(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142754
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】評価システム及び評価方法
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
A01K29/00 A
A01K29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034463
(22)【出願日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2021042772
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三森 眞琴
(72)【発明者】
【氏名】澤戸 利衣
(57)【要約】
【課題】反芻動物のルーメン発酵の状態を容易に評価する。
【解決手段】推定装置(30)は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、反芻動物のメタン産生量を推定する推定部(31)を備えている。評価システム(100)は、推定装置(30)により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定部(21)を有する評価装置(20)を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物のメタン産生量を推定する推定装置であって、
評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定部を備えた、推定装置。
【請求項2】
反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価システムであって、
請求項1に記載の推定装置により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定部を有する評価装置を備えた、評価システム。
【請求項3】
前記推定部は、前記評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を表すルーメンの液相分画の理論回転率を推定する、請求項2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記推定部は、反芻動物が放出するメタン産生量と反芻動物の第一胃内の短鎖脂肪酸濃度とに基づき算出されたルーメンの液相分画の理論回転率と、前記乳量との相関関係に基づき、評価対象の反芻動物の前記乳量の測定結果から、評価対象の反芻動物のルーメンの液相分画の理論回転率を推定する、請求項3に記載の評価システム。
【請求項5】
前記推定部は、前記乳量から推定したルーメンの液相分画の理論回転率に基づき、評価対象の反芻動物の前記乳量の測定結果から反芻動物のルーメン内のpHを推定する、請求項3又は4に記載の評価システム。
【請求項6】
前記推定部は、前記乳量から推定したルーメンの液相分画の理論回転率に基づき、評価対象の反芻動物の前記乳量の測定結果から乾物摂取量を推定する、請求項3又は4に記載の評価システム。
【請求項7】
前記評価装置は、
前記推定部が推定した反芻動物のルーメン発酵の状態に基づいて、当該反芻動物の飼養管理情報を生成する管理情報生成部をさらに備えている、請求項2から6のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項8】
前記評価装置は、
前記推定部が推定した反芻動物のルーメン発酵の状態に基づいて、当該反芻動物の飼養管理状態及び生産病の少なくとも一方を診断する診断部をさらに備えている、請求項2から7のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項9】
前記評価装置は、
前記乳量と前記反芻動物のルーメン発酵の状態との相関関係を表す情報を記憶する記憶部をさらに備えている、請求項2から8のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項10】
前記評価装置は、
前記乳量と前記反芻動物のルーメン発酵の状態との相関関係を表す関係式を算出する演算部をさらに備えている、請求項2から9のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項11】
反芻動物のメタン産生量を推定する推定方法であって、
評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定工程を包含する、推定方法。
【請求項12】
反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価方法であって、
請求項11に記載の推定方法により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定工程を包含する、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価システム及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシ等の反芻動物である家畜は草食であり、植物由来の飼料を消化して乳肉を生産している。反芻動物は、4つの胃により植物飼料を消化している。4つの胃のうち、ルーメンと呼ばれる第一胃は、容積が約100リットルと大きく、内部に多種多様なルーメン微生物が共生している。反芻動物が摂取した植物飼料は、まず、ルーメン微生物による発酵作用(ルーメン発酵)により分解され、反芻動物のエネルギー源やタンパク質源となり、反芻動物の成長や乳肉生産を支えている。
【0003】
乳量の増大、乳質の向上等を期待して穀物飼料を反芻動物に多給すると、第一胃液の酸性化(ルーメンアシドーシス)を引き起こすことが知られている。ルーメンアシドーシスは、消化不良、飼料摂取量や乳量の低下、受胎率の低下等のいわゆる生産病の原因となり、反芻動物の生産性を低下させる。したがって、ルーメン発酵が正常に機能するように飼料を適正に給与することが、反芻動物の生産性を保つために重要である。そのため、ルーメン発酵の状態を反映する第一胃液の状態を考慮して飼養管理することが求められる。
【0004】
従来、ルーメン発酵は、家畜の飼料摂取量(DMI:乾物摂取量)及び第一胃液のpH(ルーメンpH)を測定することで評価されている。非特許文献1には、ルーメンpH、第一胃液中の短鎖脂肪酸濃度、DMI、ウシの体重等を測定し、これらの測定値から算出したルーメンの液相分画の理論回転率(TTOR)が、ルーメン発酵を評価する新規の指標として提案されている。
【0005】
また、反芻動物におけるメタン産生量は、ルーメン発酵に影響することが知られている。非特許文献2には、ルーメン発酵の状態を調査することを目的として、4%脂肪補正乳量からメタン産生量を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mitsumori et. al.,Animal Science Journal,http://doi.org/10.1111/asj.13305,2019/10/24, [online]
【非特許文献2】Kurihara et al., Japan Sci. Soc. Press, pp.199-208, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、DMIは、給餌した飼料から摂取されなかった残余飼料を減算することで求められるが、一般農家において給餌飼料及び残余飼料を秤量することは極めて困難である。また、ルーメンpHは、胃カテーテル等で採取した第一胃液をpHメーターで測定したり、第一胃に設けたpHセンサを用いて測定したりするが、一般農家において第一胃液を採取したりpHセンサを設けたりすることは容易ではない。そのため、容易に評価でき、一般農家においても実用可能にルーメン発酵の状態を評価できれば非常に有益である。
【0008】
ルーメン発酵状態を容易に評価するためには、DMIやルーメンpHを容易に推定できることが望ましいが、非特許文献1及び2には、これらを推定する技術は記載されていない。
【0009】
本発明の一態様は、ルーメン発酵の状態を容易に評価できる評価システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る推定装置は、反芻動物のメタン産生量を推定する推定装置であって、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定部を備えている。
【0011】
本発明の一態様に係る評価システムは、反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価システムであって、前記推定装置により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定部を有する評価装置を備えている。
【0012】
本発明の一態様に係る推定方法は、反芻動物のメタン産生量を推定する推定方法であって、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定工程を包含する。
【0013】
本発明の一態様に係る評価方法は、反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価方法であって、前記推定方法により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定工程を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、給餌飼料及び残余飼料を秤量したり、第一胃液のpHを測定したりすることなく、容易にルーメン発酵の状態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る推定装置及び評価システムで利用する指標の相関関係を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る推定装置及び評価システムの概要を示すブロック図である。
【
図3】ルーメン内短鎖脂肪酸濃度及びメタン産生量から算出したルーメンの液相分画の理論回転率(TTOR)と、4%脂肪補正乳量から推定したTTORの推定値との相関を示すグラフである。
【
図4】ルーメン内短鎖脂肪酸濃度及びメタン産生量から算出したルーメンの液相分画の理論回転率(TTOR)と、乳量から推定したTTORの推定値との相関を示すグラフである。
【
図5】乳量から推定したTTORの推定値とC2/C3比の積と、ルーメンpHの実測値との相関を示すグラフである。
【
図6】乳量から推定したTTORの推定値とC2/C3比の積と、ルーメンpHの実測値との相関を示すグラフである。
【
図7】乳量から推定したTTORの推定値及び乾物摂取量と、乳量から推定したTTOR(TTOR(milk))の推定値及び乳量との相関を示すグラフである。
【
図8】乳量から推定したTTORの推定値及び乾物摂取量と、乳量から推定したTTOR(TTOR(milk))の推定値及び乳量との相関を示すグラフである。
【
図9】乳量から推定したTTORの推定値及び乾物摂取量と、乳量から推定したTTOR(TTOR(milk))の推定値及び乳量との相関を示すグラフである。
【
図10】乳量から推定したTTORの推定値及び飼養標準から算出した乾物摂取量と、乳量から推定したTTOR(TTOR(milk))の推定値及び乳量との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
[評価システム]
本発明の一実施形態に係る評価システムは、反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価システムである。評価システムは、反芻動物のルーメンと呼ばれる第一胃における、ルーメン微生物によるルーメン発酵の状態を評価する。
評価システムにおいては、
図1に示す反芻動物のエネルギー代謝に関する種々の指標に基づき、反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する。評価システムは、反芻動物が生産した乳の乳量に基づき推定された当該反芻動物のメタン産生量に基づき、ルーメン発酵の状態を推定する。
【0018】
〔ルーメン発酵の状態を表す指標の相関関係〕
図1は、本発明の一実施形態に係る推定装置及び評価システムで利用する指標の相関関係を示す概略図である。
図1に示すように、反芻動物のエネルギー代謝に関する種々の指標が互いに関連することは、非特許文献1及び本発明者による先行出願(特願2019-232023)に示されている。ここで、非特許文献1及び先行出願の全体を参照として本明細書に組み込む。以下、非特許文献1を参考文献1と称する。参考文献1には、第一胃内のpH(ルーメンpH)、第一胃内の短鎖脂肪酸濃度(SCFA濃度:ルーメン内短鎖脂肪酸濃度)、乾物摂取量(DMI)、及び牛の体重から算出したルーメンの液相分画の理論回転率(TTOR)と、DMI、乳量、及びルーメンpHとの間に密接な関係があることが示されている。
図1において、破線矢印については、参考文献1に示された各指標間の相関関係を示しており、実線矢印については、先行出願により明らかとなった各指標間の相関関係を示しており、一点鎖線矢印については、本発明により明らかとなった各指標間の相関関係を示している。
【0019】
TTORは、ルーメン発酵の状態を表す指標である。ここで、ルーメン発酵の状態は、ルーメンにおける飼料の発酵に関する種々の指標により表されるものである。ルーメン発酵の状態を表す指標としては、上述したTTOR以外にも、ルーメンpH、DMI、SCFA濃度、SCFA量、ルーメン内の液相分画のメタン濃度、メタン産生量等が挙げられる。
【0020】
図1において、破線矢印により示すように、TTORは、反芻動物が放出するメタン産生量とSCFA濃度とから算出することができる。具体的には、メタン産生量と、SCFA濃度から算出されるルーメン内の液相分画のメタン濃度とから推定ルーメン体積(PRV)を算出し、このPRVと反芻動物の代謝体重(MBW)とを用いてTTORが算出される。
【0021】
メタン産生量は、DMIに基づいて公知の方法により算出することができる。DMIは、給餌飼料と残余飼料を秤量し、給餌飼料から残余飼料を減算することで求められる。ルーメン内の液相分画のメタン濃度は、ルーメンから採取した第一胃液において測定したSCFA濃度に基づき、ルーメン発酵における代謝性水素の流れから算出することができる。推定ルーメン体積は、ルーメン内の液相部分の総体積の推定値を表している。代謝体重は、反芻動物の体重の0.75乗により算出される値である。
【0022】
ルーメンpHは、ルーメンアシドーシスを評価するための重要な指標であるが、従来は、胃カテーテル等で採取した第一胃液をpHメーターで測定したり、第一胃に設けたpHセンサを用いて測定したりしていた。参考文献1においては、このような測定方法を用いずに、メタン産生量とSCFA濃度とから算出したTTORからルーメンpH等のルーメン発酵の状態を表す指標を推定可能であることが示されている。
【0023】
参考文献1に示されているように、TTORからルーメンpH等を推定できれば、ルーメン発酵の状態を評価する度に第一胃液を採取したり、第一胃にpHセンサを設けたりする必要はないため非常に有利である。しかしながら、特に一般農家においては、メタン産生量やSCFA濃度を算出することは容易ではなく、その結果、TTORを算出することも容易ではない。したがって、TTORを算出することなく、より容易にルーメン発酵の状態を推定できれば、さらに有利である。
【0024】
本発明者らは、反芻動物が生産した乳の乳量に基づきメタン産生量を推定できる(非特許文献2)ことから、乳量に基づき推定したメタン産生量からルーメン発酵の状態を推定し得ることを初めて見出した。反芻動物が生産する乳は、反芻動物から搾乳することで得られるものであり、泌乳期には毎日、一日数回搾乳する必要があるため、一般農家においても容易に取得できるものである。また、反芻動物が生産する乳の乳量は、生産された乳を評価するために一般農家においても日常的に測定されている。
【0025】
したがって、メタン産生量やSCFA濃度の実測値を用いることなく、反芻動物が生産した乳の乳量に基づきルーメン発酵の状態を推定することが可能な本発明は、ルーメン発酵の状態を容易に評価する手段として非常に有利である。
【0026】
〔反芻動物〕
評価システムによる評価の対象は、反芻動物の家畜である。反芻動物は、主に植物由来成分からなる飼料を消化する4つの胃を有しており、反芻を行う動物である。評価システムにより評価する反芻動物の家畜は、ウシ、ヤギ、ヒツジ等を含み、代表的なものはウシである。評価システムにおいては、反芻動物が生産する乳に基づき反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する。したがって、評価システムは、乳を日常的に採取して、その生産量や成分が監視される乳牛の評価に特に適している。
【0027】
評価システムにおいては、反芻動物が生産する乳の乳量に基づき推定したメタン産生量に基づき、ルーメン発酵の状態を評価する。すなわち、評価システムは、乳量に基づき、ルーメン発酵の状態を評価するとも言える。乳量は、反芻動物が生産する乳の一日当たりの重量を意味している。
【0028】
評価システムは、反芻動物が生産する乳の乳成分を表す乳生産成績を利用してもよい。乳成分には、乳脂肪率、乳タンパク質率、無脂固形分率、乳糖率、アンモニア態窒素率、及び、乳タンパク質/乳脂肪比のような構成比等の少なくとも1つが含まれ得る。これらの乳生産に関する指標は、酪農を行う農場で乳生産を管理するために日常的に測定されているものである。乳脂肪率は、乳量に対する脂肪の重量比率を意味している。乳タンパク質率は、乳量に対するタンパク質の重量比率を意味している。無脂固形分率は、乳量に対する水分と脂肪分を除いた成分の重量比率を意味している。乳糖率は、乳量に対する乳糖の重量比率を意味している。アンモニア態窒素率は、乳量に対する尿素に含まれる窒素の比率を意味している。乳タンパク質/乳脂肪比は、乳量に対するタンパク質と脂肪との重量比を意味している。乳量及び乳成分の測定方法については、特に限定されず、従来公知の方法により測定することができる。
【0029】
反芻動物が生産する乳の乳生産成績は、複数の反芻動物が生産した乳を1つにまとめた状態において測定され、個体毎に測定することが困難な場合がある。一方、乳量は、反芻動物の個体毎に容易に測定することができる。したがって、評価システムによれば、容易に測定できる乳量に基づき推定したメタン産生量に基づき、容易に個体毎のルーメン発酵の状態を評価することができる。
【0030】
図2を参照して、評価システムの構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る推定装置及び評価システムの概要を示すブロック図である。
図2に示すように、評価システム100は、推定装置30及び評価装置20を備えている。推定装置30は、推定部31を有している。評価装置20は、推定部21を有している。評価装置20は、さらに、管理情報生成部22、診断部23、記憶部24、及び演算部25を有していてもよい。評価システム100は、さらに、測定装置10を備えていてもよい。
【0031】
〔推定装置〕
本発明の一実施形態に係る推定装置30は、反芻動物のメタン産生量を推定するものである。推定装置30は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定部31を備えている。
【0032】
推定部31は、反芻動物が生産した乳の乳量の測定値に基づき、反芻動物のメタン産生量を推定する。推定部31は、後述する測定装置10により測定した乳量に基づき、メタン産生量を推定する。推定部31は、乳量とメタン産生量との相関関係を表す関係式を用いて、乳量の測定値に基づき、メタン産生量を推定する。乳量(kg/day)とメタン産生量(MY)との相関関係を表す関係式は、以下の通りである:
MY(milk)(mol/day)=(8.19+(300/乳量))×乳量/22.4・・・式(A)
【0033】
式(A)は、非特許文献2に記載された4%脂肪補正乳量(fcm)からメタン産生量を推定する式を参照して得られた式である。非特許文献2の全体を参照として本明細書に組み込む。以下、非特許文献2を参考文献Aと称する。参考文献Aには、乳量を4%脂肪入の乳量に補正した4%脂肪補正乳量からメタン産生量を推定することが記載されている。推定部31は、4%脂肪補正乳量ではなく、反芻動物が生産した乳の乳量の測定値に基づき、反芻動物のメタン産生量を推定する。
【0034】
〔測定装置〕
測定装置10は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量を測定するものである。測定装置10としては、反芻動物から搾乳した乳の乳量や乳成分を測定する従来公知の装置を用いることができる。測定装置10は、搾乳した乳を自動分析する自動分析器であることが好ましい。測定装置10は、測定した乳量の結果を推定装置30及び評価装置20に送る。
【0035】
また、測定装置10は、反芻動物から採取した第一胃液のpHや第一胃液内のSCFA濃度等を測定する機能を有していてもよい。
【0036】
〔評価装置〕
評価装置20は、評価対象の反芻動物のルーメン発酵の状態を評価するものである。評価装置20は、推定装置30が乳量に基づき推定したメタン産生量に基づき、ルーメン発酵の状態を評価する。すなわち、評価装置20は、乳量に基づき、ルーメン発酵の状態を評価するとも言える。
【0037】
(推定部)
推定部21は、乳量に基づき、反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する。推定部21が推定するルーメン発酵の状態は、例えば、TTOR、ルーメンpH、及びDMIである。また、推定部21は、乳量に基づき推定されたTTORに基づき、SCFA濃度、SCFA量、ルーメン内の液相分画のメタン濃度、メタン産生量等のルーメン発酵の状態を表す指標についても推定し得る。
【0038】
推定部21は、後述するように、ルーメン発酵の状態を表す各指標の相関関係を表す関係式を用いてルーメン発酵の状態を推定する。このような関係式は、評価システム100内で得られたものであってもよいし、外部から取得して評価システム100内に記憶させたものであってもよい。したがって、例えば、一般農家においてこのような関係式を求めるための計測や計算をする必要はなく、関係式を外部から得て、当該関係式に乳量を代入するのみで、ルーメン発酵の状態を推定することができる。
【0039】
<TTORの推定>
推定部21は、例えば、以下に示すように乳量に基づきTTORを推定する。推定部21は、反芻動物が放出するメタン産生量とSCFA濃度とに基づき算出したTTORと、反芻動物が生産した乳の乳量との相関関係に基づき、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量からTTORを推定する。
【0040】
推定部21が利用する、算出したTTORと反芻動物が生産した乳の乳量との相関関係は、回帰分析により求められる回帰式により表される。当該回帰式は、反芻動物が放出するメタン産生量とSCFA濃度とに基づき算出されたTTORと、反芻動物が生産した乳の乳量との散布図を作成し、散布図上のプロットから直接求めることができる。例えば、当該散布図において、最小二乗法により回帰直線を求め、求めた回帰直線から回帰式を得る。
【0041】
そして、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を、得られた回帰式に代入することで、TTORを算出する。このように、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を上述した回帰式に代入するのみで、TTORを算出することができる。なお、推定部21が使用する回帰式は、後述する演算部25により予め求められたものであってもよいし、予め求められたものを外部から取得してもよい。
【0042】
<ルーメンpHの推定>
推定部21は、また、上述したように乳量から推定したTTOR(ルーメンの液相分画の理論回転率)に基づき、評価対象の反芻動物の乳の乳量の測定結果から、反芻動物のルーメン内のpHを推定し得る。推定部21は、例えば、推定したTTORとルーメンpHの実測値との相関関係に基づき、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の測定結果からルーメン内pHを推定する。
【0043】
推定部21が利用する、推定したTTORとルーメンpHの実測値との相関関係は、回帰分析により求められる回帰式により表される。当該回帰式は、例えば、推定したTTOR及び乳量の実測値と、ルーメンpHの実測値との散布図を作成し、散布図上のプロットから直接求めることができる。例えば、当該散布図において、最小二乗法により回帰直線を求め、求めた回帰直線から回帰式が得られる。
【0044】
そして、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を得られた回帰式に代入することで、ルーメンpHを算出する。このように、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を上述した回帰式に代入するのみで、ルーメンpHを算出することができる。なお、推定部21が使用する回帰式は、後述する演算部25により予め求められたものであってもよいし、予め求められたものを外部から取得してもよい。
【0045】
<DMIの推定>
推定部21は、また、上述したように乳量から推定したTTORに基づき、評価対象の反芻動物の乳量の測定結果から、当該反芻動物のDMIを推定し得る。推定部21は、例えば、推定したTTORと、DMIの実測値との相関関係に基づき、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の測定結果からDMIを推定する。
【0046】
推定部21が利用する、推定したTTORとDMIの実測値との相関関係は、回帰分析により求められる回帰式により表される。当該回帰式は、例えば、推定したTTOR及び乳量の実測値に関する値と、推定したTTOR及びDMIの実測値に関する値との散布図を作成し、散布図上のプロットから直接求めることができる。例えば、当該散布図において、最小二乗法により回帰直線を求め、求めた回帰直線から回帰式が得られる。
【0047】
ここで、推定部21は、DMIの実測値に替えて、後述する参考文献9やNRC(2001)等に記載された方法により、乳牛の飼養標準から算出したDMI(FS)を用いて、回帰式を得てもよい。乳牛の飼養標準に基づくDMI(FS)の算出方法については、実施例において後述する。
【0048】
そして、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を得られた回帰式に代入することで、DMIを算出する。このように、推定部21は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量の値を上述した回帰式に代入するのみで、DMIを算出することができる。なお、推定部21が使用する回帰式は、後述する演算部25により予め求められたものであってもよいし、予め求められたものを外部から取得してもよい。
【0049】
推定部21は、推定したルーメン発酵の状態を表す指標を、後述する管理情報生成部22、診断部23、記憶部24、及び演算部25に送る。
【0050】
(管理情報生成部)
管理情報生成部22は、推定部21が推定した反芻動物のルーメン発酵の状態に基づいて、当該反芻動物の飼養管理情報を生成する。飼養管理情報には、飼料の給餌量(DMI等)、給餌回数、給餌時間、飼料の種類、飼料の成分、飼料の成分比率、飲水量等に関する情報が含まれる。管理情報生成部22は、反芻動物のルーメン発酵の状態と併せて、反芻動物の品種、月齢(年齢)、体重、分娩日、分娩後日数、発情、妊娠、泌乳期間、搾乳回数、乾乳期間等、及び、飼養管理場所の温度、湿度、風速、雨量等及び飼養管理場所の位置(住所)、経営形態等の情報も考慮して、飼養管理情報を生成する。
【0051】
管理情報生成部22は、例えば、ルーメン発酵の状態と飼養管理情報とを関連付けた予め定められたデータに基づいて、推定部21が推定したルーメン発酵の状態に対応する飼養管理情報を、評価対象の反芻動物の飼養管理情報として生成する。
【0052】
管理情報生成部22は、生成した飼養管理情報を記憶部24に送ってもよいし、表示部(図示せず)に表示させてユーザに通知してもよい。
【0053】
(診断部)
診断部23は、推定部21が推定した反芻動物のルーメン発酵の状態に基づいて、当該反芻動物の飼養管理状態及び生産病の少なくとも一方を診断する。
【0054】
反芻動物の生産病には、ルーメンアシドーシス、消化不良、軟便、飼料摂取量の低下、乳脂率の低下のような乳成分の増減、乳量の低下、蹄葉炎の発症、受胎率の低下等が含まれる。診断部23は、例えば、ルーメン発酵の状態と生産病の罹患確率とを関連付けた予め定められたデータに基づいて、推定部21が推定したルーメン発酵の状態に対応する生産病の罹患確率を、評価対象の反芻動物の生産病の罹患確率として診断する。
【0055】
反芻動物の飼養管理状態には、飼料摂取量、体重、ボディコンディションスコア、ルーメンフィルスコア、糞スコア、跛行スコア(ロコモーションスコア)、血液成分(ブドウ糖、遊離脂肪酸(NEFA)、β-ヒドロキシ酪酸(BHBA)、カルシウム、総タンパク質、アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、アンモニア態窒素、グルコース、トリグリセリド、総コレステロール(T-Cho)、インスリン、黄体形成ホルモン等)、尿検査結果(尿酸、pH、クレアチニン等)、乳の乳量及び乳成分を表す乳生産成績、1日の搾乳回数等の飼養管理に関する種々の項目が含まれる。診断部23は、例えば、ルーメン発酵の状態と適正な飼養管理状態とを関連付けた予め定められたデータに基づいて、推定部21が推定したルーメン発酵の状態に対応する飼養管理状態が適正であるか否かを診断する。
【0056】
診断部23は、診断した飼養管理状態及び生産病の診断結果に関する情報を記憶部24に送ってもよいし、表示部(図示せず)に表示させてユーザに通知してもよい。
【0057】
(記憶部)
記憶部24は、乳量と反芻動物のルーメン発酵の状態との相関関係を表す情報を記憶する。記憶部24は、例えば、TTORと乳量との相関関係を表す回帰式、TTORとルーメンpHとの相関関係を表す回帰式、TTORとDMIとの相関関係を表す回帰式等を記憶する。また、記憶部24は、推定部21が推定したルーメン発酵の状態を表す指標を記憶してもよい。さらに、記憶部24は、管理情報生成部22が生成した飼養管理情報、及び、診断部23が診断した生産病に関する情報を記憶してもよい。記憶部は、例えば、従来公知のコンピュータメモリであり得る。
【0058】
(演算部)
演算部25は、乳量と反芻動物のルーメン発酵の状態との相関関係を表す関係式を算出する。演算部25は、例えば、TTORと乳量との相関関係を表す回帰式、TTORとルーメンpHとの相関関係を表す回帰式、及び、TTORとDMIとの相関関係を表す回帰式を算出する。
【0059】
例えば、演算部25は、まず、母集団の標本における、反芻動物が放出するメタン産生量及びSCFA濃度の計測値からTTORを算出する。そして、演算部25は、算出したTTORと母集団の標本における乳量の計測値との相関関係の回帰分析により、TTORと乳量との相関関係を表す回帰式を算出する。また、演算部25は、公知の方法により、DMIに基づいてメタン産生量を算出してもよい。さらに、演算部25は、ルーメンから採取した第一胃液において測定したSCFA濃度に基づき、ルーメン発酵における代謝性水素の流れからルーメン内の液相分画のメタン濃度を算出してもよい。
【0060】
ここで、母集団は、特定の農場において飼育されている反芻動物の集団であってもよいし、特定の飼育条件で飼育されている反芻動物の集団であってもよいし、複数の反芻動物の集団からなる反芻家畜の集団であってもよい。母集団は、評価対象の反芻動物と同様の飼育条件で飼育されている反芻動物の集団であることが好ましく、評価対象の反芻動物と同じ農場において飼育されている反芻動物の集団であることがより好ましい。このような母集団から算出した関係式を用いることで、より正確にルーメン発酵の状態を推定することができる。また、母集団は、品種、年齢、出産回数等の個体条件、及び、飼料の種類、構成成分、給与量等の飼料条件が、評価対象の反芻動物と同様の集団であってもよい。また、反芻動物の個体において異なる時期に取得したデータ群を母集団として算出した関係式を用いて、当該個体のルーメン発酵の状態を推定してもよい。これにより、個体毎の解析が可能である。
【0061】
[推定方法]
本発明の一実施形態に係る推定方法は、反芻動物のメタン産生量を推定する推定方法である。推定方法は、評価対象の反芻動物が生産した乳の乳量に基づき、当該反芻動物のメタン産生量を推定する推定工程を包含している。すなわち、推定方法は、上述した本発明の一実施形態に係る推定装置における推定処理の一態様である。したがって、推定方法の詳細については、上述した本発明の一実施形態に係る推定装置の説明に準じる。
【0062】
[評価方法]
本発明の一実施形態に係る評価方法は、反芻動物のルーメン発酵の状態を評価する評価方法である。評価方法は、本発明の一実施形態に係る推定方法により推定した評価対象の反芻動物のメタン産生量に基づき、当該反芻動物のルーメン発酵の状態を推定する推定工程を包含している。すなわち、評価方法は、上述した本発明の一実施形態に係る評価システムにおける評価処理の一態様である。したがって、評価方法の詳細については、上述した本発明の一実施形態に係る評価システムの説明に準じる。
【0063】
〔ソフトウェアによる実現例〕
本発明の推定装置30及び評価装置20は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを推定装置30及び評価装置20が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより推定装置30及び評価装置20をコンピュータにて実現させる推定装置30及び評価装置20の制御プログラム、及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0064】
推定装置30及び評価装置20の制御ブロック(特に推定部31、推定部21及び演算部25)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0065】
後者の場合、推定装置30及び評価装置20は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0066】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0067】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0068】
〔1.DMI及び第一胃液成分の測定値に基づくTTORの算出〕
1-1.~1-6.までの実験は、参考文献1の記載に基づくものである。参考文献1において測定された各データは、牛個体毎に異なる時期に得られたデータである。
【0069】
(1-1.動物管理及びサンプリング)
千葉県、茨城県、石川県、神奈川県、及び富山県の研究施設において飼育された11頭のホススタイン乳牛(多経産)を実験に用いた。これらの乳牛を施設のタイストール牛舎において飼育し、市販の乾燥配合飼料を、日本飼料標準(NARO、2006)にしたがったエネルギー要求の120%を満たす濃度で、1日に2回(9時及び16時)、分娩前3週間与えた。
【0070】
その後、泌乳期には、チモシーヘイを含む飼料を、日本飼料標準(NARO、2006)にしたがったエネルギー要求の100%を満たす濃度で、1日に2回(9時及び16時)与えた。給餌飼料と残余飼料との差をDMIとして、個体毎に実験期間を通して毎日測定した。
【0071】
分娩前3週間から分娩後12週間の試験期間の間、乳牛の胃に設けた無線pHセンサを用いて、各個体のルーメンpHを測定した。ルーメンpH値を、計測中10分毎に継続して記録した。13時に測定したpHを、一日のルーメンpHの代表値とした。
【0072】
本実験においては、実験動物の管理に関する日本の基準に従い、統一された手順に従った実験手順を使用した。この手順は、Animal Care Committee of the Institute of Livestock and Grassland Science,NARO,Japanにより承認された。
【0073】
各乳牛の乳量を毎日測定し、乳成分を週毎に分析した。第一胃液を、朝の給餌の4時間後に、乳牛の胃に設けたチューブを介して採取した。第一胃液の採取は、分娩3週間前、並びに分娩4、8、及び12週間後に行った。第一胃液を4層のチーズクロスを通して濾し、さらなる分析まで-20℃で保管した。
【0074】
(1-2.成分分析)
血液の採取は、分娩3週間前、並びに分娩4、8、及び12週間後に、乳牛11頭から行った。血液サンプルを、抗凝血剤を含む吸引チューブにより尾骨静脈から採取し、Hasunuma et al.,2016に記載された通り分析した。
【0075】
総タンパク質、アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、アンモニア態窒素、グルコース、トリグリセリド、総コレステロール(T-Cho)、非エステル化脂肪酸の血漿濃度等を、Model7020自動分析器(日立製作所製)を用いて分析した。第一胃液中の有機酸の濃度は、高性能液体クロマトグラフィー(Alliance HPCL system;Waters,Milford製)により計測した。乳脂肪、乳タンパク質、無脂固形分、体細胞、アンモニア態窒素の濃度等は、各実験施設における自動分析機を用いて決定した。
【0076】
(1-3.統計分析)
統計分析を、双方向分散分析(ANOVA)後のテューキーの多重比較事後テストにより行い、アドインソフトウェアStatcel3(OMS Publishing)を有するExcel 2011ソフトウェア(Microsoft)を用いて、5%(P<0.05)における最小有意差の方法により有意差を決定した。単回帰分析を行った。
【0077】
(1-4.TTORの算出方法)
第一胃液の回転率についての理論分析に使用するデータの相関関係は、
図1に示されている。メタン産生量(MY)は、以下の式(1-1)を用いてDMIから推定した。
【0078】
MY(mol/day)=[19.14×DMI(kg/day)+2.54]/16.042・・・式(1-1)
ルーメン内の液相分画のメタン濃度(RM)を、ルーメン発酵における代謝性水素の流れから算出した。すなわち、ルーメン発酵で使用された代謝性水素(HU)と生成された代謝性水素(HP)とに基づき、ルーメン内の液相分画のメタン濃度(RM)を算出した。
【0079】
ここで、発酵中間体であるHP及びルーメン内の液相分画の短鎖脂肪酸中の水素(HUS)は、以下の式(1-2)及び式(1-3)を用いて、第一胃液中の酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、及び酪酸(C4)の濃度から推定した。短鎖脂肪酸は、宿主及び反芻動物の機能の主要なエネルギー源である。
【0080】
HP(mM)=2×C2+C3+4×C4・・・式(1-2)
HUS(mM)=2×C3+2×C4・・・式(1-3)
ルーメン発酵で短鎖脂肪酸の生成に使用された代謝性水素(HUS)とメタンの生成に使用された代謝性水素(HUM)との和を、ルーメン発酵で使用された代謝性水素(HU)とすると、ルーメン発酵で生成された代謝性水素(HP)のルーメン発酵で使用された代謝性水素(HU)への回収率は、0.9と推定される(Demeyer,1991…)。したがって、ルーメン発酵で使用された代謝性水素HUを以下の式(1-4)から算出できる。
【0081】
HU=0.9×HP=HUS+HUM・・・式(1-4)
したがって、ルーメン内で使用された代謝性水素HUを、以下の式(1-5)により算出した(Goel,Makkar and Becker(2009))。
【0082】
HU=HUS+HUM=(2×C3+2×C4)+(4×メタン)・・・式(1-5)
それゆえに、ルーメン内の液相分画のメタン濃度(RM)を算出する式は、以下の式(1-6)となる。
【0083】
RM(mM)=(HU-HUS)/4=[(0.9×HP)-HUS]/4・・・式(1-6)
本発明者らは、推定ルーメン体積(PRV)を以下の式(1-7)により算出した。
【0084】
PRV(L/day)=MY(mol/day)/[RM(mM)/1000]・・・式(1-7)
短鎖脂肪酸産生量は、短鎖脂肪酸のルーメン内濃度(SCFA)及び推定ルーメン体積(PRV)を用いて、以下の式(1-8)により算出した。本発明者らは、DMI及びルーメン内短鎖脂肪酸濃度のそれぞれから推定したMY及びRM濃度を用いて、短鎖脂肪酸収量を算出した。
【0085】
短鎖脂肪酸産生量(mol/day)=SCFA(mM)×PRV・・・式(1-8)
TTORを、(体重)0.75で表される代謝体重(MBW)を用いて以下の式(1-9)により算出した。本発明者らは、1日当たり、単位代謝体重当たりのルーメン液相分画の回転率を意味する用語として、TTORを用いている。なお、TTORは、体重、体重から導かれるルーメン内容物の重さ、体重から導かれるルーメンの容積、体重から導かれる血液量、体重から導かれる臓器重、体高、糞量、尿量、呼気量等の、牛体及び牛体から排出されるものに関係する長さ、重さ、容積等の値の、単位当たりのルーメン液相分画の回転率であってもよい。
【0086】
TTOR((L/day)/MBW)=PRV/MBW・・・式(1-9)
(1-5.測定結果)
DMI、体重、ルーメン発酵、血液成分、及び乳成分に関するパラメーターを表1に示した。
【0087】
【0088】
(1-6.TTORの算出)
表1に示す測定結果に基づき、上述した式(1-1)~(1-9)を用いて、ルーメン発酵の性質を表す各種パラメーターを算出し、表2に示した。
【0089】
【0090】
〔2.乳量及び4%脂肪補正乳量に基づくTTORの算出〕
以下のデータは、参考文献2~8に記載された測定データ(体重、乾物摂取量(DMI)、ルーメン内の液相分画の酢酸とプロピオン酸と酪酸の濃度、ルーメンpH、乳量及び乳成分)に基づき算出した。ここで、参考文献2~8の全体を、参照として本明細書に組み込む。
【0091】
参考文献2:Khafipour, E., Krause, D. O., & Plaizier, J. C. (2009). Alfalfa pellet-induced subacute ruminal acidosis in dairy cows increases bacterial endotoxin in the rumen without causing inflammation. Journal of Dairy Science, 92(4), 1712-1724.
参考文献3:Gao, X., & Oba, M. (2016). Characteristics of dairy cows with a greater or lower risk of subacute ruminal acidosis: Volatile fatty acid absorption, rumen digestion, and expression of genes in rumen epithelial cells. Journal of dairy science, 99(11), 8733-8745.
参考文献4:Hagg, F. M., Erasmus, L. J., Henning, P. H., & Coertze, R. J. (2010). The effect of a direct fed microbial (Megasphaera elsdenii) on the productivity and health of Holstein cows. South African Journal of Animal Science, 40(2) 101-112.
参考文献5:Tager, L. R., & Krause, K. M. (2011). Effects of essential oils on rumen fermentation, milk production, and feeding behavior in lactating dairy cows. Journal of dairy science, 94(5), 2455-2464.
参考文献6:Nasrollahi, S. M., Zali, A., Ghorbani, G. R., Shahrbabak, M. M., & Abadi, M. H. S. (2017). Variability in susceptibility to acidosis among high producing mid-lactation dairy cows is associated with rumen pH, fermentation, feed intake, sorting activity, and milk fat percentage. Animal feed science and technology, 228, 72-82.
参考文献7:Colman, E., Fokkink, W. B., Craninx, M., Newbold, J. R., De Baets, B., & Fievez, V. (2010). Effect of induction of subacute ruminal acidosis on milk fat profile and rumen parameters. Journal of dairy science, 93(10), 4759-4773.
参考文献8:Macmillan, K., Gao, X., & Oba, M. (2017). Increased feeding frequency increased milk fat yield and may reduce the severity of subacute ruminal acidosis in higher-risk cows. Journal of dairy science, 100(2), 1045-1054.
【0092】
乳量及び4%脂肪補正乳量からTTORを推定する推定式を求めた。まず、上述した式(A)を用いて、参考文献2~8に記載された乳量(milk)からメタン産生量を求めた。同様に、式(A)の乳量に代えて、4%脂肪補正乳量(fcm)からメタン産生量を求めた。
【0093】
次に、上記1.と同様の方法で、推定したメタン産生量と参考文献2~8に記載された測定データとから算出したTTORを用いて、milkから求めたTTOR(TTOR(milk))及びfcmから求めたTTOR(TTOR(fcm))を求めた。TTOR(fcm)とTTORとの散布図を
図3に示し、TTOR(milk)とTTORとの散布図を
図4に示した。
【0094】
ここで得られたTTOR(fcm)及びTTOR(milk)の重相関係数(R2)はそれぞれ0.5875及び0.7237であった。乳量を用いたTTOR(milk)の方がR2は高く、T検定では有意差は認められなかった。すなわち、4%脂肪補正乳量から推定したメタン産生量を用いる場合と、乳量から推定したメタン産生量を用いる場合とで有意差はなく、むしろ、乳量から推定したメタン産生量を用いる方が正確に推定できる可能性がある。したがって、4%脂肪補正乳量の代替として乳量が利用可能であることが示された。一般農家において、個体ごとの乳脂肪率を把握することは困難であるが、乳量の把握は比較的容易であることから、推定式に乳量をあてはめることは実用性があり望ましい。
【0095】
〔3.乳量TTORからのルーメンpHの推定〕
(推定式1)
乳量、SCFA濃度、SCFA量及びTTOR(milk)からルーメンpHを推定するための推定式を求めた。乳量、SCFA濃度、SCFA量及びTTOR(milk)からpHを推定する算定式は複数作成可能であるが、ここでは一例として、TTOR(milk)及び酢酸濃度(C2)とプロピオン酸濃度(C3)との比(C2/C3比)からルーメンpHを推定する推定式を求めた。
【0096】
まず、参考文献2~8に記載された測定データに基づき、TTOR(milk)×C2/C3を算出した。
【0097】
そして、算出したTTOR(milk)×C2/C3と、参考文献2~8において測定されたルーメンpHの実測値との相関関係を、回帰分析により求めた。
ルーメンpH=0.0413×(TTOR(milk)×C2/C3)+5.2089・・・式(3-1)
重相関係数(R2)は0.2274であった。
【0098】
TTOR(milk)×C2/C3を式(3-1)に代入して推定ルーメンpHを計算すると、推定ルーメンpHの平均は5.96であった。この値は、実測ルーメンpHの平均5.96と非常に近値であり、T検定でも有意差は認められなかった。
【0099】
しかしながら、重相関係数(R2)は0.227と低く、データにより推定ルーメンpHとルーメンpH(実測値)との違いが大きいことが示唆された。
【0100】
この欠点を補正する方法として、以下の検討を行った。式(3-1)は参考文献2~8に記載された測定データを標本とした推定式であるが、各参考文献に記載された測定データのそれぞれを標本として、それぞれに式(3-1)に相当する推定式を求めることで、より正確に推定ルーメンpHを算出することを検討した。参考文献2~8は、それぞれ異なる施設(農場)において異なる飼育状態の乳牛についてデータを計測している。したがって、参考文献毎に式(3-1)に相当する推定式を求めることは、すなわち、農場毎に推定式を求めることを意味する。
【0101】
例として、参考文献2及び8に記載された測定データを標本として算出したTTOR(milk)×C2/C3とルーメンpH(実測値)との散布図を
図5及び6にそれぞれ示した。
図5は、参考文献2に記載された測定データを標本とした散布図であり、
図6は、参考文献8に記載された測定データを標本とした散布図である。
図5及び6の散布図に基づいて、それぞれ最小二乗法により回帰直線を求め、回帰式を得た。
【0102】
この結果、参考文献2の測定データを用いた場合、推定ルーメンpHの平均は6.05(標準偏差0.249)であり、実測ルーメンpHの平均6.05(標準偏差0.253)と極めて近値であった。参考文献8の測定データを用いた場合についても同様であり、推定ルーメンpHの平均は6.18(標準偏差0.144)であり、実測ルーメンpHの平均6.18(標準偏差0.149)と極めて近値であった。
【0103】
参考文献2及び8に記載された測定データに基づく推定ルーメンpH、及び、参考文献2及び8に記載されたルーメンpHの実測値を、以下の表3にまとめた。表3において、式(3-1)から得られた推定ルーメンpHを推定ルーメンpH(A)とした。また、表3において、参考文献2及び8に記載された測定データのそれぞれから得た式から得られた推定ルーメンpHを、それぞれ推定ルーメンpH(B)とした。
【0104】
【0105】
このように、複数の農場からの標本又は農場毎の標本を回帰解析することで得られた推定式を用いることで、ルーメンpHの実測値に近い値でルーメンpHを推定できることが示された。すなわち、乳量及びTTORからルーメンpHの推定式を求めることで、第一胃液を採取することなくルーメンpHを推定可能であり、特に、農場毎にルーメンpHの推定式を求めることで、より精度よくルーメンpHを推定可能であることが示された。また、上記1.に示したように、牛個体毎に異なる時期に得たデータ群の標本から得られたpHの推定式を、個体毎の解析に用いることも有益である。
【0106】
(推定式2)
もう一つの例として、C2/C3比を平均化して固定値とし、TTOR(milk)のみからルーメンpHを推定する推定式を求めた。参考文献2に記載された測定データに基づくTTOR(milk)×C2/C3とルーメンpH(実測値)との回帰式は、式(3-2)であった。
ルーメンpH=0.0593×(TTOR(milk)×C2/C3)+5.0139・・・式(3-2)
【0107】
参考文献2のC2/C3比の平均値2.12(標準偏差0.304)を式(3-2)に代入すると、式(3-3)となった。
ルーメンpH=0.125716×(TTOR(milk))+5.0139・・・式(3-3)
【0108】
同様に参考文献8についても、式(3-4)が得られた。
ルーメンpH=0.167076×(TTOR(milk))+4.8742・・・式(3-4)
【0109】
参考文献2及び8について、式(3-3)及び式(3-4)で得られた推定ルーメンpHを推定ルーメンpH(C)とし、実測ルーメンpHと共に以下の表4にまとめた。
【0110】
【0111】
このように、農場毎に求めた回帰式において、C2/C3比を固定し推定ルーメンpHを計算する方法でも、ルーメンpH(実測値)に近い値が得られることが示された。
【0112】
(推定式3)
さらにもう一つの例として、乳量及びTTOR(milk)の積から推定ルーメンpH(D)を推定する推定式を求めた。
【0113】
参考文献2の乳量×TTOR(milk)とルーメンpH(実測)との回帰式は、x=乳量×TTOR(milk)とすると、式(3-5)であった。重相関係数(R2)は0.8083であった。
ルーメンpH=0.0051x+4.6119・・・式(3-5)
【0114】
同様に参考文献8の乳量×TTOR(milk)とルーメンpH(実測)との回帰式は、式(3-6)であった。重相関係数(R2)は0.9525であった。
ルーメンpH=0.0064x+4.2531・・・式(3-6)
【0115】
参考文献2及び8について、式(3-5)及び式(3-6)で得られた推定ルーメンpHを推定ルーメンpH(D)とし、実測ルーメンpHと共に以下の表5にまとめた。
【0116】
【0117】
このように、農場毎に求めた回帰式において、乳量×TTOR(milk)の積から推定ルーメンpHを計算する方法でも、ルーメンpH(実測値)に近い値が得られることが示された。
【0118】
〔4.乳量及びTTOR(milk)からのDMIの推定〕
参考文献1において、乳量/TTORとDMI/TTORとは強い相関があることが示されている。ここで、この相関を利用して、乳量からのDMIの推定を以下の方法で行なった。
【0119】
参考文献2から8について、乳量/TTOR(milk)とDMI/TTOR(milk)の散布図を作成した。作成した散布図を
図7に示す。
【0120】
TTOR(milk)から算出される推定DMIをDMI(TTOR(milk))とし、x=DMI(TTOR(milk))、z=TTOR(milk)、乳量=MILKとすると、
MILK/z=0.717×(x/z)+2.7411
x=(MILK-2.7411×TTOR(milk))/0.717
となる。
【0121】
したがって、DMI(TTOR(milk))は、式(4-1)となった。
DMI(TTOR(milk))=(MILK-2.7411×TTOR(milk))/0.717・・・式(4-1)
【0122】
乳量及びTTOR(milk)を式(4-1)に代入して、DMI(TTOR(milk))(推定DMI)を算出した。推定DMIの平均は24.27kgであり、DMI(実測値)の平均24.12kgと非常に近値であり、T検定でも有意差は認められなかった。一方、重相関係数(R2)は0.3546と高くなく、データにより推定DMIとDMI(実測値)との違いが大きいことが示唆された。
【0123】
しかしながら、推定DMI(33点)の総計は800.9kg、DMI(実測値)33点の総計は795.9kgであった。すなわち、ここで使用したデータを一つの牛群と見ると、計算された推定DMIの総計はほぼ実際のDMIに近く、1つの牛群に対する飼料給与量を決定する上で非常に有用であることが示された。
【0124】
推定DMIとDMI(実測値)との重相関係数(R2)の低さを補正する方法を検討した。式(4-1)は、参考文献2~8のデータを用いて得られた推定式であることから、文献毎に式(4-1)に相当する推定式を作成することで、より正確な推定DMIの計算が可能となる。
【0125】
そこで農場毎に乳量/TTORとDMI/TTOR(milk)の回帰式を求め(例示す;
図8及び
図9)、乳量及びTTOR(milk)から推定DMIを計算した。
【0126】
例として、参考文献2及び8に記載された測定データを用いて、式(4-1)で得られた推定DMIを推定DMI(A)、それぞれの文献に記載された測定データを用いて作成した回帰式で求めた推定DMIを推定DMI(B)とし、実測DMIと共に表6に示した。
【0127】
【0128】
このように、農場毎に得られたデータを用いて作成した回帰式を用いて推定した推定DMI(推定DMI(B))は、DMI(実測値)に近い値であった。
【0129】
このように、複数の農場からの標本又は農場毎の標本を回帰解析することで得られた推定式を用いることで、DMIの実測値に近い値でDMIを推定できることが示された。すなわち、乳量及びTTORからDMIの推定式を求めることで、給餌飼料及び残余飼料を秤量することなくDMIを推定可能であり、特に、農場毎にDMIの推定式を求めることで、より精度よくDMIを推定可能であることが示された。また、上記1.に示したように、牛個体毎に異なる時期に得たデータ群の標本から得られたDMIの推定式を、個体毎の解析に用いることも有益である。
【0130】
〔5.回帰分析によるDMI推定式の補正〕
推定DMIを求める上記式(4-1)は、DMIの実測値を用いて生成しているが、DMIの実測値を農場において測定することは容易ではない。そのため、DMIの実測値を用いずに、推定DMIを求める式を生成する事が好ましい。本実施例においては、DMIの実測値に替えて、以下に示すような、乳牛の飼養標準から算出したDMI(FS)を用いて、推定DMIを求める回帰式を得た。
【0131】
DMI(FS)は、以下の参考文献9やNRC(2001)等に記載された方法により算出される。ここで、参考文献9を参照として本明細書に組み込む:
参考文献9: 農業・食品産業技術総合研究機構編,2017,日本飼養標準乳牛(2017年度版),中央畜産会,東京。
【0132】
参考文献9に基づけば、DMI(FS)は、体重をW(kg)、4%脂肪補正乳量(kg)をFCMとすると、以下の式(5-1)となる:
DMI(FS)=1.3922+0.05839×W0.75+0.40497×FCM・・・(式5―1)
【0133】
FCMは、同じく参考文献9に基づき、以下の式(5-2)となる:
FCM = 乳量(kg)×(0.15 × 乳脂肪率(%) + 0.4)・・・(式5―2)
【0134】
上記式(5-1)及び(5-2)により算出したDMI(FS)を用いて、参考文献7の測定データに基づく乳量/TTOR(milk)及びDMI(FS)/TTOR(milk)の散布図を作成した。作成した散布図を
図10に示す。
図10は、乳量から推定したTTORの推定値及び飼養標準から算出した乾物摂取量(DMI(FS))と、乳量から推定したTTOR(TTOR(milk))の推定値及び乳量との相関を示すグラフである。
【0135】
TTOR(milk)から算出される推定DMIをDMI(TTOR(milk))とし、x=DMI(TTOR(milk))、z=TTOR(milk)、乳量=MILKとすると、
MILK/z=1.5814×(x/z)-0.7105
x=(MILK+0.7105×TTOR(milk))/1.5814
となる。
【0136】
したがって、DMI(TTOR(milk))は、式(5-3)となった。
DMI(TTOR(milk))=(MILK+0.7105×TTOR(milk))/1.5814・・・式(5-3)
【0137】
乳量及びTTOR(milk)を式(5-3)に代入して、DMI(TTOR(milk))(推定DMI)を算出した。推定DMIの平均は24.16kgで、DMI(実測値)の平均24.19kgと非常に近値であり、T検定でも有意差は認められなかった。
【0138】
このように、参考文献9やNRC(2001)等に記載された方法により、乳牛の飼養標準に基づき算出されたDMIを用いても、DMIの実測値を用いた場合と同様に、DMIを推定できることが示された。すなわち、乳牛の飼養標準に基づき算出されたDMI(FS)をDMIの実測値の替わりに用いることで、回帰直線からのDMIの推定式の生成が可能である。