(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142190
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】表面処理窒化アルミニウム粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20220922BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220922BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20220922BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C01B21/072 G
C08L101/00
C08K3/28
C08K9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042266
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】稲木 喜孝
(72)【発明者】
【氏名】福永 豊
(72)【発明者】
【氏名】稲川 寿盛
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002BG041
4J002BG051
4J002CD001
4J002CD051
4J002CD061
4J002DF016
4J002FB096
4J002FB136
4J002FB146
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】樹脂に充填した樹脂組成物の状態において低α線量であり、特に、半導体用放熱材として使用される樹脂組成物のフィラーとして好適な表面処理窒化アルミニウム粉末を提供する。
【解決手段】α線量が0.005カウント/cm2・h以下、疎水化度が1以上であることを特徴とする表面処理窒化アルミニウム粉末であり、D50が0.1~1.5μmであり、5μm以上の粗粒が0.5質量%未満であることが好ましい。また、上記表面処理窒化アルミニウム粉末は、樹脂用フィラーとして有用であり、特に、樹脂と上記樹脂用フィラーとを含む樹脂組成物は、半導体用放熱材として好適に使用される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α線量が0.005カウント/cm2・h以下、疎水化度が1以上であることを特徴とする表面処理窒化アルミニウム粉末。
【請求項2】
エタノール溶媒を使用して、レーザー回折散乱型粒度分布計で測定される粒度分布において、累積体積50%粒径D50が0.1~1.5μmである、請求項1記載の表面処理窒化アルミニウム粉末。
【請求項3】
5μm以上の粗粒が0.5質量%未満である、請求項1又は2に記載の表面処理窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理窒化アルミニウム粉末よりなる樹脂用フィラー。
【請求項5】
樹脂と請求項4に記載の樹脂用フィラーとを含む樹脂組成物よりなることを特徴とする半導体用放熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な表面処理窒化アルミニウム粉末に関する。詳しくは、樹脂に充填した樹脂組成物の状態において低α線量であり、特に、半導体用放熱材として使用される樹脂組成物のフィラーとして好適な表面処理窒化アルミニウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化と高性能化への要求から、半導体デバイスの高集積化が進み、同時にデバイスから発生する熱を効率的に逃がすための放熱材の使用量が拡大している。例えば、半導体素子の発生する熱をヒートシンクや筺体等に逃がすために、様々な経路に放熱材が配置され、また放熱材の材質、形態も多岐に渡る。中でも、高い熱伝導性を有するフィラー粉末を充填した樹脂組成物よりなる放熱材は、選択できる材質の種類や形態の自由度から、市場での需要が高まっている。高熱伝導性を有するフィラーとして多く用いられるものとして、酸化アルミニウム粉末(アルミナ粉末)、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシウム粉末などが挙げられる。また、放熱材として熱伝導性の更なる向上が期待されているものとしては、半導体用放熱材、具体的には、半導体封止材、アンダーフィル封止材、放熱シート、放熱グリース、放熱性接着剤、などがある。
【0003】
前記フィラーの中でも、窒化アルミニウム粉末は特に熱伝導率が高く、シリカの数十倍以上、アルミナの5倍以上と、高い熱伝導性を有するため、半導体用放熱材を構成するフィラーとして非常に期待されている。
【0004】
一方、前記半導体用放熱材を構成するフィラーには、高い絶縁性を求められることから、化学的に安定で、イオン性不純物を放出しないフィラーが求められる。また、半導体チップに接して或いは近傍に配される半導体用放熱材は、半導体チップのエラーの原因となるウランやトリウムといった放射性元素不純物の低減が求められる。更に、半導体用放熱材として使用される樹脂組成物において、樹脂組成物に高い熱伝導性を付与するために、樹脂への充填性の向上も要求される。
【0005】
従来、窒化アルミニウム粉末に関して、焼結用途においては、高純度とすることで低α線化を行うことや、その耐水性を改善するために表面処理が必要であることは報告されている(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、窒化アルミニウム粉末を前記半導体用放熱材として使用する樹脂組成物のフィラーとして使用することに関して、前記要求を総合的に検討した例は報告されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】セラミックス 26,1991,No.8 733~737頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、前記樹脂組成物を構成するフィラーとして使用した際に、イオン性不純物を放出せず、また、放射性元素不純物が低減された低α線量を示し、更に、樹脂への充填性に優れた窒化アルミニウム粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、純度の高いアルミナ原料を用いて合成された低α線量を示す窒化アルミニウムを疎水化処理することにより、前記課題を全て解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、α線量が0.005カウント/cm2・h以下、疎水化度が1以上であることを特徴とする表面処理窒化アルミニウム粉末である。
【0011】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、エタノール溶媒を使用して、レーザー回折散乱型粒度分布計で測定される粒度分布において、累積体積50%粒径D50が0.1~1.5μmであることがフィラー用途において好ましい。
【0012】
また、本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、5μm以上の粗粒が0.5質量%未満であることが、フィラーとして樹脂に充填した際、樹脂組成物に高い流動性を付与するために好ましい。
【0013】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、樹脂用フィラーとして有用であり、樹脂に配合した樹脂組成物は、その高い熱伝導性により半導体用放熱材として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、α線量が0.005カウント/cm2・h以下であり、且つ、疎水化度が1以上であることを特徴とする。
【0015】
従来、前記したように、低α線の窒化アルミニウム粉末は、焼結体用の用途においては知られている。しかしながら、焼結体用途の窒化アルミニウム粉末においては、後述するように、疎水化度が1以上となるように表面処理した例は報告されていない。
【0016】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、半導体用放熱材として使用する樹脂組成物のフィラーとして使用した場合、α線量が低く抑えられることにより、半導体チップのエラー発生確率を下げることが期待できる。また、表面疎水化により耐水性が向上し、イオン性不純物の放出が抑制されると共に、樹脂との馴染み性が向上することから、樹脂組成物への充填率を高くすることが可能である。
【0017】
中でも、5μm以下の粗粒が少なく、特定の粒度分布に制御された表面処理窒化アルミニウム粉末は、前記効果に加え、これを使用して樹脂組成物を構成したに極めて高い流動性を示し、半導体用放熱材としての用途のうち、封止材、特に、アンダーフィル封止材として使用した場合、細かい隙間にも確実な充填が可能であるという優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】樹脂組成物(アンダーフィル封止材)の浸透性を測定する装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
[表面処理窒化アルミニウム粉末]
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、α線量が0.005カウント/cm2・h以下、疎水化度が1以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、α線量が0.005カウント/cm2・h以下、好ましくは、α線量が0.003カウント/cm2・h以下と、粉末から発生するα線量が少ない。α線の発生量が多いと、半導体が誤作動を起こす原因となるが、本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末を用いることで、そうしたエラーの発生確率を低減させる効果がある。尚、α線量の測定は、後述の実施例に記載されているように、粉末試料から一定時間の間に発生するα線量をカウントする。α線は主に天然原料由来のウランやトリウムといった放射性元素から放出されるため、表面処理窒化アルミニウム粉末の原料には天然原料の影響が少ない精製原料などを使用することで、α線量を効果的に下げることができる。
【0021】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、これを構成する粒子表面が疎水化されている。これにより、粉末の凝集防止効果、樹脂への充填性向上の効果が得られる。充填性の向上は、凝集粒子が少ないことと、樹脂との親和性が向上していることの両方による効果である。また、表面処理により粉末が疎水化されることで、窒化アルミニウムが加水分解され難くなり、イオン性不純物の放出を抑制する効果がある。
【0022】
上記表面処理窒化アルミニウム粉末の疎水化の程度は、疎水化度で示すことができ、本発明においては、疎水化度が1以上である。
【0023】
尚、疎水化度は、表面処理窒化アルミニウム粉末は水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁することを利用した方法によって測定されるものである。具体的には、実施例に記載の方法によって測定し、算出した値を疎水化度としている。
【0024】
本発明において、樹脂との親和性の改善を目的とした疎水化を行う、表面処理剤は、窒化アルミニウムもしくは表面酸化膜に存在する水酸基等と化学結合を形成してその表面に結合し得る。前記疎水化のための表面処理剤は公知のものが特に制限なく使用される。
【0025】
例えば、シラン化合物、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。そのうち、窒化アルミニウム粉末表面に後述する酸化層を形成して水酸基の量を増やした場合、高い反応率で反応して、高密度での表面処理剤の付与が可能なシラン化合物が好適に使用できる。また、シラン化合物のなかでも、アルキル基又はアルキレン基を有するシラン化合物の場合、かかる基を構成する炭素数は8以下が好ましい。
【0026】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、1種類のみ処理剤で処理されてもよいし、2種類以上の処理剤を組み合わせて処理されてもよい。
【0027】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末において表面処理剤として好適に使用されるシラン化合物について更に詳しく説明する。シラン化合物により表面処理された表面処理窒化アルミニウム粉末は、シラン化合物の一部または全部が、窒化アルミニウム表面に少なからず存在する酸化アルミニウム層の水酸基との脱水縮合反応により、シランが表面と結合を形成している状態を指す。上記の表面処理をされた表面処理窒化アルミニウム粉末は、有機溶媒に分散し、その後固液分離しても一定量のシランが洗い流されずに粉末状に残留する。本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、上記処理により窒化アルミニウム粉末の表面に結合していない遊離の疎水化剤は存在していてもよいが、有機溶媒で洗浄や減圧加熱処理などを行い、可及的に除去したものが好ましい。
【0028】
前記疎水化剤として使用されるシラン化合物について、具体的に例示すれば、反応性官能基を有するシラン化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシランの如きアルコキシシランが挙げられる。
【0029】
また、官能基が非反応性であるシラン化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0030】
その他使用可能なシラン化合物として、ビニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、エチルジメチルクロロシラン、プロピルジメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、イソプロピルジエチルクロロシラン等のクロロシランが挙げられる。
【0031】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、表面処理剤を高密度で窒化アルミニウム粒子表面に結合させるため、前記窒化アルミニウム粉末が表面の酸化層が多く有するものが好ましい。一方、酸化層は窒化アルミニウム粉末の熱伝導性を低下させることから、上記熱伝導率を著しく低下させない程度の量に止めることが好ましい。これらを考慮すれば、上記酸化層の厚みは、粒子の直径の0.005%~0.2%程度であることが好ましい。これにより、上記酸化層において、表面処理剤と反応可能な水酸基の密度が、0.8個/nm2以上となる。
【0032】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、前記酸化層の存在下に処理されたもので、粒子表面の前記表面処理剤の密度が高いことが好ましい。上記表面処理剤に由来する炭素の含有割合は上記表面処理剤の粒子表面の存在量に比例する。本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末において、粒子表面に結合する表面処理剤の密度を上記炭素含有割合で特定すると、一般に0.06~1.0質量%、特に、0.1~0.5質量%であることが好ましい。また、上記炭素含有割合において、窒化アルミニウム粉末の粒子表面に結合する表面処理剤の個数を示す表面処理剤密度が1~5個/nm2、好ましくは、1~4個/nm2となるように、前記表面処理剤により処理されたものであることが好ましい。
【0033】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末において、その他の物性は特に制限されないが、レーザー回折散乱型粒度分布計でエタノール溶媒を使用して測定される粒度分布において累積体積50%粒径D50が0.1~1.5μmの粒径を有するものについて、特に効果的である。即ち、上記粒径を有する窒化アルミニウム粉末は、フィラーとしての用途において比較的小さく、狭い隙間へ浸透させる樹脂組成物の用途、具体的には、アンダーフィル封止材において、本発明の効果が特に顕著に表れる。
【0034】
また、本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、累積体積90%粒径D90が10μm以下であることが好ましい。
【0035】
更に、本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、窒素吸着1点法で測定したBET比表面積Aが0.1~30.0m2/gの範囲にあることが好ましい。
【0036】
[表面処理窒化アルミニウム粉末の製造方法]
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末の製造方法は特に限定されないが、以下の方法で製造することができる。
【0037】
即ち、α線量が0.005カウント/cm2・h以下であり、表面に酸化層を有する窒化アルミニウム粉末100質量部に対して、0.1~5質量部、好ましくは、0.2~1.0質量部の表面処理剤を加熱下に接触せしめ、その後、必要に応じて、遊離の処理剤を除去する方法が挙げられる。
【0038】
上記製造方法における原料窒化アルミニウム粉末としては、α線量が0.005カウント/cm2・h以下であれば、従来公知の方法によって製造された粉末状の窒化アルミニウム粉末を特に制限なく使用することができる。本発明では表面処理を施す前の窒化アルミニウム粉末を「原料窒化アルミニウム粉末」と呼ぶ。本発明における原料窒化アルミニウム粉末を製造する方法としては、例えば直接窒化法、還元窒化法、気相合成法などを挙げることができる。
【0039】
粒度分布や平均粒径の大小に関係なく、粉末に含まれる凝集体は少ないことが望ましい。凝集体は樹脂への充填性悪化の原因となりやすい。また凝集体内部は表面処理されにくいため、表面処理工程の後に凝集体が砕けると、表面処理されていない未処理表面が露出するため、やはり樹脂への充填性悪化の原因となりやすい。そのため凝集体は表面処理工程の前に、必要に応じてボールミル、ジェットミル等で解砕するか、乾式分級や湿式分級により除去すると充填性において好ましい。
【0040】
前記製造方法において、原料窒化アルミニウム粉末の粒度分布は、特に制限されず、目的とする表面処理窒化アルミニウム粉末の表面処理による粒径の変化を考慮して適宜決定すればよい。例えば、レーザー回折散乱型粒度分布計で水溶媒を使用して測定される粒度分布において、累積体積50%粒径D50が0.1~1.5μmの範囲とすることが好ましい。
【0041】
更に、原料窒化アルミニウム粉末は、BET法で測定される比表面積が0.6m2/g以上であることが望ましい。
【0042】
更にまた、原料窒化アルミニウムには、原料由来あるいは合成法上で意図的に添加されたアルカリ土類元素、希土類元素などの不純物は5質量部程度を上限として含まれていても差し支えない。また、凝集防止剤やセッター由来の不純物として窒化ホウ素が5質量部程度を上限として含まれていても構わない。ただし窒化アルミニウム結晶性を著しく下落させる不純物量は、熱伝導性低下の原因となるため好ましくない。原料窒化アルミニウム粉末における窒化アルミニウム含有率は90質量%以上が好ましく、95質量%以上、更に好ましくは、99質量%以上がより好ましい。
【0043】
前記製造方法において、使用する原料窒化アルミニウム粉末、延いては、得られる表面処理窒化アルミニウム粉末のα線量を前記範囲となるように低く抑えるためには、窒化アルミニウムの原料に、ウランやトリウムといった放射性元素不純物が少ないことが求められる。特に天然原料には放射性元素不純物が多く含まれるため、原料は合成品であることが望ましい。例えば、還元窒化法で使用する原料アルミナは、アルコキシド法や気相法等で合成されるものは不純物が少なく有用である。原料に含まれる放射性元素不純物の量は、1ppb以下とすることが好ましく、0.1ppb以下が望ましい。
【0044】
前記製造方法において、原料窒化アルミニウム粉末は、前記したように、表面処理の処理効率を高めるために、その表面に酸化層を形成することが好ましい。
【0045】
上記酸化層を形成する処理は、窒化アルミニウム粉末の水酸基の密度が0.8個/nm2以上、特に、0.9個/nm2以上、2個/nm2以下、特に、1.6個/nm2以下となるように行うことが好ましい。上記水酸基密度が2個/nm2を超える過剰の酸化処理を行った粒子は、通常の窒化アルミニウムの表面と異なり、過剰に酸化反応が進行した状態や、加水分解が進行して水酸化アルミニウムに変質している状態である可能性がある。そうした状態は、熱伝導性の低い表面になっており好ましくない。
【0046】
この酸化層の形成は、原料窒化アルミニウム粉末を保管する際の自然酸化によって形成されてもよいし、意識的に行う酸化処理工程によって形成してもよい。また、窒化アルミニウム粉末の酸化処理は、原料窒化アルミニウム粉末の製造過程において行ってもよく、あるいは原料窒化アルミニウム粉末を製造した後に、別個の工程として行ってもよい。例えば、還元窒化法によって得られる原料窒化アルミニウム粉末は、反応時に使用する炭素を除去する目的で、製造過程に酸化処理工程を経るため、表面には酸化アルミニウム層が存在する。そうして得られた還元窒化法の窒化アルミニウム粉末に対し、さらに酸化処理工程を追加して行ってもよい。
【0047】
酸化処理工程を別個の工程として追加して行う場合、その好適な条件は以下のとおりである。各種方法で得られた原料窒化アルミニウム粉末を、酸素含有雰囲気中で、好ましくは400~1,000℃の温度、より好ましくは600~900℃の温度において、好ましくは10~600分間、より好ましくは30~300分間の時間、加熱することによって、原料窒化アルミニウム粒子表面に酸化アルミニウム層を形成することができる。上記酸素含有雰囲気としては、例えば酸素、空気、水蒸気、二酸化炭素などを使用することができるが、本発明の目的との関係においては、空気中、特に大気圧下における処理が好ましい。
【0048】
一方、900℃を超える高温で酸化処理を長時間行うと、窒化アルミニウム表面に厚い酸化被膜が形成することがあり、この酸化アルミニウムの被膜は窒化アルミニウムのコアと熱膨張係数が異なるために、均一な被膜を維持できず、被膜が割れて、コアの窒化アルミニウム表面を露出するおそれがあり、得られる窒化アルミニウムが加水分解されやすくなる原因となる。そのため酸化処理条件は厳し過ぎない方が良い。
【0049】
本発明における原料窒化アルミニウム粉末の一次粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば不定形状、球状、多面体状、柱状、ウィスカー状、平板状など任意の形状であることができる。中でも、フィラー用途においては、粘度特性が良好で、熱伝導率の再現性の高い球状が望ましい。また、粒子アスペクト比は小さい方が好ましい。好適なアスペクト比は1~3である。
前記製造方法において、窒化アルミニウム粉末と表面処理剤とを接触させる方法は、乾式表面処理、湿式表面処理のいずれの方法によってもよい。
【0050】
乾式表面処理は、窒化アルミニウム粉末と表面処理剤を混合する際に、多量の溶媒を介さない乾式混合による方法である。
【0051】
乾式混合の方法として、表面処理剤をガス化して粉末と混ぜる方法、液状の表面処理剤を噴霧または滴下投入し粉末と混ぜる方法、表面処理剤を少量の有機溶媒で希釈して液体量を増やし、さらに噴霧または滴下する方法などが挙げられる。ガス化する方法は、揮発性の高い低分子量のシラン化合物等を処理する場合に適用できる。最後の希釈する方法は、表面処理剤の量が少なすぎて、粉末全体に均一に分散することが難しい際に行う方法だが、あまり希釈に使用する有機溶媒が多いと、粉末全体の含液量が高くなって凝集の原因になる。希釈する場合は、重量で5~50倍程度の希釈が望ましい。いずれの場合にせよ、乾式法では表面処理剤を粉末全体に均一に行き渡らせることが重要である。
【0052】
乾式で混合する際は、加熱しながらでもよいし、常温で十分に混合した後に加熱操作を別途行ってもよい。加熱は表面処理剤を窒化アルミニウム表面に強く固定化する方法として実施することが望ましい。ただしあまりに高温で加熱すると表面処理剤が揮散したり、表面処理剤同士の縮合が過度に進むことでムラのある処理になったりする可能性がある。また加熱を開始する前に常温での混合時間を設けた方が、表面処理剤が全体に行き渡った後の反応になり、均一な処理粉末が得られやすい。混合時または混合後の加熱温度としては20~150℃、特には40~130℃程度が好ましい。
【0053】
使用する表面処理剤としてシラン化合物を使用する場合は、予め酸や塩基等で加水分解されたものを使用することもできる。ただし加水分解に使用した酸・塩基、特に塩基性物質は窒化アルミニウム表面を変質させるため、使用は避けた方が良い。
【0054】
乾式混合装置としては、一般の混合攪拌装置を使用することができ、例えばプラネタリー混合装置、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、V型混合機、ドラムミキサー、ダブルコーンミキサー、ロッキングミキサーなどが挙げられる。それら装置には、加熱機能が付与されていることが望ましい。攪拌しながら加熱をすることで、表面処理の工程が少なく済む。また、乾式での混合は粉末が凝集しやすいため、混合装置には解砕羽根やチョッパーなど、一度生成した凝集を解く機構がついていることが望ましい。さらに混合操作の際、粉末が単に付着するのみならず、攪拌機構によっては粉末が混合容器壁に押し当てられるような状況になることで厚い付着層を形成する場合があり、そうなると粉末の混合状態を維持できなくなる。そのため、混合容器壁面にはフッ素樹脂コートなどの付着防止措置や、ノッカーなどの付着粉払い落し機構、攪拌羽根を工夫した掻き落とし機構などが備わっているとなお良い。
【0055】
また、湿式表面処理は、窒化アルミニウム粉末と表面処理剤を混合する際に、溶媒を介する方法である。
【0056】
湿式法は乾式法に比べ表面処理剤が全ての粒子に均一に行き渡らせることが可能となるため、処理剤のムラが少なく、粉末の性状も安定したものが得られる。一方で乾燥工程が必要であり、乾燥の方法によっては表面処理剤が偏析することがある。湿式法の操作手順としては、溶媒への疎水化剤添加、原料窒化アルミニウム粉末の溶媒への分散、必要に応じて加熱、溶媒除去、加熱乾燥を行う。
【0057】
ここで、必要に応じて行う加熱とは、表面処理剤と窒化アルミニウム表面の反応促進を目的としたものである。加熱温度は50~120℃程度、時間は60~300分程度が好適である。また、乾式表面処理と同様、表面処理剤を窒化アルミニウム表面に固定化させるために、溶媒除去の後に加熱を行ってもよい。加熱温度としては20~150℃、特には40~130℃程度が好ましい。
【0058】
また、加熱を減圧下で行ってもよい。減圧下で加熱することで余分な表面処理剤が除去され処理剤が過剰になることがなく、処理による粉末の凝集を防止することができる。減圧時の圧力は10hPa以下が望ましい。
【0059】
表面処理窒化アルミニウム粉末を構成する窒化アルミニウムと表面処理剤との割合は限定されるものではなく、粉末の粒径や比表面積によって最適量は異なる。その上限は好ましくは、窒化アルミニウム粉末100質量部に対して、表面処理剤が10質量部以下であり、より好ましくは6質量部以下である。また下限は0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上が好ましい。表面処理剤の量が上記値以下であることにより、表面処理窒化アルミニウム粉末の凝集が防止され、原料粉末の粒度分布を維持することができ、樹脂への充填性を良好にできる。一方で表面処理剤の量が過剰だと凝集粒子が多く生成し、充填率を高くできないことで、樹脂材料の熱伝導率を高めることができない。一方、表面処理窒化アルミニウム粉末の耐水性、および樹脂成形体中での耐水性を得るには、表面処理剤の量は上記値以上である方がよい。
【0060】
窒化アルミニウム粉末と表面処理剤のシラン化合物との反応において、上述の通りアルコキシ基等のシランの反応性基が全て窒化アルミニウムと結合形成している必要はない。ただし、そうした反応性基が水と反応して生成した水酸基は、形成されているシランと窒化アルミニウム粒子間の結合を切ることもあるため、過剰なシランの添加は好ましくない。従って、シランと反応する窒化アルミニウムの表面水酸基量に応じて、シラン量を調整するのが良い。
【0061】
表面処理に伴い得られる表面処理窒化アルミニウム粉末は凝集が進行する場合があり、粉体特性や樹脂への充填性が損なわれることがある。その際は解砕処理や分級処理により、粗大な粒子を除去することが好ましい。
【0062】
上記処理は、得られる表面処理窒化アルミニウム粉末の前記累積体積90%粒径D90が10μm以下となるように行うことが好ましく、5μm以下、更に好ましくは、3μm以下がより好ましい。
【0063】
前記解砕方法としては、乾式解砕が良い。また、形成された凝集体の大部分が解砕されてしまわないよう比較的マイルドな方法が望ましい。特に、一次粒子をも砕く程度の強い解砕を装置・条件で実施すると、本発明の効果が失われてしまう。解砕装置としては、石臼型摩砕機、らいかい機、カッターミル、ハンマーミル、ピンミルなど乾式解砕装置が挙げられる。中でも大きな凝集体を選択的かつ短時間で砕くことができ、解砕ムラが少ない石臼型摩砕機が好ましい。解砕処理の雰囲気は、空気中または不活性ガス中が望ましい。また、雰囲気の湿度は高過ぎないことが好ましく、具体的には、湿度70%未満、より好ましくは55%未満である。
【0064】
また、解砕処理以外で粗大な凝集粒子の除去を行う方法として、分級処理を施しても良い。分級処理は乾式分級法または湿式分級法のいずれかを選択できるが、高精度な分級を求めない場合は、溶媒除去工程を省ける乾式分級法が望ましい。乾式分級法としては、気流分級や振動篩機などが使用できる。
【0065】
気流分級の方法または装置は樹脂組成物用のフィラーとして好適な粒度分布になるよう適宜選択すれば良い。気流分級方法としては、粉末を気流中に分散させ、その際の粒子の重力や慣性力、遠心力などで微粉と粗粉に分ける方式による。特に数μmの粒子の分級に適した精度は、慣性力と遠心力を利用した分級装置により得られる。
【0066】
慣性力を利用する方法としては、例えば装置内部に案内羽根等を設けて空気の旋回流を作ることで、気流で勢いをつけた粉粒体を曲線に曲げる際に微粉と粗粉を分けるインパクタ型や、粒子に遠心力を働かせて分級する半自由渦遠心式や、コアンダ効果を利用したコアンダ型などが挙げられる。慣性力を利用した分級装置としては、カスケードインパクタ、バイアブルインパクタ、エアロファインクラシファイア、エディクラシファイア、エルボージェット、ハイパープレックスなどが挙げられる。
【0067】
遠心力を利用する方法は、渦状気流を利用して微粉と粗粉を分けるもので、装置としては自由渦型と強制渦型が挙げられる。自由渦型装置は案内羽根のないサイクロン、多段サイクロン、二次エアーを使用し凝集の解消を促すターボプレックス、案内羽根を設けて分級精度を高めたディスパージョンセパレータ、マイクロスピン、マイクロカットなどが挙げられる。強制渦型は装置内部の回転体で粒子に遠心力を働かせ、さらに装置内部に別の空気の流れを作ることにより分級精度を高めた装置で、ターボクラシファイアやドナセレックなどが挙げられる。
【0068】
なお、前記解砕処理および分級処理は併用しても差し支えない。
【0069】
[樹脂組成物]
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、樹脂に充填して樹脂組成物を構成した際に、優れた充填性や耐水性を示す。上記樹脂組成物を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が制限なく使用される。
【0070】
上記樹脂組成物において、本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末は、樹脂100質量部に対して、10~1500質量部の割合で使用することができる。
【0071】
熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂やポリスチレン等のビニル重合系樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0072】
中でも、一般に放熱材料に主に用いられている樹脂との相性を考えると、エポキシ樹脂、アクリル樹脂硬化体が好ましい。またこれらは後述する製造方法を採用する際に、加熱又は光照射により容易に硬化させられる利点も有する。
【0073】
使用に好適な樹脂を以下に例示する。
【0074】
<エポキシ樹脂>
本発明において使用できるエポキシ樹脂は特に限定されず一般的なものを用いることができる。具体例としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、シクロペンタジエン含有エポキシ樹脂等の、多官能型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0075】
エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として一般的なものを用いることができる。具体例としては、アミン、ポリアミド、イミダゾール、酸無水物、三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等の熱硬化型硬化剤、ジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェート等の光硬化剤、が挙げられる。これらの中でも、アミン、イミダゾール、酸無水物が好ましい。
【0076】
アミン硬化剤の具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の鎖状脂肪族アミン、N-アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン等の環状脂肪族ポリアミン、m-キシレンジアミン等の脂肪族芳香族アミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン、などが挙げられる。
【0077】
イミダゾール硬化剤の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテート、エポキシイミダゾールアダクト等が挙げられる。
【0078】
酸無水物硬化剤としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、アルキルスチレン-無水マレイン酸共重合体、クロレンド酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等が挙げられる。
【0079】
また、上記エポキシ樹脂および硬化剤に加え、必要に応じて硬化促進剤を配合して硬化させてもよい。硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾ-ルなどのイミダゾール系硬化促進剤、トリフェニルホスフィン、トリス-p-メトキシフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン誘導体、1、8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン等のシクロアミジン誘導体等が挙げられる。
【0080】
さらに、上記エポキシ樹脂、硬化剤、および硬化促進剤の混合物が高粘度の場合、エポキシ基を有する反応性希釈剤をさらに配合させても良い。反応性希釈剤もまた一般的なものを用いることができる。具体例としては、n-ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、グリセリントリグリシジルエーテル等を用いることができる。
【0081】
<アクリル樹脂>
本発明において使用できるアクリル樹脂(本件発明においてはメタクリル樹脂を含むものとする。)は特に限定されず一般的なものを用いることができる。
【0082】
単官能モノマーの例としては、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、コハク酸2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、マレイン酸2-(メタ)アクリロイルオキシエチル及びその塩類、フタル酸2-(メタ)アクリオイルオキシエチル、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリルオキシエチルハイドロジェンホスフェートなどが挙げられる。
【0083】
多官能モノマーは単独で使用してもよいし、上記のような単官能モノマーと混合して用いてもよい。多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチルジ(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピルジ(メタ)アクリレート、オクタフルオロブチルジ(メタ)アクリレート、ビス〔2-(メタ)アクリルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物またはプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-ジエポキシ-アクリル酸付加物、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0084】
これらアクリルモノマーを重合硬化させるには熱ラジカル重合開始剤を使用することが可能である。具体例としてはオクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2,-アゾビスイソブチロニトリルや2,2,-アゾビス-(2,4,-ジメルバレロニトリル)等のアゾビス系重合開始剤等が好適な重合開始剤として挙げられる。中でも80℃~160℃で重合させる場合は、ベンゾイルパーオキサイドやt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどを好適に用いることができる。これら重合開始剤は、モノマー100質量部に対して、0.1~20質量部、好適には0.5~10質量部用いるのが一般的である。
【0085】
また硬化反応として光硬化を採用する場合には、(メタ)アクリル基の光重合開始剤として公知の開始剤を採用することができる。
【0086】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末をフィラーとして用いる場合、その他のフィラーを含んでも良い。かかるフィラーは必ずしも熱伝導性フィラーでなくてもよく、充填性の向上が期待できる場合は、熱伝導性の低いフィラーと組み合わせても差し支えない。熱伝導性フィラーとしては例えば、アルミナ、窒化ホウ素、ZnO、MgO、炭素繊維、ダイヤモンド粒子などが挙げられる。またシリカ、石英、タルク、マイカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、シリカ-バリウムオキサイド、シリカ-アルミニウムナ、シリカ-カルシア、シリカ-ストロンチウムオキサイド、シリカ-マグネシア等の複合酸化物類、ゼオライト、モンモリロナイト等のケイ酸塩類等が挙げられる。
【0087】
また上記のフィラーは表面処理されていても良いし、されていなくても良い。表面処理されたその他のフィラーを使用する場合は、一緒に使用する本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末に使用した表面処理剤と同じまたは類似の性質の表面処理剤を使用したフィラーを用いる方が、充填性において好ましい。
【0088】
樹脂成形体にはフィラーと樹脂原料の他に添加剤を含有させてもよい。添加剤を入れる目的としてはフィラーの充填性を向上させる効果や、樹脂成形体の機械物性等を向上させる効果などが挙げられる。添加剤は表面処理窒化アルミニウムと樹脂の密着性を阻害しない性状のものや、熱伝導性を阻害しない性状のものであれば特に制限なく使用できる。ただし窒化アルミニウムの加水分解を促進するものや窒化アルミニウムと反応して異なる化合物を生成するものの使用は避けるべきである。また、最終的な樹脂成形体にする過程で除去されるのであれば、有機溶媒を使用しても差し支えない。
【0089】
添加剤としては窒化アルミニウムや他の一般的なフィラーとの親和性の点から、特にシラン化合物が好適に使用できる。シラン化合物は、樹脂100質量部に対して、0.01~5質量部の割合で配合することが好ましい。
【0090】
シラン化合物を具体的に例示すると、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、等のメタクリル基含有シラン類、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、等のアミノ基含有シラン類、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリエトキシシラン、n-ヘキサデシルトリエトキシシラン、n-オクタデシルトリエトキシシラン等のアルキルシラン類、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン等のフッ化アルキルシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の芳香族基含有シラン類、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル含有シラン類の他、p-スチリルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0091】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末と樹脂とよりなる樹脂組成物は、放熱樹脂材料として好適に使用することができる。
【0092】
本発明の表面処理窒化アルミニウム粉末を用いて製造された放熱樹脂材料の用途としては、例えば家電製品、自動車、ノート型パーソナルコンピュータなどに搭載される半導体部品からの発熱を効率よく放熱するための放熱部材の材料を挙げることができる。これらの具体例としては、例えば放熱グリース、放熱ゲル、放熱シート、フェイズチェンジシート、接着剤などを挙げることができる。上記複合材料は、これら以外にも、例えばメタルベース基板、プリント基板、フレキシブル基板などに用いられる絶縁層、半導体封止剤、アンダーフィル封止剤、筐体、放熱フィンなどとしても使用することができる。
【実施例0093】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0094】
使用した原材料および物性測定条件を以下に記す。
【0095】
[原料窒化アルミニウム粉末]
・A1:次の方法で得られた窒化アルミニウム粉末。アルコキシド法で合成された平均粒径D50=0.9μmの純度99.99%以上のアルミナ100質量部と、一次粒子径20nm、比表面積125m2/gのカーボンブラック50質量部とを、遊星ボールミルで混合した。得られた混合粉末を、カーボン製のセッターに入れ、窒素気流中、1700℃で5時間窒化させた。得られた粉末を、乾燥空気気流中700℃で10時間酸化処理して余剰なカーボンブラックを除去し、窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウムは、D50=0.89μm、比表面積:2.8m2/g。
・A2:A1と原料アルミナのみ代えたこと以外は同じ方法で得られた窒化アルミニウム粉末。即ち、原料アルミナとして、バイヤー法で合成された平均粒径D50=0.8μmの純度99%のアルミナを使用した。得られた窒化アルミニウム粉末は、D50=0.95μm、比表面積:2.6m2/g。
【0096】
[表面処理剤]
・MMS:メチルトリメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・DMDS:ジメチルジメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・PRMS:プロピルトリメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・HES:ヘキシルトリエトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・OES:オクチルトリエトキシシラン(東京化成工業、>97%)
・GPS:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業、>97%)
・GOS:8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業、>99%)
・ECHS:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(東京化成工業、>97%)
・MPS:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・MOS:8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業、>99%)
・VMS:ビニルトリメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・PMS:フェニルトリメトキシシラン(東京化成工業、>98%)
・PAPS:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業、>95%)
・AMS:3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業、>97%)
・AEPS:2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業、>97%)
・AEOS:N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業、>95%)
[エポキシ樹脂]
・エポキシ樹脂YDF-8170C(日鉄ケミカル&マテリアル製)
・アミン硬化剤KAYAHARD A-A(日本化薬製)
[比表面積]
有機無機複合粒子粉末のBET比表面積測定には、比表面積測定装置(島津製作所製:フローソーブ2-2300型)を用いて、BET法(窒素吸着1点法)により求めた。測定には対象粉末2gを用い、予め窒素ガスフロー中、100℃で乾燥処理を1時間実施したものを測定に用いた。
【0097】
[粒度分布]
原料窒化アルミニウムは水を測定時の溶媒に使用する。表面疎水化窒化アルミニウムはエタノールを測定時の溶媒に使用する。窒化アルミニウム粉末を溶媒中に0.2質量%濃度で分散し、200W程度の超音波照射を2分間行うことにより分散させた液体について、レーザー回折散乱型粒度分布計を用いて粒度分布を測定する。粒径の体積頻度分布において、粒径が小さい方から体積頻度を累積して、累積値が50%となるところの粒径の値をD50、90%となるところの粒径の値をD90とした。また本発明ではD50の値を平均粒径とする。
【0098】
[粗粒量]
表面処理窒化アルミニウム粉末10gを200gのイソプロピルアルコール溶媒と混合し、更に200W程度の超音波照射を10分間行うことによりスラリーを作製する。目開き5μmのナイロンメッシュ(NYTAL NY5-HC)を用意し、重量(m1g)を測定しておく。続いて、ブフナー漏斗にナイロンメッシュをセットし、前記スラリーをナイロンメッシュで吸引ろ過し、更にナイロンメッシュを200gのイソプロピルアルコールを通過させることにより洗浄する。ナイロンメッシュを80℃で12時間乾燥させ、重量(m2g)を測定し、吸引ろ過する前と後で、重量が増加した分(m2-m1)をスラリー作製に供した粉末量10gで割ることにより、5μmのメッシュで捕集される粗粒量(質量%)を式(1)のように求めた。なお、粗粒が過剰に含まれる粉末は、メッシュが目詰まりしてしまうため粗粒量が正確に測定できないため、その場合は「粗粒過剰」と表現する。
【0099】
粗粒量(%)=(m2-m1)×100/10 (1)
[疎水化度]
表面処理窒化アルミニウム粉末は水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁することを利用した方法によって測定されるものである。即ち、容量200ccのビーカーに、100ccのメタノール水溶液を、濃度を1質量%刻みで準備し、それぞれの水溶液に表面処理窒化アルミニウム粉末1gを添加し、ビーカー内の溶液をマグネティックスターラーで5分間攪拌する。前記表面処理窒化アルミニウム粉末の50%が溶液中に懸濁した時点のメタノールの容量百分率の値を疎水化度とした。
【0100】
[α線量]
窒化アルミニウム粉末のα線量は、ガスフロー比例計数管方式で測定した。測定面積は1000cm2、測定時間は99時間とし、単位時間・面積あたりのα線カウント数を確認した。
【0101】
[樹脂組成物(アンダーフィル封止材)の浸透性]
図1に示すように、2.6cm×7.6cmの大きさの、上ガラス板3、下ガラス板4を1cm長手方向にずらし、長手方向の両側部に30μmのスペーサー5を介して積層してギャップ部を有する測定装置を構成した。上記ギャップ部の端部に位置する下ガラス板上に試料の樹脂組成物1を0.5cc載せ、120秒後の浸透部分2の浸透距離(mm)を測定した。
【0102】
試料の樹脂組成物は、窒化アルミニウム粉末を2g、エポキシ樹脂YDF-8170Cを0.53g、アミン硬化剤KAYAHARD A-Aを0.21g秤量し、メノウ乳鉢で20分間混練することにより調製した。
【0103】
[樹脂組成物硬化体の熱伝導率]
前記の浸透性試験に供したエポキシ樹脂組成物を150℃で4時間硬化させ、両面を♯600番手の研磨紙で研磨し、φ10mm、厚み1.2mmの円盤状硬化体とした。硬化体表面に、炭素粉末をスプレーコートしたものに対し、京都電子工業製LFA-502を用いてレーザーフラッシュ法により測定した。
【0104】
実施例1~16、比較例1~2
以下の製造例に記載の方法により表面処理窒化アルミニウム粉末を得た(表1参照)。得られた表面処理窒化アルミニウム粉末について、前記した方法に従って、併記粒子径D50、粗粒割合、疎水化度、α線量を測定した。また、表面処理窒化アルミニウム粉末を使用して、前記した方法によりエポキシ樹脂組成物を作製し、浸透性試験を実施した。更に、樹脂組成物の硬化体を作製し、その熱伝導率を測定した。結果を表1にまとめて示す。
【0105】
製造例
[表面疎水化]
表1に示す原料窒化アルミニウム粉末を600g、表1に示す表面疎水化剤を30mmol/gに相当する2.45g、及びイソプロピルアルコール1200gをガラス製ナスフラスコに入れ、フッ素樹脂製攪拌羽根で30分攪拌した。ロータリーエバポレータにてイソプロピルアルコールを50℃で減圧除去した後、100℃で減圧乾燥し、表面処理窒化アルミニウム粉末を得た。
【0106】
比較例3
表面疎水化処理を施していない窒化アルミニウム粉末A1のα線量を測定した。また、表面処理窒化アルミニウム粉末を使用して、前記エポキシ樹脂組成物を製造し、その熱伝導率を測定した。結果を表1にまとめて示す。
【0107】