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特開2022-143669(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143669
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20220926BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C07F7/08 X
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044317
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】岡村 薫
【テーマコード(参考)】
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4H039CA92
4H039CF10
4H049VN01
4H049VP03
4H049VP04
4H049VP09
4H049VQ79
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VS79
4H049VT17
4H049VU20
4H049VV02
4H049VV05
4H049VW02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度且つ簡便に製造する方法の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物をヒドロシリル化反応させて式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを得る工程を含む方法。

C=CHCH-O-Q-COCR=CH(2)
*-CHCH(OH)CHO-**(3)*-CHCH(CHOH)O-**(3’)

(Qは式(3)又は(3’);*、**は夫々式(2)におけるO、Cとの結合箇所)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化1】
(一般式(1)中、R、Rは、互いに独立に、非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基、又は、炭素数1~10の1価ハロゲン化炭化水素基であり、xは1~3の整数であり、nは0~20の整数であり、Rが全て非置換の1価炭化水素基である場合には、R Si-基のケイ素原子に結合する非置換の1価炭化水素基の立体的嵩高さを示す立体パラメータの値の総計が-5.00以下であり、Rの1つ以上が1価ハロゲン化炭化水素基である場合には、該ハロゲン化炭化水素基のハロゲン原子を水素原子に置き換えた場合の前記立体パラメータの値の総計が-5.00以下である。)
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物をヒドロシリル化反応させて、
【化2】
(一般式(2)中、Qは、下記式(3)又は(3’)で表される2価の基であり、各式中*で示される箇所が前記一般式(2)における酸素原子との結合箇所であり、各式中**で示される箇所が前記一般式(2)におけるカルボニル炭素原子との結合箇所であり、
【化3】
は水素原子又はメチル基である。)
下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを得る工程を含むことを特徴とする(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【化4】
(一般式(I)中、Q、R~R、n、及びxは前記の通りである。)
【請求項2】
前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であることを特徴とする請求項1に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記R Si-基が有する前記立体パラメータの値の総計が-7.00以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)の化合物と前記一般式(2)の化合物とのヒドロシリル化反応を、前記一般式(1)の化合物1モルに対して前記一般式(2)の化合物を1.0~3.0モルの比率で行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項5】
前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基から選ばれる基であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項6】
前記Rの1つ以上が、イソプロピル基、t-ブチル基、及びフェニル基から選ばれる基であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項7】
前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【請求項8】
前記R Si-基の1つ以上が下記のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法。
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用デバイスの製造用モノマーとして、様々なシロキサン化合物が知られている。例えば、下記式で示されるグリセロールメタクリレートを有するシロキサン化合物:メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレート(SiGMA)が特によく知られており、ソフトコンタクトレンズ用モノマーとして広く用いられている。
【化1】
【0003】
前記SiGMAは、メタクリル酸とエポキシ変性シロキサン化合物の付加反応により合成されるモノマーであり、分子内に水酸基を有するために良好な親水性を発現する。そのため、親水性モノマーである2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミドやN-ビニル-2-ピロリドンとの相溶性に優れるという利点を有している。しかし、SiGMAは、カルボン酸とエポキシ変性シロキサン化合物の付加反応にて製造されるが、エポキシ変性シロキサン化合物の残存や生成する水酸基に由来する副反応やカルボン酸とシロキサン部分との副反応が避けられず、目的とするシロキサン化合物の純度が低下するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、グリセロールメタクリレートを有するアリル化合物を用いて、ヒドロシリル化により目的物を合成する方法が記載されている。該製造方法は、エポキシ変性シロキサン化合物の残存を避けられる等優れた手法であるが、存在する水酸基に由来する副反応は避けられず純度が低下する問題は解決できていない。
【0005】
特許文献2には、グリセロールメタクリレートを有するアリル化合物の水酸基をシリル保護し、ヒドロシリル化後に脱保護する方法が記載されている。該方法は、多段階での工程が必要であり工業的に好ましくないことに加え、脱保護時のシロキサン部の分解が避けられない。また、該方法においてはシリカゲルカラムにて精製する方法が記載されている。しかし、シリカゲルカラム精製は、高コストであり工業的に好ましい方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009-542674号公報
【特許文献2】特開2013-216901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、グリセロール(メタ)アクリレートを有するシロキサン化合物は眼科用デバイス等を製造するのに好適であり、高酸素透過性を有し、及び親水性モノマーとの相溶性を有することは知られているが、該グリセロール(メタ)アクリレートを有するシロキサン化合物を高純度且つ簡便に製造する方法が求められている。
【0008】
本発明は、(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度且つ簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化2】
(一般式(1)中、R、Rは、互いに独立に、非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基、又は、炭素数1~10の1価ハロゲン化炭化水素基であり、xは1~3の整数であり、nは0~20の整数であり、Rが全て非置換の1価炭化水素基である場合には、R Si-基のケイ素原子に結合する非置換の1価炭化水素基の立体的嵩高さを示す立体パラメータの値の総計が-5.00以下であり、Rの1つ以上が1価ハロゲン化炭化水素基である場合には、該ハロゲン化炭化水素基のハロゲン原子を水素原子に置き換えた場合の前記立体パラメータの値の総計が-5.00以下である。)
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物をヒドロシリル化反応させて、
【化3】
(一般式(2)中、Qは、下記式(3)又は(3’)で表される2価の基であり、各式中*で示される箇所が前記一般式(2)における酸素原子との結合箇所であり、各式中**で示される箇所が前記一般式(2)におけるカルボニル炭素原子との結合箇所であり、
【化4】
は水素原子又はメチル基である。)
下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを得る工程を含む(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法を提供する。
【化5】
(一般式(I)中、Q、R~R、n、及びxは前記の通りである。)
【0010】
このような(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法であれば、(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度且つ簡便に製造することができる。
【0011】
また、本発明では、前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であることができる。
【0012】
このような基を有するオルガノハイドロジェンシロキサンを用いることで、生成物の純度がより高い製造方法となる。
【0013】
また、本発明では、前記一般式(1)において、前記R Si-基が有する前記立体パラメータの値の総計が-7.00以下であることができる。
【0014】
このような立体パラメータであれば、生成物の純度がより一層高い製造方法となる。
【0015】
また、本発明では、前記一般式(1)の化合物と前記一般式(2)の化合物とのヒドロシリル化反応を、前記一般式(1)の化合物1モルに対して前記一般式(2)の化合物を1.0~3.0モルの比率で行うことができる。
【0016】
このような比率であれば、ヒドロシリル基が残存せず、収率や経済性などの点から好ましい。
【0017】
また、本発明では、前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基から選ばれる基であることができる。
【0018】
また、本発明では、前記Rの1つ以上が、イソプロピル基、t-ブチル基、及びフェニル基から選ばれる基であることができる。
【0019】
また、本発明では、前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基であることができる。
【0020】
本発明ではR、Rとしては、上記のものを用いることができ、これによってより簡便に高純度の(メタ)アクリル基含有シロキサンを得ることができる。
【0021】
また、本発明では、前記R Si-基の1つ以上が下記のいずれかであることができる。
【化6】
【0022】
このような基を有するオルガノハイドロジェンシロキサンを用いることで、末端トリオルガノシリル基が十分に嵩高いものとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法によれば、グリセロール(メタ)アクリレートを有するシロキサン化合物を高純度且つ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度且つ簡便に製造する方法の開発が求められていた。
【0025】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリシロキサンのケイ素原子上に嵩高い置換基を有するハイドロジェンシロキサン化合物とグリセロール(メタ)アクリレートを有する不飽和化合物との付加反応において、存在する水酸基に由来する副反応をはじめとした副反応が抑制され、グリセロール(メタ)アクリレートを有するシロキサン化合物を高純度にて得ることができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0026】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化7】
(一般式(1)中、R、Rは、互いに独立に、非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基、又は、炭素数1~10の1価ハロゲン化炭化水素基であり、xは1~3の整数であり、nは0~20の整数であり、Rが全て非置換の1価炭化水素基である場合には、R Si-基のケイ素原子に結合する非置換の1価炭化水素基の立体的嵩高さを示す立体パラメータの値の総計が-5.00以下であり、Rの1つ以上が1価ハロゲン化炭化水素基である場合には、該ハロゲン化炭化水素基のハロゲン原子を水素原子に置き換えた場合の前記立体パラメータの値の総計が-5.00以下である。)
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物をヒドロシリル化反応させて、
【化8】
(一般式(2)中、Qは、下記式(3)又は(3’)で表される2価の基であり、各式中*で示される箇所が前記一般式(2)における酸素原子との結合箇所であり、各式中**で示される箇所が前記一般式(2)におけるカルボニル炭素原子との結合箇所であり、
【化9】
は水素原子又はメチル基である。)
下記一般式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを得る工程を含む(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法である。
【化10】
(一般式(I)中、Q、R~R、n、及びxは前記の通りである。)
【0027】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法は、ポリシロキサンのケイ素原子上に嵩高い置換基を有するオルガノハイドロジェンシロキサン化合物を原料として、グリセロール(メタ)アクリレートを有する不飽和化合物と付加反応(ヒドロシリル化反応)させて(メタ)アクリル基含有シロキサンを得ることを特徴とする。即ち、下記一般式(I)で示される化合物において、末端トリオルガノシリル基(R Si-)が嵩高い立体構造を有することを特徴とする。末端トリオルガノシリル基が嵩高い立体構造を有することで、グリセロール(メタ)アクリレートを有する不飽和化合物とのヒドロシリル化反応において存在する水酸基の反応性を抑制し、下記一般式(I)で表される、(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度で簡便に得ることができる。
【0029】
すなわち本発明は、下記一般式(I)で表され、後述する立体パラメータの値が特定の数値範囲となる末端に嵩高い立体構造を有することを特徴とする(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法を提供する。
【化11】
【0030】
上記一般式(I)において、R、Rは、互いに独立に、非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基、又は、炭素数1~10の1価ハロゲン化炭化水素基である。Rが全て非置換の1価炭化水素基である場合には、R Si-基のケイ素原子に結合する非置換の1価炭化水素基の立体的嵩高さを示す後述の立体パラメータの値の総計が-5.00以下であり、Rの1つ以上がハロゲン化炭化水素基である場合には、該ハロゲン化炭化水素基のハロゲン原子を水素原子に置き換えた場合の前記立体パラメータの値の総計が-5.00以下である。
【0031】
上記一般式(I)において、Qは、下記式(3)又は(3’)で表される2価の基であり、各式中*で示される箇所が上記一般式(I)における酸素原子との結合箇所であり、各式中**で示される箇所が上記一般式(I)におけるカルボニル炭素原子との結合箇所である。
【化12】
【0032】
上記式(3)を有する化合物と上記式(3’)を有する化合物とは構造異性体である。本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法によって得られる化合物(I)は、これら構造異性体の混合物であってよい。
【0033】
、Rは、互いに独立に、非置換の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~7の1価炭化水素基、又は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~7の1価ハロゲン化炭化水素基である。非置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、及びトリル基等のアリール基;ビニル基、及びアリル基等のアルケニル基;ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。1価ハロゲン化炭化水素基の例としては、前記非置換の1価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の1個以上が塩素、及びフッ素等のハロゲン原子で置換されたものを挙げることができる。好ましくは、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基である。R、Rは、互いに独立に、上記の中から選択され、且つ、R Si-基が後述する立体パラメータを満たすように組み合わせればよい。特には、同じケイ素原子に結合する3個のRはいずれも、炭素数2~7のアルキル基が好ましい。炭素数が10より多い場合、立体障害性が大きくなる一方、シロキサン成分が少なくなるためにシロキサン由来の特性が低下する恐れがある。
【0034】
前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、及びこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基から選ばれる基であることがより好ましい。
【0035】
また、前記RおよびRが互いに独立に、炭素数1~10のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
3Si-基が有する立体パラメータの値について、以下により詳細に説明する。
炭化水素基(置換基をRとする)の立体的嵩高さを表す指標として、Taftの立体的パラメータが知られている。該パラメータは炭化水素基(置換基)の立体的嵩高さ(三次元的な広がり)を表すパラメータである。例えば、非特許文献1:ケミストリーレターズ、1263-1266頁、1992年(1992 The Chemical Society of Japan)及び非特許文献2:ケミストリーレターズ、1807-1810頁、1993年(1993 The Chemical Society of Japan)には、ケイ素原子に結合する炭化水素基のTaftパラメータが記載されている。
【0037】
該パラメータは、下記式(a)で表され、logkrelは、89mol%の1,4-ジオキサン水溶液における、25℃での、トリメチルクロロシランに対するオルガノクロロシラン(ASiCl)の加水分解速度の対数値である。下記式において「A」は置換基Rを意味する。
S(A)=logkrel (a)
【0038】
また、この立体パラメータは以下の式(b)、(c)、(d)、(e)に従うことが知られており、種々の置換基を有するケイ素原子について見積もることが可能である。
S(ACH)=0.20S(A)-0.57 (b)
S(AC)=S(ACH)+1.6S(ACH)+4.0S(ACH) (c)
S(AO)=0.39S(A)-0.34 (d)
S(ASi)=S(A)+1.15S(A)+1.35S(A) (e)
【0039】
ここで、|S(ACH)|は|S(ACH)|より大きく、|S(ACH)|は|S(ACH)|よりも大きい。また、|S(A)|は|S(A)|より大きく、|S(A)|は|S(A)|よりも大きい。この立体パラメータが小さいほど該ケイ素原子上の立体障害性が高いことを示す。
【0040】
また、非特許文献2には、トリアルキルシリル基の立体パラメータが記載されている。例えば、RMeSi基において、Rが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、t-ブチル基である時、各々のRMeSi基が有する立体パラメータは下記表1に記載の通りである。以下の数値は負の値が大きいほど嵩高く、立体障害性が高いことを意味する。
【表1】
【0041】
また、例えば、R Si基が、ジ(n-ブチル)メチルシリル基、トリ(n-ブチル)シリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリ(イソプロピル)シリル基、又はトリ(t-ブチル)シリル基である時、各々のR Si基が有する立体パラメータは下記表2に記載の通りである。
【表2】
【0042】
本発明では、上記立体パラメータにより、オルガノシリル基(R Si-)の立体構造を特定した。本発明における上記一般式(I)の化合物、及び原料である後述の一般式(1)の化合物はR Si-基を1つ~3つ、好ましくは2つ又は3つ有する。該R Si-基が有する立体パラメータの値の総計が-5.00以下であることを特徴とし、好ましくは-7.00以下である。
【0043】
上記立体パラメータを満たす構造として好ましくは、Rの1つ以上が、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基から選ばれる基であるのがよい。また、Rの全てが、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基から選ばれる同一の基である構造も好ましい。
【0044】
特に好ましい構造を下記に示す。下記式に置いて、*印で示される箇所が酸素原子と結合している。
【化13】
【0045】
これらの基を1~3個、好ましくは2又は3個有することにより、R Si-基が有する立体パラメータの値の総計が-5.00以下であること、好ましくは-7.00以下となればよい。
【0046】
上記の通り、本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法により製造される化合物において立体パラメータは末端トリオルガノシリル基の立体的嵩高さを規定するためのものである。Rの1つ以上がハロゲン化炭化水素基である場合には、該ハロゲン化炭化水素基のハロゲン原子を水素原子に置き換えた場合の前記立体パラメータの値の総計が-5.00以下、好ましくは-7.00以下であればよい。ここで、ハロゲン原子とは、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素を指す。特に好ましくは、上記した1価炭化水素基の炭素原子に結合する水素原子の1以上がフッ素原子に置換されている化合物である。例えば、下記構造が挙げられる。下記式において、*印で示される箇所が酸素原子と結合している。
【化14】
【0047】
この場合、フッ素原子を水素原子に置き換えた時の立体パラメータが上記範囲を満たせばよい。すなわち、末端n-ブチル-メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシリル基の立体パラメータは、3,3,3-トリフルオロプロピル基をプロピル基に置き換えたn-ブチル-メチル-プロピルシリル基と同じである。
【0048】
下記一般式(2)及び上記一般式(I)において、Rは水素原子あるいはメチル基である。
【0049】
下記一般式(1)及び上記一般式(I)において、nは0~20の整数である。好ましくは0又は1~10の整数であり、更に好ましくは0又は1~5の整数である。nが上記上限値を超えては、末端トリオルガノシリル基の立体的嵩高さによる影響が小さくなる。特にはnが0である化合物がよい。
【0050】
下記一般式(1)及び上記一般式(I)において、xは1~3の整数である。好ましくは2または3である。
【0051】
以下、本発明の製造方法についてさらに詳細に説明する。
上記一般式(I)で示される化合物は、下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化15】
(一般式(1)中、R、R、n、及びxは上記の通りである。)
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物をヒドロシリル化反応させて得られる。
【化16】
(一般式(2)中、Qは、下記式(3)又は(3’)で表される2価の基であり、各式中*で示される箇所が上記一般式(2)における酸素原子との結合箇所であり、各式中**で示される箇所が上記一般式(2)におけるカルボニル炭素原子との結合箇所であり、
【化17】
は水素原子又はメチル基である。)
【0052】
また、上記一般式(2)で示される(メタ)アクリレート化合物は、市販のものを用いてもよいし、合成してもよい。合成法の一例としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム存在下、アリルグリシジルエーテルと (メタ)アクリル酸を反応させることによって得ることができる。
【0053】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法において、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物の添加量は、典型的には一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対して1モル以上となる量比であればよい。上記値以上であれば、ヒドロシリル基が残存しないため好ましい。また、上限値は制限されないが、より好ましくは1.0~3.0モルの比率であり、更に好ましくは1.1~2.0モルの比率であり、特に好ましくは1.2~1.5モルの比率である。上記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物の添加量が3.0モルの比率以下であれば、収率や経済性等の点から好ましい。
【0054】
ヒドロシリル化触媒は従来公知の触媒であればよい。例えば貴金属触媒、特には塩化白金酸から誘導される白金触媒が好適である。特には、塩化白金酸の塩素イオンを重曹で完全中和して白金触媒の安定性を向上させることがよい。例えば1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンと塩化白金酸の重曹中和物との錯体(カルステッド触媒)がより好ましい。触媒の添加量は上記ヒドロシリル化反応を進行させるための触媒量であればよい。ヒドロシリル化反応の温度も特に制限されるものでなく適宜調整すればよい。特には20℃~150℃、より好ましくは50℃~120℃がよい。反応時間は例えば1~12時間、好ましくは3~8時間がよい。
【0055】
上記ヒドロシリル化反応は反応溶媒を使用してもよい。使用する溶媒は特に制限されるものでないが、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル及びポリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル及び安息香酸メチル等のエステル系溶媒;直鎖ヘキサン、直鎖ヘプタン及び直鎖オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン及びエチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;並びに石油系溶媒等;及び、メチルアルコール、エチルアルコール、直鎖プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、直鎖ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びポリエチレングリコールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。前記溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0056】
上記のヒドロシリル化反応において、反応終点は、従来公知の方法に従い、例えば、薄層クロマトグラフィー(TCL)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はガスクロマトグラフィー(GC)等によって原料化合物のピークが消失したことで確認できる。反応終了後は、従来公知の方法に従い精製すればよい。例えば、有機層を水で洗浄した後、溶媒を除去することにより生成物を単離することができる。また減圧蒸留や活性炭処理などを使用してもよい。
【0057】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法の一例として以下を挙げることができる。
上記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン化合物1モル当量と上記一般式(2)で表される(メタ)アクリレート化合物1.5モル当量、塩化白金酸重曹中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)をオルガノハイドロジェンシロキサン化合物の質量に対し白金換算量で10ppmを添加し、窒素雰囲気下100℃で加熱撹拌を行う。5時間程度反応させることにより反応は完結する。また、その際に前記オルガノハイドロジェンシロキサンあるいは生成する上記一般式(I)で表される化合物をGC測定等でモニタリングすることでヒドロシリル化反応の進行を確認できる。ヒドロシリル化反応の完結後、n-ヘキサン100質量当量を添加し、有機層をメタノール水(メタノール:水=4:1)で洗浄し、有機層に存在する溶媒、未反応の原料を減圧留去することで、上記一般式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを得ることができる。
【0058】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法によれば、上記一般式(I)で表される化合物を高純度で得ることができる。特に好ましくは、上記一般式(I)において各特定の一のn、x、Q及びR~Rを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す化合物である。但し、該特定の1種とは、Qが上記式(3)又は(3’)で示される構造異性体の混合であってよい。本発明において、特定の構造を有する1種の含有量はガスクロマトグラフィー(以下「GC」とする)分析により求められる。詳細な条件は後述する。上記特定の一の構造を有する1種が化合物の質量全体のうち95質量%未満であるとき、例えば、水酸基による副反応で生成した化合物等が5質量%超存在するとき、該化合物を他の重合性モノマーと混合したときに濁りを生じ透明な共重合体が得られない場合や弾性率が増大し、好ましくない場合がある。このような場合には、必要に応じて精製すればよい。
【0059】
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法は、水酸基の保護を必要としないうえ、目的物の純度が高いので工業的に不利な精製を追加する必要がないためプロセスが短くなり、目的物を簡便に得ることができる。
【0060】
上記一般式(I)で表される化合物としては、例えば、以下の構造が挙げれられる。但し、下記構造に制限されるものではない。
【化18】
【実施例0061】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
下記実施例及び比較例で行った分析方法は以下の通りである。
a.ガスクロマトグラフィー分析(GC)
i.装置とパラメータ
装置:Agilent製GC system 7890A型
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:J&W HP-5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム
一定流量:1.0mL/分
サンプル注入量:1.0μL
スプリット比:50:1
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
ii.温度プログラム
開始温度50℃。開始時間:2分間。勾配:10℃/分;終了時温度:300℃(保持時間:10分間)。
iii.サンプル調製
サンプル溶液をアセトンで0.2質量%に希釈し、GC用バイアル瓶に入れた。
【0063】
下記実施例および比較例に使用した使用した化合物は以下の通りである。
AHPM:3-(アリロキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
【化19】
MHM:1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン
【0064】
また、ハイドロジェンシロキサンとしては、下記式(4)~(9)で示されるシロキサン(化合物(4)~(9))を用いた。
【化20】
【化21】
【0065】
[実施例1]
ジムロート、温度計を付けた500mLの三口ナスフラスコに、化合物(4)200g、AHPM196g、塩化白金酸重曹中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)0.6gを添加し、100℃まで加熱し、6時間熟成した。反応後にn-ヘキサンを120g添加し、メタノール水溶液(メタノール:水=4:1)で8回洗浄し、内温80℃で溶媒および未反応の原料などを減圧留去することで無色透明液体を得た。得られた生成物は、下記式(10)で表され、Qが下記式(3)又は(3’)で表される化合物である。収量280.5g。純度96.2%。末端シロキサン基(R Si-基)が有する立体パラメータの値の総計は-7.52である。
【化22】
【化23】
(上記において、*で示される箇所が酸素原子との結合箇所であり、**で示される箇所がカルボニル炭素原子との結合箇所である。)
【0066】
[実施例2]
実施例1において化合物(4)を化合物(5)に変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(11)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度95.4%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は-6.36である。
【化24】
【0067】
[実施例3]
実施例1において化合物(4)を化合物(6)に変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(12)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度96.5%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は-10.36である。
【化25】
【0068】
[実施例4]
実施例1において化合物(4)を化合物(7)に変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(13)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度95.4%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は-6.00である。
【化26】
【0069】
[実施例5]
実施例1において化合物(4)を化合物(8)に変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(14)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度95.2%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は-7.52である。
【化27】
【0070】
[比較例1]
実施例1において化合物(4)をMHMに変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(15)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度88.3%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は0.00である。
【化28】
【0071】
[比較例2]
実施例1において化合物(4)を化合物(9)に変えた以外は実施例1の工程を繰り返し、下記式(16)で表され、Qが上記式(3)又は(3’)で表される化合物を得た。純度93.8%であった。末端シロキサン基が有する立体パラメータの値の総計は-4.00である。
【化29】
【0072】
上述の通り、比較例1の製造方法は、原料ハイドロジェンシロキサン化合物における末端R Si-基の立体パラメータの総計が0であり、存在する水酸基に由来する副反応をはじめとした副反応が避けられず、得られるシロキサン化合物は純度が低い。比較例2の製造方法は、原料ハイドロジェンシロキサン化合物における末端R Si-基の立体パラメータの総計が-4.00であり、得られるシロキサン化合物は比較例1に比べると高い純度を有していたが、95%未満と不十分である。これに対し、実施例1~5の製造方法は、原料オルガノハイドロジェンシロキサン化合物における末端R Si-基の立体パラメータの総計が-5.00以下であり、得られる(メタ)アクリル基含有シロキサン化合物の純度は95%超という高純度を有する。さらには、本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサン製造方法は、工業的に不利な精製方法を必要とせず、簡便かつ高純度で(メタ)アクリル基含有シロキサン化合物を得ることができる。
【0073】
[産業上の利用可能性]
本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法によれば、グリセロール(メタ)アクリレートを有するシロキサン化合物を高純度で簡便に得ることができる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。