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特開2022-144107ポリマー材料の構造分析方法およびポリマー材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144107
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ポリマー材料の構造分析方法およびポリマー材料
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20220926BHJP
   C08F 283/02 20060101ALI20220926BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20220926BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G01N23/04
C08F283/02
C08F255/02
C08F251/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044974
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大下 浄治
(72)【発明者】
【氏名】中谷 都志美
【テーマコード(参考)】
2G001
4J026
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA01
2G001CA03
2G001HA13
2G001LA05
2G001NA04
2G001NA07
2G001NA15
2G001RA02
2G001RA05
4J026AA02
4J026AA12
4J026AA13
4J026AA17
4J026AA25
4J026AA49
4J026AA68
4J026AB07
4J026AB28
4J026AC01
4J026BA08
4J026BA29
4J026BB01
4J026BB10
4J026DB36
4J026GA10
(57)【要約】
【課題】ポリマー材料の電子線または放射線撮像装置を用いた構造分析方法において高コントラストな画像を得る。
【解決手段】ポリマー母材の洗浄工程と、洗浄後の前記ポリマー母材を、ラジカル反応性モノマーを含む放射線造影剤へ浸漬させた状態で放射線を照射し、該ポリマー母材と該ラジカル反応性モノマーとをラジカル反応によってグラフト重合させ、ポリマー材料を得る工程と、を含み、前記ラジカル反応性モノマーは、原子番号が塩素以上の重元素を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体のポリマー材料の電子線または放射線撮像装置を用いた構造分析方法であって、
ポリマー母材の洗浄工程と、
洗浄後の前記ポリマー母材を、ラジカル反応性モノマーを含む放射線造影剤へ浸漬させた状態で放射線を照射し、該ポリマー母材と該ラジカル反応性モノマーとをラジカル反応によってグラフト重合させ、ポリマー材料を得る工程と、を含み、
前記ラジカル反応性モノマーは、原子番号が塩素以上の重元素を有することを特徴とするポリマー材料の構造分析方法。
【請求項2】
前記洗浄工程は、ソックスレー抽出を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリマー材料の構造分析方法。
【請求項3】
前記重元素は、塩素、臭素、ヨウ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマスから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマー材料の構造分析方法。
【請求項4】
前記ラジカル反応性モノマーが、メタクリレート、アクリレート、スチレンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のポリマー材料の構造分析方法。
【請求項5】
固体のポリマー母材と、原子番号が塩素以上の重元素を有するラジカル反応性モノマーとのグラフト重合体であることを特徴とするポリマー材料。
【請求項6】
前記重元素は、塩素、臭素、ヨウ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマスから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のポリマー材料。
【請求項7】
前記ラジカル反応性モノマーが、メタクリレート、アクリレート、スチレンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5または6に記載のポリマー材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子線または放射線撮像装置を用いたポリマー材料の構造分析方法およびポリマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な物質の構造を分析するため、電子線または放射線撮像装置が用いられている。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線CT(Computed Tomography)装置は、分析対象物に電子線またはX線を照射し、分析対象物の材質や密度によって異なる透過度の強弱を画像の濃淡として可視化することで分析対象物の断面の画像を得る。このような電子線または放射線を利用した分析装置において、例えばポリマー材料と添加剤との相互作用を分析する際、いずれも主成分が炭素であるために、高コントラストな画像を得ることが難しい。
【0003】
このような問題に関連して、特許文献1には、X線検査機による樹脂成形体の検出に関し、比較的大きい原子であるバリウムを含む硫酸バリウムを樹脂に混錬して樹脂成形体を得ることにより、その樹脂成形体のX線検査機による検出を容易にしたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-112612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、予め樹脂に硫酸バリウムを混錬して樹脂成形体を得るため、既に成形体となった樹脂を構造分析することはできず、汎用性が低い。様々な固体のポリマー材料に対し、そのポリマー材料の構造を変化させることなく、容易に構造分析を可能とする方法が求められている。
【0006】
ここに開示する技術は、重元素を有するラジカル反応性モノマーをポリマー材料にグラフト重合させることで、高コントラストな画像を得ることを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するために、重元素を有するラジカル反応性モノマーをラジカル反応によってポリマー材料にグラフト重合させた。
【0008】
具体的に、ここに開示する技術は、固体のポリマー材料の電子線または放射線撮像装置を用いた構造分析方法であって、ポリマー母材の洗浄工程と、洗浄後の前記ポリマー母材を、ラジカル反応性モノマーを含む放射線造影剤へ浸漬させた状態で放射線を照射し、該ポリマー母材と該ラジカル反応性モノマーとをラジカル反応によってグラフト重合させ、ポリマー材料を得る工程と、を含み、前記ラジカル反応性モノマーは、原子番号が塩素以上の重元素を有することを特徴とする。
【0009】
この構成によると、放射線の照射によって、ポリマー材料の主鎖構造を変化させることなく、容易にラジカル反応性モノマーとポリマー材料とをグラフト重合させることが可能である。この方法により得られた重元素を含有するポリマー材料は、SEM、TEM、X線CT装置等の電子線または放射線撮像装置による構造分析において、高コントラストな画像を得ることが可能となり、構造分析の精度を向上させることができる。また、この方法により得られた重元素を含有するポリマー材料は、高機能性のポリマー材料として有用である。
【0010】
なお、好ましくは、前記洗浄工程は、ソックスレー抽出を含む。
【0011】
ソックスレー抽出を用いてポリマー母材を洗浄することにより、ポリマー母材とラジカル反応性モノマーとのグラフト重合の反応性が向上し、より高コントラストな画像を得ることが可能となる。
【0012】
また、好ましくは、前記重元素は、塩素、臭素、ヨウ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマスから選択される少なくとも1種である。
【0013】
このような重元素は、炭素原子と比較して放射線の吸収が高いため、ポリマー母材に付加させてポリマー材料とすることで、より高コントラストな画像を得て、より精度の高い構造分析を行うことが可能となる。
【0014】
そして、前記ラジカル反応性モノマーが、メタクリレート、アクリレート、スチレンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
また、ここに開示するポリマー材料は、固体のポリマー母材と、原子番号が塩素以上の重元素を有するラジカル反応性モノマーとのグラフト重合体である。
【0016】
このようなポリマー材料は、SEM、TEM、X線CT装置等の電子線または放射線撮像装置による構造分析において、高コントラストな画像を得ることが可能となり、構造分析の精度を向上させることができる。また、このようなポリマー材料は、重元素の特性を活かし、高機能性のポリマー材料として有用である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本開示によれば、重元素を有するラジカル反応性モノマーをラジカル反応によってポリマー材料にグラフト重合させることで、電子線または放射線撮像装置による構造分析において高コントラストな画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1のポリマー材料および比較例1のポリマー母材のX線CT画像である。
図2】実施例1のポリマー材料のFIB-SEM画像である。
図3】実施例1のポリマー材料のTOF-SIMSの臭素元素のマッピング画像である。
図4】実施例1のポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)のスペクトルである。
図5】実施例1のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)のスペクトルである。
図6】実施例2のポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)のスペクトルである。
図7】実施例2のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)のスペクトルである。
図8】実施例2のポリマー材料および比較例2のポリマー母材のX線CT画像である。
図9】実施例2のポリマー材料および比較例2のポリマー母材のX線CTヒストグラムである。
図10】実施例3のポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)のスペクトルである。
図11】実施例3のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)のスペクトルである。
図12】実施例3のポリマー材料および比較例2のポリマー母材のX線CT画像である。
図13】実施例3のポリマー材料および比較例2のポリマー母材のX線CTヒストグラムである。
図14】実施例4のポリマー材料および比較例1のポリマー母材のX線CT画像およびヒストグラムである。
図15】実施例5のポリマー材料の元素分析のスペクトルである。
図16】実施例5のポリマー材料および比較例3のポリマー母材のX線CT画像である。
図17】実施例6のポリマー材料の元素分析のスペクトルである。
図18】実施例7のポリマー材料の元素分析のスペクトルである。
図19】実施例7のポリマー材料のTOF-SIMSのスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
[ポリマー材料]
本実施形態に係るポリマー材料は、固体のポリマー母材と、原子番号が塩素以上の重元素を有するラジカル反応性モノマーとのグラフト重合体である。
【0021】
-母材ポリマー-
母材ポリマーは、固体の成形体であって、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルや、プロピレン・エチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ガラス、炭素材料、セルロース等を含む。母材ポリマーは、単独でまたは複数種類を組み合わせて採用することができる。母材ポリマーは、固体であれば形状は特に限定されないが、例えば、繊維体、粒体、フィルム体、またはこれらの複合体であってもよく、好ましくは繊維体である。
【0022】
-放射線造影剤-
本開示の構造分析方法では、上記母材ポリマーを放射線造影剤へ浸漬させ、グラフト重合させたポリマー材料の分析を行う。放射線造影剤は、ラジカル反応性モノマーおよび溶剤を含む。
【0023】
ラジカル反応性モノマーは、原子番号が塩素以上の元素を重元素として有する。原子番号が塩素以上の重い元素は、炭素原子と比較して放射線の吸収が高い。また、特にハロゲン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物およびビスマス化合物は、大きな放射線増感作用を示すことで知られているため、好ましくは、重元素は塩素、臭素、ヨウ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマスから選択される少なくとも1種である。原子番号が塩素以上の元素を、母材ポリマーに付加させてポリマー材料とすることにより、ポリマー材料とそれ以外の成分や空隙との電子線または放射線の透過度の差を大きくし、電子線または放射線撮像装置によってポリマー材料の高コントラストな画像を得ることが可能となる。
【0024】
下記化学式(1)に示すように、ラジカル反応性モノマーとポリマー母材は、放射線の照射によってラジカル反応を起こし、グラフト重合体であるポリマー材料となる。そのため、ラジカル反応性モノマーは、放射線の照射によってポリマー母材とラジカル反応可能なラジカル重合性基を有する化合物である。なお、化学式(1)中の黒丸はラジカルを示す。
【0025】
【化1】
【0026】
ラジカル反応性モノマーは、例えば、2-ブロモエチルメタクリレート、2-クロロエチルメタクリレート等のメタクリレート(メタクリル酸エステル)、2-ブロモエチルアクリレート、2-クロロエチルアクリレート等のアクリレート(アクリル酸エステル)、ブロモスチレン、クロロスチレン、ジブロモスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン等のスチレンが挙げられる。これらは1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
溶剤は、ラジカル反応性モノマーを溶解可能なものであれば、特に限定されることはなく、例えばジクロロメタンを用いることができる。
【0028】
[構造分析方法]
本実施形態に係るポリマー材料の構造分析方法は、固体のポリマー材料の電子線または放射線撮像装置を用いた構造分析方法であって、ポリマー母材の洗浄工程と、洗浄後のポリマー母材を、ラジカル反応性モノマーを含む放射線造影剤へ浸漬させた状態で、放射線を照射し、ポリマー母材とラジカル反応性モノマーとをラジカル反応によってグラフト重合させ、ポリマー材料を得る工程と、を含む。
【0029】
本開示の構造分析方法に用いる撮像装置は、電子線源または放射線源と、分析対象物を挟んで電子線源または放射線源と対向し分析対象物を透過した透過電子線または透過放射線を測定する検出部を少なくとも備える。なお、以下の説明では、放射線としてX線を用いたX線CT装置を放射線撮像装置として用いた例について述べるが、電子線を利用した走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)もX線CTと同様に本開示の構造分析方法を適用可能である。
【0030】
SEMは、反射電子の強度に原子番号依存性があるため、反射電子の強度を高め、明るく見える。TEMは、重元素の部位が強く散乱するため、透過度が下がるため暗く見える。X線CTは、X線の吸収係数は重元素ほど大きいため、透過像は暗く見えるが、CT像は白黒反転しているので、明るく見える。SEM、TEMおよびX線CTによって得られる画像には以上のような違いがあるが、電子線または放射線の透過、散乱または吸収を利用して撮像することにより微細構造を観察可能な分析装置であるという点で共通する。
【0031】
-洗浄工程-
まず、ポリマー母材は、ラジカル反応性モノマーとの反応性を高めるため、表面に付着する可溶成分を洗浄することが好ましい。エタノールやアセトン等の溶剤を用いて超音波洗浄することも可能であるが、ソックスレー抽出による洗浄が好ましい。
【0032】
-重合反応工程-
反応容器にラジカル反応性モノマーと溶剤とを入れ、放射線造影剤の溶液を用意する。その反応容器内に洗浄後のポリマー母材を入れ、ポリマー母材を放射線造影剤へ浸漬させる。ポリマー母材を放射線造影剤へ浸漬させた状態で、放射線を照射する。放射線を数時間照射することで、ポリマー母材にラジカル反応性モノマーをグラフト重合させたポリマー材料が得られる。放射線は、ポリマー母材の構造にラジカルを発生させることが可能であれば、種類は特に限定されないが、例えばγ線やプラズマを用いることができる。
【0033】
-構造分析工程-
得られたポリマー材料を試料とし、X線CT装置により測定して画像を得ることにより構造分析を行う。また、得られたCT画像のtif画像から輝度のヒストグラムを取り、2値化して画像の高コントラスト化を確認する。
【0034】
[実施例1]
実施例1では、ポリマー母材として繊維体のポリエチレンテレフタレートをソックスレー抽出により洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとして2-ブロモエチルメタクリレートを含む放射線造影剤を用いた。
【0035】
繊維体のポリマー母材(ポリエチレンテレフタレート)をソックスレー抽出により洗浄した。具体的には、ポリマー母材5gを円筒紙にセットし、100gの蒸留水を用いてソクッスレー抽出を行った。マントルヒーターで130℃に加熱し、沸騰させ、3時間還流した。30℃の蒸留水で洗浄後、放冷し、60℃のドライオーブンで24時間乾燥させた。
【0036】
放射線造影剤の調製には、ジクロロメタン(フジフィルム和光純薬(株))1.5mlと市販の2-ブロモエチルメタクリレート(東京化成工業(株))、または、合成した2-ブロモエチルメタクリレート0.6mlを用いた。なお、市販のメタクリレート試薬を用いる場合は減圧蒸留を行い、重合禁止剤を除去して用いた。この放射線造影剤の溶液を5mlサイズの褐色アンプル管に入れた。放射線造影剤中のラジカル反応性モノマーのモル濃度は15.0%であった。放射線造影剤の入ったアンプル管に、ソックスレー抽出による洗浄後のポリマー母材50mgを入れ、10分間アルゴンガスによる置換を行い、封緘した。
【0037】
放射線造影剤とポリマー母材とを入れたアンプル管にγ線照射を行い、ラジカル反応によりポリマー母材とラジカル反応性モノマーとのグラフト重合を行った。グラフト重合により得られたポリマー材料について、X線CT撮像により構造分析を行った。
【0038】
[比較例1]
比較例1では、ポリマー母材として、繊維体のポリエチレンテレフタレートを実施例1と同様のソックスレー抽出により洗浄し、乾燥させたものを用いた。比較例1においては、ポリマー母材に対してグラフト重合を行うことなく、実施例1との比較に用いた。
【0039】
[X線CT画像の比較]
グラフト重合させた実施例1のポリマー材料と、グラフト重合させていない比較例1のポリマー母材とを1.0mmφのポリイミドチューブに詰めて試料を作成し、2つの試料を1つの3.0mmφのポリイミドチューブに入れて並べた状態で、同時にX線CT装置(ナノフォーカスX線CT,RIGAKU nano3DX)により撮像を行った。測定条件は、レンズ:L1080,ターゲット:Cr,ビニング:1,露光時間:5.6sec,180°回転である。X線CT装置により得られた実施例1のポリマー材料および比較例のポリマー母材の断面画像を図1に示す。グラフト重合により重元素が付加した実施例1のポリマー材料では、比較例1のポリマー母材と比較して画像のコントラストが大きく改善された。
【0040】
[重元素導入の確認]
実施例1のポリマー材料の繊維断面を集束イオンビーム源付電界放射走査電子顕微鏡(FIB-SEM)により観察した。また、元素分析(20kV,0.87A)および元素マッピング測定(5.0kV,13A)を行うことにより、ポリマー母材の内部まで臭素が存在していることを確認した。FIB-SEM画像を図2に、TOF-SIMSの臭素元素のマッピング分析画像を図3に示す。
【0041】
また、実施例1のポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)を測定した。図4に示すように、γ線照射後の実施例1のポリマー材料には、ポリエチレンテレフタレートのメチレン基に新たな結合(図4中矢印のピーク)が確認され、ポリマー母材とラジカル反応性モノマーとがグラフト重合していることが確認された。実施例1では、下記化学式(2)に示す反応が起こったと考えられる。
【0042】
【化2】
【0043】
さらに、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する臭素の導入量を確認するため、実施例1のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)を測定した。図5中の矢印に示すように、グラフト化による新たな結合に由来するピークが観測され、13C-NMRの積分比から、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する臭素の導入量を算出すると、ポリエチレンテレフタレートの主鎖の(a)の位置(化学式(2)参照)において、45ppm付近に26.5%の臭素が導入されたことが確認できた。
【0044】
[実施例2]
実施例2では、ポリマー母材として繊維体のポリエチレンテレフタレートをエタノールにより30分間超音波洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとして2-クロロエチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬(株))を含む放射線造影剤を用いた。なお、2-クロロエチルメタクリレートは減圧蒸留したものを用いた。放射線造影剤中のラジカル反応性モノマーのモル濃度は16.39%であった。また、実施例1と同様の方法でポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射し、得られたポリマー材料について、下記比較例2のポリマー母材とともにX線CT撮像を行った。なお、X線CT撮像の測定条件は実施例1と同様である。
【0045】
[比較例2]
比較例2では、ポリマー母材として繊維体のポリエチレンテレフタレートを実施例2と同様にエタノールにより超音波洗浄し、乾燥させた。比較例2のポリマー母材はグラフト化を行うことなく、実施例2および実施例3との比較に用いた。
【0046】
実施例2は、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることを確認するためγ線の照射時間ごとにポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)を測定した。図6に示すように、γ線を4時間照射したポリマー材料についてスペクトルの変化が見られ、グラフト化(図6中矢印のピーク)が確認された。実施例2では、下記化学式(3)に示す反応が起こったと考えられる。
【0047】
【化3】
【0048】
また、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する塩素の導入量を確認するため、実施例2のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)を測定した。図7中の矢印に示すように、γ線を4時間照射したポリマー材料について、グラフト化による新たな結合に由来するピークが観測され、13C-NMRの積分比から、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する塩素の導入量を算出すると、ポリエチレンテレフタレートの主鎖の(a)の位置(化学式(3)参照)において、45ppm付近に29.6%の塩素が導入されたことが確認できた。
【0049】
γ線を8時間照射した実施例2のポリマー材料について、比較例2のポリマー母材とともにX線CT撮像により得られた断面画像を図8に示す。目視による判断は困難であったが、得られたX線CT画像のtif画像から輝度のヒストグラムを取り、図9のように2値化できたため、グラフト重合により重元素が付加した実施例2のポリマー材料では、比較例2のポリマー母材と比較してX線CT画像のコントラストが改善されたと言える。
【0050】
[実施例3]
実施例3では、ポリマー母材として繊維体のポリエチレンテレフタレートをエタノールで洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとしてp-ブロモスチレン(富士フィルム和光純薬(株))を含む放射線造影剤を用いた。なお、p-ブロモスチレンは減圧蒸留したものを用いた。放射線造影剤中のラジカル反応性モノマーのモル濃度は16%であった。また、実施例1と同様の方法でポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射し、得られたポリマー材料について、比較例2のポリマー母材とともにX線CT撮像を行った。なお、X線CT撮像の測定条件は実施例1と同様である。
【0051】
実施例3は、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることを確認するためγ線の照射時間ごとにポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)を測定した。図10に示すように、γ線を8時間照射したポリマー材料についてスペクトルの変化が見られ、グラフト化(図10中矢印のピーク)が確認された。実施例3では、下記化学式(4)に示す反応が起こったと考えられる。
【0052】
【化4】
【0053】
また、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する臭素の導入量を確認するため、実施例3のポリマー材料の固体NMR(13C-DDMAS)を測定した。図11中の矢印に示すように、γ線を8時間照射したポリマー材料について、グラフト化による新たな結合に由来するピークが観測され、13C-NMRの積分比から、ポリエチレンテレフタレート骨格に対する臭素の導入量を算出すると、ポリエチレンテレフタレートの主鎖の(a)の位置(化学式(4)参照)において、25ppm付近に4.42%の臭素モノマーが導入されたことが確認できた。
【0054】
グラフト化が十分に進行したと考えられるγ線を8時間照射した実施例3のポリマー材料について、比較例2のポリマー母材とともにX線CT撮像により得られた断面画像を図12に示す。比較例2に比べ、実施例3ではコントラストの改善が目視によっても確認された。また、得られたX線CT画像のtif画像から輝度のヒストグラムを取り、図13のように2値化できたため、グラフト重合により重元素が付加した実施例3のポリマー材料では、比較例2のポリマー母材と比較してX線CT画像のコントラストが改善されたと言える。
【0055】
[実施例4]
実施例4では、ポリマー母材として繊維体のポリエチレンテレフタレートを実施例1と同様にソックスレー抽出によって洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとして実施例3と同様にp-ブロモスチレンを含む放射線造影剤を用いた。放射線造影剤中のラジカル反応性モノマーのモル濃度は16%であった。また、実施例1と同様の方法でポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射し、得られたポリマー材料について、比較例1のポリマー母材とともにX線CT撮像を行った。なお、X線CT撮像の測定条件は実施例1と同様である。
【0056】
実施例4では、γ線の照射時間ごとにポリマー材料の固体NMR(13C-CPMAS)を測定したところ、4時間照射したポリマー材料についてスペクトルの変化が見られ、グラフト化されていることが確認された。γ線を4時間照射した実施例4のポリマー材料について、比較例1のポリマー母材とともにX線CT撮像により得られた断面画像と、輝度のヒストグラムを図14に示す。2値化により、実施例4のポリマー材料では、比較例2のポリマー母材と比較してX線CT画像のコントラストが改善されたことが確認できた。
【0057】
ポリマー母材の洗浄方法の異なる実施例3および実施例4を比較した場合、エタノールによって超音波洗浄した実施例3では、γ線を8時間照射したポリマー材料においてグラフト化が確認されたのに対し、ソックスレー抽出により洗浄を行った実施例4では、γ線を4時間照射したポリマー材料においてグラフト化が確認された。この結果から、ポリマー母材の洗浄方法はソックスレー抽出を用いた方が、グラフト重合の反応性が高く、より効果的にX線CT画像のコントラストを改善できると考えられる。
【0058】
[実施例5]
実施例5では、ポリマー母材としてペレットのポリプロピレンを実施例2と同様にエタノールによる超音波洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとして実施例3と同様にp-ブロモスチレンを含む放射線造影剤を用いた。また、実施例1と同様の方法でポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射し、得られたポリマー材料について元素分析を行ったところ、臭素のピークが確認され、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることが確認できた。元素分析の測定結果を図15に示す。また、得られたポリマー材料について下記比較例3のポリマー母材とともにX線CT撮像を行った。なお、X線CT撮像の条件は、レンズ:L1080,ターゲット:Cr,ビニング:4,露光時間:5.6sec,360°回転である。
【0059】
[比較例3]
比較例3では、ポリマー母材として実施例5と同様にペレットのポリプロピレンをエタノールにより30分間超音波により洗浄し、乾燥させた。比較例3において、ポリマー母材はグラフト化を行うことなく、実施例5との比較に用いた。
【0060】
図16示すように、グラフト重合により重元素が付加した実施例5のポリマー材料では、比較例3のポリマー母材と比較してX線CT画像のコントラストが改善された。
【0061】
[実施例6]
実施例6では、ポリマー母材としてセルロースフィルムをエタノールにより30分間超音波洗浄したものを用い、ラジカル反応性モノマーとして実施例3と同様にp-ブロモスチレンを含む放射線造影剤を用いた。また、実施例1と同様の方法でポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射してグラフト化を行い、得られたポリマー材料について、元素分析を行ったところ、臭素のピークが確認され、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることが確認できた。元素分析の測定結果を図17に示す。
【0062】
実施例5および6の結果から、ポリマー母材はポリエチレンテレフタレートに限らず、様々な種類のポリマーを適用可能であると考えられる。
【0063】
[実施例7]
実施例7では、ポリマー母材としてフィルム状(厚さ25μmm)のポリエチレンテレフタレートを用い、ラジカル反応性モノマーとして、実施例1と同様に2-ブロモエチルメタクリレートを含む放射線造影剤を用いた。ポリマー母材は、アセトンにより30分間超音波により洗浄し、乾燥させた。ポリマー母材およびラジカル反応性モノマーにγ線を照射して、ポリマー材料を得た。
【0064】
得られたポリマー材料について、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることを確認するため、元素分析およびTOF-SIMSの測定を行った。なお、元素分析用の固体試料の作製にはカーボンテープを使用し、Auスパッタを行った。測定装置には日立製作所製S-3000N+EDAX Genesisを用い、加速電圧は20kV、測定領域はSEM像の視野である。
【0065】
図18に元素分析の測定結果を示し、図19にTOF-SIMSの測定結果を示す。元素分析およびTOF-SIMSの測定結果では、臭素のピークが確認され、ポリマー母材へラジカル反応性モノマーが導入されていることが確認できた。X線CT画像では、γ線照射後に得られたポリマー材料と、γ線照射前のポリマー母材について大きな差は見られなかったことから、ポリマー母材の形状は実施例1のような繊維体であることが好ましいと考えられる。
図1
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