(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141464
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】記憶更新機能及び切り替え機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20220921BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20220921BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A23L33/19
A61K35/20
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041782
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】津田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 佳絵
(72)【発明者】
【氏名】神田 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 佳織
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆太
(72)【発明者】
【氏名】野内 類
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD20
4B018MD71
4B018ME14
4B018MF02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB39
4C087CA07
4C087CA16
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA15
(57)【要約】
【課題】認知機能のどの側面に影響しているかが明らかな、認知機能改善用組成物を提供する。
【解決手段】タンパク質、好ましくは乳タンパク質を有効成分とする、実行機能改善用組成物を提供する。この組成物は、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善のために用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含む、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善用組成物。
【請求項2】
タンパク質が、乳タンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1回摂取量当たり10g以上のタンパク質を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
1回摂取量当たり15g以上のタンパク質を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
勉強・学習、試験、実験、読書、料理、運動、コミュニケーション、プレゼンテーション・発表、資料・記録作成、計算・解析作業、パソコン作業、乗り物の操縦・管理、物の組立・整備作業からなる群のいずれかを実施する前に摂取させるための、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
タンパク質を含む、勉強・学習、試験、実験、読書、料理、運動、コミュニケーション、プレゼンテーション・発表、資料・記録作成、計算・解析作業、パソコン作業、乗り物の操縦・管理、物の組立・整備作業からなる群のいずれかを実施する能力の改善用組成物。
【請求項7】
乳を原料とする、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善のための、医薬品素材又は食品素材の製造方法。
【請求項8】
乳タンパク質濃縮物を含む、実行機能改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶更新機能及び切り替え機能を改善するための組成物に関する。本発明は、食品製造、医薬品製造、健康増進等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、若者を中心に朝食の欠食率が増加している。平成26年の国民健康・栄養調査結果によると、朝食の欠食率は男性14.3%、女性10.5%であり、性・年齢階級別にみると、男女ともに20代で最も高く、男性37.0%、女性23.5%である。朝食の欠食は、学業成績や認知機能の低下に関連することが報告されている。また、近年の少子高齢化社会においては、老化に伴い低下する認知機能をいかに維持・向上させるかということにも関心が高まっており、認知機能に関与する食品や成分に関する検討が進められつつある。
【0003】
例えば特許文献1は、ホエイやカゼインのタンパク質加水分解物から得られる特定の配列を有するペプチドを記憶障害を誘発したマウスに投与したところ短期記憶が保持されたことに基づき、特定のアミノ酸配列を有するペプチド、又はこれらの薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を含有することを特徴とする、記憶学習機能及び/又は認知機能を増強するための組成物を提案する。特許文献2は、中鎖脂肪酸トリグリセリド等を含む組成物を健常高齢者に摂取させたところ、血中ケトン体の濃度上昇とともにトレイルメイキングテストでの成績向上等が観察されたことを報告する。そしてそのような実験結果に基づき、100重量部あたり、タンパク質を12.5~20重量部、脂質としての中鎖脂肪酸トリグリセリドを35~45重量部、及び炭水化物を7~12重量部含有する粉末状の脳機能改善剤であって、前記タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン及びラクトフェリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質であり、前記炭水化物が、乳糖、パラチノース、トレハルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の炭水化物であり、1日あたり45~55g適用される、脳機能改善剤を提案する。また、特許文献3は、カゼインの酵素分解物中に含まれるMet-Lys-Proからなるペプチドを含む試料を脳機能障害のモデルマウスに投与したところ記憶能力の低下が改善されたことに基づき、当該ペプチドを有効成分として含有する、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善用経口組成物を提案する。特許文献4は、ホエイ分解物含有タブレットを摂取させた被験者において、語流暢性試験およびストループ試験の成績が向上したことからホエイ分解物は注意機能や判断機能(実行機能)を向上させると考察している。そして乳タンパク質酵素分解物を有効成分として含んでなる、注意機能および/ または判断機能の向上、維持および/ または改善用組成物を提案する。さらに、非特許文献1は、牛乳・乳製品摂取によるアルツハイマー性認知症発症リスク低減効果について報告している。
【0004】
一方、本出願人らは、乳タンパク質濃縮物を含む飲料を朝食非摂取の健康な18歳~24歳の男子学生に摂取させて内田クレペリン検査のスコアにより評価したところ、知的作業能力を有意に高める効果が見られたことを報告してきた(非特許文献2、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2015/194564(特許第6022738号)
【特許文献2】国際公開WO2016/013617(特許第6609555号)
【特許文献3】特開2018-154640号公報(特許第6589011号)
【特許文献4】特開2020-11908号公報
【特許文献5】特開2018-184369号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ozawa、M., Ohara, T., Ninomiya, M. T., Hata, J., Yoshida, E., Mukai, N., Nagata, M., Uchida, K., Shirota, T., Kitazono, T., and Kiyohara. Y. (2014) Milk and dairy consumption and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. Journal of the American Geriatrics Society 62, 1224-1230. doi:10.1111/jgs.12887
【非特許文献2】Saito, Y., Murata, N., Noma, T., Itoh, H., Kayano, M., Nakamura, K., and Urashima, T. (2018). Relationship of a Special Acidified Milk Protein Drink with Cognitive Performance: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Crossover Study in Healthy Young Adults. Nutrients, 10(5), 574. doi:10.3390/nu10050574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
認知機能には、理解、判断、論理などの様々な知的機能が含まれる。有効成分が認知機能のどの側面に影響しているかがより具体的に明らかになれば、より適した用い方ができると考えられる。また、有効成分の摂取による効果の時間的推移が明らかになれば、適したタイミングでの摂取が可能となり、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ある有効成分の摂取が認知機能に及ぼす効果を、認知機能の具体的な側面、及び効果の時間的推移に着目して検討し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下を提供する。
[1] タンパク質を含む、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善用組成物。
[2] タンパク質が、乳タンパク質である、1に記載の組成物。
[3] 1回摂取量当たり10g以上のタンパク質を含む、1又は2に記載の組成物。
[4] 1回摂取量当たり15g以上のタンパク質を含む、1から3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 勉強・学習、試験、実験、読書、料理、運動、コミュニケーション、プレゼンテーション・発表、資料・記録作成、計算・解析作業、パソコン作業、乗り物の操縦・管理、物の組立・整備作業からなる群のいずれかを実施する前に摂取させるための、1から5のいずれか1項に記載の組成物。
[6] タンパク質を含む、勉強・学習、試験、実験、読書、料理、運動、コミュニケーション、プレゼンテーション・発表、資料・記録作成、計算・解析作業、パソコン作業、乗り物の操縦・管理、物の組立・整備作業からなる群のいずれかを実施する能力の改善用組成物。
[7] 乳を原料とする、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善のための、医薬品素材又は食品素材の製造方法。
[8] 乳タンパク質濃縮物を含む、実行機能改善用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物を摂取させることにより、認知機能の一つである実行機能、特に認知機能の一つである実行機能内の記憶更新機能及び切り替え機能が改善され得る。
【0011】
本発明の組成物を摂取させることにより、DIY、プログラミング、記録作成、車の運転、読書、料理、スポーツからなる群のいずれかを実施する能力が改善され得る。
【0012】
本発明により、実行機能、特に記憶更新機能及び切り替え機能の改善のために有効成分を用い得る。また目的の機能の改善のために適したタイミングで、有効成分を摂取できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】加減算検査の成績。縦軸は反応時間(秒)である。反応時間が短いほど切り替え機能が優れている。摂取15分後の時点で、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短くなり、また乳タンパク質低含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短くなった。なお、乳タンパク質低含有飲料摂取群と乳タンパク質高含有飲料摂取群との間に有意な差はなかった。さらに、摂取60分後の時点では、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短くなった。
【
図2】記憶更新検査での正答率。縦軸は正答率である。正答率が高いほど記憶更新機能が優れている。摂取15分後の時点では群間で有意な差は見られなかった。しかしながら、摂取60分後の時点では、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に正答率が高く、また乳タンパク質低含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に正答率が高かった。なお、乳タンパク質低含有飲料摂取群と乳タンパク質高含有飲料摂取群との間に有意な差はなかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、認知機能を改善するための組成物に関する。
【0015】
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分として、タンパク質を含む。タンパク質は、動物性タンパク質であることが好ましく、乳タンパク質であることがより好ましい。
【0016】
乳タンパク質とは、乳由来のタンパク質をいう。本発明に用いる、乳タンパク質の例は、乳濃縮物、総乳タンパク質(TMP)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質単離物(WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、カゼイン、およびこれらの混合物、並びにそれらのいずれかの加水分解物である。好ましい例は、乳濃縮物、乳タンパク質濃縮物(MPC)、総乳タンパク質(TMP)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質単離物(WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、およびラクトフェリンであり、より好ましい例は、乳タンパク質濃縮物(MPC)である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、生乳、牛乳もしくは特別牛乳または脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を除去したもの)もしくは部分脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を部分的に除去したもの)を濃縮したものであって、例えば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する厚生省省令」に規定される濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%以上であり、乳脂肪分が7.0%以上であるもの)や、脱脂濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%以上であり、細菌数(標準平板培養法で1g当たり)が100,000以下であるもの。)のみならず、「生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%未満であるもの(以下「省令外濃縮乳」という。)」、「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%未満であるもの(以下「省令外脱脂濃縮乳」という。)」等でもあり得るが、乳タンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate、MPC)であることが好ましい。なお、生乳、牛乳、特別牛乳、脱脂乳および部分脱脂乳をまとめて「原料乳」と称することがある。
【0018】
また、乳濃縮物は、全固形分の20質量%あたり、9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内のタンパク質、0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内の灰分、0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内のナトリウム(Na)、0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内のカリウム(K)、0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内のカルシウム(Ca)、0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内のマグネシウム(Mg)、0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内のリン(P)および0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内の塩素(Cl)を含む。
【0019】
なお、乳濃縮物のタンパク質の含有量は、全固形分の20質量%あたり、10.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、10.5質量%以上15.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、11.0質量%以上15.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、11.5質量%以上14.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、12.0質量%以上14.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、12.5質量%以上13.5質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0020】
また、乳濃縮物の灰分の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.50質量%以上1.55質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.55質量%以上1.50質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.60質量%以上1.50質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.65質量%以上1.45質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.70質量%以上1.45質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
また、乳濃縮物のナトリウム(Na)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.01質量%以上0.09質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.01質量%以上0.08質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.02質量%以上0.08質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.02質量%以上0.07質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
また、乳濃縮物のカリウム(K)の含有量は、ナトリウム(Na)の含有量にもよるが、全固形分の20質量%あたり、0.05質量%以上0.38質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.05質量%以上0.36質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.06質量%以上0.34質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.06質量%以上0.32質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。なお、カリウム(K)の含有量は、ナトリウム(Na)の含有量の3倍以上4倍以下であることが好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.2倍以上3.9倍以下であることがより好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.4倍以上3.8倍以下であることがさらに好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.6倍以上3.7倍以下であることが特に好ましい。
【0023】
また、乳濃縮物のカルシウム(Ca)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.15質量%以上0.36質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.16質量%以上0.34質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.17質量%以上0.32質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.18質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0024】
また、乳濃縮物のマグネシウム(Mg)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.00質量%超0.02質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.00質量%超0.01質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0025】
また、乳濃縮物のリン(P)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.10質量%以上0.24質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.11質量%以上0.24質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.12質量%以上0.23質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.13質量%以上0.23質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0026】
また、乳濃縮物の塩素(Cl)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.01質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.03質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.05質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.07質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0027】
さらに、乳濃縮物の全固形分の含有量は、通常では、14質量%以上22質量%以下の範囲内であり、16質量%以上22質量%以下の範囲内であることが好ましく、18質量%以上22質量%以下の範囲内であることがより好ましく、20質量%以上22質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0028】
また、乳濃縮物の130℃における熱凝固時間(乳濃縮物に凝固物が発生するまでの時間や、乳濃縮物の粘度が上昇するまでの時間)は、2分間以上であることが好ましく、4分間以上であることがより好ましく、6分間以上であることがさらに好ましく、8分間以上であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の実施の形態に係る乳タンパク質濃縮物(MPC)は、ホエイの主要なタンパク質などを限外ろ過(Ultrafiltration:UF)法などで濃縮処理した後に乾燥処理して得られるものである。
【0030】
乳タンパク質濃縮物のタンパク質の含有量は、他の成分の含有量に拠らず、40.0質量%以上97.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、50.0質量%以上95.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、60.0質量%以上92.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、70.5質量%以上90.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
乳タンパク質濃縮物の脂質の含有量は、他の成分の含有量に拠らず、0.25質量%以上5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.75質量%以上3.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
乳タンパク質濃縮物の炭水化物(糖質+食物繊維)の含有量は、他の成分の含有量に拠らず、3.5質量%以上9.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以上9.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、5.5質量%以上8.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、6.0質量%以上8.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0033】
乳タンパク質濃縮物の水分の含有量は、他の成分の含有量に拠らず、2.0質量%以上6.1質量%以下の範囲内であることが好ましく、3.0質量%以上5.9質量%以下の範囲内であることがより好ましく、4.0質量%以上5.7質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、4.5質量%以上5.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0034】
また、乳タンパク濃縮物の灰分の含有量は、他の成分の含有量に拠らず、3.5質量%以上9.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以上9.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、5.5質量%以上8.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、6.0質量%以上8.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0035】
乳濃縮物、及び乳タンパク質濃縮物は、調製粉乳、飲料、発酵乳、アイスクリーム等の種々の乳製品の有用な原料として利用されており、このような市販のものを、本発明の有効成分としてもちいてもよい。
【0036】
乳濃縮物の製造方法としては、例えば、特表2010-502182号公報、特開2011-024589号公報、特開2018-38359号公報、特開2018-38360号公報、特開2018-38361号公報を参照することができる。
【0037】
乳タンパク質濃縮物の製造方法としては、例えば、特開2018-38359号公報、特開2018-64481号公報、特開2018-64482号公報を参照することができる。
【0038】
[用途]
(実行機能の改善)
本発明の組成物は、認知機能の一つである実行機能改善のために用いることができる。実行機能は、更新機能(updating, 記憶更新機能)、切り替え機能(shifting)、及び抑制機能(inhibiting)を含む。本発明の組成物は、より特定すると、記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善のために用いることができる。
【0039】
(記憶更新機能)
本発明の組成物は、記憶更新機能の改善のために用いることができる。記憶更新機能とは、タスクを実行するときに動作を監視して、計画に従ってタスクが確実に完了するようにする力、会話などで聞いた情報を更新する力をいう(Miyake, A., Friedman, N. P., Emerson, M. J., Witzki, A. H., Howerter, A., Wager, T. D. (2000). The unity and diversity of executive functions and their contributions to complex "Frontal Lobe" tasks: a latent variable analysis. Cognitive Psychology 41, 49-100. doi:10.1006/cogp.1999.0734)、https://www.cognifit.com/science/cognitive-skills/updating)。
【0040】
記憶更新機能を必要とする作業の例として、DIYにおいて、間違いがないよう注意しながら材料を適切に切断し、及び配置する作業(例えば、本棚を作成する際に、間違いがないよう注意しながら適切に木材をカットし、配置する作業)、プログラマーが間違いがないように気を付けながらコードを入力する作業、講義や会議でメモを取るときに間違いがないように注意しながら書く作業、車の運転の際に注意しながら正しい方面へ車を進める作業、比較的長い文章を読む際(例えば、読書)に、ひとつ前の文の情報をもとに次の文を理解する作業、数学等の勉強・学習、又は試験を受けているとき、正しい数を書き留めていることに注意を払い、エラーを監視・検出する作業が挙げられる。これら以外に、記憶更新機能は、料理、スポーツ、歯磨き、服の脱着など、毎日の活動の多くの場面で必要とされる。
【0041】
ある成分の記憶更新機能の改善の有無、又はその程度は、当業者であれば種々の方法で評価することができる。例えば、適切な被験者にその成分を摂取させ、記憶更新検査(4から10桁の数字列がランダムに提示され、数字列の最後の3桁(もしくは4桁)の数字を回答する。)を行い、その成績が摂取前と比較して変化したか否かで評価することができる(Fiore, F., Borella, E., Mammarella, I. C., and De Beni, R. (2012). Age differences in verbal and visuo-spatial working memory updating: Evidence from analysis of serial position curves. Memory 20, 14-27. doi:10.1080/09658211.2011.628320, Morris, N., and Jones, D. M. (1990). Memory updating in working memory: The role of the central executive. British Journal of Psychology 81, 111-121. doi:10.1111/j.2044-8295.1990.tb02349.x.)。
【0042】
(切り替え機能)
本発明の組成物は、切り替え機能の改善のために用いることができる。切り替え機能とは、新しい状況や予期しない変化などに適応する力、臨機応変に対応する力をいう(前掲Miyake et al.(2000)、及びhttps://www.cognifit.com/science/cognitive-skills/shifting)。
【0043】
切り替え機能を必要とする作業の例として、朝食を食べようとして食材がないことに気づいたとき、どうするか考える作業、雨や電車遅延などでいつもの通勤手段が使えないとき、どうするか考える作業、会話の相手が会話を中断したときにその理由について考えること、ドアベルを鳴らしても反応がなかったときに連絡を取るための他の方法を検討することが挙げられる。
【0044】
切り替え機能の改善の有無、又はその程度は、当業者であれば種々の方法で確認することができる。例えば、適切な被験者にその成分を摂取させ、加減算検査(一桁の加算のみを実施する試行と一桁の減算のみを実施する試行と一桁の加算と減算を交互に実施する試行を行う。)を行い、その成績が摂取前と比較して変化したか否かで評価することができる(Spector, A., and Biederman, I. (1976). Mental set and mental shift revisited. Am. J. Psychol. 89, 669-679. doi: 10.2307/1421465, Liang Y, Huo M, Kennison R and Zhou R (2017) The Role of Cognitive Control in Older Adult Cognitive Reappraisal: Detached and Positive Reappraisal. Front. Behav. Neurosci. 11:27. doi: 10.3389/fnbeh.2017.00027)。
【0045】
(具体例)
したがって本発明の組成物は、勉強・学習、試験、実験、読書、料理、運動、コミュニケーション、プレゼンテーション・発表、資料・記録作成、計算・解析作業、パソコン作業、乗り物の操縦・管理、物の組立・整備作業を実施する能力の改善のために用いることができる。コミュニケーションは生物間で行われる知覚・感情・思考のやりとりをいい、原語によるものと非言語によるものを含み、直接対面によるものと、通信(離れた場所にいるものとのコミュニケーション一般)を含む。パソコン作業は、プログラミング、ゲームを含む。物の組立・整備作業は、大工作業、DIYを含む。乗り物の操縦・管理は、車の運転を含む。運動は、エクササイズ、スポーツを含む。
【0046】
本発明の組成物は、認知機能の改善のための他の療法と一緒に行われる場合であっても、用いることができる。
【0047】
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物又は医薬組成物とすることができる。食品及び医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0048】
(対象)
本発明の組成物は、実行機能の改善を行いたい対象に、投与するのに適している。このような対象には、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、子ども、乳幼児、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。また乳タンパク質を有効成分とする態様の組成物は、食経験の長い乳由来であるため、繰り返しの摂取や長期間の摂取にも適しており、日常的に実行機能を高く保つことが重要な作業を行う者に、特に適している。
【0049】
(経路)
本発明の組成物は、経口的に摂取するのに適している。経口以外の他の経路の例としては、例えば、経腸投与、鼻腔投与、口腔投与、舌下投与、皮膚投与、皮下注射、筋肉内注射、皮内注射、腹腔内注射、静脈内注射、動脈内注射、硬膜外注射、腫瘍内注射、関節腔内注射、直腸投与、膣投与、冠動脈内投与、肝動脈内投与、門脈内投与、眼投与、脳室内投与、気道内投与、膀胱内注入、歯肉注入が挙げられる。
【0050】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、有効成分であるタンパク質の含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量又は摂取量を適宜設定することができるが、1投与又は1食あたり、すなわち一回量あたりの有効成分の量は、例えば1g以上とすることができ、5g以上とすることが好ましく、10g以上とすることがより好ましく、15g以上とすることがさらに好ましく、20g以上とすることがさらに好ましい。一回量あたりの有効成分の量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、50g以下とすることができ、40g以下としてもよく、30g以下としてもよく、25g以下としてもよい。
【0051】
組成物は、一日1回の投与としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。また乳タンパク質を有効成分とする態様の組成物は、食経験の長いタンパク質を有効成分としているため、繰り返し、又は長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。好ましくは、目的の効果を発揮したい作業の前に、数分前から数時間前、例えば5分前から2時間前、10分前から90分前、好ましくは15分前から60分前に、目的の効果が発揮されるのに十分な量を投与するようにするとよい。
【0052】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品又は医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0053】
また組成物は、食品又は医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0054】
(剤型・形態)
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。
【0055】
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チョコレート、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、液体ミルク、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0056】
摂取が容易であるとの観点からは、飲料の形態であることが好ましい。
【0057】
組成物中における、有効成分の濃度は、2.0質量%以上とすることができ、3.0質量%以上含有されていることがより好ましく、3.5質量%以上含有されていることがさらに好ましい。上限は例えば10質量%である。
【0058】
組成物には所定濃度以下の糖質が含まれていてもよく、その含有量は特に限定されないが、例えば0質量%超9質量%以下の範囲内であることが好ましい。なお、糖質賭してブドウ糖が含まれる場合、その含有量は0質量%超8質量%以下の範囲内であることが好ましい。また、組成物は、脂質を含まないか、または脂質を1質量%未満で含むことが好ましい。
【0059】
組成物の一単位の質量は特に限定されないが、効果を十分に得ることができ且つ一回で摂取し切りやすいとの観点から、100g以上1,000g以下の範囲内であることが好ましく、100g以上800g以下の範囲内であることがより好ましく、100g以上600g以下の範囲内であることがさらに好ましく、100g以上500g以下の範囲内であることが最も好ましい。なお、この含有量は、組成物中にタンパク質が2.0質量%以上含有されていることが前提となる。また、上述の一単位は、袋、箱、容器等の一包装のみならず、それらに含まれる一回あたりの単位包装であってもよいし、一日当たりの単位包装であってもよい。なお、複数の日数、例えば1週間分の摂取に適切な数量をまとめて包装したもの、または複数の個包装を含むもの等とすることもできる。
【0060】
(摂取のタイミング)
本発明者らの検討に拠ると、本発明の組成物は、単回摂取で速やかに目的の効果が期待できるものである。より具体的には、有効成分の摂取15分後の時点で切り替え機能が向上し、60分後の時点で記憶更新機能が向上しうる。したがって、目的の効果を発揮したい作業の数分~数時間前、例えば5分~2時間前、10分~90分前に摂取することにより、より効果的に用いることができると考えられる。
【0061】
(その他)
本発明の組成物の製造において、タンパク質の配合の段階は、適宜選択することができる。タンパク質の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、製造の初期の段階に、原材料に混合して配合することができる。あるいは、製造の最後の段階に、タンパク質を別添して混合して配合することができる。
【0062】
本発明の組成物には、認知機能の改善のため、実行機能の改善のため、記憶更新機能の改善のため、又は切り替え機能の改善のために用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して、あるいは特定の場面において(例えば、プログラミングの前に、読書の前に、等)、摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、商談資料、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0063】
本願は、乳由来の実行機能の改善のために有用な成分、より特定すると記憶更新機能、及び切り替え機能からなる群より選択されるいずれかの改善のために有効な成分を初めて提示する。したがって、本願は、乳を原料とする、実行機能改善のための、医薬品素材又は食品素材の製造方法を提供するものである。乳には、生乳、クリーム、濃縮脱脂乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳が含まれる。医薬品素材、食品素材は、医薬品、食品に添加して用いられるもののほか、医薬品、食品そのものであってもよい。例えば、食品素材の例として、乳タンパク質(この例は上述した。)、乳脂肪、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリームが挙げられる。本発明の製造方法は、乳を原料とする限り、様々な工程を含みうる。例えば、殺菌工程、混合工程、撹拌工程、均質化工程、ろ過工程、濃縮工程、乾燥工程、冷却工程、発酵工程等である。
【実施例0064】
[方法]
(研究デザイン)
二重盲検並行群間試験
【0065】
(被験者)
日本語を母語とする右利きの健常男女(年齢:20歳以上30歳以下)66名を被験者とした。前掲非特許文献2を参考にした除外項目に該当しない者を被験者とした。
【0066】
(試験食品)
乳タンパク質低含有飲料、乳タンパク質高含有飲料、プラセボ飲料の3つを用いた。どの飲料も400mlの容量とした。飲料は、外観から識別できないようにした状態でペットボトル製の容器で提供された。使用する3種類の試験食品はすべて、非売品であり、本研究のために準備した。3つの飲料の原材料および栄養組成は下記のとおりである。
【0067】
【0068】
【0069】
なお、乳タンパク質濃縮物として、タンパク質含量 80.5質量%、脂質含量 1.5質量%、炭水化物含量 6.5質量%、水分 5.0質量%、灰分 6.5質量%のものを用いた。
【0070】
(認知機能検査)
認知機能を測定するために、認知機能検査を行った。認知機能検査は、全般的な認知機能を測定する「レーブンマトリックス検査」「Japanese Reading Ability Test」、実行機能の下位分類である抑制能力を計測する「ストループ検査」、切り替え能力を計測する「加減算検査」、記憶更新能力を計測する「記憶更新検査」、作業記憶容量を測定する「数唱」、処理スピードを測定する「符号」を使用した。
それぞれの検査にかかる時間は、数分程度であった。ただし、レーブンマトリックス検査のみ、約30分かかった。レーブンマトリックス検査とJapanese Reading Ability testは、検査日の1週間前から前日までの間に1回のみ実施し、実施時間は、合計で約40分程度であった。その他の検査は、検査日において、飲料摂取の前、15分後、60分後と合計3回繰り返し実施し、1回あたりの合計時間は約20分であった。
これらの認知機能検査は、標準化されており、ペンと検査用紙を用いた紙媒体の検査またはPCを用いた検査がある。
すべての認知機能検査は、トレーニングを受けた心理検査員が検査の監督を行った。全般的な認知機能を測定するレーブンマトリックス検査とJapanese Reading Ability testを実施する理由は、これらが各認知機能(実行機能、作業記憶、処理スピード)に関連することから、被験者背景として把握することが必要であるためである。
各検査の実施タイミングは下表のとおりである。
【0071】
【0072】
検査の概略
全般的な認知機能(1回のみ計測)
レーブンマトリックス検査:ある図形でかけている部分やそのほかの図形を見ながら関係する図形を選択する検査である(Raven, J. (1998). Manual for Raven's progressive matrices and vocabulary scales. Oxford: Oxford Psychologist Press.)。
Japanese Reading Ability Test:漢字の読みを回答する検査である(Matsuoka, K., Uno, M., Kasai, K., Koyama, K., and Kim, Y. (2006). Estimation of premorbid IQ in individuals with Alzheimer's disease using Japanese ideographic script (Kanji) compound words: Japanese version of National Adult Reading Test. Psychiatry and Clinical Neurosciences 60, 332-339. doi:10.1111/j.1440-1819.2006.01510.x.)。
【0073】
実行機能(3回計測)
ストループ検査:様々な色で印刷された色の名前を示す単語(みどりやあか)のインクの色や単語が表す色の意味を回答する検査である(Hakoda, Y., and Watanabe, M. (2004). Manual for New Stroop test II. Fukuoka, Japan: Toyo Physical)。
加減算検査:一桁の加算のみを実施する試行と一桁の減算のみを実施する試行と一桁の加算と減算を交互に実施する試行を行う(前掲Hakoda, Y., and Watanabe, M. (2004))。
記憶更新検査:4から10桁の数字列がランダムに提示される。数字列の最後の3桁(もしくは4桁)の数字を回答する(前掲Hakoda, Y., and Watanabe, M. (2004))。
【0074】
作業記憶(3回計測)
数唱:数字列が提示されるので、その数字列を言われた順番で回答したり、逆の順番で回答したりする検査である(Woods, D. L., Kishiyama, M. M., Yund, E. W., Herron, T. J., Edwards, B., Poliva, O., et al. (2011). Improving digit span assessment of short-term verbal memory. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology 33, 101-111. doi:10.1080/13803395.2010.493149., Wechsler, D. A. (1997). Wechsler Adult Intelligence Scale Third edition. San Antonio, TX.: The Psychological Corporation.)。
【0075】
処理スピード(3回計測)
符号 :一つの数字にある記号が対応している対応表を見ながら、数字に対応した記号を記入する検査である(Cornelis, C., De Picker, L. J., Hulstijn, W., Dumont, G., Timmers, M., Janssens, L., et al. (2015). Preserved Learning during the Symbol Digit Substitution Test in Patients with Schizophrenia, Age-Matched Controls, and Elderly. Frontiers in Psychiatry 5, 189. doi:10.3389/fpsyt.2014.00189., Silva, P. H. R., Spedo, C. T., Baldassarini, C. R., Benini, C. D., Ferreira, D. A., Barreira, A. A., et al. (2019). Brain functional and effective connectivity underlying the information processing speed assessed by the Symbol Digit Modalities Test. NeuroImage 184, 761-770. doi:10.1016/j.neuroimage.2018.09.080.)。
【0076】
(統計解析)
試験食品摂取の前後で測定したすべての認知機能検査項目に対して摂取前・摂取15分後・摂取60分後のスコアを算出し、摂取によって影響の違いがあるのかを一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて統計検定を行った。固定効果として食品・時間・性別・年齢、変量効果として被験者を使用した。解析はITT解析を実施し、欠損値については多重代入法を用いて値を補完した。FDR法でGLMM解析の結果を補正し、交互作用が得られた場合に、Tukeyの方法で多重比較の検定を行った。
【0077】
[結果]
66名の研究対象者の内、脱落4名を除く62名を解析対象とした。加減算検査、記憶更新検査において、乳タンパク質低含有飲料摂取群、及び乳タンパク質高含有飲料摂取群は、プラセボ飲料摂取群と比較して、パフォーマンスが向上した(統計学的有意差あり)(
図1、2)。
【0078】
詳細には、加減算検査に関し、飲料と時間の交互作用(adjusted p<0.05)が有意であったため、下位検定を行った。その結果、加減算検査の成績(反応時間)は、摂取15分後の時点で、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短く、また乳タンパク質低含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短かった。なお、乳タンパク質低含有飲料摂取群と乳タンパク質高含有飲料摂取群との間に有意な差はなかった。さらに、摂取60分後の時点では、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に反応時間が短かった(
図1)。また、記憶更新検査に関し、飲料と時間の交互作用(adjusted p<0.05 )が有意であったため、下位検定を行った。その結果、記憶更新検査の成績(正答率)は、摂取15分後の時点では群間で有意な差は見られなかった。しかしながら、摂取60分後の時点では、乳タンパク質高含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より正答率が高く、また乳タンパク質低含有飲料摂取群がプラセボ飲料摂取群より有意に正答率が高かった。なお、乳タンパク質低含有飲料摂取群と乳タンパク質高含有飲料摂取群との間に有意な差はなかった(
図2)。
【0079】
加減算検査は認知機能の中の実行機能の一つ(Shifting)を調べる検査であり、記憶更新検査は認知機能の中の実行機能の一つ(Updating)を調べる検査であることから、乳タンパク質の摂取により、実行機能(Shifting、Updating)を即時的に向上させることができることが示された。ストループ検査においては、ここでの実験条件では、群間で有意な差は認められなかった。