(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014212
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】シリコン基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220112BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C30B29/06 B
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116429
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077FE02
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】ダイヤモンド薄膜との密着性が良好であって、且つ基板径が大きくても基板全面にわたり強く均一な密着性を得ること。
【解決手段】基板表面にダイヤモンド薄膜を形成するためのシリコン基板であって、基板表面から深さ5μmまでの表面領域2において、炭素濃度は少なくとも1×10
17atoms/cm
3、且つ最大値が5×10
17atoms/cm
3以上であって、酸素濃度が6×10
17atoms/cm
3以下、窒素濃度が1×10
14atoms/cm
3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にダイヤモンド薄膜を形成するためのシリコン基板であって、
基板表面から深さ5μmまでの表面領域において、
炭素濃度は少なくとも1×1017atoms/cm3、且つ最大値が5×1017atoms/cm3以上であって、
酸素濃度が6×1017atoms/cm3以下、窒素濃度が1×1014atoms/cm3以下であることを特徴とするシリコン基板。
【請求項2】
基板表面から深さ20μm以上のバルク領域において、
炭素濃度は1×1016atoms/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載されたシリコン基板。
【請求項3】
基板表面にダイヤモンド薄膜を形成するためのシリコン基板の製造方法であって、
シリコン単結晶から切り出した基板をチャンバ内に配置するステップと、
前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップとを実施し、
基板表面から深さ5μmまでの表面領域において、炭素濃度を少なくとも1×1017atoms/cm3、且つ最大値を5×1017atoms/cm3以上に形成するとともに、
酸素濃度を6×1017atoms/cm3以下、窒素濃度を1×1014atoms/cm3以下に形成することを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項4】
前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにおいて、
前記炭素を含むガスとしてCO2ガスまたはCOガスを導入することを特徴とする請求項3に記載されたシリコン基板の製造方法。
【請求項5】
前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにおいて、
前記チャンバ内を1200℃以上で少なくとも1時間維持することを特徴とする請求項3または請求項4に記載されたシリコン基板の製造方法。
【請求項6】
前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにより、
基板表面から深さ20μm以上のバルク領域において、炭素濃度を1×1016atoms/cm3以下に形成することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載されたシリコン基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板及びその製造方法に関し、ダイヤモンド薄膜との密着性が良好であって、且つ基板径が大きくても基板全面にわたり強く均一な密着性を得ることができるシリコン基板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、あらゆる物質の中で最も高い硬度を有し、最も高い熱伝導率と高い電機絶縁性とを有している。また、紫外から赤外にかけて広い透明性と化学安定性とを有する特異な物質である。
このダイヤモンドは、半導体材料の分野において、シリコンやガリウム砒素などの半導体材料に比べてバンドギャップ、絶縁破壊電圧及びキャリア移動度の高い材料として知られている。
【0003】
また、前記ダイヤモンドは、シリコン基板上において、薄膜ダイヤモンド気相合成中における不純物元素添加、或いはダイヤモンドへのイオン注入により半導体薄膜層を形成することができる。そのため、ダイヤモンドの特徴を利用し、500℃以上の高温であっても機能する耐高温性デバイス、及び紫外線発光デバイスなど、従来では不可能であった電子デバイスを実現できる可能性がある。
【0004】
ところで近年、気相法による異種気体上への多結晶薄膜ダイヤモンドの形成について、熱フィラメントCVD(化学蒸着)法、マイクロ波プラズマCVD法、或いはDCプラズマジェットCVD法など種々の方法が試みられている。
しかしながら、そのような方法でシリコン基板上にダイヤモンド薄膜を被覆、或いは形成する上で最も問題となるのが、基板とダイヤモンド膜との密着強度であり、前記の方法では十分な密着強度が得られないという課題がある。
【0005】
このような課題に対し、特許文献1に開示された方法にあっては、1×1016atoms/cm3以上かつ固溶限の濃度以下のホウ素及び炭素よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素をシリコン中に含有させることにより、ダイヤモンド薄膜の密着性を向上させるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された方法に従い本願発明者が実験を行ったところ、シリコン基板上に形成されたダイヤモンド薄膜に発生した捲れやひび割れなどの欠陥が目立ち、歩留りよい製造ができないことがわかった。
即ち、特許文献1に開示された方法では、シリコン基板とダイヤモンドとの密着性が十分ではないことを確認した。
【0008】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、シリコン基板の表層領域における炭素濃度を高く設定するだけでなく、表層領域における酸素濃度、窒素濃度を低く抑えることにより、ダイヤモンド薄膜における捲れやひび割れの発生を抑制し、シリコン基板とダイヤモンドとの密着性をより良好とすることができることを知見し本発明をするに至った。
【0009】
本発明の目的は、ダイヤモンド薄膜との密着性が良好であって、且つ基板径が大きくても基板全面にわたり強く均一な密着性を得ることができるシリコン基板、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン基板は、基板表面にダイヤモンド薄膜を形成するためのシリコン基板であって、基板表面から深さ5μmまでの表面領域において、炭素濃度は少なくとも1×1017atoms/cm3、且つ最大値が5×1017atoms/cm3以上であって、酸素濃度が6×1017atoms/cm3以下、窒素濃度が1×1014atoms/cm3以下であることに特徴を有する。
尚、基板表面から深さ20μm以上のバルク領域において、炭素濃度は1×1016atoms/cm3以下であることが望ましい。
【0011】
このようにシリコン基板の表面領域における炭素濃度を高く形成することにより、基板表面に形成するダイヤモンド薄膜との密着性を向上し、表面領域における酸素濃度と窒素濃度とを低く抑えることにより、ダイヤモンド薄膜への酸素や窒素の混入を抑制することができる。
その結果、ダイヤモンド薄膜における捲れやひび割れの発生を抑制し、基板径が大きくてもダイヤモンド薄膜に対する強く均一な密着性を得ることができる。
【0012】
また、前記した課題を解決するためになされた本発明に係るシリコン基板の製造方法は、基板表面にダイヤモンド薄膜を形成するためのシリコン基板の製造方法であって、シリコン単結晶から切り出した基板をチャンバ内に配置するステップと、前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップとを実施し、基板表面から深さ5μmまでの表面領域において、炭素濃度を少なくとも1×1017atoms/cm3、且つ最大値を5×1017atoms/cm3以上に形成するとともに、酸素濃度を6×1017atoms/cm3以下、窒素濃度を1×1014atoms/cm3以下に形成することに特徴を有する。
尚、前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにおいて、前記炭素を含むガスとしてCO2ガスまたはCOガスを導入することが望ましい。
また、前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにおいて、前記チャンバ内を1200℃以上で少なくとも1時間維持することが望ましい。
また、前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入して熱処理するステップにより、基板表面から深さ20μm以上のバルク領域において、炭素濃度を1×1016atoms/cm3以下に形成することが望ましい。
【0013】
このようにシリコン基板の表面領域における炭素濃度を高く形成することにより、基板表面に形成するダイヤモンド薄膜との密着性を向上し、表面領域における酸素濃度と窒素濃度とを低く抑えることにより、ダイヤモンド薄膜への酸素や窒素の混入を抑制することができる。
その結果、ダイヤモンド薄膜における捲れやひび割れの発生を抑制し、基板径が大きくてもダイヤモンド薄膜に対する強く均一な密着性を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダイヤモンド薄膜との密着性が良好であって、且つ基板径が大きくても基板全面にわたり強く均一な密着性を得ることができるシリコン基板、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のシリコン基板を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のシリコン基板を製造するために用いられる熱処理装置の一例の概要を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明にシリコン基板の製造方法の流れを示すフローである。
【
図4】
図4は、本発明に係る実施例1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明に係る実施例2,3,4の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明に係る実施例5,6,7の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に係る実施例8の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明に係る実施例9の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のシリコン基板を模式的に示す断面図である。
図1に示すようにシリコン基板1は、基板表面から5μmの深さまでの表面領域2と、基板表面から20μmより深いバルク領域3とを有する。
前記表面領域2は、その炭素濃度が少なくとも1×10
17atoms/cm
3に形成され、炭素濃度の最大値が5×10
17atoms/cm
3以上に形成されている。また、前記表面領域2における酸素濃度が、6×10
17atoms/cm
3以下に形成され、前記表面領域2における窒素濃度が1×10
14atoms/cm
3以下に形成されている。
また、前記バルク領域3における炭素濃度は1×10
16atoms/cm
3以下に形成されている。
【0017】
このようにシリコン基板1においては、表面領域2における炭素濃度が高く形成されているため、
図1の破線で示すダイヤモンド薄膜5を形成した際、シリコン基板1とダイヤモンド薄膜5との密着性を向上させることができる。
また、表面領域2における酸素濃度、及び窒素濃度が低いため、ダイヤモンド薄膜5を形成した際に、ダイヤモンド薄膜5への酸素、窒素の混入を抑制することができる。
その結果、ダイヤモンド薄膜5の捲れ、ひび割れ等の欠陥発生を従来よりも大幅に抑制し、基板直径が大きくても均質にダイヤモンド薄膜5を密着させることができる。
【0018】
図2は、
図1のシリコン基板を製造するために用いられる熱処理装置の一例の概要を示す断面図である。熱処理装置10は、
図2に示すように、雰囲気ガス導入口20a及び雰囲気ガス排出口20bを備えたチャンバ(反応管)20と、チャンバ20の上部に離間して配置された複数のランプ30と、チャンバ20内の反応空間25にシリコン基板1を支持する基板支持部40とを備える。また、図示しないが、シリコン基板1をその中心軸周りに所定速度で回転させる回転手段を備えている。
【0019】
基板支持部40は、シリコン基板1の外周部を支持する環状のサセプタ40aと、サセプタ40aを支持するステージ40bとを備える。チャンバ20は、例えば、石英で構成されている。ランプ30は、例えば、ハロゲンランプで構成されている。サセプタ40aは、例えば、シリコンで構成されている。ステージ40bは、例えば、石英で構成されている。
【0020】
図2に示す熱処理装置10を用いてシリコン基板1に対し熱処理を行う場合、チャンバ20に設けられた図示しない基板導入口より、シリコン基板1を反応空間25内に導入し、基板支持部40のサセプタ40a上にシリコン基板1を支持する。そして、雰囲気ガス導入口20aから後述する雰囲気ガスを導入すると共に、図示しない回転手段によりシリコン基板1を回転させながら、ランプ30により基板表面に対してランプ照射をすることで行う。
【0021】
尚、この熱処理装置10における反応空間25内の温度制御は、基板支持部40のステージ40bに埋め込まれた複数の放射温度計50によってシリコン基板1の下部の基板径方向における基板面内多点(例えば9点)の平均温度を測定し、その測定された温度に基づいて複数のハロゲンランプ30の制御(各ランプの個別のON-OFF制御や、発光する光の発光強度の制御等)を行う。
【0022】
次に、本発明に係わるシリコン基板の製造方法について
図3のフローに沿って説明する。
本発明に係わるシリコン基板の製造方法は、例えばチョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶インゴットからスライスされたシリコン基板の表面に対して、所定の製造条件により熱処理を行う。
【0023】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの育成は周知の方法にて行う。
すなわち、石英ルツボに充填した多結晶シリコンを加熱してシリコン融液とし、このシリコン融液の液面上方から種結晶を接触させて、種結晶と石英ルツボを回転させながら引上げ、所望の直径まで拡径して直胴部を育成することでシリコン単結晶インゴットを製造する。
【0024】
こうして得られたシリコン単結晶インゴットは、周知の方法によりシリコン基板(ウェーハ)に加工される(ステップS1)。
すなわち、シリコン単結晶インゴットを内周刃又はワイヤソー等によりウェーハ状にスライスした後、外周部の面取り、ラッピング、エッチング、研磨等の加工工程を経て、シリコン基板を製造する。なお、ここで記載された加工工程は例示的なものであり、本発明は、この加工工程のみに限定されるものではない。
【0025】
次に、製造されたシリコン基板の表面に対して、所定の製造条件により熱処理を行う。具体的には、
図2に示すような熱処理装置10において、所望の初期温度で保持されたチャンバ20内に前記製造したシリコン基板を設置する(ステップS2)。
【0026】
基板設置後、チャンバ20内には、雰囲気ガス導入口20aから炭素濃度が5×1017atoms/cm3以上、より好ましくは1×1018atoms/cm3以上のCO2ガスを所定の流量で導入する(ステップS3)。
【0027】
そして、ハロゲンランプ30によりチャンバ20内を加熱し、基板温度が所定温度(例えば1200℃)で所定時間(例えば1時間)の間、熱処理を行う(ステップS4)。
尚、熱処理空間における一定のガス流と炭素濃度を制御するため、排出口20bから所定の流量でチャンバ内の雰囲気が排気される。
【0028】
この熱処理によりシリコン基板1の表面(熱処理により形成される酸化膜下)から深さ5μの領域(表面領域2)は、炭素濃度が少なくとも1×1017atoms/cm3に形成され、炭素濃度の最大値が5×1017atoms/cm3以上に形成される。また、表面から深さ20μmより深い領域(バルク領域3)における炭素濃度が1×1016atoms/cm3以下に形成される。
【0029】
また、この熱処理により前記表面領域2における酸素濃度が、6×1017atoms/cm3以下に形成され、前記表面領域2における窒素濃度が1×1014atoms/cm3以下に形成される。
即ち、シリコン基板1の前記表面領域2は、炭素濃度が高い皮膜が形成され、それによってダイヤモンド薄膜との密着性を向上することが可能となる。
【0030】
尚、シリコン基板1の前記表面領域2における炭素濃度が1×1017atoms/cm3より小さいと、ダイヤモンド薄膜との密着性が悪くなり、ダイヤモンド皮膜欠陥の原因となるため好ましくない。
また、前記バルク領域3における炭素濃度が1×1016atoms/cm3より大きいと、不純物濃度が高くなるため好ましくない。
【0031】
また、表面領域2における酸素濃度が6×1017atoms/cm3大きいと、シリコン基板1上に形成されるダイヤモンド薄膜への酸素の混入が多くなるため好ましくない。
また、同様に前記表面領域における窒素濃度が1×1014atoms/cm3より大きいと、シリコン基板1上に形成されるダイヤモンド薄膜への窒素の混入が多くなるため好ましくない。
【0032】
高温での熱処理が完了すると、所定の昇温速度でチャンバ内を所定温度まで降温し、熱処理を終了する(ステップS5)。
最後にチャンバ20からシリコン基板1を取り出し、熱処理により基板表面に形成された酸化膜をHF洗浄により除去し、本発明のシリコン基板1が得られる。
【0033】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、シリコン基板1の表面領域2における炭素濃度を高く形成することにより、基板表面に形成するダイヤモンド薄膜との密着性を向上し、表面領域2における酸素濃度と窒素濃度とを低く抑えることにより、ダイヤモンド薄膜への酸素や窒素の混入を抑制することができる。
その結果、ダイヤモンド薄膜における捲れやひび割れの発生を抑制し、基板径が大きくてもダイヤモンド薄膜に対する強く均一な密着性を得ることができる。
【0034】
尚、前記実施の形態においては、熱処理において炭素を含むガスとしてCO2ガスをチャンバ内に導入するものとしたが、本発明にあっては、それに限定されるものではなく、COガスをチャンバ内に導入するようにしてもよい。
【実施例0035】
本発明に係るシリコン基板、及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0036】
(実験1)
(実施例1)
実施例1では、チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶から、直径300mm、厚さ775μmのシリコン基板を用意し、これをチャンバ内に配置し、チャンバ内の炭素濃度が高い状態に維持されるようCO2ガスを導入した。そして、チャンバ内を1200℃で1時間保持することにより熱処理を実施した。
熱処理後、シリコン基板表面に形成された酸化膜はHF洗浄により除去し、その後、熱フィラメントCVD法により基板表面に厚さ5μmのダイヤモンド皮膜を形成した。
前記形成されたダイヤモンド皮膜に対し、目視による外観検査を実施し、捲れやひび割れ等が発生した箇所を測定した。
【0037】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に直径300mm、厚さ775μmのシリコン基板を用意し、これに濃度1×1016atoms/cm3の炭素、濃度1×1018atoms/cm3の酸素を含有させ、熱フィラメントCVD法により基板表面に厚さ5μmのダイヤモンド皮膜を形成した。
前記形成されたダイヤモンド皮膜に対し、目視による外観検査を実施し、捲れやひび割れ等が発生した箇所を測定した。
【0038】
実施例1及び比較例1の結果を
図4のグラフに示す。
図4のグラフにおいて縦軸はダイヤモンド皮膜の欠陥数である。
このグラフから実施例1のダイヤモンド被膜の欠陥数は、比較例1の5分の1程度となり低く抑えられた。即ち、実施例1ではシリコン基板とダイヤモンド皮膜との高い密着性が得られたことを確認した。
【0039】
(実験2)
実験2では、本願発明においてチャンバ内に炭素ガスを導入し熱処理する際の温度の条件により、基板中に注入される炭素の濃度がどのように変化するかを検証した。
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様に直径300mm、厚さ775μmのシリコン基板を用意し、これをチャンバ内に配置し、チャンバ内の炭素濃度が高い状態に維持されるようCO2ガスを導入した。そして、チャンバ内を1000℃で1時間保持することにより熱処理を実施した。
熱処理後、シリコン基板表面に形成された酸化膜はHF洗浄により除去した。
前記シリコン基板の表面から深さ方向に沿って炭素濃度を測定した。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、熱処理におけるチャンバ内の温度を1100℃とした。その他の条件は、実施例2と同じである。
【0041】
(実施例4)
実施例4では、熱処理におけるチャンバ内の温度を1200℃とした。その他の条件は、実施例3と同じである。
【0042】
実施例2~4の結果を
図5のグラフに示す。
図5のグラフにおいて、縦軸は炭素濃度(atoms/cm
3)、横軸は基板表面からの深さ(μm)を示す。
図5のグラフより、実施例4のように1200℃で1時間、熱処理を実施することにより、深さ5μmまでの表面領域における炭素濃度を1×10
18atoms/cm
3程度まで上げることができ、深さ20μmよりも深いバルク領域では1×10
16atoms/cm
3以下に抑えることができることを確認した。
実施例2(温度1000℃)では、表面領域における炭素濃度を高く形成することができなかった。
以上から、熱処理温度は1200℃以上で少なくとも1時間であることが望ましいと確認した。
【0043】
(実施例5)
実施例5では、熱処理においてチャンバ内に導入するガスをCOガス、1000℃、1時間とした。その他の条件は、実施例2と同じである。
【0044】
(実施例6)
実施例6では、熱処理においてチャンバ内に導入するガスをCOガス、1100℃、1時間とした。その他の条件は、実施例2と同じである。
【0045】
(実施例7)
実施例7では、熱処理においてチャンバ内に導入するガスをCOガス、1200℃、1時間とした。その他の条件は、実施例2と同じである。
【0046】
実施例5~7の結果を
図6のグラフに示す。
図6のグラフにおいて、縦軸は炭素濃度(atoms/cm
3)、横軸は基板表面からの深さ(μm)を示す。
図6のグラフより、実施例7のように1200℃で1時間、熱処理を実施することにより、深さ5μmまでの表面領域における炭素濃度を1×10
18atoms/cm
3程度まで上げることができ、深さ20μmよりも深いバルク領域では1×10
16atoms/cm
3以下に抑えることができることを確認した。
実施例5(温度1000℃)では、表面領域における炭素濃度を高く形成することができなかった。
以上から、熱処理温度は1200℃以上で少なくとも1時間であることが望ましいと確認した。
【0047】
(実験3)
実験3では、本願発明により得られたシリコン基板の表面層における酸素(O)、ケイ素(Si)、炭素(C)の分布をRBS(ラザフォード後方散乱法)/NRA(核反応法)法により測定し検証した。
(実施例8)
実施例8では、実施例1と同様に直径300mm、厚さ775μmのシリコン基板を用意し、これをチャンバ内に配置し、チャンバ内の炭素濃度が高い状態に維持されるようCO2ガスを導入した。そして、チャンバ内を1200℃で1時間保持することにより熱処理を実施した。
得られたシリコン基板の表面から深さ方向に沿って酸素、ケイ素、炭素の分布を測定した。
【0048】
実施例8の結果を
図7のグラフに示す。
図7のグラフにおいて縦軸は原子比(Atomic Ratio)、横軸は基板表面からの深さ(nm)である。
図7のグラフから、基板表面から深さ230nm程度までは、一定の割合で炭素が含まれることを確認した。また、このグラフからCO
2ガスで熱処理したウェーハ表面に形成される被膜がシリコン酸化膜(SiO
2)であることを確認できた。尚、SiO
2はHF洗浄により容易に除去可能であり、ダイヤモンドを形成させるSi面を容易に表面に出すことができる。
【0049】
実施例9では、チャンバ内に導入するガスをCOガスとした。その他の条件は実施例8と同じである。
実施例9の結果を
図8のグラフに示す。
図8のグラフにおいて縦軸は原子比(Atomic Ratio)、横軸は基板表面からの深さ(nm)である。
図8のグラフから、基板表面から深さ60nm程度までは、炭素を含む被膜が含まれることを確認した。また、このグラフからCOガスで熱処理したウェーハ表面に形成される被膜が単純なシリコン酸化膜(SiO
2)ではないことを確認できた。即ち、SiO
2膜とSiとの界面にSiOC系の膜が形成されていることを確認できる。HF洗浄によりSiO
2を除去すると、SiOC系膜が表面に残るが、このSiOC系膜はダイヤモンド被膜形成の助けになり、Siとダイヤモンド被膜との密着性も向上する。
【0050】
以上のように本発明によれば、ダイヤモンド薄膜との密着性が良好であって、且つ基板直径が大きくても基板面全体にわたり強く均一性が高い密着性を有するシリコン基板を提供できると確認した。