグネシウムイオン二次電池、アルミニウムイオン二次電池などが例示される。また、非水二次電池の一態様であるリチウムイオン二次電池は、非水電解液を使用した非水リチウムイオン二次電池と、固体電解質を使用した全固体リチウムイオン二次電池とを含む概念であってよい。
【0034】
例えば、車両に搭載される二次電池用の活物質としては、単位体積あたりに蓄積できる電荷量の大きな材料が選択されることが多い。一方、本実施形態において、蓄電セル112は飛行体100に搭載される。そのため、蓄電セル112に用いられる活物質は、単位質量あたりに蓄積できる電荷量の大きな材料であることが好ましい。
【0035】
蓄電セル112の質量エネルギー密度は、500[Wh/kg‐蓄電セル]以上であることが好ましく、550Wh/kg‐蓄電セル]以上であることがより好ましく、600Wh/kg‐蓄電セル]以上であることがより好ましく、650Wh/kg‐蓄電セル]以上であることがより好ましく、700[Wh/g‐蓄電セル]以上であることがさらに好ましい。これにより、飛行体の電源の用途に特に適した蓄電セルが得られる。
【0036】
蓄電セル112の体積エネルギー密度は、300[Wh/m3‐蓄電セル]以上1200[Wh/m3‐蓄電セル]以下であってもよく、400[Wh/m3‐蓄電セル]以上1000[Wh/m3‐蓄電セル]以下であってもよい。蓄電セル112が飛行体100の電源の一部として飛行体100に搭載される場合、蓄電セル112の体積エネルギー密度は、600[Wh/m3‐蓄電セル]以下であってもよく、800[Wh/m3‐蓄電セル]以下であってもよい。
【0037】
蓄電セル112は、上記の数値範囲内の質量エネルギー密度と、上記の数値範囲内の体積エネルギー密度を有してもよい。これにより、車両の電源に用いることが比較的困難な蓄電セルを、飛行体の電源として利用することができる。蓄電セル112の詳細は後述される。
【0038】
本実施形態において、電力制御回路120は、蓄電池110の電力の入力及び出力を制御する。電力制御回路120は、制御装置160からの命令に基づいて、蓄電池110の電力の入力及び出力を制御してよい。電力制御回路120は、例えば、制御装置160からの制御信号に基づいて動作する複数のスイッチング素子を含む。
【0039】
本実施形態において、電動機130は、電力制御回路120を介して、蓄電池110から電気エネルギーを受領する。電動機130は、蓄電池110から受領した電気エネルギーを利用して、プロペラ140を回転させる。これにより、電動機130は、蓄電セル112に蓄積された電気エネルギーを利用して、飛行体100の推進力を発生させることができる。
【0040】
本実施形態において、センサ150は、飛行体100の位置及び姿勢に関する各種の物理量を測定する。飛行体100の位置及び姿勢に関する各種の物理量を測定するためのセンサとしては、GPS信号受信機、加速度センサ、角加速度センサ、ジャイロセンサなどが例示される。センサ150は、蓄電池110の状態に関する各種の物理量を測定してよい。蓄電池110の状態に関する各種の物理量を測定するためのセンサとしては、温度センサ、電流センサ、電圧センサなどが例示される。
【0041】
本実施形態において、制御装置160は、飛行体100を制御する。制御装置160は、電力制御回路120を制御することで、蓄電池110の電力の入出力を制御してよい。例えば、制御装置160は、蓄電池110の出力電流、出力電圧、入力電流、入力電圧などを制御する。これにより、制御装置160は、飛行体100の位置及び姿勢を制御することができる。制御装置160は、センサ150からの出力に基づいて電力制御回路120を制御することで、飛行体100の位置及び姿勢を制御してよい。
【0042】
蓄電池110は、二次電池の一例であってよい。蓄電セル112は、二次電池の一例であってよい。電動機130は、推進力発生装置の一例であってよい。
【0043】
図2は、蓄電セル112の一例を概略的に示す。本実施形態においては、蓄電セル112がコイン型の非水二次電池である場合を例として、蓄電セル112の詳細が説明される。
【0044】
[蓄電セル]
本実施形態において、蓄電セル112は、正極ケース212と、負極ケース214と、封止剤216と、金属バネ218とを備える。また、蓄電セル112は、正極220と、セパレータ230と、負極240と、電解液250とを備える。本実施形態において、正極220は、正極集電体222と、正極活物質層224とを有する。本実施形態において、負極240は、負極集電体242と、負極活物質層244とを有する。
【0045】
本実施形態において、正極ケース212及び負極ケース214を組み立てることで、正極ケース212及び負極ケース214の内部に空間が形成される。正極ケース212及び負極ケース214により形成された空間の内部には、金属バネ218、正極220、セパレータ230、負極240及び電解液250が収容される。正極220、セパレータ230及び負極240は、金属バネ218の反発力により、正極ケース212及び負極ケース214の内部に固定される。
【0046】
正極ケース212及び負極ケース214は、例えば、円盤状の薄板形状を有する導電性の材料により構成される。本実施形態において、封止剤216は、正極ケース212及び負極ケース214の間に形成される隙間を封止する。封止剤216は、絶縁性材料を含む。封止剤216は、正極ケース212及び負極ケース214を絶縁する。
【0047】
[正極]
本実施形態において、正極集電体222は、正極活物質層224を保持する。正極集電体222の材料としては、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金などが例示される。正極集電体222の形状としては、箔、メッシュ、パンチドメタル、エキスパンドメタル等が例示される。正極集電体222の厚さは、特に限定されるものではないが、5~200μmであることが好ましい。正極集電体222の厚さは、6~20μmであってもよい。
【0048】
本実施形態において、正極活物質層224は、正極集電体222の少なくとも一方の面に形成される。正極活物質層224の厚さは、正極集電体222の片面あたり、1~300μmであってもよく、2~200μmであってもよい。正極活物質層224は、例えば、正極活物質、結着剤(バインダーと称される場合がある。)を含む。正極活物質層224は、導電助剤を含んでもよい。
【0049】
一実施形態において、正極活物質層224は、正極集電体222の少なくとも一方の面の上に、正極活物質層224を構成する材料及び有機溶媒を含むペーストを塗布し、当該ペーストを乾燥させることで形成される。上記の有機溶媒の種類は特に限定されるものではないが、上記の有機溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)などが例示される。他の実施形態において、正極活物質層224は、正極活物質層224を構成する材料を混合してシート状に成型し、当該シート状の混合物を正極集電体222の少なくとも一方の面に圧着することで形成される。
【0050】
正極活物質層224は、正極活物質として、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体を含んでよい。上記の複素環式化合物は、フェナジン構造を含む化合物であってよい。フェナジン構造は、(i)1個のピラジン環と、2個のベンゼン環とを含み、(ii)2個のベンゼン環のそれぞれが、ピラジン環の1個の炭素-炭素結合をピラジン環と共有して、ピラジン環に連結した構造を有する。上記のピラジン環は、任意の官能基により置換されていてもよく、置換されていないくてもよい。上記のベンゼン環は、任意の官能基により置換されていてもよく、置換されていないくてもよい。
【0051】
上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。これにより、上記の複素環式化合物は、小さな分子量でもより多くの電荷を蓄積することができる。その結果、上記の複素環式化合物を正極活物質として利用することで、蓄電セルの単位質量あたりのエネルギー密度の大きな蓄電セルが得られる。
【0052】
上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に、4以上12個以下の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。これにより、複素環式化合物の化学的な安定性が向上する。
【0053】
正極活物質層224は、正極活物質として、フェナジン類を含んでもよい。上記のフェナジン類は、フェナジン構造に含まれるベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上述されたとおり、これにより、蓄電セルの単位質量あたりのエネルギー密度の大きな蓄電セルが得られる。
【0054】
上記のフェナジン類は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記のフェナジン類は、上記のベンゼン環に、4以上8個以下の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。これにより、複素環式化合物の化学的な安定性が向上する。
【0055】
上記の正極活物質は、例えば、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体からなる。上記の正極活物質は、例えば、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体を主体として含む。
【0056】
上記の複素環式化合物又はその塩若しくは誘導体、及び、フェナジン類は、例えば、電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれる。正極活物質として用いられ得る複素環式化合物又はその塩若しくは誘導体、及び、フェナジン類の詳細は後述される。
【0057】
正極活物質は、上記の複素環式化合物などに限定されない。蓄電セル112がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、正極活物質の他の例としては、LiMnO2、LiNiO2、LiCoO2、Li(MnxNi1-x)O2、Li(MnxCo1-x)O2、Li(NiyCo1-y)O2、Li(MnxNiyCo1-x-y)O2などの層状酸化物;Li2MnO3-LiNiO2、Li2MnO3-LiCoO2、Li2MnO3-Li(NiyCo1-y)O2などの固溶体;Li2MnSiO4、Li2NiSiO4、Li2CoSiO4、Li2(MnxNi1-x)SiO4、Li2(MnxCo1-x)SiO4、Li2(NiyCo1-y)SiO4、Li2(MnxNiyCo1-x-y)SiO4などのケイ酸塩;LiMnBO3、LiNiBO3、LiCoBO3、Li(MnxNi1-x)BO3、Li(MnxCo1-x)BO3、Li(NiyCo1-y)BO3、Li(MnxNiyCo1-x-y)BO3などのホウ酸塩;V2O5;LiV3O6;MnOなどが挙げられる。上記式において、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。これらの正極活物質は単独で用いられてもよく、2種以上の正極活物質が組み合せられてもよい。
【0058】
蓄電セル112がナトリウムイオン二次電池である場合、正極活物質の他の例としては、NaFeO2、NaNiO2、NaCoO2、NaMnO2、NaVO2、Na(NiXMn1-X)O2、Na(FeXMn1-X)O2、NaVPO4F、Na2FePO4F、Na3V2(PO4)3などが挙げられる。上記式において、0<x<1である。これらの正極活物質は単独で用いられてもよく、2種以上の正極活物質が組み合せられてもよい。
【0059】
本実施形態において、結着剤は、正極活物質層224を構成する材料(例えば、正極活物質、導電助剤などである。)を結着し、正極220の電極形状を保持する。結着剤の種類は特に限定されるものではないが、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴムなどが例示される。
【0060】
本実施形態において、導電助剤は、正極220の抵抗を低減させる。導電助剤の種類は、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、導電助剤としては、炭素材料が例示される。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどである)、コークス、非晶質炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが例示される。これらの導電助剤は単独で用いられてもよく、2種以上の導電助剤が組み合せられてもよい。
【0061】
正極活物質層224が導電助剤を含まない場合、正極活物質層224における正極活物質の含有量は、40~99質量%であることが好ましく、70~97質量%であることがより好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。正極活物質層224における結着剤の含有量は、1~60質量%であることが好ましく、3~30質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
正極活物質層224が導電助剤を含む場合、正極活物質層224における導電助剤の含有量は、0.2~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~6質量%であることがさらに好ましい。このとき、正極活物質層224における正極活物質の含有量は、60~98質量%であることが好ましく、70~96質量%であることがより好ましく、80~94質量%であることがさらに好ましい。また、正極活物質層224における結着剤の含有量は、1.8~39.8質量%であることが好ましく、3~29質量%であることがより好ましく、4~18質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
なお、正極活物質層224における結着剤の含有量は、1~20質量%であってもよく、2~10質量%であってもよく、3~6質量%であってもよい。この場合、正極活物質層224の残部は、正極活物質であってもよく、正極活物質及び導電助剤の混合物であってもよい。
【0064】
[セパレータ]
本実施形態において、セパレータ230は、正極220及び負極240を隔離する。セパレータ230は、例えば、電解液を保持することにより、正極220及び負極240の間のイオン伝導性を確保する。セパレータ230の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ガラス又はこれらの複合体が例示される。セパレータ230の形状としては、微多孔フィルム、不織布、フィルターなどが例示される。セパレータ230の厚さは、特に限定されるものではないが、10~50μmであることが好ましい。セパレータ230の開口率は、特に限定されるものではないが、30~70%であることが好ましい。
【0065】
[負極]
本実施形態において、負極集電体242は、負極活物質層244を保持する。負極集電体242の材料としては、銅、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金などが例示される。負極集電体242は、樹脂の支持層と、支持層の表面に配された金属層とを備えてもよい。上記の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドなどが例示される。上記の金属層は、銅、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金からなる層であってよい。上記の金属層は、銅、アルミニウム、ステンレススチール、ニッケル、チタン又はこれらの合金からなる層を含んでよい。金属層は、箔であってもよく、メッキ層であってもよい。
【0066】
負極活物質にリチウム金属を用いる場合は、リチウム金属が集電体の役割を兼ね得る。そのため、蓄電セル112がリチウム金属二次電池である場合、蓄電セル112は、負極集電体242を備えなくてもよい。
【0067】
負極集電体242の形状としては、箔、メッシュ、パンチドメタル、エキスパンドメタル等が例示される。負極集電体242の厚さは、特に限定されるものではないが、5~200μmであってよい。負極集電体242の厚さは、6~20μmであることが好ましい。
【0068】
本実施形態において、負極活物質層244は、負極集電体242の少なくとも一方の面に形成される。負極活物質層244の厚さは、負極集電体242の片面あたり、1~300μmであってもよく、2~200μmであってもよい。負極活物質層244は、例えば、負極活物質、結着剤を含む。負極活物質層244は、導電助剤を含んでもよい。
【0069】
一実施形態において、負極活物質層244は、負極集電体242の少なくとも一方の面の上に、負極活物質層244を構成する材料及び有機溶媒を含むペーストを塗布し、当該ペーストを乾燥させることで形成される。上記の有機溶媒の種類は特に限定されるものではないが、上記の有機溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)などが例示される。他の実施形態において、負極活物質層244は、負極活物質層244を構成する材料を混合してシート状に成型し、当該シート状の混合物を負極集電体242の少なくとも一方の面に圧着することで形成される。
【0070】
負極活物質層244は、負極活物質として、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体を含んでよい。上記の複素環式化合物は、フェナジン構造を含む化合物であってよい。フェナジン構造は、(i)1個のピラジン環と、2個のベンゼン環とを含み、(ii)2個のベンゼン環のそれぞれが、ピラジン環の1個の炭素-炭素結合をピラジン環と共有して、ピラジン環に連結した構造を有する。上記のピラジン環は、任意の官能基により置換されていてもよく、置換されていないくてもよい。上記のベンゼン環は、任意の官能基により置換されていてもよく、置換されていないくてもよい。
【0071】
正極活物質層224に関連して説明された複素環式化合物と同様に、負極活物質層244に用いられ得る複素環式化合物は、上記のベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に、4以上12個以下の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。
【0072】
負極活物質層244は、負極活物質として、フェナジン類を含んでもよい。上記のフェナジン類は、フェナジン構造に含まれるベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記のフェナジン類は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記のフェナジン類は、上記のベンゼン環に、4以上8個以下の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。
【0073】
上記の負極活物質は、例えば、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体からなる。上記の負極活物質は、例えば、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体を主体として含む。
【0074】
上記の複素環式化合物又はその塩若しくは誘導体、及び、フェナジン類は、例えば、電池電極反応の少なくとも充電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれる。負極活物質として用いられ得る複素環式化合物又はその塩若しくは誘導体、及び、フェナジン類の詳細は後述される。
【0075】
負極活物質は、上記の複素環式化合物などに限定されない。蓄電セル112がリチウムイオン二次電池である場合、負極活物質の他の例としては、(i)黒鉛、(ii)難焼結性炭素又は難黒鉛化炭素、(iii)スズ、シリコン及びこれらを含む合金、(iv)SiOなどがあげられる。負極活物質として、(i)黒鉛、(ii)難焼結性炭素又は難黒鉛化炭素、(iii)スズ、シリコン及びこれらを含む合金、(iv)SiOなどの材料が用いられる場合、当該材料は、リチウムがプレドープされていてよい。
【0076】
負極活物質は、金属リチウム、リチウム合金などのリチウム含有物質であってもよい。例えば、蓄電セル112がリチウム金属二次電池である場合、負極として金属リチウムが用いられる。これらの負極活物質は単独で用いられてもよく、2種以上の負極活物質が組み合せられてもよい。
【0077】
負極活物質層244は、リチウム金属箔を含んでもよい。これにより、蓄電セル112にリチウムが供給される。リチウム金属箔の厚さは、1~300μmであってよく、2~200μmであってよく、3~100μmであってよい。リチウム金属箔の厚さ及び/又は質量は、正極活物質層224における正極活物質の含有量に応じて決定されてよい。
【0078】
蓄電セル112がナトリウムイオン二次電池である場合、負極活物質の他の例としては、(i)黒鉛、(ii)難焼結性炭素又は難黒鉛化炭素、(iii)スズ、シリコン及びこれらを含む合金、(iv)チタン酸化物などがあげられる。負極活物質は、金属ナトリウム、ナトリウム合金などのナトリウム含有物質であってもよい。これらの負極活物質は単独で用いられてもよく、2種以上の負極活物質が組み合せられてもよい。
【0079】
本実施形態において、結着剤は、負極活物質層244を構成する材料(例えば、正極活物質、導電助剤などである。)を結着し、負極240の電極形状を保持する。結着剤の種類は特に限定されるものではないが、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴムなどが例示される。
【0080】
本実施形態において、導電助剤は、負極240の抵抗を低減させる。導電助剤の種類は、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、導電助剤としては、炭素材料が例示される。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどである)、コークス、非晶質炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが例示される。これらの導電助剤は単独で用いられてもよく、2種以上の導電助剤が組み合せられてもよい。
【0081】
負極活物質層244が導電助剤を含まない場合、負極活物質層244における負極活物質の含有量は、40~99質量%であることが好ましく、80~98.5質量%であることがより好ましく、90~98質量%であることがさらに好ましい。負極活物質層244における結着剤の含有量は、1~60質量%であることが好ましく、1.5~20質量%であることがより好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
負極活物質層244が導電助剤を含む場合、負極活物質層244における導電助剤の含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらに好ましい。このとき、負極活物質層244における負極活物質の含有量は、40~98質量%であることが好ましく、80~97質量%であることがより好ましく、90~96質量%であることがさらに好ましい。また、負極活物質層244における結着剤の含有量は、1.9~59.9質量%であることが好ましく、2~19質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。
【0083】
なお、負極活物質層244における結着剤の含有量は、0.1~5質量%であってもよく、0.2~3質量%であってもよく、0.5~1質量%であってもよい。この場合、負極活物質層244の残部は、負極活物質であってもよく、負極活物質及び導電助剤の混合物であってもよい。
【0084】
[電解質]
本実施形態において、電解液250は、電解液250に含まれる電解質を介して、正極活物質と、負極活物質との間のイオン電導を実現する。本実施形態によれば、電解液250として、非水電解液が用いられる。非水電解液としては、公知の有機電解液が使用され得る。例えば、蓄電セル112がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、(i)エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの1種以上からなる溶媒に、(ii)過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液が、電解液250として使用される。
【0085】
非水電解液は、例えば、金属塩及び非水溶媒を含有する。金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩などが例示される。ナトリウム塩としては、NaPF6、NaBF4、NaClO4およびNaAsF6などの無機ナトリウム塩、及び、NaCF3SO3、NaN(CF3SO2)2、NaN(C2F5SO2)2、NaC(CF3SO2)3などの有機ナトリウム塩が例示される。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6などの無機リチウム塩、及び、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機リチウム塩が例示される。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、γ-ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシメタン、1,3-ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及び、これらの混合物が例示される。
【0086】
非水電解液におけるナトリウム塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.5~4.0mol/Lの範囲内であってよい。ナトリウム塩の濃度は、0.7mol/L~2.0mol/Lの範囲内であってもよく、1.0mol/L~1.5mol/Lの範囲内であってもよい。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.5~4.0mol/Lの範囲内であってよい。リチウム塩の濃度は、0.7mol/L~2.0mol/Lの範囲内であってもよく、1.0mol/L~1.5mol/Lの範囲内であってもよい。
【0087】
[別実施形態の一例]
本実施形態においては、蓄電セル112がコイン型二次電池である場合を例として、蓄電セル112の詳細が説明された。しかしながら、蓄電セル112の種類、構造などは、本実施形態に限定されない。他の実施形態において、蓄電セル112は、正極、セパレータ及び負極が渦巻状に巻回した巻回電極体を備える円筒型電池であってもよい。さらに他の実施形態において、蓄電セル112は、正極及び負極がセパレータを挟んで交互に積層した積層電極体が、ラミネートで封止されたラミネート型電池であってもよい。
【0088】
本実施形態においては、負極240が、負極集電体242及び負極活物質層244を有する場合を例として、蓄電セル112の詳細が説明された。しかしながら、蓄電セル112の負極は、本実施形態に限定されない。他の実施形態において、例えば、蓄電セル112がリチウム金属二次電池である場合、金属リチウムが負極として使用され得る。
【0089】
本実施形態においては、蓄電セル112の電解質として電解液250が用いられる場合を例として、蓄電セル112の一例が説明された。しかしながら、蓄電セル112の電解質は、本実施形態に限定されない。他の実施形態において、蓄電セル112の電解質として、固体電解質又はゲル電解質が使用されてよい。固体電解質としては、Li2S-P2S5系、Li2S-GeS2-P2S5系などの無機固体電解質が例示される。
【0090】
以上のとおり、
図1及び
図2を用いて、飛行体100及び蓄電セル112の詳細が説明された。次に、正極活物質又は負極活物質として用いられる複素環式化合物又はその塩若しくは誘導体、及び、フェナジン類の詳細が説明される。
【0091】
[I.活物質]
上述されたとおり、本実施形態によれば、二次電池用の正極活物質又は負極活物質(単に活物質と称される場合がある。)として、1以上のピラジン環及び2以上のベンゼン環を含む複素環式化合物、又は、その塩若しくは誘導体が用いられる。上記の複素環式化合物は、フェナジン構造を含む化合物であってよい。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記の複素環式化合物は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。
【0092】
二次電池用の活物質として、フェナジン又はその塩若しくは誘導体(フェナジン類と称される場合がある。)が用いられてもよい。上記のフェナジン類は、フェナジン構造に含まれるベンゼン環に少なくとも4個の酸素原子が結合した化合物であることが好ましい。上記のフェナジン類は、上記のベンゼン環に、4以上の偶数の個数の酸素原子が結合した化合物であってよい。
【0093】
[第1の実施形態]
一実施形態において、上記の活物質は、下記の一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物又はその塩を含む。上記の化合物又はその塩は、電池電極反応の放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれてよい。上記の化合物又はその塩は、電池電極反応の充電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれてよい。
【0094】
【0095】
一般式(1)において、R101~R108は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR101~R108が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0096】
本実施形態において、R101~R108のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基(OM基と称される場合がある。)である。R101~R108のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R101~R108の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0097】
これにより、酸化還元反応に関与する電子の個数が増加する。具体的には、酸化還元反応で4電子以上の多電子反応が可能となり、活物質の理論容量が増加する。そのため、活物質は、小さな分子量でもより多くの電荷を蓄積することができる。その結果、蓄電セルの単位質量あたりのエネルギー密度の大きな蓄電セルが得られる。
【0098】
活物質が完全に充電された状態において、(i)上記の酸素原子又はOM基は全て酸素原子となり、(ii)当該酸素原子と、フェナジン構造に含まれるベンゼン環の炭素との間の結合は二重結合となる。このとき、フェナジン構造のピラジン環に含まれる窒素原子には、上述されたMにより表される原子が結合していない。例えば、上記の窒素原子には、水素イオン又は金属イオンが結合していない。
【0099】
一方、活物質が完全に放電された状態において、(i)上記の酸素原子又はOM基は全てOM基となり、(ii)当該OM基の酸素原子と、フェナジン構造に含まれるベンゼン環の炭素との間の結合は単結合となる。このとき、フェナジン構造のピラジン環に含まれる窒素原子には、上述されたMにより表される原子が結合している。例えば、上記の窒素原子には、水素イオン又は金属イオンが結合している。
【0100】
R101~R108で示される有機基は、置換又は非置換の炭化水素基であってよい。上記の炭化水素基は、一価の炭化水素基であってもよい。R101~R108で示される有機基は、近接する2個の有機基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0101】
上記の有機基としては、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のカルボキシ基、置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、置換又は非置換のアシル基、置換又は非置換のアシルオキシ基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のアリールオキシ基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のヘテロアリールオキシ基、置換又は非置換のエステル基、置換又は非置換のエーテル基、置換又は非置換のアミノ基、置換又は非置換のスルホン酸基、置換又は非置換のシアノ基、置換又は非置換のチオエーテル基などが例示される。上記の有機基は、エステル結合(-COO-)を有する一価の基であってもよく、エーテル結合(-O-)を有する一価の基であってもよい。上記の有機基は、ホウ素を含んでもよい。上記の有機基は、ヘテロ原子として、ホウ素を含んでもよい。
【0102】
上記の有機基は、炭素、水素、酸素、窒素及びホウ素からなる群から選択される1種以上の原子により構成されてよい。これらの原子は、例えば硫黄と比較して原子量が小さい。そのため、上記の有機基が炭素、水素、酸素、窒素及びホウ素から構成されることにより、活物質として用いられる化合物の分子量が比較的小さくなる。その結果、活物質又は蓄電セルの質量エネルギー密度が向上する。上記の有機基は、炭素、水素、酸素及び窒素からなる群から選択される1種以上の原子により構成されてもよい。
【0103】
活物質中における酸化還元反応に関与する電子の個数が同一である場合、活物質の分子量が大きくなると、単位質量あたりに蓄積することのできる電荷量が小さくなる。そのため、上記の有機基が置換又は非置換の炭化水素基である場合、当該有機基の炭素数は、1~6個であることが好ましく、4個未満であることがより好ましく、2個以下であることがさらに好ましい。上記の有機基の炭素数は1個であってもよい。
【0104】
上記の有機基としては、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のカルボキシ基などが例示される。上記の活物質においては、有機基の分子量及び/又は大きさが小さいほど、蓄電セルの容量の低下が抑制され得る。アルキル基、アルコキシ基、アリール基及びカルボキシ基は、比較的、分子量又は大きさが小さい。そのため、上記の活物質がこれらの基を含む場合には、上記の活物質が他の有機基を含む場合と比較して、上記の活物質を含む蓄電セルの容量の低下が抑制され得る。
【0105】
上記のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの炭素数が1~6個のアルキル基が例示される。アルキル基の炭素数は、1~3個であることが特に好ましい。上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基であってもよく、分岐鎖状アルキル基であってもよい。
【0106】
上記のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基などの炭素数1~6個のアルコキシ基が例示される。アルコキシ基の炭素数は、1~3個であることが特に好ましい。上記のアルコキシ基は、直鎖状アルコキシ基であってもよく、分岐鎖状アルコキシ基であってもよい。
【0107】
上記のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ピリジル基が例示される。アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。
【0108】
R101~R108で示されるOM基において、Mは、H、Li、Na、K、Mg又はCaであってよい。Mとして示される金属原子の種類は、二次電池の正極及び負極の間を移動する金属イオンを構成する金属原子の種類と同一であってよい。例えば、二次電池がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、Mは、水素原子又はリチウム原子を示す。二次電池がナトリウムイオン電池である場合、Mは、水素原子又はナトリウム原子を示す。
【0109】
上述されたとおり、活物質中における酸化還元反応に関与する電子の個数が同一である場合、活物質の分子量が大きくなると、単位質量あたりに蓄積することのできる電荷量が小さくなる。そのため、一般式(1)で表される化合物中における酸化還元反応に関与する電子の個数に対する、当該化合物の分子量の比が小さいほど、当該化合物の体積エネルギー密度が大きくなり得る。合成の容易さと、単位質量あたりに蓄積することのできる電荷量とを考慮すると、R101~R108のうち酸素原子又はOM基以外のものは、水素原子であることが好ましい。
【0110】
本実施形態において、一般式(1)で表される化合物が、対称性を有することが好ましい。例えば、一般式(1)で表される化合物は、対称軸、対称面又は対称中心を有する。
【0111】
一般式(1)によれば、特定の化合物の完全酸化体及び完全還元体が表される。上記の完全酸化体及び完全還元体の両方がラジカル体でない場合、可逆な酸化還元反応が得られる。一般式(1)で表される化合物が対称性を有する場合、当該化合物の完全酸化体及び完全還元体の両方がラジカル体ではないので、可逆な酸化還元反応が得られる。また、合成の容易さを考慮すると、R101~R108のうち酸素原子又はOM基以外のものが同一であることが好ましい。
【0112】
【0113】
一般式(2)において、R201~R210は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR201~R210が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0114】
本実施形態において、R201~R210のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R201~R210のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R201~R210の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0115】
R201~R210のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R201~R210は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R201~R210のそれぞれは、一般式(2)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R201~R210のそれぞれは、一般式(2)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0116】
【0117】
一般式(3)において、R301~R310は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR301~R310が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0118】
本実施形態において、R301~R310のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R301~R310のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R301~R310の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0119】
R301~R310のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R301~R310は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R301~R310のそれぞれは、一般式(3)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R301~R310のそれぞれは、一般式(3)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0120】
【0121】
一般式(4)において、R401~R410は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR401~R410が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0122】
本実施形態において、R401~R410のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R401~R410のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R401~R410の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0123】
R401~R410のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R401~R410は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R401~R410のそれぞれは、一般式(4)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R401~R410のそれぞれは、一般式(4)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0124】
【0125】
一般式(5)において、R501~R512は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR501~R512が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0126】
本実施形態において、R501~R512のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R501~R512のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R501~R512の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0127】
R501~R512のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R501~R512は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R501~R512のそれぞれは、一般式(5)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R501~R512のそれぞれは、一般式(5)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0128】
【0129】
一般式(6)において、R601~R612は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR601~R612が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0130】
本実施形態において、R601~R612のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R601~R612のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R601~R612の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0131】
R601~R612のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R601~R612は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R601~R612のそれぞれは、一般式(6)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R601~R612のそれぞれは、一般式(6)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0132】
【0133】
一般式(7)において、R701~R712は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR701~R712が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。
【0134】
本実施形態において、R701~R712のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R701~R712のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R701~R712の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0135】
R701~R712のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R701~R712は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R701~R712のそれぞれは、一般式(7)で表される化合物が対称性を有するように決定され得る。R701~R712のそれぞれは、一般式(7)で表される化合物が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0136】
[活物質として用いられる化合物の具体例]
一実施形態において、上記の活物質の具体例として、下記の化合物が例示される。下記の化合物において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を示す。R1~R4で示される有機基は、上述されたR101~R108で示される有機基と同様の構成を有してよい。
【0137】
下記の化合物は、活物質が完全に充電された状態に対応する。下記の化合物は、一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物の完全酸化体の一例であってよい。なお、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物は、これらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。
【0138】
【0139】
他の実施形態において、上記の活物質の具体例としては、下記の化合物が例示される。下記の化合物において、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を示す。R5~R8で示される有機基は、上述されたR101~R108で示される有機基と同様の構成を有してよい。
【0140】
下記の化合物は、活物質が完全に放電された状態に対応する。下記の化合物は、一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)、一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)又は一般式(7)で表される化合物の完全還元体の一例であってよい。下記の化合物は、活物質が完全に充電された状態に対応する化合物として例示された上記の化合物の完全還元体であってよい。なお、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0141】
【0142】
上記においては、一般式(1)~(7)におけるMがLiである場合を例として、活物質が完全に放電された状態に対応する化合物が例示された。しかしながら、上記のMはLiに限定されない。上述されたとおり、Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子であってよい。
【0143】
上記の化合物の完全酸化体及び完全還元体の具体例から明らかなとおり、完全還元体又は部分還元体においては、完全酸化体における炭素の6員環のC=OがC-OMとなり、完全酸化体におけるピラジン環の=N-が-NM-となる点で、完全酸化体と異なる。また、また、完全還元体又は部分還元体は、炭素の6員環が芳香環となり、含窒素6員環が上記の化学式中に示された構造となる点で、完全酸化体と異なる。上記のC-OMにおけるOM間の結合はイオン結合であってよい。上記のNMにおけるNM間の結合はイオン結合であってよい。
【0144】
[一般式(1)で表される化合物の具体例]
一般式(1)で表される化合物は、当該化合物中における酸化還元反応に関与する電子の個数に対する当該化合物の分子量の比が小さい。また、一般式(1)で表される化合物において、R101~R108のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合、当該化合物中における酸化還元反応に関与する電子の個数に対する当該化合物の分子量の比がより小さくなる。
【0145】
以下に、R101~R108のうちの4個が酸素原子又はOM基であり、R101~R108のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(1)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(1)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0146】
【0147】
以下に、R101~R108のうちの6個が酸素原子又はOM基であり、R101~R108のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(1)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(1)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0148】
【0149】
以下に、R101~R108の全てが酸素原子又はOM基である場合を例として、一般式(1)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(1)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0150】
【0151】
[一般式(2)で表される化合物の具体例]
一般式(2)で表される化合物は、当該化合物中における酸化還元反応に関与する電子の個数に対する当該化合物の分子量の比が小さい。また、一般式(2)で表される化合物において、R201~R210のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合、当該化合物中における酸化還元反応に関与する電子の個数に対する当該化合物の分子量の比がより小さくなる。
【0152】
以下に、R201~R210のうちの4個が酸素原子又はOM基であり、R201~R210のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(2)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(2)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0153】
【0154】
以下に、R201~R210のうちの6個が酸素原子又はOM基であり、R201~R210のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(2)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(2)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0155】
【0156】
以下に、R201~R210のうちの8個が酸素原子又はOM基であり、R201~R210のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(2)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(2)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0157】
【0158】
以下に、R201~R210のうちの10個が酸素原子又はOM基である場合を例として、一般式(2)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。また、R301~R310のうちの10個が酸素原子又はOM基である場合を例として、一般式(3)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(2)又は一般式(3)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0159】
【0160】
以下に、R301~R310のうちの6個が酸素原子又はOM基であり、R301~R310のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(3)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(3)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0161】
【0162】
以下に、R301~R310のうちの8個が酸素原子又はOM基であり、R301~R310のうち酸素原子又はOM基以外のものが水素原子である場合を例として、一般式(3)で表される化合物の完全酸化体の具体例が開示される。しかしながら、一般式(3)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。他の具体例として、下記の化合物の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。また、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。
【0163】
【0164】
[対称中心を有する化合物の具体例]
上述されたとおり、上記の活物質は、一般式(1)~一般式(7)で表される化合物のうち、分子量が小さく、対称性を有する化合物を含むことが好ましい。上記の活物質は、下記の化学式(1A-1)又は化学式(1B-1)で示される化合物であってよい。化学式(1B-1)において、Mは、水素原子又は1価の金属原子を示す。Mは、H、Li、Na又はKであってよい。
【0165】
【0166】
【0167】
化学式(1A-1)は、活物質が完全に充電された状態に対応する。化学式(1B-1)は、活物質が完全に放電された状態に対応する。例えば、蓄電セル112がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、電池電極反応は、下記の反応式1で表される。
【0168】
【0169】
つまり、活物質が完全に充電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する4個の酸素が全て酸素原子となり、化学式(1A-1)で表される化合物が形成され得る。その後、活物質の放電が進行するにつれて、酸素原子の一部にリチウム原子が挿入される。そして、活物質が完全に放電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する4個の酸素が全てLiと結合し、化学式(1B-1)で表される化合物が形成され得る。
【0170】
反応式1において、移動電子数は6であり、化学式(1A-2)又は化学式(1B-2)で示される化合物の理論容量は670[mAh/g]である。上記の理論容量[mAh/g]は、26800÷モル質量[g/mol]×移動電子数[個]により算出される。
【0171】
上記の活物質は、下記の化学式(1A-2)又は化学式(1B-2)で示される化合物であってよい。化学式(1B-2)において、Mは、水素原子又は1価の金属原子を示す。Mは、H、Li、Na又はKであってよい。
【0172】
【0173】
【0174】
化学式(1A-2)は、活物質が完全に充電された状態に対応する。化学式(1B-2)は、活物質が完全に放電された状態に対応する。例えば、蓄電セル112がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、電池電極反応は、下記の反応式2で表される。
【0175】
【0176】
つまり、活物質が完全に充電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する6個の酸素が全て酸素原子となり、化学式(1A-2)で表される化合物が形成され得る。その後、活物質の放電が進行するにつれて、酸素原子の一部にリチウム原子が挿入される。そして、活物質が完全に放電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する6個の酸素が全てLiと結合し、化学式(1B-2)で表される化合物が形成され得る。反応式2において、移動電子数は8であり、化学式(1A-2)又は化学式(1B-2)で示される化合物の理論容量は777[mAh/g]である。
【0177】
上記の活物質は、下記の化学式(1A-3)又は化学式(1B-3)で示される化合物であってよい。化学式(1B-3)において、Mは、水素原子又は1価の金属原子を示す。Mは、H、Li、Na又はKであってよい。
【0178】
【0179】
【0180】
化学式(1A-3)は、活物質が完全に充電された状態に対応する。化学式(1B-3)は、活物質が完全に放電された状態に対応する。
【0181】
上記の活物質は、下記の化学式(1A-4)又は化学式(1B-4)で示される化合物であってよい。化学式(1B-4)において、Mは、水素原子又は1価の金属原子を示す。Mは、H、Li、Na又はKであってよい。
【0182】
【0183】
【0184】
化学式(1A-4)は、活物質が完全に充電された状態に対応する。化学式(1B-4)は、活物質が完全に放電された状態に対応する。例えば、蓄電セル112がリチウムイオン二次電池又はリチウム金属二次電池である場合、電池電極反応は、下記の反応式3で表される。
【0185】
【0186】
つまり、活物質が完全に充電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する8個の酸素が全て酸素原子となり、化学式(1A-3)で表される化合物が形成され得る。その後、活物質の放電が進行するにつれて、酸素原子の一部にリチウム原子が挿入される。そして、活物質が完全に放電された状態において、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する8個の酸素が全てLiと結合し、化学式(1B-3)で表される化合物が形成され得る。反応式3において、移動電子数は10であり、化学式(1A-3)及び化学式(1B-3)で示される化合物の理論容量は、それぞれ、893[mAh/g]及び726[mAh/g]である。
【0187】
上述されたとおり、化学式(1A-1)、化学式(1A-2)及び化学式(1A-3)で表される化合物は、例えば、酸素原子にリチウム原子が挿入されて-OLiで表される基となる。したがって、これらの化合物は、正極活物質として使用することができる。なお、一般式(1)~一般式(8)で表される化合物のうち、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する基(例えば、一般式(1)で示される化合物の場合、R101~R108で示される基である。)が酸素原子となっている化合物についても同様である。
【0188】
同様に、化学式(1B-1)、化学式(1B-2)及び化学式(1B-3)で表される化合物は、例えば、-OLiで表される基からリチウム原子が脱離して酸素原子となる。したがって、これらの化合物は、負極活物質として使用することができる。なお、一般式(1)~一般式(8)で表される化合物のうち、フェナジン構造に含まれるベンゼン環と結合する基(例えば、一般式(1)で示される化合物の場合、R101~R108で示される基である。)がOM基となっている化合物についても同様である。
【0189】
[第2の実施形態]
他の実施形態において、上記の活物質は、下記の一般式(8)、一般式(9)、一般式(10)又は一般式(11)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含む。上記の重合体又はその塩は、電池電極反応の放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれてよい。上記の重合体又はその塩は、電池電極反応の充電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちの何れかに含まれてよい。
【0190】
【0191】
一般式(8)において、R801~R806は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR801~R806が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。nは、重合度を示す2以上の整数である。
【0192】
本実施形態において、R801~R806のうちの少なくとも4つは、酸素原子又はOM基である。R801~R806のうちの酸素原子又はOM基の個数は、4以上の偶数であってよい。R801~R806の全てが、酸素原子又はOM基であってもよい。
【0193】
R801~R806のそれぞれは、上述されたR101~R108のそれぞれと同様の構成を有してよい。例えば、R801~R806は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。また、R801~R806のそれぞれは、一般式(8)で表される繰り返し単位が対称性を有するように決定され得る。R801~R806のそれぞれは、一般式(8)で表される繰り返し単位が対称軸、対称面又は対称中心を有するように決定されてよい。
【0194】
本実施形態によれば、繰り返し単位内に蓄電サイトが含まれるので、重合体の重合度及び分子量が増加しても、単位質量あたりに蓄積することのできる電荷量が変動しない。そのため、任意の重合度nが採用され得る。
【0195】
【0196】
一般式(9)において、R101~R104は、それぞれ独立して、酸素原子、又は、-OMで表される基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR101~R104が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。nは、重合度を示す2以上の整数である。R101~R104の詳細は、一般式(1)に関連して説明されたとおりであってよい。
【0197】
【0198】
一般式(10)において、R201~R206は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR201~R206は、が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R201~R206のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。R201~R206の詳細は、一般式(2)に関連して説明されたとおりであってよい。
【0199】
【0200】
一般式(11)において、R501~R508は、それぞれ独立して、酸素原子、-OMで表される基、水素原子又は有機基を示す。Mは、水素原子、又は、1価若しくは2価の金属原子を示す。ただし、Mが2価の金属原子である場合、近接する2個のR501~R508が互いに連結して、-OMO-で表される環を形成する。実線及び破線で示される二重線は、単結合又は二重結合を示す。R501~R508のうちの少なくとも4つは、酸素原子、又は、-OMで表される基である。nは、重合度を示す2以上の整数である。R501~R508詳細は、一般式(5)に関連して説明されたとおりであってよい。
【0201】
[活物質として用いられる化合物の具体例]
上記の活物質は、下記の化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を含んでよい。化学式(8-1)において、nは、重合度を示す2以上の整数である。
【0202】
【0203】
化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体は、活物質が完全に充電された状態に対応する。化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体は、一般式(8)で表される繰り返し単位を含む重合体の完全酸化体の一例であってよい。なお、下記の化合物は共役分子であり、共鳴構造を有することに留意されたい。一般式(8)で表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩は、化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体に限定されるものではない。他の具体例として、化学式(8-1)で表される繰り返し単位を含む重合体の完全還元体又は部分還元体が例示され得る。
【0204】
[II.活物質の製造方法]
上述された活物質は、公知の化合物であるか、又は公知の反応を採用して合成することができる。例えば、化学式(1A-1)で表されるフェナジン-1,4,6,9-テトラオンは、下記の反応式4により合成することができる。
【0205】
【0206】
例えば、まず、2,5-ジメトキシアニリン(反応式4の4a)と、1,4-ジメトキシ-2-ニトロベンゼン(反応式4の4b)とを出発物質として、公知の方法により、1,4,6,9-テトラメトキシフェナジン(反応式4の4c)が得られる。例えば、出発物質をトルエン溶媒に溶解し、カリウムtert-ブトキシド(t-BuOK)の存在下で還流することにより、1,4,6,9-テトラメトキシフェナジンが生成される。
【0207】
次に、1,4,6,9-テトラメトキシフェナジンを出発物質として、公知の方法により、フェナジン-1,4,6,9-テトラオン(反応式4の4d)が得られる。例えば、1,4,6,9-テトラメトキシフェナジンを有機溶媒に溶解して得られた溶液と、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム水溶液と混合することにより、フェナジン-1,4,6,9-テトラオンが生成される。
【0208】
また、化学式(1A-3)で表されるフェナジン-1,2,3,6,7,8-ヘキサオンは、下記の反応式5及び反応式6により、その還元体を合成することができる。フェナジン-1,2,3,6,7,8-ヘキサオンの還元体は、化学式(1B-3)で表される化合物の一例であってよい。
【0209】
同様に、化学式(1A-4)で表されるフェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンは、下記の反応式5及び反応式7により、その部分還元体を合成することができる。フェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンの部分還元体は、化学式(1B-4)で表される化合物の一例であってよい。
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
例えば、まず、反応式5において、2,3,4,5-テトラメトキシアニリン(反応式5の5a)を出発物質として、公知の方法により、1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジン(反応式5の5b)と、(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼン(反応式5の5c)とが得られる。例えば、出発物質をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、公知の触媒と共に加熱攪拌することで、1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジンと、(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼンとが生成される。
【0214】
次に、反応式6において、反応式5により得られた1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジン(反応式6の5b)を出発物質として、公知の方法により、1,2,3,6,7,8-ヘキサヒドロキシフェナジン(反応式6の6a)が得られる。例えば、出発物質を、酢酸―臭化水素酸混合溶液に溶解し、還流温度で加熱攪拌することで、1,2,3,6,7,8-ヘキサヒドロキシフェナジンが生成される。
【0215】
同様に、反応式7において、反応式5により得られた(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼン(反応式7の5c)を出発物質として、公知の方法により、1,3,4,6,8,9-ヘキサヒドロキシフェナジン-2,7-ジオン(反応式7の7a)が得られる。例えば、出発物質を、酢酸―臭化水素酸混合溶液に溶解し、還流温度で加熱攪拌することで、1,3,4,6,8,9-ヘキサヒドロキシフェナジン-2,7-ジオンが生成される。
【0216】
なお、本願明細書の記載に接した当業者であれば、同様の手順により、一般式(1)~(7)で表される化合物、及び、一般式(8)~(11)で表される繰り返し単位を合成することができることを理解することができる。また、本願明細書の記載に接した当業者であれば、必要に応じて、公知の反応を採用することで、一般式(1)~(7)で表される化合物、一般式(8)~(11)で表される繰り返し単位、及び、一般式(8)~(11)で表される繰り返し単位を含む重合体を合成することができることを理解することができる。
【実施例0217】
[実施例1]
Conboy, Darren;Mirallai, Styliana I.;Craig, Austin;McArdle, Patrick;Al‐Kinani, Ali A.;Barton, Stephen;Aldabbagh, Fawaz,Journal of Organic Chemistry,2019,vol.84, #15,p.9811‐9818.に記載された手順に従って、フェナジン-1,4,6,9-テトラオンを合成した。反応条件の詳細は、上記の文献に準拠して決定した。また、合成に用いられた各種試薬には、市販されている試薬を用いた。
【0218】
具体的には、まず、2,5-ジメトキシアニリンと、1,4-ジメトキシ-2-ニトロベンゼンとを、t-BuOKの存在下において、トルエン溶媒中で16時間還流した。得られた固形分をカラムクロマトグラフィーで分離し、1,4,6,9-テトラメトキシフェナジンを得た。
【0219】
次に、分離された1,4,6,9-テトラメトキシフェナジンを適切な溶媒に溶解し、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム水溶液と混合し、室温で一時間攪拌した。その後、分液操作で有機層を水洗し、溶媒を留去することで、フェナジン-1,4,6,9-テトラオンを得た。
【0220】
[実施例2]
Chem. Commun., 2016, 52, 922-925)に記載された手順に従って、フェナジン-1,2,3,6,7,8-ヘキサオン[0]の還元体である1,2,3,6,7,8-ヘキサヒドロキシフェナジンを合成した。反応条件の詳細は、上記の文献に準拠して決定した。また、合成に用いられた各種試薬には、市販されている試薬を用いた。
【0221】
具体的には、まず、2,3,4,5-テトラメトキシアニリンをDMFに溶解し、適切な触媒と共に加熱攪拌した。その後、カラムクロマトグラフィーを用いた分離操作により、1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジンと、(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼンを得た。
【0222】
次に、分離された1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジンを酢酸―臭化水素酸混合溶液に溶解し、還流温度で加熱攪拌した。その後、上記の溶液を室温にまで冷ました後、ろ過操作にて、1,2,3,6,7,8-ヘキサヒドロキシフェナジンを得た。
【0223】
[実施例3]
Chem. Commun., 2016, 52, 922-925)に記載された手順に従って、フェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンの部分還元体である1,3,4,6,8,9-ヘキサヒドロキシフェナジン-2,7-ジオンを合成した。反応条件の詳細は、上記の文献に準拠して決定した。また、合成に用いられた各種試薬には、市販されている試薬を用いた。
【0224】
具体的には、実施例2と同様に、まず、2,3,4,5-テトラメトキシアニリンをDMFに溶解し、適切な触媒と共に加熱攪拌した。その後、カラムクロマトグラフィーを用いた分離操作により、1,2,3,6,7,8-ヘキサメトキシフェナジンと、(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼンを得た。
【0225】
次に、分離された(E)-1,2-ビス(2,3,4,5-テトラメトキシフェニル)ジアゼンを酢酸―臭化水素酸混合溶液に溶解し、還流温度で加熱攪拌した。その後、上記の溶液を室温にまで冷ました後、ろ過操作にて、1,3,4,6,8,9-ヘキサヒドロキシフェナジン-2,7-ジオンを得た。
【0226】
[比較例1]
Yao, M., Taguchi, N., Ando, H. et al. "Improved gravimetric energy density and cycle life in organic lithium-ion batteries with naphthazarin-based electrode materials.", Commun Mater 1, 70 (2020).に記載された手順に従って、下記の化学式で表されるナフタザリン二量体を合成した。反応条件の詳細は、上記の文献に準拠して決定した。また、合成に用いられた各種試薬には、市販されている試薬を用いた。
【化52】
【0227】
具体的には、まず、出発物質として、2,3-ジクロロナフタザリンを準備した。次に、無水酢酸を用いた還流操作により、2,3-ジクロロナフタザリンの水酸基をアセチル基で保護した。次に、トリエチルアミン(TEA)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の存在下、50℃の条件で、ルベアン酸を用いた二量体化反応を行った。これにより、ジベンゾ[b,i]チアントレン骨格を有する化合物を得た。その後、テトラヒドロフランの存在下、70℃の条件で加水分解を行った。また、水酸化リチウムを用いて中和した。これにより、上記のナフタザリン二量体が得られた。
【0228】
[試験例1]
正極活物質として、実施例1で合成されたフェナジン-1,4,6,9-テトラオンを用いて、R2032コイン型電池を作製した。R2032コイン型電池は、下記の手順で作製した。
【0229】
まず、正極活物質としてのフェナジン-1,4,6,9-テトラオンと、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製)と、結着剤としてのPTFE(ダイキン工業株式会社製)とを、正極活物質:導電助剤:結着剤=4:5:1(質量比)の割合で混合して、直径が10mmで厚さが100μmの正極活物質シートを作製した。上記の正極活物質シートを、直径が14mmで厚さが100μmのステンレススチールメッシュ(株式会社ニラコ製、SUS304)に圧着することで、正極を作製した。
【0230】
次に、厚さ0.5mmの金属リチウム箔(本城金属株式会社製、純度99.8%以上)から、直径13mmの円形の部材を切り出した。上記のリチウム箔から切り出された上記の部材を、直径が15.5mmで厚さが0.5mmのステンレススチール板(宝泉株式会社製)の上に圧着することで、負極を作製した。
【0231】
また、セパレータとして、直径が16mmで、厚さが0.4mmのガラスフィルター(株式会社Advantech製)を準備した。電解液として、LiPF6と、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合物とを含む非水電解液(株式会社キシダ化学製)を準備した。R2032コイン型電池の規格に準拠した電池ケースの内部に、上記の正極、セパレータ、負極及び電解液を配置して、試験用コイン型電池を作製した。
【0232】
試験用コイン型電池に含まれるフェナジン-1,4,6,9-テトラオンの質量は、3mgであった。また、試験用コイン型電池の質量は、3.1gであった。作製された試験用コイン型電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、4.5‐1.2V(vs.Li+/Li)の電位範囲で充放電試験を行った。
【0233】
図3に、初期放電曲線を示す。また、初期放電容量は、580[mAh/g‐正極活物質]であった。試験用コイン型電池のエネルギー密度は、1.1~1.4[Wh/g‐コイン型電池]であった。
【0234】
[試験例2]
正極活物質として、実施例2で合成されたフェナジン-2,3,4,7,8,9-ヘキサオンの還元体を用いて、R2032コイン型電池を作製した。(i)正極活物質として、実施例2で合成されたフェナジン-2,3,4,7,8,9-ヘキサオンの還元体を用いたこと、及び、(ii)電解液として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と、スルホラン(SL)とを含む非水電解液(キシダ化学株式会社製)を用いたことを除いて、試験例1と同様の手順により、試験用コイン型電池を作製した。
【0235】
試験用コイン型電池に含まれるフェナジン-2,3,4,7,8,9-ヘキサオンの還元体の質量は、1mgであった。また、試験用コイン型電池の質量は、3.2gであった。作製された試験用コイン型電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、4.5‐1.2V(vs.Li+/Li)の電位範囲で充放電試験を行った。
【0236】
図4に、初期放電曲線を示す。また、初期放電容量は、820[mAh/g‐正極活物質]であった。試験用コイン型電池のエネルギー密度は、1.5[Wh/g‐コイン型電池]であった。なお、上記の放電容量には、活物質以外の成分からの寄与が含まれているものと考えられる。
【0237】
[試験例3]
正極活物質として、実施例3で合成されたフェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンの部分還元体を用いて、R2032コイン型電池を作製した。正極活物質として、実施例3で合成されたフェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンの部分還元体を用いたことを除いて、試験例2と同様の手順により、試験用コイン型電池を作製した。
【0238】
試験用コイン型電池に含まれるフェナジン-1,2,3,4,6,7,8,9-オクタオンの部分還元体の質量は、2mgであった。また、試験用コイン型電池の質量は、3.2gであった。作製された試験用コイン型電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、4.5‐1.2V(vs.Li+/Li)の電位範囲で充放電試験を行った。
【0239】
図5に、初期放電曲線を示す。また、初期放電容量は、880[mAh/g‐正極活物質]であった。試験用コイン型電池のエネルギー密度は、1.7[Wh/g‐コイン型電池]であった。なお、上記の放電容量には、活物質以外の成分からの寄与が含まれているものと考えられる。
【0240】
[試験例4]
正極活物質として、比較例1で合成されたナフタザリン二量体を用いて、R2032コイン型電池を作製した。R2032コイン型電池は、下記の手順で作製した。
【0241】
まず、正極活物質としてのナフタザリン二量体と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製)及びカーボンナノチューブ(JiangSu Cnano Technology Ltd.製)と、結着剤としてのPVDF(株式会社クレハ製)とを混合して、スラリー組成物を作製した。正極活物質、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及び結着剤は、正極活物質:アセチレンブラック:カーボンナノチューブ:結着剤=100:14:3:4(質量比)の割合で混合した。また、スラリー組成物における、正極活物質、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及び結着剤の割合は、83質量%であった。
【0242】
次に、上記のスラリー組成物を、表面粗化処理を施したアルミニウム箔(宝泉株式会社、厚さ:20μm)に塗布した。スラリー組成物を乾燥させた後、14mmφに打ち抜いて正極を作製した。正極の厚さは、134μmであった。ナフタザリン二量体の塗布量は、4.3mg/cm2であった。
【0243】
次に、厚さ0.5mmの金属リチウム箔(本城金属株式会社製、純度99.8%以上)から、直径13mmの円形の部材を切り出した。上記のリチウム箔から切り出された上記の部材を、直径が15.5mmで厚さが0.5mmのステンレススチール板(宝泉株式会社製)の上に圧着することで、負極を作製した。
【0244】
また、セパレータとして、直径が16mmで、厚さが0.4mmのガラスろ紙(株式会社Advantech製)を準備した。電解液として、LiTFSI及びSLを含む非水電解液(キシダ化学株式会社製)を準備した。R2032コイン型電池の規格に準拠した電池ケースの内部に、上記の正極、セパレータ、負極及び電解液を配置して、試験用コイン型電池を作製した。
【0245】
試験用コイン型電池に含まれるナフタザリン二量体の質量は、3mgであった。また、試験用コイン型電池の質量は、3.2gであった。作製された試験用コイン型電池について、30℃の雰囲気下、20mA/gの電流密度で、4.5‐1.2V(vs.Li+/Li)の電位範囲で充放電試験を行った。
【0246】
初期放電容量は、416[mAh/g‐正極活物質]であった。試験用コイン型電池のエネルギー密度は、1.1[Wh/g‐活物質]であった。
【0247】
試験例1~4に示されるとおり、実施例1~3で合成されたフェナジン類を正極活物質として用いた二次電池は、比較例1で合成されたナフタザリン二量体を正極活物質として用いた二次電池と比較して、非常に大きなエネルギー密度を有する。また、上述された各種のフェナジン類を正極活物質として用いた二次電池は、単位質量あたりに蓄積できる電荷量が大きいので、飛行体に搭載される蓄電セル又は蓄電池の用途に特に適していることがわかる。
【0248】
比較例1で合成されたナフタザリン二量体を正極活物質として用いた二次電池の場合、当該ナフタザリン二量体の理論容量は462[mhA/g]であり、Liを基準にした平均電位の2.7Vを乗じて得られる活物質単体のエネルギー密度は、1.3W/gが最大となる。また、実際に観測されている値は1.1Wh/gである。そのため、上記の二次電池のエネルギー密度の上限値は、400[Wh/kg‐蓄電セル]程度になるものと想定される。
【0249】
一方、実施例1~3で合成された化合物は、分子内で酸化還元に直接関与しない原子が少ない。また、実施例1~3で合成された化合物は、硫黄等の比較的原子量の大きな原子を含まない。その結果、実施例1~3で合成された化合物の理論容量が、ナフタザリン二量体よりも大きくなったものと推察される。活物質のエネルギー密度は、理論容量及び平均放電電位の積として算出されるので、実施例1~3で合成された化合物のエネルギー密度も、ナフタザリン二量体よりも大きくなったものと推察される。
【0250】
上述されたとおり、一般式(1)~一般式(7)の何れかで表される化合物は、実施例1~3で合成された化合物と同様に、分子内で酸化還元に直接関与しない原子が少ない。また、一般式(1)~一般式(7)の何れかで表される化合物は、実施例1~3で合成された化合物と同様に、硫黄等の比較的原子量の大きな原子を含まない。そのため、一般式(1)~一般式(7)の何れかで表される化合物又はその塩を二次電池用活物質(特に、正極活物質である。)として用いることにより、500[Wh/kg‐蓄電セル]以上のエネルギー密度を有する蓄電セルが作製され得る。
【0251】
同様に、上述された一般式(8)~一般式(11)の何れかで表される繰り返し単位を含む重合体は、実施例1~3で合成された化合物と同様に、分子内で酸化還元に直接関与しない原子が少ない。また、一般式(8)~一般式(11)の何れかで表される繰り返し単位を含む重合体は、実施例1~3で合成された化合物と同様に、硫黄等の比較的原子量の大きな原子を含まない。そのため、一般式(8)~一般式(11)の何れかで表される繰り返し単位を含む重合体又はその塩を二次電池用活物質(特に、正極活物質である。)として用いることにより、500[Wh/kg‐蓄電セル]以上のエネルギー密度を有する蓄電セルが作製され得る。
【0252】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0253】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
100 飛行体、110 蓄電池、112 蓄電セル、120 電力制御回路、130 電動機、140 プロペラ、150 センサ、160 制御装置、212 正極ケース、214 負極ケース、216 封止剤、218 金属バネ、220 正極、222 正極集電体、224 正極活物質層、230 セパレータ、240 負極、242 負極集電体、244 負極活物質層、250 電解液