IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2022-143020重合体およびポリカーボネート樹脂組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143020
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】重合体およびポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/26 20060101AFI20220926BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08F220/26
C08L69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043338
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】青木 豊
(72)【発明者】
【氏名】新納 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮井 章吾
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002CG012
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AL03P
4J100AL08P
4J100BA22P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA28
4J100DA36
4J100DA62
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA21
4J100GC35
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合した場合でもポリカーボネート樹脂組成物の流動性に優れ、かつ光学特性および耐熱性の低下を抑制できる重合体、および前記重合体を用いたポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂組成物において、式(1)で表される化合物(ただし式(1)中、Rは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。)に由来する構成単位(a1)、およびメチルメタクリレートに由来する構成単位(a2)を有し、数平均分子量が5000~30000である重合体を配合する。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位(a1)、およびメチルメタクリレートに由来する構成単位(a2)を有し、数平均分子量が5000~30000である、重合体。
【化1】
(前記式(1)中、Rは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。)
【請求項2】
全構成単位の合計に対する前記構成単位(a1)の割合が、3~35質量%である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
全構成単位の合計に対する前記構成単位(a1)の割合が、3~25質量%である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
数平均分子量が7000~20000である、請求項1~3のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項5】
バイオマス由来のポリカーボネート樹脂への配合用の重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項6】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b1)、および前記下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b2)を有するポリカーボネート樹脂への配合用の重合体である、請求項5に記載の重合体。
【化2】
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の重合体、およびポリカーボネート樹脂を含み、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b1)、および前記下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b2)を有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂の全構成単位の合計に対する前記構成単位(b1)の割合が、40~90質量%である、請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体と前記ポリカーボネート樹脂の合計に対する前記重合体の割合が、10~40質量%である、請求項7または8に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体およびポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素循環社会の構築に向け、バイオマス由来樹脂の開発が活発になっており、電気機器、電子機器、OA機器等の部材や自動車部材、建築部材などの用途への展開が進んでいる。これら用途に展開するためには、高発色性を発現させる高光学特性(高透明性)、使用環境温度によって変形しない高耐熱性、および複雑な形状にも加工が容易な高流動性が求められる。そのため、バイオマス由来樹脂と他の樹脂材料を複合化することで、これら用途に求められる要求性能を満たそうとする検討も併せて進んでいる。
【0003】
例えば特許文献1には、バイオマス由来の樹脂(A)と、樹脂(A)と相溶しない樹脂(B)と、可塑剤(C)とを含有し、樹脂(B)の含有質量よりも樹脂(A)の含有質量の方が多く、樹脂(B)のガラス転移温度よりも樹脂(A)のガラス転移温度が高い樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-37608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂組成物においては、バイオマス由来の樹脂(A)と樹脂(B)が相溶しないため、光学特性および耐熱性が不十分であった。
【0006】
本発明は、バイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合した場合でもポリカーボネート樹脂組成物の流動性に優れ、かつ光学特性および耐熱性の低下を抑制できる重合体、および前記重合体を用いたポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位(a1)、およびメチルメタクリレートに由来する構成単位(a2)を有し、数平均分子量が5000~30000である、重合体。
【0008】
【化1】
【0009】
(前記式(1)中、Rは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。)
[2]全構成単位の合計に対する前記構成単位(a1)の割合が、3~35質量%である、[1]に記載の重合体。
[3]全構成単位の合計に対する前記構成単位(a1)の割合が、3~25質量%である、[1]または[2]に記載の重合体。
[4]数平均分子量が7000~20000である、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
[5]バイオマス由来のポリカーボネート樹脂への配合用の重合体である、[1]~[4]のいずれかに記載の重合体。
[6]下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b1)、および前記下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b2)を有するポリカーボネート樹脂への配合用の重合体である、[5]に記載の重合体。
【0010】
【化2】
【0011】
[7][1]~[4]のいずれかに記載の重合体、およびポリカーボネート樹脂を含み、前記ポリカーボネート樹脂が、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b1)、および前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b2)を有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
[8]前記ポリカーボネート樹脂の全構成単位の合計に対する前記構成単位(b1)の割合が、40~90質量%である、[7]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]前記重合体と前記ポリカーボネート樹脂の合計に対する前記重合体の割合が、10~40質量%である、[7]または[8]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合した場合でもポリカーボネート樹脂組成物の流動性に優れ、かつ光学特性および耐熱性の低下を抑制できる重合体、および前記重合体を用いたポリカーボネート樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[用語の説明]
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「構成単位」とは、単量体に由来する構成単位、すなわち単量体が重合することによって形成された構成単位、または重合体を処理することによって構成単位の一部が別の構造に変換された構成単位を意味する。
「数平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィによって測定される、ポリメチルメタクリレート換算の数平均分子量である。
【0014】
[重合体]
本発明に係る重合体は、下記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)に由来する構成単位(a1)およびメチルメタクリレートに由来する構成単位(a2)を有する重合体(以下、「重合体(A)」ともいう。)である。重合体(A)は、必要に応じてその他の単量体に由来する構成単位(a3)を有してもよい。
【0015】
【化3】
【0016】
ただし、前記式(1)中、Rは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。
【0017】
重合体(A)の数平均分子量は5000~30000である。重合体(A)の数平均分子量が5000以上であることにより、バイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合した際に、耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。重合体(A)の数平均分子量が30000以下であることにより、流動性および光学特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。重合体(A)の数平均分子量の下限は、7000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。重合体(A)の数平均分子量の上限は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることがより好ましい。
【0018】
重合体(A)は、バイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合することで、上述の通り流動性、光学特性および耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。バイオマス由来のポリカーボネート樹脂としては、重合体(A)との相溶性が良好である観点から、後述するポリカーボネート樹脂(B)であることが好ましい。
【0019】
(構成単位(a1))
構成単位(a1)は、化合物(1)に由来する構成単位である。重合体(A)が構成単位(a1)を有することで、重合体(A)とバイオマス由来のポリカーボネート樹脂との相溶性が良好となる。これにより、重合体(A)をバイオマス由来のポリカーボネート樹脂に配合することで、光学特性および耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。なお構成単位(a1)としては1種のみでもよく、2種以上が存在してもよい。
【0020】
構成単位(a1)としては、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性の観点から、好ましくは式(1)においてRが炭素原子数1のアルキル基である化合物、より好ましくはメタクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルに由来する構成単位であることが好ましい。
【0021】
重合体(A)の全構成単位の合計に対する構成単位(a1)の割合は、3~35質量%であることが好ましい。構成単位(a1)の割合が3質量%以上であることにより、光学特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られやすくなる。構成単位(a1)の割合が35質量%以下であることにより、流動性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られやすくなる。構成単位(a1)の割合は3~30質量%であることがより好ましく、3~25質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
(構成単位(a2))
構成単位(a2)はメチルメタクリレートに由来する構成単位である。重合体(A)が構成単位(a2)を有することにより、ポリカーボネート樹脂に配合した際に、流動性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
重合体(A)の全構成単位の合計に対する構成単位(a2)の割合は、55~95質量%であることが好ましい。構成単位(a2)の割合が55質量%以上であることにより、流動性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られやすくなる。構成単位(a2)の割合が95質量%以下であることにより、光学特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られやすくなる。構成単位(a2)の割合の下限は、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。構成単位(a2)の割合の上限は、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
(構成単位(a3))
構成単位(a3)は、化合物(1)およびメチルメタクリレート以外のその他の単量体に由来する構成単位である。なお構成単位(a3)としては1種のみでもよく、2種以上が存在してもよい。
【0025】
その他の単量体としては、例えば、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等の、メチルメタクリレート以外のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、フェニルアクリレート、1-ナフチルアクリレート、2-ナフチルアクリレート、p-ジフェニルアクリレート、o-ジフェニルアクリレート、o-クロロフェニルアクリレート、4-メトキシフェニルアクリレート、4-クロロフェニルアクリレート、2,4,6-トリクロロフェニルアクリレート、4-tert-ブチルフェニルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸系ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド系単量体が挙げられる。
【0026】
その他の単量体は、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、1,3-ブチレンジメタクリレート等の架橋剤であってもよい。
その他の単量体としては、重合体(A)を容易に製造できる観点から、メタクリレート、アクリレート、シアン化ビニル単量体であることが好ましく、重合体(A)の熱分解を抑制できる観点から、アクリレートであることがより好ましい。
【0027】
重合体(A)の全構成単位の合計に対する構成単位(a3)の含有量は、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性の観点から、10質量%以下あることが好ましい。
【0028】
重合体(A)は、化合物(1)、メチルメタクリレート、および必要に応じてその他の単量体を重合することで製造することができる。重合方法としては、公知の懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0029】
懸濁重合法により重合体(A)を製造する場合、分散剤を使用することが好ましい。これにより、重合中における重合体(A)の溶媒中での分散安定性が向上する。分散剤としては、界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、およびイオン性基を有するメタクリレート系重合体等を用いることができる。イオン性基を有するメタクリレート系重合体としては、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸スルホン酸ナトリウム、およびメタクリリル酸エチルスルホン酸ナトリウム等に由来する構成単位を含む重合体を例示できる。分散剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、重合体(A)およびポリカーボネート樹脂(B)を含む。ポリカーボネート樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂(B)と相溶性が良好な重合体(A)を含むことにより、光学特性および耐熱性が良好となる。ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて重合体(A)およびポリカーボネート樹脂(B)以外のその他の成分を含んでもよい。
本発明に係る樹脂組成物は、用途に応じて所望の形状に成形して成形体としてもよい。成形方法としては、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の公知の方法を用いることができる。
【0031】
重合体(A)とポリカーボネート樹脂(B)の合計に対する重合体(A)の割合は、1~40質量%であることが好ましい。重合体(A)が1質量%以上であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の光学特性が良好となる。重合体(A)が40質量%以下であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が良好となる。重合体(A)の割合の下限は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。重合体(A)の上限は、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、重合体(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、および必要に応じてその他の成分を溶融混練することによって製造することができる。溶融混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダーロール、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機が挙げられる。
【0033】
(ポリカーボネート樹脂(B))
ポリカーボネート樹脂(B)は、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(2)」ともいう。)に由来する構成単位(b1)、およびジヒドロキシ化合物(2)以外のジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(3)」ともいう。)に由来する構成単位(b2)を有する。
【0034】
【化4】
【0035】
<構成単位(b1)>
構成単位(b1)は、ジヒドロキシ化合物(2)に由来する構成単位である。
ジヒドロキシ化合物(2)としては、例えばバイオマス由来であるイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂組成物の光学特性に優れる観点からイソソルビドが好ましい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(B)の全構成単位の合計に対する構成単位(b1)の割合は、40~90質量%であることが好ましい。構成単位(b1)が40質量%以上であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性が良好となる。構成単位(b1)が90質量%以下であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が良好となる。構成単位(b1)の割合の下限は、45質量%以上であることがより好ましい。また、構成単位(b1)の上限は、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<構成単位(b2)>
構成単位(b2)は、ジヒドロキシ化合物(3)に由来する構成単位である。なお構成単位(b2)としては1種のみでもよく、2種以上が存在してもよい。
ジヒドロキシ化合物(3)としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物よりなる群から選ばれる何れかであることが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂組成物の機械特性に優れる観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物であることが好ましく、具体的には、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが挙げられる。
【0038】
ポリカーボネート樹脂(B)の全構成単位の合計に対する構成単位(b2)の割合は、10~60質量%であることが好ましい。構成単位(b2)が10質量%以上であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が良好となる。構成単位(b2)が60質量%以下であることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性が良好となる。構成単位(b2)の割合の下限は、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。構成単位(b2)の割合の上限は、55質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂(B)は、例えば、ジヒドロキシ化合物(2)、ジヒドロキシ化合物(3)、および必要に応じて用いる炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等が挙げられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂組成物の光学特性に優れる観点からジフェニルカーボネートが好ましい。なお炭酸ジエステルは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
ポリカーボネート樹脂(B)は市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、三菱ケミカル(株)製のDurabio D7340、Durabio D6350、Durabio D5380、Durabio D5360が挙げられる。
【0041】
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、重合体(A)およびポリカーボネート樹脂(B)以外の他の樹脂を含んでもよい。また必要に応じて、各種添加剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃化剤等)、各種フィラー(ガラス、マイカ、ゴム粒子等)等を含んでもよい。
【実施例0042】
以下に本発明を実施例により説明する。実施例において、重合体(A)の各構成単位の割合および数平均分子量の求め方、ならびにポリカーボネート樹脂組成物の評価方法は、下記の通りである。実施例における「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0043】
(構成単位の割合)
重合体(A)およびポリカーボネート樹脂組成物における各構成単位の割合は、単量体の仕込み量から計算した。
【0044】
(数平均分子量)
重合体(A)の数平均分子量は、下記の通り測定した。まずテトラヒドロフランに溶解した重合体(A)について、テトラヒドロフランを溶離液とし、カラム温度40℃において、ゲル浸透クロマトグラフィによって溶出曲線を測定した。次いで、標準ポリメチルメタクリレートによる検量線を基に、重合体(A)の数平均分子量を算出した。
【0045】
(光学特性)
ポリカーボネート樹脂組成物の光学特性は、全光線透過率およびヘイズにより評価した。全光線透過率が高く、ヘイズが低い場合、光学特性が良好であることを示す。全光線透過率およびヘイズは、ヘーズメーターNDH2000(日本電色工業(株)製)を使用し、JIS K 7136に準拠して厚さ2mmのポリカーボネート樹脂組成物について測定した。
【0046】
(流動性)
ポリカーボネート樹脂組成物の流動性は、メルトフローレート(MFR)により評価した。流動性が高い場合、流動性が良好であることを示す。MFRはペレット状の樹脂組成物に対し、JIS K-7210に準拠して、230℃、2.16kgfの荷重条件下で測定した。
【0047】
(耐熱性)
ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性は、荷重たわみ温度により評価した。荷重たわみ温度が高い場合、耐熱性が良好であることを示す。荷重たわみ温度は、JIS K 7191-1に準拠して、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmに成形されたポリカーボネート樹脂組成物について測定した。
【0048】
[製造例1]
(重合体(A)の製造)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた容量1200Lの反応容器内に、17%水酸化カリウム水溶液61.6部、アクリエステルM(三菱ケミカル(株)製メチルメタクリレート、商品名)19.1部及び脱イオン水19.3部を添加した。得られた混合液を室温にて撹拌し、発熱ピークを確認した後、更に4時間撹拌した。その後、混合液を室温まで冷却してメタクリル酸カリウム水溶液を得た。
【0049】
次いで、撹拌機、冷却管及び温度計を備えた容量1050Lの反応容器内に、脱イオン水900部、得られたメタクリル酸カリウム水溶液10部、アクリエステルSEM-Na(三菱ケミカル(株)製メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム、商品名、42質量%水溶液)60部、およびアクリエステルM12部を入れて撹拌し、反応容器内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。続いて、重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬(株)製2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、商品名)0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。昇温後、アクリエステルMを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下した。得られた溶液を60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、固形分10質量%の分散剤を得た。
【0050】
続いて下記の通り、メタクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルに由来する構成単位(a1)およびメチルメタクリレートに由来する構成単位(a2)を有する重合体(A-1)を製造した。重合体(A-1)の全構成単位の合計に対する各構成単位の割合および数平均分子量を表1に示す。
【0051】
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水200部、上記で得られた分散剤0.26部、および硫酸ナトリウム(NaSO)0.3部を加えて撹拌して、均一な水溶液とした。
次いで、DOMA(日油(株)製、メタクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル、商品名)5部、アクリエステルM(三菱ケミカル(株)製、メチルメタクリレート、商品名)93部、メチルアクリレート(富士フィルム和光純薬(株)製、試薬特級)2部、および連鎖移動剤として1-オクタンチオール(東京化成工業(株)製)2部、重合開始剤としてAMBN(富士フィルム和光純薬(株)製、2,2-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、商品名)0.3部を加え、水性分散液とした。次いで、重合装置内を十分に窒素置換し、得られた水性分散液を75℃に昇温してから3時間保持した後に、85℃に昇温して1.5時間保持して重合を行った。その後40℃に冷却して、重合体(A-1)を含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、75℃で18時間乾燥し、重合体(A-1)を得た。
【0052】
[製造例2~4]
製造例1と同様の方法により、構成単位(a1)および構成単位(a2)割合がそれぞれ表1の通りである重合体(A-2)~重合体(A-4)を得た。
【0053】
[製造例5、6]
製造例1と同様の方法により、構成単位(a1)および構成単位(a2)割合がそれぞれ表1の通りである重合体(X-1)~重合体(X-2)を得た。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例1]
重合体(A-1)20部、およびポリカーボネート樹脂(B-1)として、構成単位(b1)を70質量%含むDurabio D7340(三菱ケミカル(株)製)80部をポリエチレン製の袋に入れ、手でよく振ってハンドブレンドした。得られた混合物を、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM35B)を用いて250℃で溶融混練し、押出し後にカットしてペレット状のポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について、流動性を評価した結果を表2に示す。
次いで、得られたペレット状のポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、IS-100成形機)を用いて、成形温度250℃および金型温度80℃で成形し、各評価に応じた形状に成形されたポリカーボネート樹脂組成物を得た。該成形されたポリカーボネート樹脂組成物について光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0056】
[実施例2]
重合体(A-1)を重合体(A-2)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0057】
[実施例3]
重合体(A-1)を重合体(A-3)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0058】
[実施例4]
重合体(A-1)を重合体(A-3)に変更し、ポリカーボネート樹脂(B-2)として、構成単位(b1)を50質量%含むDurabio D5380(三菱ケミカル(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0059】
[実施例5]
重合体(A-1)を重合体(A-4)に変更し、ポリカーボネート樹脂(B-1)をポリカーボネート樹脂(B-2)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0060】
[比較例1]
重合体(A-1)を重合体(X-1)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0061】
[比較例2]
重合体(A-1)を重合体(X-2)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0062】
[比較例3]
重合体(A-1)をポリ乳酸(Ingeo3001D、ネイチャーワークス社製)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0063】
[参考例1]
ポリカーボネート樹脂(B-1)のみを用い、二軸押出機(東芝機械社製、TEM35B)を用いて250℃で溶融混練し、押出し後にされたストランドをカットして、ペレットを得た。
得られたペレットを、射出成形機(東芝機械社製、IS-100成形機)を用いて、成形温度250℃および金型温度80℃で成形し、各評価に応じた形状のポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0064】
[参考例2]
ポリカーボネート樹脂(B-2)のみを用い、参考例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。該ポリカーボネート樹脂組成物について流動性、光学特性および耐熱性を評価した結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表1に示されるように、既定の重合体(A)をポリカーボネート樹脂(B-1)と配合した実施例1~3は、ポリカーボネート樹脂(B-1)のみである参考例1と比較して、流動性が改善していた。同様に、既定の重合体(A)をポリカーボネート樹脂(B-2)と配合した実施例4および5は、ポリカーボネート樹脂(B-2)のみである参考例2と比較して、流動性が改善していた。またこれらの実施例1~5は、光学特性および耐熱性も良好であった。
【0067】
一方、構成単位(a1)を有さない重合体(X-1)をポリカーボネート樹脂(B-1)と配合した比較例1は、実施例1~3と比較して光学特性および耐熱性が低い結果となった。また重合体(X-2)の数平均分子量が規定範囲より大きい比較例2、および重合体としてポリ乳酸を用いた比較例3は、実施例1~3と比較して流動性および光学特性が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の樹脂組成物は、各種機器(電気機器、電子機器、OA機器等)の部材や自動車部材(自動車ヘッドランプ、自動車内装材等)、建築部材などの用途に有用である。