(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142169
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】パラチロイドホルモンの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220922BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
G01N33/53 F
G01N33/543 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042219
(22)【出願日】2021-03-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍司
(57)【要約】
【課題】PTHの検出感度を向上させること。
【解決手段】パラチロイドホルモン(PTH)をサンドイッチ法により測定する方法において、
・1次抗体としてPTHを特異的に認識する抗体であって、エピトープが異なる2種類以上の抗体を固定化したもの、又はPTHの2か所以上のエピトープと結合しうる抗体を固定化したもの、及び
・2次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を標識化したもの
を検体中のPTHと反応させ、
生成した免疫反応複合体である1次抗体-PTH-2次抗体の標識を検出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラチロイドホルモン(PTH)をサンドイッチ法により測定する方法において、
・1次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、エピトープが異なる2種類以上の抗体を固定化したもの、及び
・2次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を標識化したもの
を検体中のPTHと反応させ、
生成した免疫反応複合体である1次抗体-PTH-2次抗体の標識を検出することを特徴とする方法。
【請求項2】
1次抗体として、ホールPTH(wPTH)の37番目から53番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1次抗体として、wPTHの53番目から67番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
PTHをサンドイッチ法により測定する方法において、
・1次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、PTHの2か所以上のエピトープと結合しうる抗体を固定化したもの、及び
・2次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を標識化したもの
を検体中のPTHと反応させ、
生成した免疫反応複合体である1次抗体-PTH-2次抗体の標識を検出することを特徴とする方法。
【請求項5】
1次抗体として、wPTHの37番目から53番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1次抗体として、wPTHの53番目から67番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラチロイドホルモンの測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
副甲状腺から分泌されるホルモンに、パラチロイドホルモン(PTH)がある。PTHは84残基のアミノ酸からなるペプチドホルモンの一種であり、血中のカルシウム濃度などを調節する働きがある。しかし副甲状腺の腫瘍や腎不全、機能性副甲状腺のう胞などに罹患すると、このホルモンの血中濃度が異常になる(非特許文献1、非特許文献2)。そのためこれらの疾患を診断するためには、このホルモンの血中濃度を調べることが必要となっている。
【0003】
PTHは副甲状腺から血中へ分泌されるが、血液中には様々な分解酵素がある。そのためこのホルモンは、血液中でいくつかのフラグメントへ分解される。この分解産物のうち、N末端から数えて6番目までのアミノ酸残基が切断されたものはインタクトPTH(iPTH)と呼ばれている(
図1)。また酵素による分解を全く受けていないものについては、ホールPTH(wPTH)と呼ばれている(
図1)。疾患の診断では主に、この2種類のPTHの血中濃度が利用されている。
【0004】
PTHの血中濃度測定では通常、エピトープの異なる2種類の抗PTH抗体(1次抗体・2次抗体)を用いたサンドイッチ法が利用されている(
図2)。この方法ではまず、1次抗体が固相化されているところへ検体を加えて反応させる。その後これを洗浄し、アルカリホスファターゼ(ALP)などの酵素で標識された2次抗体(標識2次抗体)をここへ加える。そしてこれを再び洗浄し、固相に結合している標識2次抗体から出るシグナルを測定してその血中濃度を調べている。
【0005】
PTHの血中濃度は臨床上非常に重要な情報ではあるが、その測定系の構築は容易でない。特に血中のPTH濃度は非常に低いため、その検出には感度の良い測定系を構築する必要がある。PTH測定系の構築では、反応時間や検体量、反応条件など様々な因子がその検出感度に影響を与える。しかしその検出感度に最も強い影響を与えるのは、このいずれでもない。PTHの検出感度は、使用する抗体の性能に最も強い影響を受ける。基本的には、PTHとの親和性が高い抗体を用いるほどその検出感度は高くなる。しかし、PTHとの親和性が高い抗体は容易に得られない。そのため感度良くPTHを検出することは非常に難しく、これまで大きな課題となってきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D B Endres, R Villaueva, C F Sharp Jr, F R Singer.(1991)Immunochemiluminometric and immunoradiometric determinations of intact and total immunoreactive parathyrin:performance in the differential diagnosis of hypercalcemia and hypoparathyroidism. Clin.Chem. 37,162-168.
【非特許文献2】R Lepage, S Whittom, S Bertrand, G Bahsali, P D‘Amour.(1992)Superiority of dynamic over static reference intervals for intact, midmolecule, and C-terminal parathyrin in evaluating calcemic disorders. Clin.Chem. 38,2129-2135.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、PTHの検出感度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は以下の通りである。
(1)パラチロイドホルモン(PTH)をサンドイッチ法により測定する方法において、
・1次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、エピトープが異なる2種類以上の抗体を固定化したもの、及び
・2次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を標識化したもの
を検体中のPTHと反応させ、
生成した免疫反応複合体である1次抗体-PTH-2次抗体の標識を検出することを特徴とする方法。
(2)1次抗体として、ホールPTH(wPTH)の37番目から53番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、(1)に記載の方法。
(3)1次抗体として、wPTHの53番目から67番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)PTHをサンドイッチ法により測定する方法において、
・1次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、PTHの2か所以上のエピトープと結合しうる抗体を固定化したもの、及び
・2次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、1次抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を標識化したもの
を検体中のPTHと反応させ、
生成した免疫反応複合体である1次抗体-PTH-2次抗体の標識を検出することを特徴とする方法。
(5)1次抗体として、wPTHの37番目から53番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、(4)に記載の方法。
(6)1次抗体として、wPTHの53番目から67番目までのアミノ酸のいずれかを特異的に認識する抗体を用いる、(4)又は(5)に記載の方法。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、第一の発明について説明する。
【0010】
第一の発明はPTHの検出感度を向上させる方法に関するものであり、エピトープが異なる2種類以上の抗体を固相化して1次抗体として用いることを特徴とする(
図3)。用いられる抗体はそれぞれエピトープが違っていれば特にその種類が限定されるものではなく、例えばIgG1やIgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgGA2、IgD、IgE、IgYやこれらの混合物などを用いることができる。
【0011】
またこの抗体の由来についても特に限定されるものではなく、マウスやラット、ウサギ、ラクダ、サメ、アルパカ、ニワトリ、ダチョウ、ヤギ、ヒツジなどに由来するものやこれらの混合物を用いることができる。
【0012】
更にここで使われる抗体はモノクローナル抗体でもよければポリクローナル抗体でもよく、あるいはモノクローナル抗体の混合物であってもよい。またここで利用する抗体はPTHと結合することができれば特にそのフォーマットが限定されるものでもなく、インタクトな抗体やF(ab)、F(ab’)、F(ab’)2、一本鎖抗体、scFv、sdAbやこれらの類似物、そしてこれらの混合物であってもよい。更にここで利用される抗体はPTHと結合する性質のある分子であれば特にその種類が限定されるものでもなく、アプタマー等のアフィニティ分子を含んでもよい。
【0013】
1次抗体に用いられる固相としては特に限定は無く、例えば、磁性微粒子や金コロイド、ポリスチレン等があげられる。
【0014】
2次抗体に用いられる標識としては特に限定は無く、例えば、アルカリホスファターゼ、ホーセラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼなどの酵素や、蛍光を発するタンパク質や化合物等があげられる。
【0015】
検体としては特に限定は無く、例えば血液、血漿、血清、尿等があげられる。
【0016】
次に第二の発明について説明する。第二の発明は、1次抗体として、PTHを特異的に認識する抗体であって、PTHの2か所以上のエピトープと結合しうる抗体を固定化したものを用いることに特徴がある。そのような抗体としては、例えばbi-specific抗体、Tandem scFv(BiTEs)、Diabody、Tri-Fab等があげられる(
図4)。それ以外の点については、第二の発明は第一の発明と同様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、PTHの検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】サンドイッチ法によってPTHを検出する原理に関する図である。
【
図3】エピトープが異なる2種類以上の抗体を1次抗体として用いてPTHを検出する原理に関する図である。
【
図4】bi-specific抗体を1次抗体として用いてPTHを検出する原理に関する図である。
【
図5】wPTHモノクローナル抗体を2次抗体として検量線を作成した図である。
【
図6】iPTHモノクローナル抗体を2次抗体として検量線を作成した図である。
【
図7】wPTHモノクローナル抗体を2次抗体とし、エピトープが異なる2種類の抗体を1次抗体として使用した際に、その混合比を変えるとS/N比にどのような影響がでるか調べた図である。
【
図8】iPTHモノクローナル抗体を2次抗体とし、エピトープが異なる2種類の抗体を1次抗体として使用した際に、その混合比を変えるとS/N比にどのような影響がでるか調べた図である。
【実施例0019】
以下、実施例によって本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。尚、本実施例に使用した薬品の組成及びpHは以下に示す通りである。
PBS(pH7.5)
8.1mM りん酸水素二ナトリウム・12水和物
1.5mM りん酸水素カリウム
137mM 塩化ナトリウム
2.7mM 塩化カリウム
炭酸緩衝液(pH 9.6)
12mM 炭酸ナトリウム
38mM 炭酸水素ナトリウム
洗浄緩衝液(pH 7.4)
1mM トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン
7.5mM 塩化ナトリウム
0.05% tween20
ブロッキング緩衝液(pH7.5)
8.1mM りん酸水素二ナトリウム・12水和物
1.5mM りん酸水素カリウム
137mM 塩化ナトリウム
2.7mM 塩化カリウム
1% スキムミルク
インキュベーション緩衝液(pH7.5)
8.1mM りん酸水素二ナトリウム・12水和物
1.5mM りん酸水素カリウム
137mM 塩化ナトリウム
2.7mM 塩化カリウム
0.1% スキムミルク
ALP緩衝液(pH9.8)
1M ジエタノールアミン
0.5mM 塩化マグネシウム
10mM 4-メチルウンベリフェリルリン酸
ビーズ洗浄液(pH7.5)
1mM トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン
7.5mM 塩化ナトリウム
0.05% tween20。
【0020】
[実施例1]
(1)免疫抗原の調製
まず20mgのオブアルブミン(OVA)を用意し、2mlの超純水に溶かした。次に4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸 3-スルフォ-N-ヒドロキシサクシニミドエステルナトリウム塩(sulfо-SMCC)を20mg量り取り、4mlの超純水に溶かした。その後これらの溶液を混ぜて室温で1時間静置し、反応させた。その後この溶液をPBSで平衡化したPD-10カラム(GE社)へ通して脱塩し、未反応のsulfо-SMCCを除去した。
【0021】
次にwPTHの34番目から84番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチドを用意した(PTH34-84)。そしてこのペプチドを20mg量り取り、5mlのPBSに溶かした。その後この溶液を先ほどPD-10で脱塩したOVA溶液に加えて室温で2時間静置し、PTH34-84をOVAに結合させた(OVA_PTH34-84)。そしてこの溶液にPBSを加え、液量が20mlとなるように調整した。その後この反応液を透析チューブの中へ入れてからPBS溶液に対して4℃で透析し、未反応のペプチドを除去した。透析後は透析チューブの中からOVA_PTH34-84を回収し、免疫用の抗原として利用した。
【0022】
(2)実験動物への免疫
免疫動物としてマウス(雌、ICR、4週齢)を用意した。次に先ほど調整したOVA_PTH34-84溶液とフロイントコンプリートアジュバンドを1:1の比で混ぜた。そしてこの混合液を氷上で超音波にかけ、乳化させた。その後この溶液を用意してあるマウスの腹腔へ100μl注入して免疫した。
【0023】
初回の免疫を行った1週間後、下記の通り再度免疫を行った。まず、透析から回収したOVA_PTH34-84とフロイントインコンプリートアジュバンドを1:1の比で混ぜた。そしてこの混合液を氷上で超音波にかけ、乳化させた。その後この溶液をマウスの腹腔へ100μl注入して免疫した。2回目の免疫以降は、フロイントインコンプリートアジュバンドを用いたこの免疫作業を週に1回のペースで7週間に渡り実施した。
【0024】
(3)細胞融合・スクリーニング
免疫後のマウスを安楽死させ、脾臓細胞を回収した。そしてこの細胞とミエローマ細胞とを2:1の比率で混ぜ、電気融合法で細胞融合を行った。電気融合が終了したら細胞を回収して融合細胞用培地(E-RDF+10%ウシ血清+5%BMコンディムド+HAT)に懸濁し、脾臓細胞の細胞密度が6.7×104cells/mlとなるようにした。その後、この細胞懸濁液を384プレートへまき、37℃、5%CO2の環境で11日間培養した。培養終了後、プレート内の各ウェルから培養液を少量回収した。そして、PTHと強く結合する抗体が作られているウェルをELISA法によって下記の通り調べた。
【0025】
(A)抗マウス抗体を0.5μg/mlとなるように炭酸緩衝液へ溶かし、この溶液をELISA用プレート(384ウェル)の各ウェルへ50μlずつ分注した。その後、このプレートを室温で1時間静置し、洗浄緩衝液で各ウェルを3回洗浄した。
(B)ブロッキング緩衝液を各ウェルに100μlずつ加えてから室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で1回洗浄した。
(C)インキュベーション緩衝液を各ウェルに50μlずつ加えた。
(D)培養上清を各ウェルに2μlずつ加えてから室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。
(E)wPTHを5ng/mlとなるようにインキュベーション緩衝液へ溶かした。そしてこの溶液を50μlずつ各ウェルに加え、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。
(F)wPTHのN末端領域を認識する抗体にALPを標識したものを各ウェルに50μlずつ加え、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。
(G)ALP緩衝液を各ウェルに50μl加え、30分静置した。
(H)蛍光強度を測定し(Excitation 360nm/Emission 465nm)、wPTHと強く結合する抗体のあるウェルを調べた。
【0026】
(4)クローニング
wPTHと強く結合する抗体のあるウェルをいくつか選び、その中からそれぞれ細胞を回収した。そしてこれらの細胞をそれぞれ細胞培養用培地(E-RDF+10%ウシ血清)または細胞融合用培地に懸濁して37℃、5%CO2の環境で培養した。その後細胞の生育が確認できたら、それぞれの細胞について下記の通り限界希釈を行い、細胞を単クローン化した。
(A)回収した細胞を、6.4mlの細胞培養用培地または細胞融合用培地へ懸濁した。
(B)この細胞懸濁液を細胞培養用プレート(384ウェル)の各ウェルへ50μlずつ64ウェル分だけ分注した。
(C)残された3.2mlの細胞懸濁液に新たな培地を等量加え、よく懸濁した。
(D)この細胞懸濁液を細胞培養用プレート(384ウェル)の各ウェルへ50μlずつ64ウェル分だけ分注した。
【0027】
(E)ウェル中にある細胞数の期待値が1cell/well以下となるまで上記の希釈・分注操作を繰り返した。
(F)細胞培養プレートを37℃、5%CO2の環境下におき、培養した。
(G)培養上清中に分泌された抗体とPTHとの反応性をELISA法で調べた。なお、ELISAの条件は、スクリーニングの際に行ったELISAと全く同じものを用いた。
(H)wPTHと強く反応する抗体が含まれるウェルの中から、ウェル中にある細胞数の期待値が1cell/well以下となっているものだけを選抜した。そして、これらのウェルを顕微鏡で観察し、細胞が単クローン化されていることを確認した。その後、このウェルから細胞を回収した。そしてこの細胞を新たな細胞培養用培地または細胞融合用培地へ懸濁し、37℃、5%CO2の環境下で培養した。
【0028】
(5)エピトープの同定
まず20mgのオブアルブミン(OVA)を用意し、2mlの超純水に溶かした。次にsulfо-SMCCを20mg量り取り、4mlの超純水に溶かした。その後これらの溶液を混ぜて室温で1時間静置し、反応させた。この溶液をPBSで平衡化したPD-10カラム(GE社)へ通して脱塩し、未反応のsulfо-SMCCを除去した。
【0029】
次にwPTHの37番目から53番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチド(PTH37-53)と、wPTHの46番目から60番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチド(PTH46-60)と、wPTHの53番目から67番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチド(PTH53-67)と、wPTHの60番目から74番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチド(PTH60-74)と、wPTHの67番目から84番目までのアミノ酸で構成されているペプチドのN末端にシステインが導入されているペプチド(PTH67-84)を用意した。そしてこれらのペプチドを4mgずつ量り取り、それぞれ1mlのPBSに溶かした。次に先ほどPD-10で脱塩したOVA溶液を5等分し、PBSへ溶かした各ペプチド溶液をこのOVA溶液へそれぞれ加えた。その後この溶液を室温で2時間静置し、OVAと各ペプチドを結合させた(それぞれOVA_PTH37-53、OVA_PTH46-60、OVA_PTH53-67、OVA_PTH60-74、OVA_PTH67-84とする)。反応後はこの溶液にそれぞれPBSを加え、液量が4mlとなるように調整した。そしてこの反応液をそれぞれ透析チューブの中へ入れてからPBS溶液に対して4℃で透析し、未反応のペプチドを除去した。透析後は透析チューブの中から各サンプルをそれぞれ回収し、単クローン化された抗体のエピトープを同定する下記の実験に利用した。
【0030】
(A)OVA_PTH37-53、OVA-PTH46-60、OVA-PTH53-67、OVA-PTH60-74またはOVA-PTH67-84を0.5μg/mlとなるように炭酸緩衝液へ溶かし、これらの溶液をそれぞれ別のELISA用プレート(96ウェル)の各ウェルへ100μlずつ分注した。その後、このプレートを室温で1時間静置し、洗浄緩衝液で各ウェルを3回洗浄した。
(B)ブロッキング緩衝液を用意したELISAプレートの全てのウェルに200μlずつ加えてから室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で1回洗浄した。
(C)インキュベーション緩衝液を用意したELISAプレートの全てのウェルに70μlずつ加えた。その後単クローン化した細胞の培養上清を各プレートの各ウェルにそれぞれ30μlずつ加えていった。その後これを室温で1時間静置してから各ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。
【0031】
(D)ALP標識された抗マウス抗体をインキュベーション緩衝液で1万倍希釈した。その後この溶液を用意したELISAプレートの全てのウェルに100μlずつ加え、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。
(E)ALP緩衝液を用意したELISAプレートの全てのウェルに100μlずつ加え、30分静置した。
(F)蛍光強度を測定し(Excitation 360nm/Emission 465nm)、得られた各抗体がPTHのどのフラグメントと反応するか調べた。実験の結果、wPTHの37番目から53番目までのアミノ酸を認識するモノクローナル抗体(PTH115)とwPTHの53番目から67番目までのアミノ酸を認識するモノクローナル抗体(PTH113)を単離できていると確認できた。
【0032】
(6)抗体の精製・フルオレセイン(FITC)標識
PTH115を産生する細胞とPTH113を産生する細胞をそれぞれ培養液から回収した。そしてこれらの細胞をそれぞれPBSに懸濁して洗浄した。次にこれらの細胞を1X106cells/mlとなるようにそれぞれハイブリドーマ用の無血清培地(サイテバ社)へ懸濁して37℃、5%CO2の環境下で培養した。
【0033】
細胞培養後、抗体が含まれている培養上清を回収してそれぞれフィルターろ過した。そしてこれらの溶液をそれぞれPBSで平衡化したProteinAカラム(東ソー社)へ通した。次にここへPBSを流してそれぞれカラムを洗浄した。その後このカラムへ100mM Gly-Cl(pH2.5)を流し、カラムからそれぞれの抗体を溶出させた。次に精製されたこれらの抗体を濃縮し、それぞれ透析チューブの中へ入れてPBS溶液に対して4℃で透析した。透析後は透析チューブの中からモノクローナル抗体PTH115とPTH113を回収し、BCA法によってタンパク質濃度を測定した。
【0034】
精製したモノクローナル抗体PTH115とPTH113の濃度と容量がそれぞれ1mg/ml、1mlとなるようにPBSで調整した。そしてこの抗体溶液をそれぞれ透析チューブの中へ入れ、50mM ホウ酸ナトリウム溶液(pH9)に対して4℃で透析した。そして透析終了後は各抗体をそれぞれ透析チューブから回収した。次に6-(フルオレセイン-5-カルボキサミド)ヘキサン酸スクシンイミジルエステルを1.9mg量り取り、1mlのDMSOに溶かした。その後この溶液をホウ酸溶液で透析した各抗体溶液1mlへ10μlずつ加えた。そしてこれらの溶液を4℃で一晩転倒混和し、それぞれの抗体をFITCで標識した。反応後この反応液へ12.5mg/mlとなるよう超純水に溶かしたグリシン溶液を100μlずつ加えて反応を止めた。そしてこれらの溶液をそれぞれ透析チューブの中へ入れてPBS溶液に対して4℃で透析し、未反応のFITCを除去した。そして透析後は透析チューブの中からFITCで標識されたモノクローナル抗体PTH115とPTH113をそれぞれ回収した。
【0035】
(7)抗体の性能評価
FITCで標識されたモノクローナル抗体PTH115とPTH113を使い、以下の通りその性能を評価した。
【0036】
まず、FITCで標識されたモノクローナル抗体PTH115またはPTH113をインキュベーション緩衝液で希釈して0.1mg/mlとなるように濃度を調整した。次にこの抗体溶液やこれらを混合した溶液を抗FITC抗体が固定化された粒子へそれぞれ一定量加え、室温で一時間反応させた。その後この粒子をビーズ洗浄液で3回洗浄し、ALPで標識された2次抗体を一定量加えた。尚ここでは、wPTHのN末端から数えて1番目から6番目までのアミノ酸残基を認識する抗体(wPTH抗体とする)とPTHのN末端から数えて7番目から34番目までのアミノ酸残基を認識する抗体(iPTH抗体とする)のいずれかを2次抗体として利用している。そしてここへwPTH濃度が既知であるキャリブレーター溶液(Cal1-Cal6の6種類)を一定量加え、一定時間反応させた。
【0037】
その後B/F分離を行ってからALPの基質を加え、ビーズに固定されているALP標識2次抗体から出るシグナルを測定した。そしてPTHが全く含まれないキャリブレーター溶液(Cal1)を加えた時のシグナル(N)を1とし、各キャリブレーター溶液(Cal2-6)を加えた時のシグナル(S)をそれぞれ相対的な値(S/N比)として算出した。PTH濃度を横軸、S/Nを縦軸にとり、各キャリブレーター溶液使用時の測定結果をプロットして検量線を作成した。尚この一連の操作は、東ソー社製AIA-600IIを用いて37℃にて全自動で行った。
【0038】
実験の結果、モノクローナル抗体PTH115とPTH113をそれぞれ単独で用いた時よりも、これらを1:1の比で混合して用いた時(PTH113+PTH115)の方が検量線のS/N比が向上すると分かった(
図5、
図6)。またこの時モノクローナル抗体PTH115とPTH113の混合比を変えて実験を行ったところ(wPTH濃度16.1pg/ml又は1.56ng/mlで2次抗体がwPTH抗体又はiPTH抗体)、PTH113:PTH115の比が2:8から8:2の範囲であればそれぞれの抗体を単独で用いた時と比較して検量線のS/N比が向上すると分かった(
図7、
図8)。またこのようなS/N比の向上は、wPTH抗体とiPTH抗体のいずれを2次抗体として用いた場合でも確認された(
図5、
図6、
図7、
図8)。以上の結果から、エピトープが異なる2種類以上の抗体を1次抗体として使用することによってPTHの検出感度が向上することが明らかになった。