(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140702
(43)【公開日】2022-09-27
(54)【発明の名称】液晶画素
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220914BHJP
G02F 1/141 20060101ALI20220914BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220914BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/141
G02F1/1337
G02F1/1337 515
G02F1/1337 525
G02F1/1343
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037259
(22)【出願日】2021-03-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2020年8月3日にSociety for Information Displayによってオンライン発行されたThe 57th International Display Week Symposiumの講演予稿集SID Symposium Digest of Technical Papers,Volume 51,Issue 1,pp.17-20において発表 (2)2020年8月6日にSociety for Information Displayによってオンライン開催されたThe 57th International Display Week Symposiumにおいて口頭発表(講演番号:3-5) (3)2020年10月9日に一般社団法人映像情報メディア学会によってオンライン発行された映像情報メディア学会技術報告,Volume 44,Number 26,IDY2020-35,pp.17-20において発表 (4)2020年10月16日に一般社団法人映像情報メディア学会によってオンライン開催された映像情報メディア学会情報ディスプレイ研究会「ディスプレイ一般」の依頼講演において口頭発表 (5)2020年10月22日に一般社団法人日本液晶学会によってオンライン発行された2020年日本液晶学会オンライン研究発表会講演予稿集,2I03,2020,pp.61-62において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (6)2020年10月30日に一般社団法人日本液晶学会によってオンライン開催された2020年日本液晶学会オンライン研究発表会において口頭発表(講演番号:2I03) (7)2020年12月10日に一般社団法人ディスプレイ国際ワークショップによってオンライン発行されたThe 27th International Display Workshops(IDW’20)の講演予稿集Proceedings of the International Display Workshops,Volume 27,LCT7-1,2020,pp.91-94において発表 (8)2020年12月10日に一般社団法人ディスプレイ国際ワークショップによってオンライン開催されたThe 27th International Display Workshops(IDW’20)において口頭発表(講演番号:LCT7-1) (9)2020年3月11日に公益社団法人応用物理学会物理系学術誌刊行センターによって刊行されたJapanese Journal of Applied Physics,Volume 59,Number 4,040901において発表
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】麻生 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 英夫
(72)【発明者】
【氏名】石鍋 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 陽生
(72)【発明者】
【氏名】磯前 慶友
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真哉
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2H290
【Fターム(参考)】
2H088EA47
2H088EA48
2H088GA02
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA08
2H088JA19
2H088MA20
2H092GA15
2H092HA04
2H092JA23
2H092NA25
2H092QA13
2H092RA10
2H290AA67
2H290BF04
2H290BF13
2H290BF23
2H290CA42
2H290CA46
2H290CB33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】狭画素ピッチで二次元配置された画素間のクロストークを抑制できる液晶画素を提供する。
【解決手段】液晶からなる液晶層50を備える長方形の液晶画素1であって、液晶の無電界印加時における初期配向が、液晶画素1の長辺と直交する方向である、液晶画素1である。液晶は、SSFLC、又はネマティック液晶を含むものであってよく、液晶がSSFLCを含む場合には、SSFLCの円錐形状の分子運動軌道における中心軸方向が、液晶画素1の長辺と直交する方向であってよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶からなる液晶層を備える長方形の液晶画素であって、
前記液晶の無電界印加時における初期配向が、前記液晶画素の長辺と直交する方向である、液晶画素。
【請求項2】
前記液晶は、SSFLC、又はネマティック液晶を含む、請求項1に記載の液晶画素。
【請求項3】
前記液晶は、前記SSFLCを含み、
前記SSFLCの円錐形状の分子運動軌道における中心軸方向が、前記液晶画素の長辺と直交する方向である、請求項2に記載の液晶画素。
【請求項4】
前記液晶画素の短辺方向の画素ピッチが、2μm未満であり、
前記液晶画素の長辺方向の画素ピッチが、2μm以上である、請求項3に記載の液晶画素。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶画素を備える、空間光変調器。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶画素を備える、二次元画像表示装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶画素を備える、三次元画像表示装置。
【請求項8】
前記三次元画像表示装置が、ホログラフィ方式の三次元画像表示装置である、請求項7に記載の三次元画像表示装置。
【請求項9】
前記三次元画像表示装置が、振幅変調型ホログラムを表示する、請求項7に記載の三次元画像表示装置。
【請求項10】
前記三次元画像表示装置が、位相変調型ホログラムを表示する、請求項7に記載の三次元画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶画素、並びに、これを備える空間光変調器、二次元画像表示装置及び三次元画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子は、テレビやパソコン等の種々のディスプレイ装置として実用化されており、近年では4Kや8K等の高精細ディスプレイ装置の開発が進められている。また、VRやAR等の新たな映像サービスの高画質化や、インテグラル方式及びホログラフィ方式等の立体映像表示への応用のためには、さらなる多画素化と高密度化が要求される。
【0003】
特に、ホログラフィ表示用の空間光変調器(Spatial Light Modulator, SLM)に液晶表示素子を利用する場合には、立体像を視認できる角度(視域角)を大きくするためには、SLMの画素ピッチを可視光の波長(360nm~830nm)程度に十分小さくしなければならない。例えば、視域角を30°以上とするためには、画素ピッチ1μm程度の超高密度ディスプレイ装置が必要である。
【0004】
ここで、SLMは、光学素子(光変調素子)を二次元のマトリクス状に配列させ、光の位相や振幅等を空間的に変調するものであり、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。液晶ではシリコン(Si)ベースの画素選択用トランジスタ駆動回路を各画素に内蔵した基板(Siバックプレーン)を用いた反射型のLCOS(Liquid Crystal on Silicon)が高密度化に適しているものの、液晶画素間クロストークの問題により、その画素ピッチは3μm×3μmピッチ程度に留まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoshitomo Isomae, Shintaro Aso, Junichi Shibasaki, Ken-ichi Aoshima, Kenji Machida, Hiroshi Kikuchi, Takahiro Ishinabe, Yosei Shibata and Hideo Fujikake, “Superior spatial resolution of surface-stabilized ferroelectric liquid crystals compared to nematic liquid crystals for wide-field-of-view holographic displays,” Jpn. J. Appl. Phys. 59 040901 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、将来のホログラフィ表示用狭画素ピッチ空間光変調器への応用を目指し、液晶デバイスのさらなる狭画素ピッチ化に向けた研究が行われている。これまでのところ、ストライプ構造の一次元電極を用いて、1μm画素ピッチまでの液晶画素の光変調特性に関する研究が行われ、強誘電性液晶を用いることで画素間クロストークを抑制可能であることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、液晶画素を1μm~2μmピッチで二次元配置した場合に関しては、まだ有効な画素間クロストーク抑制技術が提案されていないのが現状である。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、狭画素ピッチで二次元配置された画素間のクロストークを抑制できる液晶画素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、液晶からなる液晶層(例えば、後述の液晶層50,50B)を備える長方形の液晶画素(例えば、後述の液晶画素1,1A,1B)であって、前記液晶の無電界印加時における初期配向が、前記液晶画素の長辺と直交する方向である、液晶画素を提供する。
【0009】
(2) (1)の液晶画素において、前記液晶は、SSFLC、又はネマティック液晶を含んでよい。
【0010】
(3) (2)の液晶画素において、前記液晶は、前記SSFLCを含み、前記SSFLCの円錐形状の分子運動軌道における中心軸(例えば、後述のFLC分子運動軌道の中心軸C)方向が、前記液晶画素の長辺と直交する方向であってよい。
【0011】
(4) (3)の液晶画素において、前記液晶画素の短辺方向の画素ピッチが、2μm未満であり、前記液晶画素の長辺方向の画素ピッチが、2μm以上であってよい。
【0012】
(5) また本発明は、(1)~(4)のいずれかの液晶画素を備える空間光変調器を提供する。
【0013】
(6) また本発明は、(1)~(4)のいずれかの液晶画素を備える二次元画像表示装置を提供する。
【0014】
(7) また本発明は、(1)~(4)のいずれかの液晶画素を備える三次元画像表示装置を提供する。
【0015】
(8) (7)の三次元画像表示装置が、ホログラフィ方式の三次元画像表示装置であってよい。
【0016】
(9) (7)の三次元画像表示装置が、振幅変調型ホログラムを表示してもよい。
【0017】
(10) (7)の三次元画像表示装置が、位相変調型ホログラムを表示してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、狭画素ピッチで二次元配置された画素間のクロストークを抑制できる液晶画素を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る液晶画素の構成を示す図である。
【
図2】隣接画素間に生じる漏れ電界の方向と液晶の配向方向との関係を示す図である。
【
図4】SSFLC及びネマティック液晶における画素ピッチと変調度との関係を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る液晶画素の斜視図である。
【
図6】第2実施形態に係る液晶画素の断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る液晶画素の2層構造電極の平面図である。
【
図8】
図7のA1-A1断面における電位分布シミュレーション結果を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る液晶画素の光学顕微鏡像を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る液晶画素の偏光顕微鏡像を示す図である。
【
図11】第3実施形態に係る液晶画素の構成を示す図である。
【
図12】x軸配向された第3実施形態に係る液晶画素1Bの面内における透過率分布と液晶分子方向のシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】y軸配向された液晶画素の面内における透過率分布と液晶分子方向のシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】x軸配向された第3実施形態に係る液晶画素1Bの断面における透過率分布と液晶分子方向及び電位分布のシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】y軸配向された液晶画素の断面における透過率分布と液晶分子方向及び電位分布のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、第2実施形態以降の説明において、第1実施形態と共通する構成については適宜説明を省略する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る液晶画素1の構成を示す図である。
図1中、下段は下部電極基板及び液晶画素駆動用電極の平面図であり、上段は液晶画素1の断面図である。
図1に示されるように本実施形態に係る液晶画素1は、1μm×2μmの狭画素ピッチで二次元配置された長方形の液晶画素であり、透過型液晶デバイスを構成する。
図1では、2×2画素のみ示しているが、実際には、
図1に示すような電極配置が無限に続く構造となっている。
図1に示される本実施形態に係る液晶画素の一例では、y軸方向の画素ピッチが2μmであり、x軸方向の画素ピッチが1μmである。即ち、x軸方向の方が狭画素ピッチとなっているため、隣接画素間に生じる漏れ電界の大きさは、x軸方向の方が大きい。本実施形態に係る液晶画素1は、このように狭画素ピッチで二次元配置されたものであるにも関わらず、狭画素ピッチの画素間のクロストークを抑制できる点に特徴を有する。
【0022】
図1に示されるように本実施形態に係る液晶画素1は、下部電極基板11と、液晶画素駆動用電極10と、配向膜41,42と、液晶層50と、共通透明電極60と、上部透明基板70と、を備える。以下、これらの各構成について説明する。
【0023】
(下部電極基板11)
下部電極基板11は、本実施形態に係る液晶画素1の最下層に配置される。この下部電極基板11には、後述する液晶画素駆動用電極10が設けられる。下部電極基板11を構成する材料としては、例えば、Si、ガラス、合成石英、サファイア等を用いることができる。また、下部電極基板11として、フレキシブルなプラスチックフィルム基板を用いることもできる。
【0024】
(液晶画素駆動用電極10)
液晶画素駆動用電極10は、上述の下部電極基板11に設けられ、アクティブマトリクス駆動バックプレーンを構成する。
図1に示す一例では、画素ピッチが1μm×2μmに設定されている。即ち、液晶画素駆動用電極10が、x軸方向に1μmピッチ、y軸方向に2μmピッチで下部電極基板11に配置されている。また、液晶画素駆動用電極10のサイズは、x軸方向の幅が0.8μm、y軸方向の幅が1.8μmに設定されている。ただし、これに限定されるものではなく、後述する液晶の種類に応じて好ましい画素ピッチが設定されるとともに、液晶画素駆動用電極10の好ましいピッチ及びサイズが設定される。この画素ピッチについては、後段で詳述する。
【0025】
液晶画素駆動用電極10を構成する電極材料としては、Alのような導電性の高い金属材料の他、透明電極材料等を用いることができる。可視光波長(360nm~830nm)の範囲で透明な電極材料として、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide, IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide, ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In2O3)等の他、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide, IGZO)等の公知の透明電極材料を用いることができる。
【0026】
(配向膜41,42)
配向膜41,42は、後述する液晶層50の表面側と裏面側にそれぞれ配置される。これら配向膜41,42は、後述する上部透明基板70の近傍に位置する液晶と、上述の下部電極基板11の近傍に位置する液晶に対して配向規制力を付与することにより、液晶層50全体の配向を定める。
【0027】
配向膜41,42を構成する材料としては、ポリイミド系高分子やポリビニル系高分子等の従来公知の種々の配向膜材料を用いることができる。これらの配向膜材料を用いたラビング法、光配向法等により、配向処理を施すことができる他、SiO、SiO
2、金属酸化物等の無機系材料の斜方蒸着膜を用いることもできる。その他、各基板表面を界面活性剤処理する方法や、イオンビーム照射等により基板面に微細形状を形成する方法等で液晶配向を行うこともできる。本実施形態における配向処理方向は、
図1のx軸方向、即ち画素ピッチ1μmの短辺方向である。
【0028】
(液晶層50)
本実施形態に係る液晶層50は、表面安定化強誘電性液晶(以下、SSFLCともいう)から構成される。ここで、強誘電性液晶(以下、FLCともいう)の分子運動軌道は円錐状であり、通常、FLC分子はその分子運動軌道上に螺旋状に配向する。しかしながら、SSFLCでは液晶層の厚みが薄く設定されることにより、FLC分子が狭い範囲に閉じ込められて円錐軌道上の2値の配向方向しか取り得なくなる。本実施形態に係る液晶層50は、無電界印加時における初期配向の向きによっては、このようなSSFLCにおいて、FLC分子の回転によって画素間クロストークが増大することを抑制するものである。
【0029】
ここで、
図2は、隣接画素間に生じる漏れ電界の方向と液晶の配向方向との関係を示す図である。より詳しくは、
図2は、隣接画素間に生じる漏れ電界に対するFLC分子51の応答を、液晶配向処理方向の違いとともに示す図である。
【0030】
図2に示されるように、FLC分子51の電気双極子モーメント52は、棒状のFLC分子51に対して概ね垂直な方向を向いている。そのため、
図2中の(a)のようにx軸方向に配向処理し、円錐状のFLC分子運動軌道の中心軸Cがx軸方向に向くようにした場合、漏れ電界の大きいx軸方向と、FLC分子51の電気双極子モーメント52が常に直交する関係となる。そのため、隣接画素間漏れ電界によるFLC分子51の回転が起こり難い。従って、表示における隣接画素間クロストークが起き難い。
【0031】
これに対して、
図2中の(b)のようにy軸方向に配向処理した場合、安定化の観点から、FLC分子51の電気双極子モーメント52がx軸方向に生じた隣接画素間漏れ電界と平行な方向を向くよう、FLC分子51を回転させる力が生じる。そのため、表示における隣接画素間クロストークが大きくなる。
【0032】
従って、本実施形態に係る液晶画素1は、FLCを用いた1μm×2μmピッチの長方形の液晶画素を二次元配置し、その配向処理方向を1μmピッチ方向とし、円錐状のFLC分子運動軌道の中心軸Cが1μmピッチ方向に向くように設定される。即ち、本実施形態に係る液晶層50は、無電界印加時における初期配向が、液晶画素1の長辺と直交する方向、即ちx軸方向である。これにより、本実施形態によれば、画素間クロストークの影響が抑制された狭画素ピッチ二次元液晶画素を実現可能となっている。
【0033】
図3は、SSFLCの電圧応答を示す図である。
図3に示すように、SSFLCは、各画素に印加する電圧の極性に応じて、その分子の電気双極子モーメントの方向が反転するように動作する。この電気双極子モーメント方向の反転に対応して、FLC分子51は、円錐状のFLC分子運動軌道53上の奥側か手前側かの2値に動作し、それが画素のオン、オフに対応する。
図3に示される本実施形態の一例では、+5Vが印加されるとFLC分子51の電気双極子モーメントを上方向に向ける力が働き、それに伴いFLC分子51が円錐状のFLC分子運動軌道53上の奥側に配置される一方で、-5Vが印加されるとFLC分子51の電気双極子モーメントを下方向に向ける力が働き、それに伴いFLC分子51が円錐状のFLC分子運動軌道53上の手前側に配置されるようになる。ただし、上述した通り、漏れ電界の大きいx軸方向とFLC分子51の電気双極子モーメント52が常に直交するため、隣接画素間漏れ電界によるFLC分子51の回転が起こり難く、表示における隣接画素間クロストークを抑制できるようになっている。
【0034】
なお、液晶層50の厚みは、FLCの螺旋構造が解消してSSFLC状態となるように、2μm程度以下とする必要がある。例えば1μmピッチのような狭画素ピッチデバイスを作製する場合は、画素間クロストーク抑制の観点から、液晶層50の厚さは、0.5μm~1.5μmであることが好ましい。液晶層50の厚さが0.5μm未満であると、十分な変調度が得られなくなる。また、液晶層50の厚さが1.5μmを超えると、隣接画素間漏れ電界の影響が大きくなり、画素間クロストークが増大する。
【0035】
(共通透明電極60)
図1に戻って、共通透明電極60としては、透明電極材料を用いることができる。可視光波長(360nm~830nm)の範囲で透明な電極材料として、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide, IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide, ITO)、酸化スズ(SnO
2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In
2O
3)等の他、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide, IGZO)等の公知の透明電極材料を用いることができる。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の従来公知の方法により製膜される。厚さは、十分な導電性が得られるよう、例えば20nm以上あることが好ましい。
【0036】
(上部透明基板70)
上部透明基板70としては、ガラス、合成石英、サファイア等の透明な基板材料を用いことができる。また、上部透明基板70として、フレキシブルなプラスチックフィルムを用いることもできる。
【0037】
次に、本実施形態に係る液晶画素1の好ましい画素ピッチについて、
図4を参照して詳しく説明する。
図4は、SSFLC及びネマティック液晶における画素ピッチと変調度Rとの関係を示す図である。より詳しくは、
図4は、隣接する画素同士で正負が逆の極性の駆動電圧が印加され、互いに平行に配列した一次元画素電極を用いて、SSFLC及びネマティック液晶それぞれを、液晶層厚1μmで所定方向に配向させたときの画素ピッチと変調度Rとの関係を示す図である。
図4中、横軸が画素ピッチを表しており、縦軸が変調度Rを表している。変調度Rは、各液晶画素に対する可視光の最大透過率をTmax、最小透過率をTminとしたときに、R=(Tmax-Tmin)/(Tmax+Tmin)により算出される。
【0038】
図4中、SSFLCに着目する。ここで、漏れ電界方向に対してSSFLC分子を0°配向させたものは、無電界印加時の初期配向としてSSFLCの分子運動軌道の中心軸方向を、漏れ電界方向(より大きい漏れ電界方向)、即ち、
図2中の(a)に示される本実施形態のように、液晶画素1の長辺に直交する方向であるx軸方向に向けたものに相当する。また、漏れ電界方向に対してSSFLC分子を90°配向させたものは、無電界印加時の初期配向としてSSFLCの分子運動軌道の中心軸方向を、漏れ電界方向(より大きい漏れ電界方向)に直行する方向、即ち、
図2中の(b)に示されるようにy軸方向に向けたものに相当する。
【0039】
図4において、漏れ電界方向に対してSSFLC分子を0°配向させたものと、漏れ電界方向に対してSSFLC分子を90°配向させたものとを比較すると、画素ピッチが2μmより小さくなると、前者の変調度Rは大きく変化しないのに対して後者の変調度Rは大きく低下することが分かる。即ち、画素ピッチが2μmより小さくなると、後者において画素間クロストークの影響が大きくなることを示している。この結果から、強誘電性液晶の円錐形状の分子運動軌道における中心軸方向が液晶画素1の長辺と直交する方向であり、液晶の無電界印加時における初期配向が液晶画素1の長辺と直交する方向である本実施形態の液晶画素1において、好ましい画素ピッチは次の通りであると言える。
【0040】
即ち、液晶層50を構成する液晶として、SSFLCを用いる場合には、好ましい短辺方向の画素ピッチは2μm未満であり、好ましい長辺方向の画素ピッチは2μm以上である。画素ピッチがそれぞれ上記範囲内であれば、SSFLCを用い、狭画素ピッチで二次元配置した長方形状の液晶画素であっても、十分な変調度Rを得ることができる。これは、
図4中に示されるネマティック液晶NLCとは異なるものであり、SSFLCに特徴的な画素ピッチである。
【0041】
ここで、1μmピッチのような狭画素ピッチデバイスを作製する場合には、上述の好ましい画素ピッチは液晶層の厚みによらないと考えられる。なぜならば、上述した通り1μmピッチのような狭画素ピッチデバイスを作製する場合には、画素間クロストーク抑制の観点から、液晶層50の厚さは0.5μm~1.5μmであることが好ましいことから、好ましい画素ピッチが、
図4の実験で使用した液晶層厚1μmの場合から大幅に変わることは無いためである。そして、隣接画素電極間の間隔(電極と電極の間のすき間)は、
図4の1μmピッチ素子の場合、200nmしかなく、これは、液晶層厚1μmに対して1/5の距離である。ということは、隣接画素間境界部では、上下電極間に生じる本来の液晶駆動電界の強度に対し、隣接画素間漏れ電界の強度の方がずっと大きいということになる。従って、仮に液晶層厚を1.5μmとした場合でも、隣接画素間の間隔が同じであれば、液晶配向方向による画素間クロストーク抑制効果は、液晶層厚1μmの場合と同程度の画素ピッチで得られると考えられる。
【0042】
以上説明した通り、本実施形態によれば、狭画素ピッチで二次元配置された画素間のクロストークを抑制できる液晶画素1を提供できる。そのため、本実施形態に係る液晶画素1は、空間光変調器、二次元画像表示装置、ホログラフィ方式の三次元画像表示装置、振幅変調型ホログラムや位相変調型ホログラムを表示可能な三次元画像表示装置に好ましく用いられる。より具体的には、本実施形態に係る液晶画素1は、液晶テレビ、パソコン用ディスプレイ装置、携帯用ディスプレイ装置、仮想現実空間(Virtual Reality, VR)や拡張現実空間(Augmented Reality, AR)用のヘッドマウントディスプレイ装置、インテグラル方式やホログラフィ方式等の立体表示用空間光変調器等に好ましく用いられる。
【0043】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態に係る液晶画素1Aの斜視図である。
図6は、第2実施形態に係る液晶画素1Aの断面図である。
図7は、第2実施形態に係る液晶画素1Aの2層構造電極20の平面図である。ただし、
図5では、上部透明基板、配向膜、下部電極基板の記載を省略して示している。また、
図7では、3×3画素のみ示しているが、実際には、
図7に示すような電極配置が無限に続く構造となっている。これら
図5~
図7に示されるように第2実施形態に係る液晶画素1Aは、第1実施形態に係る液晶画素1と比較して、下部電極基板11及び液晶画素駆動用電極10の代わりに、下部電極基板11A及び2層構造電極20を備える以外は、第1実施形態に係る液晶画素1と同様の構成である。
【0044】
(下部電極基板11A)
図6に示されるように、下部電極基板11Aは最下層に配置される。この下部電極基板11A上に、後述する2層構造電極20が形成される。下部電極基板11Aとしては、Alのような導電性の高い金属材料の他、透明電極材料等を用いることができる。可視光波長(360nm~830nm)の範囲で透明な電極材料として、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide, IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide, ITO)、酸化スズ(SnO
2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In
2O
3)等の他、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide, IGZO)等の公知の透明電極材料を用いることができる。
【0045】
(下層電極21)
下層電極21は、上述の下部電極基板11Aの直上に配置される。下層電極21としては、公知の透明電極材料を用いることができる。可視光波長(360nm~830nm)の範囲で透明な電極材料として、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide, IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide, ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In2O3)等の他、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide, IGZO)等の公知の透明電極材料の他、グラフェンやカーボンナノチューブ等を用いることもできる。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により製膜される。厚さは、十分な導電性が得られるよう、20nm以上であることが好ましい。また、導電率の高い金属材料を、光が透過するように10nm未満の厚さの薄膜として用いることもできる。
【0046】
(絶縁層23)
絶縁層23は、上述の下層電極21の直上に配置される。絶縁層23を構成する材料としては、SiO2、MgO等の公知の絶縁材料を用いることができる。絶縁層23の厚さは、デバイスへの印加電圧の大きさに応じて、絶縁破壊しない厚さに設定される。例えば、下層電極21と後述する上層電極22との間の電位差が10V以上となる場合には、絶縁層23の厚さは、50nm以上であることが好ましい。
【0047】
また、絶縁層23の存在による液晶層50への印加電圧の減少を抑制するためには、高誘電率絶縁膜(High-k膜)を用いることが好ましい。具体的には、SiO2よりも大きな比誘電率を有する材料として、ケイ酸ハフニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化ハフニウム、ジルコニア等が好ましく用いられる。さらには、40以上の比誘電率を示すキュービック結晶相HfO2等がより好ましく用いられる。
【0048】
(上層電極22)
上層電極22は、上述の絶縁層23の直上に配置される。上層電極22としては、Alのような導電性の高い金属材料の他、透明電極材料等を用いることができる。可視光波長(360nm~830nm)の範囲で透明な電極材料として、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide, IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide, ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In2O3)等の他、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide, IGZO)等の公知の透明電極材料を用いることができる。
【0049】
上層電極22の厚さはできるだけ薄い方が好ましいが、少なくとも5nm~20nmの厚さがあることが好ましい。この上層電極22には、任意の形状の上層電極開口部Aが形成される。
図5~
図7に示される本実施形態に係る液晶画素1Aの一例では、1μm×2μmピッチの市松模様状に上層電極開口部Aが形成されている。この上層電極開口部Aは、フォトリソグラフィ、電子線リソグラフィ等の手段により上層電極22上に所望のレジストパターンを形成した後、イオンビームミリング法等の公知の技術によりエッチングし、その後レジストパターンを剥離する手順で形成される。
【0050】
なお、
図6及び
図7に示される本実施形態に係る液晶画素1Aの画素ピッチP、具体的にはx軸方向の画素ピッチPx及びy軸方向の画素ピッチPyの好ましい範囲は、第1実施形態と同様である。本実施形態では、好ましい画素ピッチP(Px、Py)となるように、上層電極開口部Aの寸法、配置が設定される。
【0051】
また、変形例として、エッチング後、レジストパターンを剥離する前に、上層電極22と同じ厚さの絶縁層を製膜し、上層電極開口部Aを埋め戻してもよい。この場合には、表面が平坦となるため、上層電極22上にSiO、SiO2、金属酸化物等の無機系材料の斜方蒸着膜からなる配向膜41を形成するときに均一な配向膜を形成することができるようになるため好ましい。また、他の変形例として、レジストパターン形成後、上層電極22だけでなく絶縁層23も連続でエッチングし、開口部の深さが下層電極21の表面まで到達するようにしてもよい。即ち、上層電極22と絶縁層3の両方を貫通する開口部を設けてもよい。
【0052】
次に、本実施形態に係る液晶画素1Aを、以下の構成で試作して検証実験を行った結果について説明する。
(構成)
下部電極基板11A:ガラス基板
下層電極21:IZO(厚さ20nm)
絶縁層23:SiO2(厚さ320nm、比誘電率4.0)
上層電極22:IZO(厚さ20nm)
上層電極開口部A:電子線リソグラフィで1μm×2μmピッチの市松模様状に形成
上層電極開口部Aの寸法:1.8μm×0.8μm
配向膜41,42:ポリイミド系材料
配向処理:ラビング法によるx軸配向(本実施形態)とy軸配向で、いずれもアンチパラレル配向(x軸配向ではx軸方向に対するプレチルト角が1.6°、y軸配向ではy軸方向に対するプレチルト角が1.6°)
液晶層50:SSFLC(厚さ1μm)
共通透明電極60:ITO(厚さ20nm)
上部透明基板70:ガラス基板
光源:ハロゲンランプ
偏光手段:入射側と出射側にそれぞれ直線偏光の偏光板を配置し、入射側と出射側の偏光板の角度を90°とするクロスニコル配置
【0053】
図5及び
図6に示されるように、2層構造電極20の上層電極22に-1Vの電圧(V
2)、下層電極21に+9Vの電圧(V
1)、共通透明電極60に0Vの電圧を印加して光変調動作させたときの電位分布シミュレーションを実施した。
図8は、
図7のA1-A1断面における電位分布シミュレーション結果を示す図である。
【0054】
図8に示されるように、液晶層50と2層構造電極20の界面の電位は、上層電極22上では-1V、上層電極開口部Aの中心では+2Vであった。即ち、上層電極開口部Aの直上における液晶層50において、正負の電位分布が認められた。従って、この電位分布シミュレーション結果から、本実施形態に係る2層構造電極20が下部電極として有効に機能することが確認された。
【0055】
また、試作した1μm×2μmピッチの二次元液晶デバイスに対して、上述と同条件の電圧を印加して市松模様を表示させたものについて、光学顕微鏡観察及び偏光顕微鏡観察を行った。
図9は、試作した第2実施形態に係る液晶画素1Aの2層構造電極20の光学顕微鏡像を示す図である。
図9に示されるように、上層電極22の部分が黒画素電極を構成し、上層電極開口部Aの部分が白画素電極を構成する。
【0056】
図10は、試作した第2実施形態に係る液晶画素1Aの偏光顕微鏡像を示す図である。
図10中の(a)が、x軸方向に配向処理した第2実施形態に係る液晶画素1Aの偏光顕微鏡像であり、
図10中の(b)が、y軸方向に配向処理した液晶画素の偏光顕微鏡像である。
図10中の(a)と(b)を比較すれば明らかであるように、上述した同一設計の電極を用いているにも関わらず、y軸方向に配向処理した液晶画素の方が、x軸方向に配向処理した液晶画素1Aよりも、白画素のx軸方向の幅が広がっていることが分かる。即ち、x軸方向に配向処理した本実施形態に係る液晶画素1Aの方が、画素間クロストークを抑制できていることが分かる。
【0057】
従って、この偏光顕微鏡観察結果から、本実施形態に係る液晶画素1Aによれば、1μm×2μmピッチの長方形画素を二次元配列し、その配向処理方向を1μmピッチ方向、即ち、画素の長辺と直交するx軸方向とすることで、画素間クロストークの影響が抑制された狭画素ピッチ二次元液晶画素を実現できることが確認された。
【0058】
[第3実施形態]
図11は、第3実施形態に係る液晶画素1Bの構成を示す図である。
図11中、下段は下部電極基板11及び液晶画素駆動用電極10の平面図であり、上段は液晶画素1Bの断面図である。ただし、
図11では、上部透明基板70、配向膜41,42は省略して示している。
図11では、2×2画素のみ示しているが、x方向、y方向は周期的境界条件としており、
図11に示すような電極配置が無限に続く条件設定となっている。
図11に示されるように第3実施形態に係る液晶画素1Bは、第1実施形態に係る液晶画素1と比較して、液晶層50Bを構成する液晶がSSFLCではなく、ネマティック液晶である点で相違し、それ以外の構成は第1実施形態に係る液晶画素1と同様の構成である。
【0059】
なお、
図11に示される一例では、画素ピッチを1μm×2μm、液晶画素駆動用電極10の寸法を0.8μm×1.8μmとしたものである。また、液晶画素駆動用電極10のうち対角に配置される電極にのみ+5Vを印加するとともに、共通透明電極60に0Vの電圧を印加することにより、光変調動作させる一例を示している。
【0060】
第3実施形態に係る液晶画素1Bでは、液晶層50Bを構成するネマティック液晶としては、一般的なネマティック液晶を用いることができる。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、液晶(ネマティック液晶)の無電界印加時における初期配向が、液晶画素1Bの長辺と直交する方向に設定される。これにより、本実施形態によれば、画素間クロストークの影響が抑制された狭画素ピッチ二次元液晶画素を実現可能となっている。
【0061】
本実施形態においても、第2実施形態と同様に、x軸方向に配向させた第3実施形態に係る液晶画素1Bとy軸方向に配向させた液晶画素を試作して光変調動作させたときの透過率分布、液晶分子方向及び電位分布シミュレーションを実施した。具体的には、液晶画素駆動用電極10のうち対角に配置される電極にのみ+5Vの電圧、共通透明電極60に0Vの電圧を印加して光変調動作させたときの、透過率分布、液晶分子方向及び電位分布シミュレーションを実施した。
【0062】
シミュレーションは、液晶の弾性連続体理論に基づいて、液晶層内の電位分布と液晶配向をシミュレーションした。シミュレーションソフトとしては、シンテック社製のシミュレーションソフト「LCD Master 3D」を用いた。液晶材料は「E7」とし、弾性定数K11、K22及びK33、比誘電率εp及びεsは、下記の通りとした。また、液晶配向処理は、水平配向であり、x軸配向とy軸配向でいずれもアンチパラレル配向(x軸配向ではx軸方向に対するプレチルト角が1.6°、y軸配向ではy軸方向に対するプレチルト角が1.6°)とした。
弾性定数K11:11.0pN
弾性定数K22:10.2pN
弾性定数K33:16.9pN
比誘電率εp:19.6
比誘電率εs:5.1
【0063】
図11に示されるシミュレーションモデルの設計寸法は、次の通りとした。
共通透明電極60、下部電極基板11、及び液晶画素駆動用電極10の透過率は、全て100%と仮定した。本シミュレーションは、液晶層の画素間クロストーク抑制効果を検証することが目的なので、電極や基板の透過率は無視した。従って、シミュレーション上は、電極の材料、厚さには意味がなく、それらは条件設定していない。ただし、電位分布シミュレーションに影響する項目として、下部電極基板(誘電体)の比誘電率は4.0とした。これは、一般的なシリコン基板を仮定した値である。
【0064】
実デバイスでは、下部電極基板11、液晶画素駆動用電極10、及び共通透明電極60の上に配向膜があるが、その厚さは100nm程度と液晶層厚に比べて相対的に薄いのと、実デバイスの配向膜の厚さ・表面状態等の情報を厳密にシミュレーションに取り入れることは困難なので、
図11のシミュレーションモデルには含んでいない。ただし、上述の通り、配向膜の機能として、液晶層の上下界面での液晶配向方向は規定している。また、透過率の定義は、光が入射する側の偏光子を通過した光の強度を100%の基準とし、その光が液晶層を通過して、出射側の検光子を通過した後の光強度(%)である。その値が、
図12~
図15に示されるTRANSMITTANCEである。
【0065】
図12は、x軸配向された第3実施形態に係る液晶画素1Bの面内における透過率分布と液晶分子方向のシミュレーション結果を示す図である。
図13は、y軸配向された液晶画素の面内における透過率分布と液晶分子方向のシミュレーション結果を示す図である。
図14は、x軸配向された第3実施形態に係る液晶画素1Bの断面における透過率分布と液晶分子方向及び電位分布のシミュレーション結果を示す図である。
図15は、y軸配向された液晶画素の断面における透過率分布と液晶分子方向及び電位分布のシミュレーション結果を示す図である。なお、
図12及び
図13における面内とは、xy平面内を意味する。また、
図14における断面とは、
図12のX1-X1断面を意味し、
図15における断面とは、
図13のY1-Y1断面を意味する。
【0066】
図12及び
図13中、細く短い複数の線は、その近傍でのネマティック液晶分子の平均的な配向方向を表している。
図12では、横方向のx軸方向にネマティック液晶分子が配向していることが分かる。
図13では、縦方向のy軸方向にネマティック液晶分子が配向していることが分かる。これらの図に示されるように、+5Vの電圧が印加される対角の液晶画素駆動用電極10の直上におけるネマティック液晶は黒画素を構成し、電圧が印加されない対角の液晶画素駆動用電極10の直上におけるネマティック液晶は白画素を構成する。
【0067】
図12及び
図13から明らかであるように、白画素内で、ネマティック液晶分子の配向処理方向と垂直な方向にある隣接画素との境界部では、隣接画素電極間で面内方向に生じる漏れ電界の影響により、ネマティック液晶分子の面内回転が起こり、黒化していることが分かる。具体的には、
図13に示されるようにy軸配向の場合には、x軸方向にある隣接画素との境界部で45°又は135°のネマティック液晶分子の面内回転が起こり、黒化している。また、
図12に示されるようにx軸配向の場合には、y軸方向にある隣接画素との境界部でネマティック液晶分子の面内回転が起こり、黒化している。
【0068】
このように、x軸配向にすると、ネマティック液晶分子の面内回転が起こるのは、画素電極の短辺沿いとなる。これに対して、y軸配向にすると、ネマティック液晶分子の面内回転が起こるのは、画素電極の長辺沿いとなる。従って、ネマティック液晶分子の面内回転が画素の短辺沿いに起きるx軸配向の方が、画素間クロストークで黒になる面積が小さくなるため、優れていることが分かる。
【0069】
以上の結果から、ネマティック液晶を用いた第3実施形態に係る液晶画素1Bにおいても、ネマティック液晶の無電界印加時における初期配向を液晶画素1Bの長辺と直交する方向とすることにより、画素間クロストークを抑制できることが確認された。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B 液晶画素
10 液晶画素駆動用電極
11,11A 下部電極基板
20 2層構造電極
21 下層電極
22 上層電極
23 絶縁層
41,42 配向膜
50,50B 液晶層
51 FLC分子
52 電気双極子モーメント
53 FLC分子運動軌道
60 共通透明電極
70 上部透明基板
A 上層電極開口部
C FLC分子運動軌道の中心軸
P 画素ピッチ
Px x軸方向画素ピッチ
Py y軸方向画素ピッチ