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特開2022-145105磁心用粉末とその製造方法および圧粉磁心
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145105
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】磁心用粉末とその製造方法および圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220926BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220926BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20220926BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20220926BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220926BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220926BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20220926BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20220926BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20220926BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B22F1/00 B
H01F1/147 166
H01F1/20
H01F1/24
H01F27/255
B22F1/00 D
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
B22F1/02 C
B22F1/02 E
B22F1/02 G
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046370
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 典彦
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA26
4K018BA15
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC08
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC30
4K018BC33
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA16
4K018DA31
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA63
5E041AA02
5E041BC01
5E041BC05
5E041HB17
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】圧粉磁心の鉄損(特にヒステリシス損失)を低減できる磁心用粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Siを含む鉄合金からなる第1粉末を975~1175℃で加熱して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体を解砕して第2粉末を得る解砕工程と、第2粉末を焼鈍した第3粉末を得る粉末焼鈍工程とを備える磁心用粉末の製造方法である。粉末焼鈍工程は、例えば、第2粉末を550~850℃で加熱してなされる。第3粉末は、例えば、平均粒子径:50~250μm、平均結晶粒径:30~100μm、および平均粒子硬さ:100~190Hvを満たす軟磁性粒子からなる。このような圧粉磁心は、例えば、周波数が1~3kHzである交番磁界中で使用される場合に適している。その具体的な用途例として、高速回転する電動機のステータ等がある。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを含む鉄合金からなる第1粉末を975~1175℃で加熱して仮焼体を得る仮焼工程と、
該仮焼体を解砕して第2粉末を得る解砕工程と、
該第2粉末を焼鈍した第3粉末を得る粉末焼鈍工程と、
を備える磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記粉末焼鈍工程は、前記第2粉末を550~850℃で加熱する請求項1に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
Siを含む鉄合金からなり、
平均粒子径:50~250μm、平均結晶粒径:30~100μmおよび平均粒子硬さ:100~190Hvを満たす軟磁性粒子からなる磁心用粉末。
【請求項4】
前記鉄合金は、その全体に対してSiを1~4質量%含む請求項3に記載の磁心用粉末。
【請求項5】
前記軟磁性粒子は、絶縁被覆されている請求項3または4に記載の磁心用粉末。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の磁心用粉末を成形してなる圧粉磁心。
【請求項7】
周波数が1~3kHzである交番磁界中で使用される請求項6に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造に用いる磁心用粉末の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)、発電機、各種アクチュエータ、変圧器(トランス)などの電磁機器は、磁心(軟磁石)を介して交番磁界を作用させている。電磁機器の効率向上には、磁気特性に優れると共に、高周波損失(以下、磁心の材質に拘らず単に「鉄損」という。)が小さい磁心が必要となる。
【0003】
鉄損には、渦電流損失、ヒステリシス損失および残留損失があるが、中でも渦電流損失は交番磁界の周波数の自乗に比例して大きくなる。この渦電流損失の低減を図るため、表面が絶縁被覆された電磁鋼板の積層体からなる磁心がこれまで主に用いられてきた。
【0004】
しかし、最近では、形状自由度が高く、渦電流損失に加えて、交番磁界の周波数に比例して大きくなるヒステリシス損失も低減できる圧粉磁心(絶縁被覆した軟磁性粒子の圧粉体)が注目されている。このような圧粉磁心に関連する記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-288983号公報
【特許文献2】特開2006-24869号公報
【特許文献3】特開2013-142182号公報
【特許文献4】特開2016-213306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献に記載されている圧粉磁心は、スイッチング電源やDC/DCコンバータ等に用いられるインダクタやリアクトルへの使用を前提に、想定されている使用周波数域は10k~100kHz程度であった。
【0007】
しかし、より低周波数域(例えば1.2~3kHz)で使用される電磁機器にまで圧粉磁心の用途を拡大する場合、低周波領域で問題となる鉄損(例えばヒステリシス損失)のさらなる低減が必要となる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、圧粉磁心の鉄損(例えばヒステリシス損失)の低減を図れる磁心用粉末の製造方法等を提供することも目的とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、鉄合金からなる原料粉末を、さらに高温加熱、解砕および焼鈍した軟磁性粉末を用いることにより、圧粉磁心の鉄損(例えばヒステリシス損失)をさらに低減できることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《磁心用粉末の製造方法》
(1)本発明は、Siを含む鉄合金からなる第1粉末を975~1175℃で加熱して仮焼体を得る仮焼工程と、該仮焼体を解砕して第2粉末を得る解砕工程と、該第2粉末を焼鈍した第3粉末を得る粉末焼鈍工程と、を備える磁心用粉末の製造方法である。
【0011】
(2)本発明の製造方法によれば、結晶粒径が大きく、残留歪みや残留応力の小さい粉末粒子からなる第3粉末(軟磁性粉末)が得られる。この第3粉末を用いることにより、少なくともヒステリシス損失の低減を図れる圧粉磁心の製造が可能となる。
【0012】
《磁心用粉末》
本発明は、そのような磁心用粉末としても把握される。例えば、本発明は、Siを含む鉄合金からなり、平均粒子径:50~250μm、平均結晶粒径:30~100μm、および平均粒子硬さ:100~190Hvを満たす軟磁性粒子からなる磁心用粉末でもよい。なお、磁心用粉末は、圧粉磁心の渦電流損失の低減(圧粉磁心の比抵抗向上)を図るため、絶縁被覆された軟磁性粒子からなるとよい。
【0013】
《圧粉磁心等》
本発明は、上述した磁心用粉末を成形してなる圧粉磁心やその製造方法としても把握される。圧粉磁心の製造方法は、例えば、磁心用粉末の成形工程と、成形工程で粉末粒子中に導入された残留歪みや残留応力を除去する熱処理(焼鈍)工程とを備えるとよい。
【0014】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【0015】
特に断らない限り、本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系(kHz、kW/m等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】原料粉末の仮焼後の状態を示す写真である。
図2】仮焼後の解砕した各粉末粒子の顕微鏡写真である。
図3】仮焼後の各粉末粒子の平均結晶粒径と仮焼温度との関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。上述した本発明の構成に本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明に係る磁心用粉末、圧粉磁心、それらの製造方法にも適用され得る。製造方法に関する構成も、物に関する構成ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
《粉末と製造方法》
(1)第1粉末
第1粉末は、Siを含む鉄合金(軟磁性材)からなる。Siは、鉄合金全体を100質量%(単に「%」という。)として、1~4%さらには2~3.5%含むとよい。Siが過少では、渦電流損失やヒステリシス損失が増大し得る。Siが過多では、硬さが増して成形性が低下し得る。なお、本明細書では特に断らない限り、鉄合金全体に対する質量割合で合金組成を示す。
【0019】
鉄合金は、Si以外の残部がFeおよび不可避不純物でもよいし、Si以外に、圧粉磁心の磁気特性、比抵抗、成形性等を改善し得る改質元素(例えばMn、Cr、Mo、Ti、Ni等)の一種以上を含んでもよい。通常、改質元素量は少量であり、例えば、改質元素の合計量は鉄合金全体に対して、3%以下さらには1%以下である。なお、Feの一部は、他の強磁性元素(Co、Ni等)で置換されてもよい。
【0020】
第1粉末に供される原料粉末は、その製法を問わず、アトマイズ粉でも粉砕粉でもよい。アトマイズ粉は、水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉、ガス水アトマイズ粉のいずれでもよい。擬球状をした粒子からなるアトマイズ粉を用いれば、粒子相互間の攻撃性が低下して、絶縁破壊等による圧粉磁心の比抵抗値の低下(渦電流損失の上昇)等が抑制され得る。
【0021】
粉末粒子の粒径は適宜選択されるが、例えば、平均粒子径は50~250μmさらには75~150μmである。粒径が過大であると圧粉磁心の渦電流損失が増加し、粒径が過小であると圧粉磁心のヒステリシス損失が増加し得る。
【0022】
本明細書でいう「平均粒子径」は、特に断らない限り、粒度分布測定器(例えば、HELOS & RODOS社製レーザー回析式乾式粒度分布測定装置)を用いて測定されるメジアン径(D50:頻度累積が50%となる粒子径)である。
【0023】
第1粉末は、所定のメッシュサイズの篩い(JIS Z8801:1982)を用いて分級されたものでもよい(JIS Z2510:2004)。これにより圧粉磁心の鉄損を安定して低減し得る。例えば、45~250μm、75~212μmさらには100~160μmに分級された原料粉末を第1粉末に用いてもよい。
【0024】
(2)第2粉末
第2粉末は、例えば、第1粉末を加熱処理する仮焼工程と、その仮焼工程で得られた仮焼体を解砕(粉砕を含む。)する解砕工程とを経て得られる。仮焼工程は、粉末粒子内の結晶成長が生じる温度と時間で、第1粉末が加熱されるとよい。仮焼工程の加熱温度(仮焼温度という。)は、例えば、975~1175℃、1000~1125℃さらには1025~1075℃である。その加熱時間は、例えば、0.4~3時間さらには0.7~2時間である。
【0025】
仮焼温度は、一般的な圧粉体(粉末の高圧成形体)なら、焼結体になり得る高温である。しかし意外にも、第1粉末またはその低圧成形体(予備成形体/プレフォーム等)は、高温加熱されても焼結体とならず、解砕または粉砕可能な固化体(仮焼体)に留まった。仮焼体を解砕(さらには粉砕)して得られる第2粉末は、粒子形状や平均粒子径が第1粉末と略同じとなった。
【0026】
仮焼工程や解砕工程は、種々の雰囲気下でなされ得る。粉末粒子の(表面)酸化等を抑止する場合は、不活性雰囲気(希ガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気、水素還元雰囲気、真空雰囲気等)でなされるとよい。粉末粒子の表面酸化が許容されたり、粉末粒子の表面を意図的に酸化させる場合は、所望の酸化雰囲気下で仮焼工程等がなされてもよい。
【0027】
解砕工程は、仮焼体を粉末状に戻す工程であり、解砕機、粉砕機等を用いて所定時間なされる。例えば、ボールミルを用いて、0.5~5時間さらには1~3時間ぐらい処理される。なお、解砕工程は、粉末粒子への歪み導入等を抑制できる条件下でなされるとよい。
【0028】
(3)第3粉末
第3粉末は、第2粉末を加熱する粉末焼鈍工程を経て得られる。粉末焼鈍工程は、仮焼工程や解砕工程で粉末粒子中に導入された歪みや応力等が除去される温度と時間で、第2粉末を加熱するとよい。その加熱温度(粉末焼鈍温度という。)は、例えば、550~850℃、650~800℃さらには725~775℃である。その加熱時間は、例えば、0.4~3時間さらには0.7~2時間である。加熱雰囲気は、仮焼工程と同様に、不活性雰囲気でなされてもよいし、意図的な酸化雰囲気等でなされてもよい。
【0029】
(4)絶縁被覆
磁心用粉末は、絶縁被覆された粉末粒子(軟磁性粒子)からなるとよい。このような磁心用粉末を用いると、高比抵抗で低渦電流損失の圧粉磁心が得られる。軟磁性粒子の表面に形成される絶縁層として、例えば、樹脂層、ガラス層、酸化層等がある。樹脂層は、例えば、耐熱性に優れるケイ素樹脂(またはシリコーンレジン)を用いて形成される。ガラス層は、例えば、低融点ガラスやケイ素樹脂を用いて形成される。酸化層は、例えば、Siを含む鉄合金粒子を加熱して形成される酸化ケイ素(SiO等)や酸化鉄(FeO、Fe、Fe等)である。なお、磁心用粉末の粒子表面にあるケイ素樹脂や低融点ガラス等は、圧粉体の加熱(焼鈍等)時に絶縁層となるのみならず、粒子間を結合する結合材(バインダ)ともなり得る。こうして得られる圧粉磁心は、高比抵抗のみならず、高強度ともなり得る。
【0030】
《磁心用粉末》
磁心用粉末は、Siを含む鉄合金の軟磁性粒子からなる。この軟磁性粒子は、例えば、平均粒子径:50~250μmさらには75~150μm(既述した第1粉末粒子と略同様)、平均結晶粒径:30~100μmさらには45~75μm、平均粒子硬さ:100~190Hvさらには150~185Hvを満たす。軟磁性粒子の絶縁被覆は、磁心用粉末の成形段階(圧粉磁心の製造段階)で形成されてもよいし、それ以前に予め形成されていてもよい。
【0031】
本明細書でいう平均結晶粒径は次のようにして求まる。先ず、粉末から106μm~150μmに分級した粒子を樹脂埋め、研磨、エッチングして観察用試料を製作する。その試料を顕微鏡で観察して得られた画像中の各粒子について、断面積と粒内結晶数を求める。観察した全粒子について、断面積の合計(S)を、粒内結晶数の合計(N)で除して求めた平均結晶粒断面積に相当する円面積となる直径:d=2×{(S/N)/π}0.5を算出する。こうして求まる直径(d)を平均結晶粒径とする。
【0032】
なお、算出対象である粒子は、所定の視野(0.6mm×0.5mm)内にある全粒子でもよいし、複数の視野内から適当に抽出した粒子(例えば50~100個程度の粒子)でもよい。
【0033】
本明細書でいう平均粒子硬さは、次のようにして求めた。上述した観察用試料を用いて、1粒子あたり1箇所の硬さを、10個の粒子について、マイクロビッカース硬度計(試験荷重:100g)で測定した。こうして得られたビッカース硬さの算術平均値を平均粒子硬さとした。
【0034】
なお、平均粒子硬さは、軟磁性粒子内に残留する歪みや応力の程度を反映する。すなわち、平均粒子硬さが小さいほど、粒子内に残留する歪みや応力が少ない(換言すると保磁力が小さい)と考えられる。従って、平均粒子硬さが小さい磁心用粉末を用いるほど、ヒステリシス損失も小さい圧粉磁心が得られると考えられる。
【0035】
《圧粉磁心の製造方法》
圧粉磁心は、例えば、所望形状のキャビティを有する金型へ上述した磁心用粉末を充填する充填工程と、その粉末を加圧して成形体とする成形工程と、その成形体を焼鈍する焼鈍工程とを備える製造方法により得られる。成形工程と焼鈍工程は、例えば、次のようにしてなされる。
【0036】
(1)成形工程は、種々の成形圧力でなされ得るが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法がある。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、その粉末と金型の内面との間に、高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される温度および圧力で成形する温間成形工程とを備える。
【0037】
ここで「温間」は、例えば、成形温度(金型温度)を70℃~200℃さらには100~180℃とすることをいう。金型潤滑温間高圧成形法は、例えば、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報で詳述されている。
【0038】
(2)焼鈍工程は、成形工程により粒子中に残留した歪みや応力の除去を目的としてなされる。これにより圧粉磁心の保磁力やヒステリシス損失の低減が図られる。焼鈍温度は、粉末粒子の組成等に応じて適宜選択されるが、例えば、500~900℃さらには650~800℃である。加熱時間は、例えば0.1~5時間さらには0.5~2時間である。この焼鈍工程は、通常、不活性雰囲気でなされる。
【0039】
《圧粉磁心》
(1)圧粉磁心は、高密度であるほど高磁気特性となり得る。このため、その相対密度は、例えば、95%以上、96%以上さらには96.3%以上であるとよい。なお、相対密度は、真密度(ρ)に対する嵩密度(ρ)の比(ρ/ρ)である。
【0040】
(2)圧粉磁心は、様々な用途に利用され、その用途に応じて種々の形態をとり得る。圧粉磁心は、例えば、電動機(発電機を含む。)、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)等の磁心として用いられる。
【0041】
ちなみに、電気自動車(EV:Electric Vehicle)用のモータは、従来よりも高速回転化して、出力に対するさらなる小型化が試みられている。EV用モータは、車両駆動に用いられるため、渦電流損が支配的でない低回転域(低周波数域)でも低鉄損であることが求められる。本発明の圧粉磁心は、そのような高速運転される電動機の界磁子側または電機子側(特にステータ側)の鉄心に適する。例えば、本発明の圧粉磁心によれば、周波数が3kHz以下となる領域でも、鉄損(特にヒステリシス損失)の低減が図られる。なお、磁極数が8極のモータの場合なら、例えば、周波数:1.2kHz、2.0kHz、3kHzはそれぞれ、(最大)回転数:18000rpm、30000rpm、45000rpmに相当する。
【実施例0042】
異なる処理条件下で得られた種々の磁心用粉末を用いて圧粉磁心を製作し、その特性を評価した。このような具体例に基づいて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0043】
《磁心用粉末》
(1)第1粉末(原料粉末)
原料粉末として、Si含有鉄合金(Fe-3%Si)からなるガスアトマイズ粉を用意した。なお、本実施例では、特に断らない限り合金組成は質量割合(質量%)で示す。
【0044】
篩い(メッシュサイズ:#50)を用いて原料粉末を分級し、粒度:300μm未満の粉末を第1粉末とした。第1粉末の平均粒子径を既述した粒度分布測定装置で測定したところ、94.3μm(D50)であった。なお、表1に示す試料2は、サイズが異なる2種の篩い(#330、#60)を用いて、粒度:45μm以上、250μm未満に原料粉末を分級した粉末を用いた。この平均粒子径を同様に測定したところ、100.2μm(D50)であった。
【0045】
(2)第2粉末(仮焼工程)
各第1粉末(200g)をアルミナ坩堝に入れて、表1に示す各仮焼温度で炉加熱した。この際、炉内を真空雰囲気にして予加熱した後(1×10-2Pa×400℃×1時間)、不活性雰囲気(Arガスフロー下:約90kPa)にして目標の仮焼温度まで12℃/分の割合で昇温させ、各仮焼温度で1時間加熱した。この加熱後の第1粉末は炉冷(不活性雰囲気の炉内で放冷)した。
【0046】
各仮焼温度で加熱した第1粉末の状態を図1に示した。図1から明らかなように、1050℃(975℃以上)で加熱したときだけ(表1の試料1、2、C1)、第1粉末が固化した仮焼体が得られた(仮焼工程)。
【0047】
900℃で加熱した第1粉末(表1の試料C2)は、乳鉢に入れて軽く解砕して、第2粉末とした。750℃で加熱した第1粉末(表1の試料C3)は、そのまま第2粉末として用いた。
【0048】
第1粉末を1050℃で加熱して得られた仮焼体は、φ100mm×100mmのセラミックポット内にφ10mmのアルミナボール(セラミックポット容積に対し約1/3)と100gの第1粉末粉を入れて、ボールミルで解砕(100rpm×1時間)して、第2粉末とした(解砕工程)。なお、いずれの第2粉末の粒度も、第1粉末と同程度の粒度(300μm未満または250μm未満)であることは、篩いにより確認した。
【0049】
(3)第3粉末(粉末焼鈍工程)
解砕した試料1、2の第2粉末を750℃で炉加熱した。加熱条件は、加熱温度を除いて、上述した仮焼工程と同じとした。こうして、試料1、2に係る第3粉末を得た。
【0050】
(4)絶縁被覆(温間混練工程)
軟磁性粉末(試料1、2は第3粉末、試料C1~C3は第2粉末)と、樹脂粉末(信越化学工業株式会社製「KR220L」)とを混合した(混合工程)。樹脂粉末は、軟磁性粉末(100質量部)に対して0.5質量部とした。それらの混合粉末を容器に入れて加熱し、樹脂粉末を軟化させてガラス棒で混練(130℃×15分間)した。その後、ガラス棒を動かせつつ、混練物を室温まで冷却させた。こうして、軟磁性粉末粒子をシリコーン樹脂で被覆した被覆粒子からなる磁心用粉末を得た。なお、絶縁被覆処理は大気圧雰囲気下で行った。
【0051】
《圧粉磁心》
上述した各磁心用粉末を用いて、圧粉磁心を次のようにして製造した。
【0052】
(1)リング状のキャビティを有する超硬製の成形型を用意した。成形型の内周面にはTiNコート処理が施してあり、その表面粗さは0.4Zであった。この成形型をバンドヒータで予熱して、キャビティの内壁温度を130℃とした。
【0053】
加熱された成形型のキャビティ内周面へ、水溶液に分散させたステアリン酸リチウム(1%)をスプレーガンで、10cm/分程度の割合で均一に塗布した。その水溶液は、水に界面活性剤と消泡剤を添加して調製した。界面活性剤には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、(EO)10及びホウ酸エステルエマルボンT-80を用いた。これらを水溶液全体(100体積%)に対して、それぞれ各1体積%ずつ添加した。
【0054】
消泡剤にはFSアンチフォーム80を用いた。これを水溶液全体(100体積%)に対して0.2体積%添加した。ステアリン酸リチウムには、融点が約225℃で、粒径が20μmのものを用いた。その分散量は、上記水溶液100cmに対して25gとした。これをさらにボールミル式粉砕装置で微細化処理(テフロン(登録商標)コート鋼球:100時間)して原液を得た。この原液を20倍に希釈した最終濃度1%の水溶液を上記の塗布に供した。
【0055】
(2)ステアリン酸リチウムの塗布後のキャビティへ、各磁心用粉末を充填した(充填工程)。
【0056】
キャビティ内の温度を130℃の温間状態に保持したまま、充填した磁心用粉末を1600MPaで加圧成形した。こうしてリング状(外径:φ39mm×内径φ30mm×厚さ5mm)の圧粉体を得た。
【0057】
(3)各圧粉体を窒素雰囲気中(13.3kPa)で炉加熱(750℃×45分間)した(焼鈍工程)。こうしてリング状の圧粉磁心(供試材)を得た。
【0058】
《観察・測定》
(1)平均結晶粒径
仮焼温度が異なる各第2粉末から抽出した粒子を樹脂埋めし、ナイタールでエッチングして観察用試料を製作した。その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料1、C2およびC3に係る観察像を図2に示した。
【0059】
各試料の観察像を画像処理して、既述した方法により平均結晶粒径を求めた。その結果を表1に併せて示した。また、仮焼温度と平均結晶粒径の関係を図3に示した。
【0060】
(2)平均粒子硬さ
絶縁被覆前の各軟磁性粉末(試料1、2は第3粉末、試料C1~C3は第2粉末)について、既述した方法により平均粒子硬さを求めた。その結果も表1に併せて示した。
【0061】
(3)鉄損
各試料の圧粉磁心(リング状)に、φ0.5mmの銅線を巻回し、交流BHアナライザ(メーカ:(株)岩通計測、型番:SY-8258)を用いて、1T、2kHzの交流磁場を印加したときの鉄損(ヒステリシス損失と渦電流損失)を測定した。こうして得られた結果も表1に併せて示した。
【0062】
(4)密度
各試料の圧粉磁心について、測定した寸法と重量から、嵩密度(ρ)を算出した。また、絶縁被覆に用いた樹脂粉末と原料粉末の配合割合、およびそれらの真密度に基づいて、圧粉磁心の真密度(ρ0)を算出した。これらから求まる各圧粉磁心の相対密度(ρ/ρ0)も表1に併せて示した。
【0063】
《評価》
(1)平均結晶粒径
表1および図3から明らかなように、仮焼温度を1050℃とした試料1、2およびC1の粉末粒子は、平均結晶粒径が顕著に増大することがわかった。
【0064】
(2)鉄損
さらに、表1から明らかなように、高温で仮焼した後に解砕および粉末焼鈍した第3粉末からなる圧粉磁心(試料1、2)は、鉄損(特に低周波域(例えば2kHz)におけるヒステリシス損失)が顕著に低下した。また、試料1、2の粉末粒子は、平均粒子硬さも他の粉末粒子よりも低いこともわかった。
【0065】
(3)考察
試料1、2の圧粉磁心の鉄損が小さい理由は次のように考えられる。試料1、2に係る粉末粒子は、仮焼工程で粒子内の結晶が成長すると共に、粉末焼鈍工程で仮焼体の解砕により導入された残留歪み・応力も除去された状態にあった。このような粉末粒子は保磁力も小さいため、その粉末粒子からなる圧粉磁心もヒステリシス損失が大幅に低減したと考えられる。
以上から、本発明に係る磁心用粉末を用いると、圧粉磁心の鉄損(特に低周波域のヒステリシス損失)を低減できることが確認された。
【0066】
【表1】
図1
図2
図3