(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140568
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】サイジング剤、サイジング剤付着炭素繊維及びその製造方法、サイジング剤の水分散液、プリプレグ及びその製造方法、並びに炭素繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/55 20060101AFI20220915BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220915BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
D06M15/55
C08J5/24
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118088
(22)【出願日】2022-07-25
(62)【分割の表示】P 2020504037の分割
【原出願日】2019-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2018241225
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 直樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 巧己
(57)【要約】
【課題】高耐熱性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適した、開繊性及び取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られるサイジング剤、前記サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維、前記サイジング剤を含む水分散液、前記サイジング剤を用いたサイジング剤付着炭素繊維の製造方法、前記サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維を用いたプリプレグの製造方法、並びに炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の測定条件で求められる熱減量率B-1が65%以上であるサイジング剤、又は界面活性剤と下記一般式(1)で表される化合物(1)とを含有するサイジング剤を用いる。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記測定条件で求められる熱減量率B-1が65%以上である、サイジング剤。
<熱減量率B-1の測定条件>
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW12(mg)とし、下記式(i)より熱減量率B-1を算出する。
熱減量率B-1(%)={(W10-W12)/W10}×100 ・・・(i)
【請求項2】
下記測定条件で求められる熱減量率A-1が10%以下である、請求項1に記載のサイジング剤。
<熱減量率A-1の測定条件>
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW11(mg)とし、下記式(ii)より熱減量率A-1を算出する。
熱減量率A-1(%)={(W10-W11)/W10}×100 ・・・(ii)
【請求項3】
界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載のサイジング剤。
【請求項4】
前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、請求項3に記載のサイジング剤。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
【請求項5】
前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、請求項3又は4に記載のサイジング剤。
【請求項6】
界面活性剤と、下記一般式(1)で表される化合物(1)とを含有する、サイジング剤。
【化1】
式(1)中、X
1は直接結合又は下記一般式(1’)で表される結合基であり、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R
3、R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【化2】
式(1’)中、Y
1、Y
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、波線は隣接する基との結合位置を表す。
【請求項7】
前記化合物(1)の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して50質量%以上である、請求項6に記載のサイジング剤。
【請求項8】
前記化合物(1)が、下記一般式(2)で表される化合物(2)及び下記一般式(3)で表される化合物(3)を含む、請求項6又は7に記載のサイジング剤。
【化3】
式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R
3、R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【化4】
式(3)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R
3、R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【請求項9】
前記化合物(3)の含有量が、前記化合物(2)100質量部に対して10~100質量部である、請求項8に記載のサイジング剤。
【請求項10】
前記化合物(2)及び前記化合物(3)の含有量の合計が、前記サイジング剤の総質量に対して50質量%以上である、請求項8又は9に記載のサイジング剤。
【請求項11】
前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、請求項6~10のいずれか一項に記載のサイジング剤。
【請求項12】
サイジング剤が炭素繊維に付着したサイジング剤付着炭素繊維であって、
前記サイジング剤付着炭素繊維から下記の抽出操作によって抽出した抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率B-2が65%以上である、サイジング剤付着炭素繊維。
<抽出操作>
メチルエチルケトン2000質量部に対して、サイジング剤付着炭素繊維100質量部を浸漬させて30℃で超音波洗浄を30分間実施する。超音波洗浄により得られた抽出液と炭素繊維をろ過操作で分離する。分離した炭素繊維について同様の操作を3度繰り返す。各操作で得られた抽出液を混合し、減圧することでメチルエチルケトンを留去し、抽出物を得る。
<熱減量率B-2の測定条件>
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の抽出物の質量を測定してW22(mg)とし、下記式(iv)より熱減量率B-2を算出する。
熱減量率B-2(%)={(W20-W22)/W20}×100 ・・・(iv)
【請求項13】
前記抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率A-2が10%以下である、請求項12に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
<熱減量率A-2の測定条件>
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際の抽出物の質量を測定してW21(mg)とし、下記式(v)より熱減量率A-2を算出する。
熱減量率A-2(%)={(W20-W21)/W20}×100 ・・・(v)
【請求項14】
前記サイジング剤が界面活性剤を含有する、請求項12又は13に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
【請求項15】
前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、請求項14に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
【請求項16】
前記界面活性剤の付着量が、前記サイジング剤と前記炭素繊維との合計質量に対して0.001~0.5質量%である、請求項14又は15に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
【請求項17】
前記サイジング剤の付着量が、前記サイジング剤と前記炭素繊維との合計質量に対して0.1~5質量%である、請求項12~16のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
【請求項18】
サイジング剤と、水とを含有し、
下記測定条件で求められる熱減量率B-3が65%以上である、サイジング剤の水分散液。
<熱減量率B-3の測定条件>
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW32(mg)とし、下記式(vi)より熱減量率B-3を算出する。
熱減量率B-3(%)={(W30-W32)/W30}×100 ・・・(vi)
【請求項19】
下記測定条件で求められる熱減量率A-3が10%以下である、請求項18に記載のサイジング剤の水分散液。
<熱減量率A-3の測定条件>
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW31(mg)とし、下記式(vii)より熱減量率A-3を算出する。
熱減量率A-3(%)={(W30-W31)/W30}×100 ・・・(vii)
【請求項20】
前記サイジング剤が界面活性剤を含有する、請求項18又は19に記載のサイジング剤の水分散液。
【請求項21】
前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、請求項20に記載のサイジング剤の水分散液。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
【請求項22】
前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、請求項20又は21に記載のサイジング剤の水分散液。
【請求項23】
請求項18~22のいずれか一項に記載のサイジング剤の水分散液を炭素繊維に付与した後に、水分を除去することによって前記炭素繊維に前記サイジング剤を付着させる、サイジング剤付着炭素繊維の製造方法。
【請求項24】
前記サイジング剤の水分散液に前記炭素繊維を浸漬させることで、前記サイジング剤の水分散液を前記炭素繊維に付与する、請求項23に記載のサイジング剤付着炭素繊維の製造方法。
【請求項25】
請求項1~11のいずれか一項に記載のサイジング剤と、炭素繊維と、マトリクス樹脂とを含み、
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が50℃以上である、プリプレグ。
【請求項26】
前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド及びポリエーテルスルホンからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項25に記載のプリプレグ。
【請求項27】
請求項12~17のいずれか一項に記載のサイジング剤付着炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させる、プリプレグの製造方法。
【請求項28】
前記マトリクス樹脂を100~400℃に加熱することで、前記サイジング剤付着炭素繊維に前記マトリクス樹脂を含浸させる、請求項27に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項29】
請求項27又は28に記載のプリプレグの製造方法によりプリプレグを製造し、得られたプリプレグを2枚以上積層し、350℃以上に加熱して成形する、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイジング剤、サイジング剤付着炭素繊維及びその製造方法、サイジング剤の水分散液、プリプレグ及びその製造方法、並びに炭素繊維強化複合材料の製造方法に関する。
本願は、2018年12月25日に、日本に出願された特願2018-241225号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は優れた比強度及び比弾性率を有しており、種々のマトリクス樹脂と組み合わせた炭素繊維強化複合材料は航空、宇宙、スポーツ、レジャーなどの様々な用途で幅広く用いられている。
特に近年では、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミドなどの耐熱性の高い熱可塑性樹脂(以下、「高耐熱性熱可塑性樹脂」ともいう。)をマトリクス樹脂とする炭素繊維強化複合材料が高い耐熱性と機械特性を有していることから、注目を集めている。
【0003】
炭素繊維強化複合材料の製造方法としては、炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させた中間材料、すなわちプリプレグを使用する方法がある。
ところで、炭素繊維は伸度が小さく、脆いため、機械的摩擦等によって毛羽立ちが発生しやすい。そのため、炭素繊維にサイジング剤を付与してサイジング剤付着炭素繊維とすることで加工工程での取扱い性を向上させている。
スーパーエンジニアリングプラスチックは、ポリプロピレンなどの汎用の熱可塑性樹脂と比較して成形温度が高く、ボイドを残さずに含浸することが困難である。そのため、スーパーエンジニアリングプラスチックをマトリクス樹脂とする炭素繊維強化複合材料に用いられるサイジング剤付着炭素繊維には、高い開繊性が要求される。
【0004】
特許文献1には、固形状のビスフェノールA型のエポキシ樹脂を含むサイジング剤を用いて炭素繊維をサイジング処理する方法が開示されている。
特許文献2には、非晶質PEKKでコーティングされた繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57-171767号公報
【特許文献2】国際公開第2010/091135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のサイジング剤が付着した炭素繊維は、開繊性が不充分であった。また、このサイジング剤が付着した炭素繊維にスーパーエンジニアリングプラスチックのような成形温度の高いマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形すると、成形物(炭素繊維強化複合材料)の内部にボイドが見られる場合があった。このボイドは、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程において、サイジング剤が分解又は揮発して生じた気体が除去されずに残留したものであると考えられる。
炭素繊維へのサイジング剤の付着量を減らせば、開繊性が向上する。また、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に高温に加熱されたサイジング剤が分解又は揮発して生じる気体の量を低減できるので、成形物の内部のボイドを抑制できる。しかし、サイジング剤の付着量を減らすと、炭素繊維の取扱い性が著しく低下するという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の非晶質PEKKでコーティングされた繊維の場合、PEKKが非常に高い耐熱性を有しているため、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際にサイジング剤が熱分解しにくく、ボイドを低減できる。
しかし、非晶質PEKKでコーティングされた炭素繊維は開繊性が著しく低く、炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させることが困難な場合があった。
【0008】
本発明は、高耐熱性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適した、開繊性及び取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られるサイジング剤、前記サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維、前記サイジング剤を含む水分散液、前記サイジング剤を用いたサイジング剤付着炭素繊維の製造方法、前記サイジング剤を含むサイジング剤付着炭素繊維を用いたプリプレグの製造方法、並びに炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記測定条件で求められる熱減量率B-1が65%以上である、サイジング剤。
<熱減量率B-1の測定条件>
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW12(mg)とし、下記式(i)より熱減量率B-1を算出する。
熱減量率B-1(%)={(W10-W12)/W10}×100 ・・・(i)
[2] 下記測定条件で求められる熱減量率A-1が10%以下である、[1]に記載のサイジング剤。
<熱減量率A-1の測定条件>
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW11(mg)とし、下記式(ii)より熱減量率A-1を算出する。
熱減量率A-1(%)={(W10-W11)/W10}×100 ・・・(ii)
[3] 界面活性剤を含有する、[1]又は[2]に記載のサイジング剤。
[4] 前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、[3]に記載のサイジング剤。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
[5] 前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、[3]又は[4]に記載のサイジング剤。
【0010】
[6] 界面活性剤と、下記一般式(1)で表される化合物(1)とを含有する、サイジング剤。
【0011】
【0012】
式(1)中、X1は直接結合又は下記一般式(1’)で表される結合基であり、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【0013】
【0014】
式(1’)中、Y1、Y2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、波線は隣接する基との結合位置を表す。
【0015】
[7] 前記化合物(1)の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して50質量%以上である、[6]に記載のサイジング剤。
[8] 前記化合物(1)が、下記一般式(2)で表される化合物(2)及び下記一般式(3)で表される化合物(3)を含む、[6]又は[7]に記載のサイジング剤。
【0016】
【0017】
式(2)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【0018】
【0019】
式(3)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【0020】
[9] 前記化合物(3)の含有量が、前記化合物(2)100質量部に対して10~100質量部である、[8]に記載のサイジング剤。
[10] 前記化合物(2)及び前記化合物(3)の含有量の合計が、前記サイジング剤の総質量に対して50質量%以上である、[8]又は[9]に記載のサイジング剤。
[11] 前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、[6]~[10]のいずれか1つに記載のサイジング剤。
【0021】
[12] サイジング剤が炭素繊維に付着したサイジング剤付着炭素繊維であって、
前記サイジング剤付着炭素繊維から下記の抽出操作によって抽出した抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率B-2が65%以上である、サイジング剤付着炭素繊維。
<抽出操作>
メチルエチルケトン2000質量部に対して、サイジング剤付着炭素繊維100質量部を浸漬させて30℃で超音波洗浄を30分間実施する。超音波洗浄により得られた抽出液と炭素繊維をろ過操作で分離する。分離した炭素繊維について同様の操作を3度繰り返す。各操作で得られた抽出液を混合し、減圧することでメチルエチルケトンを留去し、抽出物を得る。
<熱減量率B-2の測定条件>
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の抽出物の質量を測定してW22(mg)とし、下記式(iv)より熱減量率B-2を算出する。
熱減量率B-2(%)={(W20-W22)/W20}×100 ・・・(iv)
[13] 前記抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率A-2が10%以下である、[12]に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
<熱減量率A-2の測定条件>
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際の抽出物の質量を測定してW21(mg)とし、下記式(v)より熱減量率A-2を算出する。
熱減量率A-2(%)={(W20-W21)/W20}×100 ・・・(v)
[14] 前記サイジング剤が界面活性剤を含有する、[12]又は[13]に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
[15] 前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、[14]に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
[16] 前記界面活性剤の付着量が、前記サイジング剤と前記炭素繊維との合計質量に対して0.001~0.5質量%である、[14]又は[15]に記載のサイジング剤付着炭素繊維。
[17] 前記サイジング剤の付着量が、前記サイジング剤と前記炭素繊維との合計質量に対して0.1~5質量%である、[12]~[16]のいずれか1つに記載のサイジング剤付着炭素繊維。
【0022】
[18] サイジング剤と、水とを含有し、
下記測定条件で求められる熱減量率B-3が65%以上である、サイジング剤の水分散液。
<熱減量率B-3の測定条件>
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW32(mg)とし、下記式(vi)より熱減量率B-3を算出する。
熱減量率B-3(%)={(W30-W32)/W30}×100 ・・・(vi)
[19] 下記測定条件で求められる熱減量率A-3が10%以下である、[18]に記載のサイジング剤の水分散液。
<熱減量率A-3の測定条件>
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW31(mg)とし、下記式(vii)より熱減量率A-3を算出する。
熱減量率A-3(%)={(W30-W31)/W30}×100 ・・・(vii)
[20] 前記サイジング剤が界面活性剤を含有する、[18]又は[19]に記載のサイジング剤の水分散液。
[21] 前記界面活性剤の下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上である、[20]に記載のサイジング剤の水分散液。
<熱減量率B-4の測定条件>
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
[22] 前記界面活性剤の含有量が、前記サイジング剤の総質量に対して5~25質量%である、[20]又は[21]に記載のサイジング剤の水分散液。
【0023】
[23] [18]~[22]のいずれか1つに記載のサイジング剤の水分散液を炭素繊維に付与した後に、水分を除去することによって前記炭素繊維に前記サイジング剤を付着させる、サイジング剤付着炭素繊維の製造方法。
[24] 前記サイジング剤の水分散液に前記炭素繊維を浸漬させることで、前記サイジング剤の水分散液を前記炭素繊維に付与する、[23]に記載のサイジング剤付着炭素繊維の製造方法。
[25] [1]~[11]のいずれか1つに記載のサイジング剤と、炭素繊維と、マトリクス樹脂とを含み、
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が50℃以上である、プリプレグ。
[26] 前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド及びポリエーテルスルホンからなる群より選ばれる1種以上を含む、[25]に記載のプリプレグ。
[27] [12]~[17]のいずれか1つに記載のサイジング剤付着炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させる、プリプレグの製造方法。
[28] 前記マトリクス樹脂を100~400℃に加熱することで、前記サイジング剤付着炭素繊維に前記マトリクス樹脂を含浸させる、[27]に記載のプリプレグの製造方法。
[29] [27]又は[28]に記載のプリプレグの製造方法によりプリプレグを製造し、得られたプリプレグを2枚以上積層し、350℃以上に加熱して成形する、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高耐熱性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られる。
本発明のプリプレグを用いれば、高耐熱性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料を容易に製造できる。
本発明のプリプレグの製造方法によれば、高耐熱性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグを容易に製造できる。
本発明のサイジング剤付着炭素繊維は、開繊性及び取扱い性に優れ、前記プリプレグの製造に適している。
本発明のサイジング剤付着炭素繊維の製造方法によれば、開繊性及び取扱い性に優れ、前記プリプレグの製造に適したサイジング剤付着炭素繊維を容易に製造できる。
本発明のサイジング剤の水分散液を用いれば、前記サイジング剤付着炭素繊維を容易に製造できる。
本発明のサイジング剤を用いれば、前記サイジング剤の水分散液及び前記サイジング剤付着炭素繊維を容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[サイジング剤]
本発明の第一の態様又は第二の態様サイジング剤は、炭素繊維用のサイジング剤として特に有用である。
なお、本明細書において、サイジング剤が付着する前の炭素繊維を「未処理の炭素繊維」ともいう。また、サイジング剤が付着した後の炭素繊維を「サイジング剤付着炭素繊維」という。
【0026】
<第一の態様>
本発明の第一の態様のサイジング剤は、下記測定条件で求められる熱減量率B-1が65%以上である。
(熱減量率B-1の測定条件)
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW12(mg)とし、下記式(i)より熱減量率B-1を算出する。
熱減量率B-1(%)={(W10-W12)/W10}×100 ・・・(i)
【0027】
熱減量率B-1が上記下限値以上であれば、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際にプリプレグを成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の分解又は揮発による気体の発生の殆どが完了し成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
熱減量率B-1が上記下限値未満であると、熱減量率B-1を小さくするような成分がサイジング剤に多く含まれることになる。このような熱減量率B-1を小さくする成分は分子量が大きく、炭素繊維のフィラメント間の拘束力が増加するため、熱減量率B-1が小さいほど開繊性に劣るサイジング剤付着炭素繊維となる。
熱減量率B-1は、サイジング剤に含まれる成分、例えば後述の界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて後述する化合物(1)を併用することでも熱減量率B-1を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率B-1を制御できる。
【0028】
熱減量率B-1は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。熱減量率B-1の値は大きいほど好ましく、100%であることが特に好ましい。すなわち、熱減量率B-1の上限値は100%が好ましい。
【0029】
本発明の第一の態様のサイジング剤は、下記測定条件で求められる熱減量率A-1が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱減量率A-1の値は小さいほど好ましく、0%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率A-1の下限値は0%が好ましい。
(熱減量率A-1の測定条件)
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW11(mg)とし、下記式(ii)より熱減量率A-1を算出する。
熱減量率A-1(%)={(W10-W11)/W10}×100 ・・・(ii)
【0030】
熱減量率A-1が上記上限値以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
熱減量率A-1は、サイジング剤に含まれる成分、例えば後述の界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて後述する化合物(1)を併用することでも熱減量率A-1を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率A-1を制御できる。
【0031】
本発明の第一の態様のサイジング剤は、界面活性剤を含有することが好ましい。
サイジング剤が界面活性剤を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤が均一に付着し、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が良好となる。また、界面活性剤を用いることで、サイジング剤を水に分散させることが容易となる。
なお、本発明において「界面活性剤」とは、親油性液体と水の界面の表面自由エネルギーを低下させる物質であり、一般に一分子中に親水基と疎水基を有する化合物である。
【0032】
本発明に用いることができる界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、サイジング剤が加熱されたときに、サイジング剤に含まれる界面活性剤以外の成分と界面活性剤とが反応しにくく、熱減量率A-1や熱減量率B-1を所望の値に制御しやすい観点から、ノニオン界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤以外の成分と界面活性剤とが反応すると、例えば架橋構造を有する反応生成物が生成し、熱減量率B-1を所望の値に制御しにくくなる。これにより、後述するプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進んでも、サイジング剤の分解又は揮発による気体の発生が継続するため、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0033】
ノニオン界面活性剤としては、例えばエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック重合体(いわゆるプルロニックタイプ)、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル等の脂肪族系ノニオン界面活性剤;アルキルフェノール系ノニオン界面活性剤、多環フェノール系ノニオン界面活性剤等のフェノール系ノニオン界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系ノニオン界面活性剤が好ましく、アルキルフェノール系ノニオン界面活性が特に好ましい。
これらのノニオン界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0034】
界面活性剤は、下記測定条件で求められる熱減量率B-4が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。熱減量率B-4の値は大きいほど好ましく、100%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率B-4の上限値は100%が好ましい。
(熱減量率B-4の測定条件)
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量を測定してW42(mg)とし、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出する。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
【0035】
熱減量率B-4が上記下限値以上であれば、サイジング剤の熱減量率B-1を所望の数値に制御しやすくなる。
【0036】
界面活性剤の含有量は、サイジング剤の総質量に対して5~25質量%が好ましく、10~18質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記下限値以上であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着しやすくなる。加えて、サイジング剤を水に分散させる際に、サイジング剤を水に容易に分散することができる。界面活性剤の含有量が上記上限値以下であれば、サイジング剤の効果が良好に発現する。特に、界面活性剤の含有量が少なくなるほど、ボイドの少ない成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られるプリプレグを製造することができる。
【0037】
本発明の第一の態様のサイジング剤は、界面活性剤以外の成分を含んでいてもよく、例えば後述する化合物(1)やその他の成分を含んでいてもよい。
【0038】
なお、熱減量率A-1及び熱減量率B-1の測定において、サイジング剤を100℃まで昇温する際の昇温速度は、5~20℃/minが好ましい。
熱減量率B-4の測定において、界面活性剤を100℃まで昇温する際の昇温速度は、5~20℃/minが好ましい。
【0039】
サイジング剤が界面活性剤を含有する場合、熱減量率A-1及び熱減量率B-1は、サイジング剤が界面活性剤を含んだ状態で測定される値である。サイジング剤が界面活性剤に加えて後述する化合物(1)を含有する場合、熱減量率A-1及び熱減量率B-1はサイジング剤が界面活性剤及び化合物(1)を含んだ状態で測定される値である。また、サイジング剤が界面活性剤に加えて化合物(1)及び後述するその他の成分を含有する場合、熱減量率A-1及び熱減量率B-1はサイジング剤が界面活性剤、化合物(1)及びその他の成分を含んだ状態で測定される値である。
【0040】
また、後述するサイジング剤付着炭素繊維からサイジング剤を抽出して測定した抽出物であるサイジング剤の熱減量率A-2及び熱減量率B-2を測定しても、あるいはサイジング剤の水分散液から水分を除去して測定したサイジング剤の熱減量率A-3及び熱減量率B-3を測定しても、炭素繊維に付着させる前のサイジング剤の熱減量率A-1及び熱減量率B-1の値と概ね一致する。
サイジング剤付着炭素繊維からサイジング剤を抽出する方法としては、サイジング剤を溶解可能な有機溶剤を用いてサイジング剤付着炭素繊維からサイジング剤を溶出させ、得られた抽出液から有機溶剤を減圧除去する方法が挙げられる。サイジング剤を溶解可能な有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、ジクロロメタンなどが挙げられる。これらの中でもメチルエチルケトンが好ましい。
【0041】
<第二の態様>
本発明の第二の態様のサイジング剤は、界面活性剤と、下記一般式(1)で表される化合物(1)とを含有する。
サイジング剤が界面活性剤を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤が均一に付着し、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が良好となる。
【0042】
界面活性剤としては、第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。特に、前記熱減量率B-4が10%以上である界面活性剤が好ましく、20%以上である界面活性剤がより好ましい。熱減量率B-4の値は大きいほど好ましく、100%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率B-4の上限値は100%が好ましい。
【0043】
界面活性剤の含有量は、サイジング剤の総質量に対して5~25質量%が好ましく、10~18質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が、上記下限値以上であれば未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着しやすく、上記上限値以下であればサイジング剤の効果が良好に発現する。特に、界面活性剤の含有量が少なくなるほど、ボイドの少ない成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られるプリプレグを製造することができる。
【0044】
サイジング剤が化合物(1)を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。加えて、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際にプリプレグを成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。さらに、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性がより良好となる。
【0045】
【0046】
式(1)中、X1は直接結合又は下記一般式(1’)で表される結合基であり、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
炭素数1~7の置換基としては、例えば炭素数1~7の脂肪族炭化水素基、グリシジル基、ヒドロキシエチル基、オキシアルキレン基を有する置換基などが挙げられる。炭素数1~7の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素数1~7のアルキル基、炭素数1~7のアルケニル基、炭素数1~7のアルキニル基などが挙げられる。オキシアルキレン基を有する置換基としては、例えば-(CH2-CH2-O)m1-H、-(CH2-CH2-CH2-O)n1-H、-(CH(CH3)-CH2-O)q1-H、-(CH2-CH(CH3)-O)r1-H、-(CH2-CH2-O)m2-CH3、-(CH2-CH2-CH2-O)n2-CH3、-(CH(CH3)-CH2-O)q2-CH3、-(CH2-CH(CH3)-O)r2-CH3、-(CH2-CH2-O)m3-CH2-CH3、-(CH2-CH2-CH2-O)n3-CH2-CH3、-(CH(CH3)-CH2-O)q3-CH2-CH3、-(CH2-CH(CH3)-O)r3-CH2-CH3などが挙げられる。ここで、m1、m2、m3はそれぞれCH2-CH2-Oの繰り返し数を表し、1以上の整数である。m1は1~3が好ましく、m2は1~3が好ましく、m3は1~2が好ましい。n1、n2、n3はそれぞれCH2-CH2-CH2-Oの繰り返し数を表し、1以上の整数である。n1は1~2が好ましく、n2は1~2が好ましく、n3は1が好ましい。q1、q2、q3はそれぞれCH(CH3)-CH2-Oの繰り返し数を表し、1以上の整数である。q1は1~2が好ましく、q2は1~2が好ましく、q3は1が好ましい。r1、r2、r3はそれぞれCH2-CH(CH3)-Oの繰り返し数を表し、1以上の整数である。r1は1~2が好ましく、r2は1~2が好ましく、r3は1が好ましい。
R1、R2はそれぞれ独立に炭素数1~7の脂肪族炭化水素基、グリシジル基、オキシアルキレン基を有する置換基が好ましい。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立にメチル基又は水素原子が好ましい。
X1は下記一般式(1’)で表される結合基が好ましい。
【0047】
【0048】
式(1’)中、Y1、Y2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、波線は隣接する基との結合位置を表す。
Y1、Y2は、それぞれ独立にメチル基又は水素原子が好ましい。
【0049】
化合物(1)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAジアルキルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテルなどが挙げられる。
化合物(1)を含む材料としては、市販品を用いることができ、例えば三菱ケミカル株式会社製の「jER825」、「jER807」、「jER806」;三洋化成工業株式会社製の「ニューポールBPE-20」、「ニューポールBP-2P」などが挙げられる。
【0050】
化合物(1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。2種以上の化合物(1)を用いた方が単独で用いた場合に比べて、化合物(1)が結晶化してサイジング剤から析出するのが抑制される。この観点から、2種以上の化合物(1)を用いることが好ましい。
2種以上の化合物(1)を用いる場合、下記一般式(2)で表される化合物(2)と、下記一般式(3)で表される化合物(3)との組み合わせが特に好ましい。
【0051】
【0052】
式(2)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【0053】
【0054】
式(3)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
【0055】
化合物(2)を含む材料としては、市販品を用いることができ、例えば三菱ケミカル株式会社製の「jER825」などが挙げられる。
化合物(3)を含む材料としては、市販品を用いることができ、例えば「jER807」、「jER806」などが挙げられる。
【0056】
なお、化合物(1)を含む材料として、例えば市販品である三菱ケミカル株式会社製の「jER825」のようなビスフェノールA型のエポキシ樹脂や、「jER806」のようなビスフェノールF型のエポキシ樹脂を選択した場合、化合物(1)以外に、下記一般式(4)で表される化合物(4)がわずかに含まれる。化合物(4)は第一の態様にて説明した熱減量率B-1を所望の値に制御しにくくする成分であり、化合物(4)の含有量が多いほど、第一の態様にて説明した熱減量率B-1を所望の値に制御することが困難となる傾向にある。すなわち、化合物(1)を含む材料としてビスフェノール型エポキシ樹脂を選択した場合は化合物(4)の含有量が少ない材料であると、第一の態様にて説明した熱減量率B-1を所望の値に制御しやすいため、好ましい。
また、化合物(1)を含む材料の他の市販品として、例えば三菱ケミカル株式会社製の「jER828」や三菱ケミカル株式会社製の「jER1001」なども挙げられ、これらにも化合物(1)が含まれているものの、下記一般式(4)で表される化合物(4)が比較的多く含まれており、第一の態様にて説明した熱減量率B-1を所望の値に制御することが困難となる。
一方、三菱ケミカル株式会社製の「jER825」、「jER806」は化合物(4)の含有量が少ない。また、三洋化成工業株式会社製の「ニューポールBPE-20」、「ニューポールBP-2P」といったビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は実質的に化合物(4)を含まない。よって、三菱ケミカル株式会社製の「jER825」、「jER806」や三洋化成工業株式会社製の「ニューポールBPE-20」、「ニューポールBP-2P」を用いることで熱減量率B-1を所望の値に制御しやすくなる。
なお、本明細書において、例えば「成分(α)は成分(β)を実質的に含まない」とは、成分(α)の総質量に対する成分(β)の含有量が1質量%未満であることを意味する。
【0057】
【0058】
式(4)中、X2は直接結合又は下記一般式(4’)で表される結合基であり、R7、R8はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~7の置換基であり、R9、R10、R11、R12はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、Lは1以上の整数である。
炭素数1~7の置換基としては、式(1)中のR1、R2の説明において先に例示した炭素数1~7の置換基が挙げられる。
R9、R10、R11、R12はそれぞれ独立にメチル基又は水素原子が好ましい。
X2は下記一般式(4’)で表される結合基が好ましい。
【0059】
【0060】
式(4’)中、Y3、Y4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、波線は隣接する基との結合位置を表す。
Y3、Y4は、それぞれ独立にメチル基又は水素原子が好ましい。
【0061】
化合物(4)の含有量は、化合物(1)100質量部に対して10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、実質的に含まないことがさらに好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、化合物(1)100質量部に対して1質量部未満を意味する。
【0062】
化合物(1)の含有量は、サイジング剤の総質量に対して50質量%以上が好ましく、70~95質量%がより好ましい。化合物(1)の含有量が、上記上限値以下であれば界面活性剤の量を充分に確保できるので、未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着する。
【0063】
化合物(1)が化合物(2)及び化合物(3)を含む場合、化合物(3)の含有量は、化合物(2)100質量部に対して10~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましく、10~30質量部がさらに好ましい。化合物(3)の含有量が上記下限値以上であれば、化合物(1)が結晶化してサイジング剤から析出するのが抑制される。化合物(3)の含有量が上記上限値以下であれば、第一の態様にて説明した熱減量率A-1及び熱減量率B-1を所望の値に制御しやすくなる。
また、化合物(2)及び化合物(3)の含有量の合計は、サイジング剤の総質量に対して50質量%以上が好ましく、70~95質量%がより好ましい。化合物(2)及び化合物(3)の含有量の合計が上記下限値以上であれば、熱減量率A-1及び熱減量率B-1を所望の値に制御しやすくなる。化合物(2)及び化合物(3)の含有量の合計が上記上限値以下であれば、界面活性剤の量を充分に確保できるので、未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着する。
【0064】
サイジング剤は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて界面活性剤及び化合物(1)以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。
その他の成分としては、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、シランカップリング剤、帯電防止剤、潤滑剤、平滑剤などが挙げられる。
【0065】
<作用効果>
本発明の第一の態様のサイジング剤の前記熱減量率B-1は65%以上である。よって、サイジング剤付着炭素繊維に付着しているサイジング剤は、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
また、本発明の第一の態様のサイジング剤の前記熱減量率A-1が10%以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
また、本発明の第一の態様のサイジング剤が界面活性剤を含有していれば、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少なく、開繊や製織などの加工工程における取扱いが容易であり、毛羽の少ないサイジング剤付着炭素繊維を得ることができる。
【0066】
本発明の第二の態様のサイジング剤は前記化合物(1)を含有する。よって、サイジング剤付着炭素繊維に付着しているサイジング剤は、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。加えて、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
しかも、本発明の第二の態様のサイジング剤は界面活性剤を含有するので、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少なく、開繊や製織などの加工工程における取扱いが容易であり、毛羽の少ないサイジング剤付着炭素繊維を得ることができる。
【0067】
このように、本発明の第一の態様又は第二の態様サイジング剤を用いれば、スーパーエンジニアリングプラスチックのような成形温度の高いマトリクス樹脂を用いた場合でも、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適した、開繊性及び取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
【0068】
[サイジング剤付着炭素繊維]
本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維は、サイジング剤が炭素繊維に付着したものであり、サイジング剤付着炭素繊維から下記の抽出操作によって抽出した抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率B-2が65%以上である。
(抽出操作)
メチルエチルケトン2000質量部に対して、サイジング剤付着炭素繊維100質量部を浸漬させて30℃で超音波洗浄を30分間実施する。超音波洗浄により得られた抽出液と炭素繊維をろ過操作で分離する。分離した炭素繊維について同様の操作を3度繰り返す。各操作で得られた抽出液を混合し、減圧することでメチルエチルケトンを留去し、抽出物を得る。こうして得られた抽出物には、サイジング剤が含まれている。なお、ここでいう「同様の操作」とは、超音波洗浄とろ過操作のことである。
(熱減量率B-2の測定条件)
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際の抽出物の質量を測定してW22(mg)とし、下記式(iv)より熱減量率B-2を算出する。
熱減量率B-2(%)={(W20-W22)/W20}×100 ・・・(iv)
【0069】
熱減量率B-2が上記下限値以上であれば、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際にプリプレグを成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の分解又は揮発による気体の発生の殆どが完了し成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
熱減量率B-2が上記下限値未満であると、熱減量率B-2を小さくするような成分がサイジング剤に多く含まれることになる。このような熱減量率B-2を小さくする成分は分子量が大きく、炭素繊維のフィラメント間の拘束力が増加するため、熱減量率B-2が小さいほど開繊性に劣るサイジング剤付着炭素繊維となる。
熱減量率B-2は、サイジング剤に含まれる成分、例えば界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて化合物(1)を併用することでも熱減量率B-2を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率B-2を制御できる。
【0070】
熱減量率B-2は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。熱減量率B-2の値は大きいほど好ましく、100%であることが特に好ましい。すなわち、熱減量率B-2の上限値は100%が好ましい。
【0071】
本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維は、前記抽出操作によって抽出した抽出物の下記測定条件で求められる熱減量率A-2が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱減量率A-2の値は小さいほど好ましく、0%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率A-2の下限値は0%が好ましい。
(熱減量率A-2の測定条件)
抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際の抽出物の質量を測定してW21(mg)とし、下記式(v)より熱減量率A-2を算出する。
熱減量率A-2(%)={(W20-W21)/W20}×100 ・・・(v)
【0072】
熱減量率A-2が上記上限値以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
熱減量率A-2は、サイジング剤に含まれる成分、例えば界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて化合物(1)を併用することでも熱減量率A-2を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率A-2を制御できる。
【0073】
なお、熱減量率A-2及び熱減量率B-2の測定において、抽出物を100℃まで昇温する際の昇温速度は、5~20℃/minが好ましい。
【0074】
<炭素繊維>
サイジング剤を付着させる炭素繊維は、ピッチ系、レーヨン系あるいはポリアクリロニトリル系などのいずれの原料物質から得られたものであってもよく、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維又は超高弾性炭素繊維のいずれでもよい。
炭素繊維の形態としては、連続繊維を一方向に引き揃えた形態、連続繊維を経緯にして織物とした形態、トウ、トウを一方向に引き揃え横糸補助糸で保持した形態、複数枚の一方向の炭素繊維のシートを異なる方向に重ねて補助糸で留めてマルチアキシャルワープニットとした形態、不織布などが挙げられる。
【0075】
<サイジング剤>
サイジング剤としては特に限定されないが、本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤が好ましい。特に、界面活性剤を含むサイジング剤が好ましく、界面活性剤と前記化合物(1)とを含むサイジング剤がより好ましい。サイジング剤が界面活性剤を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤が均一に付着し、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が良好となる。
【0076】
界面活性剤としては、第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。特に、前記熱減量率B-4が10%以上である界面活性剤が好ましく、20%以上である界面活性剤がより好ましい。熱減量率B-4の値は大きいほど好ましく、100%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率B-4の上限値は100%が好ましい。熱減量率B-4が上記下限値以上であれば、サイジング剤の熱減量率B-2を所望の数値に制御しやすくなる。
【0077】
サイジング剤付着炭素繊維におけるサイジング剤の付着量は、サイジング剤と炭素繊維との合計質量に対して0.1~5質量%が好ましく、0.2~3質量%がより好ましい。サイジング剤の付着量が上記下限値以上であれば、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が高まり、サイジング剤付着炭素繊維をプリプレグなどに加工する際の毛羽立ちを抑制することができる。サイジング剤の付着量が上記上限値以下であれば、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性がより高い成形物(炭素繊維強化複合材料)を得ることができる。
【0078】
サイジング剤が界面活性剤を含有する場合、その界面活性剤の付着量は、サイジング剤と炭素繊維との合計質量に対して0.001~0.5質量%が好ましく、0.01~0.1質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記下限値以上であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着しやすくなる。加えて、サイジング剤を水に分散させる際に、サイジング剤を水に容易に分散することができる。界面活性剤の含有量が上記上限値以下であれば、サイジング剤の効果が良好に発現する。特に、界面活性剤の含有量が少なくなるほど、ボイドの少ない成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られるプリプレグを製造することができる。
【0079】
<作用効果>
本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維の前記熱減量率B-2は65%以上である。よって、サイジング剤付着炭素繊維に付着しているサイジング剤は、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
また、本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維の前記熱減量率A-2が10%以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維は開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れる。
また、炭素繊維に付着するサイジング剤が界面活性剤を含有していれば、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少なく、開繊や製織などの加工工程における取扱いが容易であり、毛羽の少ない織布やマルチアキシャルワープニット等の繊維基材を得ることができる。
【0080】
このように、本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維は、開繊性及び取扱い性に優れ、しかもスーパーエンジニアリングプラスチックのような成形温度の高いマトリクス樹脂を用いた場合でも、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適している。
【0081】
<用途>
本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維は、マトリクス樹脂を含浸させることにより、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維シートプリプレグ、短繊維マットプリプレグなどの中間材料の形態にして炭素繊維強化複合材料に加工することができる。
なお、サイジング剤付着炭素繊維の製造方法は、後述する。
【0082】
[サイジング剤の水分散液]
本発明の第四の態様のサイジング剤の水分散液は、サイジング剤と、水とを含有し、下記測定条件で求められる熱減量率B-3が65%以上である。
(熱減量率B-3の測定条件)
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、350℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW32(mg)とし、下記式(vi)より熱減量率B-3を算出する。
熱減量率B-3(%)={(W30-W32)/W30}×100 ・・・(vi)
【0083】
熱減量率B-3が上記下限値以上であれば、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際にプリプレグを成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の分解又は揮発による気体の発生の殆どが完了し成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
熱減量率B-3が上記下限値未満であると、熱減量率B-3を小さくするような成分がサイジング剤に多く含まれることになる。このような熱減量率B-3を小さくする成分は分子量が大きく、炭素繊維のフィラメント間の拘束力が増加するため、熱減量率B-3が小さいほど開繊性に劣るサイジング剤付着炭素繊維となる。
熱減量率B-3は、サイジング剤に含まれる成分、例えば界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて化合物(1)を併用することでも熱減量率B-3を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率B-3をできる。
【0084】
熱減量率B-3は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。熱減量率B-3の値は大きいほど好ましく、100%であることが特に好ましい。すなわち、熱減量率B-3の上限値は100%が好ましい。
【0085】
本発明の第四の態様のサイジング剤の水分散液は、下記測定条件で求められる熱減量率A-3が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱減量率A-3の値は小さいほど好ましく、0%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率A-3の下限値は0%が好ましい。
(熱減量率A-3の測定条件)
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、100℃から5℃/minの速度で昇温し、250℃に達した際のサイジング剤の質量を測定してW31(mg)とし、下記式(vii)より熱減量率A-3を算出する。
熱減量率A-3(%)={(W30-W31)/W30}×100 ・・・(vii)
【0086】
熱減量率A-3が上記上限値以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
熱減量率A-3は、サイジング剤に含まれる成分、例えば界面活性剤の種類や含有量により制御できる。また、界面活性剤に加えて化合物(1)を併用することでも熱減量率A-3を制御できる。化合物(1)を併用する場合は、化合物(1)の種類や含有量によっても熱減量率A-3をできる。
【0087】
なお、熱減量率A-3及び熱減量率B-3の測定において、サイジング剤を100℃まで昇温する際の昇温速度は、5~20℃/minが好ましい。
【0088】
<サイジング剤>
サイジング剤としては特に限定されないが、本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤が好ましい。特に、界面活性剤を含むサイジング剤が好ましく、界面活性剤と前記化合物(1)とを含むサイジング剤がより好ましい。サイジング剤が界面活性剤を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤が均一に付着し、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が良好となる。
【0089】
界面活性剤としては、第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。特に、前記熱減量率B-4が10%以上である界面活性剤が好ましく、20%以上である界面活性剤がより好ましい。熱減量率B-4の値は大きいほど好ましく、100%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率B-4の上限値は100%が好ましい。熱減量率B-4が上記下限値以上であれば、サイジング剤の熱減量率B-3を所望の数値に制御しやすくなる。
【0090】
サイジング剤が界面活性剤を含有する場合、その界面活性剤の含有量は、サイジング剤の総質量に対して5~25質量%が好ましく、10~18質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記下限値以上であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤がより均一に付着しやすくなる。加えて、サイジング剤を水に分散させる際に、サイジング剤を水に容易に分散することができる。界面活性剤の含有量が上記上限値以下であれば、サイジング剤の効果が良好に発現する。特に、界面活性剤の含有量が少なくなるほど、ボイドの少ない成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られるプリプレグを製造することができる。
【0091】
<サイジング剤の水分散液の製造方法>
サイジング剤の水分散液は、例えば界面活性剤と前記化合物(1)と必要に応じてその他の成分とを混合してサイジング剤を調製した後、得られたサイジング剤を撹拌しながら水を徐々に加えて転相乳化させることにより調製できる。
【0092】
<作用効果>
本発明の第四の態様のサイジング剤の水分散液の前記熱減量率B-3は65%以上である。よって、サイジング剤付着炭素繊維に付着しているサイジング剤は、サイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理や、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形する際に成形温度まで加熱する段階において、マトリクス樹脂が高温に加熱されて溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。このためボイドが残留しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
また、本発明の第四の態様のサイジング剤の水分散液の前記熱減量率A-3が10%以下であれば、未処理の炭素繊維にサイジング剤を付着させる際、サイジング剤付着炭素繊維を保管している間、また開繊する際において、サイジング剤が揮発したり熱分解したりすることを抑制できる。よって、開繊などの機械的摩擦による毛羽立ちの少なく、取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
また、サイジング剤の水分散液中のサイジング剤が界面活性剤を含有していれば、機械的摩擦に対する耐擦過性に優れ、毛羽立ちが少なく、開繊や製織などの加工工程における取扱いが容易であり、毛羽の少ないサイジング剤付着炭素繊維を得ることができる。
【0093】
このように、本発明の第四の態様のサイジング剤の水分散液を用いれば、スーパーエンジニアリングプラスチックのような成形温度の高いマトリクス樹脂を用いた場合でも、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適した、開繊性及び取扱い性に優れるサイジング剤付着炭素繊維が得られる。
【0094】
[サイジング剤付着炭素繊維の製造方法]
本発明の第五の態様のサイジング剤付着炭素繊維の製造方法は、未処理の炭素繊維の表面にサイジング剤を付着させる(サイジング処理する)工程を含む。
炭素繊維としては、第三の態様の説明において先に例示した炭素繊維が挙げられる。
サイジング剤としては、本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤が好ましい。特に、界面活性剤を含むサイジング剤が好ましく、界面活性剤と前記化合物(1)とを含むサイジング剤がより好ましい。サイジング剤が界面活性剤を含有することで、未処理の炭素繊維にサイジング剤が均一に付着し、サイジング剤付着炭素繊維の取扱い性が良好となる。
【0095】
界面活性剤としては、第一の態様の説明において先に例示した界面活性剤が挙げられる。特に、前記熱減量率B-4が10%以上である界面活性剤が好ましく、20%以上である界面活性剤がより好ましい。熱減量率B-4の値は大きいほど好ましく、100%であることがさらに好ましい。すなわち、熱減量率B-4の上限値は100%が好ましい。
【0096】
炭素繊維の表面にサイジング剤を付着させる方法としては、所望量のサイジング剤を炭素繊維に均一に付着させることができる方法であれば特に限定はないが、サイジング剤を水又は有機溶剤などの分散媒に分散させたサイジング剤の分散液を調製し、このサイジング剤の分散液を炭素繊維に付与した後に、乾燥処理して分散媒を除去する方法が好ましい。中でもサイジング剤を水に分散させたサイジング剤の水分散液を調製して、このサイジング剤の水分散液を炭素繊維に付与した後に、乾燥処理して水を除去する方法がより好ましい。
サイジング剤の水分散液としては、本発明の第四のサイジング剤の水分散液が好ましい。
なお、本明細書において「分散」とは、水や有機溶剤などの分散媒中にサイジング剤が1nm~10μm程度の粒子又はミセルとなって浮遊した懸濁液となっている状態を意味する。
【0097】
サイジング剤の分散液を炭素繊維に付与する方法としては、ローラーを介してサイジング剤の分散液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤の分散液が付着したローラーに炭素繊維を接する方法などが挙げられる。中でもローラーを介してサイジング剤の分散液に炭素繊維を浸漬する方法が好ましい。
【0098】
炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量の調整は、サイジング剤の分散液の濃度調整や絞り量調整によって行なうことができる。
【0099】
乾燥処理は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを利用して行なうことができる。乾燥処理時の温度は、乾燥処理工程を効率的に行いつつ、サイジング剤に含まれる成分の乾燥処理時の熱による減量や熱分解を防止するために、110~200℃が好ましく、120~170℃がより好ましい。また、乾燥処理の時間は、同様の理由から、5秒間以上10分間以下が好ましく、10秒間以上5分間以下がより好ましい。
【0100】
<作用効果>
本発明の第五の態様のサイジング剤付着炭素繊維の製造方法によれば、本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維を容易に製造できる。
【0101】
[プリプレグ]
本発明の第六の態様のプリプレグは、上述した本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤と、炭素繊維と、マトリクス樹脂とを含む。具体的に、プリプレグは、サイジング剤が付着した炭素繊維にマトリクス樹脂が含浸している。
本発明の第六の態様のプリプレグにおいて、マトリクス樹脂の含浸の程度は、ボイドを残さない完全含浸であってもよいし、部分的にマトリクス樹脂を含浸した状態であってもよい。プリプレグのドレープ性が良好となる観点から、部分的にマトリクス樹脂が含浸した状態の方が好ましい。
サイジング剤は本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤であり、その説明は省略する。
炭素繊維としては、本発明の第三の態様の説明において先に例示した炭素繊維が挙げられる。
【0102】
<マトリクス樹脂>
マトリクス樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばエポキシ樹脂、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著に表れるため、熱可塑性樹脂が好ましく、その中でも特に、成形温度が高いポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホンがより好ましい。
これらのマトリクス樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0103】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50°以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度が上記下限値以上であれば、本発明の効果がより顕著に表れる。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7121に準じて測定した値である。
【0104】
<作用効果>
本発明の第六の態様のプリプレグを用いれば、炭素繊維強化複合材料を成形する際の成形温度まで加熱する段階でマトリクス樹脂が溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物から除去される。よって、ボイドが発生しにくく、品質の良好な成形物(炭素繊維強化複合材料)が得られる。
【0105】
<用途>
本発明の第六の態様のプリプレグは、公知の成形法によって成形することにより、任意の形状の成形物(以下、「炭素繊維強化複合材料」ともいう。)を提供することができる。すなわち、炭素繊維強化複合材料は、本発明の第六の態様のプリプレグの成形物である。
【0106】
[プリプレグの製造方法]
本発明の第七の態様のプリプレグの製造方法は、本発明の第三の態様のサイジング剤付着炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させる工程を含む。
マトリクス樹脂としては、本発明の第六の態様の説明において先に例示したマトリクス樹脂が挙げられる。
【0107】
サイジング剤付着炭素繊維へのマトリクス樹脂の含浸方法としては、例えばマトリクス樹脂を溶媒に溶解してサイジング剤付着炭素繊維に含浸させた後に溶媒を除去する方法、マトリクス樹脂を溶融させてサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる方法が挙げられる。
【0108】
マトリクス樹脂を溶媒に溶解してサイジング剤付着炭素繊維に含浸させた後に溶媒を除去する場合、溶媒を除去する方法としては、例えば減圧することで溶媒を蒸発させる方法、加熱することで溶媒を蒸発させる方法、減圧しながら加熱することで溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0109】
マトリクス樹脂を溶融させてサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる方法としては、例えば溶融したマトリクス樹脂をサイジング剤付炭素繊維に付与し、加圧して含浸させる方法、サイジング剤付着炭素繊維とフィルム状のマトリクス樹脂とを合わせた後に、加熱しながら加圧することで、フィルム状のマトリクス樹脂を加熱により溶融させつつ、加圧により溶融したマトリックス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる方法、マトリクス樹脂を繊維状にしたものをサイジング剤付着炭素繊維と混在させた後に、加熱しながら加圧することで、繊維状のマトリクス樹脂を加熱により溶融させつつ、加圧により溶融したマトリクス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に含浸する方法、マトリクス樹脂を粉末状にしたものをサイジング剤付着炭素繊維の束に含ませた後に、加熱しながら加圧することで、粉末状のマトリクス樹脂を加熱により溶融させつつ、加圧により溶融したマトリクス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に含浸する方法などがある。
【0110】
溶融したマトリクス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に付与し、加圧して含浸させる場合や、サイジング剤付着炭素繊維とフィルム状のマトリクス樹脂とを合わせた後に、加熱しながら加圧することで、フィルム状のマトリクス樹脂を加熱により溶融させつつ、加圧により溶融したマトリックス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる場合は、マトリクス樹脂を含浸させるに先立ち、含浸性を高める目的で、サイジング剤付着炭素繊維を開繊することが好ましい。ここで「開繊」とは、炭素繊維の束の幅を、固体面への擦過、気流中への曝露、振動する固体との接触などの手法によって、広げる工程を意味する。
特にサイジング剤付着炭素繊維を開繊したものをシート状に並べ、2枚のフィルム状のマトリクス樹脂で挟み、これらを加熱しながら加圧することで、加熱によりフィルム状のマトリクス樹脂を溶融させて、加圧により溶融したマトリクス樹脂をサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる方法が好ましい。
【0111】
マトリクス樹脂を溶融させてサイジング剤付着炭素繊維に含浸させる際のマトリクス樹脂の加熱温度は、マトリクス樹脂が溶融する温度であれば特に制限はないが、100~400℃が好ましく、200~400℃がより好ましい。また、加熱時間は10秒以上10分以下が好ましい。
【0112】
本発明の第七の態様のプリプレグの製造方法において、マトリクス樹脂を溶融して炭素繊維に含浸させる場合には、本発明の第一の態様又は第二の態様のサイジング剤は分解又は揮発することがある。プリプレグを製造する段階においてサイジング剤付着炭素繊維に溶融したマトリクス樹脂を含浸させる際の熱処理によって、サイジング剤の少なくも一部が分解又は揮発してもよいし、サイジング剤が分解も揮発もせずにプリプレグに含まれてもよい。
【0113】
<作用効果>
本発明の第七の態様のプリプレグの製造方法によれば、本発明の第六の態様のプリプレグを容易に製造できる。
【0114】
[炭素繊維強化複合材料の製造方法]
本発明の第八の態様の炭素繊維強化複合材料の製造方法は、本発明の第七の態様のプリプレグの製造方法によりプリプレグを製造し、得られたプリプレグを成形する工程を含む。
本明細書中では、プリプレグを成形して成形物(炭素繊維強化複合材料)を製造する過程を成形工程と呼ぶ。成形工程は、2枚以上のプリプレグを成形型に沿わせて積層して積層体とする工程(積層工程)と、プリプレグの積層体を加圧下で成形温度まで加熱する工程(加熱工程)と、室温(25℃)まで降温する工程(冷却工程)とが含まれる。また、成形工程は、必要に応じて、加熱工程と冷却工程との間に、成形温度で保持する工程(保持工程)を含んでいてもよい。
積層工程においてプリプレグを積層する際は、目的の炭素繊維強化複合材料の用途に応じて必要となる枚数のプリプレグを積層すればよい。
【0115】
また、本明細書における成形温度とは、成形工程における加熱操作において最も高い温度のことを意味する。
例えば、プリプレグの積層体を加圧下で380℃まで10℃/minで昇温し、380℃で30分保持した後に室温まで降温する成形工程の成形温度は380℃である。
【0116】
成形工程では、成形型を用いた公知の成形方法を採用でき、例えばオートクレーブ成形、オーブン成形、内圧成形、プレス成形などが挙げられる。これらの中でも、品質がより良好な炭素繊維強化複合材料が得られやすい観点から、オートクレーブ成形が好ましい。
成形温度はマトリクス樹脂が溶融し、炭素繊維強化複合材料が得られる温度であれば特に制限はないが、350℃以上が好ましい。成形温度は420℃以下が好ましい。
また、必要に応じて成形温度まで昇温する速度を制御してもよいし、成形温度で保持してもよい。昇温速度は1~20℃/minが好ましい。成形温度で保持する時間は1~240分が好ましい。
【0117】
<作用効果>
本発明の第八の態様の炭素繊維強化複合材料の製造方法によれば、プリプレグの積層体を成形温度まで加熱する段階において、プリプレグ中のサイジング剤が分解又は揮発するが、マトリクス樹脂が溶融流動化して炭素繊維の隙間を埋めていく過程が進む前にサイジング剤の殆どが分解又は揮発して成形物(炭素繊維強化複合材料)から除去されるため、成形物にはボイドが残りにくい。
よって、本発明の第八の態様の炭素繊維強化複合材料の製造方法によれば、プリプレグにサイジング剤が含まれていてもボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られる。
【実施例0118】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例及び比較例における各種測定・評価方法と、実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
【0119】
[測定・評価方法]
(熱減量率B-1及び熱減量率A-1の測定)
サイジング剤を10±2mgの範囲でW10(mg)採取し、熱重量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、「TG/DTA6200」)を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、20℃/minで100℃まで昇温した後、5℃/minで100℃から350℃まで昇温し、熱減量曲線を取得し、250℃に達した際のサイジング剤の質量W11(g)と、350℃に達した際のサイジング剤の質量W12(g)を測定し、下記式(i)より熱減量率B-1を算出し、下記式(ii)より熱減量率A-1を算出した。
熱減量率B-1(%)={(W10-W12)/W10}×100 ・・・(i)
熱減量率A-1(%)={(W10-W11)/W10}×100 ・・・(ii)
なお、熱減量率の測定に用いたサイジング剤は、後述する各実施例のサイジング剤の原料を混合し、80℃に加熱して、均一になるまで撹拌したものである。また、原料が一成分のみの場合は、そのまま熱減量率を測定した。
【0120】
(熱減量率B-2及び熱減量率A-2の測定)
メチルエチルケトン2000質量部に対して、サイジング剤付着炭素繊維100質量部を浸漬させて30℃で超音波洗浄を30分間実施した。超音波洗浄により得られた抽出液と炭素繊維をろ過操作で分離した。分離した炭素繊維について同様の操作を3度繰り返した。各操作で得られた抽出液を混合し、減圧することでメチルエチルケトンを留去し、抽出物を得た。
上記の操作によって得られた抽出物を10±2mgの範囲でW20(mg)採取し、熱重量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、「TG/DTA6200」)を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、20℃/minで100℃まで昇温した後、5℃/minで100℃から350℃まで昇温し、熱減量曲線を取得し、250℃に達した際の抽出物の質量W21(g)と、350℃に達した際の抽出物の質量W22(g)を測定し、下記式(iv)より熱減量率B-2を算出し、下記式(v)より熱減量率A-2を算出した。
熱減量率B-2(%)={(W20-W22)/W20}×100 ・・・(iv)
熱減量率A-2(%)={(W20-W21)/W20}×100 ・・・(v)
【0121】
(熱減量率B-3及び熱減量率A-3の測定)
サイジング剤の水分散液を1g秤量し、110℃で1時間加熱して水分を除去して得られたサイジング剤を10±2mgの範囲でW30(mg)採取し、熱重量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、「TG/DTA6200」)を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、20℃/minで100℃まで昇温した後、5℃/minで100℃から350℃まで昇温し、熱減量曲線を取得し、250℃に達した際のサイジング剤の質量W31(g)と、350℃に達した際のサイジング剤の質量W32(g)を測定し、下記式(vi)より熱減量率B-3を算出し、下記式(vii)より熱減量率A-3を算出した。
熱減量率B-3(%)={(W30-W32)/W30}×100 ・・・(vi)
熱減量率A-3(%)={(W30-W31)/W30}×100 ・・・(vii)
なお、比較例6の場合、サイジング剤の水分散液の代わりに、サイジング剤をメチルエチルケトンに溶解させた溶液を用い、この溶液を110℃で1時間加熱することでメチルエチルケトンを除去してサイジング剤を得た。
【0122】
(熱減量率B-4の測定)
界面活性剤を10±2mgの範囲でW40(mg)採取し、熱重量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、「TG/DTA6200」)を用いて、200ミリリットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、20℃/minで100℃まで昇温した後、5℃/minで100℃から350℃まで昇温し、350℃に達した際の界面活性剤の質量W42(g)を測定し、下記式(iii)より熱減量率B-4を算出した。
熱減量率B-4(%)={(W40-W42)/W40}×100 ・・・(iii)
【0123】
(炭素繊維へのサイジング剤の付着量の測定)
サイジング剤付着炭素繊維をJIS R 7604:1999のA法の溶剤抽出法の手順2に従い、サイジング剤が付着した状態の炭素繊維の絶乾質量当たりのサイジング剤の質量を測定した。サイジング剤を抽出するための溶剤としてはメチルエチルケトンを用いた。
【0124】
(開繊性の評価)
サイジング剤付着炭素繊維を用いて一方向プリプレグを作製している際のサイジング剤付着炭素繊維の開繊状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて開繊性を評価した。
I :サイジング剤付着炭素繊維の開繊性は良好であり、開繊したサイジング剤付着炭素繊維同士が隙間なく配置された状態であった。
II:サイジング剤付着炭素繊維の開繊性が悪く、開繊したサイジング剤付着炭素繊維同士の間に隙間が見られた。
【0125】
(取扱い性の評価)
サイジング剤付着炭素繊維をボビンから巻き出した時の毛羽の発生状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて取扱い性を評価した。
I :サイジング剤付着炭素繊維をボビンに巻き取った直後と、ボビンに巻き取った状態で一か月保管した後にボビンから巻き出す際に、それぞれ毛羽発生は認められなかった。
II :サイジング剤付着炭素繊維をボビンに巻き取った直後にボビンから巻き出す際に、毛羽発生は認められなかったが、サイジング剤付着炭素繊維をボビンに巻き取った状態で一か月保管した後、ボビンから巻き出す際に、毛羽発生が多く認められ、プリプレグの作製が困難であった。
III:サイジング剤付着炭素繊維をボビンに巻き取った直後にボビンから巻き出す際に、毛羽発生が多く認められ、プリプレグの作製が困難であった。
【0126】
(成形板の評価)
成形板から20mm角の試験片を切り出し、試験片の断面を鏡面に研磨し、この断面を光学顕微鏡にて観察し、以下の評価基準にて成形板の状態を評価した。
I :成形板にボイドが認められなかった。
II :成形板にわずかにボイドが認められた。
III:成形板に多数のボイドが認められた。
【0127】
[原料]
表1に実施例及び比較例で使用した原料を示す。また、表2に実施例及び比較例で使用した界面活性剤の熱減量率B-4を示す。
【0128】
【0129】
【0130】
なお、表1中の「化合物(1)の含有量」は、原料の総質量に対する、その原料に含まれる化合物(1)の含有量(質量%)である。「化合物(4)の含有量」は、原料に含まれる化合物(1)100質量部に対する、化合物(4)の含有量(質量部)である。「実質的に含まない」とは、化合物(1)又は化合物(4)の含有量が、原料の総質量に対して1質量%未満であることを意味する。
「jER1001」、「jER828」、「jER825」、「ニューポールBPE-20」、「ニューポールBP-2P」は、化合物(2)を含み、化合物(3)を含まない材料である。
「jER807」、「jER806」は、化合物(2)と化合物(3)を含む材料である。
「YED122」、「デナコールEX-521」は、化合物(1)を含まない材料である。
【0131】
[実施例1]
(サイジング剤の水分散液の調製)
表1に示した原料を表3に示した配合組成(質量部)で混合して、80℃に加熱して、均一になるまで撹拌し、サイジング剤を得た。
得られたサイジング剤を撹拌しながらイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転相乳化によって、サイジング剤が水に分散したサイジング剤の水分散液を得た。なお、サイジング剤の水分散液におけるサイジング剤の濃度が30質量%となるように、サイジング剤へのイオン交換水の添加量を調整した。
サイジング剤の熱減量率A-1及び熱減量率B-1と、サイジング剤の水分散液の熱減量率A-3及び熱減量率B-3を測定した。結果を表3に示す。
【0132】
(サイジング剤付着炭素繊維の製造)
サイジング剤の水分散液を満たした浸漬槽内に、サイジング剤を付与していない炭素繊維(三菱ケミカル株式会社製、「パイロフィルMR 60H24P」、フィラメント数24000本、繊維径5μm)を浸漬通過させた後、150℃に加熱されたローラーに20秒間接触させることで乾燥し、サイジング剤付着炭素繊維を得た。このとき、炭素繊維へのサイジング剤の付着量が0.4質量%となるように、浸漬槽内におけるサイジング剤の水分散液中のサイジング剤濃度を調整した。
得られたサイジング剤付着炭素繊維はボビンに巻き取った。
サイジング剤付着炭素繊維の熱減量率A-2及び熱減量率B-2を測定した。結果を表3に示す。
なお、熱減量率A-1、熱減量率A-2及び熱減量率A-3の間では数値に差異がみられなかったため、実施例及び比較例の結果を記載した表3、4では「熱減量率A」と記載した。同様に、熱減量率B-1、熱減量率B-2及び熱減量率B-3の間でも数値に差異がみられなかったため、実施例及び比較例の結果を記載した表3、4では「熱減量率B」と記載した。
【0133】
(一方向プリプレグの製造)
得られたサイジング剤付着炭素繊維をボビンから巻き出し、開繊しながら引き揃えて一定ピッチで並べてシート状に配置した後、上下から15μmの厚みのPEEKフィルムで挟み込み、370℃で加熱しながら2分間、1.0MPaで加圧して一方向プリプレグを得た。一方向プリプレグの炭素繊維目付は80g/m2、樹脂含有率は33%であった。
一方向プリプレグを製造する際のサイジング剤付着炭素繊維の開繊性と取扱い性を評価した。結果を表3に示す。
【0134】
(成形板の製造)
得られた一方向プリプレグを200mm×200mmのシートとなるように切り出し、これを一方向に40枚積層し、オートクレーブで窒素雰囲気中、1.5MPaに加圧し、30℃から成形温度である400℃まで10℃/minで加熱し、さらに400℃で60分保持した後、圧力を保ったまま室温まで降温し、成形板(炭素繊維強化複合材料)を得た。
得られた成形板の状態を評価した。結果を表3に示す。
【0135】
[実施例2~6、8、9、比較例1~5]
表1に示した原料を表3、4に示した配合組成(質量部)で混合してサイジング剤を調製した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤の水分散液を調製し、サイジング剤付着炭素繊維、一方向プリプレグ及び成形板を製造し、各種測定及び評価を行った。結果を表3、4に示す。
【0136】
[実施例7]
表1に示した原料を表3に示した配合組成(質量部)で混合してサイジング剤を調製した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤の水分散液を調製した。得られたサイジング剤の水分散液を用い、150℃に加熱されたローラーへの接触時間を5秒間に変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着炭素繊維を製造した。得られたサイジング剤付着炭素繊維を用いた以外は実施例1と同様にして一方向プリプレグ及び成形板を製造し、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0137】
[比較例6]
表1に示した原料を表4に示した配合組成(質量部)で混合して、サイジング剤を得た。
サイジング剤の水分散液の代わりに得られたサイジング剤をメチルエチルケトンに溶解させた溶液を用い、150℃に加熱されたローラーに20秒間接触させることで乾燥する代わりに100℃の窒素雰囲気中で乾燥した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着炭素繊維を製造した。得られたサイジング剤付着炭素繊維を用いた以外は実施例1と同様にして一方向プリプレグ及び成形板を製造し、各種測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0138】
[比較例7]
表1に示した原料を表4に示した配合組成(質量部)で混合して、これを水に溶解させてサイジング剤の水溶液とした。
サイジング剤の水分散液の代わりにサイジング剤の水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着炭素繊維を製造した。得られたサイジング剤付着炭素繊維を用いた以外は実施例1と同様にして一方向プリプレグ及び成形板を製造し、各種測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
表3の結果から明らかなように、実施例1~3、5、6、8で得られたサイジング剤付着炭素繊維は開繊性及び取扱い性に優れ、これらサイジング剤付着炭素繊維から得られた成形板はいずれもボイドが認められず、高品位であった。
実施例4、9で得られたサイジング剤付着炭素繊維は開繊性及び取扱い性に優れていたが、このサイジング剤付着炭素繊維成形板から得られた成形板にはわずかにボイドが認められた。
実施例7で得られたサイジング剤付着炭素繊維は開繊性に優れ、このサイジング剤付着炭素繊維から得られた成形板はいずれもボイドが認められず、高品位であった。ただし、取扱い性に関して、一か月保管後にボビンから巻きだすと毛羽立ちが認められた。これは、保管中にサイジング剤が揮発し、取扱い性が低下したためと考えられる。
【0142】
対して、表4の結果から明らかなように、比較例1、2、4、5、7で得られたサイジング剤付着炭素繊維は開繊性及び取扱い性に優れていたが、これらサイジング剤付着炭素繊維成形板から得られた成形板にはボイドが多数発生し、充分な品質ではなかった。
比較例3で得られたサイジング剤付着炭素繊維は開繊性が悪く、このサイジング剤付着炭素繊維成形板から得られた成形板にはボイドが多数発生し、充分な品質ではなかった。
比較例6で得られたサイジング剤付着炭素繊維は取扱い性が悪く、一方向プリプレグの製造が困難であった。そのため、成形板の評価はできなかった。
本発明のサイジング剤付着炭素繊維によれば、開繊性及び取扱い性に優れ、しかもボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料が得られるプリプレグの製造に適している。本発明のプリプレグは、ボイドの極めて少ない炭素繊維強化複合材料の中間材料として有用である。