(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145228
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】固体電解質形電解装置、および、そのメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20220926BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220926BHJP
【FI】
C25B15/00 302A
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046539
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一仁
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】兼古 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BA17
4K021BC09
4K021CA15
4K021DB53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CO
2還元反応を停止させることなく、稼働率および装置寿命に優れた固体電解質形電解装置に関する技術を提供する。
【解決手段】還元反応を行うカソードと、前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、前記アノードに接触して酸化還元反応を支持する電解液と、前記カソードと前記アノードとの間に着設される固体電解質と、前記電解液を希釈または置換する回復液を前記アノードに供給して前記カソードと前記固体電解質との間に析出した塩を除去するリフレッシュ部と、を有し、前記回復液は、前記塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンの濃度が前記電解液よりも低い溶液であることを特徴とする固体電解質形電解装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応を行うカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、
前記アノードに接触して酸化還元反応を支持する電解液と、
前記カソードと前記アノードとの間に着設される固体電解質と、
前記電解液を希釈または置換する回復液を前記アノードに供給して前記カソードと前記固体電解質との間に析出した塩を除去するリフレッシュ部と、を有し、
前記回復液は、前記塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンの濃度が前記電解液よりも低い溶液であることを特徴とする固体電解質形電解装置。
【請求項2】
前記電解液が、KHCO3、NaHCO3、K2CO3、Na2CO3、NaCl、KCl、NaOH、KOHの少なくともいずれか一つを含む水溶液;リン酸緩衝液;ホウ酸緩衝液;である請求項1に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項3】
前記回復液が、KHCO3、NaHCO3、K2CO3、Na2CO3、NaCl、KCl、NaOH、KOHの少なくともいずれか一つを含む水溶液;水;リン酸緩衝液;ホウ酸緩衝液;である請求項1または2に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の固体電解質形電解装置のカソードに析出した析出塩を除去する方法。
【請求項5】
還元反応を行うカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、
前記アノードに接触して酸化還元反応を支持する電解液と、
前記カソードと前記アノードとの間に着設される固体電解質と、
前記電解液を希釈または置換する回復液を前記アノードに供給して前記カソードと前記固体電解質との間に析出した塩を除去するリフレッシュ部と、を有し、
前記回復液は、前記塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンの濃度が前記電解液よりも低い溶液であることを特徴とする固体電解質形電解装置のメンテナンス方法であって、
前記リフレッシュ部から、前記回復液を、前記アノードに供給して、前記電解液を回復液で希釈または置換する回復液供給ステップと、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を継続印加して前記塩を除去する除去ステップと、を有する、固体電解質形電解装置のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質形電解装置、および、そのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを利用した二酸化炭素還元の研究は世界中で広く行われている。二酸化炭素を還元する固体電解質形電解装置では、陰極(以降、カソードと記載する場合がある)に供給される電解質を含んだ水溶液に二酸化炭素を溶解させるとともに、陽極(以降、アノードと記載する場合がある)に電解質を含んだ水溶液を供給する形が一般的である。一般に陰極と陽極との間にはイオンを交換するための電解質が設けられ、その部材としてはイオン交換膜が用いられることがある。
【0003】
イオン交換膜は、その構造上、イオン以外に電解質も透過する性質を有する。そのため、例えば、微量ながら陽極に供給している電解質がイオン交換膜を透過し、陰極近傍に塩として析出する現象がしばしば見出されることがある。析出した塩は、陰極触媒への二酸化炭素供給を妨害するなどの悪影響を及ぼし、電流密度や選択性といった電解性能の低下を引き起こす。析出した塩を除去する方法として、塩が析出した陰極に純水などのリンス液を導入し塩を直接洗い流すメンテナンス方法が考案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-154901号公報
【特許文献2】特開2019-056135号公報
【特許文献3】特開2019-167556号公報
【特許文献4】特開2019-167557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に開示されている陰極にリンス液を導入するメンテナンス方法は、メンテナンス中にCO2の供給を中断することから、その間CO2還元反応を停止せざるを得ないという問題がある。加えて、析出した塩を直接洗い流すため、陰極上に担持されている陰極触媒の流出を引き起こし、装置の劣化の要因となる問題が生じる可能性があった。そこで、本開示は、稼働率や装置寿命に優れた固体電解質形電解装置に関する技術を提供する。
【0006】
本発明者らは、前記目的の実現に向け鋭意検討した結果、塩が析出した電極とは他方の電極に供給する電解液(電解質溶液)を、特定の回復液で希釈または置換することで、電極に析出した塩が、溶解し、他方の電極側に移動することが明らかとなった。この方法によれば、リンス液を析出した塩およびその電極に直接供給することなく、また、固体電解質形電解装置の稼働(CO2還元反応)を停止させることなく、電極に析出した塩を除去することが可能であり、固体電解質形電解装置の電解性能が回復することを見出し、本開示技術を完成させるに至った。即ち、本開示にかかる技術は以下の通りである。
【0007】
本開示における実施の形態は、
還元反応を行うカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成するアノードと、
前記アノードに接触して酸化還元反応を支持する電解液と、
前記カソードと前記アノードとの間に着設される固体電解質と、
前記電解液を希釈または置換する回復液を前記アノードに供給して前記カソードと前記固体電解質との間に析出した塩を除去するリフレッシュ部と、を有し、
前記回復液は、前記塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンの濃度が前記電解液よりも低い溶液であることを特徴とする固体電解質形電解装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、CO2還元反応を停止させることなく、稼働率および装置寿命に優れた固体電解質形電解装置に関する技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本開示の実施形態で好適に用いられるシステムの一例を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置において、カソード表面に固体塩基を添加することで、局所的に効率よくCO
2を吸着できる様子を示した概念図である。
【
図4】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置のメンテナンス方法を示したフローチャートである。
【
図5】本開示の実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の用途例である。
【
図6】本開示で好適に用いられる固体電解質型装置による連続時間運転評価における印加電圧の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示における固体電解質形電解装置およびその電極に析出した塩を除去する方法について、
図1~
図3を用いて具体的に説明する。なお、本開示にかかる発明は、以下で説明する該形態に限定されるものではない。また、本開示において、数値の記載に関する「~」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語である。
【0011】
≪固体電解質形電解装置100≫
まず、
図1を参照しながら、本実施形態にかかる固体電解質形電解装置(電解セル、電解モジュールとも称される)を説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる固体電解質形電解装置100は、カソード(陰極)101と、前記カソード101と1対の電極を構成するアノード(陽極)102と、前記カソード101と前記アノード102との間に少なくとも一部が接触している状態にて着設する固体電解質103と、前記カソード101の前記固体電解質103との接触面101-1とは反対側の面101-2で接触している集電板104と、前記アノード102の前記固体電解質103との接触面102-2とは反対側の面102-1で接触している支持板105と、前記集電板104と前記支持板105との間(即ち、前記カソードと前記アノードとの間)に電圧を印加する電圧印加部106と、を有している。また、支持板105のアノード102と反対側の面には電解液(電解質溶液)を貯蔵する電解液槽108を有している。さらに供給源および供給装置によって、気相状態でのCO
2を供給することとしている。
図2において、供給源または供給装置の一例として、CO
2分離回収装置を用いた装置システムの構成例を示した。
なお、
図1に記載した固体電解質形電解装置100は、説明のためにカソード101やアノード102などの各部品を離した状態で図示しているが、実際には、集電板104、カソード101、固体電解質103、アノード102、支持板105のそれぞれは所定の方法によって接着され、一体化して構成されている。各部品が、着脱可能に構成されて1つの固体電解質形電解装置100を構成していてもよい。
また、本実施形態にかかる固体電解質形電解装置100は、電解液を希釈または置換する回復液をアノード102に供給してカソード101と固体電解質103との間に析出した塩を除去するリフレッシュ部を有する。
ここで、
図2を参照しながら本開示技術におけるリフレッシュ部を説明する。本開示技術におけるリフレッシュ部は、回復液を貯蔵する回復液タンク201と、回復液を回復液タンク201から電解液槽108に供給するための配管202と、電解液槽108内で希釈された電解液または回復液を電解液槽108から排出するための配管203と、により構成される。さらに、リフレッシュ部は、固体電解質形電解装置100内の電解液槽108に供給するための電解液を一時的または常時貯蔵する電解液タンク204と、電解液を電解液タンク204から配管202へ供給するための配管205を、含むことができる。ここで、電解液タンク204において、一時的または常時貯蔵される電解液は、未使用の電解液、電解液槽108から回収された電解液のいずれでもよい。以下、各構成要素を詳述する。
【0012】
<カソード101>
(カソード101での還元反応)
カソード101での還元反応は、固体電解質形電解装置100で用いる固体電解質103の種類によって変化する。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(1)と(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(3)と(4)の還元反応が起きる。
【0013】
(カソード101の基本構造・材質)
カソード101は、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、導電性を有するカーボン、金属などで製作された、紙、不織布またはメッシュなどの多孔性を有する材料を含む。カソード101の電極材料には、例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUSを挙げることができる。また、カソード101が有する、CO2(二酸化炭素)をCO(一酸化炭素)に還元可能なカソードの触媒は、例えば、銀、金、銅またはそれらの組合せから選択される金属を含む。触媒は、より詳細には、例えば、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、または、それらのいずれか1種以上を含む混合金属を含む。触媒の種類は、触媒としての機能を有するものであれば特に限定されず、耐腐食性等を考慮して決定することができる。例えば、触媒が、Al、Sn、Zn等の両性金属を含まないことで、耐腐食性を向上させることができる。蒸着、析出、吸着、堆積、接着、溶接、物理混合、噴霧等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料)に対して、触媒を担持させることができる。
【0014】
(固体塩基107)
ここで、
図3に示すようにカソード101は、固体塩基107を有する。固体塩基107としては、常温(25℃)で固体である塩基であれば特に限定されず、例えば、無機化合物としては、炭酸水素カリウム(KHCO
3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物{例えば、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、酸化ストロンチウム(SrO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)
2)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH)
2)、炭酸バリウム(BaCO
3)など}、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩{例えば、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ランタン(La
2O
3)など}、ハイドロタルカイト(例えば、金属複合水酸、炭酸塩、LDH、HT-CO
3、HT-OHなど)、表面塩基処理したゼオライト、塩基処理したモレキュラーシーブ、表面塩基処理した多孔質アルミナ(KF-Al
2O
3)アンモニウム塩などをもちいることが好ましい。また、有機化合物としては、アミン類;第4級アンモニウム基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基などの官能基を有する高分子;などを用いることが好ましい。特に、原子番号の小さい弱塩基性の固体塩基がより好ましい。また、水不溶性の固体塩基であるアルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩を用いることがガス中の水や反応で発生する水により流されず、固体塩基107を有するカソードとしての耐久性が低下しないため、より好ましい。ここで、「水不溶性」とは、10mgが20℃の水100mLに溶解しないものをいう。なお、固体塩基107は、カソード101の、固体電解質103との接触面101-1側に存在することが好適である。このように構成する理由は、カソード101と固体電解質103との界面が反応サイトであるからである。また、固体塩基107は、カソード101の材料との混合物として存在しても良く、また、化合物として一体化された状態で存在してもよい。塗布、蒸着、析出、物理混合等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料)に対して固体塩基107を担持させることができる。固体塩基の単位面積あたりの質量は、特に限定されないが、例えば、0.1~10mg/cm
2、好ましくは0.1~6mg/cm
2である。
【0015】
ここで、固体塩基107を用いると効率が上がる理由については、以下の作用機序が推定される。まず、例えば、工場における排出ガスといったような含有濃度が10~20%となる低濃度CO
2ガスを固体電解質形電解装置100に供給した場合、CO
2が低濃度であるが故にカソード101表面に吸着されにくい。そこで、
図3に示すように、カソード101表面に固体塩基107を添加することで、固体塩基が存在している箇所に対して局所的に効率よくCO
2を吸着でき、CO
2還元を進行させることができると理解される。また、固体電解質103として陽イオン交換膜を採用した場合、カソード101表面にH
+が多いと、CO
2が十分に吸着できないと理解される。この際、固体塩基107が存在すると反応が進行すると考えられる(例えば上述した水不溶性の固体塩基を用いた場合にはpH>2となるようにpHを制御することが好ましい)。他方、固体電解質として陰イオン交換膜を採用した場合、カソード表面にOH
-が存在しているため、CO
2が吸着され、CO
2還元には適している。しかし、OH
-が多すぎると安定なCO
3
2-で吸着されてしまい、CO
2還元反応が十分に進まないと理解される。この際、強塩基性の固体塩基よりも弱塩基性の固体塩基107が存在すると、CO
2還元反応がより進行すると考えられる(例えば上述した水不溶性の固体塩基を用いた場合にはpH<12となるようにpHを制御することが好ましい)。本開示において、このような固体塩基および触媒を有する電極を、「触媒と、触媒を有する電極材料と、少なくとも電極材料に設けられた固体塩基と、を有する電極」(換言すれば、触媒および固体塩基を有する電極材料、を有する電極)、または、「触媒を有し、固体塩基をさらに有するカソード」等と表現することができる。
【0016】
<アノード102>
(アノード102での酸化反応)
アノード102での酸化反応は、固体電解質形電解装置100で用いる固体電解質103の種類によって変化する。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(5)の酸化反応が起き、固体電解質103として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(6)の酸化反応が起きる。
【0017】
(アノード102の基本構造・材質)
アノード102は、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、カーボンや金属などの導電性材料で作られた、紙、不織布またはメッシュ等などの多孔性を有する材料を含む。アノード102の電極材料には、例えば、Ir、IrOx、Ru、RuO2、Rh、RhOx、Co、CoOx、Cu、CuOx、Fe、FeOx、FeOOH、FeMn、Ni、NiOx、NiOOH、NiCo、NiCe、NiC、NiFe、NiCeCoCe、NiLa、NiMoFe、NiSn、NiZn、SUS、Au、Ptを挙げることができる。
【0018】
<固体電解質103>
固体電解質103は、カソード101とアノード102との間に少なくとも部分的に接触状態にて介在する。ここで、固体電解質103は、特に高分子膜に限定される訳ではないが、陽イオン交換膜または陰イオン交換膜が好適であり、陰イオン交換膜がより好適である。陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion 117、Nafion115、Nafion212やNafion 350(デュポン社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、またはネオセプタ CMX(徳山曹達社製)等を用いることができる。また、陰イオン交換膜としては、例えば、第4級アンモニウム基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、さらにこれらのイオン交換基が複数混在した陰イオン交換膜が挙げられる。具体例としては、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、AMX、ACS、AFN、AFX(トクヤマ社製)、セレミオン(登録商標) AMV、AMT、DSV、AAV、ASV、AHO、AHT、APS4(旭硝子社製)等を用いることができる。
【0019】
<集電板104>
集電板104としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。負極集電板の形状は、集電板104が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
【0020】
ここで、
図1に示すように、集電板104には、カソード101にガス(原料ガスや生成ガス)を供給および回収するためのガス供給孔104-1およびガス回収孔104-2が設けられている。当該ガス供給孔104-1および当該ガス回収孔104-2により、カソード101に均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することが可能となる。なお、当該図では、ガス供給孔およびガス回収孔がそれぞれ1個ずつ設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。加えて、集電板104が通気性のあるものである場合には、ガス供給孔およびガス回収孔は必ずしも必要無い。
【0021】
なお、カソード101が電子を伝達する役割を持っている場合には、集電板104は必ずしも必要無い。
【0022】
<支持板105>
支持板105は、アノードを支持する役割を果たす。従って、アノードの厚み・剛性等により、求められる支持板105の剛性も変わる。また、当該支持板105は、アノードからの電子を受け取るべく、電気伝導性を有している必要がある。支持板105の材料としては、例えば、Ti、SUS、Niを挙げることができる。
【0023】
ここで、
図1に示すように、支持板105には、アノード102に原料ガス(H
2O等)を送り込むためのガス流路105-1が設けられている。当該ガス流路により、アノード102に均一且つ効率よく原料ガスを送り込むことが可能となる。なお、当該図では、8個のガス流路が設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。
【0024】
なお、本形態では、アノード102と支持板105を別体のものとして説明したが、アノード102と支持板105とが一体構造であってもよい(即ち、支持機能を持った、一体型アノードとして構成してもよい)。
【0025】
<電解液槽108>
電解液槽108は、酸化還元反応を支持する電解液を蓄え、アノード102に送り込む原料ガスの供給源となる。また、電解液槽108に回復液を供給することで、電解液を希釈または置換して、カソード101に析出した析出塩の除去を行う。そのため、電解液槽108には、別に設けられた回復液タンク201、または電解液タンク204のそれぞれから回復液または電解液を供給する流路(配管202、205)、希釈された電解液または置換された回復液を排出する流路(配管203)、が接続されている。電解液槽108の材料としては、例えば、Ti、SUS、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂を挙げることができる。
【0026】
<電解液>
電解液は、アノード102に送り込む原料ガスの供給源となる。電解液は、公知の電解液を用いることができる。pHやイオン導電率の観点で、KHCO3やKOH等が好ましく用いられる。
【0027】
<回復液タンク201>
回復液タンク201は回復液を蓄える。カソード101に析出した析出塩を除去する際には、回復液を電解液槽108へ送り出す。このため、回復液タンク201と電解液槽108とは、回復液を回復液タンク201から電解液槽108に供給する流路によって接続されている。また、回復液タンク201の材料としては、例えば、Ti、SUS、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂を挙げることができる。回復液タンク201は、外部から回復液タンク201に回復液を供給する流路と接続されていてもよい。
【0028】
<電解液タンク204>
電解液タンク204は、固体電解質形電解装置100に供給する電解液を一時的または常時貯蔵する電解液を蓄える。電解液タンク204は、電解液を電解液タンク204から電解液槽108へ供給するための流路によって電解液槽108と接続されている。電解液タンク204内の電解液は、カソード101に析出した析出塩を除去したのち、電解液槽108内の析出塩の陽イオンが溶解した、希釈された電解液または置換された回復液を、電解液と置換するために用いられる。また、電解液タンク204の材料としては、例えば、Ti、SUS、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂を挙げることができる。電解液タンク204は、外部から電解液タンク204に電解液を供給する流路と接続されて一時または常時に電解液を貯留する貯蔵庫として用いられてもよい。
【0029】
<回復液>
回復液は、カソード101に析出した析出塩を除去する際に、電解液槽108中の電解液を希釈または置換するために用いられる。
【0030】
回復液は、(1)水;(2)析出塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンを含まない溶液;(3)析出塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンを含み、陽イオンの濃度が電解液の陽イオン濃度よりも低い溶液;のいずれか1つまたは複数から主に選択される。回復液としては、CO2電解が進行しやすいとされる、中性ないしは塩基性を示す水溶液を用いることが、メンテナンス中の電解効率を確保する観点から特に望ましい。非水系溶液も利用可能であるが、固体電解質103を溶解する物質を含んでいる場合、固体電解質103を破損する場合があるので、好ましくない。回復液としては、例えば、KHCO3、NaHCO3、K2CO3、Na2CO3、NaCl、KCl、NaOH、KOH、少なくともいずれか一つを含む水溶液;水;リン酸緩衝液;、ホウ酸緩衝液;を用いることができる。これらは、単独で、または、複数を組み合わせて用いることができる。
【0031】
回復液により希釈または置換された電解液は、その陽イオン濃度が低下する。このため、析出した析出塩の存在するカソード近傍に対し、アノード近傍に配置された電解液槽108内の陽イオンの濃度が低くなり、濃度勾配が形成される。この濃度勾配により、カソード近傍の析出塩および析出塩が再溶解して生成する陽イオンは、濃度勾配をなくすために電解液槽108内の回復液に移動(溶解)する。これによりカソード近傍の析出塩を除去することができる。例えば、電解液が、0.5MのKHCO3の場合おいて、析出塩はカリウム塩であり、回復液としては、前記(1)の回復液である水、前記(2)の回復液として、NaOH水溶液、NaHCO3水溶液(濃度は、例えば、0.5M)、前記(3)の回復液としては、0.05MのKHCO3水溶液とすることができる。従って、回復液は、前記濃度勾配が大きくなるような、析出塩に含まれる陽イオンと同一の陽イオンの濃度がより低いものが好ましく用いられ、そのイオン濃度は好ましくは0.05M以下、より好ましくは0.01M以下、特に好ましくは水である。ここで、水は、水道水、イオン交換水、純水などを用いることができる。
【0032】
<電圧印加部106>
電圧印加部106は、
図1に示すように、集電板104と支持板105に電圧を印加することによって、カソード101とアノード102との間に電圧を印加する役割を担う。ここで、前記のように、集電板104は導電体であるため、カソード101に電子を供給する一方、支持板105も導電体であるため、アノード102からの電子を受け取ることになる。なお、前記のように集電板104が必要無い場合においては、カソード101と支持板105との間に電圧は印加される。また、電圧印加部106には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0033】
<反応ガス供給部>
本開示における固体電解質形電解装置100には、図示しない反応ガス供給部が、固体電解質形電解装置100の外側に備えられていてもよい。すなわち、面101-2に反応ガスであるCO
2が供給されればよく、図示しない配管などを介して反応ガス供給部からガス供給孔104-1に反応ガスが供給されてもよいし、集電板104の、カソード101との接触面104-Bとは反対側の面104-Aに反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。また、この反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスを用いることが、環境面から好適である。
図2に示したように、CO
2回収分離装置が反応ガス供給部として用い、外部から供給されるCO
2に加え、固体電解質形電解装置100から未反応ガスとして回収分離されたCO
2をさらに用いることで、環境面からより好適である。
【0034】
<その他>
本開示における固体電解質形電解装置100には、その他の部品として、固体電解質形電解装置として必要な、電装部品、制御部品、バルブや配管、タンク、ポンプなどの配管部品などを含むことができる。
【0035】
≪析出塩の除去方法≫
次に、上述した固体電解質形電解装置100を用いたカソードの析出塩の除去方法について、
図4を用いて説明する。本開示における析出塩の除去方法は、回復液供給ステップ(S301)、析出塩除去ステップ(S302)、電解液供給ステップ(S303)を含む。なお、以下の工程は、固体電解質形電解装置100を継続して稼働したまま、即ち、CO
2の還元反応を継続したまま行うことができる。また、以下のステップは繰返し実施することができる。
【0036】
<回復液供給ステップ(S301)>
電解液槽108内の電解液を排出し、同時に回復液タンクから回復液を電解液槽108内に供給する。この際、電解液槽108内の電解液と回復液の液量が、装置に必要な液量を満たすように、排出と供給の流量を調節する。回復液の供給量としては、装置に必要な液量に対して、少なくとも50体積%以上とし、電解液が回復液と完全に置換するまで供給することができる。ここで排出された電解液を回収し、電解液タンク204に一時的または常時貯蔵することができる。即ち、回復液によって希釈された電解液を再利用することが可能である。再利用が可能な電解液の電解質濃度は、50質量%以上である。
【0037】
<析出塩除去ステップ(S302)>
所定量の回復液を供給したのち、電解液槽108内の溶液の排出および回復液の供給を停止し、固体電解質形電解装置100の通常の稼働を継続する。固体電解質形電解装置100の通常の稼働を継続することで、析出塩が電解液槽108内の溶液に溶解し、カソード近傍の析出塩が除去される。析出塩の除去時間は、電極の大きさや使用期間により変化するため、明確に定まらない。そのため、析出塩の除去時間は、電解液槽108内の溶液内に含まれる、析出塩に含有される陽イオン、の濃度をモニターし、濃度変化が漸減または停止するまでの時間とすることができる。目安としては、例えば、0.5~12時間とすることができる。
【0038】
<電解液供給ステップ(S303)>
析出塩の除去が完了したのち、電解液槽108内の溶液(回復液に析出塩が溶解した溶液)を排出し、同時に、電解液タンクから電解液槽108へ電解液を供給する。この際、電解液槽108内の電解液の液量が、装置に必要な液量を満たすように、排出と供給の流量を調節する。電解液の供給量としては、装置に必要な液量に対して、少なくとも100体積%以上とし、200体積%が好ましく、400%体積がより好ましい。このような量の電解液を供給することで、電解液槽108内の溶液が、電解液に置換される。
ここで排出した電解液を回収し、電解液タンク204に一時的または常時貯蔵することができる。即ち、回復液によって希釈された電解液を電解液として再利用することが可能である。再利用が可能な電解液の電解質濃度は、50質量%以上である。
なお、排出した電解液は回復液を含んでいるため、別の再利用方法として、
図2に示したように、排出した電解液を回復液回収タンクに回収し、不純物除去や濃度調整を行う後処理を経て、再利用する回復液として回復液タンク201に一時的または常時貯蔵することが可能である。
【0039】
≪用途≫
図5に示すように、上述したような本開示にかかる固体電解質形電解装置に対して、例えば工場より排出されたCO
2ガスを原料として、電圧印加部106への太陽電池等の再生可能エネルギーを利用することで、所望の生成割合による少なくともCOとH
2を含有した合成ガスを生成することが可能となる。このようにして生成された合成ガスは、FT合成やメタネーション等の手法により燃料基材や、化学品原料を生成することができる。
【実施例0040】
以下に、上述した本実施形態を用いた場合の実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
【0041】
以下の部材を用いて、固体電解質形電解装置を組み立てた。カソードは導電性を有するカーボンブラックと、銀ナノ触媒を混合したものをカーボン紙に付着してカソードとして用いた。アノードは酸化イリジウムを担持したチタンメッシュを用いた。固体電解質としては、表1の芳香環が主鎖にあり、第4級アンモニウム基があるイオン交換膜を用い、電解液として、0.5M KHCO3水溶液を用いた。各実施例および比較例に用いた回復液を表1に示した。なお、電解液と、各実施例および比較例のカリウムイオン濃度は、カリウムイオンセンサ(堀場製作所社製S030)を用いて測定し、カリウムイオン校正液を用いて予め作成した検量線から算出した。
【0042】
電解液を各実施例と比較例の回復液に置換し、固体電解質形電解装置を稼働させ、CO2還元反応を1.5時間継続させた。この際、カソードの印加電位は、銀/塩化銀参照電極に対して、-1.8Vとした。その後、再度電解液に置換してCO生成電流密度(JCO)、H2生成電流密度(JH2)、CO選択率を測定した。結果を表1に示した。なお、CO生成電流密度(JCO)、H2生成電流密度(JH2)は、各実施例および比較例の評価時に装置から生成されるガス(CO、H2)をガスクロマトグラフィ(GC)測定装置に供給して測定した結果と、予め作成した検量線と、からそれぞれのガス濃度を求め、ファラデー定数から算出値である。検量線は、濃度が正確に分かっているCOおよびH2のガスボンベからそれぞれガスクロマトグラフィ(GC)測定装置に供給し、バリア放電イオン化検出器(BID)により、COおよびH2を検出し、得られたピーク面積とそれぞれのガスの濃度から検量線を作成した。
【0043】
【0044】
また、実施例1の固体電解質形電解装置を用い、350時間の長時間連続運転行ったのち、回復液に置換した時間を1時間とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、印加電圧を測定した結果を
図6に示した。この図から、長時間連続運転中は、析出塩の増加に伴い、セル電圧が上昇した。回復液使用後、セル電圧が低下した。セル電圧は、塩の析出で徐々に増大した。ここで陽極側の電解液を純水に1時間弱置換した。その結果、置換後、セル電圧が有意に回復したことが分かった。