(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144014
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】カスパーゼ-14発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/064 20060101AFI20220926BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220926BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/235 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/78 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/756 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/718 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/11 20060101ALI20220926BHJP
A61K 36/282 20060101ALI20220926BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220926BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20220926BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220926BHJP
A61K 8/9741 20170101ALI20220926BHJP
A23L 33/145 20160101ALN20220926BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20220926BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20220926BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20220926BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20220926BHJP
A61K 129/00 20060101ALN20220926BHJP
A61K 133/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
A61K36/064
A61P17/16
A61P43/00 111
A61K36/235
A61K36/53
A61K36/73
A61K36/78
A61K36/756
A61K36/718
A61K36/11
A61K36/282
A61Q19/00
A61K8/9728
A61K8/9789
A61K8/9741
A23L33/145
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K131:00
A61K125:00
A61K129:00
A61K133:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044847
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】田邊 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 弘恭
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD66
4B018MD81
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG18
4B117LG24
4B117LK23
4B117LP01
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC03
4C083EE12
4C083EE13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC12
4C087CA11
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC19
4C088AA18
4C088AB29
4C088AB32
4C088AB38
4C088AB40
4C088AB47
4C088AB51
4C088AB62
4C088AC02
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC06
4C088AC11
4C088AC13
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC19
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物由来の組成物の中からカスパーゼ-14発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするカスパーゼ-14発現促進剤を提供する。
【解決手段】カスパーゼ-14発現促進剤に、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上を有効成分として含有せしめる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上を有効成分として含有するカスパーゼ-14発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カスパーゼ-14発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢、紫外線、活性酸素等の影響により皮膚本来の保湿性が衰え、さらには皮膚の収縮性や柔軟性が衰えてくる。皮膚の保湿性(水分保持機能)が低下するとシワが生じ、キメが粗くなり、乾燥肌、荒れ肌となる。そのため、皮膚の水分保持機能を向上させることによって、シワ、乾燥肌等を改善することができると考えられる。また、アレルギーやアトピー性皮膚炎等の治療においても皮膚の保湿性を高め、バリア機能を向上させることは非常に重要である。天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor;NMF)は、皮膚の水分維持に欠かせない保湿物質であり、皮膚の水分保持機能を向上させるためには、皮膚における天然保湿因子(NMF)の産生を促進することが重要である。
【0003】
カスパーゼ(Caspase)は、Cysteine-aspartic-acid-proteaseを略したものであって、システインプロテアーゼの一種である。これまで、カスパーゼとしては、カスパーゼ-1からカスパーゼ-14までの14種類が発見されている。
【0004】
これらのうち、カスパーゼ-14は、表皮に存在する塩基性タンパク質のフィラグリンを分解して天然保湿因子(NMF)を産生する作用を有することが知られている。したがって、カスパーゼ-14の発現を促進することにより、天然保湿因子(NMF)の産生を促進し、皮膚のバリア機能及び水分保持機能の低下を予防又は改善することができると考えられる。また、カスパーゼ-14の発現促進を通じて皮膚のバリア機能の低下を予防又は改善することで、皮膚のバリア機能の低下が一因と考えられているアトピー性皮膚炎や魚鱗癬等の皮膚疾患の予防、治療又は改善することができると考えられる。
【0005】
従来、カスパーゼ-14発現促進作用を有するものとしては、ウンシュウミカンの抽出物、オレンジの抽出物、グレープフルーツの抽出物、ダイダイの抽出物、ハッサクの抽出物、マンダリンオレンジの抽出物、ユズの抽出物、レモンの抽出物、マルキンカンの抽出物(特許文献1参照)、カミツレの抽出物、エンメイソウの抽出物、アルニカの抽出物、紅茶の抽出物、チョウジの抽出物より選ばれる1種又は2種以上の抽出物(特許文献2参照)、エキナセア属の植物の抽出物、ヨモギの抽出物、エイジツの抽出物、ヒバマタの抽出物より選ばれる1種又は2種以上の抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-063479号公報
【特許文献2】特開2017-160187号公報
【特許文献3】特開2017-039699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性の高い天然物由来の組成物の中からカスパーゼ-14発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするカスパーゼ-14発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上を有効成分として含有するカスパーゼ-14発現促進剤を提供する。
【0009】
本実施形態における有効成分を得るために使用される抽出原料は、酵母、ウイキョウ、ワイルドタイム、オニイチゴ、ジュウヤク、オウバク、オウレン、スギナ及びインチンコウである。
【0010】
酵母は、直径5~10μm程度の球形又は楕円形の単細胞生物である真菌類の総称であり、糖類を分解してアルコール発酵を行う性質を有する。抽出原料としては、パン酵母、ビール酵母、日本酒酵母(清酒酵母)、ぶどう酒酵母(ワイン酵母)等のサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母(学名:Saccharomyces cerevisiae)等の酵母を用いることができる。
【0011】
本実施形態における酵母抽出物は、抽出原料である酵母に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る抽出方法により得られるものであればよく、例えば、酵母の自己消化を誘発させる自己消化法、酸等の添加により可溶化させる加水分解法、タンパク質分解酵素等の酵素添加により可溶化させる酵素分解法等により得られる抽出液等であればよい。なお、本実施形態における酵母抽出物は、上記方法により得られる酵母抽出液に常法に従って、希釈、濃縮、乾燥等の処理を施した希釈物、濃縮物又は乾燥物であってもよい。
【0012】
ウイキョウ(学名:Foeniculum vulgare)は、セリ科ウイキョウ属に属する多年生草本であって、インド、中国、エジプト等において栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るウイキョウの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、根部、果実部、果皮部、果核部、地上部、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは果実部である。
【0013】
ワイルドタイム(学名:Thymus serpyllum L.)は、シソ科イブキジャコウソウ属に属する植物であって、ヨーロッパから北西アジアを原産とし、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るワイルドタイムの部位としては、例えば、葉部、枝部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは地上部である。
【0014】
オニイチゴ(学名:Rubus ellipticus)は、別名でヒマラヤンラズベリーとも呼ばれるバラ科キイチゴ属に属するつる性の常緑低木であって、ヒマラヤから東南アジア、中国東南部で自生又は栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るオニイチゴの部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、樹皮部、根部、種皮部、果実部、果核部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0015】
ジュウヤク(生薬名)は、ドクダミ科ドクダミ属に属するドクダミ(学名:Houttuynia cordata)の地上部である。ドクダミは、日本各地に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0016】
オウバク(生薬名)は、ミカン科キハダ属に属するキハダ(学名:Phellodendron amurense)の樹皮部である。キハダは北海道、本州、四国、九州等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0017】
オウレン(学名:Coptis japonica Makino)は、キンポウゲ科オウレン属に属する多年草の植物であって、北海道、本州、四国の山地等において栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るオウレンの部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、地上部、根茎部又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは根茎部である。
【0018】
スギナ(学名:Equisetum arvense)は、トクサ科トクサ属に属する夏緑多年生シダ植物であって、北半球の暖帯以北において広く栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るスギナの部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、地上部、根部、これらの混合物、又は全草等が挙げられるが、好ましくは全草である。
【0019】
インチンコウ(生薬名)は、キク科ヨモギ属に属するカワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris)の花部である。カワラヨモギは北海道、本州、四国、九州等において広く栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0020】
なお、「花」とは、一般に種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と、茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、オシベ、心皮等の器官が含まれる。本実施形態において抽出原料として使用し得る「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、複数の花の集合体である頭花や、花の一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0021】
上記の抽出原料からの抽出物に含まれるカスパーゼ-14発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、上記抽出原料からカスパーゼ-14発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。なお、抽出物には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0022】
上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま、または粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0023】
抽出に用いられる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、またはこれらの混合物等が挙げられ、室温または溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。各抽出原料に含まれるカスパーゼ-14発現促進作用を有する成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0025】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0026】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。水と脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましい。水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
【0027】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温または還流加熱下で抽出することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に各抽出原料を投入し、必要に応じて撹拌しながら、30分~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得ることができる。得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥することにより乾燥物が得られる。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には50~95℃で1~4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、40~80℃で30分~4時間程度である。
【0028】
以上のようにして得られた抽出液は、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0029】
なお、得られた抽出液はそのままでもカスパーゼ-14発現促進剤として使用することができるが、濃縮液または乾燥物としたもののほうが好ましい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0030】
また、上記各抽出物は特有の匂いと味を有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、例えば活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0031】
以上のようにして得られる酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物は、カスパーゼ-14発現促進作用を有しているため、その作用を利用してカスパーゼ-14発現促進剤の有効成分として用いられ得る。
【0032】
なお、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤においては、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物のうちのいずれか1種を上記有効成分として用いてもよいし、それらのうちの2種以上を混合して上記有効成分として用いてもよい。酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物のうちの2種以上を混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、それらの作用の程度に応じて適宜決定されればよい。
【0033】
本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤は、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上を製剤化したものであってもよい。
【0034】
上記抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。上記抽出物を製剤化したカスパーゼ-14発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤は、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物が有するカスパーゼ-14発現促進作用を通じて、カスパーゼ-14の発現を促進することができる。これにより、皮膚の天然保湿因子(NMF)の産生を促進し、皮膚のバリア機能及び水分保持機能の低下を予防及び改善することができる。また、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤は、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物が有するカスパーゼ-14発現促進作用を通じて、アトピー性皮膚炎や魚鱗癬等の皮膚疾患を予防、治療及び改善することができる。ただし、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤は、これらの用途以外にもカスパーゼ-14発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0036】
本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0037】
また、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤、又は酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上は、優れたカスパーゼ-14発現促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料や、飲食品等に配合するのに好適である。
【0038】
酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物から選ばれる1種または2種以上や、上記カスパーゼ-14発現促進剤を配合可能な化粧料としては、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸等が挙げられる。上記抽出物やカスパーゼ-14発現促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量は、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。化粧料は、上記抽出物が有するカスパーゼ-14発現促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0039】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口または消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態に係る「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する組成物を幅広く含むものである。本実施形態における飲食品は、当該飲食品又はその包装に上記抽出物が有するカスパーゼ-14発現促進作用が表示されるものであってもよいし、当該飲食品は、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品又は医薬品であってもよい。
【0040】
上記抽出物、又は上記抽出物から製剤化したカスパーゼ-14発現促進剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象飲食品が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の形態である場合、上記抽出物、又は上記抽出物から製剤化したカスパーゼ-14発現促進剤の添加量は、添加対象飲食品に対して通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0041】
上記抽出物の混合物又は上記抽出物の混合物から製剤化したカスパーゼ-14発現促進作用剤を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液および調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等が挙げられ、これらの飲食品に上記抽出物の混合物又はカスパーゼ-14発現促進作用剤を配合するときに、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0042】
なお、本実施形態に係るカスパーゼ-14発現促進剤はヒトに対して好適に適用されるものであるが、カスパーゼ-14発現促進効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0043】
以下、製造例、試験例等を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。
【0044】
〔製造例1〕酵母抽出物の製造
酵母の粉末100gを酸加水分解した後、濾過した。得られた抽出液を乾燥して酵母抽出物(21g)を得た。
【0045】
〔製造例2〕ウイキョウ抽出物の製造
ウイキョウの果実部の乾燥物100gに精製水1500mLを加え、80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してウイキョウ抽出物(10g)を得た。
【0046】
〔製造例3〕ワイルドタイム抽出物の製造
ワイルドタイムの地上部の乾燥物100gに50容量%1,3-ブチレングリコール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してワイルドタイム抽出物(2.5g)を得た。
【0047】
〔製造例4〕オニイチゴ抽出物の製造
オニイチゴの根部の乾燥物100gに80容量%エタノール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間還流抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してオニイチゴ抽出物(4g)を得た。
【0048】
〔製造例5〕ジュウヤク抽出物の製造
ドクダミの地上部の乾燥物100gに50容量%1,3-ブチレングリコール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してジュウヤク抽出物(4g)を得た。
【0049】
〔製造例6〕オウバク抽出物の製造
キハダの樹皮部の乾燥物100gに50容量%1,3-ブチレングリコール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してオウバク抽出物(9g)を得た。
【0050】
〔製造例7〕オウレン抽出物の製造
オウレンの根茎部の乾燥物100gに90容量%エタノール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間還流抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してオウレン抽出物(5g)を得た。
【0051】
〔製造例8〕スギナ抽出物の製造
スギナの全草の乾燥物100gに50容量%エタノール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間還流抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してスギナ抽出物(3.5g)を得た。
【0052】
〔製造例9〕インチンコウ抽出物の製造
カワラヨモギの頭花の乾燥物100gに50容量%1,3-ブチレングリコール溶液1500mLを加え、80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してインチンコウ抽出物(6g)を得た。
【0053】
〔試験例〕カスパーゼ-14mRNA発現促進作用試験
上記製造例1~9で得られた酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物について、下記の方法によりカスパーゼ-14mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0054】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、75cm2フラスコにて正常ヒト表皮角化細胞用増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を20×104cells/mLの細胞密度になるようにKGM培地で希釈した後、6ウェルプレート(FALCON社製)に2mLずつ播種し(40×104cells/ウェル)、24時間培養した。
【0055】
培養後に培地を除去し、各被験試料(製造例1~9の抽出物)を溶解したKGM培地を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃・5%CO2-95%airの条件下にて24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKGM培地を用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGENII(ニッポンジーン社製,Cat. No. 311-07361)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0056】
この総RNAを鋳型とし、カスパーゼ-14および内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(R) Real Time SystemIII(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(R) Fast qPCR Mix (タカラバイオ社製)による2ステップリアルタイムRT-PCR反応により行った。カスパーゼ-14mRNAの発現量は、「被験試料添加」および「試料無添加」にてそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求めた。得られた値から、下記式によりカスパーゼ-14mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0057】
カスパーゼ-14mRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中の「A」は、被験試料を添加したものの補正値を表し、「B」は、被験試料無添加のものの補正値を表す。
【0058】
上記試験の結果を表1に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のカスパーゼ-14mRNA発現促進率は100%となる。
【0059】
【0060】
表1に示すように、酵母抽出物、ウイキョウ抽出物、ワイルドタイム抽出物、オニイチゴ抽出物、ジュウヤク抽出物、キハダ抽出物、オウレン抽出物、スギナ抽出物及びインチンコウ抽出物は、いずれも高いカスパーゼ-14発現促進率を示した。この結果から、これらの抽出物は、優れたカスパーゼ-14発現促進作用を有することが確認された。
本発明のカスパーゼ-14発現促進剤は、優れたカスパーゼ-14発現促進作用を有するので、化粧料や飲食品等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。