(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145247
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】GaAsウエハの製造方法およびGaAsウエハ群
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220926BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01L21/304 601B
H01L21/304 631
H01L21/304 611W
B24B1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046569
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 淳二
【テーマコード(参考)】
3C049
5F057
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AC02
3C049CA05
3C049CB01
5F057BA01
5F057BB07
5F057CA02
5F057CA09
5F057CA22
5F057DA11
5F057DA15
5F057DA20
5F057GB30
(57)【要約】
【課題】オフ角を有するGaAsウエハにおいても、優れたOF方位安定性を有するGaAsウエハの製造方法およびGaAsウエハ群を提供する。
【解決手段】GaAsインゴットの周面に、仮のオリエンテーションフラットの形成を含む研削を行う研削工程と、前記研削工程を経たGaAsインゴットにスライス加工を施してオフ角を有する素材ウエハを切り出すスライス工程と、前記素材ウエハに、前記仮のオリエンテーションフラットを基準にして定めるオリエンテーションフラットの向きに従って罫書きを施し、該罫書きを起点として前記素材ウエハの周面まで延びる劈開を行って、オリエンテーションフラットを形成する劈開工程と、を含み、前記劈開工程は、前記劈開の中点から前記素材ウエハの半径方向外側に向かって前記素材ウエハの周面まで垂直に延ばした線分の長さ(間隔A)が9mm以上である位置に劈開を行う工程である、GaAsウエハの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAsインゴットの周面に、仮のオリエンテーションフラットの形成を含む研削を行う研削工程と、
前記研削工程を経たGaAsインゴットにスライス加工を施してオフ角を有する素材ウエハを切り出すスライス工程と、
前記素材ウエハに、前記仮のオリエンテーションフラットを基準にして定めるオリエンテーションフラットの向きに従って罫書きを施し、該罫書きを起点として前記素材ウエハの周面まで延びる劈開を行って、オリエンテーションフラットを形成する劈開工程と、を含み、
前記劈開工程は、前記劈開の中点から前記素材ウエハの半径方向外側に向かって前記素材ウエハの周面まで垂直に延ばした線分の長さ(間隔A)が9mm以上である位置に劈開を行う工程である、
GaAsウエハの製造方法。
【請求項2】
前記間隔Aが12mm以上である、
請求項1に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項3】
前記オフ角が0.2°以上である、
請求項1または2に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項4】
前記GaAsウエハの主面と前記オリエンテーションフラットを形成する面との成す角度が89.8°以下または90.2°以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項5】
前記GaAsウエハの直径が100mm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項6】
前記GaAsウエハの直径が150mm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項7】
前記劈開工程の後に、さらに前記オリエンテーションフラット以外の前記GaAsウエハの周面をべべリングするべべリング工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【請求項8】
同一のGaAsインゴットから得られる同一のオフ角を有する複数のGaAsウエハによって構成され、オリエンテーションフラットの劈開工程を経た全てのオリエンテーションフラットを有するGaAsウエハによって構成されるGaAsウエハ群であって、
前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の平均値が±0.010°以内および前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の標準偏差が0.009°以下である、
GaAsウエハ群。
【請求項9】
前記オフ角が0.2°以上である、請求項8に記載のGaAsウエハ群。
【請求項10】
前記GaAsウエハの主面と前記オリエンテーションフラットを形成する面との成す角度が89.8°以下または90.2°以上である、請求項8または9に記載のGaAsウエハ群。
【請求項11】
前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の平均値が±0.010°以内および前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の標準偏差が0.005°以下である、
請求項8~10のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【請求項12】
前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度が±0.020°以内である、
請求項8~11のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【請求項13】
前記GaAsウエハの直径が、全て100mm以上である、
請求項8~12のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【請求項14】
前記GaAsウエハの直径が、全て150mm以上である、
請求項8~12のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAsウエハの製造方法およびそれにより得られるGaAsウエハ群に関し、特にオフ角を有するGaAsウエハにおいてオリエンテーションフラットを形成するGaAsウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウエハの周面には、ウエハの結晶方位または表裏を示すオリエンテーションフラット(以下、OFとも示す)が形成され、半導体素子を製造する際に、半導体ウエハの配置方向やダイシング方向を検知する目印として利用される。通常、オリエンテーションフラットは単結晶のインゴットを円筒研削した後で、X線装置を用いて方位を確定し、平面研削することにより形成する。その後、平面研削された単結晶のインゴットをスライス加工することにより、オリエンテーションフラットが付けられた半導体ウエハを得る。
【0003】
ここで、オリエンテーションフラットの面を共振ミラーに利用する半導体レーザを製造する場合や、半導体ウエハ上に高密度に製造された素子をチップ加工する場合などに、基準となるオリエンテーションフラットが所望の結晶方位に準じて高精度に形成されていることが求められる。このようにOF方位を精度よく形成する方法として、特許文献1には、仮のオリエンテーションフラットが形成された半導体ウエハの片面に、該仮のオリエンテーションフラットと略平行に罫書きを形成し、劈開治具の端部外周に開口する溝に、前記仮のオリエンテーションフラットと前記罫書きの間にある半導体ウエハの部分を差し込み、前記仮のオリエンテーションフラットに平行な軸を中心に前記劈開治具を回転させることにより、前記罫書きを起点に半導体ウエハを劈開させてオリエンテーションフラットを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ウエハ表面へエピタキシャル成長層を形成する場合に、良好な結晶性が得られることなどから、オフ角(off角)を有するウエハが使用されている。オフ角は、GaAsの結晶構造(閃亜鉛鉱型構造)でエピタキシャル成長面として利用される結晶方位(例えば(100)面など)に対して、ウエハ表面の結晶方位が傾いている角度を示すものである。オフ角がないウエハではウエハ表面に対しOF面は垂直であるが、オフ角を有するウエハではウエハ表面に対しOF面は(特定の場合を除き)垂直ではない。このオフ角を有するウエハは、オフ角を持たないウエハに比し、オリエンテーションフラットの方位精度を担保するのが難しいところに問題があった。すなわち、一定のオフ角を有するウエハ、とりわけGaAsウエハにおいては、上記した特許文献1に記載の技術を含めた従来の手法によって、高精度でオリエンテーションフラットを安定して形成することが困難であった。従来の手法では、ウエハ相互間でのオリエンテーションフラットの方位精度にバラツキが生じるため、例えば同一のGaAsインゴットから切り出す複数のGaAsウエハ群とした場合に、このGaAsウエハ群にオリエンテーションフラットの方位精度の低いウエハ含まれることが不可避であり、GaAsウエハ群としての製品歩留まりが悪いことが問題であった。また、近年では、LD(Laser Diode)素子等の製造に用いられるGaAsウエハの大口径化が進んでおり、特にそのような大口径ウエハを製造する際は、オフ角を有する場合のオリエンテーションフラットの方位精度が良くなかった。
【0006】
そこで本発明は、オフ角を有するGaAsウエハに対しても、所期したOF方位が精度良く現出し、かつ同一GaAsインゴット内でのウエハ相互間におけるOF方位精度のバラつきを小さくできる、すなわちOF方位安定性に優れたGaAsウエハ群の提供に寄与する、GaAsウエハの製造方法およびGaAsウエハ群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0009】
(1)GaAsインゴットの周面に、仮のオリエンテーションフラットの形成を含む研削を行う研削工程と、前記研削工程を経たGaAsインゴットにスライス加工を施してオフ角を有する素材ウエハを切り出すスライス工程と、前記素材ウエハに、前記仮のオリエンテーションフラットを基準にして定めるオリエンテーションフラットの向きに従って罫書きを施し、該罫書きを起点として前記素材ウエハの周面まで延びる劈開を行って、オリエンテーションフラットを形成する劈開工程と、を含み、前記劈開工程は、前記劈開の中点から前記素材ウエハの半径方向外側に向かって前記素材ウエハの周面まで垂直に延ばした線分の長さ(間隔A)が9mm以上である位置に劈開を行う工程である、GaAsウエハの製造方法。
【0010】
(2)前記間隔Aが12mm以上である、前記(1)に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0011】
(3)前記オフ角が0.2°以上である、前記(1)または(2)に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0012】
(4)前記GaAsウエハの主面と前記オリエンテーションフラットを形成する面との成す角度が89.8°以下または90.2°以上である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0013】
(5)前記GaAsウエハの直径が100mm以上である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0014】
(6)前記GaAsウエハの直径が150mm以上である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0015】
(7)前記劈開工程の後に、さらに前記オリエンテーションフラット以外の前記GaAsウエハの周面をべべリングするべべリング工程を含む、前記(1)~(6)のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。
【0016】
(8)同一のGaAsインゴットから得られる同一のオフ角を有する複数のGaAsウエハによって構成され、オリエンテーションフラットの劈開工程を経た全てのオリエンテーションフラットを有するGaAsウエハによって構成されるGaAsウエハ群であって、前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の平均値が±0.010°以内および前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の標準偏差が0.009°以下である、GaAsウエハ群。
【0017】
(9)前記GaAsウエハのオフ角が0.2°以上である、前記(8)に記載のGaAsウエハ群。
【0018】
(10)前記GaAsウエハの主面と前記オリエンテーションフラットを形成する面との成す角度が89.8°以下または90.2°以上である、前記(8)または(9)に記載のGaAsウエハ群。
【0019】
(11)前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の平均値が±0.010°以内および前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度の標準偏差が0.005°以下である、前記(8)~(10)のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【0020】
(12)前記GaAsウエハ群のオリエンテーションフラット方位精度が±0.020°以内である、前記(8)~(11)のいずれか1項に記載のGaAsウエハ群。
【0021】
(13)前記GaAsウエハの直径が、全て100mm以上である、前記(8)~(12)のいずれか1項に記載のオリエンテーションフラットを有するGaAsウエハ群。
【0022】
(14)前記GaAsウエハの直径が、全て150mm以上である、前記(8)~(12)のいずれか1項に記載のオリエンテーションフラットを有するGaAsウエハ群。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オフ角を有するGaAsウエハに対しても、所期したOF方位が精度良く現出し、かつ同一GaAsインゴット内でのウエハ相互間におけるOF方位精度のバラつきを小さくできる、すなわちOF方位安定性に優れたGaAsウエハ群の提供に寄与する、GaAsウエハの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、OF方位精度の平均値およびOF方位精度の標準偏差がともに小さい、GaAsウエハ群を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】GaAsウエハの主面とオリエンテーションフラットを形成する面(OF面)との成す角を説明する図である。
【
図3】本実施例における罫書きと劈開を説明する図である。
【
図4】GaAsウエハの周面とオリエンテーションフラットとの距離(間隔A)を説明する図である。
【
図5】本実施例におけるOF方位精度の測定の様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。また、
図2~5では図面の簡略化のため、各構成の大きさ(長さ、厚さ)については実際の大きさの割合と異なり、誇張して示している部分もある。
【0026】
図1に示す製造フローを参照しつつ、本発明の一実施形態に従うGaAsウエハの製造方法を説明する。この製造方法は、GaAsインゴットの周面に、仮のオリエンテーションフラットの形成を含む研削を行う研削工程と、研削工程を経たGaAsインゴットにスライス加工を施してオフ角を有する素材ウエハを切り出すスライス工程と、素材ウエハに、仮のオリエンテーションフラットを基準にして定めるオリエンテーションフラットの向きに従って罫書きを施し、該罫書きを起点として素材ウエハの周面まで延びる劈開を行って、劈開の中点から素材ウエハの半径方向外側に向かって素材ウエハの周面まで垂直に延ばした線分の長さ(間隔A)が9mm以上である位置に、オリエンテーションフラットを形成する劈開工程と、を少なくとも含む。以下、各工程の詳細を順次説明する。また、
図2ではGaAsウエハの主面とオリエンテーションフラットとの成す角度について、
図3では実際のオリエンテーションフラットの形成方法について、
図4では本発明で定義する、劈開の中点からウエハ周面までの距離(間隔A)について説明する。さらに
図5において本発明におけるOF方位精度の測定方法について示す。
【0027】
(研削工程)
まず、任意の方法で作製されたGaAsインゴットの周面を研削して凹凸を整えると同時に、GaAsインゴットの周面に、例えば結晶方位を示す仮のオリエンテーションフラットを形成する。研削方法は特に限定されないが、周面の研削には円筒研削盤を用いた円筒研削等の手法を用いることができ、仮のオリエンテーションフラットの形成には円筒研削盤を用いたトラバース研削等の手法を用いることができる。
【0028】
<GaAsインゴット>
GaAsウエハを得るためのGaAsインゴットとしては、引き上げ(LEC)法、横型ボート(HB)法、縦型温度傾斜(VGF)法および縦型ブリッジマン法(VB)法等の任意の製造方法により得られた単結晶GaAsインゴットを用いることができる。GaAsインゴットの径は限定されないが、本発明では、素材ウエハの周面から一定の間隔を隔ててオリエンテーションフラットを形成するため、最終的に得られる所望のGaAsウエハの直径に対して10mm以上大きいことが好ましい。
【0029】
<仮のオリエンテーションフラット>
仮のオリエンテーションフラットは、オリエンテーションフラットの設定方位に対して、相対的な位置の指標となればよい。従って、方位は特に限定されないが、オリエンテーションフラットの設定方位に対して平行または垂直の方位に形成することが好ましい。
【0030】
(スライス工程)
上記研削工程で仮のオリエンテーションフラットを形成したGaAsインゴットに対して、ワイヤーソー等のスライサーによって複数の素材ウエハを切り出す。このとき、単結晶の成長方向に対して、一定のオフ角を有し、かつ、切り出すウエハ間においては同一のオフ角を有するようにスライスを行う。なお、オフ角は、ウエハの半導体部品への用途などに応じて、任意に設定することができる。また、ここで言う「同一のオフ角」とは、製造工程上不可避な誤差をはじめ、本発明の作用効果を奏する範囲で許容される誤差を含むものとする。
【0031】
<オフ角>
上述のとおり、オフ角の角度は特に限定されないが、例えばGaAsウエハを積層基板の下地として用いる場合に、その上部に成長させる層の結晶性を良好にするためには、オフ角は0.2°以上が好ましく、1°以上がより好ましく、また15°以下が好ましい。ここでオフ角の向きは、オリエンテーションフラットと水平以外の向きに形成する(ウエハの主面とOF面との成す角度が90°にならない向きにする)ものであれば特に限定されない。例えば、
図2に示すようにOF面が(0-1-1)面の場合、(100)面を(011)に向けて傾斜(すなわち(100)面に直交する垂線<100>を<011>方向に向かって傾斜)させたオフ角を有しても良く、(0-1-1)面に向けて傾斜(すなわち(100)面に直交する垂線<100>を<0-1-1>方向に向かって傾斜)させたオフ角を有しても良い。そして
図2において、OF面が(0-1-1)面の場合に、例えば(100)面を(0-11)や(01-1)に向けて傾斜させたオフ角を有した場合、オフ角に関わらずウエハの主面とOF面との成す角度は90°のままであるため、オフ角の向きをオリエンテーションフラットと水平の向きとすることは除外する。OF面が(0-1-1)面以外の面の場合も同様である。ちなみに、一定のオフ角を有するようにスライスされた素材ウエハは、切り出す前のGaAsインゴットにおける水平面での断面の形状とは異なり、厳密には楕円形状となる。しかし、通常用いられるウエハサイズおよびオフ角においては、オフ角を有しないで切り出した素材ウエハと比較しても、規格に影響する程のサイズ差は生じない。
【0032】
<GaAsウエハの主面と前記オリエンテーションフラットを形成する面との成す角度>
GaAsウエハの主面とオリエンテーションフラットを形成する面(以下、OF面とも示す)との成す角度とは、
図2に示すように、GaAsウエハの主面をxy平面とし、主面鉛直方向をz軸としたとき、OF面をy軸と平行に取った場合のxz断面におけるのGaAsウエハの主面とOF面との成す角度である。例えば、OF面が(0-1-1)面の場合に上記オフ角が(100)面から(011)に向けて0.2°の角度である場合に、この角度は89.8°となり、オフ角を(0-1-1)面に向けて傾斜させた場合は90.2°となる。この角度はオフ角に起因して形成される角度であり、90°以外の角度であり、75.0°以上89.8°以下であることが好ましく、また90.2°以上105.0°以下であることが好ましい。さらに、75.0°以上89.0°以下または91.0°以上105.0°以下であることがより好ましい。
図2(A)はオフ角がない場合(justとも記載する)にウエハの主面とOF面とが成す角度が90°となることを示し、
図2(B)は(011)に向けて3°のオフ角がある場合にウエハの主面とOF面とが成す角度が87°(オフ角を(0-1-1)面に向けて傾斜させた場合は93°)となることを示す。そして、このウエハ主面とOF面との成す角度が90°から離れるほど、オリエンテーションフラットの方位安定性が悪くなるのがこれまでの技術常識であったところ、本発明の製造方法を用いることで優れた方位安定性を有するオリエンテーションフラットを形成することができるようになる。OF面が(0-1-1)面以外の面の場合も同様である。
【0033】
(劈開工程)
次に、上記の素材ウエハにオリエンテーションフラットを形成する。すなわち、
図3に示すように、素材ウエハ100に仮のオリエンテーションフラット110を基準にして劈開を誘導する罫書き150を施し、その罫書き150を起点として素材ウエハ100を劈開させることによりオリエンテーションフラット120を形成する。ここで、罫書き150を形成する方位は仮のオリエンテーションフラット110との相対的な位置関係をもとに決定すればよく、(0-1-1)、(0-11)、(01-1)、(011)等いずれの方位でもよく、またその他の方位であってもよい。具体的には、罫書き150を形成した後、罫書き150の線を広げる向きに力を加えることで、罫書き150を起点として劈開が伝播して劈開面が形成され、オリエンテーションフラット120が形成される。このとき、劈開の中点から素材ウエハ100の半径方向外側に向かって前記素材ウエハ100の周面まで垂直に延ばした線分の長さが9mm以上となるように罫書き150を形成する。実際の作業工程においては、
図4(A)に示す、仮のオリエンテーションフラット110とオリエンテーションフラット120が並行である方が作業者にとって分かりやすい。一方、
図4(B)に示す、仮のオリエンテーションフラット110とオリエンテーションフラット120が90°の位置関係にある場合には、べべリングにより研削する領域を小さくすることができる。なお、劈開工程における罫書きの形成および劈開は任意の器具または製造装置を用いて実施することができる。
【0034】
<間隔A>
本発明における間隔Aについて、
図4(A)および
図4(B)を例示して説明する。まず、
図4(A)のように、仮のオリエンテーションフラット110に対して平行な方位にオリエンテーションフラット120を形成する場合には、劈開の中点から前記素材ウエハ100の半径方向外側に向かって素材ウエハ100の周面まで垂直に延ばした線分の長さは、仮のオリエンテーションフラット110からオリエンテーションフラット120に下した垂線の長さとなる。また、
図4(B)のように仮のオリエンテーションフラット110に対して垂直な方位にオリエンテーションフラット120を形成する場合には、劈開を弦としたときの矢高が、劈開の中点から素材ウエハ100の半径方向外側に向かって素材ウエハ100の周面まで垂直に延ばした線分の長さとなる。
【0035】
この間隔Aを9mm以上とすることで、オリエンテーションフラットが形成される面に比較的均一なひずみが生じるため、罫書きを起点として劈開が伝播して形成される破断面は、結晶面に沿って形成される。間隔Aが大きいほどOF方位精度は安定するため、12mm以上とすることが好ましい。また、ウエハを有効利用する観点から、間隔Aは30mm以下とすることが好ましく、25mm以下とすることがさらに好ましい。一方、間隔Aが9mmよりも小さいと、劈開予定面において、オリエンテーションフラットが形成される面に比較的均一なひずみを生じさせることが難しく、劈開の伝播する方向が定まりにくいため、形成される破断面はOF方位精度の悪いオリエンテーションフラットとなる。
【0036】
(べべリング工程)
オリエンテーションフラットを形成された素材ウエハは、その周面に回転砥石を用いるべべリングを施して、ウエハエッジを研削してエッジを整形してもよい。べべリングすることにより、ウエハの周面に面取り加工を施して、以後のプロセスでの割れを防止するとともに、ウエハの直径を所定の大きさに成形することができる。また、本発明において劈開により形成するオリエンテーションフラットは、所期した結晶面が精度よく露出しているため、べべリングは避ける必要がある。
【0037】
以上の工程を経て作製されるGaAsウエハは、用途は特に限定されないが、各種の電子デバイスや発光素子、LD(Laser Diode)素子等の製造に用いることができるよう、直径が100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがさらに好ましい。特に、150mm以上のときはオリエンテーションフラットについて優れたOF方位精度を得ることが困難であったが、本発明では高いOF方位精度を得ることができる。そして、劈開工程において結晶面に沿ってオリエンテーションフラットが正しく形成されるため、このオリエンテーションフラットは優れたOF方位精度を有するものとなる。従って、この製造方法に従って同一のGaAsインゴットから切り出した全ての素材ウエハを処理することによって、GaAsウエハ群として得られる、同一のGaAsインゴットから作製され、劈開工程を経た全てのGaAsウエハにおいて、OF方位精度の平均値が±0.010°以内であり、OF方位精度の標準偏差が0.009°以下となる。
【0038】
次に、上記製造方法を用いて得られるGaAsウエハ群について説明する。
【0039】
本発明によるGaAsウエハ群は、同一のGaAsインゴットから得られる同一のオフ角を有するGaAsウエハによって構成され、オリエンテーションフラットの劈開工程を経た全てのオリエンテーションフラットを有するGaAsウエハによって構成される。前記GaAsウエハ群のOF方位精度の平均値は±0.010°以内であって、前記GaAsウエハ群のOF方位精度の標準偏差は0.009°以下である。また、GaAsウエハのオフ角の角度は特に限定されないが、例えばGaAsウエハを積層基板の下地として用いる場合に、その上部に成長させる層の結晶性を良好にするためには、オフ角は0.2°以上が好ましく、1°以上がより好ましく、また15°以下が好ましい。そして、GaAsウエハの主面とOF面との成す角度は89.8°以下または90.2°以上であることが好ましい。本発明によるGaAsウエハ群は、用途は特に限定されないが、各種の電子デバイスや発光素子、LD(Laser Diode)素子等の製造に用いることができるよう、直径が100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがさらに好ましい。
【0040】
<OF方位精度およびその標準偏差>
本明細書におけるOF方位精度とは、オリエンテーションフラットを形成する予定だった結晶面からのズレをX線回折手法により角度(°)として表したものである。このとき、1つのウエハにおいては、後述の実施例および
図5で示す通り、オリエンテーションフラットの所定の3か所(オリエンテーションフラットの中央部と、中央部からOF全長の30%~46%程度離れた位置)でOF方位精度を測定した。さらに、複数のウエハにおける全ての測定値について標準偏差を求めた。以下の実施例ではインゴットから均等間隔に抜き出した代表する複数のウエハについて測定しているが、GaAsウエハ群のOF方位精度の測定では同一のGaAsインゴットにおいてオリエンテーションフラットの劈開工程を経ている全てのGaAsウエハについて測定することが好ましい。GaAsウエハ群におけるOF方位精度の測定は50枚以上のウエハにおいて実施することが好ましい。以上のOF方位精度およびその標準偏差は、上記した本発明の製造方法に従って作製されるGaAsウエハ群において、OF方位精度(全ての測定値)の平均値が±0.010°以内およびOF方位精度の標準偏差が0.009°以下である。OF方位精度の標準偏差は0.005°以下であることがより好ましい。OF方位精度の標準偏差が小さいほど、インゴット内でのウエハ相互間におけるOF方位精度のバラつきが小さく、OF方位精度が±0.020°を超える測定箇所が発生する可能性は低くなる。
【0041】
ここに、OF方位精度が良好ではない場合、ウエハを加工して半導体部品を製造する場合にもそのOF方位精度が反映されてしまう。半導体装置に関する標準規格の一つであるSEMI規格で要求される全数のOF方位精度は±0.5°となっているが、劈開によってオリエンテーションフラットを形成する場合はより厳しい基準値が要求されており、本発明者の知見としては、±0.020°以内という基準値が必要となっている。また、同一のGaAsインゴットから作製される複数のウエハにおいては、OF方位精度が良好でないウエハも少なからず作製されてしまうため、上記基準に適合するウエハの製品歩留まりも重要な指標となる。上記のような理由から、本発明のGaAsウエハ群においては、OF方位精度の平均値が±0.010°以内およびOF方位精度の標準偏差が0.009°以下であることが要求される。そして、OF方位精度の各測定値の平均値に対する標準偏差(σ)の2倍の範囲(平均値-2σから平均値+2σまで)が±0.020°以内に収まるようにすることが好ましい。各測定値の平均値に対する標準偏差の2倍の範囲が±0.020°以内であれば、OF方位精度のバラつきが少なく±0.020°以内という基準値に対して歩留まりが良くなり、製品にできないウエハを減らすことができる。そのためには、GaAsウエハ群のOF方位精度の平均値が±0.010°以内およびOF方位精度の標準偏差が0.005°以下であることがより好ましい。
【実施例0042】
以下、実施例により、本発明によるGaAsウエハの製造方法について詳細に説明する。
【0043】
(実施例1)
直径164.0mmの単結晶GaAsインゴットを用意して、内周刃スライサーによりコーン部とテール部をカットし、円筒研削によりGaAsインゴットの直径が161.5mmとなるように研削した。
そして、X線装置(円筒研削機:(株)東京精機工作所のCSN-7015型NC円筒研削盤(NC3軸)に搭載された株式会社リガクの「GaAsインゴットオリフラ面測定装置 GaAs-GOX(TSKK Ver.)」)を用いて円筒研削したGaAsインゴットの(0-1-1)の方位を確定し、トラバース研削することにより、長さ15mmとなる仮のオリエンテーションフラットを形成した。
【0044】
次に、研削工程を経たGaAsインゴットについて、GaAsインゴットから切り出されるウエハが、(100)面から(011)方向に向けて3°のオフ角を有するように、ワイヤーソーを用いてスライス加工して厚さ785μmの素材ウエハを切り出した。
【0045】
仮のオリエンテーションフラットと平行にオリエンテーションフラット用の劈開を誘導する罫書きを施し、該罫書きを起点とする劈開を行って、オリエンテーションフラットと仮のオリエンテーションフラットとの間隔(間隔A)が12mmとなる位置に、オリエンテーションフラットを形成した。罫書きは先端の尖った罫書きペンで形成し、罫書き箇所はウエハの劈開予定線の一方の側のウエハの周面とし、罫書きの長さは4mmとした。
【0046】
そして、罫書きをつけたウエハの端を手で保持し、罫書きを広げるように力を加えることで、ウエハを劈開させてオリエンテーションフラットを形成した。その後、劈開させたオリエンテーションフラット面の中央部の約50mm幅の部分を除くウエハ外周についてべべリング工程を行って直径150mmのウエハとし、実施例1のGaAsウエハ群を得た。上記の罫書き箇所は、ベベリング工程において削られる位置である。
【0047】
得られたGaAsウエハ群の各ウエハに対して
図5に示す測定位置a~cの各位置におけるOF方位精度をX線回折測定により求めた。以上の測定は、劈開工程前に検査用に抜き取られた数枚のウエハを除き、劈開工程を経て得られたGaAsウエハ群を構成する102枚の全てのウエハから20枚毎に等間隔となる1枚を選択し、合計5枚のウエハを代表させて行った。その測定結果を表1に示す。実施例1の5枚のウエハではOF方位精度は全て±0.020°以内であり、その平均値は0.000°、標準偏差も0.002°と小さかった。また、平均値に対して2倍の標準偏差をとる範囲は±0.004°であり、GaAsウエハ群を構成する全ウエハにおいても歩留まりが良いことが予想された。そして、劈開工程を経たGaAsウエハ群を構成する102枚のウエハ全てについてOF方位精度を測定したところ、全ウエハの全測定位置でOF方位精度が±0.020°以内に入っており、±0.020°以内という基準値に対する劈開工程での方位精度の歩留まりは100%であった。また、全ウエハの全測定位置でOF方位精度の平均値は±0.010°以内であり、OF方位精度の標準偏差は0.005°以下であった。
【0048】
<OF方位精度測定方法>
実施例1におけるOF方位精度の評価は以下のようにして行った。得られたGaAsウエハに対して、予定されたOF結晶面(0-1-1)に対するOF方位精度(°)をX線回折測定(株式会社リガク製 2991F2)により求めた。具体的には、
図5に示すように、OF面にX線を照射しながら、OF面を基準としてウエハを黒矢印方向へと任意に回転させた。そして、予定されるOF面の結晶面に対してBragg回折が起こる回転角度を比較することにより、物理面からの結晶面のずれ量を算出し、これをOF方位精度とした。例えば、OF面の面方位が(0-1-1)であった場合、θ=22.5゜、2θ=45゜であることから、この角度からのずれ量がOF方位精度となる。実施例1におけるOF全長は約50mmであり、OFの中央部(
図5のb)と、OFの中央部からそれぞれ20mm離れた点(
図5のa、c)の計3か所をOF方位精度の測定位置とした。
【0049】
(実施例2)
間隔Aが10mmとなるように罫書きを形成した以外は、実施例1と同様にしてGaAsウエハを作製し、得られたオリエンテーションフラットのOF方位精度を代表する5枚のウエハについて測定した。
【0050】
(実施例3)
間隔Aが9mmとなるように罫書きを形成した以外は、実施例1と同様にしてGaAsウエハを作製し、得られたオリエンテーションフラットのOF方位精度を代表する5枚のウエハについて測定した。
【0051】
(比較例1)
得られたGaAsウエハ群102枚から50枚毎に等間隔となる1枚を選択し、合計3枚のウエハを代表させて測定と行った。間隔Aが8mmとなるように罫書きを形成した以外は、実施例1と同様にしてGaAsウエハを作製し、得られたオリエンテーションフラットのOF方位精度を測定した。
【0052】
(比較例2)
得られたGaAsウエハ群102枚から50枚毎に等間隔となる1枚を選択し、合計3枚のウエハを代表させて測定を行った。間隔Aが6mmとなるように罫書きを形成した以外は、実施例1と同様にしてGaAsウエハを作製し、得られたオリエンテーションフラットのOF方位精度を測定した。
【0053】
【0054】
表1に示すように、比較例1~2では、OF方位精度が±0.020°を超える測定値があり、バラつきが大きく、標準偏差も大きかった。実施例1~3ではOF方位精度が±0.020°を超える測定値はなく、平均値が±0.010°以内で標準偏差も0.005°以下でバラつきが小さかった。
前記劈開工程の後に、さらに前記オリエンテーションフラット以外の前記GaAsウエハの周面をべべリングするべべリング工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のGaAsウエハの製造方法。