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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141384
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】膜洗浄方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20220921BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220921BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20220921BHJP
   B01D 65/04 20060101ALI20220921BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20220921BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D61/14 500
B01D65/02 520
B01D65/04
B01D65/06
C02F3/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041658
(22)【出願日】2021-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [ウェブサイトの掲載日]令和2年3月16日 [ウェブサイトのアドレス]https://www.jswe.or.jp/member/FileDownload.php [頒布日]令和2年3月16日(発行日 令和2年3月10日) [刊行物]第54回日本水環境学会年会講演集,第327頁,公益社団法人日本水環境学会 [開催日]令和2年5月12日 [WEB開催]研究室ゼミナール、主催は北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻水再生工学研究室 [開催日]令和2年6月23日 [WEB開催]研究室ゼミナール、主催は北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻水再生工学研究室 [開催日]令和2年7月7日 [WEB開催]研究室ゼミナール、主催は北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻水再生工学研究室 [公開日]令和2年11月12日 [公開場所]北海道大学工学部(北海道札幌市北区北13条西8丁目) [公開日]令和2年12月9日 [WEB開催]第57回環境工学研究フォーラム、主催は土木学会環境工学委員会 [ウェブサイトの掲載日]令和2年12月9日 [ウェブサイトのアドレス]https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/76/7/76_III_149/_article/-char/ja/ [発行日]令和2年12月 [刊行物]環境工学研究論文集vol.57,III149~III155,公益社団法人土木学会 [開催日]令和2年12月23日 [集会名、開催場所]水系研究室中間発表会、北海道大学工学部(北海道札幌市北区北13条西8丁目) [開催日]令和3年2月4日 [WEB開催]研究室ゼミナール、主催は北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻水再生工学研究室 [公開日]令和3年2月12日 [公開場所]北海道大学大学院工学院環境創生工学専攻(北海道札幌市北区北13条西8丁目) [ウェブサイトの掲載日]令和3年3月4日 [ウェブサイトのアドレス]https://www.jswe.or.jp/member/FileDownload.php [発行日]令和3年3月4日 [刊行物]第55回日本水環境学会年会講演集,第116頁,公益社団法人日本水環境学会 [公開日]令和3年3月10日 [WEB開催]第55回日本水環境学会年会、主催は日本水環境学会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業 探索加速型(探索研究)事業「誰からも信頼される「水」を創る新規VUV/MBR」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】木村 克輝
(72)【発明者】
【氏名】松井 佳彦
【テーマコード(参考)】
4D006
4D028
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006HA71
4D006HA93
4D006JA19A
4D006JA31A
4D006JA31B
4D006JA31C
4D006JA37A
4D006JA37B
4D006JA37C
4D006JA53Z
4D006KA31
4D006KA43
4D006KB22
4D006KB25
4D006KC03
4D006KC14
4D006KC18
4D006KD21
4D006KD24
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA22
4D006MC03
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB08
4D006PC62
4D006PC67
4D028BC17
4D028BC24
4D028BD17
(57)【要約】
【課題】水処理への悪影響を抑制し、且つ、膜洗浄の効果を確保可能な膜洗浄方法及びこれを用いた水処理装置を提供する。
【解決手段】ろ過膜21を用いたMBRの後に、MBRにおいて処理対象水を通過させる方向とは逆方向に、ろ過膜21に1μm未満の大きさの気泡を含んだナノバブル水の洗浄液を通過させる。このとき、ナノバブル61がろ過膜21とファウリング物質100の間に入り込んで、ファウリング物質100とろ過膜21の密着度が低下する。一方、反応槽10には懸濁液中に担体40が含まれている。よって、洗浄液がろ過膜21を通過した後、ろ過膜21は担体40を含んだ懸濁液中に浸漬された状態となる。かかる担体40がファウリング物質100、ろ過膜21の表面又は細孔にぶつかることで、ナノバブル61によって密着度が低下したファウリング物質100がろ過膜21から乖離する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密ろ過膜及び限外ろ過膜の少なくともいずれかからなるろ過膜を用いた水処理の実行後に前記ろ過膜を洗浄する方法であって、
1μm未満の大きさの気泡を含んだ液体に、前記水処理において処理対象水を通過させる方向とは逆方向に前記ろ過膜を通過させる逆洗工程を実施することを特徴とする膜洗浄方法。
【請求項2】
前記水処理が、膜分離活性汚泥法に基づく処理であることを特徴とする請求項1に記載の膜洗浄方法。
【請求項3】
前記気泡を含んだ液体が通過した後の前記ろ過膜が、当該ろ過膜に付着したファウリング物質に接触してこれを除去する担体を含んだ液体中に浸漬されることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜洗浄方法。
【請求項4】
前記気泡がオゾンを含んでいることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の膜洗浄方法。
【請求項5】
精密ろ過膜及び限外ろ過膜の少なくともいずれかからなるろ過膜を処理対象水に通過させることで水処理を実行する装置であって、
1μm未満の大きさの気泡を発生させる気泡発生部と、
前記気泡発生部が発生させた前記気泡を含んだ液体に、前記水処理において前記処理対象水を通過させる方向とは逆方向に前記ろ過膜を通過させる逆洗部とを備えていることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜洗浄方法及びこれを用いた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ろ過膜を用いて水処理を実施する方法が行われている。特許文献1はその一例である。特許文献1によると、生物処理が行われた原水(処理対象水)が、膜(ろ過膜)を通じてろ過される。ろ過後の水はろ過水タンクに貯留される。一方、ろ過水タンクに貯留されたろ過後の水は膜の逆洗にも利用される。逆洗は、原水のろ過時とは反対方向にろ過後の水に膜を通過させることで、原水のろ過によって膜に付着した物質を除去する処理である。特許文献1では、逆洗の際にろ過後の水に薬剤を加えることで膜洗浄の効果を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-202260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように薬剤を使用する等、逆洗の効果を高めるための方法が実施されている。しかしながら、例えば、薬剤を使用して逆洗を行った場合、その薬剤の化学的な作用が水処理の環境条件(微生物の活動や水処理後の水質等)に悪影響を及ぼすおそれがある。このように、逆洗によって効果的に膜を洗浄できたとしても、逆洗の方法によってはその後の水処理が適切に実施できない場合があり得る。
【0005】
本発明の目的は、水処理への悪影響を抑制し、且つ、膜洗浄の効果を確保可能な膜洗浄方法及びこれを用いた水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の膜洗浄方法は、精密ろ過膜及び限外ろ過膜の少なくともいずれかからなるろ過膜を用いた水処理の実行後に前記ろ過膜を洗浄する方法であって、1μm未満の大きさの気泡を含んだ液体に、前記水処理において処理対象水を通過させる方向とは逆方向に前記ろ過膜を通過させる逆洗工程を実施する。
【0007】
また、本発明の別の観点に係る水処理装置は、精密ろ過膜及び限外ろ過膜の少なくともいずれかからなるろ過膜を処理対象水に通過させることで水処理を実行する装置であって、1μm未満の大きさの気泡を発生させる気泡発生部と、前記気泡発生部が発生させた前記気泡を含んだ液体に、前記水処理において前記処理対象水を通過させる方向とは逆方向に前記ろ過膜を通過させる逆洗部とを備えている。
【0008】
本発明によると、1μm未満の大きさの気泡は、ろ過膜に付着した物質と膜の間に入り込み、物質を剥離させやすくする。これにより、逆洗の効果を高めることが可能となる。また、気泡を用いる方法は薬剤を用いる等の他の方法と異なり、例えば、空気からなる気泡を用いる等、水処理の環境条件に影響を与えにくいものとしやすい。また、例えば、薬剤と気泡を併用する場合においても、気泡によって逆洗の効果を高められる分、使用する薬剤の量を減らすことができる。よって、薬剤のみを使用する場合と比べ、水処理への影響を抑制しやすい。
【0009】
また、本発明においては、前記水処理が、膜分離活性汚泥法に基づく処理であってもよい。膜分離活性汚泥法は微生物による汚水処理を含んでいる。かかる場合においても、気泡を用いる本発明によると、微生物の活動に影響を与えにくい。
【0010】
また、本発明においては、前記気泡を含んだ液体が通過した後の前記ろ過膜が、当該ろ過膜に付着したファウリング物質に接触してこれを除去する担体を含んだ液体中に浸漬されることが好ましい。これによると、気泡を用いて剥離しやすくなったファウリング物質に対し、担体が接触することで、さらに効果的にファウリング物質を除去できる。
【0011】
また、本発明においては、前記気泡がオゾンを含んでいることが好ましい。これによると、気泡によるろ過膜の洗浄の効果をさらに高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の概略構成図である。
図2】(a)セラミック平膜にファウリング物質が付着した様子を示す図である。(b)ナノバブルがセラミック平膜とファウリング物質との間に入り込む様子を示す図である。(c)担体がファウリング物質を剥離する様子を示す図である。
図3】水道水、ナノバブル水(NB水)、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液(NaClO)を使用して逆洗を行いつつ、50LMHでMBRの連続運転を行った際のTMPを示すグラフである。
図4】水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用して逆洗を行ないつつ、60LMHでMBRの連続運転を行った際のTMPを示すグラフである。
図5】活性汚泥に対して、水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した際のDOCを示すグラフである。
図6】活性汚泥に水道水を添加した際のEEMスペクトルを示した図である。
図7】活性汚泥にナノバブル水を添加した際のEEMスペクトルを示した図である。
図8】活性汚泥に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した際のEEMスペクトルを示した図である。
図9】ナノバブル水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液及びナノバブルを含んだ次亜塩素酸ナトリウム水溶液(NB+NaClO)を使用して逆洗を行いつつ、80LMHでMBRの連続運転を行った際のTMPを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る膜洗浄方法を使用する水処理装置1について図1及び図2を参照しつつ説明する。水処理装置1は、MBR(Membrane Bioreactor、膜分離活性汚泥法)に基づいて水を処理する装置である。水処理装置1の対象となる処理対象水は特に制限されない。下水、工場排水、家庭用排水、畜産排水等が含まれる。なお、下水等の原水にMBR以外の前処理(微生物処理等)が施された処理対象水が、水処理装置1によってさらに処理されてもよい。
【0014】
水処理装置1は、反応槽10、配管11及び13、膜モジュール20、散気管30、担体40、並びに逆洗部50を有する。
【0015】
反応層10は、活性汚泥を含む懸濁液を収容している。反応槽10は、ポンプ12が設けられた配管11と接続されている。配管11は、処理対象水の供給源(原水槽等)と接続されている。反応槽10では、懸濁液中の活性汚泥に含まれる微生物により処理対象水中の有機物が分解される。
【0016】
膜モジュール20は、ろ過膜21及び集水管22を有する。1又は複数個の膜モジュール20が反応槽10内で懸濁液中に浸漬されて使用される。ろ過膜21は平板状の膜である。ろ過膜21には、セラミックの無機膜、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリアミド等の有機膜で形成された精密ろ過膜及び限外ろ過膜の少なくともいずれかが使用される。処理対象水の特性や処理後の水質等に応じ、精密ろ過膜及び限外ろ過膜いずれかを使用してもよいし併用してもよい。ろ過膜21には、多数の細孔と、ろ過膜21の外部から細孔を通過した液体が合流する内部流路とが形成されている。かかる細孔に懸濁液を通過させることでその液が固液分離される。ろ過膜21には集水管22が接続されている。集水管22内の空間はろ過膜21の内部流路と連通している。細孔を通過した液体は、ろ過膜21の内部流路を通じて集水管22内の空間に流入する。集水管22は、ポンプ14が設けられた配管13に接続されている。配管13は、反応槽10より後段に設けられた別の処理槽や貯留槽等と接続されている。なお、膜モジュール20は、反応槽10の大きさ、単位時間当たりに処理させる処理対象水の量等によって、大きさ及び個数が適宜選択される。
【0017】
散気管30は、金属、樹脂等を材料とするパイプに、孔やスリットを設けた管である。散気管30は反応槽10の内底、且つ、膜モジュール20の直下に配設されている。散気管30は空気を供給する曝気ブロア(図示なし)と接続されている。曝気ブロアから散気管30へ空気が供給され、孔やスリットから、懸濁液中に気泡31が放出される。気泡31中の酸素により活性汚泥中の微生物が処理対象水中の有機物等を分解したり、膜の目詰まり(膜ファウリング)が抑制されたりする。なお、散気管30は、曝気量、反応槽10の有効体積、膜モジュール20の大きさ又は個数等によって、適宜大きさ及び個数が選択される。
【0018】
担体40は、反応槽10内に収容された懸濁液中に含まれている。担体40には、粒状やスポンジ状のものが使用される。担体40の形状は、円柱、角柱、球等である。担体40の材質には、ポリエチレングリコール等の合成樹脂、木質系の材料等が使用される。担体40の大きさは、1mm~10mmが好ましい。担体40は、反応槽10の有効体積の1%~30%程度の量を使用することが好ましい。後述に示される逆洗の効果を高めるように、担体40の材質、大きさ、使用量が適宜調整される。
【0019】
逆洗部50は、配管51、ポンプ52、ナノバブル発生器55(本発明でいう気泡発生部)及び洗浄液貯留槽56を有する。洗浄液貯留槽56は逆洗用の洗浄液(以下、洗浄液という)を貯留する。洗浄液としては、例えば、水道水が用いられてもよい。洗浄液貯留槽56は、ポンプ52が設けられた配管51を通じ、配管13における集水管22とポンプ14の間の部分に接続されている。配管51は、洗浄液貯留槽56からの洗浄液を配管13へと導く。ナノバブル発生器55は、粒径が1nm以上であって1μm以下の気泡(以下、ナノバブル61という)を配管51内の洗浄液に発生させる機器である。気泡は、空気、酸素、オゾン等の気体からなる。気泡の粒径は、使用される精密ろ過膜又は限外ろ過膜の細孔を通る大きさである。ナノバブル61は、粒径が極めて小さいことから浮上速度が遅く、反応槽10内における滞留時間が長い。ナノバブルの発生方法は特に限定されるものではなく、例えば、気体を液体に溶解させて減圧し、溶解できなくなった気体を気泡の形で析出させる方法、物理的な旋回力等を用いて気体を含んだ液体を粉砕することで気泡を生成する方法、液体中に孔から気体を噴出させることで気泡を生成する方法が使用される。ろ過膜21として使用される膜に応じ、膜に形成された細孔を通る粒径の気泡を発生させる方法が適宜選択される。なお、ナノバブル61に加え、1nm未満又は1μm以上の粒径の気泡が洗浄液に含まれていてもよい。
【0020】
水処理装置1は、以下のように使用される。まず、ポンプ12を駆動することで、配管11を通じて反応槽10に処理対象水を流入させて、反応槽10内の懸濁液と混合する。反応槽10では、懸濁液の活性汚泥中に含まれる微生物により処理対象水中の有機物等が分解される。次に、ポンプ14を駆動することで集水管22を通じてろ過膜21に負圧を加えると、反応槽10内の処理対象水と混合した懸濁液がろ過膜21を透過し、固液分離される。固液分離された後の透過水は、配管13を通じて後段の処理槽等に送られる。
【0021】
MBRによる上記のような処理対象水の処理を実施し続けると、図2(a)に示すように、ろ過膜21の表面やろ過膜21の細孔内にファウリング物質100が付着する膜ファウリングが生じる。ファウリング物質100は、ろ過膜21のろ過性能を低下させてしまう。
【0022】
そこで、膜ファウリングによって水処理の性能低下が過大になる前に(例えば定期的に)、以下のように膜モジュール20の逆洗工程を実施する。ポンプ12及び14の駆動を一旦停止し、ポンプ52の駆動を開始する。これにより、洗浄液貯留槽56中の洗浄液を配管51から配管13へと送り出す。一方、ナノバブル発生器55は、配管51中の洗浄液にナノバブル61を発生させる。ナノバブル61を含んだ洗浄液は、配管51から配管13、集水管22を経て、ろ過膜21の細孔を通過し、反応槽10内の懸濁液中に流出する。つまり、MBRにおいて処理対象水を通過させる方向とは逆方向にろ過膜21の細孔を洗浄液に通過させる。
【0023】
このとき、洗浄液中のナノバブル61は、ろ過膜21の細孔を通り、ファウリング物質100が付着した箇所である細孔の開口付近に到達する。かかるナノバブル61が、図2(b)に示すようにろ過膜21とファウリング物質100の間に入り込んで、ファウリング物質100とろ過膜21の密着度が低下する。一方、ろ過膜21は担体40を含んだ懸濁液中に浸漬されている。これにより、洗浄液がろ過膜21を通過した後、図2(c)に示すように、担体40がファウリング物質100、ろ過膜21の表面又は細孔にぶつかることで、ナノバブル61によって密着度が低下したファウリング物質100がろ過膜21から乖離する。
【0024】
以上のような水処理装置1によると、1μm未満の大きさのナノバブル61は、ろ過膜21に付着したファウリング物質100とろ過膜21の間に入り込み、ファウリング物質100を剥離させやすくする。これにより、逆洗の効果を高めることが可能となる。また、ナノバブル61を用いる方法は薬剤を用いる等の他の方法と異なり、空気等からなるナノバブル61を用いることで、反応槽10内の懸濁液中の微生物の活動に影響を与えにくいものとしやすい。また、例えば、薬剤とナノバブル61を併用する場合においても、薬剤のみを使用する場合と比べ、使用する薬剤の量を減らす等、MBRへの影響を抑制しやすい。
【0025】
また、ろ過膜21は担体40を含んだ反応槽10内の懸濁液中に浸漬されている。この状態で逆洗が行われるため、逆洗において洗浄液がろ過膜21を通過した後、ろ過膜21は担体40を含んだ反応槽10内の懸濁液中に浸漬された状態となる。これによると、ナノバブル61を用いて剥離しやすくなったファウリング物質100に対して担体40が接触するので、効果的にろ過膜21のファウリング物質100を除去できる。なお、本実施形態では、反応槽10内に担体40が存在している状態で処理対象水の処理が実施される。このため、処理対象水の処理時においても、担体40によってろ過膜21の膜表面が物理的に洗浄され、膜ファウリングの発生が抑制される。
【0026】
[実施例]
以下、上述の実施形態に係る実施例について説明する。本実施例に係るMBR装置(上述の実施形態における水処理装置1に対応)は札幌市の処理施設(創成川水再生プラザ)に設置し、同施設の初沈流入水を処理対象水として使用した。活性汚泥は、同施設に設置された別のMBR装置から採取した余剰汚泥を使用した。反応槽10は、有効体積7.5Lのものを使用した。反応槽10内の液温は14℃であった。散気管30には、エアーストーンを使用して、曝気量12L/分で常時曝気を行った。担体40は、ポリエチレングリコールで作製された円柱の粒状のものを使用した。担体40は、反応槽10の有効体積に対して5v/v%量を使用した。ろ過膜21は、膜細孔0.1μm、膜面積0.02mmのセラミック平膜(株式会社明電舎)2枚を反応槽10に装着した。ろ過条件として、フラックスは50LMH(L/m/時間)、SRT(Solid Retention Time、固形物滞留時間)は20日とし、9分間の連続ろ過を行い、1分間ろ過を休止する間欠運転を行った。逆洗は、6時間ごとにフラックスを8LMHとして1時間行った。逆洗では、洗浄液として、通常の水道水、ナノバブル発生器55(ultrafineGaLF、IDEC株式会社)を使用して通常の水道水中に空気からなるナノバブル61を発生させた液体(以下、ナノバブル水という)、及びナノバブル61を含まない次亜塩素酸ナトリウム水溶液(50ppm)を使用した。ナノバブル水には、ナノバブル61が約9,000万個/mL含まれていた。
【0027】
[実験例1]
(フラックス50LMHのMBRと通常の水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗)
上述の実施例同様に、通常の水道水(以下、水道水とする)、ナノバブル水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗を導入したMBRの連続処理実験を3日間行った。図3に各洗浄液におけるTMP(Trans-Membrane Pressure、膜間差圧)の経時変化を示した。逆洗に水道水を用いたMBRでは、TMPの上昇が非常に早く、2日間で安定したMBR装置の運転継続が困難となり運転を停止した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液又はナノバブル水を使用した逆洗を行ったMBRでは、6時間ごとに逆洗を行うとTMPが低下してTMPの上昇は抑制された。なお、ナノバブル水としてオゾンからなる気泡を用いた同様の実験を行ったところ、空気からなる気泡を用いた場合と比べ、TMPの上昇がさらに抑制される結果となった。
【0028】
[実験例2]
(フラックス60LMHのMBRと水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗)
上述の実験例のMBRの実施条件をフラックス60LMHに変更して、実施例1と同様に実験を行った。図4に各洗浄液におけるTMPの経時変化を示した。図3と比較すると、TMPの上昇速度は速くなった。水道水を使用した逆洗では、安定したMBR装置の運転継続が1日間で困難となり、運転を停止した。一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液又はナノバブル水を使用した逆洗を行ったMBRでは、6時間ごとに逆洗を行うと、図3と同様にTMPが低下してTMPの上昇は抑制された。
【0029】
[実験例3]
(水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液の活性汚泥に対する影響)
上述の実施例において使用した活性汚泥190mlに対し、実験例1同様の水道水、ナノバブル水、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.1mlを添加した。次に、その混合液を1時間撹拌した。次に、混合液を遠心分離し、上澄みを0.45μmのろ過膜でろ過した。次に、ろ液を採取して、DOC(Dissolved Organic Carbon、溶存有機炭素)濃度と、EEM(Excitation-Emission Matrix、励起-蛍光マトリクス)を測定した。
【0030】
図5に示すように、水道水を活性汚泥に添加した場合のDOC濃度は18.1mg/mlであった。ナノバブル水を活性汚泥に添加した場合のDOC濃度は15.8mg/mlであった。ナノバブル水を活性汚泥に添加した場合のDOC濃度は20.9mg/mlであった。次亜塩素酸ナトリウムを活性汚泥に添加した場合は、水道水の場合と比較してDOC濃度が上昇した。次亜塩素酸ナトリウムを活性汚泥に添加することで上昇したDOCが、膜ファウリングを促進させる原因となる可能性がある。ナノバブル水を活性汚泥に添加した場合は、水道水の場合と比較してDOC濃度の上昇は生じなかった。なお、ナノバブル水の場合と水道水の場合とを比較して、ナノバブル水の場合はDOC濃度が低下している。微量の残留塩素と測定誤差の影響を調べるため、別のMBR装置から採取した余剰汚泥を用いて追加実験を行ったところ、水道水又はナノバブル水を活性汚泥に添加した場合のDOC濃度の明確な差は見られなかった。ナノバブルは、活性汚泥と混合してもDOCの上昇を引き起こさないことから、膜ファウリングの発生を促進しない可能性がある。
【0031】
図6図8に示すEEMスペクトルにおいて、タンパク質(励起光波長200nm~250nm及び蛍光波長230nm~380nmの範囲内にピーク)、SMP(Soluble Microbial Products、溶解性微生物代謝産物)(励起光波長250nm~280nm及び蛍光波長250nm~380nmの範囲内にピーク)、及び腐食物質のフミン質(励起光波長280nm~500nm及び蛍光波長380nm~500nmの範囲内にピーク)の存在が示されている。図6及び図8を比較すると、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を活性汚泥に添加した場合は、水道水の場合と比較してSMPのピーク強度が上昇した。図6及び図7を比較すると、ナノバブル水を活性汚泥に添加した場合は、水道水の場合と比較してSMPに起因するピーク強度の変化は認められなかった。つまり、EEMの分析結果もナノバブルが活性汚泥に及ぼす影響は小さいことを示した。
【0032】
[実験例4]
(フラックス80LMHのMBRとナノバブル水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、又はナノバブルを含んだ次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗)
ナノバブル水、ナノバブル61を含まない次亜塩素酸ナトリウム水溶液、ナノバブル61を含んだ次亜塩素酸ナトリウム水溶液による6時間ごとの逆洗を導入したMBRの連続処理実験を3日間行った。図9に各洗浄液におけるTMPの経時変化を示した。ナノバブル61を含んだ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した逆洗を行ったMBRでは、ナノバブル61を含まない次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した逆洗を行ったMBRと比べて、より効果的にTMPが低下してTMPの上昇が抑制された。本実験例の結果より、ナノバブル61を含んだ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を洗浄液に使用することで逆洗による洗浄効果を高められることが分かった。つまり、ナノバブル61によって逆洗の効果を向上させることができることのみならず、さらにナノバブル61を薬剤(次亜塩素酸ナトリウム)と組み合わせることで、逆洗の効果のさらなる向上が見込めることが示された。
【0033】
実験例1、2及び4の結果に示すように、担体40のような固形の物体を用いた物理的な洗浄方法及び薬剤を用いた洗浄方法のいずれか一方又は両方とナノバブル61とを組み合わせることで、逆洗の効果がより高い膜洗浄方法又は水処理装置が実現可能である。
【0034】
<その他の変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0035】
上述の実施形態では、ナノバブル水と担体を使用して逆洗を行っているが、さらに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合して逆洗を行ってもよい。また、逆洗に通常使用される他の薬剤が使用されてもよい。このように薬剤を併用する場合でも、ナノバブル水を使用していることで逆洗の効果を高められる分、使用する薬剤の量を減らすことができる。
【0036】
上述の実施形態では、ろ過膜21は平膜を使用している。しかし、ろ過膜は、中空糸型、チューブ型等の適宜の形態としてもよい。また、ろ過膜の組み込みの方式については、シート型、スパイラル型、チューブラ型、モノリス型等の適宜の方式をろ過膜の形態に応じて用いてもよい。
【0037】
上述の実施形態では、洗浄液に含まれたナノバブル61と反応槽10内の懸濁液中の担体40とによって逆洗の効果が高められている。しかし、上述の通りファウリング物質100がナノバブル61によって剥離しやすい状態になることから、懸濁液中に担体40がなくても、ナノバブル61を含まない洗浄液を使用する場合と比べ、逆洗の効果を高めることが可能である。
【0038】
上述の実施形態で用いられる担体40は、ナノバブル61と併用することで逆洗の効果を高めるものである。これについて、担体40がかかる役割のみを担うものであってもよいし、その他の役割も含めて担うものであってもよい。例えば、上述の実施形態における役割と共に、懸濁液中の微生物を保持する役割を担体40が担っていてもよいし、担っていなくてもよい。
【0039】
上述の実施形態では、逆洗用の洗浄液として水道水が用いられている。しかし、膜モジュール20を透過した透過水を貯留しておき、その貯留しておいた透過水を洗浄液として使用してもよい。
【0040】
上述の実施形態では、ナノバブル61に係る気泡が空気、酸素、オゾン等の気体であるとしている。この場合、気泡は、空気単独、酸素単独又はオゾン単独によって構成されてもよいし、これらの気体のうち複数からなるものであってもよい。また、構成する気体が異なる複数種類の気泡がナノバブル61として同時に用いられてもよい。
【0041】
上述の実施形態に係る水処理装置1は、MBRに基づく水処理を実施するものである。しかし、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いた処理を行うその他の水処理に本発明が適用されてもよい。例えば、各種産業排水処理や、海水淡水化の前処理、浄水化のための水処理等において、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いたろ過処理を行う場合に本発明が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 水処理装置
21 ろ過膜
40 担体
50 逆洗部
55 ナノバブル発生器
100 ファウリング物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9