(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145227
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】電極用材料、膜-電極接合体、CO2電解装置およびCO2電解生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/051 20210101AFI20220926BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20220926BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220926BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20220926BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20220926BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20220926BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220926BHJP
【FI】
C25B11/051
C25B11/052
C25B9/23
C25B13/08 301
C25B11/054
C25B1/23
C25B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046538
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】兼古 寛之
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA19
4K011AA23
4K011AA25
4K011AA68
4K011BA06
4K011DA11
4K021AB25
4K021BA02
4K021BA17
4K021DB18
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CO
2から還元生成物(CO等)を生成する生成効率に優れ、特に、CO
2の供給濃度が低い場合において、還元生成物の生成効率により優れた電極用材料、膜-電極接合体およびCO
2電解装置を提供する。
【解決手段】導電性担体10と、前記導電性担体に担持する、金属錯体、金属または無機化合物、の粒子、のいずれか1つまたは複数を含む触媒11と、を含む担持体と、前記担持体の表面の一部または全部を被覆し、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、または、第四級アンモニウム基のいずれか1つまたは複数を含むアイオノマーを含む陰イオン交換樹脂12と、を有し、前記アイオノマーの塩基点密度は、2.0mmol/cm
3以上、5.0mmol/cm
3以下であることを特徴とする、電極用材料1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と前記導電性担体に担持する、金属錯体、金属または無機化合物、の粒子、のいずれか1つまたは複数を含む触媒と、を含む担持体と、
前記担持体の表面の一部または全部を被覆し、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、または、第四級アンモニウム基のいずれか1つまたは複数を含むアイオノマーを含む陰イオン交換樹脂と、を有し、
前記アイオノマーの塩基点密度は、2.0mmol/cm3以上、5.0mmol/cm3以下であることを特徴とする、電極用材料。
【請求項2】
前記アイオノマーの塩基点密度は、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることを特徴とする、請求項1に記載の電極用材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電極用材料と、イオン交換膜と、集電体と、を含む、膜-電極接合体であって、
前記電極用材料は、前記イオン交換膜と、前記集電体と、の間に設けられていることを特徴とする、膜-電極接合体。
【請求項4】
前記イオン交換膜が、陰イオン交換膜であることを特徴とする、請求項3に記載の膜-電極接合体。
【請求項5】
前記イオン交換膜の材質が、前記電極用材料の陰イオン交換樹脂と同一であることを特徴とする、請求項4に記載の膜-電極接合体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電極用材料、または、請求項3~5のいずれか1つに記載の膜-電極接合体、を含むことを特徴とする、CO2電解装置。
【請求項7】
請求項6に記載のCO2電解装置を用いたCO2電解生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極用材料、膜-電極接合体、CO2電解装置およびCO2電解生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料(石油、石炭、天然ガス)は、現代のエネルギー消費社会を支えている。化石燃料からエネルギーを取り出す際に、CO2(二酸化炭素)の排出を伴う。大気中の二酸化炭素濃度の上昇は地球温暖化の原因の一つだと言われており、その削減が求められている。CO2は極めて安定な物質であるため、分解等による再利用は困難であり、CO2を他の物質に変換し再び資源化するための、新たな技術が求められている。
【0003】
その一つの技術として、電気エネルギーを利用したCO2の研究は世界中で広く行われている。高分子電解質形電解セルを有するCO2還元装置は、薄膜状の高分子電解質を用いることでイオンの移動抵抗を十分低くできる点で他装置と比較して優位性が見出されている。一般に、高分子電解質形電解セルに用いられているCO2還元用の陰極は、触媒微粒子、導電性担体を含有している。
【0004】
CO2還元においては、CO2還元触媒の近傍のCO2吸着量がCO(一酸化炭素)等の還元生成物の生成効率に強く寄与しており,CO2を多く吸着可能な電極触媒の開発が望ましい。例えば、CO2に対して吸着等相互作用する性質を有する化合物を電極上に触媒と共担持することで、弱酸性であるCO2の吸着量を高め、生成効率を改善する方法が考案されている。(特許文献1、2および非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-011492号公報
【特許文献2】再公表2019-65258号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Ren, D. Joulie, D.Salvatore, K. Torbensen, M. Wang, M. Robert, C. P. Berlinguette, Science, 2019, 365, 367-369.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの先行技術において、供給するCO2分圧(即ち、CO2濃度)が低下している条件下では、低濃度のCO2を還元触媒近傍に数多く留めることが困難であり、還元生成物の生成効率やCO2電解装置のCO2転化率が低下するおそれがあった。
【0008】
また、特許文献1に開示されている二酸化炭素還元装置のように陽イオン交換樹脂であるプロトン透過性高分子を含有する二酸化炭素還元膜をカソード側の電極に用いた場合、陽イオン交換樹脂は酸性であるため、副反応(水素生成反応。酸性で進行しやすい)が起こりやすい。さらに陽イオン交換樹脂が酸性であるため、CO2吸着能が無く、イオン導電率とCO2吸着能を両立できないおそれがあり、このことは、特許文献1の参考例5(段落0061)において、陽イオン交換樹脂であるナフィオンを添加することでCO2の吸着量が減少するというデータが示されていることからも明らかである。
また、陽イオン交換樹脂は金属イオンを透過するため、電解質塩の析出が生じやすく、析出塩が蓄積すると二酸化炭素電解効率が低下するおそれがあった。
【0009】
そこで、本開示の目的は、CO2から還元生成物(CO等)を生成する生成効率に優れ、特に、CO2の供給濃度が低い場合において、還元生成物の生成効率により優れた電極用材料に関する技術を提供することを課題とする。
【0010】
本発明者らは、陰イオン交換樹脂が塩基性のため、前記副反応が起こりにくく、金属イオンを透過しにくいため、塩の析出速度が遅いことに着目し、前記目的の実現に向け鋭意検討した結果、特定の陰イオン交換樹脂に被覆された、触媒および導電性担体を含む担持体を電極用材料に用いることで、前記課題を解決し得ることを見出し、本開示技術を完成させるに至った。即ち、本開示技術は以下の通りである。
【0011】
本開示の一態様によれば、
導電性担体と、前記導電性担体に担持する、金属錯体、金属または無機化合物、の粒子、のいずれか1つまたは複数を含む触媒と、を含む担持体と、
前記担持体の表面の一部または全部を被覆し、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、または、第四級アンモニウム基のいずれか1つまたは複数を含むアイオノマーを含む陰イオン交換樹脂と、を有し、
前記アイオノマーの塩基点密度は、2.0mmol/cm3以上、5.0mmol/cm3以下であることを特徴とする、電極用材料に関連する技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、CO2から還元生成物(CO等)を生成する生成効率に優れ、特に、CO2の供給濃度が低い場合において、還元生成物の生成効率により優れた電極用材料に関する技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示における電極用材料を説明する模式図である。
【
図2】本開示において好適に用いられる膜-電極接合体を説明する模式図の一例である。
【
図3】本開示において好適に用いられるCO
2電解装置の例を示す模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示における電極用材料、膜-電極接合体およびCO2電解装置について、具体的に説明する。なお、本開示にかかる技術は、以下で説明する該形態に限定されるものではない。また、本開示において、数値の記載に関する「~」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語である。
【0015】
1.電極用材料
本開示の電極用材料は、主に触媒と、導電性担体と、陰イオン交換樹脂と、で構成される。触媒は、導電性担体に担持されて、担持体を形成する。陰イオン交換樹脂は、担持体の表面の一部または全部を被覆する(
図1参照)。
【0016】
1-1.導電性担体
本開示にかかる導電性担体は、好ましくは、炭素材料、チタン、タンタル、金、銀、または、銅、を含む。これらは、単独で、または、複数を組み合わせて用いることができる。これらは、耐腐食性を考慮して選択することができる。導電性担体は、触媒とは異なる材質であることが好ましい。
【0017】
ここで炭素材料としては、導電性を有し、本開示技術の効果を阻害しないものであれば、特に限定されない。炭素材料としては、電極用材料に用いることが公知であるものを用いることができ、例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等を用いることができる。
【0018】
導電性担体は、好ましくは粒子状または短繊維状である。また、導電性担体は、粒子(一次粒子)または短繊維が、凝集した凝集体であってもよい。ここで粒子状または短繊維状とは、一般的な技術常識に基づいて粒子状または短繊維状であると判断されるものである。また、本開示においては、短繊維が凝集した凝集体についても、二次粒子に含むものとする。
【0019】
導電性担体の、粒子の平均粒子径または短繊維の平均繊維長は、本開示技術の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えば、10nm~1000μmとすることができる。導電性担体の平均粒子径や平均繊維長は、表面積や導電性担体の多孔性を考慮して、自由に選択することができる。ここで平均粒子径とは、一次粒子若しくは短繊維と、二次粒子と、を含む平均粒子径である。ここで、導電性担体が短繊維状である場合には、平均粒子径は、短繊維の繊維長を一次粒子径とみなした一次粒子径と、短繊維の二次粒子の粒子径とを含めて平均した値とする。平均粒子径の測定は、無作為に選択した50個の粒子について、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの公知の観察手段を用いて、粒子の直径を測定し、平均値を算出することで測定することが可能である。観察手段は、平均粒子径に応じて選択することができる。また、好ましくは、導電性担体の平均一次粒子径は、触媒の平均一次粒子径の2倍以上である。
【0020】
1-2.触媒
本開示にかかる触媒は、導電性担体に担持され担持体を形成する。
【0021】
触媒は、二酸化炭素を還元することが可能な公知の触媒であり、金、銀、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、クロム、パラジウム、スズ、マンガン、アルミニウム、インジウム、ビスマス、モリブデンなどの金属の粒子;酸化スズ、酸化銅、窒化炭素等の無機化合物の粒子;銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、マンガン、モリブデン、レニウム、スズ、インジウム、鉛、ルテニウム、アルミニウム、の金属錯体の粒子;のいずれか1つまたは複数を含む。これらは、耐腐食性を考慮して選択することができる。
【0022】
触媒は、主に粒子状である。また、触媒は、粒子(一次粒子)が凝集した二次粒子であってもよい。ここで粒子状とは、一般的な技術常識に基づいて粒子状であると判断されるものに限られず、触媒が非常に小さく、「単原子触媒」と呼ばれる、配位結合した金属が原子レベルで高分散したものも含む。
【0023】
触媒の粒子の平均粒子径は、本開示技術の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えば、0.001~100μmとすることができ、0.001~1μmが好ましく、0.001~0.1μmがより好ましい。触媒の粒子径は、触媒の表面積と、触媒のサイズ効果を考慮し、自由に選択することができる。触媒の粒子径が大きくなるほど、触媒の表面積は大きくなるため、触媒が反応に寄与する活性点(サイト)が多くなるという効果がある。一方、触媒の粒子径により、前記表面積の効果とは別に、サイズ効果と呼ばれる活性や選択性が大きく変わる効果もある。従って、使用される装置によって、触媒の活性を確認し、触媒の粒子径を選択すればよい。二酸化炭素の還元反応にかかる触媒の平均一次粒子径としては、サイズ効果により小さいものほど効果的であり、本開示技術においては、触媒の平均一次粒子径としては50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。また、触媒は凝集せず、分散している方が、即ち、含まれる一次粒子が多い方が、触媒の効果が高いため好適である。ここで触媒の平均粒子径とは、触媒の一次粒子と二次粒子を含む平均粒子径である。また、平均一次粒子とは、一次粒子径のみの平均粒子径である。これらの平均(または一次)粒子径の測定は、無作為に選択した50個の粒子(または1次粒子)について、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの公知の観察手段を用いて、粒子の直径を測定し、平均値を算出することで測定することが可能である。観察手段は、平均(または一次)粒子径に応じて選択することができる。
【0024】
触媒の導電性担体への担持量としては、本開示技術の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、例えば、担持体全量を100質量%とした場合に、担持体内の触媒の量を10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上とすることができ、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下とすることができる。触媒の担持量がかかる範囲にある場合には、触媒の凝集が抑制でき、触媒活性を高く維持できる。
【0025】
1-3.陰イオン交換樹脂
本開示にかかる陰イオン交換樹脂は、触媒と導電性担体からなる担持体の表面の一部または全部を被覆する。
【0026】
本開示にかかる陰イオン交換樹脂は、アミノ基、または、第四級アンモニウム基を含むアイオノマーである。即ち、陰イオン交換樹脂は、アイオノマーの基材樹脂に、アミノ基、または、第四級アンモニウム基を有する構造が付加した構造を有する。ここで、アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基を含む。
【0027】
陰イオン交換樹脂(アイオノマー)の塩基点密度は2.0mmol/cm3以上、5.0mmol/cm3以下であり、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満が好ましく、2.9mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満がより好ましい。陰イオン交換樹脂の塩基点密度が、かかる範囲にある場合には、電極用材料周辺部のCO2濃度が低い場合にも優れたCO2還元効率を有する電極用材料を得ることができる。
【0028】
触媒が導電性担体に担持された担持体が、陰イオン交換樹脂で被覆されていない場合や担持体が陰イオン交換樹脂によって被覆されている場合であっても陰イオン交換樹脂の塩基点濃度が低い場合には、電極用材料に供給されるCO2が気体であるため、CO2が自由に移動でき、CO2が触媒の活性点に吸着する機会が制限されてしまい、CO2還元効率も制限される。
【0029】
一方、担持体が陰イオン交換樹脂によって被覆されている場合であって、陰イオン交換樹脂の塩基点濃度が一定以上に高い場合(塩基点密度が2.0mmol/cm3以上の場合)には、被覆内に取り込まれた弱酸であるCO2が、陰イオン交換樹脂の塩基点により中和され、主に炭酸水素イオン(HCO3
-)、または、カルバミン酸エステル(カルバメート)として、陰イオン交換樹脂内に留まることが可能となる。この結果、担持体に担持された触媒の近傍には、炭酸水素イオンが豊富に貯蔵されることとなり、この炭酸水素イオンが平衡反応によりCO2となることで、CO2が触媒の活性点に効率よく吸着することが可能となる。これにより、電極用材料のCO2還元効率を向上することができる。この効果は、供給されるCO2濃度が高い場合においても効果があるが、供給されるCO2濃度が低い場合において、より効果的である。
【0030】
また、塩基点密度が5.0mmol/cm3を超える場合には、親水性が高くなるため上述の中和反応時に発生する水(H2O)による膨潤が進み、電極用材料としての機械的特性が低くなるおそれがある。
【0031】
陰イオン交換樹脂の塩基点密度は、アイオノマーの分子構造内の疎水性構造と親水性構造の比率により調整できる。このため、陰イオン交換樹脂の塩基点密度を調整する方法としては、疎水性構造を有するモノマーや予めモノマーを重合した重合体と、親水性構造を有するモノマーや予めモノマーを重合した重合体とを、それぞれの配合比率を調整して共重合させることで調整することができる。
【0032】
陰イオン交換樹脂の塩基点密度は、1H-NMR測定により、アミノ基、第四級アンモニウム基、その他の塩基点となる官能基のシグナルの積分値から得る。
【0033】
アイオノマーの基材樹脂としては、本開示技術の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えば、エチレン系モノマー、スチレン系モノマー、ウレタン系モノマー、ハロゲン系モノマーおよびこれらのモノマーを予め重合した重合体を、共重合した共重合体とすることができる。これらの共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれを用いることも可能である。また、これらは、単独で、または、複数を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本開示にかかるアイオノマーは、アミノ基、または、第四級アンモニウム基を有するがこれらは親水性基であるので、塩基点濃度の調整するためには、予めモノマーや重合体に付加させて用いることが好ましい。また、塩基点密度を調整するために添加する疎水性のモノマーまたは重合体としては、疎水性の高さからハロゲン化物系モノマー、芳香族モノマー、エーテル結合を含むモノマーまたはその重合体を用いることができ、特にフッ素系モノマーを用いることが好ましい。
【0035】
陰イオン交換樹脂は、担持体の表面の一部または全部を被覆するが、その担持体の表面積に対する被覆面積の比率である被覆率(被覆面積/担持体表面積×100)は、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%とすることができる。多くのCO2を触媒近傍に蓄積する効果の観点で被覆率は高い方が好ましい。ここで、被覆率は、無作為に選んだ50個の電極用材料の粒子の表面を透過型電子顕微鏡で観察し、上述の式で算出した被覆率の平均値とする。
【0036】
陰イオン交換樹脂の平均被覆厚さは、本開示技術の効果が阻害されない限りにおいて特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。
陰イオン交換樹脂の平均被覆厚さが、0.01μm以上であると、イオン伝導のチャネルが十分に形成され、反応によって生成した水酸化物イオン(OH-)をイオン交換膜へより効率よく輸送することができ、さらに塩基点量が十分となることから、CO2や炭酸水素イオンといった炭酸種の保持量が十分となる。
また、陰イオン交換樹脂の平均被覆厚さが、100μm以下であると、イオンが移動しなければいけない距離が適切となることから、イオンの移動に対する抵抗が適度なものとなり、電圧増加の抑制(効率の低下の抑制)できる。さらにCO2が触媒に到達するために拡散しなければいけない距離が大きすぎないことから、CO2の移動が容易となり、電圧増加の抑制(効率の低下の抑制)が可能となる。
以上により、陰イオン交換樹脂の平均被覆厚さがかかる範囲にある場合には、CO2から還元生成物(CO等)を生成する生成効率に優れ、特に、CO2の供給濃度が低い場合において、還元生成物の生成効率により優れた電極用材料を得ることができる。
【0037】
2.電極用材料の製造方法
次に電極用材料の製造方法について説明する。公知の混合機を用い、所定量の導電性担体と触媒とを混合することで、担持体が作製される。混合時間は3~60分とすることができる。担持体を作製する別の方法としては、導電性担体上に触媒を還元反応により析出させる方法などを挙げることができる。より具体的には、所定量の導電性担体と触媒金属と還元剤とを混合し、陽イオンを還元させることによって触媒金属を導電性担体上に担持させることができる。この方法における混合時間は1~48時間とすることができる。
容器に有機溶媒を入れ、陰イオン交換樹脂を入れ、溶解させることで、上記担持体を被覆する陰イオン交換樹脂の溶液であるアイオノマー溶液が作製される。アイオノマー溶液のアイオノマー濃度は、アイオノマー溶液全量に対して、0.1~50質量%であり、アイオノマー溶液のアイオノマー濃度により、被覆厚さおよび被覆率を調整することができる。アイオノマー溶液に用いる有機溶媒は、アイオノマーを溶解させることが可能であれば、特に限定されず、アイオノマーの溶解性を考慮して自由に選択できる。
得られた担持体を、作製したアイオノマー溶液に入れ、ミキサーなどで混合することで、上記担持体をアイオノマー溶液に分散させた担持体分散溶液が作製される。混合時間は、5~60分とすることができる。
このようにして得られた担持体分散溶液を、スプレーなど公知の吹付装置を用いて、カーボン紙等の電極支持体に吹付、乾燥させることで、カーボン紙等に付着した電極用材料が作製される。乾燥は自然乾燥や必要に応じて乾燥炉などを用いることができる。
【0038】
3.電極用材料の用途
本開示の電極用材料は、CO2電解装置に用いる電極または膜-電極接合体に用いることができる。
【0039】
3-1.膜-電極接合体
本開示の電極用材料を用い、膜-電極接合体を形成すると、CO2還元効率の高い膜-電極接合体を得ることができる。
【0040】
本開示の膜-電極接合体は、主に本開示の電極用材料、固体電解質、集電体(板形状で用いられる場合には集電板とも称する)で構成される。また、本開示の電極用材料は、固体電解質と、集電体と、の間に設けられて用いられる。電極用材料は、電極用材料を成形したり、基材に付着させたりして所望の形状の電極とすることができる。固体電解質はイオン交換膜であり、好ましくは陰イオン交換膜が用いられる。
【0041】
3-1-1.固体電解質
本開示の固体電解質は、本開示技術の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えば、Nafion(登録商標)、Aquivion(登録商標)などの陽イオン交換膜や、Sustainion(登録商標)、Fumasep(登録商標)などの陰イオン交換膜が挙げられ、陰イオン交換膜が好ましく用いられる。また、本開示の膜-電極接合体においては、特に第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基、さらにこれらのイオン交換基が複数混在した陰イオン交換膜を用いることが好ましい。具体例としては、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、AMX、ACS、AFN、AFX(トクヤマ社製)、セレミオン(登録商標) AMV、AMT、DSV、AAV、ASV、AHO、AHT、APS4(旭硝子社製)等を用いることができる。
【0042】
陰イオン交換膜の材質は、本開示の電極用材料を被覆する陰イオン交換樹脂と同一の材質でも、非同一の材質を用いてもよい。陰イオン交換膜の材質は、本開示の電極用材料を被覆する陰イオン交換樹脂と同一の材質である場合には、陰イオン交換樹脂と陰イオン交換膜の界面が変質することを避けることが可能であり、また、陰イオン交換樹脂と陰イオン交換膜の界面の相分離を避けることでイオンの移動(伝導)をスムーズにすることが可能となるため、好ましい。
【0043】
3-1-2.集電体
本開示にかかる集電体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。負極集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等を挙げることができる。
【0044】
ここで、集電体には、電極(または、電極用材料)にガス(原料ガスや生成ガス)を供給および回収するための通気孔が設けられている。これら通気孔により、電極(または、電極用材料)に均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することが可能となる。なお、通気孔の数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。加えて、集電体が通気性のあるものである場合には、通気孔は不要である。
図2には、膜-電極接合体の説明図を示したが、
図2における集電体は、多孔質の通気性の材質を使用したものを示している。
【0045】
3-2.CO2電解装置
本開示の電極用材料および膜-電極接合体は、陰極として用いることで、CO2還元効率に優れ、特に供給されるCO2濃度が低い場合において、より効果的であるCO2電解装置を得ることができる。CO2電解装置は、例えば、COのようなCO2電解生成物の製造方法に用いることができる。
【0046】
本開示のCO
2電解装置の例について、
図3を用いて説明する。CO
2電解装置は、陰極101と、前記陰極101と1対の電極を構成する陽極102と、陰極101と陽極102との間に少なくとも一部が接触している状態にて介在する固体電解質103と、前記陰極101の固体電解質103との接触面101-1とは反対側の面101-2で接触している集電体104と、陽極102の固体電解質103との接触面102-2とは反対側の面102-1で接触している支持板105と、集電体104と支持板105との間(即ち、陰極と陽極との間)に電圧を印加する電圧印加部106と、を有している。また、図示しない供給源および供給装置によって、気相状態でのCO
2や、支持電解質であるH
2OやKHCO
3等の電解質水溶液を供給することとしている。なお、
図3に記載したCO
2電解装置100は、説明のために陰極101や陽極102などの各部品を離した状態で図示しているが、実際には、集電体104、陰極101、固体電解質103、陽極102、支持板105のそれぞれは所定の方法によって接着され、一体化して構成されている。各部品が、着脱可能に構成されて1つのCO
2電解装置100を構成することができる。
【0047】
ここで、本開示の電極用材料は、陰極101として用いられる。
【0048】
また、本開示の膜-電極接合体は、
図3における集電体104、陰極101、固体電解質103の役割を果たす。即ち、膜-電極接合体を構成する集電体は集電体104となり、本開示の電極用材料は陰極101となり、そして、陰イオン交換膜が固体電解質103を構成することで、一体化した陰極を形成することができる。
【実施例0049】
次に、実施例、および比較例により、本開示技術について詳細に説明するが、本開示技術はこれらには何ら限定されない。
【0050】
<電極用材料の作製>
触媒として、Agナノ粒子(平均粒子径10nm)を2mg、導電性カーボンブラック(平均粒子径30nm)10mg上にAg+イオンの還元によって析出させて得た粉末を、混合機(装置名や処理条件)を用いて混合し、担持体を作製した。容器に有機溶媒にアイオノマー6mgを溶解させて作製したアイオノマー溶液に担持体を分散させ、スプレーを用いて、カーボンペーパー(面積2.25cm2)上に塗布し電極とした。
ここで、アイオノマーは、下記に示した塩基点密度の各種アイオノマーを用いて、各実施例および比較例の電極を作製した。各実施例および比較例の電極用材料の被覆率は100%であった。
(原料)
実施例1のアイオノマー:塩基点密度3.8mmol/cm3、基材として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)および/またはトリフルオロメチル基が主鎖に結合している樹脂
実施例2のアイオノマー:塩基点密度2.9mmol/cm3、基材として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂
実施例3のアイオノマー:塩基点密度2.9mmol/cm3、基材として芳香環とエーテル結合が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂
実施例4のアイオノマー:塩基点密度4.5mmol/cm3、基材として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)および/またはトリフルオロメチル基が主鎖に結合している樹脂であり、実施例1のアイオノマーの塩基点密度を変えた樹脂
実施例5のアイオノマー:塩基点密度2.3mmol/cm3、基材として芳香環とエーテル結合が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂
実施例6のアイオノマー:塩基点密度2.3mmol/cm3、Dioxide Material社製 XC-2
実施例7のアイオノマー:塩基点密度2.1mmol/cm3、基材として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂であり、実施例2のアイオノマーの塩基点密度を変えた樹脂
実施例8のアイオノマー:塩基点密度2.9mmol/cm3、基材として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂
比較例1のアイオノマー:塩基点密度1.4mmol/cm3、として芳香族が主鎖にある樹脂で、側鎖として第四級アンモニウム基(第四級アルキルアミン基)が主鎖に結合している樹脂であり、実施例2のアイオノマーの塩基点密度を変えた樹脂
比較例2のアイオノマー:塩基点密度1.0mmol/cm3、Dioxide Material社製 XA-9
【0051】
<CO2電解装置>
得られた各実施例および比較例の電極を陰極として、酸化イリジウムを担持したチタンメッシュを陽極として、実施例1~7および比較例1~2では実施例7のアイオノマーの陰イオン交換膜(膜厚30μm)を固体電解質として、実施例8ではNafion(登録商標)(膜厚50μm)陽イオン交換膜を固体電解質として、電解液槽(0.5MのKHCO3水溶液)を陽極側の溶液として、それぞれ用いた。陰極、イオン交換膜、陽極、電解液槽の順で配列し、陰極と電解液槽がイオン交換膜と陽極を挟み込んだ構造とした。
【0052】
<電解性能評価>
それぞれの実施例および比較例の電極を組み込んだCO2電解装置を用い、CO2を電気分解してCOとする際のCO生成電流密度JCO[mA/cm2]を測定した。CO2は、N2ガスを希釈ガスとして用い、CO2濃度が100vol%、25vol%として、陰極に供給した。また、陰極の印加電位は、銀/塩化銀参照電極に対して、-1.8Vとした。結果を表1に示した。なお維持率評価は以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:CO2濃度100vol%供給時のJCOが65mA/cm2以上であり、かつCO2濃度25vol%供給時のJCOの維持率が、100vol%供給時のJCOと比較して50%以上である。
〇:CO225%供給時のJCOの維持率が、CO2濃度100vol%供給時のJCOと比較して40%以上である。
△:CO2濃度25vol%供給時のJCOの維持率が、CO2濃度100%供給時のJCOと比較して40%未満。
【0053】