(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144384
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】カリウム調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20220926BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20220926BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021045367
(22)【出願日】2021-03-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 大河
(72)【発明者】
【氏名】山内 講平
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG04
4B047LG09
4B047LG15
4B047LP02
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、高濃度のカリウムを含有しつつも、カリウム特有のエグ味を抑制することにある。
【解決手段】
本発明者らは、カリウムイオンに有機酸イオン(グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオン)を特定の比率で組み合わせることによって、カリウムのエグ味を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、カリウムイオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンとからなるカリウム調味料であって、カリウム調味料に含まれるグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンからなる有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを10~90重量%、クエン酸イオンを3~65重量%、グルタミン酸イオンを7~85重量%含むことを特徴とするカリウム調味料に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムイオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンとからなるカリウム調味料であって、
カリウム調味料に含まれるグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンからなる有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを10~90重量%、クエン酸イオンを3~65重量%、グルタミン酸イオンを7~85重量%含むことを特徴とするカリウム調味料。
【請求項2】
有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを30~90重量%、クエン酸イオンを3~50重量%、グルタミン酸イオンを7~55重量%含むことを特徴とするカリウム調味料。
【請求項3】
有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを40~75重量%、クエン酸イオンを7~30重量%、グルタミン酸イオンを10~40重量%含むことを特徴とするカリウム調味料。
【請求項4】
カリウムイオン100重量部に対して、有機酸イオンを170重量部以上含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のカリウム調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウム調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カリウムは、細胞内浸透圧の維持、水分保持など生体内で重要な役割を担っており、ナトリウムの排出効果もあるため、高血圧予防という面でも注目されている。
【0003】
日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、18歳以上の男性は2,500mg/日(目標3,000mg/日)、18歳以上の女性は2,000mg/日(目標2,600mg/日)となっており、栄養強化食品では1日に必要なカリウムの1/3(18歳以上の男性基準で833mg以上)を添加しているものが多い。
【0004】
しかしながら、カリウム化合物で最も安価で入手しやすい塩化カリウムは異味(エグ味)が強く、添加できる量には限界がある。そこで、アミノ酸やイノシン酸等のマスキング剤を加えて、エグ味を抑制する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、塩化カリウムにアミノ酸又はその塩を組み合わせる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来のカリウム含有食品の風味は、消費者を満足させるレベルには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高濃度のカリウムを含有しつつも、カリウム特有のエグ味を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カリウムイオンに有機酸イオン(グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオン)を特定の比率で組み合わせることによって、カリウムのエグ味を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、一実施形態は、カリウムイオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンとからなるカリウム調味料であって、カリウム調味料に含まれるグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンからなる有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを10~90重量%、クエン酸イオンを3~65重量%、グルタミン酸イオンを7~85重量%含むことを特徴とするカリウム調味料に関する。
【0010】
上記カリウム調味料において、有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを30~90重量%、クエン酸イオンを3~50重量%、グルタミン酸イオンを7~55重量%含むことが好ましい。
【0011】
上記カリウム調味料において、有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを40~75重量%、クエン酸イオンを7~30重量%、グルタミン酸イオンを10~40重量%含むことが好ましい。
【0012】
上記カリウム調味料において、カリウムイオン100重量部に対して、有機酸イオンを170重量部以上含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高濃度のカリウムを含有しつつも、カリウム特有のエグ味を抑制することのできるカリウム調味料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るカリウム調味料について具体的に説明する。
【0015】
一実施形態は、カリウム調味料に関する。カリウム調味料は、少なくともカリウムイオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンを含む。カリウムイオンと、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンからなる有機酸イオンとを含むことにより、カリウムのエグ味が抑制されたカリウム調味料を得ることが可能である。
【0016】
また、有機酸イオンの比率を調整することにより、様々な食品に合うように調整することができる。具体的には、甘味を強くしたい場合にはグルコン酸イオンの比率を高め、旨味を強くしたい場合にはグルタミン酸イオンの比率を高めることにより、様々な食品に合ったエグ味抑制剤に調整することができる。また、クエン酸イオンには特有の異味があるが、クエン酸三カリウムとして添加する場合、分子内のカリウム比率が38.3%と高いため、カリウム調味料のカリウムイオン濃度を高めるのに有効である。
【0017】
一実施形態において、カリウム調味料は、カリウム調味料に含まれるグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンからなる有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを10~90重量%、クエン酸イオンを3~65重量%、グルタミン酸イオンを7~85重量%含む。有機酸イオンの内訳をこの範囲とすることでカリウムのエグ味を抑制することができる。
【0018】
また、有機酸イオン総量中、グルコン酸イオンを30~90重量%、クエン酸イオンを3~50重量%、グルタミン酸イオンを7~55重量%とすることが好ましく、グルコン酸イオンを40~75重量%、クエン酸イオンを7~30重量%、グルタミン酸イオンを10~40重量%とすることが極めて好ましい。有機酸イオンの内訳をこの範囲に限定することで、カリウムのエグ味だけでなく、有機酸イオン特有の異味を抑制することができる。
【0019】
ここで、有機酸イオンとは、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンを指し、その他の陰イオン(塩化物イオンや、酢酸イオン)とは区別する。また、有機酸イオンは、水に溶解させた際に有機酸イオンとなり得る化合物を含む。すなわち、グルコン酸イオンであれば、グルコン酸カリウムやグルコン酸、クエン酸イオンであれば、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム等のクエン酸塩とその水和物やクエン酸、グルタミン酸イオンであれば、グルタミン酸カリウムとその水和物やグルタミン酸を含む。
【0020】
一実施形態において、カリウムイオン100重量部に対して、有機酸イオンを170重量部以上含むことが好ましく、200重量部以上含むことがより好ましい。カリウムイオンに対する有機酸イオンの量を増やすのに従って、カリウムイオンのエグ味が薄れ、風味が改善する。
【0021】
一実施形態において、カリウムイオン100重量部に対して、有機酸イオンを1000重量部以下とすることが好ましい。有機酸イオンを増やすほどカリウムのエグ味は薄れるが、カリウムイオン濃度の高い調味料を提供しようという本発明の目的に反するものとなる。
【0022】
一実施形態において、カリウム調味料には、その他の素材を組み合わせることができる。具体的には、イノシン酸、コハク酸、アスパラギン酸などの旨味成分、胡椒、ショウガ、唐辛子、クミン等の香辛料、ラード、ゴマ油、菜種油などの油脂、グルコース、フルクトース、トレハロース、澱粉、デキストリン等の糖類、香料、着色料、乳化剤等の調味料素材、醤油、酒、みりん、味噌、ブイヨン、オイスターソース等の調味料などが挙げられる。なお、本発明において、カリウム調味料にその他の素材を組み合わせた調味料については、調味料(カリウム調味料含有)と称する。
【0023】
製造方法
カリウム調味料は、様々な方法で製造することができる。例えば、グルコン酸、クエン酸、及びグルタミン酸からなる有機酸水溶液に水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムを加えて中和することで、カリウムイオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンとからなるカリウム調味料を製造することができる。また、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、及びグルタミン酸カリウム等の有機酸塩を水に溶解させることによってもカリウム調味料を製造することができる。
【0024】
さらに、これらの方法を組み合わせることもできる。例えば、クエン酸イオンはクエン酸カリウムとして添加し、グルコン酸イオンとグルタミン酸イオンについては、有機酸水溶液の中和によって得る方法などが考えられる。
【実施例0025】
(試作例1~36)
グルコン酸カリウム479重量部、クエン酸三カリウム26重量部、グルタミン酸カリウム47重量部を水5000重量部に溶解させて試作例1を調整した。試作例1には、カリウムイオン100重量部に対して有機酸イオン453重量部(グルコン酸イオン399重量部、クエン酸イオン16重量部、グルタミン酸イオン37重量部)が含まれている。さらに、有機酸イオン総量中のグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンそれぞれの重量パーセント濃度は、グルコン酸イオン88.2%、クエン酸イオン3.6%、グルタミン酸イオン8.3%である。
【0026】
グルコン酸カリウム、クエン酸三カリウム、及びグルタミン酸カリウムの比率を表1の通り変更し、それぞれ水5000重量部に溶解させて試作例2~36を調整した。なお、試作例1~36に含まれるカリウムイオンの配合量は一定(100重量部)である。カリウムイオンの配合量を一定にすることで、それぞれのカリウム調味料のエグ味を比較しやすくした。なお、以下の表において、特に単位の記載がない場合には「重量部」である。
【0027】
【0028】
試作例1~36に含まれる有機酸イオン及びカリウムイオンの量(重量部)、並びに有機酸イオン総量中のグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンの重量パーセント濃度は(表2において「有機酸イオン内訳」と表記)は、表3に記載の通りである。
【0029】
(試作例A~I)
グルコン酸カリウム559重量部を水5000重量部に溶解させて試作例Aを調整した。試作例Aには、カリウムイオン約100重量部に対して有機酸イオン499重量部(グルコン酸イオン)が含まれている。さらに、有機酸イオン総量中のグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンの重量パーセント濃度は、グルコン酸イオン100%、クエン酸イオン0%、グルタミン酸イオン0%である。
【0030】
グルコン酸カリウム、クエン酸三カリウム、及びグルタミン酸カリウムの比率を表2の通り変更し、それぞれ水5000重量部に溶解させて試作例B~Iを調整した。試作例A~Iに含まれる有機酸イオン及びカリウムイオンの量、並びに有機酸イオン総量中のグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンの重量パーセント濃度は表4に記載の通りである。
【0031】
【0032】
(試作例J)
また、塩化カリウム191重量部(カリウムイオン100部)を水5000重量部に溶解させて、試作例Jを調整した。なお、試作例Jについては有機酸イオンが含まれていない。
【0033】
(評価)
試作例J(不良)、試作例C(従来レベル)及び試作例24(良好)を基準に、カリウム調味料のエグ味を評価した。なお、試作例Jを不良な基準としたのは、エグ味が強く、且つ最も入手が容易な食品用途のカリウム化合物であるためである。また、試作例Cを従来レベルの基準としたのは、グルタミン酸カリウムが比較的エグ味の弱いカリウム化合物として知られているためである。試作例24を良好な基準としたのは、エグ味が弱く、且つグルコン酸イオン、クエン酸イオン、及びグルタミン酸イオンの比率が同水準(30%前後)であるためである。評価結果は表3、4の通りである。
◎(非常に良好):試作例24よりエグ味が弱い
○(良好):試作例24と同水準
△(普通):試作例24に劣るが、許容範囲
▲(従来レベル):試作例Jよりエグ味が弱いが、試作例24と比べるとエグ味が強い(試作例Cと同水準)
×(不良):試作例Jと同水準、又はそれ以上にエグ味が強い
【0034】
【0035】
【0036】
(試作例37)
塩化カリウム38重量部、グルコン酸カリウム96重量部、クエン酸三カリウム104重量部、グルタミン酸カリウム114重量部を水5000重量部に溶解させて試作例37を調整した。試作例37には、カリウムイオン100重量部に対して有機酸イオン234重量部(グルコン酸イオン80重量部、クエン酸イオン64重量部、グルタミン酸イオン90重量部)が含まれている。
【0037】
(試作例38)
塩化カリウム76重量部、グルコン酸カリウム72重量部、クエン酸三カリウム78重量部、グルタミン酸カリウム85重量部を水5000重量部に溶解させて試作例38を調整した。試作例38には、カリウムイオン100重量部に対して有機酸イオン176重量部(グルコン酸イオン60重量部、クエン酸イオン48重量部、グルタミン酸イオン67重量部)が含まれている。
【0038】
(試作例K)
塩化カリウム95重量部、グルコン酸カリウム60重量部、クエン酸三カリウム65重量部、グルタミン酸カリウム71重量部を水5000重量部に溶解させて試作例Kを調整した。試作例Kには、カリウムイオン100重量部に対して有機酸イオン146重量部(グルコン酸イオン50重量部、クエン酸イオン40重量部、グルタミン酸イオン56重量部)が含まれている。
【0039】
試作例37,38、Kの組成については表6~8に記載した通りである。また、比較のため試作例24の組成を表5に示した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
試作例24、37、38、J、Kについてエグ味を比較した。この結果、試作例37(有機酸イオン/カリウムイオン=2.34)は良好、試作例38(有機酸イオン/カリウムイオン=1.76)は普通、試作例K(有機酸イオン/カリウムイオン=1.46)は不良だった。なお、別途、より詳細な検証を行った結果、有機酸イオンがカリウムイオンの1.7倍未満の場合にエグ味のマスキング効果が無くなり、有機酸イオンがカリウムイオンの2.0倍以上の場合にエグ味のマスキング効果が向上する傾向であることを確認した。