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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142020
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】溶融装置および溶融方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/10 20060101AFI20220922BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20220922BHJP
   F27B 7/34 20060101ALI20220922BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C22B5/10
H05B6/10 331
F27B7/34
F27D11/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041976
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
【テーマコード(参考)】
3K059
4K001
4K061
4K063
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB28
3K059CD52
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001DA05
4K001FA14
4K001GA17
4K001HA01
4K001KA02
4K001KA06
4K061AA08
4K061BA12
4K061CA02
4K061CA23
4K061DA01
4K061DA05
4K063AA02
4K063AA18
4K063BA13
4K063CA03
4K063FA31
(57)【要約】
【課題】原料を適切に還元し溶融できる技術を提供する。
【解決手段】金属酸化物と還元剤とを有する原料が投入される円筒体と、円筒体内の原料を還元、溶融する加熱機構と、を備え、加熱機構は、火炎を用いて加熱するバーナーと、誘導加熱を行う誘導加熱部と、を有し、バーナーにより原料を加熱することによって金属酸化物を還元し、誘導加熱部により、金属酸化物が還元されて生成された金属部分を溶融する、溶融装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物と還元剤とを有する原料が投入される円筒体と、
前記円筒体内の前記原料を還元、溶融する加熱機構と、を備え、
前記加熱機構は、火炎を用いて加熱するバーナーと、誘導加熱を行う誘導加熱部と、を有し、
前記バーナーにより前記原料を加熱することによって前記金属酸化物を還元し、
前記誘導加熱部により、前記金属酸化物が還元されて生成された金属部分を溶融する、
溶融装置。
【請求項2】
前記円筒体の軸方向の一端部には、前記原料が投入される投入口が設けられており、
前記円筒体の前記軸方向の他端部には、還元、溶融された前記原料が排出される排出口が設けられており、
前記円筒体は、前記投入口が上方、前記排出口が下方となるように水平方向に対して傾斜して配置されており、
前記加熱機構は、前記排出口側に配置されている、
請求項1に記載の溶融装置。
【請求項3】
前記誘導加熱部は、前記円筒体の外周を囲む誘導加熱コイルを有しており、
前記誘導加熱コイルは、前記排出口側に偏って配置されている、
請求項2に記載の溶融装置。
【請求項4】
前記バーナーは、前記排出口の下方かつ近傍に配置されている、
請求項2または3に記載の溶融装置。
【請求項5】
前記排出口は、前記軸方向下方に向かって徐々に小径となるように形成されている、
請求項2~4のいずれか1項に記載の溶融装置。
【請求項6】
前記円筒体は、還元、溶融された前記原料のうち、前記金属部分と当該金属部分以外の酸化物部分のいずれを前記排出口から排出するかに応じて、傾斜角度を変更可能に構成されている、
請求項2~5のいずれか1項に記載の溶融装置。
【請求項7】
前記円筒体は、前記軸方向を中心に回転可能に構成されている、
請求項2~6のいずれか1項に記載の溶融装置。
【請求項8】
金属酸化物と還元剤とを有する原料を円筒体に投入する工程と、
火炎を用いて加熱するバーナーと、誘導加熱を行う誘導加熱部と、を有する加熱機構により、前記円筒体内の前記原料を還元、溶融する工程と、
前記バーナーにより前記原料を加熱することによって前記金属酸化物を還元し、前記誘導加熱部により、前記金属酸化物が還元されて生成された金属部分を溶融するように、前記加熱機構を制御する工程と、
を有する溶融方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融装置および溶融方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物と還元剤とを有する原料を加熱して還元、溶融することにより、金属酸化物に含まれる金属部分の回収が行われることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-088006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、原料が適切に還元、溶融されないと、金属部分の回収を行えない場合がある。本発明の目的は、原料を効率よく適切に還元し溶融できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
金属酸化物と還元剤とを有する原料が投入される円筒体と、
前記円筒体内の前記原料を還元、溶融する加熱機構と、を備え、
前記加熱機構は、火炎を用いて加熱するバーナーと、誘導加熱を行う誘導加熱部と、を有し、
前記バーナーにより前記原料を加熱することによって前記金属酸化物を還元し、
前記誘導加熱部により、前記金属酸化物が還元されて生成された金属部分を溶融する、
溶融装置が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
金属酸化物と還元剤とを有する原料を円筒体に投入する工程と、
火炎を用いて加熱するバーナーと、誘導加熱を行う誘導加熱部と、を有する加熱機構により、前記円筒体内の前記原料を還元、溶融する工程と、
前記バーナーにより前記原料を加熱することによって前記金属酸化物を還元し、前記誘導加熱部により、前記金属酸化物が還元されて生成された金属部分を溶融するように、前記加熱機構を制御する工程と、
を有する溶融方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料を効率良く適切に還元し溶融できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る溶融装置の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る溶融装置に投入された原料を加熱する状態を示した図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る溶融装置により還元、溶融された原料を回収する状態を示しており、図3(a)は、溶融金属と溶融酸化物(溶融スラグ)が分離した状態を示す図であり、図3(b)は、溶融スラグを回収する状態を示す図であり、図3(c)は、溶融金属を回収する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0010】
(1)溶融装置の構成例
本実施形態の溶融装置1は、例えば、廃リチウムイオン二次電池のリサイクル工程で用いられるもので、廃リチウムイオン二次電池が含有する金属酸化物を還元、溶融するように構成されている。本実施形態では、金属酸化物として、ニッケル酸化物、コバルト酸化物を例に挙げて説明する。溶融装置1は、廃リチウムイオン二次電池に還元剤等を混合させたものを加熱して、ニッケル酸化物、コバルト酸化物を還元、溶融し、有価金属であるニッケルとコバルトを回収するために用いられる。
【0011】
本実施形態の溶融装置1の構成例について説明する。なお、明細書では、キルン10の中心軸Xと平行な方向を「軸方向」と称する(図1参照)。
【0012】
図1に示すように、溶融装置1は、主として、円筒体としてのキルン10と、加熱機構15と、を有して構成されている。
【0013】
キルン10は、内部が中空の円筒状に形成されている。キルン10の軸方向の一端部には、投入口12が設けられており、軸方向の他端部には、排出口13が設けられている。
【0014】
キルン10は、投入口12が軸方向上方、排出口13が軸方向下方となるように水平方向に対して所定の傾斜をもつように配置されており、必要に応じて傾斜角度が変更可能に構成されている。排出口13は、軸方向下方に向かって徐々に小径となるようにテーパ状に形成されている。
【0015】
キルン10は、軸方向を中心に回転可能に構成されている(図1に示す方向R参照)。キルン10の外側には、キルン10に回転力を伝える駆動ギヤ11が備えられている。キルン10の外側には、キルン10の傾斜角度を変更させる不図示の可変機構と、駆動ギヤ11を駆動させる不図示の駆動機構とが配置されている。
【0016】
キルン10は、外壁と内壁とを有して構成されており、外壁は、炭素鋼等で金属被覆され、内壁は、耐火煉瓦等で内張りされている。キルン10の外壁には、後述する誘導加熱部15b近傍において電流が円周方向に流れないように、軸方向と平行な方向に1または複数の不図示のスリットが形成されている。このスリットにより絶縁されるので、外壁が金属被覆されていても、電流が円周方向に流れることを回避することができる。これにより、後述する誘導加熱コイルCによる誘導加熱が可能となる。
【0017】
キルン10のサイズは、特に限定されないが、直径0.8~3m、長さ3~10m、厚さ30~100mmの範囲であることが好ましい。
【0018】
加熱機構15は、火炎を用いて加熱するバーナー15aと、誘導加熱を行う誘導加熱部15bと、を有する。誘導加熱部15bは、キルン10の外周を囲む誘導加熱コイルCを有して構成されている。
【0019】
加熱機構15は、キルン10の排出口13側に配置されている。具体的には、バーナー15aは、排出口13の下方かつ近傍に配置されている。ここで、近傍とは、キルン10内部に火炎を噴射することができる位置である。誘導加熱コイルCは、キルン10の外周の排出口13側に偏って配置されている。
【0020】
また、溶融装置1は、溶融装置1の各部の動作を制御する不図示のコントローラを有している。コントローラは、演算部(CPU)、一時記憶部(RAM)、記憶部、I/Oポートを少なくとも有する。コントローラは、I/Oポートを介して溶融装置1の各構成に接続され、上位装置や使用者の指示に応じて記憶部からプログラムやレシピを呼び出し、その内容に応じて各構成の動作を制御する。
【0021】
(2)溶融装置を用いた溶融方法
本実施形態の溶融装置1を用いた、廃リチウムイオン二次電池が含有するリチウム-ニッケル・コバルト酸化物の還元、溶融方法について説明する。
【0022】
本実施形態の溶融方法は、例えば、投入・回転工程S101と、加熱・還元・溶融工程S102と、を有する。以下の説明において、各部の動作はコントローラにより制御される。
【0023】
(投入・回転工程S101)
投入・回転工程S101では、駆動ギヤ11を作動させ、キルン10をR方向に回転させながら、投入口12より廃リチウムイオン二次電池に還元剤と溶剤とを混合させた原料(以後、「原料L」と称する場合がある。)を投入する(図1および図2参照)。原料Lは、投入口12の上方に配置されている不図示の原料供給機から供給されるようになっている。還元剤としては、石炭粉、コークス粉等の炭素(C)材料を使用することができる。溶剤は、後述する酸化物部分等の融点を下げるためのものであり、シリカ(SiO)や炭酸カルシウム(熱分解により酸化カルシウム(CaO)となる)等を使用することができる。なお、廃リチウムイオン二次電池と還元剤と溶剤の粒度を揃えると、均一に混合でき、還元反応が均一に進みやすくなるため好ましい。更に、原料Lを直径数cm程度の球体、ペレット状(円筒状)に成形しておくと、僅かな傾斜で原料Lを下方向へ運びやすくなるので好ましい。
【0024】
図2に示すように、キルン10は、投入口12が上方、排出口13が下方となるように水平方向に対して所定の傾斜をもつように配置されているので、投入口12から投入された原料Lは、傾斜に沿って排出口13側へ移動する。なお、図2では、原料Lとして、それぞれ紛状体の廃リチウムイオン二次電池と還元剤と溶剤とを圧縮し、直径1~2cm程度の球体に成形したものを示している。
【0025】
(加熱・還元・溶融工程S102)
加熱・還元・溶融工程S102では、排出口13の下方に配置されたバーナー15aの火炎がキルン10の内部に向かって噴射し、原料Lを加熱することにより、廃リチウムイオン二次電池に含有されるニッケル酸化物やコバルト酸化物等は還元剤により還元される。このようにして生成されたニッケルやコバルトや銅や鉄などの固体金属は、誘導加熱コイルCに電流を流すことにより、加熱された溶融金属(溶融したリチウム等)に触れて融解し合金化する。具体的には、バーナー15aにより、原料Lが1100~1200℃となるように加熱する。さらに、誘導加熱部15bにより、溶融合金が最終的に1500~1600℃となるように加熱する。
【0026】
このように、バーナー15aにより、原料Lを1100~1200℃まで加熱すると、ニッケル酸化物やコバルト酸化物は還元されて、ニッケルやコバルトを含む固体金属粉を生成することができる。バーナー15aにより加熱された原料Lのうち、ニッケルやコバルトや銅や鉄以外のものの多くは、溶融酸化物(溶融スラグ)となる。原料Lに含有されるリチウム酸化物は溶融スラグに取り込まれる。以下、原料Lのうち、還元されなかったものを「酸化物部分」と称する場合がある。
【0027】
バーナー15aから噴射される炎が放射する熱は上昇するので、バーナー15aを排出口13の近傍に配置することにより、キルン10の傾斜に沿って排出口13側へ移動する原料Lに、炎から放射される熱を伝えることができる。バーナー15a近傍の燃焼ガス温度は高く、誘導加熱部15bに近い原料Lは、投入口12近くの原料Lよりも高温になる。燃焼ガスの熱エネルギーは原料Lに移動しつつ投入口12に至る。燃焼ガスと被加熱物である原料Lが対向することにより、効率よく、原料Lを1100~1200℃まで加熱することができる。
【0028】
また、バーナー15aは、火炎がキルン10の内部に向かって噴射する位置に配置されているので、炎が放射する熱をキルン10外に漏らさず、効率よく、原料Lを1100~1200℃まで加熱することができる。
【0029】
また、誘導加熱部15bが有する誘導加熱コイルCがキルン10の外周の排出口13側に偏って配置されているので、排出口13側に溜まっている溶融金属(溶融したリチウム等)を効率よく1500~1600℃まで加熱することができる。
【0030】
加熱・還元・溶融工程S102においても、キルン10の回転は継続して行われる。これにより、投入された原料Lを撹拌することができ、原料Lを円周方向において均一に加熱することができる。
【0031】
原料Lを約1500℃まで加熱すると、ニッケルやコバルトなどの金属を融解することができる。具体的には、ニッケルやコバルトの金属は、約1500℃未満の状態では、微小な金属粉となって溶融スラグの中に分散しているが、約1500℃に達すると、融解し、結合して沈降することにより、溶融スラグと分離するようになる。
【0032】
本実施形態において、プロパンガス等を使用したバーナー15aのみを用いて加熱した場合、最大で約1200℃程度までしか原料Lを加熱することができない。1200℃の温度では、ニッケル酸化物やコバルト酸化物を還元し、ニッケルやコバルトの金属を生成することはできるが、融点が1200℃よりも高いニッケルやコバルトの金属を融解することはできない。一方、誘導加熱部15bのみを用いて加熱した場合、誘導加熱部15bは、誘導電流が多量に流れる大きな金属部分を主に加熱する性質を有するので、微小なニッケルやコバルトの金属粉を加熱する効果は弱く、酸化物部分を加熱する効果は更に小さいものとなる。そこで、本実施形態の加熱機構15のように、バーナー15aと誘導加熱部15bとを有する加熱機構15を用いて、原料Lを還元し、融解する。具体的には、バーナー15aにより、原料L全体を予熱しつつ半溶融し(融点が1200℃以下である酸化物部分を融解し)、また、ニッケル酸化物やコバルト酸化物を還元し、ニッケルやコバルトの金属粉を生成する。さらに、誘導加熱部15bにより約1500℃以上に昇温した溶融金属(溶融したリチウム等)に触れさせる事で、融点が1200℃よりも高いニッケルやコバルトの金属粉部分を溶融する。このようにすることで、融点の異なる酸化物部分とニッケル・コバルト部分とを適切に融解し、不要なスラグと有用なニッケルやコバルトを含む合金を効率良く分離することができる。
【0033】
(3)溶融装置を用いた回収方法
本実施形態の溶融装置1を用いた、リチウムやコバルトの回収方法について説明する。
【0034】
上述したように、ニッケル酸化物やコバルト酸化物は、キルン10内で加熱されることにより、ニッケルやコバルトを含む合金と、SiOやCaOで希釈されたリチウム酸化物等に分離される。上述したように、リチウム酸化物は、溶融スラグとなる。
【0035】
排出口13は、軸方向下方に向かって徐々に小径となるように形成されている。このようなテーパ形状により、溶融スラグと溶融金属(溶融したニッケルやコバルトを含む合金)とを溶融後すぐにキルン10外へ排出させずに、キルン10内に溜めることができる。溶融スラグと溶融金属とは、比重が異なるので、キルン10内でそれぞれを分離することができる。具体的には、比重の大きい溶融金属は沈降し、比重の小さい溶融スラグは溶融金属の上に浮いた状態となる(図3(a)参照)。
【0036】
本実施形態の回収方法は、例えば、溶融スラグ回収工程S201と、溶融金属回収工程S202と、を有する。
【0037】
(溶融スラグ回収工程S201)
溶融スラグ回収工程S201では、上述した加熱・還元・溶融工程S102時よりも水平方向に対する傾斜角度が大きくなるようにキルン10の傾斜角度を変更し、溶融金属の上に浮いている溶融スラグのみを排出口13から排出する(図3(b)参照)。排出口13の下方に配置されている不図示の溶融スラグ回収容器により溶融スラグが回収される。
【0038】
(溶融金属回収工程S202)
溶融金属回収工程S202では、溶融スラグ回収工程S201時よりも水平方向に対する傾斜角度がさらに大きくなるようにキルン10の傾斜角度を変更し、沈降している溶融金属を排出口13から排出する(図3(c)参照)。排出口13の下方に配置されている不図示の溶融金属回収容器により溶融金属が回収される。
【0039】
このように、キルン10の傾斜角度を変更することにより、溶融スラグと溶融金属とを別々に回収することができる。また、排出口13がテーパ状に形成されているので、キルン10の傾斜角度に対して、キルン10内に収容されている溶融物(溶融スラグ、溶融金属)の傾斜の変化量を少なく抑えられる。これにより、排出口13から排出される溶融物の速度を抑制することができ、溶融物を安全に回収することができる。
【0040】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0041】
(a)本実施形態の加熱機構15は、バーナー15aと誘導加熱部15bとを有している。加熱機構15は、原料Lを還元し、溶融するときに、バーナー15aにより、金属酸化物(ニッケル酸化物やコバルト酸化物)を還元して金属粉(ニッケルやコバルトを含有)を生成し、誘導加熱部15bにより、金属成分を溶融するように構成されている。このような構成により、加熱機構15は、バーナー15aと誘導加熱部15bとを組み合わせて単に温度を上昇させるだけではない効果を生じさせる。すなわち、バーナー15aにより、原料L全体を予熱して、比較的融点の低い酸化物部分を溶融し、ニッケル酸化物やコバルト酸化物を還元してニッケルやコバルトの金属を生成する。そして、融解済金属部分を主に加熱する誘導加熱部15bを追加することにより、酸化物部分よりも融点の高いニッケルやコバルトの金属粉を溶融する。このように、融点の異なる酸化物部分と金属部分を効率よく適切に還元し溶融することができる。また、誘導加熱部15bとバーナー15aとを組み合わせることにより、設備コストを抑制、生産速度の向上、キルン10の損傷リスクの低下も実現することができる。
【0042】
(b)本実施形態のキルン10は、投入口12が上方、排出口13が下方となるように水平方向に対して所定の傾斜をもつように配置されているので、投入口12から投入された原料Lは、キルン10の回転に伴い傾斜に沿って、排出口13側へ移動する。また、加熱機構15は、排出口13側に配置されているので、排出口13側へ移動した原料Lを効率よく加熱することができる。具体的には、バーナー15aは、排出口13に配置されている。バーナー15aから噴射される炎が放射する熱は上昇するので、このような配置にすることにより、排出口13側へ移動する原料Lに、炎から放射される熱を伝えることができる。さらに、バーナー15aは、火炎がキルン10の内部に向かって噴射する位置に配置されているので、炎が放射する熱がキルン10外に漏れることを防止することができる。これらのように、バーナー15aにより効率よく、原料Lを加熱することができ、金属酸化物(ニッケル酸化物やコバルト酸化物)を適切に還元する上で有用である。
【0043】
また、誘導加熱部15bが有する誘導加熱コイルCは、キルン10の外周の排出口13側に偏って配置されているので、排出口13側に蓄積されている金属部分(ニッケルやコバルトを含む溶融合金)を効率よく加熱し、還元生成物である金属粉を吸収することができる。このことは、金属酸化物(ニッケル酸化物やコバルト酸化物)を適切に還元した後に溶融する上で有用である。
【0044】
(c)本実施形態の排出口13は、軸方向下方に向けて徐々に小径となるように形成されている。このようなテーパ形状により、溶融スラグと溶融金属(溶融ニッケルや溶融コバルトを含む合金)とを溶融後すぐにキルン10外へ排出させずに、キルン10内に溜めることができる。このように、本実施形態の溶融装置1は、金属酸化物(ニッケル酸化物やコバルト酸化物)を還元し溶融するだけでなく、溶融物を溜めて、比重の異なる溶融スラグと溶融金属とをキルン10内で十分に分離できるように構成されている。このような構成により、ニッケル酸化物とコバルト酸化物を還元した後に、別に分離装置を用意して分離工程を経る必要がなく、簡易な装置で溶融物(溶融スラグと溶融合金)を分離することができる。
【0045】
また、排出口13がこのようなテーパ形状に形成されていることにより、キルン10の傾斜角度に対して、キルン10内に収容されている溶融物の傾斜による変化量を緩やかに変えることができる。これにより、排出口13から排出される溶融物の速度を抑制することができ、溶融物を安全に回収することができる。
【0046】
(d)本実施形態のキルン10は、溶融金属の上に浮いている溶融スラグを回収するときと沈降している溶融金属(溶融したニッケルやコバルトを含む合金)を回収するときとで、傾斜角度を変更可能に構成されている。このように、溶融装置1を用いることで、溶融スラグと溶融合金とを容易に別々に回収することができる。
【0047】
(e)本実施形態のキルン10は、原料Lが投入されるときに、軸方向を中心に回転することができるので、原料Lを排出口13側へ移動しやすい。また、本実施形態のキルン10は、原料Lを加熱するときにも、軸方向を中心に回転することができるので、投入された原料Lを撹拌することができ、原料Lを円周方向に均一に加熱することができる。これらは、金属酸化物(ニッケルとコバルトを含む酸化物)を効率良く適切に還元する上で有用である。
【0048】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0049】
上述の実施形態では、リサイクルの対象として、廃リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、リサイクルの対象としてニッケル水素電池を用いてもよい。
【0050】
また、上述の実施形態では、金属酸化物として、ニッケル酸化物やコバルト酸化物を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、金属酸化物は、ニッケル酸リチウム化合物や、コバルト酸リチウム化合物であってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態では、円筒体として、回転式のキルン10(ロータリーキルン)を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、回転しないキルンを用いてもよい。但し、加熱機構15による撹拌効果により原料Lへ熱を均一に伝えるためには、ロータリーキルンを用いることが好ましい。
【0052】
また、上述の実施形態では、投入・回転工程S101、加熱・還元・溶融工程S102におけるキルン10の傾斜角度は、特に限定されないが、水平方向に対して2°~15°の傾斜角度であることが好ましい。
【0053】
また、上述の実施形態では、溶融物の分離工程、溶融物の回収工程(S201,S202)における、キルン10の回転については、特に限定されない。但し、キルン10が回転することにより、加熱機構15による撹拌効果により原料Lへ熱が均一に伝わり、還元速度を維持し易くなるので、回転が継続して行われることが好ましい。
【0054】
また、上述の実施形態では、バーナー15aが、キルン10内部に火炎を噴射する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、バーナー15aが、キルン10内部に火炎を噴射する位置ではなく、キルン10の外側の排出口13付近に向かって火炎を噴射する位置に配置されていてもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、排出口13がテーパ状に形成されている場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。キルン10内に収容されている溶融物(溶融スラグ、溶融コバルト)を分離回収できればテーパ状に形成されていなくてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、特に説明しなかったが、投入・回転工程S101の前工程として、バーナー15aにより、キルン10内を所定の温度まで温めるようにしてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、特に説明しなかったが、溶融金属回収工程S202において、溶融金属を全部回収せずに、次の投入・回転工程S101に備えて一部残しておくことが好ましい。これにより、次に投入される原料Lに対する誘導加熱の効率を上げることができる。
【0058】
また、上述の実施形態では、加熱・還元・溶融工程S102において、還元剤として、石炭粉、コークス粉等の炭素(C)材料を使用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、木質ペレットや廃タイヤチップを還元剤として使用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 溶融装置
10 キルン
11 駆動ギヤ
12 投入口
13 排出口
15 加熱機構
15a バーナー
15b 誘導加熱部
C 誘導加熱コイル
L 原料
X 中心軸
図1
図2
図3