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特開2022-140139Fe基合金薄帯加工品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140139
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】Fe基合金薄帯加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20220915BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20220915BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040815
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 剛志
(72)【発明者】
【氏名】北村 寿宏
(72)【発明者】
【氏名】太田 元基
(72)【発明者】
【氏名】千綿 伸彦
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD11
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA40
4E168DA44
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】加工効率が高いFe基合金薄帯加工品の製造方法、及びFe基合金薄帯加工品を提供する。
【解決手段】ロングパルスのレーザー光を2J/cm~3600J/cmの照射密度でFe基合金薄帯に照射して穴開け加工又は切断加工を施す工程を含む、Fe基合金薄帯加工品の製造方法、及びFe基合金薄帯加工品。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロングパルスのレーザー光を2J/cm~3600J/cmの照射密度でFe基合金薄帯に照射して穴開け加工又は切断加工を施す工程を含む、Fe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光の光源が、Nd:YAGレーザーである請求項1に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光の1パルス当たりの照射エネルギーが、0.5mJ以上100mJ未満である請求項1又は請求項2に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項4】
前記Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さが、10μm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項5】
複数の前記Fe基合金薄帯を重ねて前記照射を行う請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項6】
前記Fe基合金薄帯が、Fe基アモルファス合金薄帯である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
【請求項7】
レーザー照射による穴又は切断部を有し、表面からのレーザー照射痕の高さが、10μm以下であるFe基合金薄帯加工品。
【請求項8】
Fe基アモルファス合金薄帯加工品である請求項7に記載のFe基合金薄帯加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fe基合金薄帯加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、変圧器、電子部品等には、Fe基合金薄帯加工品が用いられている。Fe基合金薄帯加工品を製造する際には、レーザー加工が広く用いられており、レーザー光により、Fe基合金薄帯に穴開け加工、切断加工等が施される。
【0003】
例えば、非特許文献1には、レーザー加工技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Laser Cutting of Amorphouse Alloy Ribbon and POWERCORE(登録商標) Consolidated Meal Strip、J.M.Glass等、Journal of Materials Engineering、1990年、第12巻、第55頁から第68頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1等の技術を始めとして、レーザー加工技術が従来から検討されている。しかしながら、低い照射エネルギーでFe基合金薄帯を加工することが可能(以下、「加工効率が高い」と呼ぶことがある)な技術が十分でないのが現状である。
【0006】
本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであり、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、加工効率が高いFe基合金薄帯加工品の製造方法を提供することである。
本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記製造方法により得られるFe基合金薄帯加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> ロングパルスのレーザー光を2J/cm~3600J/cmの照射密度でFe基合金薄帯に照射して穴開け加工又は切断加工を施す工程を含む、Fe基合金薄帯加工品の製造方法。
<2> レーザー光の光源が、Nd:YAGレーザーである<1>に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
<3> レーザー光の1パルス当たりの照射エネルギーが、0.5mJ以上100mJ未満である<1>又は<2>に記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
<4> Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さが、10μm以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
<5> 複数のFe基合金薄帯を重ねて上記照射を行う<1>~<4>のいずれか1つに記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
<6> Fe基合金薄帯が、Fe基アモルファス合金薄帯である<1>~<5>のいずれか1つに記載のFe基合金薄帯加工品の製造方法。
<7> レーザー照射による穴又は切断部を有し、表面からのレーザー照射痕の高さが、10μm以下である、Fe基合金薄帯加工品。
<8> Fe基アモルファス合金薄帯加工品である<7>に記載のFe基合金薄帯加工品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、加工効率が高いFe基合金薄帯加工品の製造方法が提供される。
本発明の他の実施形態によれば、上記製造方法により得られるFe基合金薄帯加工品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ロングパルスのレーザー光のパルスの一例を示すグラフである。
図2】穴開け加工のレーザー照射痕の一例を示す走査電子顕微鏡像である。
図3】切断加工のレーザー照射痕の一例を示す走査電子顕微鏡像である。
図4】複数のFe基合金薄帯を重ねて穴開け加工を行った様子を示す模式的断面図である。
図5】実施例1のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図6】実施例1のレーザー照射痕のプロファイルを示す図である。
図7】実施例2のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図8】実施例2のレーザー照射痕のプロファイルを示す図である。
図9】実施例3のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図10】比較例1のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図11】比較例1のレーザー照射痕のプロファイルを示す図である。
図12】比較例2のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図13】比較例2のレーザー照射痕のプロファイルを示す図である。
図14】比較例3のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図15】比較例3のレーザー照射痕のプロファイルを示す図である。
図16】実施例4のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図17】実施例4のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
図18】実施例5の穴の径と照射エネルギーとの関係を示す図である。
図19】実施例5のレーザー照射痕の高さと照射エネルギーとの関係を示す図である。
図20】実施例6のレーザー照射痕を示す走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るFe基合金薄帯加工品及びその製造方法の詳細を説明する。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
以下の説明において参照する図面は、例示的、かつ、概略的に示されたものであり、本開示は、これらの図面に限定されない。また、図面の符号は省略することがある。
【0013】
<Fe基合金薄帯加工品の製造方法>
本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法は、ロングパルスのレーザー光を2J/cm~3600J/cmの照射密度でFe基合金薄帯に照射して穴開け加工又は切断加工を施す工程(以下、「レーザー光照射工程」と呼ぶことがある)を含む。
【0014】
レーザー加工は、Fe基合金薄帯等の被加工体にレーザー光を照射し、局所的に高密度の照射エネルギーを与えることにより、照射部を加熱して、穴開け、切断等の加工を施すものである。加工効率を向上させるべく、従来から、パルス幅が短いレーザー光を用いる技術が検討されている。例えば、非特許文献1に記載されているような、Qスイッチにより得られるパルス幅の短いレーザーが、高い照射密度で用いられている。しかし、このようなQスイッチパルスのレーザー光でさえ、加工効率を十分に高めることができていない。高い照射密度でレーザー光を被加工体に照射すると、照射部から生じるプラズマが増加するため、プラズマによるレーザー光の吸収(以下、「プラズマ遮蔽」と呼ぶことがある)が大きくなり、照射部に十分な照射エネルギーを与えることが難しいためである。
【0015】
これに対して、本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法は、Qスイッチパルスを使用せずに、ロングパルスのレーザー光を用い、かつ、照射密度を2J/cm~3600J/cmの範囲に制御している。そのため、Fe基合金薄帯にレーザー光を照射した際、プラズマ遮蔽を低減することができ、低い照射エネルギーでFe基合金薄帯に穴開け加工又は切断加工を施すことが可能である(すなわち、加工効率が高い)。
【0016】
[レーザー光]
ロングパルスのレーザー光は、パルス幅が約100マイクロ秒程度と長く、Qスイッチパルスのレーザー光(例えば、パルス幅がナノ秒オーダー)と比較して、照射密度は、10000分の1程度以下と極めて小さい。また、ロングパルスのレーザー光は、1パルス中に、サブパルス(例えば、100ナノ秒オーダーのパルス幅を有し、かつ、照射密度が小さい)を連続して複数含んでいる。ロングパルスのレーザー光のパルスの一例を図1に示す。このようなロングパルスのレーザー光をFe基合金薄帯に照射すると、照射密度が小さな複数のサブパルスで照射されることとなる。個々のサブパルスは照射密度が小さいため、Fe基合金薄帯に照射された際、プラズマの発生が抑えられ、かつ、サブパルスが連続して複数照射されることにより、Fe基合金薄帯の加工が促進される。
また、ロングパルスのレーザー光の照射密度は、2J/cm~3600J/cmである。照射密度を2J/cm以上とすることにより、Fe基合金薄帯の加工に必要なエネルギーを確保しつつ、照射密度を3600J/cm以下とすることにより、プラズマの発生を抑制することができる。
以上のことから、ロングパルスのレーザー光を用い、かつ、照射密度を2J/cm~3600J/cmの範囲とすることにより、高い加工効率を得ることができると推察されるが、本開示の範囲は、上記推察により何ら限定されない。
【0017】
加工効率の観点から、ロングパルスのレーザー光の照射密度は、18J/cm以上であることが好ましく、32J/cm以上であることがより好ましい。また、ロングパルスのレーザー光の照射密度は、1800J/cm以下であってよい。
【0018】
レーザー光を照射するレーザー発振器は、ロングパルスのレーザー光を出力できる限りは特に限定されない。一般的なレーザー発振器として、励起源(レーザー媒質にエネルギーを与えるための光源)と、レーザー媒質(励起源の光を吸収する元素を含有した物質)と、共振器(特定の波長の光を反射するミラーで囲まれた構造)とを含むものが挙げられる。レーザー発振器がQスイッチ(共振器内の光透過率を変化させて高尖塔出力を得るための構造)を含む場合、Qスイッチをオフにすることにより、ロングパルスのレーザー光を出力することができる。
【0019】
レーザー発振器として、例えば、Nd:YAGレーザー(波長:1064nm)、Nd:YLFレーザー(波長:1050nm)等が挙げられ、Nd:YAGレーザーを好適に用いることができる。
Nd:YAGレーザーとして、市販品を用いてよく、例えば、Spectra Physics社製のNd:YAGレーザー「GCR-200」が挙げられる。
【0020】
ロングパルスのレーザー光の1パルス当たりの照射エネルギーは、0.5mJ以上100mJ未満であることが好ましい。これにより、Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さを低減させることが容易となる。レーザー照射痕については、詳細を後述する。
ロングパルスのレーザー光の1パルス当たりの照射エネルギーは、0.5mJ~50mJであることがより好ましく、0.5mJ~20mJであることが更に好ましく、0.5mJ~10mJであることがより更に好ましい。
また、レーザー光は、1パルスのみ照射してよく、複数パルス照射してもよい。
【0021】
ここで、ロングパルスのレーザー光をFe基合金薄帯の面状から1mJ照射した際にFe基合金薄帯に形成される穴又は凹部の深さを加工量と定義する。加工量が高い程、加工効率に優れており、加工量は、50μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。
穴の深さは、後述の実施例3のように、複数のFe基合金薄帯を重ねて穴開け加工を行い、貫通部を形成できたFe基合金薄帯の合計の厚さを穴の深さとする。
凹部の深さは、白色干渉顕微を用いて凹部のプロファイルを測定し、得られたプロファイルの深さの最大値とする。白色干渉顕微は、市販品であってよく、例えば、日立ハイテクノロジー社製社製VS1800が挙げられる。白色干渉顕微で測定した凹部の立体プロファイルから凹部の中心部を通る無作為に選択した直線に沿って凹部の断面プロファイルを求め、凹部の深さを求めてよい。
【0022】
[レーザー光の照射]
Fe基合金薄帯にレーザー光を照射することにより、穴開け加工又は切断加工を施すことができる。
穴開け加工を施す場合、Fe基合金薄帯の面上からレーザー光を照射することにより、Fe基合金薄帯に穴開け加工を施すことができ、Fe基合金薄帯に穴を設けることができる。穴開け加工を連続して行う場合、例えば、面内方向に移動可能なステージにFe基合金薄帯を載置し、Fe基合金薄帯の面上からレーザー光を断続的に照射しながら、Fe基合金薄帯を面内方向に移動させる。これにより、Fe基合金薄帯に穴開け加工を連続して施すことができる。
また、切断加工を施す場合、例えば、面方向に移動可能なステージにFe基合金薄帯を載置し、Fe基合金薄帯の面上からレーザー光を連続的に照射しながら、Fe基合金薄帯を面方向に移動させる。これにより、Fe基合金薄帯に切断加工を施すことができ、Fe基合金薄帯に切断部を設けることができる。
【0023】
[レーザー照射痕]
レーザー光をFe基合金薄帯に照射して穴開け加工又は切断加工を施すと、Fe基合金薄帯のレーザー光が照射された照射部(その近傍も含み得る)にレーザー照射痕が形成される。そのため、Fe基合金薄帯加工品は、レーザー光の照射に由来するレーザー照射痕を有する。
Fe基合金薄帯に穴開け加工を施した場合、例えば、図2に示すように、レーザー照射痕10は、Fe基合金薄帯加工品100を貫通している穴11と、穴11を周状に囲んでいる部分12(以下、「デブリ」と呼ぶことがある)とからなる領域である。
また、Fe基合金薄帯に切断加工を施した場合、例えば、図3に示すように、レーザー照射痕20は、Fe基合金薄帯加工品200を貫通している切断部21と、切断部21に沿った部分22(以下、「デブリ」と呼ぶことがある)とからなる領域である。
デブリは、Fe基合金薄帯のレーザー光の照射により溶融した部分が凝固したものであり、Fe基合金薄帯加工品の表面から隆起している。
【0024】
レーザー光の照射により、物理的な外力を加える加工方法と比較して、図2及び図3に示すように、金属の破片などの加工屑の発生を抑制することができる。更に、図2及び図3に示すように、形状が良好な穴及び切断部をFe基合金薄帯に形成することができる。
【0025】
Fe基合金薄帯加工品の表面の凹凸を低減する観点から、Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さ(すなわち、デブリの高さであり、以下、「レーザー照射痕の高さ」と呼ぶことがある)は、10μm以下であることが好ましい。これにより、例えば、複数のFe基合金薄帯を重ねて保管した際、デブリに起因するFe基合金薄帯加工品の損傷、歪み等を抑制することがより容易となる。
【0026】
Fe基合金薄帯加工品の表面の凹凸をより低減する観点から、Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さは、5μm以下であることがより好ましい。
【0027】
レーザー照射痕の高さは、白色干渉顕微鏡を用いてレーザー照射痕の立体プロファイルを測定し、得られたプロファイルの高さの最大値とする。白色干渉顕微鏡は、市販品であってよく、例えば、日立ハイテクノロジー社製社製VS1800が挙げられる。
穴開け加工により形成された穴についてレーザー照射痕の高さを測定する場合、白色干渉顕微鏡で得られるレーザー照射痕の立体プロファイルから、レーザー照射痕の中心を通る断面プロファイルを求め、レーザー未照射部に対するレーザー照射痕の相対的な高さからレーザー照射痕の高さを求めてよい。
また、切断加工により形成された切断部についてレーザー照射痕の高さを測定する場合、白色干渉顕微鏡で得られる切断部(レーザー照射痕)の立体プロファイルから、切断方向と垂直な無作為に選択した直線に沿う断面プロファイルを求め、レーザー未照射部に対するレーザー照射痕の相対的な高さからレーザー照射痕の高さを求めてよい。
【0028】
穴開け加工により得られた穴の径は、例えば、走査電子顕微鏡を用いて測定してよい。例えば、走査電子顕微鏡を用いて穴を含む走査電子顕微鏡像を得た後、その穴の中心部を通る無作為に選択した直線に基づいて径を測定してよい。
【0029】
Fe基合金薄帯に穴開け加工を施す場合、ロングパルスのレーザー光の1パルス当たりの照射エネルギーを、0.5mJ~20mJとすることにより、20μm~80μmの範囲で穴の径を容易に制御することができ、かつ、レーザー照射痕の高さを10μm以下と小さくすることが容易となる。
【0030】
製造効率を高める観点から、複数のFe基合金薄帯を重ねて、Fe基合金薄帯にレーザー光を照射してよい。これにより、複数のFe基合金薄帯に一括してレーザー加工を施すことができるため、例えば、図4に示すように、穴開け加工を施した複数のFe基合金薄帯加工品100(100A、100B)を同時に得ることができる。
【0031】
製造効率をより高める観点から、4枚以上のFe基合金薄帯を重ねてレーザー光を照射することが好ましい。
【0032】
複数のFe基合金薄帯を重ねた状態でレーザー光をFe基合金薄帯に照射することにより、レーザー光の照射を最初に受ける最上面のFe基合金薄帯と比較して、それ以外のFe基合金薄帯のレーザー照射痕の高さを小さくすることができる。例えば、図4において、レーザー照射の影響を最も受けた最上面のFe基合金薄帯加工品100Aと比較して、他のFe基合金薄帯加工品100(100B)のレーザー照射痕の高さを低く抑えることができる。そのため、表面の凹凸がより小さなFe基合金薄帯加工品100(100B)を容易に製造することができる。
【0033】
また、複数のFe基合金薄帯を重ねた状態でレーザー光をFe基合金薄帯に照射すると、例えば、図4に示すように、最上面のFe基合金薄帯加工品100Aは、穴の径が最も大きく、下面に近い程、金薄帯加工品100の穴の径が小さくなり、最下面のFe基合金薄帯加工品100Bの穴の径が最も小さくなる。
ここで、最上面のFe基合金薄帯加工品100Aの表面の穴の径Dと、最下面のFe基合金薄帯加工品100Bの裏面の穴の径D’との差(D-D’)をdDとし、Fe基合金薄帯加工品の合計の厚さをdLとする。dD/dLは、最上面から最下面にかけての穴の傾斜、すなわち、テーパー度を表すものであり、dD/dLが小さい程、Fe基合金薄帯加工品の単位厚さ当たりの穴の径の変化が小さく、穴の径の差が小さな複数のFe基合金薄帯加工品を同時に得ることができる。dD/dLは、0.2以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。
【0034】
[Fe基合金薄帯]
Fe基合金薄帯は、アモルファスであってよく、結晶性であってもよい。
本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法では、Fe基合金薄帯に照射されるレーザー光の照射密度を小さくすることができるため、Fe基合金薄帯への熱の影響を低減することができる。そのため、本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法は、熱の影響で靭性が低下して脆化を起こしやすいアモルファスのFe基合金薄帯に対して好適に用いることができる。
【0035】
Fe基合金とは、Fe(鉄)を主成分とする合金を指す。ここで、主成分とは、含有比率(質量%)が最も高い成分を指す。Fe基合金薄帯とは、Fe基合金からなる薄帯を指す。
【0036】
Fe基合金薄帯の化学組成は特に限定されず、Fe基合金の化学組成(即ち、Fe(鉄)を主成分とする化学組成)であればよい。例えば、Fe基合金薄帯の化学組成は、主成分であるFeと、Fe以外の選択的元素と、含有し得る不純物元素とからなるものであってよい。
Feの含有量は、Feと選択的元素との合計含有量100質量%に対して、例えば、75質量%~99.8質量%であってよく、80質量%~96質量%であることが好ましい。
選択的元素は、1種のみであっても2種以上であってもよい。選択的元素の種類及び含有量については、化学組成の例を挙げて後述する。
不純物元素は、製造設備、原料等の状況により、Fe基合金薄帯に混入又は添加され得る。
不純物元素は、1種のみであっても2種以上であってもよい。不純物元素の種類については、化学組成の例を挙げて後述する。
不純物元素の合計含有量は、Feと選択的元素との合計含有量100質量%に対し、1.5質量%以下であることが好ましい。不純物元素の合計含有量は、より好ましくは1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下であり、より更に好ましくは0.75質量%以下である。
【0037】
Fe基合金薄帯として、例えば、Fe-Co系合金(例えば、FeCo、FeCoVなど)、Fe-Ni系合金(例えば、FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、Fe-Al系合金又はFe-Si系合金(例えば、FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlO等)、Fe-Ta系合金(例えば、FeTa、FeTaC、FeTaN等)、及びFe-Zr系合金(例えば、FeZrN等)が挙げられる。
上記以外のFe基合金薄帯について、以下、Fe基アモルファス合金薄帯及びFe基結晶性合金薄帯の更なる例を説明する。
【0038】
(Fe基アモルファス合金薄帯)
Fe基アモルファス合金薄帯として、例えば、Fe-B系合金、Fe-Si-C系合金、Fe-Si-B系合金、Fe-Si-B-P系合金、Fe-Si-B-C-P系合金、Fe-P-B系合金、Fe-P-C系合金、Fe-Si-P系、Fe-Zr系合金、Fe-Hf系合金、Fe-Ti系合金等のアモルファス合金等が挙げられる。
Fe基アモルファス合金薄帯は、Co、Ni、Mn、Cr、V、Mo、Nb、Ta、Hf、Zr、Ti、Cu、Au、Ag、Sn、Ge、Re、Ru、Zn、In、Ga等を含有し得る。
【0039】
以下、Fe基アモルファス合金薄帯の化学組成の具体例として、以下の化学組成例(1)~(3)が挙られる。なお、化学組成例(1)~(5)は、一部の化学組成が互いに重複していることがある。
【0040】
-化学組成例(1)-
Feアモルファス基合金薄帯の化学組成例(1)として、例えば、Fe、Si及びBの合計量を100原子%としたとき、Siが0原子%~10原子%以下、Bが10原子%~20原子%以下であり、残部をFeとする化学組成が挙げられる。
化学組成例(1)において、添加物又は不純物として、Mn、S、C、Al等、Fe、Si及びB以外の元素を含んでいてもよい。添加物又は不純物を含む場合、Fe、Si及びBの合計の割合は、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0041】
-化学組成例(2)-
Fe基アモルファス合金薄帯の化学組成例(2)として、Feを50原子%以上含む化学組成が挙げられ、Feを60原子%以上含む化学組成であってよく、Feを70原子%以上含む化学組成であってよい。
化学組成例(2)において、Siの比率が2原子%~25原子%であり、Bの比率が2~25原子%であり、かつ、残部がFe及び不純物である化学組成であってよく、Siの比率が2原子%~22原子%であり、Bの比率が5~16原子%であり、かつ、残部がFe及び不純物である化学組成であってよく、Siの比率が原子%~10原子%であり、Bの比率が10~16原子%であり、かつ、残部がFe及び不可避的不純物である化学組成であってよい。
化学組成例(2)において、不純物としては、例えば、C、Al、Cr、W、P、Mn、Zn、Ti、Cuが挙げられる。
化学組成例(2)において、不純物の含有量は、2原子%未満が好ましく、1原子%以下が特に好ましい。
【0042】
-化学組成例(3)-
Fe基アモルファス合金薄帯の化学組成例(3)として、1原子%~15原子%のSi及び8原子%~20原子%のBを含有し、残部がFe及び不純物である化学組成が挙げられる。
化学組成例(3)として、Fe-Si-B-C系合金が挙げられ、1原子%~15原子%のSi、8原子%~20原子%のB及び3原子%以下のCを含有し、残部がFe及び不純物である組成を有する化学組成であってよい。
化学組成例(3)において、Fe量に対して合計で5原子%以下の割合で、Co、Ni、P、Mn、Cr、V、Mo、Nb、Ta、Hf、Zr、Ti、Au、Ag、Sn、Ge、Re、Ru、Zn、In及びGaからなる群から選択される少なくとも1種が含まれてよい。また、不純物として、S、O、N、Al等が挙げられる。
【0043】
-化学組成例(4)-
Fe基アモルファス合金薄帯の化学組成例(4)として、一般式:Fe100-a-b-c-dSiで表され、Mは、Al、Sn、Cr、Mn、Ni、Cuの少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは原子%であり、7≦a≦20、1≦b≦19、0≦c≦4、7≦d≦2を満足する化学組成が挙げられる。75≦100-a-b-c-dを満足してよい。また、Si含有量は、1原子%以上、又は3.5原子%以上であってよい。B含有量は、7原子%~20原子%であってよい。Cは任意成分であるが、Cを含む場合、C含有量は、0.2原子%~4原子%であってよい。Mは任意成分であるが、Mを含む場合、M含有量は、0原子%超2原子%以下であってよい。
化学組成例(4)において、不純物が含まれてよく、例えば、S、P等の不純物を1原子%以下の範囲でFeと置換してよい。
【0044】
-化学組成例(5)-
Fe基結晶性合金薄帯の化学組成例(5)として、一般式:Fe100-a-b-cSi(原子%)(但し、Mは、Cr、Mn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びSnから選択される少なくとも1種の元素であり、0≦a≦10、0≦b≦20、4≦c≦20、及び10≦a+b+c+d≦35である)により表される化学組成が挙げられる。Feの50原子%未満を、Co及びNiの少なくとも1種で置換してよい。Mの50原子%以下を、Zn、As、Se、Sb、In、Cd、Ag、Bi、Mg、Sc、Re、Au、白金族元素、Y及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種で置換してよい。SiとBの総量の50原子%以下を、C、Al、P、Ga及びGeから選択される少なくとも1種で置換してよい。
【0045】
(Fe基結晶性合金薄帯)
Fe基結晶性合金薄帯として、例えば、Fe-Cu-B系合金、Fe-Cu-Si-B系合金、Fe-Cu-Si-B-P系合金、Fe-Ni-Cu-Si-B系合金、Fe-Si-B-Cu-Nb系合金等が挙げられる。
また、Fe基結晶性合金薄帯として、Fe-B-Cu-Nb系合金、Fe-Zr-B-(Cu)系合金、Fe-Zr-Nb-B-(Cu)系合金、Fe-Zr-P-(Cu)系合金、Fe-Zr-Nb-P-(Cu)系合金、Fe-Ta-C系合金、Fe-Al-Si-Nb-B系合金、Fe-Al-Si-Ni-Nb-B系合金等が挙げられる。
更に、Fe基結晶性合金薄帯として、Fe-Cu-Si-B-C系合金、Fe-Cu-Si-B-C-P系合金、Fe-Cu-P-B系合金、Fe-Cu-P-C系合金等が挙げられる。
Fe基結晶性合金薄帯は、Co、Ni、Mn、Cr、V、Mo、Nb、Ta、Hf、Zr、Ti、Au、Ag、Sn、Ge、Re、Ru、Zn、In、Ga等を含有し得る。
【0046】
以下、Fe基結晶性合金薄帯の化学組成の具体例として、以下の化学組成例(6)~(8)が挙られる。なお、化学組成例(6)~(8)は、一部の化学組成が互いに重複していることがある。
【0047】
-化学組成例(6)-
Fe基結晶性合金薄帯の化学組成例(6)として、一般式:(Fe1-a100-x-y-z-α-β-γCuSiM’αM”βγ(原子%)(但し、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、Reからなる群から選択される少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asからなる群から選択される少なくとも1種の元素、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。)により表される化学組成が挙げられる。
化学組成例(6)において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1、及び0≦γ≦1を満たす範囲であってよい。
【0048】
-化学組成例(7)-
Fe基結晶性合金薄帯の化学組成例(7)として、0.1原子%~3原子%のCu及び10原子%~20原子%のBを含有し、残部がFe及び不純物である化学組成が挙げられる。
化学組成例(7)として、Fe-Cu-Si-B系合金が挙げられ、0.1原子%~3原子%のCu、0.1原子%~7原子%のSi及び10原子%~20原子%のBを含有し、SiとBとの合計が10原子%~24原子%であり、残部がFe及び不純物である化学組成であってよい。
化学組成例(7)において、Fe量に対して合計で5原子%以下の割合で、Co、Ni、P、Mn、Cr、V、Mo、Nb、Ta、Hf、Zr、Ti、Au、Ag、Sn、Ge、Re、Ru、Zn、In及びGaからなる群から選択される少なくとも1種が含有されてよい。また、不純物として、S、O、N、Al等が挙げられる。
【0049】
-化学組成例(8)-
Fe基結晶性合金薄帯の化学組成例(8)として、一般式:Fe100-a-b-c-dSiCu(原子%)(但し、Mは、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWから選択される少なくとも1種の元素であり、0≦a≦10、0≦b≦20、4≦c≦20、0.1≦d≦3、及び10≦a+b+c+d≦35である)により表される化学組成が挙げられる。Feの50原子%未満を、Co及びNiの少なくとも1種で置換してよい。Mの50原子%以下を、Cr、Mn、Zn、As、Se、Sb、Sn、In、Cd、Ag、Bi、Mg、Sc、Re、Au、白金族元素、Y及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種で置換してよい。SiとBの総量の50原子%以下を、C、Al、P、Ga及びGeから選択される少なくとも1種で置換してよい。
【0050】
Fe基合金薄帯の厚さは特に限定されず、例えば、10μm~50μmであってよい。Fe基合金薄帯の厚さは、20μm~30μmであることが好ましい。
【0051】
Fe基合金薄帯の製造方法は特に限定されず、公知の方法であってよく、例えば、上記組成となるように配合した原料の溶融物を鋳造することにより、Fe基合金薄帯を製造することができる。
【0052】
Fe基合金薄帯として、市販品を用いてよい。
Fe基アモルファス合金薄帯の市販品としては、例えば、日立金属社製のMetglas(登録商標)シリーズの2605HB1M(登録商標)(Fe-Si-B系)、2605SA1(Fe-Si-B系)、2605S3A(Fe-Si-B-Cr系)、2705M(Co-Fe-Ni-Si-B-Mo系)、2714A(Co-Fe-Ni-Si-B系)、及び2826MB(Ni-Fe-Mo-B系)が挙げられる。
また、Fe基結晶性合金薄帯の市販品としては、例えば、日立金属社製のMetglas(登録商標)シリーズの、FT-3M(Fe-Si-B-Cu-Nb系)が挙げられる。
【0053】
[他の製造工程]
本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法は、レーザー光照射工程以外の他の工程を含んでよい。
例えば、レーザー光を照射する前後の少なくともいずれかにおいて、Fe基合金薄帯に、シャー切断、プレス加工、打ち抜き加工、切削加工等の公知の加工を施してよい。
また、レーザー光照射工程において、Fe基合金薄帯に穴開け加工を連続的に施した後、連続した穴に沿って切断加工を施してよい。
【0054】
<Fe基合金薄帯加工品>
本開示に係るFe基合金薄帯加工品は、本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法により好ましく製造することができる。
【0055】
Fe基合金薄帯加工品は、レーザー照射痕による穴又は切断部を有しており、レーザー照射痕の高さは、10μm以下であることが好ましい。これにより、例えば、複数のFe基合金薄帯を重ねて保管した際、デブリに起因するFe基合金薄帯加工品の損傷、歪み等を抑制することがより容易となる。
【0056】
Fe基合金薄帯加工品の表面の凹凸をより低減する観点から、Fe基合金薄帯加工品の表面からのレーザー照射痕の高さは、5μm以下であることがより好ましい。
【0057】
上述のように、Fe基合金薄帯は、アモルファス又は結晶性であってよい。本開示に係るFe基合金薄帯加工品の製造方法は、熱の影響で靭性が低下して脆化を起こしやすいアモルファスのFe基合金薄帯に対して好適であり、脆化が抑制されたFe基アモルファス合金薄帯加工品を得ることができる。Fe基合金薄帯の化学組成についても上述した通りである。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。但し、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0059】
<レーザー発振器>
ロングパルスモード及びQスイッチモードが使用可能なSpectra Physics社製のNd:YAGレーザー「GCR-200」を用いた。
ロングパルスのレーザー光の特性を以下に示す。
・波長 :1064nm
・周波数 :10Hz
・照射密度 :3J/cm~60J/cm
・照射エネルギー:1パルス当たり1mJ~20mJ
ロングパルスのレーザー光のパルスは、図1に例示されるように、1パルス中に、サブパルスを連続して複数含んでいた。
【0060】
<Fe基合金薄帯>
Fe基合金薄帯として、日立金属社製の「Metglas(登録商標) 2605HB1M(登録商標)」(Fe基アモルファス合金薄帯、組成:Fe-Si-B、厚さ:25μm)を用いた。
【0061】
<レーザー照射痕の観察>
レーザー照射痕は、JEOL社製の走査電子顕微鏡「JCM-6000Plus」を用いて、200倍の倍率で観察した。
【0062】
<レーザー照射痕の高さの測定>
Fe基合金薄帯に形成された穴について、日立ハイテクノロジーズ社製の白色干渉顕微鏡「VS1800」を用いてレーザー照射痕のプロファイルを測定し、得られたプロファイルの高さの最大値をレーザー照射痕の高さとした。
白色干渉顕微鏡で得られるレーザー照射痕部の立体プロファイルから、レーザー照射痕の中心を通る断面プロファイルを求め、レーザー未照射部に対するレーザー照射痕の相対的な高さからレーザー照射痕の高さを求めた。
また、Fe基合金薄帯上に複数の穴を形成した場合には、測定対象とする穴を無作為に選択してレーザー照射痕の高さを測定した。
【0063】
<穴の径の測定>
穴開け加工により得られた穴の径は、レーザー照射痕の上記観察の際に得られた走査電子顕微鏡像から測定した。
走査電子顕微鏡像上の全ての穴について、その穴の中心部を通る無作為に選択した直線に基づいて径を測定して、得られた径の平均値を求めた。
【0064】
<ロングパルスとQスイッチパルスとの比較>
(実施例1)
GCR-200をロングパルスモードに設定し、面方向に移動可能なステージにFe基合金薄帯を載置し、Fe基合金薄帯の面上からロングパルスのレーザー光を1パルス(照射エネルギー:20mJ)照射した。Fe基合金薄帯を面方向に2mm/sのステージ送り速度で移動させながら上記照射を繰り返した。これにより、図5に示すように、連続して3か所の穴開け加工を施した実施例1のFe基合金薄帯加工品を得た。実施例1のFe基合金薄帯加工品のレーザー照射痕の高さは、図6に示すように、5μm以下と低く、表面の凹凸が小さかった。
【0065】
(実施例2)
1パルス当たりの照射エネルギーを1mJにした以外は、実施例1と同様にして穴開け加工を行った。これにより、図7に示すように、連続して3か所の穴開け加工を施した実施例2のFe基合金薄帯加工品を得た。実施例2のFe基合金薄帯加工品のレーザー照射痕の高さは、図8に示すように、4μm以下と低く、表面の凹凸が小さかった。
【0066】
(実施例3)
1パルス当たりの照射エネルギーを1mJとし、3枚のFe基合金薄帯を重ねた以外は、実施例1と同様にして穴開け加工を行った。これにより、図9に示すように、再上面のFe基合金薄帯(Foil 1)だけでなく、再上面から2枚目のFe基合金薄帯(Foil 2)にも穴開け加工を施すことができた。このように、僅か1mJの照射エネルギーで、合計で50μmの厚さのFe基合金薄帯を貫通することができ、加工量が50μmと大きかった。
【0067】
以上のように、ロングパルスを用いた実施例1~実施例3では、1mJ~20mJと低い照射エネルギーでFe基合金薄帯を加工することができた。また、レーザー照射痕の高さを低くすることができ、表面の凹凸が小さいFe基合金薄帯加工品が得られた。
【0068】
(比較例1)
GCR-200をQスイッチモードに設定し、Qスイッチパルスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして穴開け加工を試みた。しかし、図10に示すように、Fe基合金薄帯に穴を開けることはできなかった。なお、比較例1のFe基合金薄帯加工品のレーザー照射痕の高さは、図11に示すように、4μm以下であるが、クレーターによる凹みが3μm程度と深く、表面の凹凸が大きかった。
【0069】
(比較例2)
レーザー光の波長を266nmとした(すなわち、光エネルギーを4倍に高めた)こと以外は、比較例1と同様にして穴開け加工を試みた。しかし、図12に示すように、Fe基合金薄帯に穴を開けることはできなかった。なお、比較例2のFe基合金薄帯加工品のレーザー照射痕の高さは、図13に示すように、1μm以下であるが、クレーターによる凹みが3μm程度と深かった。
【0070】
(比較例3)
1か所に10パルス照射した(すなわち、照射エネルギーを200mJとした)こと以外は、比較例1と同様にして穴開け加工を行った。これにより、図14に示すように、Fe基合金薄帯に穴を開けることはできたが、穴の径は非常に小さかった。しかも、このような小さな穴を開けるために、実施例1と比較して10倍、実施例2と比較して200倍もの照射エネルギーを要しており、加工効率が著しく低かった。更に、比較例3のFe基合金薄帯加工品のレーザー照射痕の高さは、図15に示すように、20μm程度と高く、クレーターによる凹みが20μm程度であることも相まって、著しく表面の凹凸が大きかった。
【0071】
以上のように、Qスイッチパルスのレーザー光を用いた比較例1及び比較例2では、Fe基合金薄帯に穴開け加工を施すことができなかった。
また、Qスイッチパルスのレーザー光を用いた比較例3では、照射エネルギーを高めることでFe基合金薄帯に小さな穴を開けることはできたが、1mJ当たりの照射エネルギーでは、0.125μm程度しかFe基合金薄帯を加工することができず、加工量が0.125μm程度と著しく小さいことが分かる。
これとは対照的に、ロングパルスのレーザー光を用いた実施例3では、加工量が50μmであり、ロングパルスのレーザー光を用いた場合、加工量は、Qスイッチパルスのレーザー光の400倍程度と著しく大きいことが分かる。
【0072】
<複数のFe基合金薄帯の一括加工>
(実施例4)
4枚のFe基合金薄帯を重ねたこと以外は、実施例1と同様にして穴開け加工を行った。これにより、連続して3か所の穴開け加工を施した4枚のFe基合金薄帯加工品を得た。
最上面のFe基合金薄帯加工品の表面には、図16に示すような穴が形成されており、表面における穴の径は平均で38μmであった。
また、最下面のFe基合金薄帯加工品の裏面には、図17に示すような穴が形成されており、裏面における穴の径D’は平均で27μmであった。
また、Fe基合金薄帯加工品の合計の厚さdLは100μmであった。
DとD’との差dDと、dLとから計算したdD/dLは、0.11と小さく、穴の径の差が小さな4枚のFe基合金薄帯加工品を同時に得ることができた。
【0073】
<照射エネルギーと穴の径及びレーザー照射痕の高さとの関係>
(実施例5)
1パルス当たりの照射エネルギーを1mJ~20mJに変化させ、実施例1と同様にして穴開け加工を行った。これにより、図18に示すように、照射エネルギーの大きさに応じて、穴の径を変化させることができた。また、図19に示すように、照射エネルギーの増加に応じて、レーザー照射痕の高さは大きくなったものの、穴の径が60μmを超えても、レーザー照射痕の高さは6μmを超える程度であり、実用的な範囲であった。
【0074】
<切断加工>
(実施例6)
GCR-200をロングパルスモードに設定し、面方向に移動可能なステージにFe基合金薄帯を載置し、Fe基合金薄帯の面上からロングパルスのレーザー光を1パルス(照射エネルギー:mJ)照射しながら、Fe基合金薄帯を面方向に2mm/sのステージ送り速度で移動させた。これにより、図20に示すように、切断加工を施した実施例6のFe基合金薄帯加工品を得た。
【符号の説明】
【0075】
10、20 レーザー照射痕
11 穴
21 切断部
12、22 デブリ
100、100A、100B、200 Fe基合金薄帯加工品
D、D’ 穴の径
L Fe基合金薄帯の合計の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20