(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144260
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】光学スペクトルの測定方法及びその測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
G01N21/27 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045180
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】川波 肇
(72)【発明者】
【氏名】小平 哲也
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059CC12
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE07
2G059EE12
2G059HH02
2G059HH03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】気泡を含む溶液であっても該気泡の発生や成長の影響を受けることなく、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことの可能な測定方法及びその装置を提供。
【解決手段】拡散反射材粒子を加えられた溶液をセルに与えて該溶液の光学スペクトルを測定する装置であって、セルの光学窓に沿って拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させる回転機構と、光学窓を介して入射光を与え且つ拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定する光学系と、を含む。かかる装置において、溶液に拡散反射材粒子を加え、セルの光学窓に沿って拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させる。この光学窓を介して入射光を与え且つ拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルに与えられた溶液の光学スペクトルの測定方法であって、
前記溶液に拡散反射材粒子を加え、前記セルの光学窓に沿って前記拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させるとともに、前記光学窓を介して入射光を与え且つ前記拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定することを特徴とする溶液の光学スペクトルの測定方法。
【請求項2】
前記拡散反射材粒子で散乱してくる前記拡散反射光を集光する集光手段を含むことを特徴とする請求項1記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項3】
前記溶液は気泡を含み、前記回転攪拌による遠心力により前記気泡を前記回転軸の周囲に偏在させることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項4】
前記気泡は前記溶液の反応により生じることを特徴とする請求項3記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項5】
前記セルは回転対称軸を有する円筒状であって、前記回転対称軸を前記回転軸に一致させていることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項6】
前記拡散反射材粒子は、前記入射光に対して光吸収を有さず、前記溶液と異なる屈折率を有する透明粉末材料からなることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項7】
前記光学スペクトルは、光吸収スペクトルであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項8】
前記光学スペクトルは、蛍光・ラマン散乱スペクトルであることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定方法。
【請求項9】
拡散反射材粒子を加えられた溶液をセルに与えて該溶液の光学スペクトルを測定する装置であって、
前記セルの光学窓に沿って前記拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させる回転機構と、
前記光学窓を介して入射光を与え且つ前記拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定する光学系と、を含むことを特徴とする溶液の光学スペクトルの測定装置。
【請求項10】
前記拡散反射材粒子で散乱してくる前記拡散反射光を集光する集光手段を含むことを特徴とする請求項9記載の光学スペクトルの測定装置。
【請求項11】
前記溶液は気泡を含み、前記回転攪拌による遠心力により前記気泡を前記回転軸の周囲に偏在させるように回転機構を制御する制御部を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の光学スペクトルの測定装置。
【請求項12】
前記セルは回転対称軸を有する円筒状であって、前記回転対称軸を前記回転軸に一致させていることを特徴とする請求項9乃至11のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定装置。
【請求項13】
前記光学スペクトルは、光吸収スペクトルであることを特徴とする請求項9乃至12のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定装置。
【請求項14】
前記光学スペクトルは、蛍光・ラマン散乱スペクトルであることを特徴とする請求項9乃至12のうちの1つに記載の光学スペクトルの測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の光学スペクトルの測定方法及びその測定装置に関し、特に、気泡を含む溶液の光学スペクトルの測定方法及びその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸(HCOOH)を適当な触媒下で分解すると、一酸化炭素(CO)をほとんど発生させずに、選択的に水素(H2)及び二酸化炭素(CO2)を得ることができる。例えば、特許文献1では、金属錯体からなる液体触媒を用い、反応を耐圧容器中で行うことで高圧の水素と二酸化炭素を得る方法を開示している。ここで、反応溶液中に溶解させた金属錯体触媒の劣化状態などをin-situ(その場)観察するには、溶液の光学スペクトルを測定することが提案される。一方、かかる反応系の溶液では、生成する気泡(ガス泡)による光の散乱及び/又は反射があるため、透過型又は反射型のいずれの光吸収スペクトルの測定方法であっても、受光系において十分かつ安定した光強度を得られず、信号対ノイズ比(S/N比)の低い信号となって、正確な測定をすることが難しい、微量な変化の検出が難しいといった問題がある。
【0003】
ここで、光吸収スペクトルの測定におけるS/N比を高める方法が数多く提案されている。例えば、特許文献2では、積分球を使って集光し光吸収強度を上げて光吸収スペクトルを測定する方法が開示されている。また、非特許文献1では、一般的に、粉体や固体試料の測定を対象とする拡散反射法において、液体である油脂を粉体の表面に含浸させて乾燥させ、その表面を鏡面加工した上で拡散反射法により油脂からの反射光強度を高めて光吸収スペクトルを測定する方法について述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-124730号公報
【特許文献2】特開平5-118911号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤沢健、「溶液試料滴下拡散反射法による鉱油系潤滑油の定量分析」、長野県工業技術総合センター研究報告、No.14,p.M1~M6,2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、ギ酸の分解反応のようにガスを発生させる反応系では、溶液中に含まれる気泡によって該溶液の正確な光吸収スペクトルの測定が難しくなる。また、気泡(ガス泡)は反応容器の内表面から発生し、その場に付着して成長し、そして最終的には脱離していく。即ち、時間的且つ空間的に気泡の体積や密度、そして分布状態が変化する。そのため、受光系の光感度を高めたとしても、波長掃引型の測定や、経時変化を追跡する繰り返し(インターバル)測定のような、一定の時間を要する測定においては、時間的且つ空間的な気泡の変化が測定データに反映され安定かつ正確な測定が難しい。
【0007】
本発明は、上記したような事情を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、溶液の光学スペクトルの測定方法及びその測定装置において、新規な手法を提案するもので、気泡を含む溶液であっても該気泡の発生や成長の影響を受けることなく、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことの可能な測定方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、一般的には粉体や固体試料の分光分析法である拡散反射法の概念と測定方法を根本から考え直し、かつ、鋭意研究した結果、液体試料、特に、ガスを発生させる反応系の溶液であっても、時間的且つ空間的に検出信号を安定化させ、しかも、信号強度を高めることのできる測定方法と装置を提供できることを見いだした。
【0009】
詳細には、従来の拡散反射法による光学スペクトルの測定では、一般的に被測定物は粉体であるが、この粉体が色を有しておりそのため光を吸収し、且つ、個々の粒子が光散乱の担い手として機能する。この際、粒子間には空気などの無色透明なガス(気体)、もしくは脱気による真空状態が介在する。ここで、本願発明では、前記した従来の拡散反射法の概念とは逆に、被測定物である溶液自身が色を有する、つまり、光吸収を有し、溶液内に無色透明な粉体粒子を分散させることで光を拡散又は反射させるという基本着想に想到した。すなわち、従来の拡散反射法と比較すると、ポジとネガの関係とも言える。かかる着想を基軸に、後述する回転撹拌法を組み合わせて、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明による方法は、セルに与えられた溶液の光学スペクトルの測定方法であって、前記溶液に拡散反射材粒子を加え、前記セルの光学窓に沿って前記拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させるとともに、前記光学窓を介して入射光を与え且つ前記拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定することを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、光学窓近傍の溶液で測定を行って、それ以外の溶液部分の状態に影響を受けず、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことができるのである。従来、分光分析を出来なかった高濃度溶液、懸濁液においても測定が可能であって、しかも、紫外~可視~近赤外~赤外といった幅広い波長範囲の光学スペクトルの測定が可能である。
【0012】
上記した発明において、前記拡散反射材粒子で散乱してくる前記拡散反射光を集光する集光手段を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、反射光強度を高めることができて、高感度且つ高精度で光学スペクトルの測定を行うことができるのである。
【0013】
上記した発明において、前記溶液は気泡を含み、前記回転攪拌による遠心力により前記気泡を前記回転軸の周囲に偏在させることを特徴としてもよい。また、前記気泡は前記溶液の反応により生じることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、気泡を含む溶液であっても該気泡の発生や成長の影響を受けることなく、高感度且つ高精度で光学スペクトルの測定を行うことができるのである。
【0014】
また、本発明による装置は、拡散反射材粒子を加えられた溶液をセルに与えて該溶液の光学スペクトルを測定する装置であって、前記セルの光学窓に沿って前記拡散反射材粒子の分散流れを形成させるように回転軸の周りで回転攪拌させる回転機構と、前記光学窓を介して入射光を与え且つ前記拡散反射材粒子で散乱してくる拡散反射光を得てその光学スペクトルを測定する光学系と、を含むことを特徴とする。
【0015】
かかる特徴によれば、光学窓近傍の溶液で測定を行うことができて、それ以外の溶液部分の状態に影響を受けず、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことができるようになるのである。従来、分光分析を出来なかった高濃度溶液、懸濁液においても測定が可能となり、しかも、紫外~可視~近赤外~赤外といった幅広い波長範囲の光学スペクトルの測定が可能である。
【0016】
上記した発明おいて、前記拡散反射材粒子で散乱してくる前記拡散反射光を集光する集光手段を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、反射光強度を高めることができて、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことができるのである。
【0017】
上記した発明において、前記溶液は気泡を含み、前記回転攪拌による遠心力により前記気泡を前記回転軸の周囲に偏在させるように回転機構を制御する制御部を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、気泡を含む溶液であっても該気泡の発生や成長の影響を受けることなく、高感度、高精度且つ安定した光学スペクトルの測定を行うことができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による測定の原理を示す図である。(b)は(a)の部分Pを模式的に拡大して示した図である。
【
図2】本発明による装置を模式的に表した平面図である。
【
図5】本発明の1つの実施例による波長に対する吸光度のグラフである。
【
図6】本発明の1つの実施例による各波長における溶液濃度に対する吸光度のグラフである。
【
図7】比較例による波長に対する吸光度のグラフである。
【
図8】比較例による各波長における溶液濃度に対する吸光度のグラフである。
【
図9】本発明の1つの実施例による溶液の各濃度における(a)波長に対する吸光度、(b)その縦軸を拡大したグラフである。
【
図10】本発明の1つの実施例による各波長における(a)溶液濃度に対する吸光度、(b)その縦軸を拡大したグラフである。
【
図11】本発明の1つの実施例による拡散反射材の各濃度における(a)波長に対する吸光度、(b)その縦軸を拡大したグラフである。
【
図12】本発明の1つの実施例による各波長における(a)拡散反射材の量に対する吸光度、(b)その縦軸を拡大したグラフである。
【
図13】本発明の1つの実施例による拡散反射材の各量における光吸収スペクトルのグラフである。
【
図14】本発明の1つの実施例に用いられる触媒の構造式である。
【
図15】本発明の1つの実施例による各測定時間における(a)波長に対する吸光度、(b)その横軸を拡大したグラフである。
【
図16】本発明の1つの実施例による(a)イリジウム錯体の各濃度における波長に対する吸光度、(b)各波長におけるイリジウム錯体の濃度に対する吸光度のグラフである。
【
図17】本発明の1つの実施例による(a)波長に対する吸光度、(b)測定時間に対する吸光度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1(a)に示すように、ギ酸の分解反応のようなガスを発生させる反応系の溶液Sにおいて、気泡110を均一に分散させるためには、回転攪拌槽100の中で溶液Sを回転軸の周囲に高速で回転攪拌させることが考慮される。ここで、溶液S中には、溶媒よりも密度の高い拡散反射材粒子112を入れて懸濁させておく。すると、遠心力により、密度の低い気泡110が回転攪拌槽100の回転軸(中心軸)Cの周囲に集まる一方、密度の高い拡散反射材粒子112が回転攪拌槽100の外壁100aに沿って偏在し分散流れを形成するとともに、気泡110が空間的に分離される。かかる状態で、入射光(プローブ光)L
0を透明な外壁100aを介して回転攪拌槽100に入射させ、拡散反射材粒子112によって散乱される反射光(拡散反射光)L
1を集光し光学スペクトルを測定することで、気泡110の影響を受けずにその測定が可能となるのである。なお、拡散反射材粒子112の濃度が高ければ、光反射をさせる粒子間距離を短くさせる結果、粒子間に存在する溶液による光吸収が見かけ上弱まって拡散反射スペクトルに反映されることになる。これについては、実施例にて後述する。
【0020】
上記した方法では、反応時にガス発生し気泡110を生じる、生じないに関わらず、従来、光学スペクトルの測定が出来なかった高濃度の溶液、懸濁液などでも測定が可能である。入射光L0も、紫外~可視~近赤外~赤外など、幅広い波長範囲の光を用いて光学スペクトルの測定をでき、これまで測定できなかった反応や溶液の光学スペクトルの測定が可能となる。また、主溶媒として水を、発生ガスとして水素を、一例として挙げられるが、この組み合わせに限定されるものではなく、酵素反応や炭酸水からの二酸化炭素の発生を始め、メタン、硫化水素、酸素など、溶液と混合状態となるガス(気泡)が存在する系での光学スペクトルの測定に適用可能である。また、溶媒も水に限らず、無機、有機、及びそれらの混合溶液等についても適用できる。
【0021】
図1(b)は、
図1(a)を部分的に拡大したもので、拡散反射材粒子112による光の拡散について模式的に示したものである。これによれば、溶液Sへの入射光L
0、または、ある拡散反射材粒子112によって反射又はこれを透過した光は、更に、他の拡散反射材粒子112にて反射又はこれを透過することを繰り返していく。ここで、拡散反射材粒子112は、入射光L
0などに対して光吸収を生じない透明な材質であるから、該粒子112を透過する光は減衰しない。つまり、光の減衰は、拡散反射材粒子112の粒子間に存在する溶液Sによるものとなるのである。
【0022】
そのため、拡散反射材粒子112の濃度が高くなると、平均粒子間距離が小さくなり、溶液Sの光吸収による光の減衰は生じにくくなり、見かけ上、得られるスペクトルの光吸収強度は弱めに観察される。一方、拡散反射材粒子112の濃度が低くなると、見かけ上、光吸収強度は強めに観察される。これらのことから、拡散反射材粒子112の濃度を低くし過ぎると、該拡散反射材粒子112による拡散反射の頻度が下がり、気泡110の影響を相対的に増大させることになる。また、溶液Sを入射光L0が通過し回転攪拌槽(セル)の反対側に到達してしまうことも生じうる。このため、光吸収強度の波長依存性における測定精度が低下する恐れを考慮すべきである。これについては後述する。
【0023】
図2には、上記した回転攪拌槽100をセル30として収容する測定装置の概念を示した。装置1は、光源10aを含む光源部10、反射鏡11及び12、セル30を収容するサンプル室20、分光部40から構成され、光源部10の光源10aから反射鏡11を介して入射光(プローブ光)L
0をサンプル室20のセル30に導く。また、セル30からの反射光L
1について反射鏡12を介して分光部40へと導いて分光分析を行うものである。
【0024】
図3及び4には、セル30の周囲のより詳細な光学系の構成を示した。入射光L
0及び反射光L
1のそれぞれの光路中には第2の反射鏡11a及び12aを挿入され、試料室25からセル30へ、また、分光部40へと光路を形成している。
【0025】
ここで、光源部10の光源10aについては、測定目的に合わせて選択され、紫外~可視~近赤外~赤外光の各領域又はこれらに跨がった領域の波長の光を発生させる光源である。光源としては、ハロゲンランプ、重水素ランプ、キセノンランプ、グローバーランプ等の光源のほか、レーザーなどの単色、高輝度、高コヒーレンスな光源など、目的に応じて選択可能である。
【0026】
光源10aからの光は、反射鏡11によって集光され、セル30に照射可能である。必要に応じて、反射鏡11に代わり、レンズ、光ファイバ等を間に介していても良い。セル30内の溶液Sと拡散反射材粒子112の混合物からなる試料からは、入射光L0の照射に伴い、反射光L1が発せられる。これを反射鏡12のような集光手段によって可能な限り大きな立体角にて集光することにより、検出感度を高めることができる。なお、光照射時と同様に、レンズや光ファイバ等により拡散反射光L1を集光してもよい。集光された光は分光部40に導入され、波長に対応した光強度を検出される。分光部40はその目的に応じて、例えば、蛍光・ラマン散乱スペクトル測定では低迷光の高性能二重分光器や高感度な二次元検出器等、目的に応じて選択され得る。
【0027】
なお、光源部10からの入射光L0をセル30内の試料(溶液)Sに照射し、その反射光L1を分光して光強度を検出するが、例えば、光吸収スペクトル測定では、白色光をセル30に照射して分光するのではなく、分光された単色光をセル30に照射する公知の測定方法であってもよい。また、蛍光測定でも単色光の照射ができるが、分光部40においても分光機能を与えることになる。更に、赤外光の領域での光吸収スペクトルでは、干渉計(典型的には、マイケルソン干渉計)を通過した変調光を入射光L0として用いてもよい。
【0028】
ここでは、凹面型の反射鏡12を用いているが、セル30内の試料からの拡散反射光L
1を集光し、分光部40に導く目的において、反射鏡12に代わり、硫酸バリウムやアルミナ等の白色粉末体を塗布した、または,アルミニウム、金などの金属をコーティングした積分球を用いて、更に大きな立体角にて拡散反射光L
1を集光しても構わない。ただし、溶液(試料)の光吸収が強い場合、セル30内の溶液(試料)からの反射光L
1に、セル30の表面からの反射光L
2(特に、
図4参照)が混入することを防止し、測定精度を向上させることも求められる。
【0029】
一般に平坦な固体粉末に光照射させる場合には、拡散反射光は立体角2πで放射される。故に、セル30内の溶液に光照射が可能である限り、入射角には条件はない。また、検出される反射光L1の方向についても同様である。ただし、反射光L1の強度分布の角度依存性は、通常の平滑平面の連続体物質における光反射のように、入射角と反射角とが一致した場合に最大となるため、その角度近傍の拡散反射光L1を集光することが好ましい。このとき、セル30の表面からの正反射光の反射角に近いため、前記した通り、正反射光の混入に注意を払う必要がある。
【0030】
サンプル室20は、セル30の温度と圧力を一定に保持することができる部屋(空間)であり、サンプル室20とセル30が一体となっていても良く、その温度と圧力の範囲は、測定に必要な温度や圧力条件、セル30に導入する媒体などに応じて適宜、選択できる。
【0031】
例えば、セル30の温度を冷却するのに、クライオスタットなどを用いて液体ヘリウム、液体窒素、液体酸素、液体二酸化炭素などで温度制御し、-269℃、-196℃、-183℃以上の各温度において制御可能である。この際、測定対象である溶液が固化(凍結)しないことが必要である。また熱媒として、例えば、ダウサムAやシリコーン油、水などで温度制御し、257℃、150℃、100℃以下の各温度において制御可能である。
【0032】
また、圧力も真空ポンプによって、10-5Pa、0.1Pa、10Pa、1.01325×105Pa(常圧)以上の負圧に制御できる。更に、加圧ポンプによって、1MPa、10MPa、100MPa、1GPa、1PPa(ペタパスカル)の正圧にも制御できる。
【0033】
サンプル室20の内壁は、アルミニウム素材などの金属あるいは金属光沢をもつ高反射率材料であることを選択できる。例えば、拡散反射材粒子112の密度が低い場合、セル30に導入された入射光L0は拡散反射材粒子112で散乱されにくく、セル30を入れたサンプル室20の内表面に到達する可能性がある。近赤外~可視~紫外光領域の場合、アルミニウムによりこの光を反射させ、光照射されるセル30の表面に戻せば、反射光強度を高めることができる。換言すれば、サンプル室20の内壁を積分球として機能を併せ持つようにできる。但し、気泡110の発生量が多い場合や、気泡110のサイズが大きい場合、反射光強度が時間的に揺らぐ恐れがある。
【0034】
サンプル室20の中にあるセル30の形は、少なくとも、入射光L0の入射する面を球面、平面、柱面のいずれかの形状にすることが好ましく、球形、四角柱形、三角柱形、円筒形など、測定に必要な条件に応じて選択できる。更に、上記したように、拡散反射測定では、セル30の表面からの反射光L2が目的とする溶液Sからの拡散反射光L1と同一光路上に乗らず、分光部40に導かれないようにする必要がある。この条件を満たした上で、拡散反射材粒子112が沈降しない高速な撹拌を可能とする場合には、回転対称軸を有する円筒状(円柱状)のセルがより好適となる。なお、球面は反射光L2が広がりやすく、拡散反射光L1と同一光路となりやすいため、入射光L0とセル30の相対角などの光路設計を十分に考慮する必要がある。
【0035】
サンプル室20の中にあるセル30、あるいはセル30の入射光L0の照射される光学窓部の材質は、使用する波長に対して透明であればよく、特に限定されないが、一般的に分光用窓部材として使用されているもの、そして溶媒に対して化学的に安定であればよい。例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、合成石英ガラス、無蛍光石英ガラス、ブラック石英ガラス、赤外用合成石英ガラス、カルコゲナイトガラス、プラスチック(主成分がポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸(PAA)など)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、臭沃化タリウム(KRS-5)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化バリウム(BaF2)、臭化カリウム(KBr)、サファイヤ(Al2O3)、ダイヤモンド(C)、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)などを適宜用いることができる。
【0036】
セル30の中の溶液(媒体)Sは、反応系に応じては様々であり、それぞれの溶液に対応して拡散反射材粒子112の材質を選択するが、測定する波長範囲に対して、拡散反射材粒子112自身が光吸収しない透明粉末材料からなることが必要である。また、拡散反射材粒子112による拡散反射光を観測することから、溶液Sの屈折率と大きく異なる屈折率を有する材料であることが好ましい。更に、用いる溶媒に対して化学的に安定で、反応に影響を与えない材質を適宜選択すべきである。例えば、各種セラミックス(アルミナ、ジルコニア、シリカ、セリア、カルシア、チタニア、酸化ハフニウム、マグネシア、酸化バリウム、酸化タングステン、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ハイドロキシアパタイト)、各種塩(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム)、珪藻土、カーボン、各種ガラス(石英、ソーダ石灰ガラス、クリスタルガラスなど)、各種プラスチック(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸(PAA)など)、ポリマ微粒子など、あるいはこれらの複合材料などを用いることができる。更に、これらの素材からなる拡散反射材粒子112と、他の機能性粒子を適宜組み合わせて溶液Sに分散させて用いてもよい。
【0037】
拡散反射材粒子112の粒径サイズは、測定する波長範囲において効果的に拡散反射する大きさであることが求められる。粒径サイズが波長よりも小さくなると、拡散反射材粒子112の粒子表面での鏡面反射による散乱では無く、ミー散乱やレイリー散乱の影響が生じる。そのため、波長に応じて適宜選択されるが、拡散反射材粒子112の粒径サイズは測定する波長と同程度か、それよりも大きいものが好適である。一方、大きすぎると、撹拌による溶液Sへの分散が困難となり沈降してしまう。また、拡散反射を生じる多重反射と透過が有限サイズのセル30内で得られない場合もある。この場合、拡散反射光の強度が弱くなって、拡散反射としても近似できない場合も生じ得る。このため、粒径サイズの大きな拡散反射材粒子112を用いる場合、入射光L0に対してセル30の深さ方向のサイズ、セル30に照射される入射光L0のスポットサイズ、検出される拡散反射光L1のセル30の表面での範囲を調整するなど、工夫を必要とする。典型的には、例えば、測定に紫外~可視光の190~700nmの波長を用いる場合、拡散反射材粒子112の粒径サイズは、1μm程度であればよい。また、近赤外~赤外線の波長を用いる場合には、700nm~約1000μm(1mm)程度であればよい。そのため、通常、各種セラミックス等の粉体のサイズである1μm~1000μmのいずれかのサイズあるいはサイズ幅をもった粒子であればよい。
【0038】
セル30の中に入れる拡散反射材粒子112の濃度については、拡散反射材粒子112の濃度が高くなると、拡散反射光L1の強度が強くなり、測定感度を向上させ、且つ、気泡110の影響を低減できるが、一方で、溶液Sの量が減じられて光学スペクトル自体を得にくくさせる。そのため、反応条件に応じて適宜濃度を調整して用いることが好ましい。典型的には、反応溶液に0.001重量%以上100重量%以下の範囲で最適な濃度条件を選択して用いることができる。
【0039】
セル30の内部の溶液Sを回転攪拌させて遠心力を発生させ、気泡110の分離を促進させ得るが、必要な回転数は、反応溶液の粘度やガス発生量に依存する。典型的には、1~10000回転/分の範囲の範囲で適宜調整することができる。
【0040】
セル30の内部の溶液Sの回転攪拌は、制御部で制御される回転機構で与えられ、特にその方法は限定されないが、例えば、マグネットスターラからなる攪拌子32及び攪拌ユニット33を含む。もしくは、メカニカルスターラを用いる方法、セル30を回転させる方法など、各種方法を用い得る。
【0041】
セル30の内部の溶液Sを回転攪拌することで、セル30の内壁に気泡110が付着することを抑制できる。また、撹拌により、溶液Sを機械的に刺激するため、静置状態では気泡110の発生しやすいセル30の内壁に限らず、気泡110が溶液Sの全体で生じる。このことは、気泡110が成長することを抑制し、成長した大きな気泡110が測定に影響を与えることを抑制する。つまり、小さな気泡110が多数発生するが、回転撹拌によりセル30内部の回転中心に集まることとなり、仮に、拡散反射材粒子112と同程度のサイズかそれ以下の気泡110は、拡散反射材粒子112に混在しこれと同様の働きを与えることにもなり得る。
【0042】
セル30内の拡散反射材粒子112や発生する気泡110は、溶液Sの撹拌に伴って、微視的には動的変化を起こす。これは拡散反射光L1の時間的な強度揺らぎを与えることになり得るが、ここでは、分光部40における検出された反射光L1を時間平滑化処理しその時定数を0.1~1秒とすれば、後述する実施例の観測感度では、特に問題とならないことが確認された。これは、入射光L0の照射されるセル30の表面での面積、及び、入射光L0がセル30内に侵入する深さが充分にあって、前記した動的変化が空間的且つ時間的に平均化されている状況である。なお、上記したように、有限個の大きな気泡110が入射光L0の光路である空間領域内に存在する場合に、平均化可能な動的変化とは見なせないこともあり得る。
【実施例0043】
実施例1:(色素:アリザリン溶液の測定)
染料として知られるアリザリンの水溶液に、アルミナの粉体からなる拡散反射材粒子を加えた上で、石英製円筒形セルに入れ、攪拌、懸濁させながら拡散反射スペクトルの測定を行った。ここで、アルミナは水に対して不溶で溶液(溶媒)に対して化学的に安定であり、且つ、アルミナと水の屈折率はそれぞれ1.77及び1.33であって大きな屈折率差を有し、アルミナ粒子を分散させた水溶液は白濁状態となる。すなわち、上記した拡散反射材粒子に好適な要求を満たすものである。なお、ここでは、アルミナを用いた代表例を示したが、同等の材料からなる拡散反射材粒子でも同様の結果が得られている。
【0044】
詳細には、アリザリン2.56mgを25mLの炭酸水素ナトリウム水溶液(和光純薬株式会社製)に溶解させた上で、それぞれ0.249、0.189、0.122、0.0387、0.0104mmol/Lの各溶液に調製した。各溶液には、拡散反射材として200mgのα-アルミナの粉体(粒子サイズ:平均粒子径約1μm、株式会社高純度化学研究所製)を加えた。これを順次、外径φ25mm、内径φ23.5mm、長さ200mmの石英製円筒形セルに収容し、温度を18℃に設定した上で、テフロン(商標登録)製攪拌子(円柱形φ5mm×長さ20mm)で800回転/分の速度で攪拌、懸濁させて反射光スペクトルの測定を行った。なお、100%の拡散反射率については、α-アルミナ粉体のみを前記した円筒形セルに入れて測定を行って得た。また、0%の拡散反射率については、散乱光路の途中に遮蔽板を配置し、分光光度計の検出器に散乱光が入らないようにして測定を行って得た。測定された拡散反射スペクトルを、アリザリンなしの炭酸水素ナトリウム水溶液のみの拡散反射スペクトルで除し、その値をKubelka-Munk式(KM=(1-r)2/2r)に従って、拡散反射率rを吸収係数に比例する無次元量である吸光度(KM:Kubelka-Munk)に変換処理した。
【0045】
分光には、アジレント・テクノロジー株式会社製Cary 5000 UV-Vis分光光度計を用いた。照射光の照射面積はセル表面にて約φ5mmに調整し、ミラ-のサイズは直径100mmの凹面鏡である。測定範囲は900nmから200nmの波長範囲であり、スキャンスピードを100nm/minとした。
【0046】
一方、比較例として、拡散反射材を加えないアリザリンの水溶液を石英製角形セルに入れて透過型の測定を行った。上記同様に、アリザリン2.27mgを25mLの炭酸水素ナトリウム水溶液(和光純薬株式会社製)に溶解させ希釈し、それぞれ0.0378、0.0189、0.00378、0.00189、0.000378mmol/Lの各溶液を調製した。各溶液は、一辺の長さ10mmの石英製角形セルに収容し、温度を18℃に設定した上で、アジレント・テクノロジー株式会社製Cary 60 UV-Vis分光光度計を用いて透過光吸収スペクトルの測定を行った。
【0047】
図5には、測定された拡散反射スペクトルから前記したKubelka-Munkの式にて変換処理し得られた光吸収スペクトルを示した。また、
図6には、これら光吸収スペクトルから520nm、330nm、261nmの各波長における吸光度を縦軸に、溶液濃度を横軸に設定して、濃度依存性を表すグラフを示した。更に、比較例として、
図7及び8には、一般的な透過型セルにて測定された光吸収スペクトル、濃度依存性を表すグラフを示した。これらから分かるように、実施例においても、比較例の一般的な透過型セルを用いて測定された透過光吸収スペクトルと対応した結果を得られた。また、濃度による信号強度も同様に直線的に増加し、一般的な透過型セルを用いた透過光吸収スペクトルの測定を反映していた。つまり、本発明の方法により、従来と同様の光吸収スペクトルの測定を行い得ることが分かる。
【0048】
実施例2:(基質濃度依存性)
実施例1と同様に、硝酸コバルト(II)水溶液に、α-アルミナの粉体からなる拡散反射材を加えた上で、石英製円筒形セルに入れ、攪拌、懸濁させながら反射光スペクトルの測定を行った。
【0049】
20.039gの水に拡散反射材として200mgのα-アルミナの粉体(株式会社高純度化学研究所製)を分散させた。そして、硝酸コバルト(II)6水和物(和光純薬株式会社製)を各37.77、56.43、83.47、165.16mg加えた溶液を調製した。実施例1と同様に、各溶液を順次、石英製円筒形セルに収容し、温度を18℃に設定した上で、テフロン製攪拌子で800回転/分の速度で攪拌、懸濁させてアジレント・テクノロジー株式会社製Cary 5000 UV-Vis分光光度計で拡散反射スペクトルの測定を行った。測定された拡散反射スペクトルは、アルミナのみの拡散反射スペクトルで除し、その値を上記したKubelka-Munkの式に従って、拡散反射率rを吸収係数に比例する無次元量である吸光度(KM)に変換処理した。
【0050】
図9には、測定された拡散反射スペクトルから変換処理を施した光吸収スペクトルを示した。なお、
図9(b)は(a)における吸光度を示す縦軸を拡大したものである。なお、図の300nmに現れる吸収ピークは硝酸イオン(NO
3
-)、500nmの吸収はコバルトイオン(Co
2+)によるものである。また、
図10には、波長221、305、527nmにおける硝酸コバルト溶液の濃度と吸光度をプロットしたグラフを示した。これらから、濃度に対して信号強度が比例関係にあることが分かる。なお、
図10(a)では、一定の光強度(約20KM)以上で飽和する傾向にあるようにも見えるが、これは分光器のダイナミックレンジによるものである。
【0051】
実施例3:(拡散反射材濃度)
硝酸コバルト(II)水溶液に、α-アルミナの粉体からなる拡散反射材の量を変化させて、石英製円筒形セルに入れ、攪拌、懸濁させながら反射スペクトルの測定を行った。
【0052】
硝酸コバルト(II)6水和物(和光純薬株式会社製)164.59ミリグラムを20.029gの水に溶解させた上で、拡散反射材としてα-アルミナの粉体(株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ51、102、153、203、303、403mg加えた溶液(α-アルミナの量比で、それぞれ、0.25、0.50、0.75、1.00、2.00wt%に対応)を作成した。また、α-アルミナの粉体を加えず、硝酸コバルト(II)のみの溶液も作成した。各溶液は、上記同様、石英製円筒形セルに入れて測定を行った。測定された硝酸コバルト(II)を含む溶液の拡散反射スペクトルを、アルミナのみの硝酸コバルト(II)を加えていない溶液のみで測定した拡散反射スペクトルで除し、その値をKubelka-Munkの式に従って、拡散反射率rを吸収係数に比例する無次元量である吸光度(KM)に変換処理した。
【0053】
図11には、変換処理した光吸収スペクトルを示した。
図11(b)は(a)における光強度を示す縦軸を拡大したものである。拡散反射材としてのアルミナを入れていない溶液では、拡散反射光をほとんど得られていない。そのため、測定領域全体でS/N比の低いスペクトルを得られた。特に、320nm以下の波長領域では、硝酸イオンに相当するスペクトルを得られなかった。一方、拡散反射材を0.25wt%(アルミナ50mg/水20g)以上与えた場合、硝酸コバルト(II)に起因する拡散反射スペクトルを得られている。
【0054】
図12には、波長221、305、527nmにおける硝酸コバルト溶液の濃度と吸光度をプロットしたグラフを示した。
図12(a)および、その縦軸を拡大した
図12(b)のように、拡散反射材としてのアルミナを0.5wt%以上含む溶液では、濃度依存性を示すことが分かる。
【0055】
ここでは、硝酸コバルト溶液の濃度は不変であるにもかかわらず、α-アルミナの濃度が高くなるにつれて、見かけ上の吸光度(光吸収強度)が徐々に低下する傾向が観察される。前記したように、拡散反射材粒子間の平均距離の変化が原因である。なお、水溶液中のコバルトイオンによる光吸収はそもそもそれほど強くなく、且つ、0.5wt%以下のアルミナの濃度では、拡散反射材粒子の寄与が小さいために溶液セルの裏面にまで入射光が到達し、拡散反射スペクトルが精度よく測定できず、光吸収が弱めになっていると考えられる。すなわち、正確な拡散反射スペクトルの測定には、拡散反射材粒子の好適な濃度が存在する。
【0056】
なお、
図13には、拡散反射材としてのアルミナの濃度毎の光吸収スペクトルの強度(拡散反射率)を示したが、これから分かるように、拡散反射材の濃度毎に光吸収スペクトルの強度のベースライン補正をすることが必要である。
【0057】
実施例4:(ギ酸の分解反応)
図14に示すイリジウム錯体からなる触媒を用いて、ギ酸水溶液に、α-アルミナの粉体からなる拡散反射材を加えた上で、石英製円筒形セルに入れ、攪拌、懸濁させながらギ酸を分解させて二酸化炭素と水素を得ながら拡散反射スペクトルの測定を行った。
【0058】
拡散反射材として200mgのα-アルミナの粉体(株式会社高純度化学研究所製)を3.7mol/Lのギ酸水溶液20gに分散させ、イリジウム錯体(
図14参照)5.68mgを溶解させ、石英製円筒形セルに収容した。このセルを50℃に温度調整し、内部をテフロン製攪拌子で1000回転/分の速度で攪拌した。気泡の発生を確認した後、所定の時間(0、14、50、88分)経過後、拡散反射スペクトルの測定を行った。得られたスペクトルは、Kubelka-Munk式によって変換処理し、光吸収スペクトルを得た。
【0059】
図15には、変換処理した光吸収スペクトルを示した。なお、
図15(b)は(a)の横軸を拡大したグラフである。
【0060】
また、異なる触媒濃度での測定も行った。詳細には、拡散反射材として200mgのα-アルミナの粉体(株式会社高純度化学研究所製)を0.1mol/Lのギ酸水溶液20gに分散させ、イリジウム錯体(
図14参照)5.12mg、更に、4.80mgを追加(合計9.92mg)して溶解させ、上記同様、石英製円筒形セルに収容し、50℃に温度調整、テフロン製攪拌子で1000回転/分の速度で攪拌し、10分後に測定を行った。得られたスペクトルは、Kubelka-Munk式によって変換処理し、光吸収スペクトルを得た。
【0061】
図16(a)には、触媒であるイリジウム錯体の各濃度における光吸収スペクトルを示し、
図16(b)には、240、330、299、259nmの各波長での吸光度をプロットしたグラフを示した。これから分かるように、触媒の濃度と吸光度との間には比例関係が見られる。
【0062】
図17(a)には、触媒であるイリジウム錯体の溶液のみの光吸収スペクトルに、ギ酸が完全に分解されて気泡を発生しなくなった溶液の光吸収スペクトルを重ねて示した。更に、
図17(b)には、ギ酸の吸収に相当する222nmの波長の吸光度の時間変化を示した。これより、ギ酸の分解による減少の様子が吸光度と比例的な関係にあることが分かる。つまり、触媒によるギ酸分解の経過を本方法で観察できることが分かる。
【0063】
更に、
図18には、透過法での測定との比較を示した。触媒濃度が異なるため(本方法:5.00×10
-4mol/L、透過法:1.00×10
-4mol/L、及び、2.50×10
-4mol/L)、光スペクトル吸収強度が異なるが、そのスペクトル線図の形状はほぼ同じであり、本方法で透過法同様に測定できることが分かる。
【0064】
ここまで、本発明による代表的な実施形態及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替となる実施例を見出すことができるであろう。