(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141197
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】アンモニウムイオンの吸着材料及び培養液の再生方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/18 20060101AFI20220921BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220921BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20220921BHJP
C01B 39/32 20060101ALI20220921BHJP
C01B 39/44 20060101ALI20220921BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/30
B01D15/00 P
C01B39/32
C01B39/44
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041407
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】391066490
【氏名又は名称】日本ゼトック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【弁理士】
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】中山 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 みずき
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 多加子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛一
【テーマコード(参考)】
4B065
4D017
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4B065BB40
4B065BD50
4B065CA44
4D017AA01
4D017BA11
4D017CA05
4D017CA17
4D017CB01
4D017DA01
4D017DA07
4D017EA01
4D017EA03
4D017EA05
4G066AA35D
4G066AA62B
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA36
4G066CA11
4G066CA29
4G066DA07
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA22
4G066FA37
4G073BA04
4G073BA05
4G073CZ10
4G073CZ15
4G073CZ50
4G073GA01
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】培養液中の金属イオン組成への影響を大幅に低減し、細胞への悪影響を排除しつつ、細胞の培養液中のアンモニウムイオンを除去して再生することができるアンモニウムイオンの吸着材料を提供する。
【解決手段】Naイオン及びKイオンを担持するアンモニウムイオンの吸着材料であって、前記吸着材料が担持するNaイオンとKイオンのmol比(K/Na値)が0以上50以下の範囲である、アンモニウムイオンの吸着材料。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Naイオン及びKイオンを担持するアンモニウムイオンの吸着材料であって、前記吸着材料が担持するNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)が0を超え、かつ50以下の範囲である、アンモニウムイオンの吸着材料。
【請求項2】
Si原子とAl原子とを、1以上100以下の範囲のmol比(Si/Al値)で含有する、請求項1に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
【請求項3】
前記アンモニウムイオンの吸着材料がゼオライトである、請求項1又は2に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
【請求項4】
前記ゼオライトが、FER型ゼオライト又はLTL型ゼオライトである、請求項3に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
【請求項5】
吸着材料前駆体を準備する工程と、
Kイオン及び/又はNaイオンを含む無機イオン水溶液と、前記吸着材料前駆体とを接触させることにより、前記吸着材料前駆体が担持するNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)を、0を超え、かつ50以下の範囲に調整する工程と、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料と、アンモニウムイオンを含有する溶液とを接触させることにより、前記アンモニウムイオンを吸着することを含む、アンモニウムイオンの吸着方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料と、アンモニウムイオンを含有する培養液とを接触させることにより、前記培養液を処理することを含む、培養液の再生方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料を備える、アンモニウムイオンの除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニウムイオンの吸着材料及び培養液の再生方法に関する。より具体的には、担持する金属イオン組成が所定の範囲内となるように調整されたアンモニウムイオンの吸着材料と、当該アンモニウムイオンの吸着材料を用いたアンモニウムイオンを含有する培養液の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に医薬品や再生医療等の分野において、細胞を用いた医薬品の製造効率の向、再生医療の材料となる全能性幹細胞や多能性幹細胞等の安定的供給を目的とした、各種細胞の効率的で安価な培養方法の確立が望まれている。
細胞を培養する過程において、細胞による代謝や培養液中の不安定な栄養物質の化学分解により、細胞の増殖効率に不利な老廃物が培養液中に増加することが知られている。細胞の増殖効率に不利な物質としては、L-グルタミンの分解等により培養液中で発生するアンモニア及びアンモニウムイオン(NH4
+)が知られており、培養環境中のアンモニウムイオンを除去するため、従来は培養液の一部または全部を、短期間のうちに交換するといった対策が施されてきた。しかしながら、高額な培養液を短期スパンで交換しなければならないことは、細胞を用いた医薬品の製造や再生医療における高額なコストを決定づける大きな要因となっている。
原理的には、アンモニウムイオン等の老廃物を除去し、消費された栄養成分を補給することで、培養液の再利用、即ち生産コストの削減が可能となる。このような課題に鑑みて、従来、陽イオン吸着材料を用いて培養液中のアンモニウムイオンを吸着して除去する方法が用いられてきた。しかし、細胞培養用途の培養液中には、細胞増殖に悪影響を及ぼしうるアンモニウムイオン濃度に対して、ナトリウムイオンやカリウムイオン等の金属イオンが大過剰に配合されているため、これらの陽イオンがアンモニウムイオンよりも優先的に吸着される場合がある。また、培養液に対して比較的低濃度に添加されるカルシウムイオンやマグネシウムイオンについても、陽イオン吸着材料に対して、アンモニウムイオンよりも優先的に吸着される可能性を考慮する必要がある。さらに、陽イオン吸着材料として使用されるゼオライトはイオン交換作用により培養液中の陽イオンを吸着するため、代償としてゼオライトが担持する陽イオンが培養液中に放出される。
【0003】
そのため、従来の陽イオン吸着材料で処理した場合、アンモニウムイオンと同時に、本来細胞培養に必須である金属イオンがより優先的に吸着・イオン交換に供され、また陽イオン交換により溶出する金属イオンによって、培養液中の金属イオン組成が大幅に改変されてしまう。培養液の金属イオン組成は、細胞の生存の維持に最適化されており、陽イオン吸着材料の使用等によりその組成、特にナトリウムイオンとカリウムイオンのバランスが変化すると、細胞の増殖効率が低下することが知られている。このように、使用済み培養液中のアンモニウムイオンの選択的吸着及び使用済み培養液の再生には技術的課題が山積しており、これまでに様々な解決策が提案されてきたにも関わらず、産業実装には至っていないのが現状である。
特許文献1においては、使用済み培養液をカリウム担持型ゼオライト、水素担持型ゼオライト、あるいは強酸性イオン交換樹脂等で処理することで、培養液中のアンモニウムイオンを除去する方法が示されている。しかしながら、当該ゼオライトやイオン交換樹脂での培養液処理は、先述の通り培養液中のイオン組成に影響が出るという課題が存在する。このように、培養液の再生のためには、効率的なアンモニウムイオンの除去のみならず、培養液中の金属イオン組成への影響を最小限に留めることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一つの課題は、アンモニウムイオンを含む溶液から、アンモニウムイオンを高選択的に吸着可能なアンモニウムイオンの吸着材料を提供することであり得る。本発明の別の一つの課題は、培養液中の金属イオン組成への影響を大幅に低減し、細胞への悪影響を排除しつつ、細胞の培養液中のアンモニウムイオンを除去して再生することができるアンモニウムイオンの吸着材料を提供することであり得る。
本発明の別の一つの課題は、溶液からのアンモニウムイオンの高効率な吸着方法を提供することであり得る。本発明の別の一つの課題は、培養液からのアンモニウムイオンの高効率で除去し、細胞培養液を再生する方法を提供することであり得る。
本発明の別の一つの課題は、培養液などの溶液からアンモニウムイオンを高効率で除去可能な除去装置を提供することであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、NaイオンとKイオンとを、所定の範囲のmol比(K/Na値)で担持するアンモニウムイオンの吸着材料が、培養液中の金属イオン組成への影響を大幅に低減し、細胞への悪影響を排除しつつ、培養液中のアンモニウムイオンを吸着除去可能であることを発見し、本発明に至った。
【0007】
具体的には、本発明は以下の態様であり得る。
〔1〕Naイオン及びKイオンを担持するアンモニウムイオンの吸着材料であって、前記吸着材料が担持するNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)が0を超え、かつ50以下の範囲である、アンモニウムイオンの吸着材料。
〔2〕Si原子とAl原子とを、1以上100以下の範囲のmol比(Si/Al値)で含有する、前記〔1〕に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
〔3〕前記アンモニウムイオンの吸着材料がゼオライトである、前記〔1〕又は〔2〕に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
〔4〕前記ゼオライトが、FER型ゼオライト又はLTL型ゼオライトである、前記〔3〕に記載のアンモニウムイオンの吸着材料。
〔5〕吸着材料前駆体を準備する工程と、
Kイオン及び/又はNaイオンを含む無機イオン水溶液と、前記吸着材料前駆体とを接触させることにより、前記吸着材料前駆体が担持するNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)を、0を超え、かつ50以下の範囲に調整する工程と、
を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料の製造方法。
〔6〕前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料と、アンモニウムイオンを含有する溶液とを接触させることにより、前記アンモニウムイオンを吸着することを含む、アンモニウムイオンの吸着方法。
〔7〕前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料と、アンモニウムイオンを含有する培養液とを接触させることにより、前記培養液を処理することを含む、培養液の再生方法。
〔8〕前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のアンモニウムイオンの吸着材料を備える、アンモニウムイオンの除去装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、アンモニウムイオンを含む溶液から、アンモニウムイオンを高選択的に吸着可能なアンモニウムイオンの吸着材料及びその製造方法を提供することができる。また、本発明により、培養液中の金属イオン組成への影響を大幅に低減し、細胞への悪影響を排除しつつ、細胞の培養液中のアンモニウムイオンを除去して再生可能なアンモニウムイオンの吸着材料及びその製造方法を提供することができる。また、本発明により、上記した特性を有するアンモニウムイオンの吸着材料を用いた、溶液中のアンモニウムイオンの吸着方法及び細胞培養液の再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一般的なLTA型ゼオライトの骨格を示す化学構造式である。
【
図2】一般的なLTA型ゼオライトの骨格構造である。
【
図3】本発明のアンモニウムイオン除去装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0011】
[アンモニウムイオンの吸着材料]
本発明の一態様は、アンモニウムイオンの吸着材料であって、当該吸着材料に担持されるNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)が0を超え、かつ50以下の範囲である、アンモニウムイオンの吸着材料である。本明細書において、アンモニウムイオンの吸着材料による「吸着」とは、例えばナトリウム(Na)イオン、カリウム(K)イオン、及びアンモニウム(NH4)イオンなどのイオンを、アンモニウムイオンの吸着材料の骨格が保持する電荷との間のイオン結合により、あるいはアンモニウムイオンの吸着材料との間のファンデルワールス力などの物理的な吸着力又は共有結合などの化学的吸着力により、アンモニウムイオンの吸着材料の表面又は細孔内に取り込み、保持し、含有し、又は担持している状態を指す。また、アンモニウムイオンの吸着材料を用いた「イオン交換」は、アンモニウムイオンの吸着材料が吸着するイオンを溶液中に放出し、代わりにアンモニウムイオンの吸着材料が溶液中に存在するイオンを吸着することを指す。
【0012】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、吸着材料前駆体において、担持するK/Na値を調整して得られるものである。吸着材料前駆体としては、例えば、ケイ素(Si)原子及びアルミニウム(Al)原子の酸化物を含む結晶性化合物を焼成してなる多孔性無機物を挙げることができる。多孔性無機物としては特に限定されないが、例えば、ゼオライト(合成ゼオライト、天然ゼオライト)、フェライト、ムライト、ベントナイト、モンモリロナイト、及びカオリン等を挙げることができる。多孔性無機物として、好ましくはゼオライト(合成ゼオライト、天然ゼオライト)であり、より好ましくはLTA型、BEA型、FAU型、LTL型、MFI型、HEU型、MWW型、FER型及びMOR型ゼオライトであり、特に好ましくはLTA型、MOR型、HEU型、FAU型、FER型及びLTL型ゼオライトであり、更に好ましくはFER型ゼオライト及びLTL型ゼオライトであり、殊更好ましくはFER型ゼオライトである。吸着材料前駆体として、例えばNaイオン担持FER型ゼオライト(Na-FER)、Kイオン担持FERゼオライト(K-FER)、及びKイオン担持LTL型ゼオライト(K-LTL)等を用いることができる。
【0013】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料が含有するSi原子とAl原子のmol比(Si/Al値)は、例えば1~100、好ましくは1~50、より好ましくは2~20、特に好ましくは3~15であることが望ましい。ゼオライト等のアルミノケイ酸塩は、Al原子の含有量を高めることでより多量の陽イオンを吸着することができるが、その一方で構造が不安定化することが知られている。後述するアンモニウムイオン等の陽イオンの吸着容量と、構造の安定性とを両立するために、Si原子とAl原子の含有比は上記した数値範囲であることが望ましい。
Si原子及びAl原子以外にも、他の金属又は金属化合物がアンモニウムイオンの吸着材料の構造中に含まれていてもよい。他の金属又は金属化合物は、4A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属元素からなり、より好ましくはニッケル(Ni)、チタン(Ti)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びスズ(Sn)である。金属化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物及びホウ化物等を挙げることができる。アンモニウムイオンの吸着材料の構造中に含まれる他の金属又は金属化合物の質量割合は、当該アンモニウムイオンの吸着材料を100質量%とした場合、0.1~30質量%、好ましくは1~20質量%であってもよい。
【0014】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、培養液中の金属イオン組成への影響を低減するために、NaイオンとKイオンとを所定のmol比(K/Na値)で担持する。具体的には、K/Na値は、例えば0~50、好ましくは0.001~20、より好ましくは0.01~10、特に好ましくは0.15~8、殊更好ましくは0.2~5、最も好ましくは0.5~2であることが望ましい。例えば、K/Na値が50とは、Naイオンの物質量が1molのとき、Kイオンの物質量が50molである場合などを指す。また、K/Na値がアンモニウムイオンの吸着材料のアンモニウムイオン選択性に対して適切な効果をもたらすために、アンモニウムイオンの吸着材料中に担持されるNaイオン及びKイオンの物質量の和は、アンモニウムイオンの吸着材料が担持する全ての陽イオン、即ち金属イオン、水素イオン及びアンモニウムイオンの物質量の総和に占める割合として、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、殊更好ましくは95%以上であることが望ましい。
【0015】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、Naイオン及びKイオンの他、細胞の培養液に通常配合されている陽イオンを担持していてもよい。具体的には、当該陽イオンは、イオン交換可能なカチオン種であって、通常1価又は2価の金属原子から選択することができ、好ましくは、1A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、より好ましくはカルシウム(Ca)イオン、マグネシウム(Mg)イオン、亜鉛(Zn)イオン、鉄(Fe)イオン、銅(Cu)イオン、及びコバルト(Co)イオンから選択される。また、本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、溶液中の水素イオンを担持していてもよい。アンモニウムイオンの吸着材料は、これらの陽イオンを、アンモニウムイオンの吸着材料が担持するNaイオン及びKイオンのK/Na値を上記した値に維持したうえで、担持するNaイオン及びKイオンの物質量(mol)の和に対して、例えば50%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下の物質量で含有していてもよい。
【0016】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、ゼオライト等の多孔性無機物をバインダー造粒して成形体としてもよい。バインダーは特に限定されず、多孔性無機物の造粒を助けるのに好適な任意の材料を用いることができる。バインダーの添加量は、造粒可能な量に適宜調節すればよい。バインダー材料は有機材料や無機材料があり、有機材料としては、例えば、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びカルボキシビニルポリマーなどを挙げることができる。無機材料としては、例えば、ベントナイト、セピオライト、スメクタイト、シリカ及び珪藻土などが挙げられる。
より具体的な本発明のアンモニウムイオンの吸着材料の製造方法は、後述のとおりである。
【0017】
当該アンモニウムイオンの吸着材料として多孔性無機物を用いる場合、その細孔径(ガス吸着法で測定)は、例えば、0.01~100Åであり、好ましくは0.1~50Åであり、より好ましくは1~10Åである。また、多孔性無機物は、三次元網目構造を有し、(a)表面の一部又は全部に形成された酸化物系セラミックス層と、(b)前記セラミックス層以外の部分に形成された非酸化物系セラミックス部分と、を含むことが好ましい。特に、上記多孔性無機物中の細孔が貫通孔(連通孔)であることが好ましい。さらに本発明の多孔性無機物の平均粒径は、d50%メジアン径、レーザー回折・散乱法で測定した場合、例えば、0.01μm~100mm、好ましくは、0.1~50mm、より好ましくは、1μm~20mmである。
【0018】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料に含まれる他の添加剤としては、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン及びヘキサメチルジシラザン等のエンドキャッピング剤を挙げることができる。他の添加剤は、本発明の多孔性無機物の表面、細孔内部の部分等に結合されていてもよい。
【0019】
以下、アンモニウムイオンの吸着材料として好適に用いられるゼオライトについて、詳説する。
「ゼオライト」とは、二酸化ケイ素(シリカ)及び/又は酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する、結晶性アルミノケイ酸塩であって、酸化物セラミックス系多孔質材料とも呼ばれる多孔質結晶である。一般に、ゼオライトが有する結晶構造(骨格構造ともいう)の基本的な単位は、ケイ素原子又はアルミニウム原子を取り囲んだ4個の酸素原子からなる四面体(TO4四面体構造、TはSi及び/又はAl)であり、これらが3次元方向に連なって結晶構造を形成している。一般に合成ゼオライトは、その結晶構造中に陽イオンを担持しており、当該陽イオンがアルミノケイ酸塩から構成される上記結晶構造中の負電荷を補償して、正電荷の不足を補っている。ゼオライトの一般的な組成は、以下の式(I):
Mz+[(SiO2)x(Al2O3)y]z- (I)
(式(I)中、Mは結晶構造中に担持されるイオン交換可能なカチオン種であって、通常、1価又は2価の金属を表し、zはMの原子価であり、x及びyは任意の整数である)
で示すことができる。好ましくは、Mは、上記したように1A~7A、8、及び1B~3B族から選択される金属原子であり、より好ましくはNaイオン、Kイオン、Caイオン、Mgイオン、Znイオン、Feイオン、Cuイオン、及びCoイオンである。
なお、上記式(I)で示されるゼオライトは、さらに水和物を含む一般式として表現してもよい。
また、ゼオライトとしては、ゼオライト骨格のケイ素原子またはアルミニウム原子の全部または一部をリン(P)、ボロン(B)、ガリウム(Ga)及びチタン(Ti)などの他の原子に置換したものであってもよい。
【0020】
本発明で用いることができるゼオライトの結晶構造は、特に制限はなく、例えば、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)が定めるアルファベット3文字からなる構造コードにて表される各種の結晶構造が挙げられる。本発明で用いる当該結晶構造の好適な一態様を前記構造コードで示すと、好ましくはLTA型、BEA型、FAU型、LTL型、MFI型、HEU型、MWW型、FER型及びMOR型からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはLTA型、MOR型、HEU型、FAU型、FER型及びLTL型からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはFER型又はLTL型であり、殊更好ましくはFER型である。また、本発明で用いられるFAU型ゼオライトは、X型及びY型のいずれであってもよい。
図1に一般的なLTA型ゼオライトの骨格を示す化学構造式を、
図2にその骨格構造を、それぞれ示す。
【0021】
ゼオライトは固有の細孔径、表面電場、イオン交換能、固体酸性質及び吸着能などを有し、乾燥剤、吸着剤、分子ふるい型分離剤、イオン交換剤及び触媒等の用途に用いられる。ここで使用されるゼオライトの細孔径(ガス吸着法で測定)は、例えば、0.01~100Åであり、好ましくは0.1~50Åであり、より好ましくは1~10Åである。ゼオライトの粉末を使用する場合、当該ゼオライトの平均粒径は、d50%メジアン径、レーザー回折・散乱法で測定した場合、例えば、0.01~100μm、好ましくは、0.1~50μm、より好ましくは、1~20μmである。
【0022】
[アンモニウムイオンの吸着材料の特性]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、溶液中のアンモニウムイオンを吸着する性質を有する。特に、本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、細胞の培養液中に存在する細胞の増殖効率に不利な物質、とりわけアンモニウムイオンを選択的に吸着して、培養液から除去する性質を有する。
ここで溶液とは、アンモニウムイオンを含有する液体であり、その種類は特に限定されない。また、培養液とは細胞を培養可能な溶液であり、その種類は特に限定されず、当該培養液中にアンモニウムイオンを含有する。また、培養液中で培養される細胞は、特に限定されない。本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、例えばiPS細胞やES細胞等の全能性又は多能性幹細胞、またはそれらを分化させた細胞等の再生医療に用いる細胞や、CHO細胞等の抗体産生に用いる細胞等の培養を目的とした培養液の再生や、アンモニウムイオンによる試験結果のノイズ除去や品質の維持のため、不死化細胞や、免疫細胞、初代培養細胞等の培養を目的としたあらゆる培養液の前処理や再生に用いることができる。
【0023】
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、吸着作用又はイオン交換作用により、アンモニウムイオンを取り込む。イオン交換作用においては、アンモニウムイオンの吸着材料は、その表面又は細孔内にナトリウム(Na)イオン及びカリウム(K)イオンなどの陽イオンを担持し、培養液中に存在するアンモニウムイオンなどの陽イオンとのイオン交換作用により、NaイオンやKイオンを培養液中に放出し、代わりにアンモニウムイオンを吸着する。理論に拘束されないが、例えば、Kイオンのみを担持するような従来の陽イオン吸着剤の場合、培養液中のNaイオンを取り込むと、代わりにKイオンが培養液中に放出されることとなり、結果的に培養液の金属イオン組成が変化してしまう。一方で、本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、KイオンとNaイオンとのイオン交換反応が飽和されるように、即ち、Kイオン及びNaイオンが取り込まれたことによってKイオン及びNaイオンが放出されても、最終的な培養液の金属イオン組成比が処理前のものと同等の比率となるように、KイオンとNaイオンとを所定のmol比で担持するように調整されている。したがって、本発明のアンモニウムイオンの吸着材料によるアンモニウムイオンの選択的な取り込みが、結果的に従来の吸着剤よりも向上することとなる。なお、アンモニウムイオンの吸着材料によるアンモニウムイオンの吸着処理前後の、溶液中のKイオン及びNaイオンの変化率(濃度比(%)=(アンモニウムイオンの吸着材料による処理後の溶液中の金属イオン濃度)/(アンモニウムイオンの吸着材料による処理前の溶液中の金属イオン濃度)×100)は、例えば50%以上150%以下、好ましくは70%以上130%以下、より好ましくは75%以上125%以下、特に好ましくは90%以上110%以下の範囲内である。
【0024】
なお、イオン交換によりアンモニウムイオンを取り込むと、アンモニウムイオンの吸着材料が担持するNaイオンやKイオンなどが溶液中に放出される。溶液中のアンモニウムイオンの量(例えば、4mM)は、培養液中の金属イオンの総量(例えば、DMEM(製品コード:045-30285 富士フイルム和光純薬株式会社製)では、金属イオンの総量が約162.5mMであり、うち約154.5mMがNaイオン)よりも十分に小さい。したがって、理論に拘束されないが、アンモニウムイオンとの交換で放出される金属イオンは、溶液中の金属イオン組成比に大きな影響を与えないものと考えられる。
【0025】
また、イオン交換反応を飽和させるための、アンモニウムイオンの吸着材料の適切なK/Na値の決定には、吸着材料前駆体のイオン選好性がかかわる。したがって、アンモニウムイオンの吸着材料の適切なK/Na値は、必ずしも培養液中のイオン組成比と同一にはならない。例えば、FER型ゼオライトは、Naイオンと比較してKイオンの選好性が高いため、吸着材料前駆体としてFER型ゼオライトを用いる場合には、培養液再生用途として望ましいKイオン配合比は培養液中の組成比より十分に高い値が最適値となる。
【0026】
また、培養液にはNaイオン及びKイオンに加え、カルシウム(Ca)イオン、マグネシウム(Mg)イオン、亜鉛(Zn)イオン、鉄(Fe)イオン、銅(Cu)イオン、及びコバルト(Co)イオンなどの金属イオンなどの金属陽イオンも配合されている。例えば、培養液中において、FER型ゼオライトはこれらの金属イオンと比較してKイオンやNaイオンに対する選好性が極めて高い。一方で、LTL型ゼオライトやLTA型ゼオライトは、培養液中において、FER型ゼオライトと比較してこれらの金属イオンの選好性がより高く、比較的吸着しやすい。従って、吸着材料前駆体がこのような性質を有する場合には、K/Na値の調整に加え、これらの金属イオンや水素イオンを、上述したように所定の量で担持するように調整したアンモニウムイオンの吸着材料としてもよい。なお、アンモニウムイオンの吸着材料によるアンモニウムイオンの吸着処理前後の、溶液中のこれらの金属イオンの変化率(濃度比(%)=(アンモニウムイオンの吸着材料による処理後の溶液中の金属イオン濃度)/(アンモニウムイオンの吸着材料による処理前の溶液中の金属イオン濃度)×100)は、それぞれ例えば90%以上110%以下の範囲内であり、好ましくは95%以上105%以下の範囲内であり、より好ましくは97%以上103%以下の範囲内であり、特に好ましくは98%以上102%以下の範囲内である。
【0027】
[アンモニウムイオンの吸着材料の用途]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、上記した特性によりアンモニウムイオンを含有する溶液から、アンモニウムイオンを吸着して除去するための組成物、及びこれを用いたアンモニウムイオンの吸着方法に有用である。特に、細胞の培養過程における細胞による代謝や培養液中の不安定な栄養物質の化学分解により細胞の培養液中に発生した過剰なアンモニウムを吸着除去し、不要なアンモニウムイオンが除去された、細胞の生育に適した状態に再生又は前処理するための組成物、及びこれを用いた培養液の再生方法に有用である。なお、溶液、培養液、及び細胞の詳細は上述したとおりである。
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、後述するアンモニウムイオンの除去装置において使用することも可能である。
【0028】
[アンモニウムイオンの吸着材料の製造方法]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、以下の工程:
(1)吸着材料前駆体を準備する工程と、
(2)Kイオン及び/又はNaイオンを含む無機イオン水溶液と、前記吸着材料前駆体とを接触させることにより、前記吸着材料前駆体が担持するNaイオンとKイオンとのmol比(K/Na値)を、0を超え、かつ50以下の範囲に調整する工程、
を含む製造方法により、製造される。
具体的には、多孔性無機物などの吸着材料前駆体に、Naイオン及び/又はKイオンを含む無機イオン水溶液を通液させ、あるいは吸着材料前駆体をNaイオン及び/又はKイオンを含む無機イオン水溶液に浸漬させることにより、K/Na値を好適な数値範囲に制御することにより製造される。K/Na値の好適な数値範囲は、上述したように、例えば0~50、好ましくは0.001~20、より好ましくは0.01~10、特に好ましくは0.1~8、殊更好ましくは0.2~5、最も好ましくは0.5~2が挙げられる。このとき、アンモニウムイオンの吸着材料が担持する金属の置換効率を高めるため、振盪、攪拌、及び加熱などを適宜組み合わせて実施してもよい。
【0029】
また、無機イオン水溶液には、Caイオン、Mgイオン、Znイオン、Feイオン、Cuイオン、及びCoイオンなどの、細胞の培養液に通常配合される金属イオンを添加してもよい。この場合、上述したように、アンモニウムイオンの吸着材料のK/Na値を上記した値に維持したうえで、担持するNaイオン及びKイオンの物質量(mol)の和に対して、これらの金属イオンを50%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下で含有するように制御することが望ましい。
【0030】
上記のように担持金属イオン組成を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を、例えばポリビニルアルコールやアルギン酸等の樹脂、コラーゲンやゼラチン等の生体由来ゲル等で被覆して、例えば粒子状等に成型してもよい。また、アンモニウムイオンの吸着材料は、セラミックスバインダー、樹脂バインダー、生体由来ゲル等と混錬して成形体としてもよい。セラミックスバインダーとしては、アルミナバインダー、コリダルシリカ等、樹脂バインダーとしては、アルギン酸、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等、生体由来ゲルとしては、コラーゲン、ゼラチン等を挙げることができる。
【0031】
[アンモニウムイオンの吸着方法]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、アンモニウムイオンの吸着材料を、アンモニウムイオンを含有する溶液と接触させることにより、アンモニウムイオンの吸着することができる。溶液としては特に限定されないが、細胞の培養液が好ましい。溶液として細胞の培養液を用いた場合には、以下に示すように培養液中のアンモニウムイオンを吸着除去し、培養液を再生することができる。
【0032】
[培養液の再生方法]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料を用いて細胞の培養液を処理することにより、当該培養液を再生することができる。具体的には、アンモニウムイオンの吸着材料を培養液中に浸漬させ、浮遊させ、若しくは攪拌などにより分散させ、又は培養液をアンモニウムイオンの吸着材料に通液させることによって、アンモニウムイオンの吸着材料を培養液に接触させる。アンモニウムイオンの吸着材料は、培養液との接触により、培養液中のアンモニウムイオンを吸着し、あるいはイオン交換によりアンモニウムイオンの吸着材料が担持する金属イオン(Naイオン及びKイオンなど)を培養液中に放出し、代わりに培養液中のアンモニウムイオンを選択的に吸着する。なお、培養液及び細胞の詳細は上述したとおりである。
【0033】
培地の再生においては、アンモニウムイオンの吸着材料を、樹脂(PS、PP、PETなど)やガラス等に包埋した上で、当該樹脂やガラス等による包埋物を培養槽の底面・壁面や撹拌パドル等に設置してもよい。あるいは、培養槽中の培養液の一部または全部を取り出し、アンモニウムイオンの吸着材料又は当該アンモニウムイオンの吸着材料の包埋物に接触させてもよい。また、培養液の再生工程には、アミノ酸や金属イオン等、消費された培養液成分の再供給を含んでいてもよい。
また、アンモニウムイオン等の老廃物を含有した培養液を再生するための本アンモニウムイオンの吸着材料の添加比率としては、培養液1Lに対して、例えば0.1g~1000g、好ましくは1g~500g、より好ましくは2g~200g、特に好ましくは5g~100gの範囲であることが望ましい。
【0034】
[アンモニウムイオンの除去装置]
本発明のアンモニウムイオンの吸着材料は、アンモニウムイオンを含有する溶液から当該アンモニウムイオンを除去するための除去装置において使用することができる。
アンモニウムイオンの除去装置は、アンモニウムイオンの吸着材料を備える。また、アンモニウムイオンの除去装置は、前記アンモニウムイオンの吸着材料と、アンモニウムイオンを含有する溶液と、を接触させる接触部をさらに備え、アンモニウムイオンの吸着材料は当該接触部において溶液からアンモニウムイオンを吸着・除去する。接触部の構成は特に限定されないが、ビーカー、フラスコ、シャーレ、ウェルプレート、及びカラム等の容器が挙げられる。また、接触部はアンモニウムイオンの吸着材料と溶液とを恒常的に又は一時的に接触させる反応器としての機能を有し、反応器としてはバッチ式及び連続式のいずれであってもよく、連続槽型反応器(CSTR)、及び管型反応器(PFR)などが挙げられる。
なお、溶液の種類は特に限定されないが、溶液として細胞の培養液を使用した場合には、当該除去装置により培養液の再生を実行することができる。
【0035】
図3に、アンモニウムイオンの除去装置の一例を示す。
図3に示すアンモニウムイオン除去装置1は、カラムで構成される容器2と、カラムの内部に収容された粒子状のアンモニウムイオンの吸着材料3と、を備え、容器2が接触部として機能する。除去装置1の外部にはポンプ等の圧力付加装置が配置され、容器2に接続されている。圧力不可装置は除去装置1の外部に配置された溶液と連通し、駆動により当該溶液を除去装置1に送り込む。除去装置1に送り込まれた溶液は、容器2の内部を図中矢印の方向に通過する。この時、容器2の内部で溶液とアンモニウムイオンの吸着材料3が接触することにより、アンモニウムイオンの吸着材料3が溶液中のアンモニウムイオンを吸着し、除去することが可能となる。容器2から排出された溶液は、例えば除去装置1の外部の容器に回収することができる。
【0036】
なお、アンモニウムイオンの除去装置の構成は
図3に示される構成に限定されるものではない。アンモニウムイオンの除去装置は、本発明のアンモニウムイオンの吸着材料を備え、アンモニウムイオンの吸着材料と溶液とを恒常的に又は一時的に接触させる接触部を有し、当該接触部においてアンモニウムイオンの吸着材料が溶液中のアンモニウムイオンを吸着して除去可能な構成であれば特に限定されない。
アンモニウムイオンの除去装置は、例えば、溶液を充填したビーカー、フラスコ、シャーレ、ウェルプレート、セルカルチャーインサート、マイクロスフェア等の容器の内壁面にアンモニウムイオンの吸着材料を接着させた構成であってもよく、この場合、容器の内部が接触部として機能する。あるいは、アンモニウムイオンの除去装置は、上記と同様の容器に充填された溶液中に、アンモニウムイオンの吸着材料を浸漬、分散、若しくは浮遊させた構成であってもよく、この場合、容器の内部が接触部として機能する。さらに、これらのアンモニウムイオンの除去装置において、容器内に溶液が配置される区画と、アンモニウムイオンの吸着材料が配置される区画と、を分離する多孔質隔膜等の隔膜を配置させ、溶液が隔膜を通過してアンモニウムイオンの吸着材料と接触するように構成されていてもよい。
【0037】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、当該実施例は本発明の範囲を限定する意図ではないことを確認的に明記しておく。
【実施例0038】
(試薬)
以下の実施例及び比較例で使用した試薬の詳細は以下の通りである。
(吸着材料前躯体)
以下の(1)~(3)のゼオライトを、吸着材料前駆体として使用した。
(1)Na-FER
下記のアンモニウムイオン担持FER型ゼオライト(NH4
+-FER)を、500℃にて3時間焼成して、水素イオン担持FER型ゼオライト(H-FER)とした。また、その一部を10%NaCl水溶液で3回イオン交換して、Na-FERとした。
NH4
+-FER:東ソー株式会社 製品コード:HSZ-720 720NHA、構造コード:FER型、結晶形:フェリエライト、Si/Almol比:9.0、細孔径:4.8Å、平均粒径:6μm
(2)K-FER
下記の製品を、K-FERとして使用した。
東ソー株式会社 製品コード:HSZ-720 720KOA、構造コード:FER型、結晶形:フェリエライト、Si/Almol比:9.0、K/Na値:67、細孔径:4.8Å、平均粒径:20μm
(3)K-LTL
下記の製品を、K-LTLとして使用した。
東ソー株式会社 製品コード:HSZ-500 500KOA、構造コード:LTL型、結晶形:L型、Si/Almol比:3.05、K/Na値:>100、細孔径:8Å、平均粒径:4μm
【0039】
(培養液、細胞、溶媒等)
・模擬培養液:Naイオン:155mM、Caイオン:1.8mM、Mgイオン:0.8mM、Kイオン:5.3mMからなる水溶液を模擬培養液として用いた。
・DMEM:製品コード:045-30285 富士フイルム和光純薬株式会社
・Ca9-22細胞:JCRB0625
・FBS:HyClone ATA31357 Cytiva社
・200mmol/L L-グルタミン溶液:製品コード:073-05391 富士フイルム和光純薬株式会社
【0040】
(使用機器)
・遠心機:型式:H-19α 株式会社コクサン
・SEM-EDS:型式:JCM-6000 Plus 日本電子株式会社
・高速遠心機:型式:Kubota model 6000 久保田商事株式会社
・ICP発光分光分析装置:型式:SPS3100 エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社
・フィルター(0.2μm孔径 親水化PTFEフィルター):Omnipore JGWP02500 メルク株式会社
・アンモニアメーター:型式:TiN-9001 東興化学研究所
・メンブレンフィルター(0.2μm孔径):型式:25AS020AS 東洋濾紙株式会社
・生細胞数測定キット:Cell Counting Kit-8 同仁化学研究所
・マイクロプレートリーダー:型式:POWERSCAN HT DSファーマバイオメディカル株式会社
【0041】
[試験例1]アンモニウムイオンの吸着材料による培養液中の金属イオン濃度への影響
(アンモニウムイオンの吸着材料の調整方法)
(比較例1及び2)
比較例1としてK-FERを、比較例2としてK-LTLを、それぞれK/Na値を調整することなく使用した。以降、比較例1及び2で使用したイオン調整を行っていないゼオライトを、無調整吸着材料と称する場合がある。
(実施例1及び3)
それぞれ2gのNa-FER(実施例1)及びK-LTL(実施例3)を、無機イオン水溶液としての200mLの模擬培養液中で24時間攪拌し、遠心分離した後の固相に再度200mLの模擬培養液200mLを添加・攪拌する処理を4回繰り返して、K/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を作製した。
(実施例2及び4)
それぞれ0.4gのK-FER(実施例2)及びK-LTL(実施例4)を、無機イオン水溶液としての40mLのDMEMに混合し、25℃で24時間接触させた。接触後の混合液を、遠心機を用いて3000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去した。処理後のゼオライト粉末全量を、再度DMEM40mLに混合し、25℃で24時間接触させ、遠心機を用いて3000rpmで5分間遠心分離して上清を除去する処理を2回繰り返して、K/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を作製した。
【0042】
(K/Na値の確認)
SEM-EDSを用いて、実施例1~4のアンモニウムイオンの吸着材料のK/Na値を確認した。
【0043】
(金属イオン濃度変化の確認)
実施例1~4のアンモニウムイオンの吸着材料及び比較例1~2の無調整吸着材料を、それぞれ1gずつ100mlのDMEMに混合し、25℃で24時間接触させた。なお、下記表1中のコントロールは、アンモニウムイオンの吸着材料を使用せず、100mlのDMEMのみを25℃で24時間静置した試験群である。
次いで、高速遠心機を用いて、11000rpm、15分の条件で培養液とアンモニウムイオンの吸着材料又は無調整吸着材料を分離し、さらにフィルターを用いて液相を濾過してICP発光分光分析用の試料とした。
ICP発光分光分析装置を用いて、アンモニウムイオンの吸着材料又は無調整吸着材料による処理前後のDMEM中のKイオン、Caイオン、及びMgイオンの濃度を測定し、処理前の濃度に対する処理後の濃度の比(%)を算出した。なお、濃度比(%)は以下の式(A)によって表される。
濃度比(%)=(アンモニウムイオンの吸着材料による処理後の金属イオン濃度)/(アンモニウムイオンの吸着材料による処理前の金属イオン濃度)×100 (A)
【0044】
算出された濃度比に基づき、各実施例及び比較例で使用した吸着材料が培養液中の金属イオン濃度に与える影響の大きさについて評価を行った。なお、評価は以下の評価基準に基づく。
<金属イオン濃度に与える影響>
◎(優):Kイオンの濃度比が90以上110以下の範囲内であり、加えてCaイオン及びMgイオンの濃度比がそれぞれ95以上105以下の範囲内である。
〇(良):Kイオンの濃度比が70以上90未満又は110を超え128以下の範囲内であり、加えてCaイオン及びMgイオンの濃度比がそれぞれ95以上105以下の範囲内である。
△(可):Kイオンの濃度比が50以上70未満又は128を超え150以下の範囲内であり、加えてCaイオン及びMgイオンの濃度比がそれぞれ95以上105以下の範囲内であるか、あるいはKイオンの濃度比が70以上128以下の範囲内であり、加えてCaイオン及びMgイオンの濃度比がそれぞれ90以上110以下の範囲内であり、上記◎と○の条件を満たさない。
×(不可):上記◎、〇、及び△の条件を満たさない。
【0045】
【0046】
表1に示される通り、担持金属イオンのK/Na値の調整を施していないゼオライト(比較例1のK-FER及び比較例2のK-LTL)を用いた場合、DMEM中のKイオン、Caイオン、及びMgイオンの濃度が大きく変化した。一方で、実施例1~4のアンモニウムイオンの吸着材料を使用した場合は、DMEM中のこれらのイオン濃度の変化が大きく低減された。
【0047】
[試験例2]アンモニウムイオンの吸着材料のアンモニウムイオン除去活性
(アンモニウムイオンの吸着材料の調整方法)
(比較例1)
比較例1としてK-FERを、K/Na値を調整することなく使用した。
(実施例1)
2gのNa-FERを、200mLの模擬培養液中で24時間攪拌し、遠心分離した後の固相に再度200mLの模擬培養液を添加・攪拌する処理を4回繰り返して、K/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を作製した。
【0048】
(K/Na値の確認)
SEM-EDSを用いて、実施例1のアンモニウムイオンの吸着材料のK/Na値を確認した。
【0049】
(アンモニウムイオン濃度変化の確認)
実施例1のアンモニウムイオンの吸着材料及び比較例1の無調整吸着材料を、それぞれ1gずつ、終濃度4mMの塩化アンモニウムを添加したDMEM(NH3-DMEM)100mLに混合し、25℃で24時間接触させた。
次いで、高速遠心機を用いて、11000rpm、15分の条件で培養液とアンモニウムイオンの吸着材料又は無調整吸着材料を分離し、さらに液相を、フィルターを用いて濾過して得た。
イオン電極式のアンモニアメーターを用いて、アンモニウムイオンの吸着材料又は無調整吸着材料の処理前後のNH3-DMEM中のアンモニウムイオン濃度を測定した。当該測定結果を用いて、実施例及び比較例で使用した各吸着材料の、アンモニウムイオンの吸着量(mmol/g)を算出した。なお、アンモニウムイオンの吸着量(mmol/g)は、実施例又は比較例で使用した吸着材料1g当たりに吸着されたアンモニウムイオンの物質量(mol)を指す。
【0050】
算出されたアンモニウムイオンの吸着量に基づき、実施例及び比較例で使用した各吸着材料のアンモニウムイオン除去活性について評価を行った。なお、評価は以下の評価基準に基づく。
<アンモニウムイオン除去活性>
〇(可):吸着材料のアンモニウムイオンの吸着量が、0.20mmol/g以上である。
×(不可):吸着材料のアンモニウムイオンの吸着量が、0.20mmol/g未満である。
【0051】
【0052】
表2に示される通り、実施例1で使用したK/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料が、比較例1で使用した担持金属イオンを調整していない吸着材料と同様に、アンモニウムイオン除去活性を有することが確認された。
【0053】
[試験例3]アンモニウムイオンの吸着材料を用いた培養液再生による細胞増殖効率向上作用
(アンモニウムイオンの吸着材料の調整方法)
(比較例1及び2)
比較例1としてK-FERを、比較例2としてK-LTLを、それぞれK/Na値を調整することなく使用した。
(実施例1及び3)
それぞれ2gのNa-FER(実施例1)及びK-LTL(実施例3)を、無機イオン水溶液としての200mLの模擬培養液中で24時間攪拌し、遠心分離した後の固相に再度200mLの模擬培養液を添加・攪拌する処理を3~4回繰り返して、K/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を作製した。
(実施例2及び4)
それぞれ0.4gのK-FER(実施例2)及びK-LTL(実施例4)を、無機イオン水溶液としての40mLのDMEMに混合し、25℃で24時間接触させた。接触後の混合液を、遠心機を用いて3000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去した。処理後のゼオライト粉末全量を、再度40mLのDMEMに混合し、25℃で24時間接触させ、遠心機を用いて3000rpmで5分間遠心分離して上清を除去する処理を2回繰り返して、K/Na値を調整したアンモニウムイオンの吸着材料を作製した。
【0054】
(K/Na値の確認)
SEM-EDSを用いて、実施例1~4のアンモニウムイオンの吸着材料のK/Na値を確認した。
【0055】
(培養液再生による細胞増殖効率向上作用の確認)
実施例1~4及び比較例1~2の吸着材料を、それぞれ1gずつ、終濃度4mMの塩化アンモニウムを添加したDMEM(NH3-DMEM)100mLに混合し、25℃で24時間接触させた。
接触後の混合液から、メンブレンフィルターを用いて各吸着材料を濾過し、ろ液に上記FBSを終濃度10%、及び上記200mmol/L L-グルタミンを終濃度4mMとなるように、それぞれ添加し、細胞毒性試験液を作製した。
細胞毒性試験液を用いて、Ca9-22細胞を3日間培養した。なお、下記表3中のコントロールは、アンモニウムイオンの吸着材料を使用せず、100mLのNH3-DMEMに、上記FBSを終濃度10%、及び上記200mmol/L L-グルタミンを終濃度4mMとなるように、それぞれ添加した細胞毒性試験液を用いて細胞を培養した試験群である。
3日間の培養後、生細胞数測定キット及びマイクロプレートリーダーを用いて培養前からの細胞増殖率を算出し、コントロール群における細胞増殖率を100としたときの相対値(相対的細胞増殖率)を算出した。なお、相対的細胞増殖率は、以下の式(B)によって表される。
相対的細胞増殖率=(各試験群の細胞増殖率)/(コントロール群の細胞増殖率)×100 (B)
【0056】
算出された相対的細胞増殖率に基づき、各実施例及び比較例で使用した吸着材料によるアンモニア除去処理が、細胞の増殖に与える影響の大きさについて評価を行った。なお、評価は以下の評価基準に基づく。
<細胞の増殖に与える影響>
〇(良):相対的細胞増殖率が118以上
△(可):相対的細胞増殖率が105以上118未満
×(不可):相対的細胞増殖率が105未満
【0057】
【0058】
表3に示される通り、担持金属イオンの調整を施していないゼオライト(比較例1のK-FER及び比較例2のK-LTL)を用いて培養液を処理した場合と比較して、実施例1~4のアンモニウムイオンの吸着材料を用いて培養液を処理した場合は、細胞の増殖率が高まった。
【0059】
(総合評価)
上記の試験例1~3より、各吸着材料を培養液の再生に用いた場合の適合性について、総合評価を行った。なお、下記表4中の「金属イオン濃度変化」は上記試験例1の評価を、「アンモニウムイオン除去活性」は上記試験例2の評価を、「細胞増殖効果」は上記試験例3の評価を、それぞれ適用している。また、総合評価は以下の評価基準に基づく。
<総合評価>
◎(優):試験例1~3の評価結果が◎(優)のみ、又は◎(優)及び○(良)から構成される、培養液の再生に特に適した材料である。
〇(良):試験例1~3の評価結果が○(良)のみから構成される、培養液の再生に適した材料である。
△(可):試験例1~3の評価結果に×(不可)が含まれず、かつ△(可)が含まれる、培養液の再生に利用可能な材料である。
×(不可):試験例1~3の評価結果に×(不可)が含まれる、培養液の再生に適さない材料である。
【0060】
【0061】
表4に示される通り、FER型及びLTL型ゼオライトの担持金属イオンの組成、とりわけK/Na値を調整することで、培養液中のアンモニウムイオンを、培養液中の金属イオン組成への影響を低減したうえで除去することができた。そのことによって、再生処理後の培養液を用いて細胞を培養した場合に、細胞増殖効果をより高めることができた。