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特開2022-143563抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤ならびに飲食品において菌の増殖を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143563
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤ならびに飲食品において菌の増殖を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20220926BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220926BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220926BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P31/04
A61K9/20
A61K9/08
A61K8/36
A61Q19/00
A61P17/00 101
A23L3/3508
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044124
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】岩竹 美和
(72)【発明者】
【氏名】桑原 浩誠
【テーマコード(参考)】
4B021
4C076
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4B021MC01
4B021MK20
4B021MP01
4C076AA12
4C076AA36
4C076BB01
4C076BB31
4C076CC31
4C076DD24
4C076DD28
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD59
4C076DD67
4C076EE41
4C076EE43
4C083AA082
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD092
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD392
4C083AD412
4C083AD512
4C083AD532
4C083BB48
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC11
4C083CC12
4C083CC23
4C083CC25
4C083CC31
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE03
4C083EE11
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA22
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA55
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZB35
(57)【要約】
【課題】抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤ならびに飲食品において菌の増殖を抑制する方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤に、有効成分として下記式(I)で表される化合物を用いる。また、飲食品に下記式(I)で表される化合物を配合することにより、飲食品において菌の増殖を抑制することができる。
【化1】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする抗菌剤。
【化1】
【請求項2】
下記式(I)で表される化合物を飲食品に配合することにより、飲食品において菌の増殖を抑制する方法。
【化2】
【請求項3】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする抗菌用経口組成物。
【化3】
【請求項4】
下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする抗菌用皮膚外用剤。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤ならびに飲食品において菌の増殖を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は、微生物による製品の汚染や変質(腐敗・変敗)の防止又は感染症の予防等のため、化粧品、医薬品、飲食品等の製品に広く配合されており、品質管理や公衆衛生の面から非常に有用である。
【0003】
化粧品、飲食品などの製品は、エスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌)、バシラス属菌(Bacillus:例えば枯草菌)等の菌が増殖することにより汚染や変質(腐敗・変敗)を引き起こすという問題がある。特に飲食品は、エスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌)等の菌が増殖することにより、食中毒を引き起こす怖れがある。そのため、製品の品質保持の観点から抗菌剤が使用されることがある。
【0004】
人の腸内や皮膚には細菌(bacteria)が豊富かつ多様に生息しており、互いにバランスを保つことによって恒常性を維持している。しかし、細菌叢のバランスが崩れると、様々な疾患を引き起こす。
例えば、エスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)は、胃腸炎、尿路感染症の他にも食品や水などの二次汚染による食中毒等を引き起こすことが知られている。また、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば、黄色ブドウ球菌)はアトピー皮膚炎の原因菌となり得る。特に、黄色ブドウ球菌は様々な蛋白毒素を産生することが知られている。例えば、黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥奪毒素は血流を介して全身皮膚に作用し、デスモソーム構成蛋白であるデスモグレイン1を切断して表皮内水疱を生じる。また、トキシックショック症候群毒素はTリンパ球にはたらき強い炎症を引き起こし、突発性発熱、血圧低下、猩紅熱様紅斑及び多臓器障害を特徴とする全身性中毒性疾患を引き起こす(非特許文献1)。黄色ブドウ球菌が食品中で増殖する際に産生されるエンテロトキシンは、嘔吐毒を主徴とする食中毒を引き起こすことが知られている(非特許文献2)。さらに、黄色ブドウ球菌は、院内肺炎の主な原因菌としても知られている。抗菌剤は、このような疾患を予防、治療又は改善するためにも使用されることがある。
【0005】
特許文献1には、水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤が記載されている。特許文献2には、グリセリルアスコルビン酸誘導体又はその塩からなる抗菌剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-179615号公報
【特許文献2】特開2015-3894号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】清水宏著「あたらしい皮膚科学:第3版」中山書店出版,2018年2月15日,p.514-531
【非特許文献2】食品衛生,51巻4号,2005年,p.81-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、同じ抗菌剤を頻繁に用いることによってその抗菌剤に対する耐性を持った菌が出現することあり、菌の増殖を抑制できなくなる場合がある。そのため、新しい抗菌剤の開発が求められている。
【0009】
本発明は、抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤を提供することを目的とする。また、本発明は、飲食品において菌の増殖を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の抗菌剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明の抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤は、下記式(I)で表される化合物を配合したことを特徴とする。さらに、本発明の、飲食品において菌の増殖を抑制する方法は、飲食品に下記式(I)で表される化合物を配合することを特徴とする。
【0011】
【化1】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記式(I)で表される化合物を有効成分とすることにより、優れた抗菌作用を有する抗菌剤、抗菌用経口組成物および抗菌用皮膚外用剤を提供することができる。また、飲食品に上記式(I)で表される化合物を配合することにより、飲食品において菌の増殖を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る抗菌剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分するものである。
【0014】
【化2】
【0015】
上記式(I)で表される化合物は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid)とも呼ばれるケイ皮酸誘導体である。以下、本明細書において、上記式(I)で表される化合物を化合物(I)ということがある。
【0016】
化合物(I)は、例えば、化合物(I)を含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。この場合、このような化合物(I)を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。化合物(I)を含有する植物としては、例えば、米、大麦、小麦、大豆、小豆、とうもろこし等が挙げられる。
【0017】
化合物(I)は、例えば、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propenoic Acid)もしくはその誘導体、又はこれらを含有する組成物(例えば、植物の破砕物または抽出物等)を、フェノール酸還元酵素を有する微生物により醗酵させ、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を化合物(I)に変換した後、得られた醗酵物を抽出・単離・精製することにより製造することもできる。3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を含有する組成物としては、例えば、コーヒー、コムギ、トウモロコシ、トマト、マテ、ヨモギ、ゴボウ等の植物の破砕物及び抽出物などが挙げられる。また、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸は木本植物及び草本植物におけるリグニンの構成成分であるため、リグニン又はこれを含有する組成物を醗酵原料として利用してもよい。一方、フェノール酸還元酵素を有する微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactobacillus gallinarum、Enterococus faecalis等の乳酸菌などが挙げられる。
【0018】
上記植物又は醗酵物などから化合物(I)を抽出・単離・精製する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出処理は、抽出原料としての上記植物又は醗酵物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供すればよい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0019】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0021】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0022】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は任意であり、適宜調整することができる。例えば、水と親水性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として使用する場合には、任意の比率、すなわち0:100超、100:0未満(容量比,以下同様に表記)の間で混和して用いることができ、適宜調整することができる。
例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比(容量比)を9:1以上とすることができ、さらには7:3以上とすることができ、あるいは水と低級脂肪族アルコールとの混合比を1:9以下、さらには2:8以下とすることができる。また、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比を8:2以上、あるいは1:9以下とすることができ、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比を9:1以上、あるいは2:8以下とすることができる。
【0023】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0024】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から化合物(I)を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を展開溶媒に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、化合物(I)を含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、展開溶媒は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば固定相としてシリカゲルを用いた順相クロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、展開溶媒としてはクロロホルム:メタノール=95:5等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られた化合物(I)を含む画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液-液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0025】
以上のようにして得られる化合物(I)は、優れた抗菌作用を有しているため、抗菌剤の有効成分として用いることができる。また、抗菌剤を製造するために、化合物(I)を使用することができる。本実施形態の抗菌剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の幅広い用途に使用することができる。
【0026】
なお、本実施形態に係る抗菌剤の有効成分として、単離した化合物(I)に替えて、化合物(I)を含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「化合物(I)を含有する組成物」には、化合物(I)を含有する植物を抽出原料として得られる抽出物、化合物(I)を含有する醗酵物、及び当該醗酵物を抽出原料として得られる抽出物が含まれる。また、「抽出物」には、抽出処理により得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、又は当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物が含まれる。
【0027】
本実施形態に係る抗菌剤の有効成分として、化合物(I)を含有する組成物を用いる場合は、組成物中に化合物(I)が0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。化合物(I)の純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層作用効果に優れた抗菌剤を得ることができる。
【0028】
本実施形態の抗菌剤は、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物のみからなるものでもよいし、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物を製剤化したものでもよい。
【0029】
本実施形態の抗菌剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。抗菌剤は、他の組成物(例えば、後述する皮膚外用剤、経口組成物等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
本実施形態の抗菌剤を製剤化した場合、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0031】
なお、本実施形態の抗菌剤は、必要に応じて、抗菌作用を有する他の天然抽出物等を、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0032】
本実施形態の抗菌剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防又は治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態の抗菌剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0033】
本実施形態の抗菌剤は、適用対象菌の種類を問わず用いることができる。中でも適用対象菌としてはグラム陰性菌及びグラム陽性菌が好ましい。グラム陰性菌としては、例えば、エスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)、サルモネラ属菌(Salmonella)、シュードモナス属菌(Pseudomonas:例えば緑膿菌)、ヘリコバクター属菌(Helicobacter)、ナイセリア属菌(Neisseria:例えば淋菌、髄膜炎菌)等が挙げられる。また、グラム陽性菌としては、例えば、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、エンテロコッカス属菌(Enterococcus)、レンサ球菌属菌(Streptococcus:例えば双球菌、4連、8連球菌等、肺炎球菌、溶血連鎖球菌、ミュータンス菌)、バシラス属菌(Bacillus:例えば炭疽菌、枯草菌)、クロストリジウム属菌(Clostridium:例えば破傷風菌、ボツリヌス菌)、ミクロコッカス属菌(Micrococcus:例えばミクロコッカス・ルテウス)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium:例えばコリネバクテリウム・ゼローシス、ジフテリア菌)、プロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium:例えばアクネ菌)等が挙げられる。これらの中でも、より効果的に本実施形態の抗菌作用を発揮することができるという観点から、特にエスケリキア属菌、スタフィロコッカス属菌及びバシラス属菌が好ましく、さらには大腸菌、黄色ブドウ球菌及び枯草菌が好ましい。
【0034】
本実施形態の抗菌剤は、化合物(I)が有する抗菌作用を通じて、菌の増殖を抑制することができる。これにより、抗菌剤を配合した組成物(例えば、後述する皮膚外用剤や飲食品等)において、組成物の汚染や変質(腐敗・変敗)等を抑制することができるとともに、抗菌剤をヒト等に投与して各種感染症を予防、治療又は改善することができる。
より具体的には、例えば、飲食品に配合することにより、バシラス属菌(Bacillus:例えば枯草菌)や、特に食中毒の原因となり得るエスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)やスタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌)等の、飲食品の汚染や変質(腐敗・変敗)の原因となり得る菌の増殖を抑制し、品質を保持することができる。
また、ヒト等に投与することにより、例えば、エスケリキア属菌(Escherichia:例えば大腸菌)を原因菌とする疾患(例えば、胃腸炎、尿路感染症、食中毒等)を予防、治療又は改善することができる。また、例えばスタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌)を原因菌とする疾患(例えば、アトピー皮膚炎や水疱等の皮膚感染症、全身性中毒疾患、食中毒、肺炎等)を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態の抗菌剤は、これらの用途以外にも化合物(I)が有する抗菌作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0035】
本実施形態の抗菌剤は、優れた抗菌作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0036】
化合物(I)は、優れた抗菌作用を有しているため、例えば、皮膚外用剤や、飲食品を含む経口組成物に配合するのに好適である。この場合、化合物(I)をそのまま配合してもよいし、化合物(I)から製剤化した抗菌剤を配合してもよい。
【0037】
化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化した抗菌剤を皮膚外用剤に配合することにより、皮膚外用剤において菌の増殖を抑制し、当該皮膚外用剤の汚染や変質(腐敗・変敗)等を抑制することができる。また、化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化した抗菌剤を皮膚外用剤に配合することにより、例えばスタフィロコッカス属菌(Staphylococcus:例えば黄色ブドウ球菌)を原因菌とする皮膚感染症の予防、治療または改善など、抗菌用途に好適な皮膚外用剤とすることができる。上記作用は、皮膚外用剤に付与されることで作用効果が発揮されやすいため、好適である。
【0038】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される医薬品、医薬部外品、皮膚化粧料等を幅広く含むものである。具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0039】
皮膚外用剤における化合物(I)の配合量は、皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、0.100質量%~100質量%であり、特に好適な配合率は、0.125質量%~100質量%である。特に、皮膚外用剤に添加して菌の増殖を抑制する場合、化合物(I)の添加量は、菌の増殖が抑制できる量であれば特に限定されないが、皮膚外用剤に対して通常0.100質量%~50.0質量%であり、好ましくは0.125質量%~30.0質量%である。
【0040】
化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化した抗菌剤を経口組成物に配合することにより、経口組成物において菌の増殖を抑制し、当該経口組成物の汚染や変質(腐敗・変敗)等を抑制することができる。また、化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化した抗菌剤を経口組成物に配合することにより、抗菌用途(例えば、各種感染症の予防、治療又は改善用途)に好適な経口組成物とすることができる。上記作用は、経口組成物に付与されることで作用効果が発揮されやすいため、好適である。
【0041】
経口組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「経口組成物」は、経口的に摂取される一般食品、飼料、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る経口組成物は、当該経口組成物またはその包装に、化合物(I)が有する好ましい作用を表示することのできる経口組成物であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品または医薬品であることが特に好ましい。
【0042】
化合物(I)を経口組成物に配合する場合、その配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる経口組成物の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。また、添加対象経口組成物が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の場合、化合物(I)の添加量は、各種感染症を予防、治療又は改善できる量であれば特に限定されないが、添加対象経口組成物に対して通常0.100質量%~100質量%であり、好ましくは0.125質量%~100質量%である。
【0043】
本実施形態の経口組成物を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の経口組成物にすることができる。
【0044】
化合物(I)を配合し得る経口組成物は特に限定されないが、その具体例としては、後述する飲食品として例示するものの他、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤;各種歯磨き類、マウスウォッシュ、トローチ、口腔用パスタ、歯肉マッサージクリーム、うがい剤、口中清涼剤等の口腔用剤;などが挙げられる。これらの経口組成物に化合物(I)を配合するときには、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0045】
特に、化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化した抗菌剤を飲食品に配合することにより、飲食品において菌の増殖を抑制することができ、当該飲食品の汚染や変質(腐敗・変敗)を抑制し、品質を保持することができる。
【0046】
化合物(I)を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の保健機能食品;などが挙げられる。これらの経口組成物に化合物(I)を配合するときには、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0047】
飲食品に添加して菌の増殖を抑制する場合、化合物(I)の添加量は、菌の増殖が抑制できる量であれば特に限定されないが、添加対象飲食品に対して通常0.100質量%~90.0質量%であり、好ましくは0.125質量%~50.0質量%であり、より好ましくは30.0質量%~50.0質量%である。
【0048】
本実施形態の抗菌剤、皮膚外用剤および飲食品を含む経口組成物は、その形態及び用途に応じて、抗菌効果を阻害しない範囲内で、例えば、保湿剤、酸化防止剤、安定剤、無機塩、pH調整剤、植物エキス等を適宜配合することができる。
【0049】
なお、本実施形態の抗菌剤、皮膚外用剤および飲食品を含む経口組成物は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例0050】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、被験試料として化合物(I)(東京化成工業社製,3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid,試料1)を使用した。
【0051】
[試験例1]大腸菌(Escherichia coli)に対する抗菌作用試験
試料1を蒸留水にて溶解、希釈し、10%(w/v)の試料溶液を作製し、滅菌した。滅菌後、上記の試料溶液をシャーレに分注し、さらに標準寒天培地(日水製薬社製)10mLを加えて、試料1の濃度が表1となるようにした。添加した試料溶液と標準寒天培地をシャーレ内で混合した後、培地を固めた。
【0052】
作製した培地の表面に、大腸菌(Escherichia coli)の懸濁液を塗布し、37℃で1~2日間静置した。その後、コロニー形成の有無を肉眼で判定した。
評価方法は以下の通りである。
+:コロニー形成が認められた
-:コロニー形成が認められなかった
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[試験例2]黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌作用試験
試料1を蒸留水にて溶解、希釈し、10%(w/v)の試料溶液を作製し、滅菌した。滅菌後、上記の試料溶液をシャーレに分注し、さらに標準寒天培地(日水製薬社製)10mLを加えて、試料1の濃度が表2となるようにした。添加した試料溶液と標準寒天培地をシャーレ内で混合した後、培地を固めた。
【0055】
作製した培地の表面に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の懸濁液を塗布し、37℃で1~2日間静置した。その後、コロニー形成の有無を肉眼で判定した。
評価方法は以下の通りである。
+:コロニー形成が認められた
-:コロニー形成が認められなかった
結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[試験例3]枯草菌(Bacillus subtilis)に対する抗菌作用試験
試料1を蒸留水にて溶解、希釈し、10%(w/v)の試料溶液を作製し、滅菌した。滅菌後、上記の試料溶液をシャーレに分注し、さらに標準寒天培地(日水製薬社製)10mLを加えて、試料1の濃度が表3となるようにした。添加した試料溶液と標準寒天培地をシャーレ内で混合した後、培地を固めた。
【0058】
作製した培地の表面に、枯草菌(Bacillus subtilis)の懸濁液を塗布し、37℃で1~2日間静置した。その後、コロニー形成の有無を肉眼で判定した。
評価方法は以下の通りである。
+:コロニー形成が認められた
-:コロニー形成が認められなかった
結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表1~3に示すように、化合物(I)(試料1)は、優れた抗菌作用を示すことが確認された。
【0061】
〔配合例1〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
化合物(I) 0.5g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性カンゾウエキス 0.1g
1,3-ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0062】
〔配合例2〕
下記組成に従い、乳液を常法により製造した。
化合物(I) 0.15g
ホホバオイル 4.00g
1,3-ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
カミツレエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0063】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
化合物(I) 1.0g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3-ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0064】
〔配合例4〕
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
化合物(I) 5.0mg
ドロマイト(カルシウム20%、マグネシウム10%含有) 83.4mg
カゼインホスホペプチド 16.7mg
ビタミンC 33.4mg
マルチトール 136.8mg
コラーゲン 12.7mg
ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0065】
〔配合例5〕
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
化合物(I) 0.5質量%
ソルビット 12.0質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
香料 1.0質量%
硫酸カルシウム 0.5質量%
精製水 残部(100質量%)
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の抗菌剤は、例えば、各種感染症の予防、治療又は改善や、製品の汚染や変質(腐敗・変敗)の抑制に大きく貢献することができる。