(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142943
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】機能性ペーストの評価方法、及び機能性ペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 13/00 20130101AFI20220926BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220926BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220926BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220926BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220926BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220926BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220926BHJP
【FI】
H01G13/00 361Z
B22F1/00 M
B22F1/00 K
B22F1/00 L
H01B13/00 Z
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
C09D5/24
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043228
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】服部 孝博
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
【テーマコード(参考)】
4J038
4K018
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4J038BA021
4J038CE071
4J038HA066
4J038HA216
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA20
4J038PA19
4J038PB09
4K018AB01
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA08
4K018BB04
4K018BC13
4K018BD04
4K018CA33
4K018CA44
4K018FA08
4K018KA33
5E001AB03
5E001AC09
5E001AC10
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE23
5E082EE27
5E082MM31
(57)【要約】
【課題】塗膜に含まれる複数種の無機粉末の分散性を精度よく評価できる機能性ペーストの評価方法、及びこの評価方法を用いた機能性ペーストの製造方法を提供すること。
【解決手段】複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を少なくとも含む機能性ペーストの評価方法であって、以下の工程;前記機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする工程と、前記塗膜を加工して塗膜断面を露出させる工程と、前記塗膜断面を顕微鏡で観察して顕微鏡像を得る工程と、前記顕微鏡像に基づき、塗膜断面における無機粉末の分散性を評価する工程と、を有し、前記無機粉末の分散性を評価する際に、a)前記顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに無機粉末を構成する各粒子の位置を決定し、b)決定した粒子位置に基づき前記顕微鏡像にボロノイ分割処理を施して各粒子の区画を定め、c)定めた区画の面積を求め、d)求めた区画の面積の変動係数(CV値)を算出する、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を少なくとも含む機能性ペーストの評価方法であって、以下の工程;
前記機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする工程と、
前記塗膜を加工して塗膜断面を露出させる工程と、
前記塗膜断面を顕微鏡で観察して顕微鏡像を得る工程と、
前記顕微鏡像に基づき、塗膜断面における無機粉末の分散性を評価する工程と、を有し、
前記無機粉末の分散性を評価する際に、a)前記顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに無機粉末を構成する各粒子の位置を決定し、b)決定した粒子位置に基づき前記顕微鏡像にボロノイ分割処理を施して各粒子の区画を定め、c)定めた区画の面積を求め、d)求めた区画の面積の変動係数(CV値)を算出する、方法。
【請求項2】
前記無機粉末が、導電性粉末及びセラミック粉末を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導電性粉末が、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、及び銅(Cu)からなる群から選ばれる1種以上の金属を含み、セラミック粉末がチタン酸バリウム(BaTiO3)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記機能性ペーストは、無機粉末の総含有量が5体積%以上40体積%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
機能性ペーストの製造方法であって、以下の工程;
複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を混合及び混錬して、機能性ペーストを作製する工程と、
前記機能性ペーストを評価する工程と、を備え、
前記機能性ペーストを評価する際に、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法で評価する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ペーストの評価方法、及び機能性ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話及びデジタル機器などの電子機器の小型化及び高性能化に伴い、電子部品等の部品の小型化及び高特性化が求められている。このような部品の多くは、電極層(導電層)、電気抵抗層、誘電体層、磁性層、光散乱層、熱伝導層及び/又は熱遮蔽層などの機能層を備えている。この機能層は、機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜とし、これを焼成して作製される。機能性ペーストは、無機粉末、バインダー樹脂、有機溶剤及び必要に応じて添加剤を含み、これらの成分を混合及び混練して作製される。
【0003】
例えば積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、機能性ペーストである導電性ペーストを用いてその内部電極層が形成される。具体的には、無機粉末たる導電性粉末及び共材を、バインダー樹脂及び有機溶剤などと共に混合及び混練して導電性ペーストを作製する。導電性粉末や共材として、無機粉末たるニッケル粉末やセラミック粉末がそれぞれ用いられる。この導電性ペーストを、チタン酸バリウム(BaTiO3)等のセラミック粉末から作製した誘電体グリーンシートの表面にパターン印刷して印刷済み誘電体グリーンシートとする。複数の印刷済み誘電体グリーンシートを積層及び圧着後に個片に切断し、得られた個片に脱バインダー処理及び焼成処理を施して焼成チップを作製する。最後に焼成チップの両端部に外部電極を設けて、積層セラミックコンデンサとする。
【0004】
機能性ペーストに含まれる無機粉末には、塗膜中で適切な分散性を有していることが要求される。塗膜中での分散性が悪いと、焼結工程で緻密な機能層を得ることが困難になり、機能層及び電子部品の特性劣化につながる。したがって無機粉末の分散性を評価することが従来から提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、誘電体層を形成するための誘電体原料の分散性をEPMAによる元素分析手法を用いて評価する方法が開示されている。具体的には、二種類以上の無機粉末と液体の混合物を加圧混合する第1の工程と、混合後の分散性を評価する第2の工程とを備えるセラミック電子部品の製法方法に関して、EPMAを用いて分散性を評価する試料中の元素分布を評価することが記載されている(特許文献2の請求項1及び[0028])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように機能性ペースト中に含まれる粉末の分散性を評価することが提案されるものの、従来の技術には改良の余地があった。すなわち、特許文献1は、無機粉末と液体の混合物(スラリー)の分散性を、EPMAを用いて評価することを提案するものの、乾燥塗膜中の粉末の分散性を評価していない。塗膜中粉末の分散性は、スラリー中の分散性とは異なっており、特許文献1の手法では分散性を正確に評価することはできない。
【0008】
また特許文献1では、EPMAを用いて評価するとの漠然として記載に留まっており、分散性を定量的に評価する具体的手法に関する記載は無い。分散性の僅かな差が機能層の特性に大きな影響を及ぼすことがあり、無機粉末の分散性を定量的に評価できなければ、分散性の影響を正しく評価することはできない。
【0009】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、複数種類の無機粉末を含む機能性ペーストから所定の手法で塗膜を作製し、この塗膜断面を顕微鏡で観察し、評価対象の粒子の位置をマーキングし、ボロノイ分割して得た区間の面積値を統計的に解析する手法で、塗膜中無機粉末の分散性を精度よく評価できるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、塗膜に含まれる複数種の無機粉末の分散性を精度よく評価できる機能性ペーストの評価方法、及びこの評価方法を用いた機能性ペーストの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(1)~(5)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。
【0012】
(1)複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を少なくとも含む機能性ペーストの評価方法であって、以下の工程;
前記機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする工程と、
前記塗膜を加工して塗膜断面を露出させる工程と、
前記塗膜断面を顕微鏡で観察して顕微鏡像を得る工程と、
前記顕微鏡像に基づき、塗膜断面における無機粉末の分散性を評価する工程と、を有し、
前記無機粉末の分散性を評価する際に、a)前記顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに無機粉末を構成する各粒子の位置を決定し、b)決定した粒子位置に基づき前記顕微鏡像にボロノイ分割処理を施して各粒子の区画を定め、c)定めた区画の面積を求め、d)求めた区画の面積の変動係数(CV値)を算出する、方法。
【0013】
(2)前記無機粉末が、導電性粉末及びセラミック粉末を含む、上記(1)の方法。
【0014】
(3)前記導電性粉末が、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、及び銅(Cu)からなる群から選ばれる1種以上の金属を含み、セラミック粉末がチタン酸バリウム(BaTiO3)を含む、上記(2)の方法。
【0015】
(4)前記機能性ペーストは、無機粉末の含有量が5体積%以上15体積%以下である、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
【0016】
(5)機能性ペーストの製造方法であって、以下の工程;
複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を混合及び混錬して、機能性ペーストを作製する工程と、
前記機能性ペーストを評価する工程と、を備え、
前記機能性ペーストを評価する際に、上記(1)~(4)のいずれかの方法で評価する、製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塗膜に含まれる複数種の無機粉末の分散性を精度よく評価できる機能性ペーストの評価方法、及びこの評価方法を用いた機能性ペーストの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】導電性粉末について得られたSEM像(マーキング付き)、マーキング抽出図、及びボロノイ分割図を示す。
【
図2】セラミック粉末について得られたSEM像(マーキング付き)、マーキング抽出図、及びボロノイ分割図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0020】
<<1.機能性ペーストの評価方法>>
本実施形態の評価方法では、複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を少なくとも含む機能性ペーストを評価する。この評価方法は、以下の工程;機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする工程(塗膜化工程)と、得られた塗膜を加工して塗膜断面を露出させる工程(加工工程)と、露出した塗膜断面を顕微鏡で観察して顕微鏡像を得る工程(観察工程)と、得られた顕微鏡像に基づき、塗膜断面における無機粉末の分散性を評価する工程(評価工程)と、を有する。また無機粉末の分散性を評価する際に、a)顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに無機粉末を構成する各粒子の位置を決定し、b)決定した粒子位置に基づき顕微鏡像にボロノイ分割処理を施して各粒子の区画を定め、c)定めた区画の面積を求め、d)求めた区画の面積の変動係数(CV値)を算出する。
【0021】
<機能性ペースト>
‐無機粉末‐
機能性ペーストは複数種の無機粉末を含む。ここで無機粉末は、機能性ペーストを塗布、乾燥及び焼成して作製される機能層の主成分または添加成分となる粉末である。具体的には、無機粉末は、金属粉末、セラミック粉末及びガラス粉末からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0022】
無機粉末の組成は特に限定されず、機能層の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば機能層が電極層(導電層)である場合には、金属粉末等の導電性粉末が挙げられる。機能層が電気抵抗層である場合には、酸化ルテニウム(RuO2)粉末等の絶縁性粉末が挙げられる。機能層が誘電体層である場合には、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の誘電体粉末が挙げられる。機能層が磁性層である場合には、フェライト粉末等の磁性粉末が挙げられる。機能層が光散乱層である場合には、アルミニウム(Al)粉末及び銀(Ag)粉末等の高散乱性粉末が挙げられる。機能層が熱伝導層である場合には、銅(Cu)粉末、銀(Ag)粉末及び窒化アルミニウム(AlN)粉末等の高熱伝導性粉末が挙げられる。
【0023】
無機粉末は、機能発現を補助する添加成分であってもよい。例えば、共材や焼結助剤が挙げられる。あるいは、成分や特性を制御するために加えられる添加剤であってもよい。このような添加成分として、限定されるものではないが、セラミック粉末やガラス粉末が挙げられる。
【0024】
複数種の無機粉末がペーストに含まれる限り、無機粉末の組み合わせは限定されない。2種類の無機粉末であってよく、あるいは3種類以上の無機粉末であってもよい。無機粉末として、組成の異なる複数種の金属粉末の組み合わせであってよい。あるいは金属粉末とセラミック粉末の組み合わせであってもよい。組み合わせは、機能層の用途に応じて選択すればよい。
【0025】
好ましくは、無機粉末は導電性粉末及びセラミック粉末を含む。導電性粉末とセラミック粉末の組み合わせは、導電性ペースト、特に積層セラミックコンデンサの内部電極形成用ペーストとして好適である。導電性粉末が内部電極の主成分となり、セラミック粉末が共材として働く。
【0026】
導電性粉末として、公知のものを用いればよい。例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、及び/又はこれらの金属を含む合金の粉末が挙げられる。この中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、ニッケル(Ni)又はその合金の粉末が好ましい。ニッケル(Ni)合金として、例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とニッケル(Ni)との合金が挙げられる。
【0027】
セラミック粉末として公知のものを用いればよい。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、及び/又はこれらの固溶体などのペロブスカイト型複合酸化物が挙げられる。ペロブスカイト型複合酸化物は、積層セラミックコンデンサの誘電体層の主成分である。そのため、導電性ペーストにペロブスカイト型複合酸化物からなるセラミック成分を加えると、これは共材として働く。共材を加えることで、焼成時の内部電極層(導電層)の収縮挙動を制御でき、クラック等の欠陥の発生を抑制することができる。
【0028】
セラミック粉末は、ペロブスカイト型複合酸化物以外の組成を有してもよい。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)などの酸化物や水酸化物などが挙げられる。機能層の機能発現のために加えられる成分であれば、特に限定されない。
【0029】
導電性粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。導電性粉末の平均粒径がこの範囲内であると、薄膜化した積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストとして好適に用いることができる。例えば、乾燥膜の平滑性及び乾燥膜密度が向上する。セラミック粉末の平均粒径は、一般的には導電性粉末よりは小さいが、これに限定される訳ではない。なお平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、粒度分布における積算値50%の粒径をいう。
【0030】
‐バインダー樹脂‐
機能性ペーストはバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂として、特に限定されず。公知の樹脂を用いることができる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂が挙げられる。この中でも、有機溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などからエチルセルロースが好ましい。また内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点から、ブチラール樹脂を用いてもよい。バインダー樹脂は、1種類のみを用いてもよく、あるいは2種類以上を併用して用いてもよい。
【0031】
‐有機溶剤‐
機能性ペーストは有機溶剤を含む。有機溶剤として、特に限定されず、上述したバインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。例えば、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メトキシー3-メチルブチルアセテート、1-メトキシプロピル-2-アセテートなどのアセテート系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタン、イソホロンなどのケトン系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどのテルペン系溶剤、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンなどの脂肪族系炭化水素溶剤、エチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種類のみを用いてもよく、あるいは2種類以上を併用して用いてもよい。
【0032】
‐ペースト化‐
機能性ペーストは、複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を混合及び混錬して作製する。混合及び混錬は、公知の手法で行えばよい。例えば、3本ロールミル、高圧乳化装置、ボールミル、ビーズミルなどの装置を用いて行えばよい。また必要に応じて、無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤以外の他の成分をペーストに加えてもよい。このような成分として、消泡剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤が挙げられる。分散剤として、酸系分散剤、塩基系分散剤、非イオン系分散剤、両性分散剤などが挙げられる。
【0033】
機能性ペーストは、無機粉末の総含有量が、好ましくは5体積%以上40体積%以下、より好ましくは10体積%以上20体積%以下、さらに好ましくは15体積%以上20体積%以下である。含有量が過度に少ないと、作製した塗膜を脱バインダー処理する際に、多量の熱エネルギーを加える必要があるとともに、緻密な機能層を十分な厚さで得ることが困難になる。また含有量が過度に多いと、無機粉末を均一に分散させることが困難になる。
【0034】
<塗膜化工程>
塗膜化工程では、機能性ペーストを基材上に塗布及び乾燥して塗膜にする。基材として、その上にペーストを塗布でき、乾燥工程での加熱に耐えうるものであれば、特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの支持フィルムが挙げられる。
【0035】
塗布は公知の手法で行えばよい。例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷といった印刷法が挙げられる。ドクターブレードやアプリケータを用いた手法で塗布してもよい。また乾燥も公知の手法で行えばよく、その条件は使用される有機溶剤の種類に応じて設定すればよい。例えば100~150℃の温度で5分間~2時間の乾燥を行うことが挙げられる。さらに塗膜の厚さは、その断面を後続する観察評価工程で観察できる限り限定されない。例えば厚さは1~100μmであってよく、10~50μmであってもよい。
【0036】
<加工工程>
加工工程では、塗膜を加工して塗膜断面を露出させる。塗膜断面を露出させることで、後続する観察工程で塗膜内部の無機粉末の分散状態を観察できるとともに、厚さ方向の状態変化を知ることができる。加工手法は、後続する工程での顕微鏡観察に支障がない限り、特に限定されない。例えば、クロスセクションポリシャー、収束イオンビーム(FIB)、ミクロトームを用いることができる。
【0037】
<観察工程>
観察工程では、塗膜断面を顕微鏡で観察して顕微鏡像を得る。観察は、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて行えばよい。電子顕微鏡で観察する場合には、予め塗膜断面に導電性物質をコーティングし、帯電防止処理を施してもよい。また観察時の倍率は、無機粉末に含まれる粒子の径に応じて設定すればよい。倍率は、例えば1万倍~10万倍である。
【0038】
<評価工程>
評価工程では、得られた顕微鏡像に基づき、塗膜断面における無機粉末の分散性を評価する。具体的には、a)顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに無機粉末を構成する各粒子の位置を決定し、b)決定した粒子位置に基づき顕微鏡像にボロノイ分割処理を施して各粒子の区画を定め、c)定めた区画の面積を求め、d)求めた区画の面積の変動係数(CV値)を算出する。
【0039】
a)粒子位置の決定
まず顕微鏡像において、無機粉末の種類ごとに粉末を構成する各粒子の位置を決定(マーキング)する。例えば、無機粉末が、種類の異なる粉末Aと粉末Bとを含む場合には、粉末Aを構成する複数の粒子のそれぞれの位置を決定し、これとは別に、粉末Bを構成する複数の粒子のそれぞれの位置を決定する。位置決定(マーキング)手段は限定されない、手動で行ってもよく、あるいは自動で行ってもよい。例えば、顕微鏡像を画像解析ソフトウェアに取り込み、粒子の位置を自動で決定してもよい。あるいは顕微鏡像の粒子の位置に手動で印をつけてもよい。
【0040】
b)ボロノイ分割処理
次いで、無機粉末の種類ごとに、決定した粒子位置に基づき顕微鏡像にボロノイ分割処理を施し、これにより各粒子の区画を定める。ここでボロノイ分割は、平面上に複数の点が存在する場合に各点の勢力範囲を決める手段の一つである。ボロノイ分割では、隣接する2点間を結ぶ直線に垂直二等分線を引き、各点の最近接領域を分割する。分割により得られる図をボロノイ図とよぶ。また分割により得られる各点の最近接領域を区画と呼ぶ。各点はそれぞれの区画を有している。換言するに、各区画には一点のみが含まれる。したがって、点が密に分布している場合には各区画面積は小さくなり、点が疎に分布している場合には各区画面積は大きくなる。
【0041】
本実施形態では、無機粉末の種類ごとにボロノイ分割する。例えば、無機粉末が粉末Aと粉末Bとを含む場合には、粉末Aを構成する粒子についてボロノイ分割処理を行って各粒子の区画を定め、これとは別に、粉末Bを構成する粒子についてボロノイ分割処理を行って各粒子の区画を定める。したがって粉末Aと粉末Bのそれぞれについてボロノイ図を得る。これにより、粉末Aと粉末Bのそれぞれについて、粉末に含まれる粒子の分布状態を調べることができる。
【0042】
ボロノイ分割の手段は限定されない。自動で行ってもよく、あるいは手動で行ってもよい。しかしながら画像解析ソフトウェアを用いてコンピュータ上で行うことが簡易で好ましい。
【0043】
c)区画面積の算出
次いで、無機粉末の種類ごとに、粉末を構成する各粒子のそれぞれの区画の面積(区画面積)を求める。例えば、無機粉末が粉末Aと粉末Bとを含む場合には、粉末Aを構成する粒子について各粒子の区画面積を求める、これとは別に、粉末Bを構成する粒子について各粒子の区画面積を求める。区画面積を求める手段は限定されない。しなしながら画像解析ソフトウェアを用いてコンピュータ上で行うことが簡易で好ましい。
【0044】
d)変動係数の算出
次いで、無機粉末の種類ごとに、求めた区画面積の変動係数(CV値)を算出する。例えば、無機粉末が粉末Aと粉末Bとを含む場合には、粉末Aを構成する粒子について区間面積の変動係数を算出し、これとは別に、粉末Bを構成する粒子について区間面積の変動係数を算出する。変動係数を算出する手段は限定されない。自動で行ってもよく、あるいは手動で行ってもよい。
【0045】
区間面積の変動係数(CV)は、下記(1)~(3)式に示されるように、区間面積の標準偏差(s)を区間面積の平均値(Sm)で除することにより求めることができる。なお下記(1)~(3)式において、Nは区間面積の総数であり、Siはi番目(i=1、2・・・N)の区間の面積である。
【0046】
【0047】
このように、区間面積の変動係数(CV値)を算出することで、無機粉末の種類ごとに分散性を定量的に評価することが可能となる。すなわち粉末中の粒子が均一に分布している場合にはCV値は小さくなる。一方で粒子が不均一に分布している場合にはCV値は大きくなる。CV値を用いることで、ペーストに含まれる無機粉末を構成する粒子の分散状態を塗膜状態で定量的且つ正確に評価することができる。
【0048】
<<2.機能性ペーストの製造方法>>
本実施形態の機能性ペーストの製造方法は、以下の工程;複数種の無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を混合及び混錬して、機能性ペーストを作製する工程(ペースト作製工程)と、この機能性ペーストを評価する工程(ペースト評価工程)と、を備える。また機能性ペーストを評価する際に、上述した方法で評価する。
【0049】
機能性ペーストの作製、及び評価の手法については、上述したとおりである。さらにペースト評価工程の後に、得られた評価結果に基づきペーストを再調整する工程を設けてもよい。すなわち無機粉末の分散性が劣ると評価され場合には、ペースト組成を変更したり、あるいはペーストに追加の混錬処理を施したりしてもよい。
【0050】
本実施形態の機能性ペーストの製造方法では、ペーストに含まれる無機粉末を構成する粒子の分散状態を塗膜状態で定量的且つ正確に評価することができる。したがって分散性に優れたペーストを製造する上で有効である。
【実施例0051】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(1)機能性ペーストの作製及び評価
[実施例1]
実施例1では、バインダー樹脂として、セルロース系樹脂であるエチルセルロース(EC)と、アセタール系樹脂であるポリビニルブチラール(PVB)と、を用いて機能性ペーストを作製し、その評価を行った。
【0053】
<機能性ペーストの準備>
無機粉末、バインダー樹脂、及び有機溶剤を準備した。無機粉末として、導電性粉末(Ni粉末)と、この導電性粉末より平均粒子径が小さいセラミック粉末(BaTiO3粉末)と、を準備した。バインダー樹脂として、エチルセルロース(EC;日新化成株式会社、ETHOCEL STD300)、及びポリビニルブチラール(PVB;積水化学工業株式会社、BM-SZ)を用い、また有機溶剤としてターピネオール(TPO)を用いた。さらに公知の添加剤を準備した。
【0054】
次いで、導電性粉末とセラミック粉末の合計が18体積%、エチルセルロース(EC)が5体積%、ポリビニルブチラールが3体積%、ターピネオール(TPO)が74体積%、残部が添加剤となるように秤量し、これらを3本ロールミルで混合及び混練を行った。混合では、ロール圧14barの条件で2分間の処理を行った。混練では、ロール圧8barの条件で1回、14barの条件で1回、及び18barの条件で6回の処理を順次行った。得られた混合物を、公知の溶剤を用いて希釈して、希釈後の無機粉末量が11体積%となるように調整した。これにより機能性ペーストを作製した。
【0055】
<塗膜化工程>
得られた機能性ペーストを、アプリケータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布した。塗布後膜厚(wet膜厚)は254μmであった。塗布した機能性ペーストを熱対流オーブンで乾燥して、塗膜を作製した。乾燥は120℃で40分間保持する条件で行った。
【0056】
<加工工程>
PETフィルム上の乾燥塗膜を5mm角に切り出し、塗膜面をエポキシ樹脂で覆い補強した後、クロスセクションポリッシャー(Hitachi社、E-3500)を用いて切削した、これにより塗膜の平滑な断面を露出させた。
【0057】
<観察工程>
露出させた塗膜断面に対して、導電性金属をコーティングし、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社、S-4800)を用いて観察した。観察は、倍率5万倍、WD2.0mm、及び加速電圧5.0kVの条件で行った。そして、プレゼーテーション用ソフトウェア(マイクロソフト社、マイクロソフトパワーポイント)に走査型電子顕微鏡像(SEM像)を取り込んだ。
【0058】
<解析評価工程>
次いで、得られたSEM像において、評価対象たる導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれについて、粉末に含まれる粒子に円形の画像を貼り付けて、マーキングを行った。これにより導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれについてマーキング図を得た。マーキング図からマーキングの位置のみを抽出して、マーキング抽出図を作製した。
【0059】
導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれについて得られたマーキング抽出図に対してボロノイ分割処理理を行って、ボロノイ分割図を得た。次いで、ボロノイ分割図を画像解析して、それぞれの粉末に含まれる各粒子の区間面積を求め、区間面積データを得た。ボロノイ分割処理及び区間面積の解析は、抽出図を画像解析ソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所(NIH)、IMAGE J)に取り込み、このソフトウェアを用いて行った。また区間面積を解析する際、正確な区画面積値を得るために、SEM画像端にかかる区間は解析から除外した。
【0060】
導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれについて得られた区間面積データを表計算ソフトウェア(マイクロソフト社、マイクロソフトエクセル)に入力して区画面積値の標準偏差(s)及び平均値(Sm)を求め、これらの値から区間面積値の変動係数(CV値)を算出した。具体的には、下記(1)~(3)式にしたがってCV値を算出した。なお下記(1)~(3)式において、Nは、導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれの区間面積の総数であり、Siは、導電性粉末及びセラミック粉末のそれぞれについてのi番目(i=1、2・・・N)の区間の面積である。
【0061】
【0062】
(2)評価結果
実施例1の導電性粉末について得られたSEM像(マーキング付き)、マーキング抽出図、及びボロノイ分割図を
図1(a)~(c)のそれぞれに示す。また実施例1のセラミック粉末について得られたSEM像(マーキング付き)、マーキング抽出図、及びボロノイ分割図を
図2(a)~(c)のそれぞれに示す。さらに実施例1の導電性粉末とセラミック粉末のそれぞれの区間面積の数(N)、標準偏差、平均値、及び変動係数(CV値)を表1にまとめて示す。
【0063】
バインダー樹脂としてECとPVBの混合物を用いた場合には、導電性粉末及びセラミック粉末のCV値は、それぞれ32%及び81%であった。CV値の低いほうが、無機粉末は均一に分散していることを示す。塗膜断面のSEM画像の印象では、無機粉末の分散性の善し悪しが判断しにくい場合でも、本実施形態のようにCV値を用いることで、分散性をはっきりと判断することができる。
【0064】