IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

<>
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図1
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図2
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図3
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図4
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図5
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図6
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図7
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図8
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図9
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図10
  • 特開-柱状晶組織の成長方向の特定方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145146
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】柱状晶組織の成長方向の特定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20220926BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20220926BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/26
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046432
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 山
(72)【発明者】
【氏名】東海林 一
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047BA03
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC14
2G047CB03
2G047DB02
2G047DB03
2G047GB02
2G047GF17
(57)【要約】
【課題】金属検査物の柱状晶組織の成長方向の向きを非破壊で把握する。
【解決手段】超音波送受信手段により、金属検査物2に超音波を下向きに送信すると共に金属検査物2で反射した超音波を受信し、受信した反射波である底面エコーにより柱状晶組織5の成長方向の向きを導出するに際し、端部2aに向かう過程で底面エコー25が消失した際に、柱状晶組織5の成長方向の向きが、上に向かうに従って端部2a側に向いていると判断し、端部2aに向かう過程で底面エコーが消失しない際に、柱状晶組織5の成長方向の向きが、上に向かうに従って端部2aと反対側に向いていると判断する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波送受信手段により、金属検査物に超音波を下向きに送信すると共に前記金属検査物の底面で反射した超音波を受信し、受信した反射波である底面エコーにより柱状晶組織の成長方向の向きを導出する柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記金属検査物の端部の方向に前記超音波送受信手段を移動させながら底面エコーを受信し、
前記端部に向かう過程で底面エコーが消失した際に、
前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記端部側に向いていると判断し、
前記端部に向かう過程で底面エコーが消失しない際に、
前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記端部と反対側に向いていると判断する
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【請求項2】
超音波送受信手段により、既知の反射源を有する金属検査物に超音波を下向きに送信し、柱状晶組織の成長方向の向きを導出する柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記金属検査物の前記反射源の方向に前記超音波送受信手段を移動させながら超音波を下向きに送信し、
前記超音波送受信手段を挟んで前記反射源の反対側の前記柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、
前記反射源に向かう過程で前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源の側に向いていると判断し、
前記反射源に向かう過程で前記反射源が検出されず、前記反射源を通過した後に前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源と反対側に向いていると判断し、
前記反射源を挟んで前記超音波送受信手段の反対側の前記柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、
前記反射源に向かう過程で前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源と反対側に向いていると判断し、
前記反射源に向かう過程で前記反射源が検出されず、前記反射源を通過した後に前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源の側に向いていると判断する
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記反射源は、溶接部の裏波である
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記超音波送受信手段は、フェーズドアレイ探触子を有し、
前記柱状晶組織の成長方向の向きの判断は、
超音波の送信方向である位相速度方向に対応する群速度方向に基づいた底面エコーにより判断する
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記金属検査物の表面の状況により前記柱状晶組織の成長方向の角度の状況を判断する
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、
前記柱状晶組織の成長方向の角度の状況を判断するに際し、
表面波探触子を用いて表面波の状況を求め、求められた表面波の状況により角度の状況を判断する
ことを特徴とする柱状晶組織の成長方向の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固組織に起因する柱状晶組織の成長方向を把握するための柱状晶組織の成長方向の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の溶接部の非破壊検査手法として超音波探傷による非破壊検査手法が従来から種々知られている(例えば、特許文献1)。超音波探傷は、検査対象部である溶接部に超音波を送信すると共に溶接部で反射した超音波を受信し、受信した反射波の信号強度により欠陥の状況を評価している。
【0003】
配管等に用いられる金属(例えば、鋳造ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼)には未知の凝固組織が存在し、超音波探傷が的確に実施できない虞がある。このため、例えば、鋳造ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼の凝固組織、特に、柱状晶組織の成長方向を非破壊で把握することが望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-106130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、柱状晶組織の成長方向を非破壊で把握することができる柱状晶組織の成長方向の特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者により、超音波の送信方向(想定の伝搬方向)と柱状晶組織の成長方向との間には、以下の関係が存在する知見が得られている。本発明は以下の知見に基づいてなされたものである。
【0007】
即ち、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波の発信手段の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かう知見が得られている。
【0008】
つまり、図10(a)(b)に示すように、柱状晶組織40の表面側(上側)が右側に向いて成長している場合、超音波の送受信手段41の向きに関わらず、超音波の想定の送信方向(点線矢印)に対して、超音波の実際の送信方向(実線矢印)は、柱状晶組織40が成長している側である右側の下となる知見が得られている。
【0009】
また、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波の発信手段の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かう知見が得られている。
【0010】
つまり、図11(a)(b)に示すように、柱状晶組織40の表面側(上側)が左側に向いて成長している場合、超音波の送受信手段41の向きに関わらず、超音波の想定の送信方向(点線矢印)に対して、超音波の実際の送信方向(実線矢印)は、柱状晶組織40が成長している側である左側の下となる知見が得られている。
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、超音波送受信手段により、金属検査物に超音波を下向きに送信すると共に前記金属検査物の底面で反射した超音波を受信し、受信した反射波である底面エコーにより柱状晶組織の成長方向の向きを導出する柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記金属検査物の端部の方向に前記超音波送受信手段を移動させながら底面エコーを受信し、前記端部に向かう過程で底面エコーが消失した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記端部側に向いていると判断し、前記端部に向かう過程で底面エコーが消失しない際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記端部と反対側に向いていると判断することを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る本発明では、金属検査物の端部の方向に超音波送受信手段を移動させながら底面エコーを受信する際に、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波の発信手段の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かい、金属検査物の端部の方向に超音波送受信手段を移動させることにより、金属検査物の端部の側面に超音波が反射し、底面エコーを検出することができなくなり、底面エコーが消失することになる。
【0013】
一方、金属検査物の端部の方向に超音波送受信手段を移動させながら底面エコーを受信する際に、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波の発信手段の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かい、金属検査物の端部の方向に超音波送受信手段を移動させでも、金属検査物の底面に超音波が反射し、底面エコーが検出されることになり、底面エコーが消失することがない。
【0014】
これらの結果により、金属検査物の端部の方向に超音波送受信手段を移動させて底面エコーを検証することで(底面エコーの消失の有無を検証することで)、柱状晶組織の成長方向の向きを判断することができる。
【0015】
従って、本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、柱状晶組織の成長方向を非破壊で把握することが可能になる。
【0016】
上記目的を達成するための請求項2に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、超音波送受信手段により、既知の反射源を有する金属検査物に超音波を下向きに送信し、柱状晶組織の成長方向の向きを導出する柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記金属検査物の前記反射源の方向に前記超音波送受信手段を移動させながら超音波を下向きに送信し、前記超音波送受信手段を挟んで前記反射源の反対側の前記柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、前記反射源に向かう過程で前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源の側に向いていると判断し(図8(a))、前記反射源に向かう過程で前記反射源が検出されず、前記反射源を通過した後に前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源と反対側に向いていると判断し(図8(b))、前記反射源を挟んで前記超音波送受信手段の反対側の前記柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、前記反射源に向かう過程で前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源と反対側に向いていると判断し(図9(a))、前記反射源に向かう過程で前記反射源が検出されず、前記反射源を通過した後に前記反射源を検出した際に、前記柱状晶組織の成長方向の向きが、上に向かうに従って前記反射源の側に向いていると判断する(図9(b))ことを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る本発明では、超音波送受信手段を挟んで反射源の反対側の柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、金属検査物の反射源の方向に超音波送受信手段を移動させながら超音波を下向きに送信し、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波送受信手段の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かい、金属検査物の反射源が検出され、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波送受信手段の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かい、反射源に向かう過程で反射源は検出されず、反射源を通過した後に反射源が検出される。
【0018】
一方、反射源を挟んで超音波送受信手段の反対側の柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、金属検査物の反射源の方向に超音波送受信手段を移動させながら超音波を下向きに送信し、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波送受信手段の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かい、金属検査物の反射源が検出され、柱状晶組織の表面側(上側)が超音波送受信手段の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かい、反射源に向かう過程で反射源は検出されず、反射源を通過した後に反射源が検出される。
【0019】
これらの結果により、超音波送受信手段を金属検査物の反射源に対して任意の方向から移動させ、反射源の検出の位置などを検証することにより、柱状晶組織の成長方向の向きを判断することができる。
【0020】
従って、本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、柱状晶組織の成長方向を非破壊で把握することが可能になる。
【0021】
また、請求項3に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、請求項2に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記反射源は、溶接部の裏波であることを特徴とする。
【0022】
請求項3に係る本発明では、超音波送受信手段を金属検査物の溶接部の裏波に対して任意の方向から移動させ、裏波の検出の位置などを検証することにより、柱状晶組織の成長方向の向きを判断することができる。
【0023】
また、請求項4に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記超音波送受信手段は、フェーズドアレイ探触子を有し、前記柱状晶組織の成長方向の向きの判断は、超音波の送信方向である位相速度方向に対応する群速度方向に基づいた底面エコーにより判断することを特徴とする。
【0024】
請求項4に係る本発明では、フェーズドアレイ探触子を用い、超音波の送信方向である位相速度方向に対応する群速度方向に基づいた送信信号により柱状晶組織の成長方向の向きを判断することができる。
【0025】
また、請求項5に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記金属検査物の表面の状況により前記柱状晶組織の成長方向の角度の状況を判断することを特徴とする。
【0026】
請求項5に係る本発明では、金属検査物の表面の状況により柱状晶組織の成長方向の角度の状況が判断される。表面の状況は、金属検査物の表面波の状況に基づいて角度の状況を把握したり、V透過波の探触子間の距離を用いて角度を推定したりする手段を用いて判断することができる。
【0027】
また、請求項6に係る本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、請求項5に記載の柱状晶組織の成長方向の特定方法において、前記柱状晶組織の成長方向の角度の状況を判断するに際し、表面波探触子(線収束探触子)を用いて表面波の状況を求め、求められた表面波の状況により角度の状況を判断することを特徴とする。
【0028】
請求項6に係る本発明では、表面波探触子(線収束探触子)を用いて表面波の状況により、柱状晶組織の成長方向の角度の状況を判断することができる。例えば、表面波の速度が遅くなるに従って、柱状晶組織の成長方向の角度の絶対値が高くなることを判断することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の柱状晶組織の成長方向の特定方法は、柱状晶組織の成長方向を非破壊で把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施例に係る柱状晶組織の成長方向の特定方法を実施する測定システムの概略図である。
図2】測定システムの制御ブロック図である。
図3】送受信手段の配置状況図である。
図4】底面エコーの状況説明図である。
図5】送受信手段の配置状況図である。
図6】底面エコーの状況説明図である。
図7】表面波音速と柱状晶組織の成長方向の傾斜角度との関係を説明するグラフである。
図8】探触子の配置状況図である。
図9】探触子の配置状況図である。
図10】成長方向と送信方向の関係の知見を説明する概念図である。
図11】成長方向と送信方向の関係の知見を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には本発明の一実施例に係る柱状晶組織の成長方向の特定方法により柱状晶組織の成長方向を導き出すための測定システムの概略構成、図2には信号解析手段4による解析の制御ブロックを示してある。
【0032】
図1に示すように、本発明の超音波探傷方法を実施する測定システム1は、金属検査物(例えば、鋳造ステンレス鋼)2に超音波を下向きに発信すると共に、金属検査物2の底面で反射した超音波を受信する超音波送受信手段である送受信手段(フェーズドアレイ探触子を有する受信手段)3を備えている。
【0033】
送受信手段3の情報は信号解析手段4に入力され、信号解析手段4では、入力情報(底面エコーの情報)に基づいて金属検査物2の柱状晶組織5の成長方向の向き(傾きの状況)が導出される。信号解析手段4で導出された柱状晶組織5の成長方向の向きの情報は、表示手段6に表示される。送受信手段3は、金属検査物2の端部2aの方向(図中右側)に移動しながら底面エコーを受信する。
【0034】
信号解析手段4では、送受信手段3が端部2aに向かう過程で底面エコーが消失した際に、柱状晶組織5の成長方向の向きが、上に向かうに従って端部2a側(右側)に向いていると判断される。また、信号解析手段4では、送受信手段3が端部2aに向かう過程で底面エコーが消失しない際に、柱状晶組織5の成長方向の向きが、上に向かうに従って端部2aと反対側(左側)に向いていると判断される。
【0035】
図2に示すように、信号解析手段4は、底面エコー判断機能11を備えている。底面エコー判断機能11では、送受信手段3の移動位置に応じた底面エコーの有無が判断される。底面エコー判断機能11で判断された底面エコーの情報は成長方向判断機能12に送られる。成長方向判断機能12では、底面エコーの状況に応じて、柱状晶組織5の成長方向の向きが求められる。
【0036】
成長方向判断機能12で柱状晶組織5の成長方向の向きが求められた後、表面波音速判断機能13により金属検査物2の表面の音速が判断される。表面波音速判断機能13では、例えば、線収束探触子を用いて金属検査物2の表面の表面波の状況が求められ、求められた表面波の状況(表面波音速)により、柱状晶組織5の成長方向の角度の状況が判断される。例えば、表面波の速度が遅くなるに従って、柱状晶組織5の成長方向の角度の絶対値が高くなることを判断することができる。
【0037】
成長方向判断機能12で求められた柱状晶組織5の成長方向の向きの情報は表示手段6に送られて表示される。また、表面波音速判断機能13で判断された柱状晶組織5の成長方向の角度の状況は表示手段6に送られて表示される。
【0038】
図3から図6に基づいて超音波探傷方法を具体的に説明する。
【0039】
上述した超音波探傷方法は、超音波の送信方向(想定の伝搬方向)と柱状晶組織5の成長方向との間には、以下の関係が存在する本発明者による知見に基づいてなされている(前述した図10図11参照)。
【0040】
即ち、柱状晶組織5の上側が超音波の送受信手段3の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織5が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かう知見が得られている。
【0041】
また、柱状晶組織5の上側が超音波の送受信手段3の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織5が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かう知見が得られている。
【0042】
図3図5には送受信手段3の移動状況の説明を示してあり、図4図6には底面エコーの状況を示してある。図3(a)(b)(c)、図5(a)(b)(c)は、送受信手段3が金属検査物2の端部2a側(右側)に移動している状態、図4(a)(b)(c)、図6(a)(b)(c)は、送受信手段3の移動位置における底面エコーの状態である。
【0043】
図3図4に基づいて、柱状晶組織5が図中右上側に向いて成長している場合の状況を説明する。
【0044】
図3に示すように、柱状晶組織5の表面側(上側)が送受信手段3側(図中右側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向21:図中点線で示してある)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向22:図中実線で示してある)は、柱状晶組織5が成長している方向の側、即ち、右側の下に向かう方向に送信されることになる。
【0045】
図3(a)に示すように、送受信手段3が金属検査物2の端部2aから離れていれば、実際の伝搬方向22の超音波は底面に反射して送受信手段3で受信される。これにより、図4(a)に示すように、底面エコー25が確認される(底面エコーは有り)。
【0046】
図3(b)に示すように、送受信手段3を金属検査物2の端部2a側に移動させると、実際の伝搬方向22の超音波は金属検査物2の端部2aの中ほど、及び、底面に反射して送受信手段3で受信される。これにより、図4(b)に示すように、一部の底面エコー25が確認される(底面エコーは一部有り)。
【0047】
図3(c)に示すように、送受信手段3を金属検査物2の端部2aの外側まで移動させると、実際の伝搬方向22の超音波は金属検査物2の端部2aの上方に、及び、底面で反射し、送受信手段3で受信されなくなる。これにより、図4(c)に示すように、底面エコー25が消失する(底面エコーは消失)。
【0048】
つまり、金属検査物2の端部2aの方向に送受信手段3を移動させながら底面エコーを受信する際に、柱状晶組織5の表面側(上側)が右上側に向いて成長している場合、超音波の下向きの方向は右側の下に向かい、金属検査物2の端部2aの側面に超音波が反射し、底面エコーを検出することができなくなり、底面エコーが消失することになる。
【0049】
図2に示した成長方向判断機能12には、柱状晶組織5の表面側(上側)の向きに応じた、超音波の実際の伝搬方向22の情報が記憶されているため、底面エコーの状況に応じて、柱状晶組織5の成長方向の向きを求めることができる。
【0050】
即ち、金属検査物2の端部2aの方向に送受信手段3を移動させながら、図3図4の状況の底面エコーの状況(有無)を確認することにより、柱状晶組織5の成長方向は、表面側(上側)が図中右側に向いていると判断され、柱状晶組織5は、上側が図中右側に向いている長方向の向きであることを導出することができる。
【0051】
図5図6に基づいて、柱状晶組織5が図中左上側に向いて成長している場合の状況を説明する。
【0052】
図5に示すように、柱状晶組織5の表面側(上側)が送受信手段3の反対側(図中左側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向21:図中点線で示してある)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向22:図中実線で示してある)は、柱状晶組織5が成長している方向の側、即ち、左側の下に向かう方向に送信されることになる。
【0053】
図5(a)に示すように、送受信手段3が金属検査物2の端部2aから離れている際には、実際の伝搬方向22の超音波は底面で反射して送受信手段3で受信される。これにより、図6(a)に示すように、底面エコー25が確認される(底面エコーは有り)。
【0054】
図5(b)に示すように、送受信手段3を金属検査物2の端部2a側に移動させても、実際の伝搬方向22の超音波は金属検査物2の端部2a側には向かわず、底面で反射して送受信手段3で受信される。これにより、図6(b)に示すように、底面エコー25が確認される(底面エコーは有り)。
【0055】
図5(c)に示すように、送受信手段3を金属検査物2の端部2aの外側まで移動させても、実際の伝搬方向22の超音波は金属検査物2の端部2a側には向かわず、底面で反射して送受信手段3で受信される。これにより、図6(c)に示すように、底面エコー25が確認される(底面エコーは有り)。
【0056】
つまり、金属検査物2の端部2aの方向に送受信手段3を移動させながら底面エコーを受信する際に、柱状晶組織5の表面側(上側)が左上側に向いて成長している場合、超音波の下向きの方向は左側の下に向かい、金属検査物2の端部2aの側面に超音波が向かうことがなく、底面で反射して送受信手段3で受信される、底面エコーが消失することがない。
【0057】
図2に示した成長方向判断機能12には、柱状晶組織5の表面側(上側)の向きに応じた、超音波の実際の伝搬方向22の情報が記憶されているため、底面エコーの状況に応じて、柱状晶組織5の成長方向の向きを求めることができる。
【0058】
即ち、金属検査物2の端部2aの方向に送受信手段3を移動させながら、図5図6の状況の底面エコーの状況(有無)を確認することにより、柱状晶組織5の成長方向は、表面側(上側)が図中左側に向いていると判断され、柱状晶組織5は、上側が図中左側に向いている長方向の向きであることを導出することができる。
【0059】
柱状晶組織5の成長方向の向きが導出された後、表面波音速判断機能13(図2参照)により金属検査物2の表面波の音速が判断される。例えば、線収束探触子を用いて金属検査物2の表面波の音速(表面波音速)が求められ、求められた表面波音速に対して、図7に示すように、成長方向の傾斜角度が判断される。即ち、金属検査物2の表面の表面波音速が遅くなるに従って、柱状晶組織5の成長方向の角度(絶対値)が大きくなることが判断される。
【0060】
上述した柱状晶組織の成長方向の特定方法を実施することにより、金属検査物2の柱状晶組織5の成長方向の向き、及び、角度の状況を非破壊で把握することが可能になる。
【0061】
図8図9に基づいて柱状晶組織の成長方向の特定方法の他の実施例を説明する。
【0062】
本実施例の超音波探傷方法は、本発明者による前述した知見である、超音波の送信方向(想定の伝搬方向)と柱状晶組織の成長方向との間にある関係が存在することに基づいてなされている。
【0063】
図8には送受信手段3を挟んで既知の反射源である溶接部33の裏波34の反対側の柱状晶組織31の成長方向の向きを導出する際の送受信手段3の移動状況の説明、図9には反射源である溶接部33の裏波34を挟んで送受信手段3の反対側の柱状晶組織31の成長方向の向きを導出する際の送受信手段3の移動状況の説明を示してある。図8(a)は柱状晶組織の上側が右に傾いている状況、図8(b)は柱状晶組織の上側が左に傾いている状況であり、図9(a)は柱状晶組織の上側が左に傾いている状況、図9(b)は柱状晶組織の上側が右に傾いている状況である。
【0064】
本実施例では、金属検査物32の反射源としての溶接部33(裏波34)を挟んで、柱状晶組織31が存在する側から柱状晶組織31が存在しない側(図8)、溶接部33(裏波34)を挟んで、柱状晶組織31が存在しない側から柱状晶組織31が存在する側(図9)に送受信手段3を移動させながら超音波を送信し、溶接部33(裏波34)の検出の状況を検証して柱状晶組織31の成長方向の向きを把握するようにしている。
【0065】
送受信手段3を挟んで溶接部33(裏波34)の反対側の柱状晶組織31の成長方向の向きを導出する際には、金属検査物32の溶接部33(裏波34)の方向に送受信手段3を移動させながら超音波を下向きに送信する。
【0066】
柱状晶組織31の表面側(上側)が送受信手段3の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織31が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かい、金属検査物32の裏波34が検出される。
【0067】
柱状晶組織31の表面側(上側)送受信手段3の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織31が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かい、金属検査物32の裏波34に向かう過程で反射源は検出されず、裏波34を通過した後に裏波34が検出される。
【0068】
このため、図8(a)に示すように、送受信手段3を挟んで溶接部33(裏波34)の反対側の柱状晶組織31の成長方向の向きを導出する際には、溶接部33(裏波34)に向かう過程で裏波34を検出した際に、柱状晶組織31の成長方向の向きが、上に向かうに従って溶接部33の側に向いていると判断される。
【0069】
そして、図8(b)に示すように、溶接部33(裏波34)に向かう過程で裏波34が検出されず、溶接部33(裏波34)を通過した後に裏波34を検出した際に、柱状晶組織31の成長方向の向きが、上に向かうに従って溶接部33の反対側に向いていると判断される。
【0070】
一方、溶接部33(裏波34)を挟んで送受信手段3の反対側の柱状晶組織31の成長方向の向きを導出する際には、金属検査物32の溶接部33(裏波34)の方向に送受信手段3を移動させながら超音波を下向きに送信する。
【0071】
柱状晶組織31の表面側(上側)が送受信手段3の反対側(例えば、左上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織31が成長している方向の下、即ち、左側の下に向かい、金属検査物32の裏波34が検出される。
【0072】
柱状晶組織31の表面側(上側)が送受信手段3の側(例えば、右上側)に向いて成長している場合、表面からの超音波の送信方向(想定の伝搬方向)に対して超音波が実際に送信される下向きの方向(実際の伝搬方向)は、柱状晶組織31が成長している方向の下、即ち、右側の下に向かい、金属検査物32の溶接部33に向かう過程で裏波34は検出されず、裏波34を通過した後に裏波34が検出される。
【0073】
このため、図9(a)に示すように、溶接部33(裏波34)を挟んで送受信手段3の反対側の前記柱状晶組織の成長方向の向きを導出する際には、溶接部33(裏波34)に向かう過程で裏波34を検出した際に、柱状晶組織31の成長方向の向きが、上に向かうに従って溶接部33の反対側に向いていると判断される。
【0074】
そして、図9(b)に示すように、溶接部33(裏波34)に向かう過程で裏波34が検出されず、溶接部33(裏波34)を通過した後に裏波34を検出した際に、柱状晶組織31の成長方向の向きが、上に向かうに従って溶接部33の側に向いていると判断される。
【0075】
これらの結果により、金属検査物の溶接部(裏波)の方向に超音波の送受信手段3を移動させ、溶接部33(裏波34)の検出を検証することで、柱状晶組織31の成長方向の向きを判断することができる。また、金属検査物32の表面の音速を求めることで、柱状晶組織31の傾斜角度の状況を判断することができる。
【0076】
反射源としては、既知の穴や、介在物、シンニング加工部を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、凝固組織に起因する柱状晶組織の成長方向を把握するための柱状晶組織の成長方向の特定方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 測定システム
2、32 金属検査物
3、41 送受信手段
4 信号解析手段
5、31、40 柱状晶組織
6 表示手段
11 底面エコー判断機能
12 成長方向判断機能
13 表面波音速判断機能
21 想定の伝搬方向
22 実際の伝搬方向
25 底面エコー
33 溶接部
34 裏波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11