(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144148
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】揚重冶具
(51)【国際特許分類】
B66C 1/10 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B66C1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045036
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】井野 潤也
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004EA26
3F004KA01
(57)【要約】
【課題】 天秤本体に曲げや撓みを生じさせることなく、吊り荷を軽量で且つ簡単な構造で安定的に揚重できる揚重冶具を提供する。
【解決手段】 吊り荷2とクレーン3の吊りフック4との間に介在させて使用する揚重冶具1であって、互いに平行な1対の同形状の長尺の主鋼材10と、これらの各々の中央部に両端部が垂直に接続された1本の長尺の副鋼材20と、1対の主鋼材10の互いに対向する両端部同士及び副鋼材20の中央部に接続されたトラス構造の補強鋼材30とから構成され、1対の主鋼材10の各々には、その上端面に第1スリングS1の端部が係合する複数の上側係合部11が設けられていると共に、その下端面に吊り荷2を吊り下げる複数の第2スリングS2の端部がそれぞれ係合する複数の下側係合部12が長手方向の少なくとも両端に設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り荷と揚重機械の吊りフックとの間に介在させて使用する揚重冶具であって、互いに平行な1対の同形状の長尺の主鋼材と、これら1対の主鋼材の各々の中央部に両端部が垂直に接続された1本の長尺の副鋼材と、該1対の主鋼材の互いに対向する両端部同士及び該副鋼材の中央部に接続されたトラス構造の補強鋼材とから構成され、該1対の主鋼材の各々には、その上端面に前記吊りフックに係合させる複数の第1スリングの端部がそれぞれ係合する複数の上側係合部が長手方向の一端から他端まで等間隔に設けられていると共に、その下端面に前記吊り荷を吊り下げる複数の第2スリングの端部がそれぞれ係合する複数の下側係合部が長手方向の少なくとも両端に設けられていることを特徴とする揚重冶具。
【請求項2】
前記補強鋼材は、前記1対の主鋼材の互いに対向する一端部同士及び他端部同士をそれぞれ接続する2本の第1補強鋼材と、該2本の第1補強鋼材の中央部と前記副鋼材の中央部とに垂直に接続する2本の第2補強鋼材と、該2本の主鋼材の両端部及び該副鋼材の中央部に斜め方向に接続する4本の第3補強鋼材とから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の揚重冶具。
【請求項3】
前記主鋼材及び副鋼材がH形鋼からなり、前記補強鋼材が丸パイプからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の揚重冶具。
【請求項4】
前記1対の主鋼材の各々は、前記上側係合部が4箇所に設けられていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の揚重冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り荷と揚重機械の吊りフックとの間に介在させて使用する揚重冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
工場内や建設現場では、機器や建築資材等の揚重物と称する大型の重量物をクレーンで吊り下げて運搬したり据付けたりする作業が行われており、このクレーンによる吊り下げ時に揚重物の姿勢が安定するように、吊り天秤を介して揚重物を吊り上げることが行われている。吊り天秤で揚重物を吊り上げたときは、一般的にH形鋼などの長尺の鋼材からなる天秤本体に曲げモーメントやせん断応力がかかるため、これにより天秤本体が曲がったり撓んだりしないように、天秤本体は十分な強度を有している必要がある。そのため、吊り天秤は一般的に重量が大きくなる傾向にあった。
【0003】
そこで、吊り天秤を軽量化する技術が各種提案されている。例えば特許文献1には、吊り天秤を構成する天秤本体において、その揚重対象となる揚重物の2箇所の吊り下げ点に対応する位置に、これら2箇所の吊り下げ点の離間距離と同程度に離間させた2個のスリングガイドを設け、クレーン等の揚重機械の吊りフックに係合させた2本のスリングをこれら2個のスリングガイドを経由させて揚重物の2箇所の吊り下げ点に係合させる技術が開示されている。これにより、吊り天秤が揚重物を吊り下げる位置と、揚重機械の吊りフックによって吊り天秤が吊り下げられる位置とを天秤本体の長手方向において一致させることができるので、天秤本体に曲げモーメントやせん断応力が働きにくくなり、天秤本体を軽量化できると記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、揚重機械の吊りフックに係合させた第1条材によって吊り下げられる小天秤と、該小天秤に係合させた複数の第2条材によって吊り下げられる大天秤とから構成される吊り天秤が開示されている。これにより、天秤自体が撓んだり曲がったりするのを防ぐと共に、剛性の低い鉄筋等の吊り荷であっても安定的に揚重できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-255472号公報
【特許文献2】特開2009-190820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1の吊り天秤では、鉄筋等の低剛性の吊り荷を揚重する場合のように、吊り荷の吊り下げ点を増やす必要が生じたときは、スリングガイドの設置個数もこれに合わせて増やす必要があり、吊り天秤の構造が複雑になる。この場合、構造を簡素化するため、天秤本体において吊り荷の吊り下げ点に対応する各位置に、特許文献1のスリングガイドに代えて一般的な吊りピースやアイボルト等の係合部を上側と下側に設けることが考えられる。しかしながら、この場合は、上側に設けた係合部に係合させた複数の玉掛けワイヤーの端部を全て揚重機械の吊りフックに引っ掛けることが必要になるため、吊りフックのタイプによっては全てを引っ掛けることができないことがあった。
【0007】
このように、吊りフックに全ての玉掛けワイヤーを引っ掛けることができないときは、玉掛けワイヤーの本数を減らして対応することになるが、この場合は、吊り荷の吊り下げ用の複数の係合部がそれぞれ設けられている天秤本体の長手方向の複数の位置の内のいくつかが、吊りフックに引っ掛けた玉掛けワイヤーで係合されない非連結点になる。そのため、天秤自体が十分に大きな断面二次モーメントを有していなければ、曲げや撓みが生じるおそれがあった。一方、上記の特許文献2の吊り天秤は、上記の非連結点に起因する曲げ等の問題を回避することが可能になるものの、小天秤及び大天秤からなる複雑な二段構造で構成されるため、玉掛作業に熟練を要するうえ、吊り天秤の取扱いや保管に手間がかかることが問題になりうる。
【0008】
本発明は、上記した従来の吊り天秤が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、天秤本体に曲げや撓みを生じさせることなく、吊り荷を安定的に揚重できる軽量で且つ簡単な構造の揚重冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る揚重冶具は、吊り荷と揚重機械の吊りフックとの間に介在させて使用する揚重冶具であって、互いに平行な1対の同形状の長尺の主鋼材と、これら1対の主鋼材の各々の中央部に両端部が垂直に接続された1本の長尺の副鋼材と、該1対の主鋼材の互いに対向する両端部同士及び該副鋼材の中央部に接続されたトラス構造の補強鋼材とから構成され、該1対の主鋼材の各々には、その上端面に前記吊りフックに係合させる複数の第1スリングの端部がそれぞれ係合する複数の上側係合部が長手方向の一端から他端まで等間隔に設けられていると共に、その下端面に前記吊り荷を吊り下げる複数の第2スリングの端部がそれぞれ係合する複数の下側係合部が長手方向の少なくとも両端に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量で且つ簡単な構造であるにもかかわらず、天秤本体に曲げや撓みを生じさせることなく吊り荷を安定的に揚重することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の揚重冶具を介してクレーンにより吊り荷としての屋根付きフェンスを吊り下げている状態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態の揚重冶具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る揚重冶具の実施形態について説明する。
図1に示すように、この本発明の実施形態の揚重冶具1は、吊り荷2とクレーン3の吊りフック4との間に介在させて用いるものであり、
図2に示すように、互いに平行な1対の同形状の長尺の主鋼材10と、これら1対の主鋼材10の各々の中央部に好適には溶接により両端部が垂直に接続された1本の長尺の副鋼材20と、1対の主鋼材10の互いに対向する両端部同士及び副鋼材20の中央部に好適には溶接により接続されたトラス構造の補強鋼材30とから構成される。
【0013】
上記の1対の主鋼材10及び副鋼材20は、同サイズのH形鋼で形成するのが好ましく、該H形鋼はそのフランジ部の幅が100~200mm程度、そのウエブ部を縦にしたときの高さが100~200mm程度であるのがより好ましい。また、これら主鋼材10及び副鋼材20の長さは約4~8m程度であるのが好ましい。他方、補強鋼材30は丸パイプや丸棒で形成するのが好ましく、軽量化の観点から鋳鉄パイプ等の外径20~60mm程度の丸パイプを用いるのがより好ましい。
【0014】
上記構造の揚重冶具1を作製する場合は、先ず3本の好ましくは同じサイズのH形鋼を用意し、それらのウエブ部がいずれも縦となるようにして全体的に平面視H字状に配置する。なお、副鋼材20に該当する1本のH形鋼の両端部は、予め溶接のための切り欠き加工や開先加工を行なっておく。上記の副鋼材20となる1本のH形鋼の両端部を主鋼材10となる1対のH形鋼の中央部に溶接することでH字状構造体を形成する。
【0015】
次に、補強鋼材30用として予め所定の長さに切断しておいた丸パイプや丸棒を用意し、これらの各々の両端部を、上記のH字状構造体を構成するH形鋼のウエブ部に溶接する。その際、必要に応じて上記の丸パイプや丸棒の端部を他の丸パイプや丸棒に溶接してもよい。これにより、副鋼材20に関して対称なトラス構造の補強鋼材30で上記のH字状構造体が補強された揚重冶具1を作製することができる。なお、トラス構造とは、複数の三角形で構成される骨組構造のことである。
【0016】
本発明の実施形態の揚重冶具1は、上記のように市販されている入手の容易な部材を用いて簡易に作製できるので製作費用を抑えることができる。また、全ての構造部材をH形鋼で形成するのではなく、トラス構造で補強する補強鋼材30には丸パイプや丸棒を用いることで、揚重冶具1の強度を確保しつつ揚重冶具全体の軽量化を図ることができる。
【0017】
上記の補強鋼材30によって形成するトラス構造は、例えば
図2に示すように、2本の主鋼材10の互いに対向する一端部同士及び他端部同士に好適には溶接によりそれぞれ接続される2本の第1補強鋼材31と、これら2本の第1補強鋼材31の中央部と副鋼材20の中央部とに好適には溶接により垂直に接続される2本の第2補強鋼材32と、2本の主鋼材10の両端部及び副鋼材20の中央部に好適には溶接により斜め方向に接続される4本の第3補強鋼材33とによって構成することができる。
【0018】
上記の2本の主鋼材10の各々に、ワイヤロープやチェーン等のシリンジの端部が係合する吊りピースやアイボルト等の複数の係合部が設けられている。具体的には、
図3に示すように、各主鋼材10の上端面に、揚重機械の吊りフックに引っ掛けられる第1スリングS1の端部が係合する4個の矩形板材からなる上側係合部11が、主鋼材10の長手方向の一端から他端まで等間隔に設けられている。また、主鋼材10の下端面に、図示しない吊り荷の吊り下げ点に係合させた第2スリングS2の端部が係合する2個の矩形板材からなる下側係合部12が、主鋼材10の長手方向の両端部に設けられている。
【0019】
このように、主鋼材10の上端面に複数の吊りピース等の上側係合部11を設けることで、クレーンの吊りフックに係合させる複数本の第1スリングS1によって揚重冶具1を多点吊りできるので、吊り荷の重心が揚重冶具1の重心と一致していない場合であっても吊り荷の姿勢を水平に保つことができる。なお、上側係合部11や下側係合部12の個数は上記個数に限定されるものではなく、必要に応じて増減させてもよい。また、
図3に示すように、副鋼材20の上端面の中央部に吊りピース21を設けてもよい。
【実施例0020】
図3に示すような揚重冶具1を作製し、
図1に示すようにクレーン3の吊りフック4と吊り荷2との間に揚重冶具1を介在させて揚重作業を行なった。具体的に説明すると、揚重冶具1の1対の主鋼材10及び副鋼材20には、いずれも長さ6000mmのH形鋼材(W6×15、ワイドフランジビーム)を使用した。これら3本のH形鋼をそれらのウエブ部がいずれも縦となるようにして平面視H字状に配置した。そして、互いに平行な1対のH形鋼の中央部に、これらに垂直な1本のH形鋼の両端部を溶接した。なお、この1本のH形鋼の両端部は溶接接続のため切り欠き加工及び開先加工を行なっておいた。このようにして、主鋼材10及び副鋼材20から構成される平面視H字状の構造体を先ず作製した。
【0021】
上記にて作製した平面視H字状の構造体を、副鋼材20に関して対称なトラス構造の補強鋼材30によって補強するため、呼び径1-1/2Bの鋳鉄パイプを8本用意し、それらの各々を上記の平面視H字状の構造体を構成する各H形鋼のウエブ部の上側に溶接した。なお、一部の鋳鉄パイプは他の鋳鉄パイプの中央部に溶接した。更に、各主鋼材10の上端面に矩形板材からなる4個の上側係合部11を溶接で取り付けると共に、主鋼材10の下端面に矩形板材からなる2個の下側係合部12を溶接で取り付けた。
【0022】
上記のようにして作製した揚重冶具1を用いて、寸法が幅5.75m×奥行き6.0m、重さ約2tonの略直方体形状の屋根付きフェンスを
図1に示すようにクレーン3で吊り上げた。その際、クレーン3の吊りフック4に引っ掛けた8本の第1スリングS1の端部を上側係合部11に係合させると共に、下側係合部12に係合させた4本の第2スリングS2で屋根付きフェンスを吊り下げた。この屋根付きフェンスは側面が3方のみで構成されているため、平面視で縦6.0m×横6.0mの揚重冶具1とは重心の位置が一致してないが、安定的に吊り下げて据付けることができた。なお、第1スリングS1には、ワイヤーとチェーンブロックとを合わせて合計8本使用し、先ず仮吊り下げの状態で吊り荷のバランスを取りながら第1スリングS1の長さをチェーンブロックで調節することで玉掛け作業を行なった後、仮置き場から据付場所まで屋根付きフェンスを吊り下げて運搬した。
【0023】
比較のため、上記と同サイズの3本のH形鋼を用いて平面視H字状の構造体のみからなる揚重冶具を作製し、丸パイプによるトラス構造の補強は行なわなかった。この比較例の揚重冶具を用いて上記と同様にして屋根付きフェンスをクレーンで吊り下げようとしたところ、H形鋼で構成されるH字状の構造体が撓むと共に、揚重冶具に捻じりが生じたので作業を中止した。
【0024】
上記のように、3本のH形鋼を用いた平面視H字状の構造体のみからなる揚重冶具の場合は強度上の問題が生じたが、これを丸パイプによりトラス構造で補強することにより、平面視H字状の構造体にかかる荷重を丸パイプからなる補強鋼材を介して分散させることが可能になると考えられるため、揚重冶具とは重心が一致しない吊り荷を吊り下げる場合であっても、平面視H字状の構造体に撓みや捻じれを生じさせることなく安定して揚重することが可能になった。