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特開2022-145090ロボットハンド、測定装置、及び測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145090
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ロボットハンド、測定装置、及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20220926BHJP
   G01G 3/12 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B25J15/08 T
G01G3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046350
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 年由
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】プラデル ケン
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707ES04
3C707EV14
3C707EV23
3C707EW01
3C707HS14
3C707KS09
3C707KV04
3C707KX08
3C707LV10
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】帯電センサを有する把持部を用いて把持した物体の重量を測定可能とする。
【解決手段】ロボットハンドは、物体の把持部と、把持部の物体を把持した状態からの持ち上げ動作によって変形可能な弾性部材を有する帯電センサと、帯電センサから出力される信号であって、持ち上げ動作に伴う弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を用いて物体の重量を測定する測定部とを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の把持部と、
前記把持部の前記物体を把持した状態からの持ち上げ動作によって変形可能な弾性部材を有する帯電センサと、
前記帯電センサから出力される信号であって、前記持ち上げ動作に伴う前記弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を用いて前記物体の重量を測定する測定部と、
を含むロボットハンド。
【請求項2】
前記帯電センサは、第1の電極と、第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、前記第1の電極と対をなす第2の電極と、第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、前記第1の帯電部と前記第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を前記第1の電極から取り出す取り出し部とを備え、
前記弾性部材は、前記第1の誘電体の一部又は全部を形成する
請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記第1の帯電部は、前記第1の誘電体と、前記第1の電極と、前記信号中のノイズを除去するノイズ除去層と、前記第2の電極とともに接地される第3の電極が積層された構造を有する
請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記ノイズ除去層の体積抵抗率が10Ω以上である
請求項3に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記第1の電極はスイッチによって接地される
請求項3又は4に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記弾性部材が、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びテフロンゴムから選ばれる少なくとも一つを用いて形成されている
請求項1から5のいずれか一項に記載のロボットハンド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性部材を有する帯電センサから出力される信号であって、把持状態の物体の持ち上げ動作に伴う前記弾性部材の変形によって生じた波形を含む信号を用いて前記物体の重量を測定する測定回路、
を含む物体の重量の測定装置。
【請求項8】
前記測定回路は、前記持ち上げ動作の開始時における前記信号の強度と、前記持ち上げ動作の終了時における前記信号の強度とを用いて前記物体の重量を測定する、
請求項7に記載の測定装置。
【請求項9】
把持状態の物体の持ち上げ動作に伴う弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を、前記弾性部材を有する帯電センサから取得し、
前記信号を用いて前記物体の重量を測定する
ことを含む物体の重量の測定方法。
【請求項10】
前記物体の重量の測定に、深層学習によって得られた、前記持ち上げ動作における前記帯電センサの信号波形と前記把持状態の物体の重量との関係を用いる請求項9に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンド、測定装置、及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットハンドによって壊れやすい物質、形状が一定ではない物質を安定的に把持、識別するため、ロボットハンドの外装部分を変形可能とすることにより、様々な形状の物質を把持することが試みられている。このようなロボットハンドは、ソフトロボットと呼ばれている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、安定した把持と識別のため、ロボットハンドの表面上に数千個の電気抵抗型圧力センサを密着固定し、AIを用いて把持対象物表面との接触圧力を解析する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。また、ロボットハンドに用いられるセンサとして、電気抵抗型圧力センサのみならず、誘電エラストマーの変形張力、糸張力、空気圧又は液圧による駆動機構を組み込むことも提案されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9464642号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature562, 698-702
【非特許文献2】ロボット学会誌37巻1号2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットハンドにより把持される物体の重量の測定が検討されている。ロボットハンドを用いて物体の重量を測定する場合、物体を把持して持ち上げる動作を行うことになる。このため、物体の重量を簡単なセンサで測定することはできず、腕ごとの重量変化をロードセルで測定することが考えられる。しかしながら、ロードセルを使用する方法では、ロボットハンドの先端に把持した物体の重量を間接的に測定することになるため、正確な測定が困難であった。
【0007】
また、たわみ量を測定するセンサを用いて物体の重量を測定することが考えられる。しかし、物体を側面から把持する場合、物体の重量がセンサにかかるわけではないため、把持される物体の重量を測定することは困難であった。
【0008】
本発明は、帯電センサを用いて把持された物体の重量を測定可能なロボットハンド、測定装置、及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、物体を把持する把持部が備える、静電容量の変化により物体との接触を検知可能な帯電センサからの信号を用いて物体の重量を測定可能なロボットハンド、測定装置、及び測定方法を想起するに至った。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
【0011】
[1] 物体の把持部と、前記把持部の前記物体を把持した状態からの持ち上げ動作に伴っ
て変形可能な弾性部材を有する帯電センサと、前記帯電センサから出力される信号であって、前記持ち上げ動作に伴う前記弾性部材の変形によって生じた波形を含む信号を用いて前記物体の重量を測定する測定部と、を含むロボットハンド。
【0012】
[2] 前記帯電センサは、第1の電極と、第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、前記
第1の電極と対をなす第2の電極と、第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、前記第1の帯電部と前記第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を前記第1の電極から取り出す取り出し部とを備え、前記弾性部材は、前記第1の誘電体の一部又は全部を形成する[1]に記載のロボットハンド。
【0013】
[3] 前記第1の帯電部は、前記第1の誘電体と、前記第1の電極と、前記信号中のノイズを除去するノイズ除去層と、前記第2の電極とともに接地される第3の電極が積層された構造を有する帯電センサを有する[2]に記載のロボットハンド。
【0014】
[4] 前記ノイズ除去層の体積抵抗率が10Ω以上である[3]に記載のロボットハンド。
【0015】
[5] 前記第1の電極はスイッチによって接地する[3]又は[4]に記載のロボットハン
ド。
【0016】
[6] 前記弾性部材が、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びテフロン(登録商標)ゴムから選ばれる少なくとも一つを用いて形成されている[1]から[5]のいずれかに記載のロボットハンド。
【0017】
[7] [1]から[6]のいずれかに記載の弾性部材を有する帯電センサから出力される信号であって、把持状態の物体の持ち上げ動作に伴う前記弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を用いて前記物体の重量を測定する測定回路、を含む物体の重量の測定装置。
【0018】
[8] 前記測定回路は、前記持ち上げ動作の開始時における前記信号の強度と、前記持ち上げ動作の終了時における前記信号の強度とを用いて前記物体の重量を測定する、[7]に記載の測定装置。
【0019】
[9] 把持状態の物体の持ち上げ動作に伴う弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を、前記弾性部材を有する帯電センサから取得し、前記信号を用いて前記物体の重量を測定することを含む物体の重量の測定方法。
【0020】
[10] 前記物体の重量の測定に、深層学習によって得られた、前記持ち上げ動作における前記帯電センサの信号波形と前記把持状態の物体の重量との関係を用いる[9]に記載
の測定方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、帯電センサを用いて把持された物体の重量を測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、帯電センサから出力される信号の信号強度の時間的変化を示すグラフであり、第1の物体を把持して持ち上げた場合に得られる信号波形を示す。
図2図2は、帯電センサから出力される信号の信号強度の時間的変化を示すグラフであり、第1の物体より重い第2の物体を把持して持ち上げた場合に得られる信号波形を示す。
図3図3は、帯電センサの構成例を示す図である。
図4図3に示したセンサ本体部分の構成例を示す図である。
図5図5は、図3に示した帯電センサを設けたロボットハンドの構成例を示す図である。
図6図6は、重さの異なる物体の夫々について、把持状態での持ち上げ開始時点から持ち上げ終了時点までの帯電センサの信号強度の傾きを示すΔSの値と、物体の重量との相関曲線を示すグラフである。
図7図7は、測定装置の構成例を示す図である。
図8図8は、測定装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態に係るロボットハンドは、物体の把持部と、把持部の物体を把持した状態からの持ち上げ動作によって変形可能な弾性部材を有する帯電センサと、帯電センサから出力される信号であって、持ち上げ動作に伴う弾性部材の変形によって生じる波形を含む信号を用いて物体の重量を測定する測定部とを含む。帯電センサは、例えば、第1の電極と第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、第1の電極と対をなす第2の電極と第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、第1の帯電部と第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を第1の電極から取り出す取り出し部とを備える。この場合、弾性部材は、第1の誘電体の一部又は全部を形成する。換言すれば、第1の誘電体の一部又は全部は、物体の把持時に物体との接触により変形可能な弾性部材を用いて形成される。第1の誘電体は中空部を有していてもよい。中空部は、物体との接触による中空部の変形に伴って内部と外部との間を空気が出入りする出入り口を有していてもよい。
【0024】
帯電センサは、例えば、物体を把持する把持部の指先に配置される。把持部が物体を把持して持ち上げた際に、弾性部材が変形し、帯電センサから第1の電極から出力される(取り出される)信号には、物体の持ち上げ動作に伴う弾性部材の変形によって生じる波形が含まれる。
【0025】
また、帯電センサの第1の帯電部は、第1の誘電体と、第1の電極と、信号中のノイズを除去するノイズ除去層と、第2の電極とともに接地される第3の電極が積層された構造を有する構成を採用してもよい。ノイズ除去層の体積抵抗率は、例えば10Ω以上であるのが好ましい。また、第1の電極はスイッチによって接地される構成を採用するのが好ましい。
【0026】
図1は、帯電センサから出力される信号の信号強度の時間的変化を示すグラフであり、或る物体(「第1の物体」という)を把持して持ち上げた場合に得られる信号波形を示す。把持部は、物体の例えば側面を把持する把持動作と、把持の状態から物体を持ち上げる持ち上げ動作(リフト動作ともいう)とを行う。帯電センサは、把持部の把持動作及び持ち上げ動作において変形する弾性部材(例えば第1の誘電体)を含み、弾性部材の変形に伴う摩擦発電によって生じる電圧を信号として出力する。
【0027】
図1中のA点は、把持動作を開始した把持部の指先が、第1の物体に触れた直後の時点を示す。A点の信号強度は零である。図1中のB点は、信号強度が最大となった(ピークとなった)時点を示す。第1の物体の把持動作を停止した場合に信号強度はピークを迎える。C点は、第1の物体が把持された状態での持ち上げが開始された時点を示す。D点は、持ち上げが停止された時点を示す。
【0028】
このような信号波形は、以下によって起こると考えられる。すなわち、第1の物体を把持する動作は把持部の指先が第1の物体に接触してからある程度で停止する。この接触から動作停止までの間に弾性部材は急激に大きく変形する。このとき、第1の物体の把持に
よる摩擦発電により生じた電流が正帯電電荷から負帯電電荷へ急速に流れるため、弾性部材の第1の物体に対する接触から把持動作の終了(停止)までの時間(図1中のA-B間:「第1の区間」と称する)において、急速な信号の立ち上がりが生じる。把持動作の停止により、B点で信号強度はピークを迎える。把持動作の終了以降、弾性部材は把持により変形したままの状態が維持されるため、信号強度はB点への立ち上がり時よりも緩やかな一定の傾きで低下する。
【0029】
C点(時刻a)において持ち上げが開始されると、重力により第1の物体に下向きの加速度が生じることで弾性部材に変形が生じ、摩擦発電による電圧が発生する。このため、B点からC点までの区間(「第2の区間」と称する)においてほぼ一定に低下していた信号強度のグラフの傾きが変化する。図1に示す例では、C点(時刻a)からD点(時刻b)までの区間(「第3の区間」と称する)で、信号強度がほぼ一定となっている。D点(時刻b)では第1の物体に対する加速度がなくなったことで、加速により生じた弾性部材の変形が元に戻りはじめ(把持による変形状態に戻る)、時刻bより少し遅れて持ち上げ動作が停止するために摩擦発電による電圧発生(信号強度の上昇)もとまる。その後把持したままの状態が維持されるため、D点以降のグラフ(「第4の区間」と称する)では、第2の区間における傾きと同様の傾きで信号強度が低下する。
【0030】
このように、第1の物体の持ち上げ動作の間、すなわち、図1における第3の区間において、信号強度の(グラフの)傾きが直前の第2の区間における傾きから変化する。第3の区間における信号強度の傾きは、持ち上げられる物体の重量と加速度に依存する(相関関係を有する)。
【0031】
図2は、時間の経過に対する帯電センサからの信号の強度の変化を示すグラフであり、第1の物体より重い第2の物体を把持して持ち上げた時に帯電センサから得られる信号の波形を示す。
【0032】
図2に示すグラフに関して、把持部の第2の物体に対する把持動作及び持ち上げ動作の時間は同じであり、把持部の第2の物体との接触から把持の終了までの時間(A-B間(第1の区間)に対応)、把持が終了してから持ち上げを開始するまでの時間(B-C間(第2の区間)に対応)、持ち上げを開始してから終了するまでの時間(C-D間(第3の区間)に対応)は、第1の物体に対する把持及び持ち上げ時と同じである。
【0033】
図2において、第1の区間で信号が急峻に立ち上がり、第2の区間では一定の割合で信号強度が低下する傾きとなっている点は、図1のグラフと同様である。但し、第3の区間では、図1のグラフと異なり、信号強度が一定の割合で増加する傾きとなっている。第4の区間は、再び一定の割合で信号強度が低下する傾きとなっており、図1のグラフと同様である。
【0034】
このように、第3の区間における信号強度のグラフの傾きは、持ち上げられる物体の重量と、持ち上げる際の加速度に依存することがわかる。但し、持ち上げ動作時の加速度を固定することで、グラフの傾きが重量に依存するようにすることができる。このような帯電センサからの信号強度の変化を示すグラフに表れる現象を用いて、物体の重量を測定することが可能となる。
【0035】
信号強度の傾きは、例えば、持ち上げ動作の終了時(時刻b:D点)における信号強度から、持ち上げ動作の開始時(時刻a:C点)における信号強度と減じて、第3の区間における信号強度の変動量(ΔS)を求めることによって算出することができる。図6に示すように、ΔSの値が大きくなるほど、物体の重量が重くなる。ΔSの値が正の場合、第3の区間において信号強度が上昇していることを示し、ΔSの値が負の場合、第3の区間
において信号強度が下降していることを示す。
【0036】
これにより、物体の把持部を有するロボットハンドにおいて、ロードセルや歪センサなどを用いることなく、物体との接触の有無の確認等に使用される帯電センサを用いて、物体の重量を測定することが可能となる。また、弾性部材を有する帯電センサからの信号を用いて把持された物体の重量を測定する測定装置及び測定方法を提供することができる。
【0037】
(検体)
本明細書において、「検体」は、把持部によって把持される物体、すなわち、帯電センサの接触面を接触させる物体(固体)であり、その材質や形状に制限はない。検体としては、アルミニウム、亜鉛、銅、又は鋼等の金属板、紙、ゴム、プラスチックフィルム、又はガラスなどを用いた板、ブロック、植木鉢、シート、食器、机、容器、手袋、袋などの成形製品、ミカン、バナナ、ごはん、パン、こんにゃく、肉などの食品、昆虫、動物、魚などを例示でき、これらの例示のうちの少なくとも一つが検体として選択され得る。
【0038】
(帯電センサ)
帯電センサは、電源が不要でセンシングしていないときの信号強度(レベル)がゼロベースである。このため、帯電センサから出力された信号をアンプで増幅した際のSN比(感度)が高い。従って、帯電センサの出力信号から振動に対する応答を高い精度で検出することができる。
【0039】
本明細書において、「帯電センサ」は、摩擦発電またはエレクトレットなどの帯電原理を利用したセンサである。帯電センサは、帯電発電の原理を利用することによって、自ら電圧を発生させる。このため、発光装置や電源等が不要である。このため、一定の光や電気信号の変動で応答を検出する光ファイバ式センサなどと比べて構造が簡易で、外乱の影響を受けにくくすることができる。
【0040】
帯電センサは、摩擦帯電構造、又はエレクトレット帯電構造を有することができる。摩擦帯電構造は、二つの(一対の)帯電部が対向した構造、すなわち、それぞれ電極と誘電体とを含む二つの帯電部が間隙を設けて重ねられた(対向する)構造を有する。エレクトレット帯電構造は、電極と誘電体からなる一組の帯電部の正と負に帯電された気泡を複数有する誘電体を電極で挟み込んだ構造を有する。摩擦帯電構造を有する帯電センサを摩擦帯電センサと称し、エレクトレット帯電構造を有する帯電センサをエレクトレット帯電センサと称する。
【0041】
帯電センサを使用することの利点は、ピエゾ効果を利用したセンサに比べ、はるかに弱い力を検知できること、また、接触した物質の物性や形状変形のしやすさによって、得られる波形が異なることである。
【0042】
(誘電体)
第1の誘電体に適用し得る誘電体の材料は、帯電性を有する材料で、把持する物体との接触により変形する弾性部材(弾性体ともいう)を用いて形成されるのが好ましい。弾性部材は、例えば、ポリマー(樹脂)や非金属物質等が挙げられる。具体的なポリマーとしては、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン(PDMS)等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、ポリアミド樹脂(ナイロン等)、セルロースが挙げられる。第1の誘電体は、検体を持ち上げた際に持ち上げた方向(垂直であれば重力の方向)に変形し、信号を発することが必要となるため、ある程度の厚さがあることが必要であり、好
ましくはその厚さは通常500μm以上、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上である。
【0043】
特に好ましい弾性部材は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びテフロン(登録商標)ゴムから選ばれる少なくとも一つを用いて形成されているのが好ましい。また、弾性部材は、その変形量を大きくするため中空部を設けてもよい。中空部には、外部と連通し、中空部が検体接触した後の内部の空気を中空部から逃すための空気の出入り口を設けてもよい。これにより静電容量の変化を示す信号を、物体への接触後も連続して大きく検出することができる。
【0044】
第2の誘電体の材料は、特に限定されないが、帯電センサの小型化、薄型化のために、樹脂フィルム、又は非金属物質の薄膜によって形成されるのが好ましい。
【0045】
誘電体の比誘電率(εDI)は、好ましくは5以上であり、より好ましくは8以上である。また、誘電体の比誘電率の上限はないが、高い方が好ましい。比誘電率は、被測定材料(検体)の層の両面に電極を形成して平行平板キャパシタを作製し、キャパシタの静電容量Cを測定することで、以下の式1から計算することができる。
C=ε0・εr・A/d ・・・ (式1)
ここで、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率、Aはキャパシタの面積、dは被測定材料の層の膜厚である。キャパシタの静電容量Cは、LCRメータ、インピーダンスアナライザ等で測定することができる。
【0046】
誘電体の、接触により摩擦を生じさせる部分は、最表層として、以下のような材料を用いるのが好ましい。すなわち、最表層の材料としては、ポリマー、非金属物質、金属物質を挙げることができる。ポリマーとしては、上記したものや、メラミン樹脂を挙げることができる。また、非金属物質では、シリカやアルミナ等の酸化物等が挙げられる。また、金属物質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銀、金、白金、銅、クローム、チタン、モリブデン、インジウム金属、これらの金属の合金もなどが挙げられる。
【0047】
(電極)
第1及び第2の電極に適用し得る電極は、高い電気導電性を有する材料であれば特に限定されず、好適に用いることができる。電極は、例えば、アルミ、鉄、ニッケル、銀、金、白金、銅、クローム、チタン、モリブデン、インジウム金属であり、それら金属の合金も用いることができる。電極は、高い電気導電性を有する材料であれば、金属でなくとも構わない。電極は、例えば、ドープされたシリコン(Si)等の半導体材料、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物、PEDOT-PSS等の導電性高分子も用いることができる。電極は、軟らかく、変形可能でかつダメージを受けにくい材料であることが好ましく、実用に耐える範囲で薄くすることが好ましく、通常100μm以下、より好ましくは50μm以下、最も好ましくは25μm以下、また下限値としては10μm以上である。このような薄さにすることで、帯電センサの感度を低下させることなく、かつ電極の破損による動作不良を防ぐことができる。
【0048】
(取り出し部)
取り出し部は、帯電センサが備える第1の電極から、応答信号(第1の帯電部と第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号、或いは物体の接触による中空部の変形に伴って発生する信号)を取り出すものである。応答信号が電気信号である場合、導体を用いて構成される。例えば、取り出し部は、電極に電気的に接続されたリード線、端子、コネクタなどである。
【0049】
(ロボットハンド)
本発明の実施例の一つは、ロボット、より詳しくは物体を把持する(掴む)ロボットハンドを含む。ロボットハンドは把持部を有し、把持部は、例えば第1の指と、前記第1の指と異なる第2の指とを含む複数の指を含み、第1の指に第1の帯電部が設けられ、第2の指に第2の帯電部が設けられる。第2の誘電体として、第2の指を用いてもよい。「第2の指に第2の帯電部が設けられる」場合には、第2の帯電部に含まれる第2の電極が物理的に第2の指に取り付けられる場合の他、第2の電極が第2の指と離間した位置で第2の指と電気的に導通した状態にある場合を含む。
【0050】
帯電センサを適用したロボットハンドの把持部は、例えば、複数の指を持ち、そのうちの少なくとも1本に、第1の帯電部を含むセンサ本体部分を設置し、その他の指、又はそれと導通している部分の少なくとも1本に対電極を有することができる。指の本数は2以上であればよく、例えば、2-6本とされる。但し上限に制限はない。
【0051】
指は、弾力性を有する部材で形成されていることが好ましい。指の外装は軟質性を有することが好ましい。但し、第1の誘電体が弾性部材を用いて形成されていれば、指に対する弾力性を有する部材や軟質性の採用は必須ではない。アクチュエータや空気圧により指を駆動して、指が物体を把持する。
【0052】
ロボットハンドの把持部により把持される物体が柔らかく変形しやすいものである場合を考慮して、指の外表面は柔らかい物質でできていることが好ましい。このため、ロボットハンドは、内部中空部分を有しており弾力性あるいは軟質性の薄膜部材で構成されており、中空内の空気を吸引する為の空気吸引口を有しているものがよい。把持部は内部中空部分が大気下では膨らみ指の夫々の先端部の間の距離は大きく開くが、吸引、たとえば-35Kpa程度の力での吸引により内部中空部分が低減圧収縮すると、指の夫々の先端部が接近し、閉じて物体を把持する。把持部及び腕部は垂直方向及び水平方向(3軸座標系のXYZ方向)に移動可能であり、鉛直軸に対する傾きを変更することができる。
【0053】
(物体の重量の測定装置)
本発明の実施例の一つは、物体の重量の測定装置を含む。測定装置は、弾性部材を有する帯電センサから出力される信号であって、把持状態の物体の持ち上げ動作に伴う前記弾性部材の変形によって生じた波形を含む信号を用いて前記物体の重量を測定する測定回路、を含む。測定回路は、例えば、物体を把持し持ち上げた時の信号の信号強度(信号レベルともいう)の変化に基づいて、物体の重量を測定(判定)する構成を採用する。測定回路は、持ち上げ動作の開始時における信号の強度と、持ち上げ動作の終了時における信号の強度とを用いて物体の重量を測定する、構成を採用するのが好ましい。例えば、上述したΔSを求め、ΔSに対応する重量を検量線或いはΔS-重量の対応テーブルなどを用いて求めることで、物体の重量を測定することができる。
【0054】
以下に、本発明の実施形態に係るロボットハンド及び測定装置を詳細に説明する。以下に記載する説明は、本発明の実施の一形態であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0055】
<帯電センサ>
図3は、帯電センサの構成例を示す図である。図4は、センサ本体部分の構成例を示す。図5は、図3に示した帯電センサをロボットハンドに取り付けた場合を模式的に示す。
【0056】
以下の説明においては、実際の実験に使用した帯電センサを例として説明するが、上述のとおり、誘電体、電極、取り出し部など、既に記述の範囲で任意の変更が可能であり、特に断りのない限り、大きさ等についても、本発明の効果を妨げない範囲で任意に変更できる。
【0057】
図3において、帯電センサ41は、大きく二つの部分に分かれている。一つは、ロボットハンドの、検体60を把持する部分(把持部2(図5))に設けられる、弾性部材である誘電体52Aを有するセンサ本体部分10である。ここでは一例として中空部44を有する弾性部材を例示している。もう一つは、センサ本体部分10から独立して存在する対電極部20である。
【0058】
センサ本体部分10は、支持体54Aと、支持体54Aの上に形成された電極532B(第3の電極に相当)と、電極532Bの上に形成された高抵抗層(ノイズ除去層に相当)55Aと、高抵抗層55Aの上に設けられた帯電部51A(第1の帯電部に相当)とを含む。
【0059】
帯電部51Aは、高抵抗層55Aの上に形成された電極53A(第1の電極に相当)と、電極53Aの上に形成された誘電体52A(第1の誘電体に相当)とを含む。誘電体52Aは、弾性部材であり、単なる平面部材でもよいしドーム状の壁部58を有していてもよい。さらに必要に応じ内部45が中空の中空部44を含んでいてもよい。中空部44を有する場合には、中空部44の内部45と外部とを連通する空気の出入り口46を備えていてもよい。中空部44は、外部から圧力がかかると変形して(潰れて)内部45の空気を出入り口46から外部に出し、その後、内部45の圧力が低下すると、外部から出入り口46を介して空気を取り入れ元の形状に戻る。出入り口46は、2以上あってもよく、入り口と出口が別になっていてもよい。
【0060】
センサ本体部分10の電極532Bに接続された配線と、対電極部20の電極531Bに接続された配線とはリード線43Aに結線(導通)され、同じ電位になるように構成されている。電極532B及び電極531Bは、リード線43Aを通じてアース(接地)される。
【0061】
電極532から引き出された配線と、電極53Aに接続されたリード線43Bとの間には、スイッチ532Cが設けられている。スイッチ532Cがオン(閉)となることで電極53Aが接地され、電極53Aの電位がアースとなる。リード線43Bは、帯電部51Aと帯電部51Bとの間の静電容量の変化によって生じる電流又は電圧、及び検体60との接触等による誘電体52Aの変形によって発生した電流又は電圧をセンサシグナル(信号)として取り出す(検出する)取り出し部として作用する。
【0062】
対電極部20は、帯電部51Bを含む。帯電部51Bは、例えば、支持体54B、電極531B及び誘電体52Bが積層された構成を有する。なお、誘電体52Bは、必要に応じて設けられる。
【0063】
帯電部51A及び51Bの大きさは、把持し持ち上げる検体の大きさ、重さを考慮して、信号が適切な大きさになるように任意に設定でき、特に限定されない。ここでは実験に使用した夫々平面が18mm×18mmの矩形状に形成されたものを用いて説明する。但し、中空部44を設ける場合には平面円形状に形成する。支持体54Aは、例えば厚さ30μmのポリイミドフィルムを用いて形成されている。電極53Aは、厚さ100nmの銅膜であり、電極532Bは、厚さ100nmのアルミニウム膜である。電極532Bは、厚さ30μmポリイミドフィルムである支持体54Aに対する蒸着によって形成される。
【0064】
電極531Bは、厚さ16μmのPETフィルムで形成された支持体54Bの上に蒸着された厚さ100nmのアルミニウム膜である。図3に示す例では、誘電体52Bが省略され、指2Bが誘電体52Bとして作用する。
【0065】
電極531B及び532Bは、配線としての、アルミニウム薄膜、銅薄膜などの導線に連結され、アース線としてのリード線43Aに連結されている。導線連結の方が湿度温度などの環境の変化の影響を受けづらく好ましい。支持体54Bは、厚さ25μmのPET製フィルムを用いて形成されている。
【0066】
電極531Bが誘電材料の場合は、電極531Bが誘電体52Bを兼ねてもよい。誘電体52B及び52Aの好ましい材料としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロン(登録商標)ゴムなどの弾性を有する樹脂材料が好ましい。特に好ましくは、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などである。
【0067】
リード線43A,43Bは、例えば、エレクトロメータに接続されて、エレクトロメータの表示部に表示された応答信号波形が観察される。支持体54Bは、誘電体52Bにダメージを与えないための保護層として作用する。支持体54Bは、帯電センサ41の感度を高くするために、変形が容易で、かつ摩擦等の起こりにくい部材を用いることが好ましい。電極53A,532Bは、変形が容易で、かつ変形により破損することの少ない材料であることが好ましい。
【0068】
弾性部材である誘電体52Aと誘電体52Bとの一方は、電荷を溜め易い材料とし、他方は溜めにくい材料とすることができる。また、誘電体52Aと誘電体52Bとは、同様の特性を有する材料を用いてもよい。支持体54Aを指2Aに接着してセンサ本体部分10を指2Aに取り付ける場合、支持体54Aは、破損等が起こりにくく、かつ接着剤との親和性の高い材料を使用することが好ましい。
【0069】
帯電部51Aと帯電部51Bとは、摩擦発電を行う際に、それぞれ正負を帯びた帯電部となり得る。この場合、電極53Aと電極53Bとのいずれが正負になるかはどちらでもよい。例えば、電極53Aが正に帯電し、電極53Bが負に帯電してもよい。逆に、電極53Aが負に帯電し、電極53Bが正に帯電してもよい。
【0070】
誘電体52Aが備えてもよい中空部44は、図3では、ドーム状を成している。もっとも、中空部44は、縦横が5mmから8mm、高さが1mmから10mmの半球形などのドーム形状、円錐、又は4から20の多面体とすることもできる。中空部44内と外との間の膜厚(壁部58の膜圧)は0.01mmから5mmが好ましい。中空部44の材料は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロン(登録商標)ゴムなどの弾性を有する樹脂材料を用いるのが好ましい。特に好ましくは、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を中空部44の材料に用いるのが好ましい。
【0071】
また、中空部44と誘電体52Aは同一の材料でも部分的に複数の異なる材料を用いて構成されていてもよい。異なる材料が用いられる場合、検体60に接触する側と電極53Aに接する側とで、帯電列上で大きく離れた材質を選択するのが好ましい。例えば検体60に接触する側にシリコーンゴムのようなマイナスに帯電しやすい材質を選び、電極53Aに近い側には、ナイロン樹脂のようなプラスに帯電しやすい物質を選択する。
【0072】
中空部44の出入り口46の形状の制限は特になく、円形の穴、あるいはスリット、などを採用し得る。出入り口46は、中空部44に検体60等から圧力がかからない時は塞がっているが、外部の圧力によって壁部58が変形した際に開口するものでもよい。
【0073】
なお、帯電センサ41が備える、誘電体、電極、及び支持体の夫々の厚みや材料は適宜設定可能である。誘電体、電極、及び支持体の夫々の好ましい膜厚は、それぞれ0.01
μmから500μm、0.01μmから1000μm、1μmから1000μmの範囲で
ある。より好ましくは、0.05μmから200μm、0.02μmから500μm、5μmから500μmの範囲である。
【0074】
電極53Aと電極532Bとに挟まれた高抵抗層55Aは、電極53A及び電極532Aより高い体積抵抗率を有する。高抵抗層55Aの材料は、好ましくは10Ωcm以上1012Ωcm未満、さらに好ましくは10Ωcm以上1012Ωcm未満の体積抵抗率である有機または無機材料から適宜選択することができる。高抵抗層55Aは、高周波成分ノイズとベースライン変動を抑制させセンサシグナルを安定させる機能を有する。高抵抗層55Aの材料としては、紙、ポリイミド樹脂、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロン(登録商標)ゴムなどの弾性を有する樹脂材料を用いるのが好ましい。特に、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を用いるのが好ましい。
【0075】
高抵抗層55Aの好ましい膜厚は10nmから5mmであり、さらに好ましくは100nmから500μmである。高抵抗層55Aのセンサシグナル安定化効果は、検収されるシグナルの周波数より著しく高い。これは高周波成分の電荷が高抵抗層55Aを通過しやすいためと考えられる。体積抵抗率が10Ωcmより高いとシグナル強度が十分に得られ、また1012Ωcmより低いとシグナル安定化効果が高くなる。体積抵抗率は、例えば5mm×5mmスクエアの有機樹脂層サンプルの両面に35μm銅箔を密着させ、貼り付け体積抵抗率用サンプルを作成し測定するとよい。測定装置としては例えばTecman社製高抵抗テスターTM385を用いて、計測することができる。
【0076】
<ロボットハンド>
図5に示すロボットハンドは、検体60(物体の一例)を把持する把持部2を備える。帯電センサ41が把持部2に設置される場合には、図5に示すように、把持部2が備える複数の指の一つ(第1の指(指2A))にセンサ本体部分10が設置され、指2Aと異なる指(第2の指(指2B))に対電極部20が設置される。把持部2は、検体60の左右方向からその側面を挟むようにして把持するが、検体60の上面及び下面を上下方向から挟むようにしてもよい。
【0077】
図5に示すように、センサ本体部分10は指2A上に設置される。把持部2は、指2A及び指2Bの開閉動作を行い、閉動作時に、指2Aの先端における指の腹と、指2Bの先端における指の腹とが接触するように閉じて、検体60を挟む。このとき、検体60の押圧面(図2の下面)59は、指2A上に設けられたセンサ本体部分10、すなわち、中空部44がある場合には中空部44の表面の壁部58の表面である接触面と接触する。中空部44を持たない場合でも同様に接触面と接触する。センサ本体部分10は、帯電量(電荷量)の変化を、電極53Aに接続されたリード線(取り出し部)43Bにより検出する。把持部2は、内部中空部分21と、内部中空部分21内の空気を吸引するための空気吸引口22とを有する。ロボットハンド2は、内部中空部分21が大気下では膨らみ、指2A及び2Bの夫々の先端部の間の距離は大きく開く。これに対し、例えば-35Kpa程度の力で空気吸引口22から内部中空部分21内の空気を吸引することによって、内部中空部分21が減圧収縮すると、指2A及び2Bの夫々の先端部が接近し、閉じて検体60を把持する。
【0078】
図5において、対電極部20は、図3に示す構成と異なり誘電体52Bを有しておらず、指2Bが誘電体52Bとして作用する。指2Bが電極531Bと導通していれば、対電極部20は、指2Bの上になくてもよい。このアースの取られた対電極部20を備えることで、センサ本体部分10と検体60との間の接触による圧力を感知する触覚検知のみならず、センサ本体部分10と検体60の帯電電場を非接触近接状態で検知する機能も兼ね備えることができる。
【0079】
図5に示す帯電センサ41は、センサ本体部分10の帯電部52Aが、中空の内部45が空気の出入り口である出入り口46を介して外部(外の空間)と連通した中空部44を有している。中空部44の壁部58は、柔軟な(弾性を有する)材料で形成されている。壁部58は、微弱な検体60の接触圧力に対して容易に変形可能である。また、検体60との接触による外圧の発生時に、中空部44は、出入り口46から内部45の空気を逃すことができる。仮に、中空部44が出入り口46を有しない場合には、変形により内部45の空気圧が上昇し、圧力の上昇に対して帯電部52Aの変形量が小さくなって、感度が低下する。出入り口46から空気が抜けることで、感度の低下を抑制することができる。なお、図6に示す帯電センサ41は、図5に示す帯電センサ41と同様の構成を有する。
【0080】
検体60を指2A及び2Bで挟む場合、検体60にロボットハンド2の指2A及び2Bが接近することによって、帯電センサ41の電極531Bと53A間の静電容量(静電容量C)が変化する。また、検体60と帯電部52A(中空部44)とが接触すると、検体60から帯電部52Aへ電荷が移動して帯電発電が起こる。さらに指2A及び2Bの把持力を強めると、検体60からの押圧で中空部44の内部45の空気が出入り口46から抜けて中空部44が潰れる。内部45から空気の殆どが抜けた後も加圧が続くと、壁部58の柔軟性により、壁部58はさらに収縮変形を続ける。このように、中空部44が変形し、潰れてさらに圧縮される間、帯電発電が継続して起こる。帯電発電によって、電極532Bと電極53Aとの間の電圧が変化し、この変化が取り出し部(電極53Aに接続されたリード線)43Bからセンサシグナルとして検出される。
【0081】
帯電センサ41によれば、上記した中空部44による作用によって、1g以下の微弱な触覚圧力から数百gの強い圧力変化までの幅広い検体からの圧力を検知することができる。帯電センサ41は、後述するように第1~第3の検知モードにより、種々の検体の大きさ、物性の違いを、センサシグナルの変化として検知することができ、検体の高い識別が可能となる。
【0082】
<実施例>
図1及び図2のグラフは、Shenzhen Yuejiang Technology 社製のロボットアーム(Dobot Magician)に取り付けたロボットハンド(Piab社製エアーバキューム型ソフトハンドpiSOFTGRIP)の指の上に取り付けた帯電センサ41の検知特性評価結果である。図1及び
図2のグラフは、縦軸が帯電センサ41の出力信号(応答信号、或いはセンサシグナルと呼ばれる)の信号強度(単位は電圧V)の時間的変化を示し、横軸は時間(単位秒)である。
【0083】
図1及び図2に示す評価結果は、形状は同じだが重量が異なる検体(第1の物体及び第2の物体)をロボットハンドで把持し持ち上げ(リフト)させてときの異なる検体の重量を求めることを目的とし、ロボットハンドが検体を把持リフトした際に得られた帯電センサ41からの出力信号の形状(信号波形)と、検体の重量との相関を検知できることを確認した。
【0084】
検体として、3Dprintを用いて1.75mmΦのポリ乳酸エステル樹脂(PLA)フィラメントを使用して直径2.5cmの球形を球形内部の密度を変え表面の密度は同じになるように重量4gと16gの同型の検体を作製した。
【0085】
ロボットハンドは、3本の指を有し、指の一つにセンサ本体部分10(帯電部51A)が設けられ、別の一つに対電極部20(帯電部51B)が設けられている。これらの3本の指の中心に検体60が位置するようにロボットアームを操作し、ロボットハンドを固定した。次いで、帯電センサ41のリード線43Aと43Bを短絡させて(スイッチ532
Cをオンにして)、電極53Aから得られるセンサシグナルを0Vに設定した。その後、スイッチ532Cをオフにし、ロボットハンドの吸引口から-35Kpsでロボットハンドが備える内部中空部分内の空気を吸引し、指を閉じて検体を約0.5秒間で把持させた後、その吸引状態を1.6秒間保持させた。
【0086】
図1及び図2のグラフに示される信号強度は、把持の開始で検体が中空部44に接触して中空部44を加圧するに伴って上昇し、把持動作(加圧)を終了した時点で最大加圧状態(信号波形のピーク:B点)に到達する。このとき、中空部44は、一時的に最大の収縮状態となる。その後、所定時間の経過後、時刻a(C点)において、持ち上げ動作が開始された。持ち上げ動作において、検体は5cm/sの加速度で持ち上げられ(リフトされ)、時刻b(D点)で持ち上げ動作が終了した。
【0087】
図1及び図2に示した信号強度の波形を比較すると、4gの検体(第1の物体)を持ち上げた場合における第3区間の傾き(信号強度の変化量ΔS)は、16gの検体(第2の物体)を持ち上げた場合のΔSの値より小さかった。さらに、同型の8gの検体(第3の物体)と、同型の12gの検体(第4の物体)とについても、同様のΔSの測定を実施した。検体の重量4g、8g、12g、及び16gに対するΔSをプロットした結果が図6に示すグラフである。検体の重量とΔSとの間に良い相関が見られ、図6のグラフを検量線として用いることで、帯電センサの出力信号を用いて算出したΔSの値から検体の重量を算出(測定)できることが明らかになった。
【0088】
<測定装置>
図7は、実施形態に係る帯電センサ41及び把持部2を備えるロボットハンド(図5)に適用可能な物体の重量の測定装置の構成例を示すブロック図である。図7において、測定装置200は、バス210を介して相互に接続された、プロセッサ201、記憶装置202、通信インターフェース(通信IF)203、入力装置204、ディスプレイ205を含む。
【0089】
バス210は、駆動装置206に接続されており、駆動装置206は、ロボットハンド207に接続されている。ロボットハンド207は、把持部2及び帯電センサ41を備えた図5に示す構成を有している。帯電センサ41は、リード線43A及び43Bを介してエレクトロメータ208に接続されている。
【0090】
測定装置200として、汎用又は専用のコンピュータを適用することができる。記憶装置202は、主記憶装置と、補助記憶装置とを含む。主記憶装置は、プログラムやデータの記憶領域、プロセッサ201の作業領域、通信データのバッファ領域として使用される。補助記憶装置は、プログラムやデータの記憶領域として使用される。主記憶装置は、RAM(Random Access Memory)又はRAMとROM(Read Only Memory)との組み合わせである。補助記憶装置は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、EEPRO
Mなどである。
【0091】
通信IF203は、有線ネットワーク又は無線ネットワークを経由してサーバや他の装置等との情報の通信(入出力)を行うインターフェースである。通信IF203は、例えば、ネットワークインタフェースカード、無線通信モジュール(回路チップ)などである。入力装置204は、キー、ボタン、ポインティングデバイス、タッチパネルなどであり、判定装置にデータや情報を入力するために使用される。ディスプレイ205は、データや情報の表示に使用される。
【0092】
プロセッサ201は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、記憶装置2
02に記憶されたプログラムを実行することによって、ロボットハンド207(把持部2
)の把持動作及び持ち上げ動作などを制御する制御装置として動作する。プロセッサ201は、通信IF203を介して受信される外部装置からの命令、の操作者等が入力装置204を用いて入力した命令、又はプログラムの実行によって生成される命令によって様々な処理を行う。
【0093】
例えば、プロセッサ201は、駆動装置206に対し、ロボットハンド207に対する把持動作や持ち上げ動作の制御量を示す制御信号を供給する。駆動装置206は、ロボットハンド207が備える複数の関節やリニアスライダー、エアーアクチュエータの空気圧調整用のポンプやバルブに対応する複数のステッピングモータ、サーボモータ、ソレノイドを含み、プロセッサ201から与えられた制御量(回転や移動の方向や速度量)に従った量だけ駆動する。これによって、把持部2の内部中空部分21に対する空気の流入による把持部2の把持動作、及び検体を把持した把持部2の上昇動作による検体の持ち上げ動作などが行われる。
【0094】
ロボットハンド207(把持部2)には、中空部44を備える帯電センサ41が取り付けられている。帯電センサ41は、リード線43A及び43Bを介してエレクトロメータ208に接続されている。ロボットハンド207において、検体の把持動作及び持ち上げ動作が行われると、帯電センサ41に含まれる弾性部材(誘電体52A)の変形により発電が行われ、帯電センサ41から発電に伴う電圧又は電流を示す信号(帯電センサ41の出力信号)がリード線43A、43Bを通じてエレクトロメータ208に入力される。
【0095】
エレクトロメータ208は、帯電センサ41からの出力信号の測定を行い、エレクトロメータ208が備えるディスプレイに、図1又は図2に示したような、信号強度(V)の時間的変化を示す信号波形を表示する。波形の観察によって、検体の重量を目視判定することができる。
【0096】
また、把持動作及び持ち上げ動作時に応じた帯電センサ41の出力信号は、測定装置200に入力され、A/D変換されてプロセッサ201に供給される。図8は、測定装置200のプロセッサ201によって行われる処理例を示すフローチャートである。
【0097】
ステップS001では、プロセッサ201は、ロボットハンド207の動作制御によってロボットハンド207に検体の把持動作及び持ち上げ動作を行わせ、図1及び図2に示すような把持動作及び持ち上げ動作時における帯電センサ41の出力信号を取得する。ステップS002では、プロセッサ201は、出力信号の波形から、時刻aから時刻bまでの区間、すなわち第3の区間を特定する。
【0098】
ステップS003では、プロセッサ201は、時刻b(D点)における信号強度から時刻a(C点)における信号強度を減じてΔSの値を算出する。ステップS004では、プロセッサ201は、ΔSを用いて検体の重量を算出する。例えば、記憶装置202には、ΔSの値と検体の重量との相関関係(対応関係)を示すデータ(検量線データ)が予め記憶されており、プロセッサ201は、検量線データを用いて、ΔSに対応する重量を算出(測定)する。
【0099】
また、ステップS004において、プロセッサ201は、重量の異なる複数の検体についてのΔSの値を教師データに用いた深層学習によって形成された判定器として動作し、ステップS003で算出されたΔSに対する重量を判定することで、検体の重量を算出(測定)してもよい。すなわち、物体の重量の測定に、深層学習によって得られた、持ち上げ動作における帯電センサの信号波形と把持状態の物体の重量との関係を用いてもよい。
【0100】
ステップS005では、プロセッサ201は、検体の重量を示す情報をディスプレイ2
05に表示したり、通信IF203を用いて所定の宛先に送信したりする。
【0101】
なお、測定装置200は、ロボットハンド207から独立した別個の装置であっても、ロボットハンド207が備えた構成要素の一つである「測定部」であってもよい。プロセッサ201は、「測定回路」の一例である。プロセッサ201が行う処理の一部または全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路(ハードウェア)によって行われてもよく、ハードウェアとソフトウェア(プロセッサ及びメモリ)の組み合わせ(SoC(System on a chip)など)によって行われてもよい。
【0102】
<実施形態の作用効果>
実施形態に係るロボットハンド、測定装置、及び測定方法によれば、把持部の把持動作及び持ち上げ動作における帯電センサ41の出力信号を用いて、検体(把持された物体)の重量を測定することができる。このため、重量の測定に、ロードセルなどを用いた複雑な機構を必要とせず、また、検体との接触の有無などのために使用される帯電センサ41を用いて、簡易な構成で重量を測定することができる。上述した実施形態にて説明した構成は、発明の目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0103】
2 ・・・把持部
2A、2B・・・指
10・・・センサ本体部分
20・・・対電極部
21・・・内部中空部分
22・・・中空内の空気を吸引する為の空気吸引口
44・・・中空部
45・・・中空部の内部
46・・・空気吸引口
41・・・帯電センサ
43・・・取出し部
43A、43B・・・リード線
46・・・空気出入り口
51A、51B・・・帯電部(帯電体)
52A、52B・・・誘電体
53A、53B、531B、532B・・・電極
532C・・・スイッチ
54A、54B・・・支持体
55A・・・ 高抵抗層(ノイズ除去層)
60・・・検体(物体)
200・・・測定回路
201・・・プロセッサ
202・・・記憶装置
206・・・駆動装置
207・・・ロボットハンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8