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  • 特開-クロロフィル分解酵素阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141426
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】クロロフィル分解酵素阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/99 20060101AFI20220921BHJP
   A23B 9/30 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C12N9/99
A23B9/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041725
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】前仲 勝実
(72)【発明者】
【氏名】乙黒 聡子
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169AA04
4B169HA01
4B169KA07
4B169KC16
(57)【要約】
【課題】クロロフィル分解酵素への阻害効果を有するクロロフィル分解酵素阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩を有効成分として含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩を有効成分として含む、クロロフィル分解酵素阻害剤。
【請求項2】
前記金属が、亜鉛、銅またはコバルトである、請求項1に記載のクロロフィル分解酵素阻害剤。
【請求項3】
前記金属の塩を有効成分として含み、
前記金属の塩が、前記金属の硫酸塩、酢酸塩またはアンモニウム塩である、請求項1または2に記載のクロロフィル分解酵素阻害剤。
【請求項4】
前記金属の塩が硫酸塩である、請求項3に記載のクロロフィル分解酵素阻害剤。
【請求項5】
前記金属イオンの錯体または前記金属の塩を有効成分として含み、
前記金属が亜鉛である、請求項1に記載のクロロフィル分解酵素阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロロフィル分解酵素阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体は、クロロフィルが分解されることで黄化することが知られている。植物体に含まれる緑色光合成色素クロロフィルは、成熟した植物体内で発現するクロロフィル分解酵素によって分解されることが分かっている(非特許文献1)。
【0003】
これに関し、クロロフィルの分解を抑制するための様々な方法が検討されている。例えば、低温に保つことでクロロフィル分解酵素の活性を抑制する方法、およびクロロフィル分解酵素の発現を誘導するエチレンを除去することでクロロフィル分解酵素の発現を抑制する方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shimoda Y, Ito H, Tanaka A (2016) Arabidopsis STAY-GREEN, Mendel’s green cotyledon gene, encodes magnesium-dechelatase. The Plant Cell 28: 2147-2160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の植物への適用を考慮した場合、低温に保つ方法およびエチレンを除去する方法は、特別な設備を要するうえ、屋外の植物には利用できないといった問題がある。また、クロロフィル分解酵素は近年発見されたばかりであり、その立体構造、作用機構などはいずれも未解明である。特に、クロロフィル分解酵素に対する阻害剤は知られていない。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、クロロフィル分解酵素への阻害効果を有するクロロフィル分解酵素阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩を有効成分として含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クロロフィル分解酵素への阻害効果を有するクロロフィル分解酵素阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る実施例の結果を示す図である。
図2】本発明に係る実施例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<クロロフィル分解酵素阻害剤>
本実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩を有効成分として含む。
【0011】
本明細書において、「クロロフィル分解酵素」とは、クロロフィルの分解反応を触媒する酵素を指す。このクロロフィル分解酵素が触媒するクロロフィルの分解反応は、クロロフィルの分子の中心に位置するマグネシウム原子が脱離してプロトンと置換されることによって、クロロフィルがフェオフィチンに変換される反応である。
【0012】
また、本明細書において、「クロロフィル分解酵素阻害剤」とは、クロロフィル分解酵素の機能を阻害する活性(以下、「クロロフィル分解酵素阻害活性」と記載する)を有する阻害剤を意図する。
【0013】
〔有効成分〕
本実施形態における有効成分は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩である。
【0014】
本実施形態における金属イオンを形成する金属元素は、上に挙げた中でも亜鉛、銅またはコバルトであることが好ましく、亜鉛または銅であることがより好ましく、亜鉛であることがさらに好ましい。有効成分が金属イオンの錯体または金属の塩である場合には特に、金属イオンを形成する金属元素は、亜鉛であることが好ましい。
【0015】
本実施形態における「金属イオンの錯体」は、金属イオンを中心原子とした錯体を指す。なお、本明細書における「錯体」には、錯イオンおよび錯塩(錯化合物)のいずれも含まれる。
【0016】
本実施形態における錯体において、中心原子に配位する配位子としては例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、リン原子およびハロゲン原子のイオン;水分子;アミン化合物;ニトリル化合物;炭素数1~20の炭化水素化合物;芳香族化合物;縮合環化合物;複素環化合物;ホスフィン化合物;カルボニル化合物;およびシアン化合物などを挙げることができるが、これに限られない。
【0017】
本実施形態において、金属の塩は硫酸塩、酢酸塩またはアンモニウム塩であることが好ましく、硫酸塩または酢酸塩であることがより好ましく、硫酸塩であることがさらに好ましい。
【0018】
さらに、本実施形態における金属の塩は、上述の化合物の誘導体であってもよい。本明細書において、「誘導体」とは、特定の化合物に対して、当該化合物の分子内の一部が、他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる化合物群を意図する。
【0019】
上記他の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基およびニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子およびハロゲン原子などが挙げられる。
【0020】
本実施形態における有効成分として特に好ましい金属の塩としては、例えば、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、硫酸銅(II)、硫酸コバルトおよび酢酸亜鉛などを挙げることができるが、これに限らない。
【0021】
本実施形態における有効成分の特に好ましい金属イオンの錯体としては、例えば、ジンクピリチオン、(トルエン-3,4-ジチオラト)亜鉛(II)、銅(II)アセチルアセトナート、フタロシアニン銅およびビス(8-キノリノラトラト)亜鉛(II)などを挙げることができるが、これに限らない。
【0022】
上記クロロフィル分解酵素阻害剤中に含まれる有効成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、1μM以上であることが好ましく、10μM以上であることがより好ましく、100μM以上であることがさらに好ましい。なお、シロイヌナズナ由来のクロロフィル分解酵素を阻害する場合においては、当該濃度は、10μM以上であることが好ましく、100μM以上であることがより好ましく、1000μM以上であることがさらに好ましい。また、有効成分の濃度は、製剤のしやすさの観点からは、1M以下であることが好ましく、100mM以下であることがより好ましく、10mM以下であることがさらに好ましい。特に、有効成分の濃度が1000μM以上10mM以下の場合には、特に優れた阻害効果が得られるため好ましい。
【0023】
本実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、有効成分として、上述したものの中の1つを含んでいてもよいし、当該クロロフィル分解酵素阻害剤のクロロフィル分解酵素阻害活性が妨げられなければ、複数を含んでいてもよい。
【0024】
〔その他の成分〕
本実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、当該クロロフィル分解酵素阻害剤のクロロフィル分解酵素阻害活性が妨げられなければ、上述の有効成分とは異なる成分が含まれていてもよい。上記異なる成分としては、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤および安定化剤などを挙げることができる。これらは、クロロフィル分解酵素阻害剤の剤型または用途に応じて、1つまたはそれ以上を組み合わせて選択することができる。
【0025】
典型的には、本実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤には、有効成分のほか、固体担体または液体担体(希釈剤)が含まれる。
【0026】
液体担体としては、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール)、ケトン類(例えば、アセトン)、炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、エステル類(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル)、および酸アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド)などが挙げられる。
【0027】
固体担体としては、粘土類(例えば、カオリナイト、珪藻土)、タルク類、その他の無機鉱物(例えば、炭酸カルシウム、活性炭、水和シリカ)、化学肥料(例えば、硫安、塩安、燐安、尿素)および有機物(例えば、サトウキビ、タバコ茎末)等の微粉末あるいは粒状物が挙げられる。
【0028】
上記クロロフィル分解酵素阻害剤中に含まれる異なる成分の含有量については、クロロフィル分解酵素阻害活性が妨げられなければ特に限定されない。
【0029】
<製剤>
本実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、所望の濃度となるように、上述の有効成分を固体担体または液体担体(希釈剤)、界面活性剤およびその他の製剤補助剤などと混合して粉剤、水和剤、粒剤および乳剤などの種々の形態に製剤することで調製することができる。
【0030】
<クロロフィル分解酵素阻害剤の効果>
本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、クロロフィル分解酵素がクロロフィルの分解反応を触媒する機能を阻害するクロロフィル分解酵素阻害活性を有している。そのため、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、クロロフィル分解酵素の存在下においても、クロロフィルの分解反応を抑制することができる。
【0031】
また、植物はクロロフィルにおける光吸収により緑色を示すが、クロロフィル分解酵素によって分解されて生じるフェオフィチンによる光吸収では植物は緑色を示さない。これを利用すれば、本発明の一実施形態に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、クロロフィル分解酵素の存在下においても、クロロフィルの光吸収によってもたらされる緑色を維持することができる。そのため、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、例えば、芝生、観賞用の植物、あるいは緑色野菜の変色の防止剤としての利用が可能である。
【0032】
さらに、近年、イネにおいて、遺伝子操作によりクロロフィル分解酵素の発現時期を遅らせ、緑色を長く維持することにより、コメの収量が増加したことが報告されている(非特許文献:Shin, D. et al. (2020) Natural variations at the Stay-Green gene promoter control lifespan and yield in rice cultivars. Nature Communications 11: 2819)。上述の通り、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤によれば、植物体の緑色を長く維持することができる。よって、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、果実および種子等の収量を増加させる生長調節剤としての利用が可能である。
【0033】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
<まとめ>
上述の通り、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、亜鉛、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選択される金属の金属イオン、当該金属イオンの錯体または当該金属の塩を有効成分として含む。
【0035】
また、前記金属は、亜鉛、銅またはコバルトであることが好ましい。
【0036】
また、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、前記金属の塩を有効成分として含み、前記金属の塩が、前記金属の硫酸塩、酢酸塩またはアンモニウム塩であることが好ましい。
【0037】
また、前記金属の塩は硫酸塩であることが好ましい。
【0038】
また、本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、前記金属イオンの錯体または前記金属の塩を有効成分として含み、前記金属が亜鉛であることが好ましい。
【0039】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0040】
1.準備
FATTタグベクターを用意し、FATTタグの下流側に、プロリンと、トリプトファンと、葉緑体移行シグナルに該当するN末端側の48アミノ酸を削除したシロイヌナズナのクロロフィル分解酵素発現遺伝子AtSGR1(AT4G22920)とを下流に向かってこの順に導入した。これをpETプラスミド(pET30a(+)、Novagen社)に組み込み、さらに大腸菌(BL21(DE3))に導入した。大腸菌をオートインダクション培地に播種して37℃で16時間培養し、クロロフィル分解酵素を誘導させた。10,000gで5分間遠心してペレットを回収した。
【0041】
回収したペレットを緩衝液A(20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)、100mM NaClおよび20mMイミダゾールの混合液)に懸濁し、超音波破砕機(Sonifier250、Branson社)で6分間処理した。
【0042】
処理後の溶液に、n-ドデシル-β-D-マルトシド(βDM)を0.05%になるように加え、20,000gで10分間遠心した。上清をニッケルカラム(HisTraP、Cytiva社)に通した後、0.05%βDMを含む緩衝液Aで洗浄した。
【0043】
洗浄後、緩衝液B(20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)、100mM NaCl、500mMイミダゾールおよび0.05%βDMの混合液)を徐々に加え、濃度を段階的に上げることによりクロロフィル分解酵素を溶出させた。これを、クロロフィル分解酵素溶出液Iとした。
【0044】
また、シロイヌナズナのクロロフィル分解酵素発現遺伝子AtSGR1(AT4G22920)に代えて、当該遺伝子に相同なAnaerolineae bacterium SM23-63の遺伝子(KPK94580)をpETプラスミド(pET30a(+))に組み込んだ。その後、クロロフィル分解酵素溶出液Iと同様にして、クロロフィル分解酵素溶出液IIを得た。
【0045】
2.クロロフィル分解酵素阻害活性の確認
〔実施例1〕
クロロフィル分解酵素溶出液I 40μLと、色素液(50μMクロロフィルa、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)、100mM NaClおよび0.05%βDM)10μLとを混合した。この混合液に、クロロフィル分解酵素阻害剤として1mM硫酸マンガン水溶液5μLを加え、硫酸マンガンを100μMの濃度で含む反応液を調製した。この反応液を37℃で30分反応させた後、アセトン200μLを加えて反応を停止させた。
【0046】
混合液に加える硫酸マンガン水溶液の濃度を10mMに変更して調製した、硫酸マンガンを1000μMの濃度で含む反応液についても、同様に反応を行った。
【0047】
〔実施例2〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸コバルトを用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0048】
〔実施例3〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸ニッケルを用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0049】
〔実施例4〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸銅(II)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0050】
〔実施例5〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸亜鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0051】
〔実施例6〕
クロロフィル分解酵素阻害剤として、硫酸マンガン水溶液5μLに代えて、10mMおよび100mMジンクピリチオンDMSO溶液0.5μLずつを用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0052】
〔実施例7〕
クロロフィル分解酵素阻害剤として、硫酸マンガン水溶液5μLに代えて、10mMおよび100mMビス(8-キノリノラトラト)亜鉛(II)DMSO溶液0.5μLずつを用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0053】
〔実施例8〕
クロロフィル分解酵素溶出液II 0.5μLを、BugBuster(登録商標) Protein Extraction Reagent(Novagen社)40μLと混ぜた。さらにこの溶液を、クロロフィルaを50μMの濃度で含むBugBuster Protein Extraction Reagent 10μLと混合した。この混合液に、クロロフィル分解酵素阻害剤として0.1mM硫酸マンガン水溶液0.5μLを加え、硫酸マンガンを1μMの濃度で含む反応液を調製した。この反応液を25℃で10分反応させた後、アセトン200μLを加えて反応を停止させた。
【0054】
混合液に加える硫酸マンガン水溶液の濃度を1mMおよび10mMに変更して調製した、硫酸マンガンを10μMおよび100μMの濃度で含む反応液についても、それぞれ同様に反応を行った。
【0055】
〔実施例9〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸コバルトを用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0056】
〔実施例10〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸ニッケルを用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0057】
〔実施例11〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸銅(II)を用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0058】
〔実施例12〕
硫酸マンガンに代えて、硫酸亜鉛を用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0059】
〔実施例13〕
クロロフィル分解酵素阻害剤として、硫酸マンガン水溶液0.5μLに代えて、0.1mM、1mMおよび10mMジンクピリチオンDMSO溶液0.5μLずつを用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0060】
〔実施例14〕
クロロフィル分解酵素阻害剤として、硫酸マンガン水溶液0.5μLに代えて、0.1mM、1mMおよび10mMビス(8-キノリノラトラト)亜鉛(II)DMSO溶液0.5μLずつを用いたこと以外は、実施例8と同様に操作を行った。
【0061】
〔比較例1~14〕
実施例1~14においてクロロフィル分解酵素阻害剤を加えずに反応させたこと以外は、それぞれ、実施例1~14と同様の操作を行った。
【0062】
〔比較例15および16〕
クロロフィル分解酵素阻害剤としての硫酸マンガンに代えて、モリブデン酸アンモニウムを用いたこと以外は、実施例1および8と同様に操作を行った。さらに、モリブデン酸アンモニウムを加えない反応液についても同様に反応を行った。
【0063】
3.分析
反応を停止した各溶液を、20,000gで10分間遠心し、上清を高速液体クロマトグラフィーで分析した。クロロフィル分解酵素によるクロロフィル分解反応の反応産物としてフェオフィチンを検出するため、蛍光検出器(RF-20A、島津製作所)を用いて410nmの励起光を照射し、680nmでの蛍光強度を測定した。クロマトグラムの面積を用い、比較例1~14の反応産物量を1.0として、対応する実施例のフェオフィチン量の相対量を求めた。比較例15および16では、モリブデン酸アンモニウムを加えなかった場合の反応産物量を1.0として、他の反応液でのフェオフィチン量の相対量を求めた。実施例1~7、比較例1~7および15の結果を図1に示す。また、実施例8~14、比較例8~14および16の結果を図2に示す。なお、図1および2中のMo、Mn、Co、Ni、CuおよびZnは、それぞれ、クロロフィル分解酵素阻害剤に含まれる金属イオンの元素を示している。Zn-PおよびBi-Znは、それぞれ、ジンクピリチオンおよびビス(8-キノリノラトラト)亜鉛(II)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るクロロフィル分解酵素阻害剤は、例えば、芝生、観賞用の植物、あるいは緑色野菜の変色の防止剤としての利用が見込める。
図1
図2