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特開2022-141171炭化ケイ素を備える複合体とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141171
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】炭化ケイ素を備える複合体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041360
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】松前 貴司
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 仁
(72)【発明者】
【氏名】倉島 優一
(72)【発明者】
【氏名】日暮 栄治
(57)【要約】
【課題】接合基材間の効率的な熱伝導および電気伝導が期待できる炭化ケイ素複合体を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素複合体は、ケイ素の酸化物層SiOが表面に形成された炭化ケイ素を備える第一基材と、空気中で酸化物が形成される金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く)、Si、Ge、As、Se、Sb、およびダイヤモンド中のCの一種以上である元素Mの酸化物層MOを表面に備え、SiO側にMO側が面するように第一基材と接合している第二基材とを有し、炭化ケイ素の一部以上のCがC-O-M結合することによって、および/または炭化ケイ素の一部以上のSiがSi-O-M結合することによって、第二基材が第一基材に接合している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材と、
を有し、
前記第一基材の前記上面の炭化ケイ素の一部以上のCと、前記第二基材の前記下面のMの一部以上が、C-O-M結合することによって、前記第一基材の前記上面と前記第二基材の前記下面が接合している炭化ケイ素複合体。
【請求項2】
上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材と、
を有し、
前記第一基材の前記上面の炭化ケイ素の一部以上のSiと、前記第二基材の前記下面のMの一部以上が、Si-O-M結合することによって、前記第一基材の前記上面と前記第二基材の前記下面が接合している炭化ケイ素複合体。
【請求項3】
上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、
炭化ケイ素の酸化物から構成され、厚さが2.6nm以下である中間層と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材と、
を有し、
前記中間層を介して、前記第一基材の前記上面と前記第二基材の前記下面が接合している炭化ケイ素複合体。
【請求項4】
請求項3において、
中間層の厚さが1.3nm以下である炭化ケイ素複合体。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記中間層の厚さが0.6nm以上である炭化ケイ素複合体。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかにおいて、
前記第一基材の前記上面の炭化ケイ素が多結晶炭化ケイ素である炭化ケイ素複合体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかにおいて、
前記第一基材と前記第二基材の間のせん断強度が0.1MPa以上である炭化ケイ素複合体。
【請求項8】
表面に酸化物が形成された炭化ケイ素を上面の少なくとも一部に備える一方の基材の前記酸化物を還元処理して、前記上面にOHを導入するヒドロキシ化工程と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mのヒドロキシ化物M-OHを下面の少なくとも一部に備える他方の基材の前記下面と、前記ヒドロキシ化工程でOHが導入された前記上面とを接触させた状態で、この接触部に脱水化エネルギーを与えて脱水反応させ、前記一方の基材と前記他方の基材を接合する接合工程と、
を有する炭化ケイ素複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記還元処理がHFでの処理である炭化ケイ素複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、炭化ケイ素を備える基材を含む複数の基材が接合された複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの放熱用または絶縁用の基板として炭化ケイ素基板が用いられている。炭化ケイ素基板は、他の炭化ケイ素基板またはシリコン基板などの他の基板と接合されて用いられることも多い。酸化処理を用いて、大気中でシリコン基板と炭化ケイ素基板を比較的低温で接合する方法が知られている(非特許文献1)。この方法では、酸素プラズマ処理などの酸化処理によって、シリコン基板の表面酸化層と炭化ケイ素基板の表面酸化層をOH修飾し、OH修飾された面同士を重ね合わせ、200℃程度に加熱して脱水反応を生じさせ、シリコン基板と炭化ケイ素基板を接合する。
【0003】
この方法によれば、特別な接合荷重を付与せずに、大気中でシリコン基板と炭化ケイ素基板が接合できる。また、接合温度が200℃程度と比較的低温なので、炭化ケイ素基板と、炭化ケイ素の熱膨張率と近い熱膨張率を有する異種基板が直接接合できる。しかしながら、この方法で得られたシリコン-炭化ケイ素接合基板の接合界面には、厚さ4nm~9nm程度のシリコン酸化物層が存在する。このシリコン酸化物層は、接合基板間の熱伝導率および電気伝導率の低下を招く。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Xu, J., Wang, C., Li, D., Cheng, J., Wang, Y., Hang, C., & Tian, Y.、Fabrication of SiC/Si, SiC/SiO2, and SiC/glass heterostructures via VUV/O3 activated direct bonding at low temperature、Ceramics International、2019、45(3)、p.4094-4098
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の課題は、接合基材間の効率的な熱伝導および電気伝導が期待できる複合体と、この複合体が簡易に製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願のある態様の炭化ケイ素複合体は、上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材とを有し、第一基材の上面の炭化ケイ素の一部以上のCと、第二基材の下面のMの一部以上が、C-O-M結合することによって、第一基材の上面と第二基材の下面が接合している。
【0007】
本願の他の態様の炭化ケイ素複合体は、上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材とを有し、第一基材の上面の炭化ケイ素の一部以上のSiと、第二基材の下面のMの一部以上が、Si-O-M結合することによって、第一基材の上面と第二基材の下面が接合している。
【0008】
本願の他の態様の炭化ケイ素複合体は、上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備える第一基材と、炭化ケイ素の酸化物から構成され、厚さが2.6nm以下である中間層と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mを下面の少なくとも一部に備える第二基材とを有し、中間層を介して、第一基材の上面と第二基材の下面が接合している。
【0009】
本願の炭化ケイ素複合体の製造方法は、表面に酸化物が形成された炭化ケイ素を上面の少なくとも一部に備える一方の基材の酸化物を還元処理して、上面にOHを導入するヒドロキシ化工程と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である元素Mのヒドロキシ化物M-OHを下面の少なくとも一部に備える他方の基材の下面と、ヒドロキシ化工程でOHが導入された上面とを接触させた状態で、この接触部に脱水化エネルギーを与えて脱水反応させ、一方の基材と他方の基材を接合する接合工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本願の炭化ケイ素複合体によれば、接合基材間の効率的な熱伝導および電気伝導が期待できる。また、本願の炭化ケイ素複合体の製造方法によれば、接合基材間の効率的な熱伝導および電気伝導が期待できる炭化ケイ素複合体が簡易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の炭化ケイ素複合体の製造工程を示す概念図。
図2】実施例1で得られた炭化ケイ素複合体の平面画像。
図3】実施例2の炭化ケイ素複合体の製造工程を示す概念図。
図4】実施例2で得られた炭化ケイ素複合体の平面画像。
図5】実施例2で得られた炭化ケイ素複合体の中央部をダイシングソーによって切断したときの上方からの平面画像。
図6】実施例3の炭化ケイ素複合体の製造工程を示す概念図。
図7】実施例3で得られた炭化ケイ素複合体の平面画像。
図8】実施例4の炭化ケイ素複合体の製造工程を示す概念図。
図9】実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の平面画像。
図10】実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の界面の透過型電子顕微鏡像。
図11】実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の界面のエネルギー分散型X線分光スペクトル。
図12】実施例5の炭化ケイ素複合体の製造工程を示す概念図。
図13】実施例5で得られた炭化ケイ素複合体の斜め上方からの画像。
図14】実施例5で得られた炭化ケイ素複合体の界面の超音波顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願の第一実施形態の炭化ケイ素複合体は、第一基材と第二基材を備えている。第一基材および第二基材としては、例えば、薄い平板形状を備える基板、および基板よりは厚い形状を備える固形物が挙げられる。第一基材は、上面の少なくとも一部に炭化ケイ素を備えている。本願における「上面」は、鉛直方向における上側の表面とは限らない。すなわち、任意の回転軸で基材を適宜回転した結果、鉛直方向における上側となり得る基材の表面が、本願における基材の「上面」である。したがって、第一基材の上面は、第二基材と接合する面を示しているに過ぎない。
【0013】
第一基材は、炭化ケイ素から構成されていてもよいし、上面の少なくとも一部が炭化ケイ素であれば、炭化ケイ素以外の物質が含まれていてもよい。また、第一基材の上面の炭化ケイ素は、自然酸化膜などの表面酸化膜の少なくとも一部が除去された炭化ケイ素であってもよい。第一基材の上面の炭化ケイ素は、単結晶炭化ケイ素であってもよいし、多結晶炭化ケイ素であってもよい。実施例で後述するように、第一基材の上面が多結晶炭化ケイ素の場合でも、炭化ケイ素複合体が作製できた。多結晶炭化ケイ素を利用することで、炭化ケイ素複合体のコストダウンが図れる。
【0014】
第二基材は、所定の元素Mを下面の少なくとも一部に備えている。本願における「下面」は、鉛直方向における下側の表面とは限らない。すなわち、任意の回転軸で基材を適宜回転した結果、鉛直方向における下側となり得る基材の表面が、本願における基材の「下面」である。したがって、第二基材の下面は、第一基材と接合する面を示しているに過ぎない。
【0015】
所定の元素Mとは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である。アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素とは、Al、原子番号21のScから原子番号31のGaまで、原子番号39のYから原子番号50のSnまで、および原子番号57のLaから原子番号82のPbまでである。
【0016】
第二基材は、ダイヤモンドから構成されていてもよいし、下面の少なくとも一部がダイヤモンドであれば、ダイヤモンド以外の物質が含まれていてもよい。また、第二基材は、炭化ケイ素から構成されていてもよいし、下面の少なくとも一部が炭化ケイ素であれば、炭化ケイ素以外の物質が含まれていてもよい。第二基材の下面の炭化ケイ素は、熱酸化膜または自然酸化膜などの表面酸化膜の少なくとも一部が除去された炭化ケイ素であってもよい。
【0017】
さらに、第二基材は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、ならびにSbの一種以上の元素から構成されていてもよいし、これらの元素を含む化合物から構成されていてもよいし、下面の少なくとも一部がこれらの元素またはこれらの元素を含む化合物であれば、他の物質が含まれていてもよい。なお、第二基材の下面がこれらの元素の化合物であっても、下面の一部にはこれらの元素自体が存在する。したがって、第二基材の下面がこれらの元素の化合物である場合は、“下面の少なくとも一部にこれらの元素を備える第二基材”に該当する。
【0018】
また、下面の熱酸化膜または自然酸化膜などの表面酸化膜の少なくとも一部を除去して、“下面の少なくとも一部にこれらの元素を備える第二基材”としてもよい。第二基材としては、ダイヤモンド基材、Si基材、SiC基材、SiN基材、Ge基材、GaAs基材、GaN基材、InP基材、Cu基材、Al基材、AlN基材、Ti基材、TiN基材、SiO基材、Ga基材、Al基材、CuO基材、ZnO基材、TiO基材、YAl12基材、LiNbO基材、LiTaO基材、およびCHNHPbI基材などが例示できる。
【0019】
第一実施形態の炭化ケイ素複合体では、第一基材の上面の炭化ケイ素の一部以上のCと、第二基材の下面のMの一部以上が、C-O-M結合することによって、第一基材の上面と第二基材の下面が接合している。これに代えて、またはこれと併せて、第一基材の上面の炭化ケイ素の一部以上のSiと、第二基材の下面のMの一部以上が、Si-O-M結合することによって、第一基材の上面と第二基材の下面が接合していてもよい。C-O-M結合およびSi-O-M結合が形成されていることは、例えばFT-IRによって確認できる。
【0020】
C-O-M結合とSi-O-M結合のどちらになるかは、第一基材の上面の炭化ケイ素の表面の結晶面に依存する。例えば、炭化ケイ素の表面が(000-1)面のときはC-O-M結合となり、炭化ケイ素の表面が(0001)面のときはSi-O-M結合となる。第一基材の上面の炭化ケイ素が多結晶構造のときは、C-O-M結合とSi-O-M結合の双方となる。C-O-M結合および/またはSi-O-M結合によって、第二基材が第一基材と強固に接合されるので、第一実施形態の炭化ケイ素複合体は、基材間で効率的に熱伝導および電気伝導が行われる。
【0021】
本願の第二実施形態の炭化ケイ素複合体は、第一基材と、中間層と、第二基材を備えている。第二実施形態の炭化ケイ素複合体の第一基材および第二基材は、第一実施形態の炭化ケイ素複合体の第一基材および第二基材と同じなので、説明を省略する。中間層は炭化ケイ素の酸化物から構成されている。炭化ケイ素の酸化物は、Si、C、およびOから構成され、C-Si-O結合またはSi-C-O結合を備える物質である。第二実施形態の炭化ケイ素複合体では、中間層を介して、第一基材の上面と第二基材の下面が接合している。
【0022】
すなわち、中間層は、第一基材と第二基材を接合する介在層として機能する。中間層の厚さは2.6nm以下である。中間層の厚さが2.6nm以下であるため、シリコン基板と炭化ケイ素基板の間に厚さ4nm~9nm程度のシリコン酸化物層が介在する非特許文献1のシリコン-炭化ケイ素接合基板と比べて、第二実施形態の炭化ケイ素複合体は、基材間の熱伝導性および電気伝導性に優れている。
【0023】
また、炭化ケイ素の表面に形成される自然酸化膜の厚さは約1.3nmで、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、ならびにSbの表面に形成される自然酸化膜の厚さも約1.3nmである。このため、例えば、炭化ケイ素基材とシリコン基材の自然酸化膜が形成された面同士を密着させた積層体と比べて、第一基材が炭化ケイ素基材、第二基材がシリコン基材、中間層の厚さが2.6nm以下である第二実施形態の炭化ケイ素複合体は、基材間の熱伝導性および電気伝導性が同等かそれ以上となる。
【0024】
さらに、一方の基材表面のみに自然酸化膜が形成された二つの基材、例えばGa基材と表面に自然酸化膜が形成された炭化ケイ素基材を、この自然酸化膜を挟んで密着させた積層体と比べて、第一基材が炭化ケイ素基材、第二基材がGa基材、中間層の厚さが1.3nm以下である第二実施形態の炭化ケイ素複合体は、基材間の熱伝導性および電気伝導性が同等かそれ以上となる。
【0025】
したがって、中間層の厚さは1.3nm以下であることが好ましい。なお、基材間の熱伝導性および電気伝導性の低下を抑えるためには、中間層は薄ければ薄いほど好ましい。また、各実施形態の炭化ケイ素複合体では、第一基材と第二基材が剥離せずに利用できるように、第一基材と第二基材の間のせん断強度が0.1MPa以上であることが好ましい。せん断強度はダイシェアテスト(JEITA ED-4703)によって測定する。
【0026】
本願の実施形態の炭化ケイ素複合体の製造方法は、ヒドロキシ化工程と、接合工程を備えている。ヒドロキシ化工程では、一方の基材の酸化物を還元処理して、上面にOHを導入する。この一方の基材は、この酸化物が表面に形成された炭化ケイ素を、上面の少なくとも一部に備えている。この酸化物は、炭化ケイ素の自然酸化物であってもよい。なお、炭化ケイ素の酸化物は、Si、C、およびOから構成され、C-Si-O結合またはSi-C-O結合を備える物質である。この還元処理によって、例えば、C-Si-Oおよび/またはSi-C-Oが、それぞれC-Si-OHおよび/またはSi-C-OHとなる。還元処理としてはHFでの処理が挙げられる。
【0027】
接合工程では、所定の元素Mのヒドロキシ化物M-OHを下面の少なくとも一部に備える他方の基材の下面と、ヒドロキシ化工程でOHが導入された一方の基材の上面とを接触させた状態で、この接触部に脱水化エネルギーを与えて脱水反応させ、一方の基材と他方の基材を接合して炭化ケイ素複合体を得る。なお、所定の元素Mは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属元素、Si、Ge、As、Se、Sb、ダイヤモンド中のC、ならびに炭化ケイ素中のCの一種以上である。
【0028】
他方の基材に存在するMにOHを導入して、下面の少なくとも一部にM-OHを形成する方法としては、例えば、NHとHの混合液、HSOとHの混合液、もしくはHF液で、または酸素プラズマを照射することによって、他方の基材の下面を処理する還元処理または酸化処理が挙げられる。接合工程では、他方の基材の下面と一方の基材の上面の接触が大気中で行える。このため、炭化ケイ素複合体が簡易に製造できる。
【0029】
脱水化エネルギーとしては、熱エネルギー、光エネルギー、電気エネルギー、または化学エネルギーなどが挙げられる。本実施形態では、温度約200℃で、一方の基材と他方の基材の接触部を加熱する。この脱水反応によって、C-O-M結合および/またはSi-O-M結合が形成されて、一方の基材と他方の基材が接合される。この接合部分は十分なせん断強度がある。
【実施例0030】
(実施例1)
図1は、実施例1の炭化ケイ素複合体の製造工程を概念的に示している。直径100mm、厚さ0.4mmで表面が(100)面の円板状のSi基板(松崎製作所社、T4APX)(第二基材の原料)を5mm角に切断した。切断して得られたSi基板の凹凸がある切断端部から中心に向かって1mmの領域を、深さ100μm程度となるように、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて化学的にエッチング除去した。28%アンモニア水10mL、35%過酸化水素水10mL、および純水50mLの常温の混合液に、このSi基板を10分間浸漬した。その後、純水によりこのSi基板を5分間リンスした。このSi基板の表面にOHが導入され、Si-OHが形成された。
【0031】
一方、49%フッ化水素酸50mLと純水150mLの常温の混合液に、直径75mm、厚さ0.350mmで表面が(0001)面の円板状のSiC基板(クリー社、W4NRE4C-V200)(第一基材の原料)を5分間浸漬した。その後、純水によりこのSiC基板を5分間リンスした。その結果、このSiC基板の表面酸化膜が除去されるとともに表面にOHが導入され、Si-OHが形成された。上記で得られたSi基板のSi-OH側の表面とSiC基板のSi-OH側の表面を大気中で接触させ、密閉容器内で乾燥剤とともに3日間保管した。その後、温度200℃で5時間加熱して脱水反応させた。Si-O-Si結合することでSiC基板とSi基板が接合している炭化ケイ素複合体が得られた。
【0032】
図2は、実施例1で得られた炭化ケイ素複合体の上方からの、すなわち透明なSiC基板を透してSi基板を観察したときの平面画像である。Si基板の端部から中心に向かって1mmの領域は、化学的に除去されているため、SiC基板と接合していない。これに対して、Si基板の中央部3mm角の領域には、非接合部に由来するニュートンリングが観察されておらず、良好に接合できていることがわかった。図2の左側のSi基板には6.6MPa、図2の右側のSi基板には5.1MPaのせん断応力をそれぞれ付加したとき、両者ともSi基板内およびSiC基板との接合界面から剥離した。このように、第一基材と第二基材の間のせん断強度が5MPa以上である炭化ケイ素複合体が得られた。
【0033】
(実施例2)
図3は、実施例2の炭化ケイ素複合体の製造工程を概念的に示している。直径100mm、厚さ0.350mmで表面が(000-1)面の円板状のSiC基板(ツーシックス社)(第一基材および第二基材の原料)を縦10mm、横11mmの長方形板状に切断した。49%フッ化水素酸50mLと純水150mLの常温の混合液に、このSiC基板を5分間浸漬した。その後、純水によりこのSiC基板を5分間リンスした。その結果、このSiC基板の表面酸化膜が除去されるとともに表面にOHが導入され、C-OHが形成された。得られた2枚のSiC基板のC-OH側の表面同士を大気中で接触させ、密閉容器内で乾燥剤とともに3日間保管した。その後、温度200℃で5時間加熱して脱水反応させた。C-O-C結合することでSiC基板とSiC基板が接合している、すなわち2枚のSiC基板が重なって接合されている炭化ケイ素複合体が得られた。
【0034】
図4は、実施例2で得られた炭化ケイ素複合体の上方からの平面画像である。図4に示すように、実施例2の炭化ケイ素複合体の上側のSiC基板の右上が欠けており、この欠落部のすぐ左下付近は明るい。SiC基板の切断に由来する凹凸により、2枚のSiC基板が接合できなかったためだと考えられる。これに対して、炭化ケイ素複合体の中央は比較的暗かった。炭化ケイ素複合体の中央部は、2枚のSiC基板が接合されていると考えられる。ダイシングソーによって中央部を切断した炭化ケイ素複合体の上方からの平面画像を図5に示す。図5に示すように、切断プロセスを経ても、炭化ケイ素複合体の2枚のSiC基板は剥離しなかった。
【0035】
(実施例3)
図6は、実施例3の炭化ケイ素複合体の製造工程を概念的に示している。縦23mm、横25mm、厚さ0.4mmの長方形板状の単結晶β-Ga基板(ノベルクリスタル社、T010FE2525)(第二基材の原料)の表面を、圧力60Pa、出力200Wの高純度酸素プラズマで1分間処理した。その結果、表面にGa-OHが形成されたβ-Ga基板が得られた。
【0036】
一方、縦28mm、横30mmの長方形板状に切断した点を除いて、実施例2と同様にして表面にC-OHが形成されたSiC基板を作製した。上記で得られたβ-Ga基板のGa-OH側の表面とSiC基板のC-OH側の表面を大気中で接触させ、密閉容器内で乾燥剤とともに3日間保管した。その後、温度200℃で12時間加熱して脱水反応させた。C-O-Ga結合することでSiC基板とβ-Ga基板が接合している炭化ケイ素複合体が得られた。
【0037】
図7は、実施例3で得られた炭化ケイ素複合体の上方からの、すなわち透明なβ-Ga基板を透してSiC基板を観察したときの平面画像である。図7に示すように、観察されたニュートンリングより、β-Ga基板の端部から中心に向かって2mm程度の領域では、β-Ga基板とSiC基板が接合していなかった。β-Ga基板のこの領域は、表面が凸形状であり、SiC基板と密着できなかったからだと考えられる。また、β-Ga基板の中央下部では、β-Ga基板とSiC基板の間に異物が挟まったため接合できなかった。一方、ニュートンリングが見られない領域では、β-Ga基板とSiC基板が接合していた。
【0038】
(実施例4)
図8は、実施例4の炭化ケイ素複合体の製造工程を概念的に示している。単結晶β-Ga基板(ノベルクリスタル社、NvD-1906-029)から劈開法にて作製した縦20mm、横15mm、厚さ1mmの長方形板状のβ-Ga薄板(第二基材の原料)の表面を、圧力60Pa、出力200Wの高純度酸素プラズマで1分間処理した。その結果、表面にGa-OHが形成されたβ-Ga薄板が得られた。
【0039】
一方、実施例3と同様にして表面にC-OHが形成されたSiC基板を作製した。上記で得られたβ-Ga薄板のGa-OH側の表面とSiC基板のC-OH側の表面を大気中で接触させ、密閉容器内で乾燥剤とともに3日間保管した。その後、温度250℃で24時間加熱して脱水反応させた。C-O-Ga結合することでSiC基板とβ-Ga薄板が接合している炭化ケイ素複合体が得られた。
【0040】
図9は、実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の上方からの、すなわち透明なβ-Ga薄板を透してSiC基板を観察したときの平面画像である。β-Ga薄板とSiC基板が接合できなかった領域は、β-Ga薄板とSiC基板の界面に存在する白い気泡が観察された。これらの白い気泡は、β-Ga薄板の表面汚染または結晶の劈開によるものと考えられる。一方、気泡が観察されなかった領域では、β-Ga薄板とSiC基板が接合していた。
【0041】
実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の界面の透過型電子顕微鏡像を図10に示す。β-Ga薄板とSiC基板の接合界面に0.6nm程度の中間層が観察された。非特許文献1のシリコン-炭化ケイ素接合基板では、表面が酸化処理されたシリコン基板および炭化ケイ素基板の間に、S、O、およびCから構成され、厚さ4nm~9nm程度のアモルファス層が観察されていた。しかしながら、本実施例のように、炭化ケイ素の表面に形成された酸化物を還元処理することによって、基材の接合界面の中間層の厚さを、炭化ケイ素の表面酸化膜の厚さの0.6nm~1.3nm程度に抑えることができた。このため、本願の炭化ケイ素複合体は、接合界面を介した効果的な熱伝導および電気伝導が期待できる。
【0042】
なお、基材の接合界面の中間層の厚さは、Si-O-SiおよびSi-O-CなどのSi-O-Mの結合長の0.3nmまで小さくできると考えられる。実施例4で得られた炭化ケイ素複合体の界面のエネルギー分散型X線分光スペクトルを図11に示す。この炭化ケイ素複合体の接合界面からは、β-Ga薄板由来のGaとO、およびSiC基板由来のSiとCが主に検出された。また、微量のClが検出された。これは、炭化ケイ素複合体の表面の汚染に由来すると考えられる。
【0043】
(実施例5)
図12は、実施例5の炭化ケイ素複合体の製造工程を概念的に示している。実施例1で用いた円板状のSi基板(第二基材の原料)の表面を、圧力60Pa、出力200Wの高純度酸素プラズマで1分間処理した。その結果、表面にSi-OHが形成されたSi基板が得られた。一方、49%フッ化水素酸50mLと純水150mLの常温の混合液に、直径100mm、厚さ0.7mmの円板状の多結晶SiC基板(東海ファインカーボン社)(第一基材の原料)を5分間浸漬した。その後、純水によりこの多結晶SiC基板を5分間リンスした。その結果、この多結晶SiC基板の表面にOHが導入されて、C-OHおよびSi-OHが形成された。
【0044】
上記で得られたSi基板のSi-OH側の表面と多結晶SiC基板のC-OHおよびSi-OH側の表面を大気中で接触させ、密閉容器内で乾燥剤とともに3日間保管した。その後、温度200℃で5時間加熱して脱水反応させた。C-O-Si結合およびSi-O-Si結合することで、多結晶SiC基板とSi基板が接合している炭化ケイ素複合体が得られた。図13は、実施例5で得られた炭化ケイ素複合体の斜め上方からの画像である。図13に示すように、この炭化ケイ素複合体では、多結晶SiC基板とSi基板が接合されていることが確認できた。図14は、実施例5で得られた炭化ケイ素複合体の超音波顕微鏡像である。接合できなかった部位が明るく見える。図14に示すように、この炭化ケイ素複合体では、表面付着物により接合できなかった箇所が見られたが、全体の95%程度が接合されていることが確認できた。
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