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特開2022-142940内部残留ひずみを測定する方法およびそのひずみを測定するためのセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142940
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】内部残留ひずみを測定する方法およびそのひずみを測定するためのセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
G01L1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043224
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章宏
(72)【発明者】
【氏名】野澤 千鈴
(57)【要約】
【課題】本発明は、切り出した切削片が変形しても正確な残留ひずみを測定する方法を提供することを目的とする。そしてその測定方法を提供するためのセンサを提供することを第2の目的とする。
【解決手段】 本発明の目的は、樹脂成形品の内部ひずみを測定する方法であって、該成形品の測定部位の表面にひずみゲージを設置後、その上にシート状の軟質材を設置し、さらにその上にひずみゲージを設置後、該両ゲージにブリッジ回路を接続し、該成形品の一部を切削する前後での該ひずみゲージの電気抵抗変化により、該樹脂成形品の内部残留ひずみを測定するひずみ測定方法によって達成された。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の内部ひずみを測定する方法であって、該成形品の測定部位の表面にひずみゲージを設置後、その上にシート状の軟質材を設置し、さらにその上にひずみゲージを設置後、該両ゲージにブリッジ回路を接続し、該成形品の一部を切削する前後での該ひずみゲージの電気抵抗変化により、該樹脂成形品の内部残留ひずみを測定するひずみ測定方法。
【請求項2】
前記樹脂成形品が、インサート成形品である請求項1記載のひずみ測定方法。
【請求項3】
2枚のひずみゲージの間にシート状の軟質材を挟んだ、樹脂成形品の内部残留ひずみ測定センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の内部の残留ひずみを測定する方法およびその残留ひずみを測定するためのセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品内部の残留ひずみを測定する方法としては、樹脂成形品を破壊しながら測定する方法である孔あけ法や表層逐次除去法等、また、樹脂成形品を破壊しない光弾性法等が知られている。
【0003】
孔あけ法は、樹脂成形品における歪量測定部分の周辺に予め歪ゲージを貼り付け、樹脂成形品を厚み方向に穿孔した際の歪量の変化を測定して残留ひずみを測定する方法であり、板状製品もしくは3次元立体形状製品の平面部分の残留ひずみ測定に主に用いられている。
【0004】
特許文献1には、孔あけ法を改良し、樹脂成形品の所定の位置における内部残留応力(残留ひずみ)を孔あけ法により測定した厚み方向の成形収縮由来分と成形品形状由来分とを含む残留応力の結果と、前記樹脂成形品から前記所定の位置の周辺部のみを切り出した切削片を用いて、前記所定の位置における内部残留応力を孔あけ法により測定した厚み方向の成形収縮由来分のみの残留応力の結果とをそれぞれ得た後、その差から成形品形状由来の残留応力を求めることで、厚み方向の成形収縮由来分と成形品形状由来分の残留応力を個別に算出する残留応力算出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-46379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この方法によれば、樹脂成形品の形状や部位あるいはサイズにかかわらず、樹脂成形品の所定の位置で、成形品内部における残留応力について、厚み方向の成形収縮由来分と成形品形状由来分とをそれぞれ算出することができる。このため、それぞれの寄与を考慮した製品設計の変更を施すことにより、成形品の内部残留応力の効果的な低減に繋げることができる。
【0007】
しかしながら、この測定方法では、切り出した切削片が切り出し時に変形し、測定に誤差を生じ、測定が安定しないことがあった。
【0008】
本発明は、切り出した切削片が変形しても正確な残留ひずみを測定する方法を提供することを第1の目的とする。そしてその測定方法を提供するためのセンサを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、下記によって上記目的を達成できることを見出した。
【0010】
1. 樹脂成形品の内部ひずみを測定する方法であって、該成形品の測定部位の表面にひずみゲージを設置後、その上にシート状の軟質材を設置し、さらにその上にひずみゲージを設置後、該両ゲージにブリッジ回路を接続し、該成形品の一部を切削する前後での該ひずみゲージの電気抵抗変化により、該樹脂成形品の内部残留ひずみを測定するひずみ測定方法。
2. 前記樹脂成形品が、インサート成形品である前記1記載の測定方法。
3. 2枚のひずみゲージの間にシート状の軟質材を挟んだ、樹脂成形品の内部残留ひずみ測定センサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、切り出した切削片が変形しても正確な残留ひずみ測定方法を提供することをでき、そしてその測定方法を提供するためのセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の樹脂成形品のモデルを示す図である。
図2】本発明の樹脂成形品が有するひずみのモデルを示す図である。
図3】a:一般的な樹脂成形品のひずみ測定方法を示す概略図である。b:2ゲージ法を想定した樹脂成形品のひずみ測定方法を示す概略図である。
図4】本発明のひずみセンサを示す図である。
図5】本発明のひずみセンサの写真である。
図6】本発明の樹脂成形品のモデル形状1を示す概略図である。
図7】本発明の樹脂成形品のモデル形状2を示す概略図である。
図8】本発明の測定方法と既存の測定方法との結果を対比したグラフである(モデル形状1)。
図9】本発明の測定方法と既存の測定方法との結果を対比したグラフである(モデル形状2)
図10】本発明の樹脂成形品のリブを削除後に生じるひずみを示す概念図である。
図11】本発明の樹脂成形片、センサの位置、寸法を示す概念図である。
図12】本発明の樹脂成形片の、リブを切削したことで生じた寸法変化、変形変化により軟質シートが変形した場合を示す概念図である。
図13】本発明の樹脂成形片と軟質シートの関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に、拘束された樹脂成形品のモデルを示す。このモデルとして2段の樹脂成形品であり、両端にリブを有するモデル図1(a)を想定する。この樹脂成形品を射出成形で作成すると金型の冷却が理想的であったとしても、2段部分の肉厚や両端のリブ部の肉厚の違いにより結晶化が各部で違ってしまう。また、配向も異なるため、各部で結晶化の違いよる収縮率の違いで内部ひずみを生じている。
【0014】
この図1(a)両端のリブを切削することで樹脂成形品図1(a)の拘束が解放され、図1(c)では図1(a)が変形し、図2(d)および(e)で示すように、寸法変化図2(d)と変形変化図2(e)を合算する形態でのひずみを有することとなる。
【0015】
このような図1(c)のひずみを測定する場合、図3のように1枚のひずみゲージでは寸法変化によるひずみと変形による変化のひずみを合算したひずみのみ得られるため、個別に測定値を得ることが出来ない。一方、板状の成形品のひずみを測定する方法としてブリッジ回路を使用した2ゲージ法や4ゲージ法が知られている。
【0016】
この方法では、図3(b)に示したように板状の樹脂成形品の表と裏の両面にひずみゲージを配置し、前記樹脂成形品の引張(圧縮)や曲げを負荷した場合、曲げひずみのみの測定、または引張(圧縮)ひずみのみを測定するものである。切削前後によるひずみの測定にこの手法を応用することは知られていないが、切削後の寸法変化によるひずみと変形変化によるひずみは測定することができる。
【0017】
この2ゲージ法や4ゲージ法による測定は、樹脂成形品の裏表両面にひずみゲージを配置することができる場合には有効であるが、どちらか片側にひずみゲージを配置できない場合には使用できない。例えば前記樹脂成形表面に凸凹な面があったり、段差によりひずみゲージを貼れなかったり、貼るスペースが無い場合には適用できない。また金属とのインサート成形等による樹脂成形品では、インサート金属に接する面側の樹脂にはあらかじめひずみゲージを貼ることができないことから適用することができない。
【0018】
本発明は、この樹脂成形品の裏表両面にひずみゲージを配置した場合と同じ結果の得られる、新たな測定方法を提案するものである。
【0019】
<樹脂成形品の内部残留ひずみ測定センサ>
本発明のひずみ測定センサは図4に示すように、2枚のひずみゲージの間に、シート状の軟質材(以下、軟質シートともいう)を挟む構造を有することを特徴としている。図5は、その実物の写真である。
【0020】
ひずみゲージは、一般的に使用しているひずみゲージをそのまま使用することができる。2枚のひずみゲージは、同じでも異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
【0021】
2枚のひずみゲージに挟まれる軟質シートは、測定する樹脂よりも弾性率が低いことが重要であり、好ましくは1000MPa以下、更に好ましくは100MPa以下、最も好ましくは50MPa以下の材質が使用できる。
【0022】
軟質シートの材質としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステルエラストマー、シリコン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーやスチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等の合成ゴムが挙げられる。また、高温下の測定で前記材質が溶融などにより使用できない場合は、測定温度で1000MPa以下の弾性率を有した耐熱性の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0023】
軟質シートの面積は、図5のようにひずみゲージよりも大きいものが好ましい。厚みは、樹脂製品肉厚の1/4以下であれば、ひずみ値に影響を与えないため好ましく、作業性を考慮すると50~1000μm程度の厚みを任意に選択することができる。
【0024】
図5のセンサは、ひずみゲージが東京測器社製ひずみゲージ、軟質シートはENEOS NUC社製EEA NUC-6570を0.7mmで製膜したものを使用し作製した。(以下、センサ1という)。
【0025】
<測定原理>
次に測定原理を図10から図13に示す。図10は樹脂成形品のリブを削除し樹脂成形片とした後に生じるひずみを示している。Sa、Sbは収縮による寸法変化によるひずみを仮定しており、Da、Dbは配向違いなどの変形によって生じるひずみを仮定している。この時に生じた寸法変化によるひずみと変形変化によるひずみを合算したひずみ量をそれぞれεa、εbとする。
この時にSa=Sb=S、Da+Db=0と仮定する。これにより合算したひずみεa、εbはそれぞれ下記のように示すことができる。
εa=S+Da 式(1)
εb=S+Db 式(2)
したがってεa、εbが測定値で得られれば寸法変化によるひずみを式(3)により算出することができる。
S=(εa+εb)/2 式(3)
また、変形によって生じるひずみは式(4)により算出することができる。
Da=(εa-εb)/2 式(4)
【0026】
次に図11から図13でセンサ1を用いた場合を考える。
tは樹脂成形片の厚み、t’は軟質シートの厚みを示し、ε0は軟質シートに生じた変形変化によるひずみと寸法変化によるひずみを合算したひずみである。図12は樹脂成形片の、リブを切削したことで生じた寸法変化、変形変化により軟質シートが変形した場合を示したものである。
Da’は軟質シートの樹脂成形片側のひずみ、D0はその反対面側のひずみを示している。図12に示した樹脂成形片の変形により軟質シートも変形し、Da’には引張、D0には圧縮のひずみが生じ、図10と同様にD0=-Da’と表すことができる。
また軟質シートの合算ひずみは図10と同様にそれぞれε0=S+D0、εa=S+Da’と示すことができるため、軟質シートが変形されたことによって生じるひずみは
Da’=-(ε0-εa)/2 (5)
と表すことができる。
【0027】
次に、図13より樹脂成形片と軟質シートの関係を示す。
樹脂成形片と軟質シートの肉厚比t/t’と変形変化比Da/Da’は同じだから
Da=t/t’×Da’ (6)
と表すことができる。
そこで式(6)に式(5)Da’=-(ε0-εa)/2を代入すると
Da=t/t’×-(ε0-εa)/2 (7)
となり、樹脂成形片の変形変化によるひずみを算出することができる。
また、樹脂成形片の寸法変化によるひずみSa=Sは、図10よりεa=S+Da であるから
S=εa-Da=εa+t/t’×(ε0-εa)/2 (8)
と算出することができる。
【0028】
<ひずみの測定方法>
図6に示すモデル形状1、図7に示すモデル形状2について、表1および2に示す形状を有する樹脂成形品を作製し、図1で示すリブ切削前後ひずみについて、既存のひずみ測定方法である輪郭形状測定機を使用した場合とで比較検証した(n=3)。rは段差の曲率半径である。
【0029】
図6、7、表1、2中の数値はmmを表す。ひずみ測定センサは、サンプル形状1では、肉厚の厚い側の中央に配置し、サンプル形状2では、中央に配置した。樹脂としてはポリアセタール樹脂(ジュラコンM90-44、ポリプラスチックス社製)を使用した。センサは、センサ1を使用した。測定雰囲気は、23℃50%RHである。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
結果を図8、9に示す。図8、9中CDCとは、本発明のセンサでの結果であり、SCRが、既存の輪郭形状曲率半径から算出したひずみ値(図3に示す測定値と同等)を示す。図8、9中、流動とはX-X‘方向、直角とはY-Y’方向を意味する。
【0033】
図8、9から判るように本発明のセンサ1を使用した測定方法では、片面だけを測定するにもかかわらず、既存の両面ひずみゲージによる測定と同じ結果を得ることができることが判る。
【0034】
本発明の測定方法は、両面にひずみゲージを貼りつけることのできない金属インサート樹脂成形品等のひずみ測定に適用することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13