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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145229
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】固体電解質形電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/23 20210101AFI20220926BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220926BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20220926BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20220926BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20220926BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20220926BHJP
【FI】
C25B9/23
C25B9/00 Z
C25B1/23
C25B13/02 302
C25B11/031
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046541
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA30
4K011BA07
4K011CA04
4K011DA11
4K021AA09
4K021BA02
4K021BB03
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC15
4K021EA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】固定電解質の酸化劣化を抑制し、装置寿命に優れた固体電解質形電解装置を提供する。
【解決手段】還元反応を行うカソードと、前記カソードと1対の電極を構成し、水または水溶液を用いた酸素生成反応を促進する電極材料(A)を有するアノードと、前記アノードと接触状態にて着設されて前記アノードと固体電解質とを隔離する保護層と、前記カソードと前記保護層との間に接触状態に着設される固体電解質と、を有する固体電解質形電解装置であって、前記電極材料(A)は、Ir、IrO、Ru、RuO、IrRuOのいずれかを含み、前記保護層は、複数の連続気孔を有する多孔質であり、前記多孔質は、M/Mの酸化電位が1V vs NHEより貴側である金属;Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moのいずれか1つまたは2種以上を含む合金;または電気伝導性化合物;である、固体電解質形電解装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応を行うカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成し、水または水溶液を用いた酸素生成反応を促進する電極材料(A)を有するアノードと、
前記カソードと接触状態にて着設される固体電解質層と、
前記アノードと前記固体電解質層との間に接触状態にて着設されて前記アノードと固体電解質とを隔離する保護層と、
を有する固体電解質形電解装置であって、
前記電極材料(A)は、Ir、IrO、Ru、RuO、IrRuOのいずれか1つまたは2種以上を含み、
前記保護層は、複数の連続気孔を有する多孔質であり、
前記多孔質は、M/Mの酸化電位が1V vs NHEより貴側である金属;Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moのいずれか1つまたは2種以上を含む合金;または電気伝導性化合物;であることを特徴とする、固体電解質形電解装置。
【請求項2】
前記多孔質の開孔率は、40~95%であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質形電解装置。
【請求項3】
前記保護層の厚みは、0.5~500μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体電解質形電解装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質形電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを利用した二酸化炭素還元の研究は世界中で広く行われている。二酸化炭素を還元する固体子電解質形電解装置では、陰極(以降、カソードと記載する場合がある)に供給される電解質を含んだ水溶液に二酸化炭素を溶解させるとともに、陽極(以降、アノードと記載する場合がある)に電解質を含んだ水溶液を供給する形が一般的である。一般に陰極と陽極との間にはイオンを交換するための電解質が設けられ、その部材としてはイオン交換膜が用いられることがある。このような固体電解質形電解装置として、特許文献1に開示されている二酸化炭素電解装置を挙げることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-154901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている二酸化炭素電解装置では、セパレータ(固体電解質)として用いられているイオン交換膜は陽極と陰極の間に配置されている。このような二酸化炭素電解装置の陽極では水溶液中の水を酸素に酸化する反応が起こる。しかしながら水は酸化されにくく、酸化反応を促進させるため、陽極において、高い酸化性能の触媒が用いられる。また二酸化炭素電解装置において、高い電解性能を引き出すためには、陽極がセパレータと接する必要があり、陽極による固体電解質の酸化が生じるおそれがあった。その結果、固体電解質が酸化により劣化され、二酸化炭素電解装置の電解効率(二酸化炭素の電解効率、一酸化炭素の生成効率)が低下したり、固体電解質が破損したりするなどの不具合が生じる可能性があった。そこで、本開示は、固体電解質形電解装置における固体電解質の酸化による劣化を抑制し、装置の長寿命化可能な固体電解質形電解装置を提供することを課題とする。
【0005】
本発明者らは、前記目的の実現に向け鋭意検討した結果、特定の電極材料(A)を有するアノードと、固体電解質の間に特定の多孔質層を含む保護層を設け、アノードと固体電解質を隔離することで、固体電解質の酸化劣化を抑制できることを見出し、本開示技術を完成させるに至った。即ち、本開示技術は以下の通りである。
【0006】
本開示技術の一態様によれば、
還元反応を行うカソードと、
前記カソードと1対の電極を構成し、水または水溶液を用いた酸素生成反応を促進する電極材料(A)を有するアノードと、
前記カソードと接触状態にて着設される固体電解質層と、
前記アノードと前記固体電解質層との間に接触状態にて着設されて前記アノードと固体電解質とを隔離する保護層と、
を有する固体電解質形電解装置であって、
前記電極材料(A)は、Ir、IrO、Ru、RuO、IrRuOのいずれか1つまたは2種以上を含み、
前記保護層は、複数の連続気孔を有する多孔質であり、
前記多孔質は、M/Mの酸化電位が1V vs NHEより貴側である金属;Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moのいずれか1つまたは2種以上を含む合金;または電気伝導性化合物;であることを特徴とする、固体電解質形電解装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、固定電解質の酸化劣化を抑制し、装置寿命に優れた固体電解質形電解装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置である。
図2】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置において、カソード表面に固体塩基を添加することで、局所的に効率よくCOを吸着できる様子を示した概念図である。
図3】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置を用いた合成ガス生成方法を示したフローチャートである。
図4】本開示における実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の用途例である。
図5】本開示における実施例及び比較例の電極性能維持率を示す評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示における固体電解質形電解装置について、図1図2を用いて具体的に説明する。なお、本開示にかかる技術は、以下で説明する該形態に限定されるものではない。また、本開示において、数値の記載に関する「~」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語である。
【0010】
≪固体電解質形電解装置100≫
図1を参照しながら、本実施形態にかかる固体電解質形電解装置(電解セル、電解モジュールとも称される)を説明する。図1に示すように、本実施形態にかかる固体電解質形電解装置100は、カソード(陰極)101と、前記カソード101と1対の電極を構成するアノード(陽極)102と、前記アノード102と接触状態にて着設される保護層108と、前記カソード101と前記保護層108との間に少なくとも一部が接触している状態にて着設する固体電解質103と、前記カソード101の前記固体電解質103との接触面101-1とは反対側の面101-2で接触している集電板104と、前記アノード102の前記保護層108との接触面102-2とは反対側の面102-1で接触している支持板105と、前記集電板104と前記支持板105との間(即ち、前記カソードと前記アノードとの間)に電圧を印加する電圧印加部106と、を有している。また、前記アノード102と、固体電解質103とは保護層108により隔離されている。更に、図示しない供給源及び供給装置によって、気相状態でのCOや、支持電解質を含む水溶液を供給することとしている。なお、図1に記載した固体電解質形電解装置100は、説明のためにカソード101やアノード102などの各部品を離した状態で図示しているが、実際には、集電板104、カソード101、固体電解質103、保護層108、アノード102、支持板105のそれぞれは所定の方法によって接着され、一体化して構成されている。各部品が、着脱可能に構成されて1つの固体電解質形電解装置100を構成していてもよい。以下、各構成要素を詳述する。
【0011】
<カソード101>
(カソード101での還元反応)
カソード101での還元反応は、固体電解質形電解装置100で用いる固体電解質103の種類によって変化する。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(1)と(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(3)と(4)の還元反応が起きる。
【0012】
(カソード101の基本構造・材質)
カソード101は、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、カーボン紙若しくは不織布、または金属メッシュ等、伝導性や多孔性を有する材料を含む。カソード101の電極材料(B)には、例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUSを挙げることができる。また、カソード101が有する、二酸化炭素(以降、COと記載する場合がある)を一酸化炭素(以降、COと記載する場合がある)に還元可能なカソードの触媒は、例えば、銀、金、銅またはそれらの組合せから選択される金属を含む。触媒は、より詳細には、例えば、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、または、それらのいずれか1種以上を含む混合金属を含む。触媒の種類は、触媒としての機能を有するものであれば特に限定されず、耐腐食性等を考慮して決定することができる。例えば、触媒が、Al、Sn、Zn等の両性金属を含まないことで、耐腐食性を向上させることができる。蒸着、析出、吸着、堆積、接着、溶接、物理混合、噴霧等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料(B))に対して、触媒を担持させることができる。
【0013】
(固体塩基107)
ここで、図2に示すようにカソード101は、固体塩基107を有する。固体塩基107としては、常温(25℃)で固体である塩基であれば特に限定されず、例えば、炭酸水素カリウム(KHCO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物{例えば、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸マグネシウム(MgCO)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ストロンチウム(SrO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH))、炭酸バリウム(BaCO)など}、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩{例えば、酸化イットリウム(Y)、酸化ランタン(La2)など}、ハイドロタルカイト(例えば、金属複合水酸、炭酸塩、LDH、HT-CO、HT-OHなど)、表面塩基処理したゼオライト、塩基処理したモレキュラーシーブ、表面塩基処理した多孔質アルミナ(KF-Al)などを用いることが好ましい。特に、原子番号の小さい弱塩基性の固体塩基がより好ましい。また、水不溶性の固体塩基であるアルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸物、希土類金属の酸化物、希土類金属の水酸化物または希土類金属の炭酸塩を用いることがガス中の水や反応で発生する水により流されず、固体塩基107を有するカソードとしての耐久性が低下しないため、更により好ましい。ここで、「水不溶性」とは、10mgが20℃の水100mLに溶解しないものをいう。なお、固体塩基107は、カソード101の、固体電解質103との接触面101-1側に存在することが好適である。このように構成する理由は、カソード101と固体電解質103との界面が反応サイトであるからである。また、固体塩基107は、カソード101の材料との混合物として存在しても良く、また、化合物として一体化された状態で存在してもよい。塗布、蒸着、析出、物理混合等の公知の方法を実施することで、カソード101(乃至は電極材料(B))に対して固体塩基107を担持させることができる。固体塩基の単位面積あたりの質量は、特に限定されないが、例えば、0.1~10mg/cm、好ましくは0.1~6mg/cmである。
【0014】
ここで、固体塩基107を用いると効率が上がる理由については、以下の作用機序が推定される。まず、例えば、工場における排出ガスといったような含有濃度が10~20%となる低濃度COガスを固体電解質形電解装置100に供給した場合、COが低濃度であるが故にカソード101表面に吸着されにくい。そこで、図2に示すように、カソード101表面に固体塩基107を添加することで、固体塩基が存在している箇所に対して局所的に効率よくCOを吸着でき、CO還元を進行させることができると理解される。また、固体電解質103として陽イオン交換膜を採用した場合、カソード101表面にHが多いと、COが十分に吸着できないと理解される。この際、固体塩基107が存在すると反応が進行すると考えられる(例えば上述した水不溶性の固体塩基を用いた場合にはpH>2となるようにpHを制御することが好ましい)。他方、固体電解質として陰イオン交換膜を採用した場合、カソード表面にOHが存在しているため、COが吸着され、CO還元には適している。しかし、OHが多すぎると安定なCO 2-で吸着されてしまい、CO還元反応が十分に進まないと理解される。この際、強塩基性の固体塩基よりも弱塩基性の固体塩基107が存在すると、CO還元反応がより進行すると考えられる(例えば上述した水不溶性の固体塩基を用いた場合にはpH<12となるようにpHを制御することが好ましい)。本開示において、このような固体塩基及び触媒を有する電極を、「触媒と、触媒を有する電極材料と、少なくとも電極材料に設けられた固体塩基と、を有する電極」(換言すれば、触媒及び固体塩基を有する電極材料、を有する電極)、または、「触媒を有し、固体塩基を更に有するカソード」等と表現することができる。
【0015】
<アノード102>
(アノード102での酸素生成反応)
アノード102での水または水溶液を用いた酸素生成反応は、固体電解質形電解装置100で用いる固体電解質103の種類によって変化する。固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(5)の酸化反応が起き、固体電解質103として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(6)の酸化反応が起きる。
【0016】
(アノード102の基本構造・材質)
アノード102は、多孔質基板を含む多孔質電極である。多孔質基板は、例えば、金属製またはカーボン製メッシュ、不織布を含む。アノード102の電極材料(A)は、例えば、Ir、IrO、Ru、RuO、IrRuOのいずれかを含む。これらの電極材料は、アノード102における水または水溶液を用いた酸素生成反応を促進することができる。
【0017】
<保護層108>
保護層108は、アノード102と固体電解質103との間に接触状態にて介在する。また、保護層108は、アノード102と固体電解質103とを離隔する。更に、保護層108は、複数の連続気孔を有する多孔質である。ここで連続気孔は、保護層108の一方の面と、他方の面とに通じている孔であればよく、パンチ穴のような貫通孔、メッシュ、不織布が有する通気構造を含む。また、保護層108の開孔率は、特に限定されないが、例えば、40~95%とすることができ、50~80%が好ましい。これにより、保護層108は、水酸化イオンや原料となるガスや液体などを通過することが可能となる。ここで開孔率は、保護層の表面を走査型電子顕微鏡で撮影し、その画像の観察面積に対する、画像表面における、すべての孔部面積の割合を、市販のソフトを用いて算出する。
このような保護層108を設けることで、アノード102における酸素生成反応の影響から固体電解質103の酸化劣化を抑制することが可能となり、装置寿命の長い固体電解質形電解装置100を提供することができる。また、固体電解質103の性能の低下が抑制できることから、電解効率の低下の抑制ができ、メンテンナンスの時間の短縮による稼働率の向上できる固体電解質形電解装置100の提供が可能となる。
【0018】
保護層108の材質は、(1)M/Mの酸化電位が1V vs NHEより貴側である金属、(2)Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moのいずれか1つまたは2種以上を含む合金、(3)電気伝導性化合物である。
ここで、(1)M/Mの酸化電位が1V vs NHEより貴側である金属は、いわゆる酸化されにくい金属を示しており、例えば、Pt、Au、Ru、Pd、Rh、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moなどの金属を挙げることができる。ここで、Mは、金属イオンを、Mは金属を示し、M/Mは金属イオンと金属の酸化還元反応が平衡に達している状態下の電極電位のことを示している。1V vs NHEとは、水素標準電極を用いて測定した電極電位が1Vであることを示している。
また、(2)Fe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Ta、Nb、Zr、W、Moのいずれか1つまたは2種以上を含む合金は、不動態を形成しやすい合金を示しており、これらの合金は、表層が容易に酸化された後は、表面に不動態が形成され、それ以上酸化され難い合金である。
また、(3)電気伝導性化合物は、電気伝導性の、ガラス、セラミック及び炭素材料を含み、例えば、ITO、FTO、AZO、IGZOなどの電気伝導性セラミック;電気伝導性ガラス;グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブなどの電気伝導性炭素材料;などを挙げることができる。ここで本開示における電気伝導性とは、導電率が1×10-9S/cm以上であることをいう。
【0019】
保護層108の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5~500μmであり、1~100μmが好ましい。保護層の厚みが、かかる範囲にある場合には、固体電解質103の酸化劣化を抑制できる。
【0020】
<固体電解質103>
固体電解質103は、カソード101と保護層108との間に接触状態にて介在する。ここで、固体電解質103は、特に高分子膜に限定される訳ではないが、陽イオン交換膜または陰イオン交換膜が好適であり、陰イオン交換膜がより好適である。陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion117、Nafion115、Nafion212やNafion350(デュポン社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、またはネオセプタCMX(徳山曹達社製)等を用いることができる。また、陰イオン交換膜としては、例えば、第四級アンモニウム基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、更にこれらのイオン交換基が複数混在した陰イオン交換膜が挙げられる。具体例としては、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、AMX、ACS、AFN、AFX(トクヤマ社製)、セレミオン(登録商標) AMV、AMT、DSV、AAV、ASV、AHO、AHT、APS4(旭硝子社製)等を用いることができる。
【0021】
<集電板104>
集電板104としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。負極集電板の形状は、集電板104が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
【0022】
ここで、図1に示すように、集電板104には、カソード101にガス(原料ガスや生成ガス)を供給及び回収するためのガス供給孔104-1及びガス回収孔104-2が設けられている。当該ガス供給孔104-1及び当該ガス回収孔104-2により、カソード101に均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することが可能となる。なお、当該図では、ガス供給孔及びガス回収孔がそれぞれ1個ずつ設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。加えて、集電板104が通気性のあるものである場合には、ガス供給孔及びガス回収孔は必ずしも必要無い。
【0023】
なお、カソード101が電子を伝達する役割を持っている場合には、集電板104は必ずしも必要無い。
【0024】
<支持板105>
支持板105は、アノード102を支持する役割を果たす。したがって、アノード102の厚み・剛性等により、求められる支持板105の剛性も変わる。また、当該支持板105は、アノード102からの電子を受け取るべく、電気伝導性を有している必要がある。支持板105の材料としては、例えば、Ti、SUS、Niを挙げることができる。
【0025】
ここで、図1に示すように、支持板105には、アノード102に酸化反応の原料(HO等)を送り込むための流路105-1が設けられている。当該流路により、アノード102に均一且つ効率よく酸化反応の原料(ガスや液体)を送り込むことが可能となる。なお、当該図では、9個の流路が設けられているが、その数・場所・大きさは限定されず、適宜設定される。
【0026】
なお、本形態では、アノード102と支持板105を別体のものとして説明したが、アノード102と支持板105とが一体構造であってもよい(即ち、支持機能を持った、一体型アノードとして構成してもよい)。
【0027】
<電圧印加部106>
電圧印加部106は、図1に示すように、集電板104と支持板105に電圧を印加することを通じ、カソード101とアノード102との間に電圧を印加する役割を担う。ここで、前記のように、集電板104は導電体であるため、カソード101に電子を供給する一方、支持板105も導電体であるため、アノード102からの電子を受け取ることになる。なお、前記のように集電板104が必要無い場合においては、カソード101と支持板105との間に電圧は印加される。また、電圧印加部106には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0028】
<反応ガス供給部>
本開示における固体電解質形電解装置100には、図示しない反応ガス供給部が、固体電解質形電解装置100の外側に備えられていてもよい。すなわち、面101-2に反応ガスであるCOが供給されればよく、図示しない配管などを介して反応ガス供給部からガス供給孔104-1に反応ガスが供給されてもよいし、集電板104の、カソード101との接触面104-Bとは反対側の面104-Aに反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。また、この反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスを用いることが、環境面から好適である。
【0029】
≪CO生成方法≫
次に、上述した固体電解質形電解装置100を用いたCO生成方法について、図3を用いて説明する。
【0030】
<反応ガス供給工程S301>
まず、図示しない反応ガス供給部によって、原料としての反応ガスであるCOが気相状態にて固体電解質形電解装置100へ供給される。このとき、COは集電板104に設けられたガス供給孔104-1を介してカソード101に供給される(S301)。
【0031】
<CO,H生成工程S302>
次に、カソード101に供給されたCOは、カソード101表面において、還元反応により、固体電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(1)及び式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(3)及び式(4)の還元反応が起きることで、COとHを少なくとも含んだ合成ガスを生成する(S302)。
【0032】
<生成ガス回収工程S303>
次に、生成されたCOとHを含んだ合成ガスは、集電板104に設けられたガス回収孔104-2を介して図示しないガス回収装置に送られ、所定のガス毎に回収されることとなる(S303)。
【0033】
≪用途≫
図4に示すように、上述したような本開示にかかる固体電解質形電解装置に対して、例えば工場より排出されたCOガスを原料として、電圧印加部106への太陽電池等の再生可能エネルギーを利用することで、所望の生成割合による少なくともCOとHを含有した合成ガスを生成することが可能となる。このようにして生成された合成ガスは、FT合成やメタネーション等の手法により燃料基材や、化学品原料を生成することができる。
【実施例0034】
以下に、上述した本実施形態を用いた場合の実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0035】
以下の部材を用いて、固体電解質形電解装置を組み立てた。カソードは導電性を有するカーボンブラックと、銀ナノ触媒を混合したものをカーボン紙に付着してカソードとして用いた。アノードは酸化イリジウムを担持したチタンメッシュを用いた。固体電解質としては、塩基点密度が1.0mmol/cmであるアイオノマー製のフッ素樹脂系アイオノマー(第1級アミノ基)の陰イオン交換膜を用いた。また、電解質溶液(電解液)として、0.5M KHCO水溶液を用いた。また、実施例として保護層として、チタンメッシュ(厚さ100μm、開口率83%)を用い、比較例としては保護層を用いずに評価を行った。評価は、カソードの印加電圧をアノード電極に対して、-3.5Vとして、固体電解質形電解装置を稼働させ、CO還元反応を発生させた。CO還元反応を継続させ、CO発生量の経時変化を測定した。初期のCO発生量を100%とし、測定時のCO発生量を初期のCO発生量で除した数値を電極性能維持率として評価した。実施例及び比較例の電極性能維持率の測定結果を図5に示した。その結果、比較例の固体電解質形電解装置では、急速に電極性能が低下し、約20時間を超えると酸化劣化が激しく固体電解質が破れてしまいデータ取得できないのに対し、実施例の電極性能は極わずかな劣化が認められるだけで本開示技術の効果である装置の長寿命化の効果を得られていることが把握できる。
【符号の説明】
【0036】
100 固体電解質形電解装置
101 陰極(カソード)
101-1 陰極の固体電解質と接する面
101-2 陰極の集電板と接する面
102 陽極(アノード)
102-1 陽極の支持板と接する面
102-2 陽極の固体電解質と接する面
103 固体電解質
104 集電板
104-1 集電板のガス供給孔
104-2 集電板のガス回収孔
105 支持板
105-1 支持板の原料流路
106 電圧印加部
107 固体塩基
108 保護層

図1
図2
図3
図4
図5