(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145163
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】金属熔融炉
(51)【国際特許分類】
F27B 3/16 20060101AFI20220926BHJP
F27B 3/08 20060101ALI20220926BHJP
F27B 3/24 20060101ALI20220926BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20220926BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220926BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20220926BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F27B3/16
F27B3/08
F27B3/24
F27D1/12 Z
F27D1/00 D
F27D9/00
F27D11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046457
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 大河
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【テーマコード(参考)】
4K045
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045RA01
4K045RA16
4K045RB01
4K045RB02
4K045RB08
4K051AA05
4K051AA06
4K051AB03
4K051BB07
4K051HA04
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA02
4K063BA03
4K063EA01
4K063EA02
4K063FA53
(57)【要約】
【課題】炉側壁を効率的に冷却できる金属熔融炉を提供する。
【解決手段】金属成分を含有する被熔融物を熔融する金属熔融炉であって、
前記金属熔融炉は、
前記被熔融物を収容する内部空間と、
前記内部空間の側面を画する炉側壁と、
前記内部空間内に高さ方向に沿って配置される電極と、を有しており、
前記炉側壁は、前記内部空間側に配置された耐火物と、
前記耐火物の外表面を覆う金属製の外被と、を有し、
前記外被は、前記耐火物と対向する面に、高さ方向に沿って配列された、板状形状を有する複数の凸部を有し、
前記凸部は、前記耐火物が前記外被と対向する面に有する凹部に嵌合している金属熔融炉を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分を含有する被熔融物を熔融する金属熔融炉であって、
前記金属熔融炉は、
前記被熔融物を収容する内部空間と、
前記内部空間の側面を画する炉側壁と、
前記内部空間内に高さ方向に沿って配置される電極と、を有しており、
前記炉側壁は、前記内部空間側に配置された耐火物と、
前記耐火物の外表面を覆う金属製の外被と、を有し、
前記外被は、前記耐火物と対向する面に、高さ方向に沿って配列された、板状形状を有する複数の凸部を有し、
前記凸部は、前記耐火物が前記外被と対向する面に有する凹部に嵌合している金属熔融炉。
【請求項2】
前記凸部の、前記外被の内表面から、前記内部空間側へ突出した高さは、前記耐火物の厚さの60%以上である請求項1に記載の金属熔融炉。
【請求項3】
前記外被は熱伝導率が10W/m・K以上200W/m・K以下の金属製である請求項1または請求項2に記載の金属熔融炉。
【請求項4】
前記凸部を通る、高さ方向と垂直な水平断面において、前記凸部は、前記外被の少なくとも前記電極と対向する領域を覆うように配置される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属熔融炉。
【請求項5】
前記凸部は、高さ方向に沿って3個設置されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属熔融炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属熔融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料等の被熔融物に対して電圧を印加し、被熔融物を熔融する金属熔融炉が従来から用いられている。係る金属熔融炉において、被熔融物を熔融する際に、被熔融物と接する炉側壁を構成する耐火物が損傷することを防止するため、該耐火物と接する被熔融物を冷却し、耐火物の表面にコーティング層を形成することが従来からなされていた。
【0003】
そして、特許文献1等に開示されているように、係る炉側壁を冷却する方法について従来から各種検討がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、耐火物の損傷を抑制し、メンテナンスの頻度を抑制する観点から、金属熔融炉の炉側壁を効率的に冷却できる金属熔融炉が求められていた。
【0006】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、炉側壁を効率的に冷却できる金属熔融炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
金属成分を含有する被熔融物を熔融する金属熔融炉であって、
前記金属熔融炉は、
前記被熔融物を収容する内部空間と、
前記内部空間の側面を画する炉側壁と、
前記内部空間内に高さ方向に沿って配置される電極と、を有しており、
前記炉側壁は、前記内部空間側に配置された耐火物と、
前記耐火物の外表面を覆う金属製の外被と、を有し、
前記外被は、前記耐火物と対向する面に、高さ方向に沿って配列された、板状形状を有する複数の凸部を有し、
前記凸部は、前記耐火物が前記外被と対向する面に有する凹部に嵌合している金属熔融炉を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、炉側壁を効率的に冷却できる金属熔融炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る金属熔融炉の、凸部を通る高さ方向と垂直な水平面での断面図である。
【
図4】
図4は、実験例1における内部空間、炉側壁の温度分布の図である。
【
図5】
図5は、実験例1における、高さ方向に配列した凸部の数に対する、被熔融物と耐火物との境界温度、表面抜熱量の関係図である。本発明の実施形態に係るシミュレーション方法を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、実験例2における内部空間、炉側壁の温度分布の図である。
【
図7】
図7は、実験例2における凸部の高さに対する、被熔融物と耐火物との境界温度、表面抜熱量の関係図である。
【
図8】
図8は、実験例3における内部空間、炉側壁の温度分布の図である。
【
図9】
図9は、実験例3における外被の熱伝導率に対する、表面抜熱量の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[金属熔融炉]
本実施形態の金属熔融炉について、図面を用いながら説明する。
図1は、本実施形態の金属熔融炉の凸部を通る水平断面図である。
図2は、
図1のA-A´線での断面図である。
図3は外被の斜視図になる。
【0011】
本実施形態の金属熔融炉は、金属成分を含有する被熔融物を熔融する炉であり、本実施形態の金属熔融炉は、例えば三相交流電極式電気炉とすることができる。金属成分を含有する被熔融物としては特に限定されないが、例えば金属成分を含有する鉱石や、各種金属材料等が挙げられる。また、被熔融物は、必要に応じて各種添加成分を含有していてもよい。
【0012】
図1、
図2に示すように、本実施形態の金属熔融炉10は、被熔融物を収容する内部空間11と、内部空間11の側面を画する炉側壁12と、内部空間11に高さ方向に沿って、すなわち垂直に配置される電極13とを有することができる。
【0013】
図1、
図2において高さ方向はZ軸方向を意味する。そして、水平面がXY平面に当たる。
【0014】
以下、各部材について説明する。
(1)内部空間
内部空間11は、被熔融物を収容し、電極13により被熔融物を熔融するための空間(領域)である。
【0015】
内部空間11は、例えば柱状形状を有することができ、
図1に示すように円柱形状を有することが好ましい。ここでいう柱状形状、円柱形状とは幾何学的に厳密な意味ではなく、略柱状形状、略円柱形状とすることができ、必要に応じて一部に凹部や凸部を含むことができ、一部が柱状形状、円柱形状から変形していてもよい。
【0016】
内部空間11は、底部側に設けられた底部耐火物や、側面に設けられた炉側壁12により、外部の空間と区切られている。
(2)電極
電極13は、内部空間11に収容された被熔融物に電圧を印加するための部材であり、形状は特に限定されないが、例えば柱状形状を有することができ、円柱形状を有することが好ましい。ここでの柱状形状、円柱形状についても幾何学的に厳密な意味ではなく、略柱状形状、略円柱形状とすることができ、必要に応じて一部が変形していてもよい。
【0017】
電極13は、例えば該電極13の中心軸が高さ方向、すなわち
図1、
図2におけるZ軸方向に沿うように配置でき、高さ方向に沿って移動可能に構成することが好ましい。
【0018】
金属熔融炉10は、電極13を複数個有することができ、例えば
図1に示すように3個有することができる。
(3)炉側壁
炉側壁12は、内部空間11の側面11Aに設けられており、内部空間11の側面11Aを外部の空間から画している。
【0019】
炉側壁12は、内部空間11側に配置された耐火物121と、耐火物121の外表面121Aを覆う金属製の外被122とを有することができる。
(3-1)耐火物
耐火物121は、上述のように炉側壁12のうち内部空間11側に配置できる。なお、内部空間11の底面11Bを覆うように底部耐火物14を設けることもでき、耐火物121と、底部耐火物14は一体の部材とすることもできる。
【0020】
耐火物121の材料は、被熔融物を熔融する際の温度に耐えられる材料であればよく、例えば各種セラミックス等を用いることができる。
【0021】
耐火物121は、内部空間11の側面11Aを覆うように配置されるため、筒形状を有することができる。内部空間11が円柱形状の場合、耐火物121は円筒形状を有することができる。
【0022】
耐火物121は、後述する外被122と対向する外表面121Aに、後述する凸部1221と嵌合し、該凸部1221を収容する凹部1211を有することができる。
【0023】
凹部1211は、後述する凸部1221と嵌合するようにそのサイズや形状を選択できる。
(3-2)外被
外被122は、耐火物121の外表面121Aを覆うように配置される。このため、筒形状を有することができ、例えば円筒形状とすることができる。
【0024】
既述のように、金属熔融炉において、被熔融物を熔融する際に、被熔融物と接する炉側壁を構成する耐火物が損傷することを防止するため、該耐火物と接する被熔融物を冷却し、耐火物の表面にコーティング層を形成することがなされている。そして、係るコーティング層を形成するため、炉側壁を効率的に冷却することが求められる。
【0025】
本発明の発明者は、炉側壁を効率的に冷却し、金属熔融炉を運転している間、上記コーティング層を形成、維持する方法について検討を行った。その結果、外被122の耐火物121と対向する面に板状形状の凸部1221を設け、該凸部1221を耐火物121が外被122と対向する面に有する凹部1211に嵌合した構造とすることで、凸部1221、外被122を介して抜熱し、炉側壁12を効率的に冷却できることを見出した。
(3-2-1)凸部
(凸部の形状、サイズ)
凸部1221は、板状形状を有することができる。凸部1221の主表面1221A、すなわち高さ方向と垂直な面は、
図1、
図3に示すように、円環の一部を切り取った、円環扇形等とも呼ばれる形状を有することができる。円環扇形とは、
図1、
図3に示すように、中心側が円弧状に欠落した扇形の形状であり、アーチ形等ということもできる。
【0026】
凸部1221のサイズは特に限定されず、耐火物121のサイズ等に応じて選択できる。
【0027】
凸部1221の、外被122の内表面(内周面)122Aから、内部空間11側へ突出した高さL1221は、耐火物121の厚さT121の20%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。すなわち、0.2≦L1221/T121であることが好ましく、0.6≦L1221/T121であることがより好ましい。
【0028】
凸部1221の高さL1221を、耐火物121の厚さT121の20%以上とすることで、凸部1221を内部空間11近傍まで配置させ、炉側壁12や、炉側壁12近傍に位置する被熔融物を特に効率よく冷却できる。
【0029】
なお、L1221は、T121よりも小さければいいが、耐火物121の強度を高める観点から、L1221は、90%以下であることが好ましい。すなわち、L1221/T121<1.0であることが好ましく、L1221/T121≦0.9であることがより好ましい。
【0030】
なお、凸部1221の高さL1221は、
図1に示すように、高さ方向と垂直な水平断面において、内部空間11の中心O
11と、外被122の内表面122Aとを結ぶ直線上で測定した厚さの最大値を意味する。また、耐火物121の厚さT121は、
図1に示すように、高さ方向と垂直な水平断面において、内部空間11の中心O
11と、耐火物121の外表面121Aとを結ぶ直線上で測定した厚さの最大値を意味する。
【0031】
凸部1221の厚さT1221(
図2を参照)は特に限定されず、外被122における凸部1221を配置する高さ方向の領域のサイズや、該領域に設置する凸部1221の数等に応じて選択できる。例えば、耐火物121と、外被122が100mm前後の厚みである場合、70mm程度であると、特に境界温度が低下し、表面抜熱量が増加するのでよい。
(高さ方向に沿って配列する凸部の数について)
外被122は、耐火物121と対向する面、すなわち内表面122Aに複数の凸部1221を有することができる。
図2に示すように、凸部1221は高さ方向に沿って配列できる。
【0032】
なお、
図2に示すように、凸部1221は、高さ方向に沿って間隔をあけて配列される。このため、凸部1221間は外被122の内表面122Aが露出することになる。
【0033】
高さ方向に沿って配列する凸部1221の数は特に限定されず、金属熔融炉10のサイズ等に応じて任意に設定できるが、特に効率的に冷却する観点から、複数個、すなわち2個以上とすることが好ましい。ただし、過度に多くの数の凸部を設けても表面抜熱量は飽和すると考えられる。また、過度に多くの数の凸部を設けようとすると、耐火物121に該凸部1221と嵌合させるために設ける凹部1211を形成することが困難になる恐れがあり、凹部1211間の壁の強度が低下する恐れがある。このため、高さ方向に沿って配列する凸部の数は、5個以下とすることが好ましい。特に、凸部1221は、高さ方向に沿って3個設置することが好ましい。なお、
図2、
図3には凸部1221を高さ方向に沿って3個設置した例を示している。
【0034】
後述するように、凸部は、水平断面において、複数の領域に離隔して設けることもでき、各領域において、高さ方向に沿って配置する凸部の数は異なっていてもいいが、同じであることが、外被122の取り付け時の作業性の観点から好ましい。
(高さ方向における凸部を配置する領域の高さについて)
凸部1221は、外被122の内表面122Aに、高さ方向に沿って配列できる。この際、高さ方向における凸部を配置する領域の高さH1221(
図2を参照)は特に限定されない。ただし、冷却の効率を高める観点からは、内部空間11の底面11Bから、内部空間11の被熔融物が収容されている水位線までの範囲に、凸部1221を設けることが好ましい。
【0035】
通常、被熔融物は、内部空間11の高さの80%以下の範囲内に配置されることから、高さ方向における凸部1221を設ける領域の高さH1221は、内部空間11の高さの80%以下であることが好ましい。高さ方向における凸部1221を配置する領域の高さH1221の下限値は特に限定されないが、内部空間11の高さの60%以上であることが好ましい。
【0036】
内部空間11の高さとは、内部空間11の底面11Bから耐火物121の上端との間の距離を意味する。
【0037】
また、凸部を配置する領域の高さH1221とは、最下段の凸部12211の下端面から最上段の凸部12212の上端面までの距離を言う。
【0038】
凸部1221は、上記領域内に凸部1221間の距離が等しくなるように配列することが好ましい。
(水平断面における凸部を設ける領域について)
凸部1221を通る、高さ方向と垂直な水平断面、すなわち
図1に示した断面において、凸部1221を設ける領域は特に限定されない。例えば、上記水平断面において、凸部1221を、外被122の内表面122Aに沿って、円環状に設けることもできる。ただし、上記水平断面において、凸部1221は、少なくとも炉側壁12のうち、特に冷却することが求められる領域、具体的には外被122の電極13と対向する領域を覆うように配置することが好ましい。
【0039】
上記電極13と対向する領域とは、外被122の耐火物121と対向する内表面122Aのうち、例えば
図1に示すように、内部空間11の中心O
11を通る、電極13の外周の接線L1と、接線L2とで囲まれた領域Bとすることができる。
【0040】
ただし、凸部1221を設ける領域は上記領域Bに限定されるものではなく、より広い範囲に渡って設けることもできる。例えば、
図1に示すように、外被122の内表面のうち、内部空間11の中心O
11と、電極の中心O
13とを通る直線Lとの間の角度がそれぞれθ11、θ12である直線L11、直線L12で挟まれた領域内に凸部1221を設けることができる。直線L11、直線L12はいずれも内部空間11の中心O
11を通る直線である。また、θ11=θ12の関係を満たすことが好ましい。
【0041】
そして、θ11、θ12は、それぞれ60度未満であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、30度以下であることがさらに好ましい。
【0042】
なお、θ11、θ12の下限値は特に限定されないが、例えば5度以上とすることができる。
【0043】
凸部1221を通る、高さ方向と垂直な水平断面において、凸部1221を設けていない領域は外被122の内表面122Aが露出した面となる。
(外被の材料について)
凸部1221を含む外被122は、金属熔融炉10を冷却するための部材であるため、伝熱特性に優れた材料であることが好ましく、例えば金属製とすることができる。
【0044】
特に、凸部1221を含む外被122は、熱伝導率が10W/m・K以上200W/m・K以下の金属製であることが好ましく、熱伝導率が80W/m・K以上200W/m・K以下の金属製であることがより好ましい。これは熱伝導率を10W/m・K以上とすることで、特に効率よく金属熔融炉を冷却できるからである。また、熱伝導率を200W/m・K以下とすることで、入手しやすい材料を用いることができ、金属熔融炉のコストを低減できるからである。
【0045】
外被122の具体的な材料は特に限定されないが、例えば鉄、Ni鋼、Cu鋼、銅等から選択された1種類以上とすることができる。
【0046】
凸部1221は、外被122から取り外し可能に構成することもできるが、取り扱い性等の観点から、凸部1221は、外被122と一体の部材であることが好ましい。
【0047】
以上に説明した本実施形態の金属熔融炉によれば、外被の内表面に所定の凸部を設けることで、該凸部から外被への伝熱によって抜熱し、炉側壁や、被熔融物を効率的に冷却できる。
【実施例0048】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
外被122の、耐火物121と対向する内表面122Aに、高さ方向に沿って配列する凸部1221の数による温度分布変化の検討を行った。
【0049】
具体的には、
図1、
図2を用いて既に説明した、3本の電極13を有する、金属熔融炉10である三相交流電極式円形電気炉について、凸部の数を変え、熱流体解析シミュレーションを行った。熱流体解析は、AnsysFluent(ver20.2)を用いた定常解析により行った。
【0050】
以下のいずれの実験例でも、凸部1221を通る、高さ方向と垂直な水平断面において、凸部1221は、外被122の少なくとも電極13と対向する領域を覆うように配置されている。具体的には、外被122の内表面122Aのうち、
図1におけるθ11、θ12が30°となるように引かれた、内部空間11の中心O
11を通る直線L11、直線L12で囲まれた領域内に凸部1221を配置した。凸部1221を通る、高さ方向と垂直な水平断面において、凸部1221は、
図1の場合と同様に3つの領域に配置されている。同じ実験例においては、該3つの領域における凸部1221の配置条件は同じとした。
【0051】
高さ方向に配置した凸部1221の条件は表1に示すとおりであり、実験例1-1~実験例1-4において、高さ方向に配置する凸部1221の数を0個から、5個の範囲で変化させた。高さ方向における凸部を配置する領域の高さH1221(
図2を参照)を180mmとした。係る高さは、最下段に位置する凸部12211の下端面、すなわち内部空間11の底面11Bから、最上段に位置する凸部12212の上端面までの距離を意味する。
【0052】
各実験例で、高さ方向の凸部間の距離が均等になるように、凸部1221を配置した。なお、係る凸部1221の厚さと、凸部間の距離とがほぼ等しくなるように、凸部1221の厚さを設定した。
【0053】
図4(E)に、シミュレーションを行う際の各部の長さを示す。
図4(E)は、
図4(A)に示した実験例1-1の場合の形状に該当するが、凸部の段数を変更した点以外は他の実験例でも各部の長さは同じとしている。
図4(E)中の各部の長さの単位はmmになる。
【0054】
熱流体解析に用いた各条件は表2、表3に示したとおりである。
【0055】
実験例1-1、実験例1-2が比較例、実験例1-3、実験例1-4が実施例になる。
【0056】
【0057】
【0058】
【表3】
熱流体解析の結果を、
図4(A)~
図4(D)、
図5(A)、
図5(B)に示す。また、被熔融物と、耐火物との間の境界温度を、表1の境界温度の欄に示す。
【0059】
図4(A)~
図4(D)が、各実験例における内部空間11と、炉側壁12の温度分布を示している。
図4(A)~
図4(D)は、
図2に対応した部分での温度分布図であり、
図4(A)中に、内部空間11、耐火物121、外被122の番号を付している。他の図でも同じ部分が同じ部材を意味している。実験例1-1の結果が
図4(A)、実験例1-2の結果が
図4(B)、実験例1-3の結果が
図4(C)、実験例1-4の結果が
図4(D)になる。
【0060】
図5(A)、
図5(B)は、それぞれ、高さ方向に配列した凸部の数に対する、被熔融物と耐火物との境界温度、表面抜熱量を示している。境界温度が低いほど、また表面抜熱量が大きいほど、十分に冷却できていることを示す。
【0061】
図5(A)の結果から明らかなように、高さ方向に沿って配列する凸部の個数を増やすことで、境界温度が低下する傾向が確認できた。そして、凸部の個数を複数個とした実施例である実験例1-3、実験例1-4では、比較例である実験例1-1、実験例1-2と比較して、境界温度は十分に下がり、凸部の個数の増加に伴う、境界温度の変化は一定値に近づいていくことが確認できた。
【0062】
また、
図5(B)の結果から、凸部の個数が3個の場合に最も表面抜熱量が大きくなることを確認できた。
【0063】
これは、外被が、耐熱物に対して高温であるか、低温であるかにより、両部材の境界面では抜熱部分と熱流入部分とが存在するためと考えられる。そして、凸部の数を5個まで増やした場合、3個の場合よりも熱流入部分の領域が増えるため、境界全体での表面抜熱量が低下すると考えられる。
[実験例2]
外被の内表面から内部空間側へ突出した凸部1221の高さL1221による温度分布変化の検討を行った。
【0064】
実験例2-2~実験例2-3では、高さ方向に配列する凸部の数を3個とし、凸部の高さL1221、耐火物の厚さに対する凸部の高さの割合を表4に示した値とした。以上の点以外は実験例1と同様にして熱流体解析シミュレーションを行った。比較のため、実験例2-1として、実験例1-1の結果も合わせて示している。
【0065】
実験例2-1が比較例、実験例2-2、実験例2-3が実施例になる。
【0066】
【表4】
熱流体解析の結果を、
図6(A)~
図6(C)、
図7(A)、
図7(B)に示す。また、被熔融物と、耐火物との間の境界温度を、表4の境界温度の欄に示す。
【0067】
図6(A)~
図6(C)が、各実験例における内部空間11と、炉側壁12の温度分布を示している。
図6(A)~
図6(C)は、
図2に対応した部分での温度分布図であり、
図6(A)中に、内部空間11、耐火物121、外被122の番号を付している。他の図でも同じ部分が同じ部材を意味している。実験例2-1の結果が
図6(A)、実験例2-2の結果が
図6(B)、実験例2-3の結果が
図6(C)になる。
【0068】
図7(A)、
図7(B)は、それぞれ凸部の高さに対する、被熔融物と耐火物との境界温度、表面抜熱量を示している。境界温度が低いほど、また表面抜熱量が大きいほど、十分に冷却できていることを示す。
【0069】
図7(A)、
図7(B)の結果から明らかなように、凸部の高さを高くすることで、境界温度が低下し、表面抜熱量が増加する傾向が確認できた。ただし、凸部の高さを高くした場合に、境界温度、表面抜熱量は共に一定値に近づいていくことが確認できた。
【0070】
図7(A)、
図7(B)の結果から、凸部の高さは、耐火物の厚さの60%以上であることが、表面抜熱量を増やし、境界温度を特に下げる観点から好ましいことを確認できた。
[実験例3]
外被の材料を変更した点以外は実験例1と同様にして熱流体解析シミュレーションを行った。外被の材料として、実験例3-1はNi鋼、実験例3-2はCr鋼、実験例3-3は鉄、実験例3-4は銅を用いた。
【0071】
変更した外被の各パラメータは表2に示している。
【0072】
なお、高さ方向に沿って配置した凸部の数は3個、凸部の高さL1221は70mmとした。
【0073】
実験例3-1~実験例3-4はいずれも実施例になる。
【0074】
【0075】
図8(A)~
図8(D)が、各実験例における内部空間11と、炉側壁12の温度分布を示している。
図8(A)~
図8(D)は、
図2に対応した部分での温度分布図であり、
図8(A)中に、内部空間11、耐火物121、外被122の番号を付している。他の図でも同じ部分が同じ部材を意味している。実験例3-1の結果が
図8(A)、実験例3-2の結果が
図8(B)、実験例3-3の結果が
図8(C)、実験例3-4の結果が
図8(D)になる。
【0076】
図9は、外被の熱伝導率に対する、表面抜熱量を正規化して示している。表面抜熱量が大きいほど、十分に冷却できていることを示す。
【0077】
図9の結果から明らかなように、外被の材料によらず十分に冷却できているものの、外被の熱伝導率を高くすることで、表面抜熱量が増加する傾向が確認できた。