(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142806
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220926BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20220926BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20220926BHJP
A21D 15/02 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
A23D7/00 500
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043004
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真紀
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG05
4B026DH01
4B026DH02
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4B026DL01
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4B026DP01
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4B032DB08
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】
冷蔵保存で食感が硬くなりにくいベーカリー食品を提供することにある。
【解決手段】
含まれる油脂が油脂A((A1)~(A6)を満たす)を20~40質量%、油脂B((B1)~(B4)を満たす)を30~50質量%、油脂C((C1)~(C2)を満たす)を5~30質量%含有する冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物。
(A1)X3が1~15質量%。(A2)X2Uが20~40質量%。(A3)XUX/X2Uが0.70~0.90。(A4)XU2が35~55質量%。(A5)U3が10~30質量%。(A6)P/Xが0.80以上。
(B1)Mが15~35質量%。(B2)Xが20~45質量%。(B3)Uが30~50質量%。(B4)C42~48TAGが45~70質量%。
(C1)25℃で液状。(C2)Uが65質量%以上。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含まれる油脂が下記油脂Aを20~40質量%、下記油脂Bを30~50質量%、下記油脂Cを5~30質量%含有する冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物。
油脂A:下記の条件(A1)~(A6)を満たす油脂である。
(A1)X3を1~15質量%含有する。
(A2)X2Uを20~40質量%含有する。
(A3)XUX/X2Uの質量比が0.70~0.90である。
(A4)XU2を35~55質量%含有する。
(A5)U3を10~30質量%含有する。
(A6)構成脂肪酸として、P/Xの質量比が0.80以上である。
油脂B:下記の条件(B1)~(B4)を満たす油脂である。
(B1)構成脂肪酸として、Mを15~35質量%含有する。
(B2)構成脂肪酸として、Xを20~45質量%含有する。
(B3)構成脂肪酸として、Uを30~50質量%含有する。
(B4)C42~48TAGを45~70質量%含有する。
油脂C:下記の条件(C1)~(C2)を満たす油脂である。
(C1)25℃で液状である。
(C2)構成脂肪酸として、Uを65質量%以上含有する。
上記の条件において、X、U、M、P、X3、X2U、XUX、XU2、U3、C42~48TAGはそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
M:炭素数12~14の飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XUXは、1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
C42~48TAG:構成する脂肪酸残基の総炭素数が42~48のトリグリセリド
【請求項2】
請求項1に記載の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物を使用した冷蔵保存ベーカリー食品用生地。
【請求項3】
請求項2に記載の冷蔵保存ベーカリー食品用生地を焼成した冷蔵保存ベーカリー食品。
【請求項4】
前記冷蔵保存ベーカリー食品がバターケーキである請求項3に記載の冷蔵保存ベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー食品は、常温保存される製品が多い。常温保存されるベーカリー食品は、賞味期限が短いのが一般的である。しかしながら、近年は、賞味期限切れで廃棄される食品、いわゆる、フードロスが社会問題となっている。従って、フードロスの問題を解決するために、ベーカリー食品においても、賞味期限をいかに延長するかが課題となっている。
【0003】
食品の賞味期限を延長する方法としては、冷蔵保存することが考えられる。ベーカリー食品も冷蔵保存することで、賞味期限を延長することができる。しかしながら、ベーカリー食品のなかには、冷蔵保存すると、食感が硬くなるという問題があった。
【0004】
冷蔵保存時のベーカリー食品の食感の硬化を抑制する方法としては、例えば、特許文献1~3の方法が提案されている。しかしながら、特許文献1~3の方法は、いずれも、特別な素材を使用するものであった。
【0005】
以上のような背景から、特別な素材を使用しなくても、冷蔵保存で食感が硬くなりにくいベーカリー食品の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-259771号公報
【特許文献2】特開2013-110974号公報
【特許文献3】特開2017-184654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、冷蔵保存で食感が硬くなりにくいベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、特定の条件を満たす可塑性油脂組成物を冷蔵保存ベーカリー食品の製造に使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、含まれる油脂が下記油脂Aを20~40質量%、下記油脂Bを30~50質量%、下記油脂Cを5~30質量%含有する冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物である。
油脂A:下記の条件(A1)~(A6)を満たす油脂である。
(A1)X3を1~15質量%含有する。
(A2)X2Uを20~40質量%含有する。
(A3)XUX/X2Uの質量比が0.70~0.90である。
(A4)XU2を35~55質量%含有する。
(A5)U3を10~30質量%含有する。
(A6)構成脂肪酸として、P/Xの質量比が0.80以上である。
油脂B:下記の条件(B1)~(B4)を満たす油脂である。
(B1)構成脂肪酸として、Mを15~35質量%含有する。
(B2)構成脂肪酸として、Xを20~45質量%含有する。
(B3)構成脂肪酸として、Uを30~50質量%含有する。
(B4)C42~48TAGを45~70質量%含有する。
油脂C:下記の条件(C1)~(C2)を満たす油脂である。
(C1)25℃で液状である。
(C2)構成脂肪酸として、Uを65質量%以上含有する。
上記の条件において、X、U、M、P、X3、X2U、XUX、XU2、U3、C42~48TAGはそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
M:炭素数12~14の飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XUXは、1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
C42~48TAG:構成する脂肪酸残基の総炭素数が42~48のトリグリセリド
本発明の第2の発明は、第1の発明に記載の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物を使用した冷蔵保存ベーカリー食品用生地である。
本発明の第3の発明は、第2の発明に記載の冷蔵保存ベーカリー食品用生地を焼成した冷蔵保存ベーカリー食品である。
本発明の第4の発明は、前記冷蔵保存ベーカリー食品がバターケーキである第3の発明に記載のベーカリー食品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、冷蔵保存で食感が硬くなりにくいベーカリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、含まれる油脂が下記油脂Aを20~40質量%、下記油脂Bを30~50質量%、下記油脂Cを5~30質量%含有する。
油脂A:下記の条件(A1)~(A6)を満たす油脂である。
(A1)X3を1~15質量%含有する。
(A2)X2Uを20~40質量%含有する。
(A3)XUX/X2Uの質量比が0.70~0.87である。
(A4)XU2を35~55質量%含有する。
(A5)U3を10~30質量%含有する。
(A6)構成脂肪酸として、P/Xの質量比が0.80以上である。
油脂B:下記の条件(B1)~(B4)を満たす油脂である。
(B1)構成脂肪酸として、Mを15~35質量%含有する。
(B2)構成脂肪酸として、Xを20~45質量%含有する。
(B3)構成脂肪酸として、Uを30~50質量%含有する。
(B4)C42~48TAGを45~70質量%含有する。
油脂C:下記の条件(C1)~(C2)を満たす油脂である。
(C1)25℃で液状である。
(C2)構成脂肪酸として、Uを65質量%以上含有する。
【0012】
本発明で冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物に含まれる油脂とは、含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分のことである(例えば、冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が油脂a、油脂b、バターを含む場合、冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物に含まれる油脂は、油脂aと油脂bとバターに含まれる乳脂の混合油になる。)。従って、冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物に含まれる油脂には、配合される油脂の他に、バター、全脂粉乳等の含油原料に含まれる油脂(乳脂等)も含む。
また、本発明で可塑性油脂組成物とは、可塑性を有する油脂組成物のことである。可塑性油脂組成物の具体例は、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングである。
また、本発明で冷蔵保存ベーカリー食品とは、冷蔵下で保存されるベーカリー食品のことである。また、本発明で冷蔵保存とは、5~10℃での保存のことである。
【0013】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、含まれる油脂が下記油脂Aを20~40質量%、下記油脂Bを30~50質量%、下記油脂Cを5~30質量%含有し、好ましくは含まれる油脂が下記油脂Aを23~38質量%、下記油脂Bを32~48質量%、下記油脂Cを7~25質量%含有し、より好ましくは含まれる油脂が下記油脂Aを25~35質量%、下記油脂Bを35~45質量%、下記油脂Cを10~20質量%含有し、最も好ましくは含まれる油脂が下記油脂Aを26~32質量%、下記油脂Bを35~42質量%、下記油脂Cを10~17質量%含有する。
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の含まれる油脂が、下記油脂A、下記油脂B及び下記油脂Cを前記範囲で含有すると、冷蔵保存で食感が硬くなりにくいベーカリー食品が得られる。
【0014】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、下記の条件(A1)~(A6)を満たす油脂である。
(A1)X3を1~15質量%含有する。
(A2)X2Uを20~40質量%含有する。
(A3)XUX/X2Uの質量比が0.70~0.90である。
(A4)XU2を35~55質量%含有する。
(A5)U3を10~30質量%含有する。
(A6)構成脂肪酸として、P/Xの質量比が0.80以上である。
【0015】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、X3を1~15質量%含有し、好ましくは2~13質量%含有し、より好ましくは3~10質量%含有し、さらに好ましくは3~8質量%含有し、最もさらに好ましくは3~7質量%含有する(条件(A1))。
なお、本発明でX3は、Xが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である。また本発明でトリグリセリドは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。また、本発明でXは、炭素数16~18の飽和脂肪酸である。
【0016】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、X2Uを20~40質量%含有し、好ましくは23~38質量%含有し、より好ましくは25~35質量%含有し、さらに好ましくは27~33質量%含有し、最も好ましくは28~32質量%含有する(条件(A2))。
なお、本発明でX2Uは、Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XUX+XXU+UXX)である。また、本発明でUは、炭素数18の不飽和脂肪酸である。
【0017】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、XUX/X2Uの質量比が0.70~0.90であり、好ましくは0.72~0.88であり、より好ましくは0.75~0.86であり、さらに好ましくは0.77~0.85であり、最も好ましくは0.78~0.84である(条件(A3))。
なお、本発明でXUX/X2Uの質量比は、X2U含有量(質量%)に対するXUX含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でXUXは、1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリドである。
【0018】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、XU2を35~55質量%含有し、好ましくは37~52質量%含有し、より好ましくは38~50質量%含有し、さらに好ましくは40~48質量%含有し、最も好ましくは41~47質量%含有する(条件(A4))。
なお、本発明でXU2は、Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。
【0019】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、U3を10~30質量%含有し、好ましくは12~28質量%含有し、より好ましくは13~25質量%含有し、さらに好ましくは15~22質量%含有し、最も好ましくは16~21質量%含有する(条件(A5))。
なお、本発明でU3は、Uが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0020】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、P/Xの質量比が0.80以上であり、好ましくは0.82~0.98であり、より好ましくは0.85~0.96であり、さらに好ましくは0.86~0.93であり、最も好ましくは0.87~0.91である(条件(A6))。
なお、本発明でP/Xの質量比は、X含有量(質量%)に対するP含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でPは、パルミチン酸である。
【0021】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、P2U/X2Uの質量比が好ましくは0.70~0.90であり、より好ましくは0.72~0.88であり、さらに好ましくは0.74~0.86であり、最も好ましくは0.76~0.83である(条件(A7))。
なお、本発明でP2U/X2Uの質量比は、X2U含有量(質量%)に対するP2U含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でP2UはPが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(PPU+PUP+UPP)である。
【0022】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、PU2/XU2の質量比が好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.82~0.98であり、さらに好ましくは0.84~0.96であり、最も好ましくは0.86~0.93である(条件(A8))。
なお、PU2/XU2の質量比は、XU2含有量(質量%)に対するPU2含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でPU2は、Pが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(PUU+UPU+UUP)である。
【0023】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、Yを好ましくは90質量%以上含有し、より好ましくは92質量%以上含有し、さらに好ましくは94質量%以上含有し、好ましくは96質量%以上含有する(条件(A9))。
なお、本発明でYは炭素数16~18の脂肪酸のことである。
【0024】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、Xを好ましくは25~45質量%含有し、より好ましくは27~43質量%含有し、さらに好ましくは29~41質量%含有し、最も好ましくは31~38質量%含有する(条件(A10))。
【0025】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、Uを好ましくは55~75質量%含有し、より好ましくは56~72質量%含有し、さらに好ましくは58~70質量%含有し、最も好ましくは60~67質量%含有する(条件(A11))。
【0026】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、O/Uの質量比が好ましくは0.65~0.85であり、より好ましくは0.68~0.83であり、より好ましくは0.70~0.80であり、最も好ましくは0.72~0.78である(条件(A12))。
なお、本発明でO/Uの質量比は、U含有量(質量%)に対するO含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でOは、オレイン酸のことである。
【0027】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を好ましくは5質量%未満含有し、より好ましくは4質量%未満含有し、さらに好ましくは3質量%未満含有し、最も好ましくは2質量%未満含有する(条件(A13))。なお、本発明でトランス脂肪酸は、TFAと記載することもある。
【0028】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、トリグリセリドの組成、構成脂肪酸の組成等が前記範囲であれば、特に制限されることなく、通常の食用油脂を使用して製造することができる。前記油脂Aの製造に使用される食用油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココアバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等が挙げられる。前記食用油脂は2種以上組み合せて使用することもできる。
【0029】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、好ましくはパーム系油脂と液状油との1,3位特異的エステル交換油脂である。
なお、本発明で1,3位特異的エステル交換油脂は、油脂を構成するトリグリセリドの1位及び3位に対して位置特異性のあるエステル交換反応を行うことで得られる油脂のことである。また、以下、油脂Aとして使用されるパーム系油脂と液状油との1,3位特異的エステル交換油脂は、エステル交換油脂aとする。また、本発明でパーム系油脂は、パーム油やパーム油の加工油脂(エステル交換油、分別油、水素添加油等)のことである。パーム系油脂の具体例としては、例えば、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム中融点部等が挙げられる。また、本発明で液状油は、25℃で液状の油脂のことである。液状油の具体例としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油やこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油脂、分別油、硬化油(水素添加油)等)等が挙げられる。
【0030】
前記エステル交換油脂aの製造に使用されるパーム系油脂は、好ましくはパーム油である。また、前記エステル交換油脂aの製造に使用される液状油は、好ましくは菜種油である。
【0031】
前記エステル交換油脂aの製造に使用されるパーム系油脂と液状油との配合比は、パーム系油脂:液状油の質量比で、好ましくは50:50~80:20であり、より好ましくは55:45~75:25であり、さらに好ましくは60:40~70:30である。
【0032】
前記エステル交換油脂aを得るための1,3位特異的エステル交換反応は、1,3位特異的エステル交換反応であれば特に制限されることはないが、好ましくはリパーゼを用いた酵素的エステル交換反応である。リパーゼは、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用することができる。リパーゼは、好ましくは1,3位特異的リパーゼ(1,3位特異性のあるリパーゼ又は1,3位特異性の高いリパーゼ)を使用する。1,3位特異的リパーゼとしては、アルカリゲネス属(Alcaligenes)由来リパーゼ、リゾプス属(Rhizopus)由来リパーゼ、ムコール属(Mucor)由来リパーゼ等が挙げられるが、好ましくはアルカリゲネス属由来リパーゼを使用する。アルカリゲネス属由来リパーゼとしては、例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼPLを使用することができる。
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02~10質量%、好ましくは0.04~5質量%添加した後、40~80℃、好ましくは40~70℃で0.5~48時間、好ましくは0.5~24時間攪拌しながら反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0033】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、下記の条件(B1)~(B4)を満たす油脂である。
(B1)構成脂肪酸として、Mを15~35質量%含有する。
(B2)構成脂肪酸として、Xを20~45質量%含有する。
(B3)構成脂肪酸として、Uを30~50質量%含有する。
(B4)C42~48TAGを45~70質量%含有する。
【0034】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸として、Mを15~35質量%含有し、好ましくは17~33質量%含有し、より好ましくは20~31質量%含有し、さらに好ましくは22~29質量%含有する(条件(B1))。
なお、本発明でMは、炭素数12~14の飽和脂肪酸である。
【0035】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸として、Xを20~45質量%含有し、好ましくは25~43質量%含有し、より好ましくは28~40質量%含有し、さらに好ましくは30~37質量%含有する(条件(B2))。
【0036】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸としてUを30~50質量%含有し、好ましくは32~45質量%含有し、より好ましくは33~43質量%含有し、さらに好ましくは33~40質量%含有する(条件(B3))。
【0037】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、C42~48TAGを45~70質量%含有し、好ましくは50~65質量%含有し、より好ましくは52~63質量%含有し、さらに好ましくは54~60質量%含有する(条件(B4))。
なお、本発明でC42~48TAGは、構成する脂肪酸残基の総炭素数が42~48のトリグリセリドのことである。
【0038】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸として、P/Xの質量比が好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.82~0.98であり、さらに好ましくは0.85~0.96であり、最も好ましくは0.86~0.93である(条件(B5))。
【0039】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸として、Zを好ましくは2質量%未満含有し、より好ましくは1.5質量%未満含有し、さらに好ましくは1質量%未満含有する(条件(B6))。
なお、本発明でZは、炭素数20以上の脂肪酸のことである。
【0040】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を好ましくは3質量%未満含有し、より好ましくは2質量%未満含有し、さらに好ましくは1質量%未満含有する(条件(B7))。
【0041】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、ヨウ素価が好ましくは32~50であり、より好ましくは32~48であり、さらに好ましくは35~45であり、最も好ましくは36~42である(条件(B8))。
【0042】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、融点が好ましくは20~40℃であり、より好ましくは23~38℃であり、さらに好ましくは25~35℃であり、最も好ましくは27~33℃である(条件(B9))。
【0043】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、トリグリセリドの組成、構成脂肪酸の組成等が前記範囲であれば、特に制限されることなく、通常の食用油脂を使用して製造することができる。前記油脂Bの製造に使用される食用油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココアバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等が挙げられる。前記食用油脂は2種以上組み合せて使用することもできる。
【0044】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Bは、好ましくはパーム系油脂とラウリン系油脂とのランダムエステル交換油脂である。
なお、本発明でランダムエステル交換油脂は、油脂を構成するトリグリセリドに対して位置特異性のないエステル交換反応を行うことで得られる油脂のことである。また、以下、油脂Bとして使用されるパーム系油脂とラウリン系油脂とのランダムエステル交換油脂は、エステル交換油脂bとする。また、本発明でラウリン系油脂は、油脂を構成する脂肪酸のうちラウリン酸が35質量%以上の油脂のことである。ラウリン系油脂の具体例としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、パーム核油の極度硬化油、パーム核オレインの極度硬化油、ヤシ油の極度硬化油等が挙げられる。
【0045】
前記エステル交換油脂bの製造に使用されるパーム系油脂は、好ましくはパーム油である。また、前記エステル交換油脂aの製造に使用されるラウリン系油脂は、好ましくはパーム核油である。
【0046】
前記エステル交換油脂bの製造に使用されるパーム系油脂とラウリン系油脂との配合比は、パーム系油脂:ラウリン系油脂の質量比で、好ましくは75:25~45:55であり、より好ましくは質量比70:30~50:50であり、さらに好ましくは質量比65:35~55:45である。
【0047】
前記エステル交換油脂bを得るためのランダムエステル交換反応は、ランダムエステル交換反応であれば特に制限されることはないが、好ましくはナトリウムメトキシド等の合成触媒を用いた化学的エステル交換反応である。ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換
化学的エステル交換反応は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1~1質量%添加した後、減圧下、80~120℃で0.5~1時間攪拌しながら反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、水洗等により触媒を除去した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色・脱臭処理を施すことができる。
【0048】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、下記の条件(C1)~(C2)を満たす油脂である。
(C1)25℃で液状である。
(C2)構成脂肪酸として、Uを65質量%以上含有する。
【0049】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、25℃で液状である(条件(C1))。
【0050】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、構成脂肪酸として、Uを65質量%以上含有し、好ましくは68~98質量%含有し、より好ましくは70~95質量%含有し、最も好ましくは72~93質量%含有する(条件(C2))。
【0051】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を好ましくは5質量%未満含有し、より好ましくは3質量%未満含有し、さらに好ましくは2質量%未満含有する(条件(C3))。
【0052】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cの具体例は、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油やこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油脂、分別油、硬化油(水素添加油)等)等が挙げられる。本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、2種以上を併用することもできる。
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Cは、好ましくは、綿実油、菜種油である。
【0053】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、含まれる油脂が好ましくは下記油脂Dを含有する。
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、含まれる油脂が下記油脂Dを好ましくは1~25質量%含有し、より好ましくは3~20質量%含有し、さらに好ましくは5~15質量%含有し、最も好ましくは7~12質量%含有する。
【0054】
本発明の実施の形態に係る折り込み用油脂組成物の製造に使用される油脂Dは、乳由来の油脂である。本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される乳由来の油脂の具体例は、乳脂、乳脂分別オレイン等の乳脂分別油等である。る。
なお、本発明で乳脂は、バター、全脂粉乳等の含油原料に含まれる乳脂も含む。従って、本発明では、バター、全脂粉乳を配合することで、油脂Dを配合することもできる。
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造に使用される油脂Dは、好ましくは、乳脂、乳脂分別オレインである。
【0055】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、前記油脂A、前記油脂B、前記油脂C、前記油脂D以外の油脂を使用することもできる。
【0056】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、油脂を好ましくは70質量%以上含有し、より好ましくは75質量%以上含有し、さらに好ましくは80~90質量%含有し、最も好ましくは80~86質量%含有する。
【0057】
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)、銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)及びガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定することができる。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定することができる。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
油脂の融点は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.2.4.2-1996 融点(上昇融点)」に準じて測定することができる。
【0058】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、油脂以外に、通常、可塑性油脂組成物の製造に使用される原料を配合することができる。具体的には、砂糖、乳糖及び液糖等の糖類、糖アルコール類、ステビア及びアスパルテーム等の甘味料、水、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤、増粘安定剤、食塩及び塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸及びグルコン酸等の酸味料、β-カロテン、カラメル及び紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキン等)及びルチンなどの酸化防止剤、粉乳、乳ペプチド、乳蛋白質及びバター酵素処理分解物等の乳製品、小麦蛋白及び大豆蛋白等の植物蛋白、卵、卵加工品、香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類及び魚介類等の食品素材若しくは食品添加物を本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物に配合することができる。
【0059】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、好ましくは水相を有する乳化物(マーガリン、ファットスプレッド)又は水相を有さないショートニングである。本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が水相を有する乳化物の場合、好ましくは油中水型乳化物である。本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が油中水型乳化物の場合、水の含有量は、好ましくは2~40質量%であり、より好ましくは5~25質量%であり、さらに好ましくは10~20質量%である。
【0060】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の可塑性油脂組成物の製造条件及び製造方法を適用できる。具体的には、可塑性油脂組成物は、配合する油溶成分を混合溶解することで製造できる。また、可塑性油脂組成物は、配合する油溶成分を混合溶解した油相を、必要に応じて、調製した水相と混合乳化した後、冷却し、結晶化させる工程により製造できる。可塑性油脂組成物は、冷却、結晶化の工程では、冷却可塑化される。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。この際、冷却は、好ましくは急冷却する。また、油相の調製後又は混合乳化後、可塑性油脂組成物は、好ましくは殺菌処理される。殺菌方法としては、タンクでのバッチ式や、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機を用いた連続式が挙げられる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどのマーガリン製造機や、プレート型熱交換機などが挙げられる。また、冷却する機器としては、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0061】
本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物は、好ましくは練り込み用可塑性油脂組成物である。なお、本発明で練り込み用可塑性油脂組成物とは、ベーカリー食品の製造で焼成前の生地に練り込まれる油脂のことである。
【0062】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が使用されたベーカリー食品用生地である。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、好ましくは本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が練り込まれている。
なお、本発明でベーカリー食品用生地は、穀粉、油脂組成物、砂糖、乳製品、卵、食塩、水等の原料を捏ね上げることで得られる焼成前の生地のことである。
【0063】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、本発明の実施の形態の冷蔵保存ベーカリー食品用可塑性油脂組成物が好ましくは20質量部~160質量部配合され、より好ましくは40質量部~140質量部配合され、さらに好ましくは80質量部~120質量部配合される。
なお、本発明で穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたもののことである。穀粉の具体例は、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される穀粉は、好ましくは小麦粉である。
【0064】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、卵類が好ましくは20質量部~160質量部配合され、より好ましくは40質量部~140質量部配合され、さらに好ましくは80質量部~120質量部配合される。
なお、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造に使用される卵類は、全卵、液卵、卵黄、卵白やこれらの凍結品等であり、好ましくは全卵である。
【0065】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、糖質が好ましくは20質量部~160質量部配合され、より好ましくは40質量部~140質量部配合され、さらに好ましくは80質量部~120質量部配合される。なお、本発明で糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で糖質は、糖質そのものであり、その他の原材料(例えば、粉乳等)に含まれる糖質は含めない。また、本発明で糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(上白糖、グラニュー糖、粉糖、ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖である。
【0066】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地には、油脂組成物、穀粉、卵類、糖質以外の原料として、通常、ベーカリー食品用生地に配合される原料(活性グルテン、でんぷん、セルロース粉末等の粉類、イースト、イーストフード、酵素、食塩、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品、水、豆乳等の水性成分等)を、通常量配合することができる。
【0067】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知のベーカリー食品用生地の製造条件及び製造方法を適用できる。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、例えば、シュガーバッター法により、油脂組成物と糖質を混合した後、次に卵類を添加して混合し、最後に穀粉を添加して混合することで製造することができる。
【0068】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地を焼成することで得られる。
【0069】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン、タルト等の焼き菓子、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、チーズケーキ、カステラ等のバターケーキ、ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等のスポンジケーキ、ガトーショコラ、蒸しケーキ、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋生菓子、菓子パン、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、ドーナツ、デニッシュ、クロワッサン等のパンである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、好ましくはバターケーキであり、より好ましくはパウンドケーキである。
【0070】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法(製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知のベーカリー食品と同様の焼成方法(製造方法)により焼成することができる。焼成方法の具体例は、オーブン加熱、直焼き、高周波加熱(電子レンジ加熱)等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法は、好ましくはオーブン加熱である。オーブン加熱は、加熱温度が好ましくは160~190℃であり、加熱時間が好ましくは30~70分間である。
【0071】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、冷蔵保存温度で食感が硬くなりにくいベーカリー食品である。
【実施例0072】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
油脂のトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)、銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)及びガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce5-86準拠)で測定した。
油脂の脂肪酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)で測定した。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
油脂の融点は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.2.4.2-1996 融点(上昇融点)」に準じて測定した。
【0073】
〔油脂A1の製造〕
パーム油65質量部と菜種油35質量部を混合した。得られた混合油に、1,3位特異的エステル交換反応を行うことにより、油脂A1(X3含有量:4.7質量%、X2U:30.1質量%、XUX/X2U質量比:0.821、XU2:43.7質量%、U3:質量%、18.6質量%、P/Xの量比:0.891、P2U/X2U質量比:0.797、PU2/XU2質量比:0.891、Y含有量:97.8質量%、X含有量:34.0質量%、U含有量:63.6質量%、O/U質量比:0.748、TFA含有量:1.3質量%)を得た。
1,3位特異的エステル交換反応は、常法に従い、原料油脂に対して1質量%のアルカリゲネス属由来のリパーゼ(商品名:リパーゼPL、名糖産業株式会社製、1,3位特異的リパーゼ)を添加した後、60℃で10時間攪拌しながら行った。
【0074】
〔油脂B1の製造〕
パーム油60質量部とパーム核油(ラウリン酸含有量:47.1質量%)40質量部を混合した。得られた混合油に、ランダムエステル交換反応を行うことにより、油脂B1(M含有量:26.0質量%、X含有量:33.7質量%、U含有量:37.4質量%、C42~48TAG含有量:57.1質量%、P/X質量比:0.887、Z含有量:0.6質量%、TFA含有量:0.6質量%、ヨウ素価:39、融点:30.0℃)を得た。
ランダムエステル交換反応は、常法に従い、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。
【0075】
〔油脂C〕
綿実油を油脂C1(25℃の性状:液状、U含有量:75.0質量%、TFA含有量:0.9質量%)とした。
菜種油を油脂C2(25℃の性状:液状、U含有量:90.9質量%、TFA含有量:1.4質量%)とした。
大豆油を油脂C3(25℃の性状:液状、U含有量:84.0質量%、TFA含有量:1.3質量%)とした。
【0076】
〔油脂D〕
乳脂分別オレインを油脂D1とした。
【0077】
〔油脂a1の製造〕
パームオレイン(ヨウ素価:56)に、ランダムエステル交換反応を行うことにより、油脂a1(X3含有量:11.3質量%、X2U:36.6質量%、XUX/X2U質量比:0.333、XU2:37.5質量%、U3:質量%、11.9質量%、Y含有量:98.0質量%)を得た。
エステル交換反応は、油脂B1と同様の方法で行った。
【0078】
〔油脂a2〕
パーム中融点部(ヨウ素価:45)を油脂a2(X3含有量:2.4質量%、X2U:67.3質量%、XUX/X2U質量比:0.904、XU2:24.1質量%、U3:質量%、2.2質量%、Y含有量:98.1質量%)とした。
【0079】
〔油脂a3〕
パーム油を油脂a3(X3含有量:7.3質量%、X2U:48.3質量%、XUX/X2U質量比:0.884、XU2:36.9質量%、U3:質量%、5.2質量%、Y含有量:97.8質量%)とした。
【0080】
〔油脂b1の製造〕
パーム核オレイン(ラウリン酸含量:41質量%)50質量部とパームステアリン50質量部とを混合した。得られた混合油に、ランダムエステル交換反応を行った後、ヨウ素価が2以下になるまで水素添加を行うことにより、油脂b1(M含有量:27.4質量%、X含有量:68.5質量%、U含有量:0.3質量%、C42~48TAG含有量:54.4質量%、Z含有量:0.6質量%、P/X質量比:0.489、TFA含有量:0質量%、ヨウ素価:1未満、融点:47.8℃)を得た。
ランダムエステル交換反応は、油脂B1と同様の方法で行った。
水素添加反応は、ニッケル触媒を用いて160~200℃にて、ヨウ素価が2以下になるまで行った。水素添加反応が終了後、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行うことで、極度硬化油を得た。
【0081】
〔マーガリンの製造〕
表1の配合に従って、油相と水相とをそれぞれ調製し、油相に水相を混合、乳化した。当該乳化物を、急冷混捏して、実施例1のマーガリン、比較例1~3のマーガリンを製造した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である。
【0082】
〔パウンドケーキの製造〕
小麦粉100質量部、各マーガリン100質量部、全卵100質量部、上白糖100質量部、ベーキングパウダー1質量部の配合で、シュガーバッター法により、各マーガリンを練り込み、パウンドケーキ用生地を製造した。該パウンドケーキ用生地をオーブンで焼成(上火温度:180℃、下火温度:170℃、時間:55分間)することでパウンドケーキを製造した。得られたパウンドケーキの食感及び硬さを、以下の方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0083】
<食感の評価>
焼成後、5℃で24時間保存した後のパウンドケーキを、5名の専門パネルが食し、1~10点の10段階で採点した。採点は、点数が高いほど、食感がよりソフトであるとした。各パネルの採点結果の平均点を算出し、以下の基準に従って評価した。評価結果は、○の場合、冷蔵保存で食感が硬くなりにくいと判断した。なお、パウンドケーキの食感を評価した専門パネルは、食品の食感等の官能評価の訓練を定期的に受けており、食品の食感等の官能評価結果に個人差が少ない。
<平均点>
〇:7点以上
△:4点以上7点未満
×:4点未満
【0084】
<硬さの評価>
レオメーター(株式会社山電製、CREEP METER RE2-33005B)を使用して、下記1)~2)の手順に従って、焼成後、5℃で24時間保存した後のパウンドケーキの硬さを測定した。レオメーターでの測定には、直径40mm、高さ8mmの円柱状のプランジャー(樹脂製)を使用した。なお、レオメーターでの硬さは、30%変形時(プランジャーがパウンドケーキを7.5mm押した時)の最大荷重とした。レオメーターでの測定値は、測定値が小さいほど、パウンドケーキが軟らかいことを示している。
1)パウンドケーキの底を10mm切り落とし、縦・横・高さ25mmの大きさに切り出す。
2)5℃に調温した1)のパウンドケーキを冷蔵庫から素早く取り出し、レオメーター
を使用して、測定速度5mm/秒の条件にて、硬さを測定する。
【0085】
【0086】
実施例のマーガリンを使用して製造したパウンドケーキは、冷蔵保存で食感が硬くなりにくかった。
一方、比較例のマーガリンを使用して製造したパウンドケーキは、冷蔵保存で食感が硬くなりやすかった。