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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143723
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】乳酸菌飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20220926BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A23C9/123
A23C9/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044397
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤本 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康晴
(72)【発明者】
【氏名】久保内 宏晶
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】SNFが0.01%以上0.39%以下の乳酸菌飲料であって、冷蔵保存中の乳酸菌の生菌数を1×10cfu/mL以上に維持された乳酸菌飲料の提供及び、生産効率に優れた当該乳酸菌飲料の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】濃縮した副原料と乳酸菌とを混合する際の副原料のBrixを最適化することにより冷蔵保存後も乳酸菌の生菌数を1×10cfu/mL以上に維持されたSNFが0.39%以下の乳酸菌飲料を製造する方法を提供する。また、SNFが0.01%以上0.39%以下の乳酸菌飲料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料。
【請求項2】
乳酸菌がLactobacillus属の乳酸菌である請求項1に記載の乳酸菌飲料。
【請求項3】
Lactobacillus属の乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus rhamnosusから選ばれるいずれか1以上である請求項2に記載の乳酸菌飲料。
【請求項4】
pHが4.0以下である請求項1~3のいずれかに記載の乳酸菌飲料。
【請求項5】
さらに乳塩基性タンパク質を含む請求項1~4のいずれかに記載の乳酸菌飲料。
【請求項6】
一日用量当たり20mg以上の乳塩基性タンパク質を含む請求項5に記載の乳酸菌飲料。
【請求項7】
無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料の製造方法であって、
Brixが28%以下である副原料と乳酸菌とを混合する工程を含む、乳酸菌飲料の製造方法。
【請求項8】
乳酸菌がLactobacillus属の乳酸菌である請求項7に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【請求項9】
Lactobacillus属の乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus rhamnosusから選ばれるいずれか1以上である請求項8に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【請求項10】
乳酸菌飲料のpHが4.0以下である請求項7~9のいずれかに記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【請求項11】
乳酸菌飲料がさらに乳塩基性タンパク質を含む請求項7~10のいずれかに記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【請求項12】
一日用量当たり20mg以上の乳塩基性タンパク質を含む請求項11に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌飲料及びその製造方法に関し、詳しくは、低SNFの乳酸菌飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌の機能性への関心の高まりから、発酵乳や乳酸菌飲料は近年需要が増しているが、SNF8%以上の発酵乳や、SNF3%以上の乳製品乳酸菌飲料に商品が集中しており、風味が画一化されているのが現状である。近年、嗜好が多様化することにより、SNF3%を超える乳製品乳酸菌飲料だけでなく、SNF3%未満ですっきりと飲みやすい風味の乳酸菌飲料が求められている。
【0003】
乳酸菌飲料は乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料であり、SNF3%未満で、乳酸菌数1×10cfu/mL以上が規格として定められている(「乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」)。乳酸菌飲料は、発酵工程におけるpHの低下、風味や保存性の観点から一般に低pHの製品が多く、さらに、甘味付与のために、砂糖や液糖を添加する場合が多い。
【0004】
一般に、乳酸菌は保存期間中の生残性を維持することが難しいと言われており、生残性向上のための方法について種々検討されている。特許文献1には、乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、乳酸菌の培養前の乳等を主成分とする培地や培養後の発酵液に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することで乳酸菌の生残性を改善する方法が開示されている。
また、特許文献2には、特許文献1のような生残性改善剤に頼らずに、発酵乳製造後に、別途乳酸菌を添加し、保存前の乳酸菌の数を増やすことで生残性を向上させようとする方法が開示されている。
しかし、特許文献1では油脂のリパーゼ分解物を添加することから最終製品の風味への影響が懸念され、特許文献2ではさらなる乳酸菌の添加工程が必要となることから製造工程数が増え、生産効率低下の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-162477号公報
【特許文献2】特開2019-118311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来技術はSNF濃度が高い場合の例であり、SNF濃度が低い「乳酸菌飲料」の場合は保存期間中の乳酸菌数の維持がよりいっそう困難であることが本願発明者らにより明らかとなった。加えて、製品を量産化する場合、製造工程での加水分の考慮、および製造の効率化を目的として、濃縮した状態で原材料および乳酸菌が混合されることが多いが、濃縮状態ではpHは製品よりさらに低く、糖度(Brix)はさらに高くなるため、よりいっそう乳酸菌は強いストレスにさらされ保存中の生菌数が減少するという問題がある。
【0007】
したがって、SNF3%未満の乳酸菌飲料の製品化には多くの課題があり、SNFが低ければ低いほど困難であると推測された。
本発明は、SNFが0.01%以上0.39%以下であって生残性の高い乳酸菌飲料の提供、及び、生産効率に優れた当該乳酸菌飲料の製造方法を提供することを課題とする。すなわちSNFが0.01%以上0.39%以下の乳酸菌飲料であって、冷蔵保存中の乳酸菌の生菌数が1×10cfu/mL以上に維持された乳酸菌飲料の提供及び生産効率に優れた当該乳酸菌飲料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、種々の製造条件を見直したところ、濃縮した副原料と乳酸菌とを混合する際の副原料のBrixを最適化することにより冷蔵保存後も乳酸菌の生菌数を1×10cfu/mL以上に維持されたSNFが0.39%以下の乳酸菌飲料を製造することに初めて成功した。すなわち本発明は以下の構成を有する。
<1>無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料。
<2>乳酸菌がLactobacillus属の乳酸菌である<1>に記載の乳酸菌飲料。
<3>Lactobacillus属の乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus rhamnosusから選ばれるいずれか1以上である<2>に記載の乳酸菌飲料。
<4>pHが4.0以下である<1>~<3>のいずれかに記載の乳酸菌飲料。
<5>さらに乳塩基性タンパク質を含む<1>~<4>のいずれかに記載の乳酸菌飲料。
<6>一日用量当たり20mg以上の乳塩基性タンパク質を含む<5>に記載の乳酸菌飲料。
<7>無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料の製造方法であって、Brixが28%以下である副原料と乳酸菌とを混合する工程を含む、乳酸菌飲料の製造方法。
<8>乳酸菌がLactobacillus属の乳酸菌である<7>に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
<9>Lactobacillus属の乳酸菌がLactobacillus casei、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus rhamnosusから選ばれるいずれか1以上である<8>に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
<10>乳酸菌飲料のpHが4.0以下である<7>~<9>のいずれかに記載の乳酸菌飲料の製造方法。
<11>乳酸菌飲料がさらに乳塩基性タンパク質を含む<7>~<10>のいずれかに記載の乳酸菌飲料の製造方法。
<12>一日用量当たり20mg以上の乳塩基性タンパク質を含む<11>に記載の乳酸菌飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、濃縮した副原料と乳酸菌とを混合する際の副原料のBrixを最適化することにより、低SNF濃度においても乳酸菌の生残性を維持することができ、低SNFですっきりとした風味の乳酸菌飲料の提供が可能となった。
また、高SNFの飲料では乳成分の凝集による沈殿を生じる場合、乳成分の特徴として光や酸素による風味の劣化が進みやすい場合、乳固形分と副原料が相互作用する場合などがあり、高品質の飲料を製造するうえでの妨げとなっていた。これらの問題は、SNF濃度0.39%以下の乳酸菌飲料においても同様に生じ得るが、本発明を活用しSNFを調整することで、乳酸菌数の規格を維持しながら前記課題を解決することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(乳酸菌飲料)
本発明は、無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料である。
本発明の乳酸菌飲料は、「乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」で定められた乳酸菌飲料をいう。乳酸菌飲料は、乳等省令で、乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)、と定義されており、さらに「乳製品乳酸菌飲料」と「乳酸菌飲料」の2つに分けられている。
「乳製品乳酸菌飲料」は、SNFを3.0%以上含み、乳酸菌数又は酵母数が1000万/mL以上のものであり、「乳酸菌飲料」はSNFが3.0%未満で、乳酸菌数又は酵母数が100万/mL以上のものである。本発明は、これらのうちSNFが3.0%未満で、乳酸菌数又は酵母数が100万/mL以上である「乳酸菌飲料」に関する。したがって、本発明の乳酸菌飲料は、SNFを0.01%以上0.39%以下含む乳等省令に定義される乳酸菌飲料である。また、換言すれば、本発明は、SNFを0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料であって、冷蔵保存後の乳酸菌の生菌数が1×10cfu/mL以上である乳酸菌飲料をいう。冷蔵保存期間としては、具体的には賞味期限内の期間が挙げられ、具体的には、10日間、20日間、30日間などが挙げられる。
したがって、本発明は、SNFを0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料であって、製造後10日間冷蔵保存後の乳酸菌の生菌数が1×10cfu/mL以上である乳酸菌飲料、製造後20日間冷蔵保存後の乳酸菌の生菌数が1×10cfu/mL以上である乳酸菌飲料、製造後30日間冷蔵保存後の乳酸菌の生菌数が1×10cfu/mL以上である乳酸菌飲料を含む。冷蔵保存の条件は、0~10℃が挙げられる。
【0011】
(SNF(無脂乳固形分))
本発明の乳酸菌飲料におけるSNFとは、乳を構成する成分のうち、乳から水分と脂肪分を除いた固形分をいい、タンパク質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどを主成分として含む。本発明の乳酸菌飲料におけるSNF含量は、0.01~0.39重量%、好ましくは、0.10~0.30重量%の範囲である。SNF含量が0.39重量%より多いか、または、0.01重量%よりも少ないと、風味が好ましくないからである。
【0012】
(pH)
本発明の乳酸菌飲料のpHは、3.2以上4.0以下、好ましくは3.3以上3.9以下である。pHが3.2より低いと酸味が強く、又4.0より高いと酸味が弱く、風味が劣るため好ましくないからである。本発明の乳酸菌飲料のpHを上記の範囲に調整するためには、酸味料を使用する方法、酸性乳を使用する方法、果汁を使用する方法、又はこれらの方法を併用する方法により行うことができる。これらのpHを調整するための酸味料、酸性乳、果汁の使用量は、所望のpHとすることができ、かつ飲料の風味に影響がない範囲であれば特に限定されない。
【0013】
(生残性)
本発明の乳酸菌飲料において、乳酸菌の生残性は高い方が望ましく、また高い生残性を維持する期間も長い方が望ましく、具体的には賞味期限内である。より好ましくは、乳酸菌飲料を製造後0~10℃で10日間冷蔵保存した場合に、10日間保存後の乳酸菌の数が1×10cfu/mL以上である。さらに好ましくは、製造後0~10℃で20日間冷蔵保存した場合に、20日間保存後の乳酸菌の数が1×10cfu/mL以上である。さらに好ましくは、製造後0~10℃で30日間冷蔵保存した場合に、30日間保存後の乳酸菌の数が1×10cfu/mL以上である。
【0014】
(乳酸菌)
本発明における乳酸菌は、乳酸菌飲料の製造に適した乳酸菌であればいずれでもよく、好ましくはラクトバチルス属に属する乳酸菌である。ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・デルブレッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ムコーサエ(Lactobacillusmucosae)、ラクトバチルス・オリス(Lactobacillus oris)、ラクトバチルス・パラブフネリー(Lactobacillus parabuchneri)、ラクトバチルス・ロイテリー(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・バギナリス(Lactobacillus vaginalis)などが挙げられる。このうちでもラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)が特に好ましい。
【0015】
(乳酸菌飲料の製造方法)
本発明の無脂乳固形分(SNF)を0.01%以上0.39%以下含む乳酸菌飲料の製造方法は、Brixが28%以下である副原料と乳酸菌とを混合する工程を含む方法である。
本発明の乳酸菌飲料の製造方法には、原料混合工程、殺菌工程、冷却工程、発酵工程、発酵ベース添加・混合・均質化工程、充填工程、冷却工程を含むことができる。
本発明は、少なくとも乳酸菌を含む発酵ベースと、副原料とを混合する工程において、副原料のBrixを28%以下にすることにより、乳酸菌に与えられるストレスを軽減し、その後の保存における乳酸菌の生残性を高めることを特徴とする。
発酵ベースは次のようにして調整する。まず、生乳、脱脂粉乳等の乳製品を混合・溶解した後、殺菌する。これに乳酸菌を添加し、発酵する。発酵条件はスターターによって異なり、一般に発酵乳や乳酸菌飲料の製造で適用される条件であれば、いずれの温度、時間、仕上げ酸度、仕上げpHでも良い。発酵後、10℃以下の温度に冷却する。乳酸菌を含む発酵乳、発酵ベースを以下の副原料に対して主原料ということがある。
副原料は糖液やその他の成分とともに調製する。予め溶解した糖液および香料等のその他の成分を混合し殺菌する。糖液としては、例えば、ショ糖液糖、異性化液糖等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、一般に発酵乳や乳酸菌飲料の製造で使用されるものであればよい。
上記副原料の混合物に発酵物を添加・混合し、混合・均質化処理を行う。本発明は、主原料となる乳酸菌発酵物を添加する際の副原料のBrixが28%以下であることを要する。副原料には少なくとも糖類と水が含まれ、このほかに香料や食品添加物が含まれる場合もある。発酵物中の乳酸菌と糖液が混合される場合の糖液のBrix(糖度)を28%以下に抑えることにより、乳酸菌のストレスが軽減され、その後の工程や保存における乳酸菌の生残性が高く維持されるからである。副原料のBrixはより好ましくは10%~20%である。
本発明の乳酸菌飲料の製造方法のその他の工程は、特に限定されず、例えば、主原料である前記の乳酸菌を含む発酵乳、発酵ベース、副原料である糖液を混合する工程に加えて、更に他の原料等を添加する工程を含むことができる。主原料と任意の他の原料の混合順序は特に限定されず、他の原料の混合は、乳酸菌の生残性を損なわない限りにおいて、本発明の乳酸菌飲料の製造の任意の段階で行うことができる。
混合・均質化処理後の本発明の乳酸菌飲料は、容器に充填される。本発明の乳酸菌飲料は必要に応じて希釈され、希釈のタイミングは主原料と糖類を含む副原料との混合後、均質化処理前後のいずれでもよい。
なお、本発明においてBrix(糖度)とは、20℃における糖用屈折計の示度であり、デジタル屈折計Rx-5000(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した可溶性固形分量(%)をいう。
【0016】
前記副原料のBrixの調整は、前記副原料に、例えば、糖類や甘味料を含有させる方法により行うことができる。糖類や甘味料としては、ブドウ糖、果糖、キシロース、ガラクトース等の単糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルツロース等の二糖、オリゴ糖、糖アルコール、高甘味度甘味料を使用することができる。これらBrixを調整するための糖類や甘味料の使用量は、所望のBrixとすることができ、かつ乳酸菌飲料の風味に影響がない範囲であれば特に限定されない。
【0017】
本発明の乳酸菌飲料には、乳酸菌の生残性に影響を与えない範囲で、飲料に許容される各種添加剤、例えば、乳化剤、増粘安定剤、酸化防止剤、香料、色素などを添加してもよい。また、健康機能の増強を期待して、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維、乳塩基性タンパク質等の各種機能成分を添加してもよい。本発明で用いる乳塩基性タンパク質は、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳など哺乳類の乳から得られるものであり、乳塩基性タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させて得られる乳塩基性タンパク質分解物も含む概念である。
【0018】
本発明で用いる乳塩基性タンパク質は、次の性質を有しているものが好ましい。
1) ソジウムドデシルサルフェート-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によると分子量3,000~80,000の範囲の数種のタンパク質よりなる。
2) 90重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含む。
3) タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有する。
このような乳塩基性タンパク質は、例えば、脱脂乳や乳清などの乳原料を陽イオン交換樹脂と接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、この樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を0.1M~1Mの塩濃度の溶出液で溶出し、この溶出画分を回収して、逆浸透(RO)膜や電気透析(ED)法などにより脱塩及び濃縮し、必要に応じて乾燥することにより得ることができる。また、このほかにも、乳又は乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて塩基性タンパク質を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を越え、イオン強度0.5を越える溶出液で溶出して得る方法(特開平5-202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭61-246198号公報)、無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平1-86839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭63-255300号公報)などが知られており、本発明では、このような方法で得られた塩基性タンパク質及びその分解物を用いることができる。乳塩基性タンパク質は乳酸菌飲料に対して一日用量当たり20mg以上摂取できるように添加することが望ましい。
【0019】
本発明の乳酸菌飲料を充填する容器としては、各種飲料において従来から一般的に使用される開閉可能な蓋付きの容器を使用することができ、プラスチックボトル、ガラス瓶、アルミニウム缶、スチール缶、紙パックの容器が挙げられる。また容量についても限定はされず、例えば50~2000mLが挙げられる。
【実施例0020】
[試験例1]乳酸菌飲料の製造
(1)発酵ベースの調製方法
脱脂粉乳を10重量%となるように調合水で溶解、混合した後、95℃達温にて殺菌し、37℃まで冷却した。乳酸菌スターターとしてL.paracasei NITE-P1131株を10重量%脱脂粉乳液で培養したものを準備し、1重量%となるように添加し、混合した。37℃で16時間発酵したものを発酵ベースとした。発酵ベースは10℃以下に冷却後使用した。
【0021】
(2)副原料の調製方法
砂糖・異性化液糖(Brix75%)を各水準設定した副原料のBrixとなるように水で希釈し、95℃達温にて殺菌した。10℃以下に冷却したものを副原料として使用した。
【0022】
(3)乳酸菌飲料の製造及び容器への充填
副原料と発酵ベースを99対1の比率で混合し、乳酸菌飲料を製造した。高濃度副原料(Brix20、25、28、30、40%)を使用する水準では副原料と発酵ベースを混合する際に、殺菌水を混合して乳酸菌飲料の最終糖度が他水準と同様になるよう調整した。また乳酸菌飲料のSNFが0.1%以上の水準では還元脱脂乳を殺菌水の代わりに添加し、最終SNFを調整した。SNFが0.01%の水準では副原料と発酵ベースを99.9対0.1で混合し、別途殺菌水の代わりに濃縮・洗浄した乳酸菌を添加することで乳酸菌数を他の水準と同様になるように調整した。乳酸菌飲料はポリスチレン容器に充填し、ヒートシーラーを用いてアルミ蓋をした。充填した乳酸菌飲料は10℃で保存し、適宜乳酸菌数を測定した。
【0023】
(4)乳酸菌数の測定
乳酸菌数の測定は、BCP培地を用いて行った。BCP加プレートカウントアガール(日水製薬(株))を1Lあたり24.7g溶解して調製した培地液を121℃15分間高圧蒸気滅菌後、あらかじめ検体100μLを入れたシャーレに約20mL分注して37℃3日間混釈培養した。培養後のコロニー数をカウントし、乳酸菌数を算出した。
(5)生残率の測定
各保存日数時点の生菌数を保存1日後の生菌数で除したものに100を乗じたものを生残率(%)とした。
【0024】
(6)風味評価の方法
風味評価試験は10名のパネラーが保存1日後の製品100mLを飲用し、絶対評価を行った。すっきりしている(+2)、ややすっきりしている(+1)、どちらでもない(0)、ややすっきりしていない(-1)、すっきりしていない(-2)点の5段階で行った。10名の平均点で1点以上を◎、1点未満を×とした。
【0025】
[実施例1]SNF濃度による生残性と風味への影響確認試験
(1)試験方法
試験例1で製造した容器入り乳酸菌飲料の乳酸菌数を保存1日後、10日後、30日後に計測した。結果を表1に示す。なお、本実施例における乳酸菌飲料の副原料と乳酸菌混合時の副原料のBrixは20%である。
【0026】
【表1】
【0027】
(2)試験結果
結果から明らかなようにSNF0.5%以上の水準4、5、6、7では乳酸菌数および生残率は良好であるが、すっきりとした風味が得られなかった。一方で本願発明のSNF0.39以下の水準1~3ではすっきりした風味で優れており、かつ、乳酸菌飲料の規格値である1E+06(cfu/mL)を維持することができた。
【0028】
[実施例2] 異なるBrixの副原料による生残性への影響確認試験
(1)試験方法
試験例1で製造した容器入り乳酸菌飲料の乳酸菌数を保存1日後、10日後、30日後に計測した。結果を表2に示す。なお、本実施例における乳酸菌飲料のSNFは0.10%である。
【0029】
【表2】
【0030】
(2)試験結果
マスプロダクト食品の製造においては、生産効率を高める目的や製造設備の都合により、高濃度で原料を調合し、最終工程において希釈して最終製品とする場合がある。これらの状況を想定し、異なるBrixの副原料を乳酸菌スターターと混合し、乳酸菌飲料の製造を行った結果、表2に示す結果となった。副原料のBrixが高い水準5、6は乳酸菌の生残率が低下し、乳酸菌数の規格1E+06(cfu/mL)を下回った。一方で、本発明の、副原料のBrixが28%以下である水準1~4では乳酸菌の生残率が高く、乳酸菌飲料の規格値である1E+06(cfu/mL)を維持することができた。この結果から低SNFの乳酸菌飲料において、乳酸菌数、生残率を維持するためには副原料混合時のBrixが28%以下である必要があることが明らかとなった。
【0031】
[実施例3] 異なる乳酸菌株による生残性への影響確認試験
(1)試験方法
試験例1の乳酸菌株を表3,4のように異なる乳酸菌株へ変更して製造した容器入り乳酸菌飲料の乳酸菌数を保存1日後、10日後、30日後に計測した。結果を表3及び表4に示す。なお、本実施例における乳酸菌飲料のSNFは0.10%であり、乳酸菌飲料の副原料と乳酸菌混合時の副原料のBrixは20%(水準1~7)及び40%(水準8~14)である。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
(2)試験結果
実施例1、2で使用した菌株及び菌種以外の乳酸菌を使用した場合にも同様の効果が得られるか試験を行った。対照となる水準1に比較して、L.paracaseiの異なる菌株である水準2、3,L.rhamnosusである水準4,5、L.caseiである水準6,7においても、混合時の副原料Brix20%では生菌数、生残率が高く、乳酸菌数の規格1E+06(cfu/mL)を維持することができた(表3)。一方、混合時の副原料Brix40%の水準8~14では、いずれの菌株、菌種でも生菌数、生残率が低く、乳酸菌飲料の規格値1E+06(cfu/mL)を維持することができなかった(表4)。
以上の結果から本発明の副原料と乳酸菌を混合する際の副原料のBrixを28%以下とする製造方法はL.paracaseiだけではなく他のLactobacillus属においても有効であることが明らかになった。
【0035】
[実施例4] 機能性タンパク質を配合した製品における生残性への影響確認試験
(1)試験方法
試験例1で製造した容器入り乳酸菌飲料の乳酸菌数を保存1日後、10日後、30日後に計測した。副原料として糖液以外に以下で調整した乳塩基性タンパク質を乳酸菌飲料として20mg/100mLになるように混合、溶解した。結果を表5に示す。
(2)乳塩基性タンパク質の調製方法
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績株式会社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40リットル(pH 6.7)を流速25mL/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳塩基性タンパク質21gを得た。
【0036】
【表5】
【0037】
(3)試験結果
副原料として機能性タンパク質を使用した場合においても本発明の効果が得られるかを確認した。本試験においても、乳酸菌飲料SNF0.10%、0.39%の水準1~4ではSNF3.0%に比べてすっきりした風味であった。また、混合時の副原料Brixを20%に設定することで高い乳酸菌数、生残性を達成することができた。
乳塩基性タンパク質を添加した配合においても本発明の効果が得られたことから、副原料として機能性乳タンパク質を添加した場合においても本発明の効果が得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によって、濃縮した副原料と乳酸菌を混合する際のBrixを最適化することにより低SNF濃度においても乳酸菌の生残性を維持することができ、低SNFですっきりとした風味の乳酸菌飲料が提供可能となる。