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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142162
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20220922BHJP
   C08G 75/0254 20160101ALI20220922BHJP
【FI】
C08G75/0281
C08G75/0254
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042209
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 想
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC18
4J030BD22
4J030BF17
4J030BF19
4J030BG04
4J030BG26
(57)【要約】

【課題】 低い吸水性と溶融安定性のバランスに優れ、ハロゲン成分・電解質成分の低減化がなされていることから自動車電装部品などの各種電気・電子部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィドの製造法を提供する。
【解決手段】 極性有機アミド溶媒中、ポリハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物との重合反応によりポリアリーレンスルフィドを製造する際に、重合後のポリアリーレンスルフィド-極性有機アミド溶媒スラリーを温度160℃以上200℃以下、圧力5kPa以上100kPa以下の条件下でフラッシュ蒸留し、極性有機アミド溶媒を回収したのち、温度160℃以上220℃以下、処理時間1時間以上10時間以下の条件下にて2回以上熱水洗浄を行うポリアリーレンスルフィドの製造法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機アミド溶媒中、ポリハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物との重合反応によりポリアリーレンスルフィドを製造する際に、重合後のポリアリーレンスルフィド-極性有機アミド溶媒スラリーを温度160℃以上200℃以下、圧力5kPa以上100kPa以下の条件下でフラッシュ蒸留し、極性有機アミド溶媒を回収したのち、温度160℃以上220℃以下、処理時間1時間以上10時間以下の条件下にて2回以上熱水洗浄を行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、熱水185~1900重量部を用いることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造法。
【請求項3】
極性有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンであり、ポリアリーレンスルフィドがN-メチル-2-ピロリドンを100ppm以下で含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィドの製造法。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィドが、下記一般式(1)で示される4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩を1500ppm以下で含有するものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造法。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの本来有する耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを損なうこともなく、低吸水性と溶融安定性のバランスに優れると同時に、成形時の発生ガス量、発生ヤニ量を低減し、さらには成形時の溶融流動性の高いポリアリーレンンスルフィドの製造法に関するものであり、特に低ハロゲン、低電解質を要求される電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気・電子部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィドの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。これらポリアレーレンスルフィドは、通常、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと記す。)等の極性有機溶媒中で、ジクロロベンゼン等のポリハロゲン化芳香族化合物と硫化ナトリウム等のアルカリ金属硫化物との重合反応を行うことにより製造されている。この様に製造されたポリアリーレンスルフィドには、生成するポリアリーレンスルフィドとほぼ同量のアルカリ金属塩が副生してくる。更に副生物として、各種オリゴマー成分が生成することが知られており、これら金属塩やオリゴマー成分がポリアリーレンスルフィドの性能を低下させることが知られている。
【0003】
そして、これらの副生成物を除去する方法として、例えばエチレングリコール溶媒中、200℃以上の温度で加熱する方法、ポリアリーレンスルフィドを芳香族溶媒中で加熱処理してナトリウム含有量を低減する方法、200℃以上240℃以下で熱水洗浄する方法等が提案されている(例えば特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-210631号公報
【特許文献2】特開昭59-219331号公報
【特許文献3】特開2019-6923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に提案された方法は、アルカリ金属塩及び/又は数~十数重量%含有するオリゴマー成分を一括して除去する方法であり、成形時の溶融流動性に劣る、生産性に劣る等の課題を有するものであった。また、特許文献3に提案された方法は、熱水を高温高圧で処理することから、高い耐圧性能を有する設備が必要との課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、生産効率よく、低吸水性と溶融安定性のバランスに優れ、成形時の発生ガス量、発生ヤニ量が低減され、且つ成形時の溶融流動性の高いポリアリーレンスルフィドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、重合後のポリアリーレンスルフィドスラリーより特定条件下で溶媒を除去したのちに熱水洗浄を行う製造法とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、極性有機アミド溶媒中、ポリハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物との重合反応によりポリアリーレンスルフィドを製造する際に、重合後のポリアリーレンスルフィド-極性有機アミド溶媒スラリーを温度160℃以上200℃以下、圧力5kPa以上100kPa以下の条件下でフラッシュ蒸留し、極性有機アミド溶媒を回収したのち、温度160℃以上220℃以下、処理時間1時間以上10時間以下の条件下にて2回以上熱水洗浄を行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法に関するものである。
【0009】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法は、重合後のポリアリーレンスルフィド-極性有機アミド溶媒スラリーを温度160℃以上200℃以下、圧力5kPa以上100kPa以下の条件下でフラッシュ蒸留し、極性有機アミド溶媒を回収したのち、160℃以上220℃以下、1時間以上10時間以下の条件下にて2回以上熱水洗浄を行うものである。
【0011】
そして、ポリアリーレンスルフィドの製造を行う際の重合反応方法としては、極性有機アミド溶媒中、ポリハロゲン化芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを重合する方法が知られており、重合後には、ポリアリーレンスルフィド、副生成物であるアルカリ金属塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩、オリゴマー成分、極性有機アミド溶媒とからなるスラリー状の混合物となるものである。
【0012】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法によれば、該4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩の含有量を制御することにより、品質に優れるポリアリーレンスルフィドを生産効率よく提供することができる。
【0013】
ここで、極性有機アミド溶媒としては、極性有機アミド溶媒の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-メチルシクロヘキシル-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で機械的特性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることからN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0014】
また、ポリハロゲン化芳香族化合物としては、ポリハロゲン化芳香族化合物の範疇に属するものであれば如何なる化合物を用いることも可能であり、例えばp-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、p,p’-ジクロロジフェニル、p,p’-ジブロモジフェニル、2,6-ジクロロナフタレン、2,6-ジブロモナフタレン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で機械的特性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることからp-ジクロロベンゼンが好ましい。そして、さらに高分子量のポリアリーレンスルフィドとするために1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼンを併用することも可能である。
【0015】
アルカリ金属硫化物としては、アルカリ金属硫化物の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば無水硫化ナトリウム,2.8水塩硫化ナトリウム,5水塩硫化ナトリウム等の硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化ルビジュウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム等を挙げることができ、その中でも特に高分子量で機械的特性に優れるポリアリーレンスルフィドがより容易に得られることから硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウムが好ましい。そして、硫化水素ナトリウム、硫化水素リチウム等の硫化水素化物は、水酸化アルカリ金属塩と併用することにより硫化アルカリ金属塩として用いることも可能である。
【0016】
そして、重合後に得られるポリアリーレンスルフィド、副生成物であるアルカリ金属塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩、オリゴマー成分及び極性有機アミド溶媒からなるスラリー状の混合物からポリアリーレンスルフィドを回収する方法として、極性有機アミド溶媒を回収し、その後、熱水にて洗浄を行い回収するものである。その際に極性有機アミド溶媒の回収方法としては、その回収の際の効率に優れることからフラッシュ蒸留により回収を行うものであり、この際のフラッシュ蒸留の条件としては、温度160℃以上200℃以下、圧力5kPa以上100kPa以下である。ここで、温度が200℃を超える、又は、減圧力が5kPa未満である場合、後工程の熱水洗浄工程において副生成物であるアルカリ金属塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩等の除去が不十分となる。一方、温度が160℃未満又は減圧度が100kPaを超える場合、有機アミド溶媒の除去が不十分となる。そして、極性有機アミド溶媒のフラッシュ蒸留による脱溶媒操作は反応缶で行ってもよいし、反応終了後のスラリー混合物を均圧に保持された別タンクへ移槽して行ってもよい。また反応缶の内圧を利用し別タンクへ移槽と同時にフラッシュして脱溶媒を行ってもよい。
【0017】
そして、極性有機アミド溶媒を回収した後に得られるポリアリーレンスルフィド、アルカリ金属塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩及びオリゴマーよりなるケーキに水を加え、アルカリ金属塩を溶解洗浄し、乾燥することによりポリアリーレンスルフィドを得ることができる。その際の洗浄条件を特定の熱水洗浄条件として制御することにより容易に効率よく4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩を1500ppm以下含有するポリアリーレンスルフィドとして回収することができる。
【0018】
その際の熱水としては、通常の水の範疇に属するものであり、例えばイオン交換水等が用いられる。該熱水としては、加圧下で160℃以上220℃以下の加温水であり、好ましくは170℃以上210℃以下の加温水である。また、洗浄時間としては1時間以上10時間以下であり、好ましくは1時間以上5時間以下である。この際の条件が160℃未満、又は1時間未満である場合、オリゴマー成分等の除去が不十分となる。一方、220℃を超える場合、耐圧の高い設備が必要となる。また、10時間を超える場合、ポリアリーレンスルフィドに劣化が生じる場合がある。
【0019】
また、熱水洗浄回数は、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩の含有量の低いポリアリーレンスルフィド、特に好ましくは1500ppm以下含有するポリアリーレンスルフィドを効率よく回収することが可能なことから2回以上である。
【0020】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法において、ポリアリーレンスルフィドを回収する際には、更に乾燥を行ってもよく、その乾燥条件としては、水分が除去されれば良く必要以上に温度を高める必要はなく、乾燥の最終温度は100℃から150℃の範囲が好ましい。
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法においては、更に空気、あるいは窒素雰囲気下、240℃以上の雰囲気温度にて加熱硬化を行ってもよい。そして、加熱硬化に用いる装置は、特に制限はなく、例えばリボンブレンダータイプ、ロータリーキルンタイプ等に代表される焼成装置を挙げることができ、空気あるいは窒素の供給方法も、装置内部に効率的に供給できる方法であれば特に制限は無い。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法によるポリアリーレンスルフィドは、特に低吸水性と溶融安定性・成形加工性のバランスに優れるポリアリーレンスルフィドとなることから下記一般式(1)で示される4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩を1500ppm以下含むものであることが好ましく、特に10ppm以上1500ppm以下で含むものであることが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】

上記4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩は、ポリアリーレンスルフィド製造時に副生する成分であり、その含有量を1500ppm以下と制御することにより、低吸水性と溶融安定性のバランスに優れると同時に、成形時の発生ガス量、発生ヤニ量を低減し、さらには成形時の溶融流動性の高いポリアリーレンンスルフィドとなるものである。
【0025】
本発明の製造法におけるポリアリーレンスルフィドとしては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、例えばポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等を挙げることができ、中でも、ポリフェニレンスルフィドであることが好ましい。
【0026】
本発明の製造法により得られるポリアリーレンスルフィドは、その吸水性が低く、優れるものとなることから吸水率1重量%以下を示すものであることが好ましい。
【0027】
また、本発明の製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドは、一般的な樹脂組成物に配合されている充填材を配合することによりポリアリーレンスルフィド組成物としてもよく、該充填材としては、繊維状充填材として、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、特に機械的強度に優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから、ガラス繊維が好ましい。また、非繊維状充填材としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、タルク、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、特に寸法安定性に優れるポリアリーレンスルフィド組成物となることから、マイカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該充填材は、該ポリアリーレンスルフィド組成物の機械的強度が高いものとなることから、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであっても良い。さらに、本発明により得られるポリアリーレンスルフィドは、成形品とする際の金型離型性や外観を改良するために滑剤を配合してなるポリアリーレンスルフィド組成物としてもよく、該滑剤としては、例えばカルナバワックス、カルボン酸アマイド系ワックスが挙げられる。該カルナバワックスとしては、一般的な市販品を用いることができ、例えば(商品名)精製カルナバ1号粉(日興ファインプロダクツ製)等を挙げることができる。また、該カルボン酸アマイド系ワックスとは、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及びジアミンからなる重縮合物でありこの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH-255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。
【0028】
また、該ポリアリーレンスルフィドは、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0029】
さらに、該ポリアリーレンスルフィドは、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0030】
そして、上記した充填剤、添加剤等を配合しポリアリーレンスルフィド組成物とする際には、ポリアリーレンスルフィドに配合すればよく、その配合に関して制限はなく、その中でも、特に配合の際の効率に優れることから溶融混練により製造することが好ましい。
【0031】
溶融混練を行う際の装置としては、溶融混練を行うことが可能であれば如何なる装置を用いることも可能であり、例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練装置を挙げることができ、特に品質に優れるポリアリーレンスルフィドを効率よく製造することが可能となることから、一軸押出機又は二軸押出機を用いることが好ましい。また、溶融混練を行う際の混練温度に特に制限はなく、例えば270~400℃の中から任意に選ぶことが出来る。
【0032】
ポリフェニレンスルフィドは、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等の各種成形加工機を用いて任意の形状に成形することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの本来有する耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを損なうこともなく、低吸水性と溶融安定性のバランスに優れると同時に、成形時の発生ガス量、発生ヤニ量を低減し、且つ成形時の溶融流動性の高いポリアリーレンンスルフィドを製造する方法に関するものであり、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気・電子部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィドの製造法に関するものである。
【実施例0034】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されものではない。
【0035】
得られたポリアリーレンスルフィドの評価・測定方法を以下に示す。
【0036】
~4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエート・ナトリウム塩(以下、SMCABと記す)の測定~
SMCABをポリアリーレンスルフィドから溶媒で抽出し、HPLC(東ソー(株)製 (商品名)HPLC8020システム)により測定した。
【0037】
~N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)の測定~
NMPをポリアリーレンスルフィドから溶媒で抽出し、HPLC(東ソー(株)製(商品名)HPLC8020システム)により測定した。
【0038】
~溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。得られた溶融粘度の値を、合成例1で得られたPPS(A-2)の溶融粘度の値で除した際の値を溶融粘度比とし、溶融粘度比が0.85未満であるものを流動性に優れているとした。
【0039】
~吸水率~
射出成形によりASTM D-638の1号試験片を作製し、該試験片を、18gの水を仕込んだ2Lオートクレーブ内にいれる。該オートクレーブを、121℃のオーブンに入れ100時間静置した。100時間後、オートクレーブを室温まで冷却し、該試験片を取り出し、試験片に付着している水分を拭き取り、試験前との重量差を吸水量とし、吸水率を測定した。吸水率として、1.0重量%以下のものを低吸水性と判断した。
【0040】
合成例1
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1842g、30%苛性ソーダ溶液(30%NaOHaq)25g及びN-メチル-2-ピロリドン3679gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、375gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロルベンゼン2151g、N-メチル-2-ピロリドン985gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて2時間重合を行い、スラリーである粗ポリアリーレンスルフィド(以下 PPS(A-1)と記す)を得た。
【0041】
重合後、減圧下で重合スラリーであるPPS(A-1)の一部からN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で除去した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%とし回収し、遠心分離により固液分離しケーキを得た。得られたケーキを105℃で一昼夜乾燥することによりPPS(A-2)を得た。
【0042】
実施例1
合成例1により得られたPPS(A-1)から、最終到達温度170℃、最終到達圧力30kPaの条件にて、N-メチル-2-ピロリドンをフラッシュ蒸留にて分離・回収した。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%とし回収し、遠心分離により固液分離しケーキを得た。得られたケーキ6.2kg、及び水13.3kgを、30リットルオートクレーブに仕込み、窒素気流化に系を封入した。この系を170℃に昇温し、170℃にて、1時間洗浄を行った(洗浄1)。洗浄終了後、80℃まで冷却し遠心分離により固液分離しポリアリーレンスルフィドを回収した。回収したポリアリーレンスルフィド6.2kg、及び水13.3kgを、再度30リットルオートクレーブに仕込み、窒素気流化に系を封入した。この系を170℃に昇温し、170℃にて、1時間洗浄を行った(洗浄2)。洗浄終了後、80℃まで冷却し遠心分離により固液分離しポリアリーレンスルフィドを回収した。回収したポリアリーレンスルフィドを105℃で一昼夜乾燥することにより、SMCABを1200ppm含むポリアリーレンスルフィドを得た。
【0043】
該ポリアリーレンスルフィドを、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、吸水率を測定するための試験片を成形し、評価を行った。これらの結果を表1に示した。
【0044】
実施例2~5
最終到達温度、最終到達圧力、洗浄温度、洗浄時間及び熱水量を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィドを作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0045】
得られたすべてのポリアリーレンスルフィドは、SMCAB量、NMP量が少なく、吸水率、溶融粘度比が低く、低吸水性であり且つ、溶融流動性に優れていた。
【0046】
【表1】
【0047】

比較例1~4
最終到達温度、最終到達圧力、洗浄温度、洗浄時間及び熱水量を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィドを作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0048】
比較例1より得られたポリアリーレンスルフィドは、SMCAB量が多く、吸水率が高く吸水性に劣るものであった。
【0049】
比較例2より得られたポリアリーレンスルフィドは、NMP量が多く、吸水率が高く吸水性に劣るものであった。
【0050】
比較例3より得られたポリアリーレンスルフィドは、SMCAB量、NMP量が多く、吸水率が高く、吸水性に劣るものであった。
【0051】
比較例4より得られたポリアリーレンスルフィドは、SMCAB量、NMP量が多く、吸水率、溶融粘度比が高く、吸水性、流動性に劣るものであった。
【0052】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造法によれば、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを損なうこともなく、低吸水性と溶融安定性のバランスに優れると同時に、成形時の発生ガス量、発生ヤニ量を低減し、且つ成形時の溶融流動性の高いものであり、低ハロゲン・低電解質をも要求される電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気・電子部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィドを効率良く提供することができる。