IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図1
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図2
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図3
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図4
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図5
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図6
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図7
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図8
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図9
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図10
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図11
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図12
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図13
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図14
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図15
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図16
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図17
  • 特開-D03型Fe3Al粒子の粉体 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145310
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】D03型Fe3Al粒子の粉体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/52 20060101AFI20220926BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220926BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220926BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C30B29/52
B22F1/00 T
C22C38/00 304
C21D6/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046665
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】平山 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
(72)【発明者】
【氏名】劉 崢
【テーマコード(参考)】
4G077
4K018
【Fターム(参考)】
4G077AA01
4G077AB09
4G077BA07
4G077BA09
4G077DB18
4G077FE02
4G077FE11
4G077GA03
4G077GA05
4G077GA06
4G077GA08
4G077HA05
4K018AA24
4K018BA16
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD04
4K018FA08
4K018KA33
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】所定形状の部品に加工しやすいD03型FeAl結晶の素材を提供する。
【解決手段】FeとAlの原子比Fe:Alが81.0:19.0から65.0:35.0までの範囲にある組成を有し、X線回折パターンにおいて、D03型構造のFeAl規則格子における{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上である、D03型FeAl粒子の粉体。この粉体の粒子サイズは、例えば長径による平均粒子径が20nm~500μmである。この粉体は、粒子の平均円形度が例えば0.80以上であるような、球状粒子で構成されるものであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとAlの原子比Fe:Alが81.0:19.0から65.0:35.0までの範囲にある組成を有し、X線回折パターンにおいて、D03型構造のFeAl規則格子における{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上である、D03型FeAl粒子の粉体。
【請求項2】
長径による平均粒子径が20nm~500μmである請求項1に記載のD03型FeAl粒子の粉体。
【請求項3】
球状の粒子で構成され、粒子の平均円形度が0.80以上である請求項1または2に記載のD03型FeAl粒子の粉体。
【請求項4】
長径による平均粒子径が20~500nmである請求項1に記載のD03型FeAl粒子の粉体。
【請求項5】
球状の粒子で構成され、粒子の平均円形度が0.85以上である請求項4に記載のD03型FeAl粒子の粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物の粒子からなる粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
D03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物は、大きな異常ネルンスト効果を示す物質であることが知られており、熱流センサーや熱電発電デバイスを構築するための素材として有望視されている。これまでにD03型FeAl結晶の作製例としては、非特許文献1に、分子線エピタキシー法(MBE;Molecular beam epitaxy method)による薄膜の作製例と、チョクラルスキー法(回転引き上げ法)による単結晶の作製例が報告されている。
【0003】
熱流センサーを構成するための熱電変換素子には数百ナノメートルオーダーあるいはミクロンオーダーの厚さが求められる。また、熱電発電デバイスを実現するための熱電変換素子の場合には厚さ数ミリメートル程度のバルク体であることが望まれる。分子線エピタキシー法やスパッタリング法などの製膜技術は、数百ナノメートルオーダーの薄膜試料の作製には利用できるが、製膜時間やコストの面でD03型FeAl結晶の素子を工業的に製造するための手段としては適さない。チョクラルスキー法によればサイズの大きいD03型FeAl単結晶を得ることが可能である。しかし、FeAl単結晶体は非常に硬い。FeAl単結晶体から所定サイズの素子を切り出すこと、特にナノメートルオーダーあるいはミクロンオーダーの厚さの素子を採取することは非常に難しい。また、FeAl単結晶体を砕いて粉体化することも困難である。したがって、バルク状のD03型FeAl単結晶を得る技術も、熱流センサーや熱電発電デバイスの素子を工業的に製造するための手段としては適さない。
【0004】
一方、非特許文献2には、Fe-Al合金インゴットを水素プラズマアークにより溶融させてチャンバー内に気化させた後、凝固した粉体を回収する方法により、Fe-Al合金のナノ粒子を作製した実験が示されている。この文献の記述によれば、D03構造のFeAlナノ粒子が得られたとのことである。しかしながら、Cu-Kα線によるX線回折パターン(Fig.3)には、D03構造のFeAl結晶に特有の{200}ピーク(2θ=30.9°付近)が全く観測されないことから、実際に生成したFe-Al合金ナノ粒子の結晶構造は、文献の記述とは異なり、D03型規則格子構造ではないと考えられる。おそらく不規則構造のFe-Al合金相が主体の粒子が生成したものと推察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Akito Sakai et al. Iron-based binary ferromagnets for transverse thermoelectric conversion. Nature 581 (2020) 53-57.
【非特許文献2】Tong Liu et al. Preparation and characteristics of Fe3Al nanoparticles by hydrogen plasma-metal reaction. Solid State Communications 125 (2003) 391-394.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでD03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物は、薄膜や単結晶体の形態として得られている。しかし、それら薄膜や単結晶体の素材を用いて所定形状の部品を工業的に製造することは、上述のように、極めて困難である。本発明は、所定形状の部品に加工しやすいD03型FeAl結晶の素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、FeとAlの原子比Fe:Alが81.0:19.0から65.0:35.0までの範囲にある組成を有し、X線回折パターンにおいて、D03型構造のFeAl規則格子における{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上である、D03型FeAl粒子の粉体によって達成される。
【0008】
上記の粉体の粒子サイズは、SEM画像から求められる長径による平均粒子径において、例えば20nm~500μmの範囲で調整することができる。特にSEM画像から求められる長径による平均粒子径が20~500nmである微小粒子径の粉体は、焼結温度を低下させるうえで好ましい。本明細書では、平均粒子径が20~500nmの範囲にある上記の微小粒子径の粉体を「ナノ-サブミクロン粉体」ということがある。
【0009】
上記の粉体は例えば球状の粒子で構成される。後述の平均円形度が0.80以上である球状粒子の粉体であることが好ましい。上記のナノ-サブミクロン粉体においては平均円形度が0.85以上であるものがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉体はD03型FeAl結晶の粒子で構成されるので、粉体粒子を例えば導電性ペーストなどのバインダー機能を有する導電物質とともに一体化させることにより、D03型FeAl金属間化合物を主体とする所定形状の導電部品を容易に作製することができる。また、本発明の粉体を焼結させることによりD03型FeAl金属間化合物からなる所定形状の金属部品を容易に作製することができる。特にナノ-サブミクロン粉体は、低温での焼結が可能であり、D03型FeAl金属間化合物を用いたIoT部品等の素材として極めて有用である。本発明の粉体をナノインプリント技術に適用すれば、D03型FeAl金属間化合物の配線を形成させることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1、2、実施例3、2、1、4、5の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図2】比較例3、4、実施例6、7の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図3】前駆体粒子Cの粉体、および実施例8の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図4】前駆体粒子D、E、F、Gの粉体、および実施例9、10、11、12の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図5】前駆体粒子Hの粉体、および実施例13の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図6】前駆体粒子Iの粉体、および実施例14の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図7】実施例15、19、20の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図8】前駆体粒子Aの粉体のSEM写真。
図9】実施例1の供試粉体のSEM写真。
図10】実施例2の供試粉体のSEM写真。
図11】実施例6の供試粉体のSEM写真。
図12】実施例7の供試粉体のSEM写真。
図13】前駆体粒子Dの粉体のSEM写真。
図14】前駆体粒子Eの粉体のSEM写真。
図15】前駆体粒子Gの粉体のSEM写真。
図16】前駆体粒子Hの粉体のSEM写真。
図17】前駆体粒子Iの粉体のSEM写真。
図18】前駆体粒子Jの粉体のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[組成]
発明者らの検討によれば、Fe-Al合金粉体のFeとAlの原子比Fe:Alが81.0:19.0から65.0:35.0までの範囲において、結晶構造がD03型規則格子であるFeAl金属間化合物の相を得ることができる。すなわち、FeAlの化学量論的なFeとAlの原子比はFe:Alが75.0:25.0であるが、その周辺の上記組成範囲においてD03型規則格子構造を呈するD03型FeAl粒子を得ることができる。ここで、本明細書で言う「D03型FeAl粒子」は、FeAlの化学量論的組成またはその組成から少しずれた組成を持つFe-Al合金の粒子であって、D03型構造の規則格子に基づくX線回折パターンを呈するものを意味する。
【0013】
[X線回折ピーク高さの強度比]
Fe-Al合金の粉体が「D03型FeAl粒子」の粉体であるかどうかは、当該粉体についてCu-Kα線またはCo-Kα線によるX線回折(XRD)パターンを測定することによって判定することができる。D03型FeAl結晶では、B2型FeAl金属間化合物結晶やα-Feのbcc結晶のX線回折ピークが観測されない回折角2θの位置に、D03型結晶の{111}ピークが観測される。D03型結晶の{111}ピークは、X線源がCu-Kα線である場合には2θ=26.7°付近、Co-Kα線である場合には2θ=31.1°付近に現れる。一方、D03型FeAl結晶の最も強度の高いX線回折ピークは{220}ピークであり、これはX線源がCu-Kα線である場合には2θ=44.2°付近、Co-Kα線である場合には2θ=51.9°付近に現れる。
【0014】
ここでは、D03型構造のFeAl規則格子における{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上であるX線回折パターンを呈するFe-Al合金粉体を、D03型FeAl粒子の粉体であると判定する。上記強度比I{111}/I{220}が0.005以上であるFe-Al合金粉体では、規則格子としての原子配列の秩序化が高いレベルで達成されていると評価できる。完全なD03型構造のFeAl規則格子における計算上の上記強度比I{111}/I{220}は、X線源がCu-Kα線の場合0.067、Co-Kα線の場合0.07であるとされ、X線源によらず概ね同等であることが判っている。
【0015】
D03型FeAl結晶の最も強度の高い{220}ピークは、B2型FeAl結晶の最も強度が高い{110}ピーク、およびα-Fe結晶の最も強度が高い{110}ピークと回折角2θが近いので、それらのピークが同時に現れるX線回折パターンでは、互いのピークが重畳する。そのような場合、D03型FeAl結晶の{220}面のピーク強度I{220}は、重畳した1つのピークの高さを採用して定めればよい。
【0016】
D03型結晶では、上記{111}ピークの他に、{200}ピークも観測される。D03型FeAl結晶の{200}ピークは、X線源がCu-Kα線である場合には2θ=30.9°付近、Co-Kα線である場合には2θ=36.0°付近に現れる。ただし、この{200}ピークの位置は、B2型FeAl結晶の{100}ピークの位置と近い。したがって、上記の2θ付近に現れるピークの存在のみでD03型FeAl結晶を同定することはできない。D03型FeAl結晶の生成を判定するためには、B2型FeAl結晶や不規則相からの回折ピークと重畳しない2θ位置に現れる上述の{111}ピークの存在に着目することが極めて有効である。なお、本発明のD03型FeAl粒子の粉体においては、上述の強度比I{111}/I{220}が0.005以上であることに加え、{200}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{200}/I{220}についても0.005以上であることがより好ましい。
【0017】
ここで、X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}は、以下のようにして求めることができる。
(X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}の求め方)
対象となる粉体について、X線源にCu-Kα線またはCo-Kα線を使用してX線回折パターンを測定する。{hkl}面のピーク強度I{hkl}は、{hkl}ピーク両側のバックグラウンド部分を含む所定範囲の2θにおける測定データを抽出し、擬フォークト(pseudo-Voigt)関数f(2θ)を用いて最小二乗法でフィッティングした場合のピークの最大値Iとする。擬フォークト関数の式は下記のものを使用できる。このとき、バックグラウンドは直線近似とし、A+B2θで表現される。Cはピークの規格化定数である。n,m,Hはフィッティングパラメータである。ピークの最大値Iは下記(1)式により定まる。
【数1】
【0018】
I{hkl}を定めるためのデータを抽出する2θの範囲、すなわち上述の「{hkl}ピーク両側のバックグラウンド部分を含む所定範囲」としては、例えばX線源にCo-Kα線を使用する場合、I{111}測定用の2θの範囲は30~33°、I{200}測定用の2θの範囲は35~37°、I{220}測定用の2θの範囲は50~55°とすることができる。なお、上記の擬フォークト関数を用いたフィッティングによるX線回折パターンの解析手法については以下の文献が参考になる。
参考文献:虎谷秀穂、「6.プロファイル関数とパターン分解法」、日本結晶学会誌34,86(1992)
【0019】
[粒子の形状]
本発明のD03型FeAl粒子の粉体を構成する粒子は、球状であることがより好ましい。粉体粒子の形状が球状であることによって、その粉体を焼結させて金属部品を作製する際に、ボイド等の空隙が少なく金属の充填率が高い部品を得る上で有利となる。また、粉体をナノインプリント技術に適用した場合には、流動性の面で有利となる。より具体的には、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であることが望ましい。特に微細粒子の粉体である上記のナノ-サブミクロン粉体においては平均円形度が0.85以上であることがより好ましい。後述の製造技術に従えば、球状のD03型FeAl粒子で構成される粉体を得ることができる。平均円形度は以下のようにして求めることができる。
【0020】
(平均円形度の求め方)
測定対象である粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子とする。各測定対象粒子について、下記(2)式により円形度を求める。
円形度=4πS/L …(2)
ここで、Sは当該粒子の画像上の面積(μmまたはnm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μmまたはnm)である。Lの単位がμmであるときはSの単位はμmとなり、Lの単位がnmであるときはSの単位はnmとなる。
上記円形度の測定を、測定対象粒子の総数が50個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行い、個々の粒子の上記円形度の総和を測定対象粒子の総数で除した値を、当該粉体を構成する粒子の平均円形度とする。
【0021】
[粉体の平均粒子径]
本発明のD03型FeAl粒子の粉体は、粒子の合成方法によって種々のサイズのものを用意することができる。例えば、SEM画像から求められる長径による平均粒子径が20nm~500μmの範囲にあるものが好適な対象となる。平均粒子径の上限は、粒子合成装置の仕様に応じて、例えば200μm以下、あるいは100μm以下の範囲に設定してもよい。また、SEM画像から求められる長径による平均粒子径が20~500nmであるナノ-サブミクロン粉体は、焼結温度が低い点で有利である。低温焼結性の観点から平均粒子径20~200nmのものがより好ましく、50~150nmの範囲に管理してもよい。ここで、「長径」は、SEM画像上の粒子の輪郭線を楕円近似した楕円の長軸の長さである。ただしその楕円が真円である場合はその円の直径である。平均粒子径は、以下のようにして求めることができる。
【0022】
(平均粒子径の求め方)
測定対象である粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子し、各測定対象粒子について画像上で長径を測定する。この長径の測定を、測定対象粒子の総数が500個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行う。測定対象粒子についての長径rのヒストグラムを、次式、
【数2】
で表される対数正規分布関数f(r)を用いてフィッティングし、次式、
【数3】
で表される値を算出し、この値を当該粉体の平均粒子径とする。ここで、θ、μはフィッティングパラメータである。
【0023】
また、分級を行ったり、平均粒子径が異なる2種以上の粉体を混合したりすることにより、粒度分布を調整することもできる。
【0024】
[粒子の製造方法]
(粒子の合成)
FeとAlの原子比Fe:Alが前述した81.0:19.0から65.0:35.0までの範囲にある組成のFe-Al合金粉体を合成できる手法を適用する必要がある。Alが水素で還元できないため、湿式での化学合成法の適用は困難である。CaやMgでは還元自体は可能であるが、これらの金属がAlと反応するため、Fe-Al合金粉体は合成できない。球状粒子からなるFe-Al合金粉体を合成することが可能な手法として、熱プラズマ法とガスアトマイズ法を例示することができる。
【0025】
熱プラズマ法では、原料としてFe粉とAl粉の混合粉や、予め用意された所定組成のFe-Al合金粉などを用いる。プラズマガス、キャリアガスには例えばArガスを用いることができる。RFコイルに高周波電流を流してプラズマガスに磁場を印加し、装置内で高温の熱プラズマを発生させる。そして、原料をキャリアガスとともに装置内に供給し、プラズマと接触させる。これにより、原料であるFe、Alの金属蒸気が生成される。生成された金属蒸気は、装置下部の水冷チャンバー内の気相中で急冷され、均一核生成、不均一凝縮を経て、FeAlの化学量論的組成を挟んだ上述の組成範囲にあるFe-Al合金の粒子が合成される。高周波による熱プラズマを用いると、平均粒子径が例えば500nm以下といった、微細なナノ粒子あるいはサブミクロン粒子で構成されるナノ-サブミクロン粉体を得ることができる。
【0026】
ガスアトマイズ法では、原料としてFe粉とAl粉の混合粉や、予め用意された所定組成のFe-Al合金粉などを用いる。るつぼ内で原料を加熱融解し、溶湯を出湯ノズルから押し出す。その際に、溶湯に例えばArガス等を高圧で吹き付ける。溶湯の粒子は気相中で急冷凝固し、FeAlの化学量論的組成を挟んだ上述の組成範囲にあるFe-Al合金の粒子が合成される。ガスアトマイズ法によれば、平均粒子径が例えばミクロンオーダーの、球状粒子を得ることができる。
【0027】
(規則格子化熱処理)
上述の方法で合成された状態の粒子は、まだD03型の規則格子構造を有するFeAl粒子にはなっていない。したがって、合成直後の粒子はD03構造への規則格子化を行うための前駆体粒子と言うことができる。発明者らは、その前駆体粒子に対して500℃付近での加熱処理を施すと、規則格子化が起こり、D03型FeAl粒子が得られることを見出した。この熱処理を「規則格子化熱処理」と呼ぶ。
【0028】
上記の規則格子化熱処理は、例えば保持温度275~625℃、その温度での保持時間5~300分の条件範囲内で最適条件を見出すことができる。特に保持時間については、10~180分の範囲とすることがより効果的である。温度が低すぎる場合、加熱保持時間が短すぎる場合、および温度が高すぎる場合は、いずれもD03構造への規則化が十分に達成されない。加熱保持時間が長すぎるとB2構造(Fe-Al相)とbcc構造(α-Fe)への相分離が生じる傾向が見られる。加熱中の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気とすればよい。
【実施例0029】
[実施例1]
(熱プラズマ法による前駆体粒子の合成)
Fe粉(高純度化学研究所社製、D90=6.8μm)およびAl粉(高純度化学研究所社製、D90=36.8μm)を、原子比においてFe:Al=70:30となるように秤量して混合し、原料である混合粉を用意した。熱プラズマを発生させるRFコイルと気相中で金属蒸気を凝縮させる水冷チャンバーを備える熱プラズマ粉体製造装置を用いて、熱プラズマ法により以下のようにしてFe-Al合金粒子の粉体を作製した。上記装置内に、プラズマ発生用のガスとしてArガスを流量35NL/minで供給し、高周波電源の出力6kWでRFコイルに周波数13.56MHzの高周波電流を流し、プラズマ発生用のガスに磁場を印加することで、Arプラズマを発生させた。原料である上記混合粉をキャリアガスであるArガスとともに装置内に供給し、原料の混合粉をプラズマと接触させることにより、混合粉を金属蒸気の状態とした。このときの混合粉の供給速度は0.1~0.3g/min、キャリアガスの供給流量は5NL/min、装置内圧力は100kPaとした。プラズマ発生部の下部にある水冷チャンバー内に送られた前記の金属蒸気は、当該チャンバー内のArガスにより急冷されて凝縮し、微細な金属粒子として凝固した。得られた金属粒子を回収した。この金属粒子を「前駆体粒子A」と呼ぶ。前駆体粒子Aの組成をEDX(エネルギー分散型X線分析法)により分析したところ、前駆体粒子Aの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは76.7:23.3であった。EDX装置は、SEM(走査型電子顕微鏡)に付属のBruker社製、XFlash6130を使用した(以下の各EDX分析例において同じ。)。また、HORIBA製の分析装置(EMGA-620W)により酸素含有量を測定したところ、酸素含有量は0.86質量%であった。
図8に、前駆体粒子Aの粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。SEM観察はJEOL製、JSM-7800Fにより行った(以下の各例において同じ。)。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
【0030】
(前駆体粒子の平均粒子径)
上掲の「平均粒子径の求め方」に従い、SEM観察によって撮影した画像から平均粒子径を求めた。ソフトウェアとして「Origin 2020」を使用した。Binの幅を30nmとしてLevenberg-Marquardt法により対数正規分布関数f(r)にフィッティングし、フィッティングパラメータθ、μを決定した。そのθ、μに基づいて平均粒子径を算出した。その結果、前駆体粒子Aの平均粒子径は96nmと求まった。
(前駆体粒子の平均円形度)
上掲の「平均円形度の求め方」に従い平均円形度を求めたところ、前駆体粒子Aの平均円形度は0.897であった。円形度の分散σは0.00943であった。
なお、下記の熱処理後も、粒子の形状およびサイズは概ね維持されることが確認されている。
【0031】
(熱処理)
前駆体粒子Aの粉体に、Ar雰囲気下で、保持温度500℃、保持時間180分の熱処理を施した。熱処理炉は、赤外線ゴールドイメージ炉(アドバンス理工社製、MILA-5000-P-N)を使用した(以下の各例において同じ。)。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、以下の実験に供した。図9に、本例の供試粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが1μmに相当する。
【0032】
(供試粉体のX線回折強度比)
供試粉体について、X線回折装置(Malvern Panalytical社製、Empyrean)により、Co-Kα線、管電圧45kV、管電流45mAの条件でX線回折パターンを測定した。得られたX線パターンにはKα1とKα2によるピークが重畳しているため、Rachinger法を用いてKα2由来のピークを除去しKα1由来のピークのみからなるX線回折パターンを取得した。このときKα1とKα2の強度比をKα1/Kα2=0.5とし、X線回折解析ソフトウェア(Malvern Panalytical社製、HighScore Plus)用いて計算した。このKα1由来のピークのみからなるX線回折パターンについて、前掲の「X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}の求め方」に従い、グラフ解析ソフトウェア(OriginLab Corporation社製、Origin)によりD03型FeAl結晶の{111}面および{220}面の回折ピークの高さを求め、{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}を算出した。ここで、I{111}測定用の2θの範囲は30~33°、I{220}測定用の2θの範囲は50~55°とした。
【0033】
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例における回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}は0.015であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
なお、X線回折パターン中にはfcc構造のγ-Fe相のピークも観測された。このγ-Fe相は熱プラズマ法で金属蒸気が凝縮する際に生成したものであるが、ピーク強度から、その混在量は僅かである(後述の熱プラズマ法による実施例、比較例において同じ。)。この種の異相は非磁性であるため、その少量の混在は熱電変換特性に大きな影響を及ぼさないと考えられる。
【0034】
(供試粉体の組成)
EDX(エネルギー分散型X線分析法)で測定したところ、本例供試粉体のFeとAlの原子比はFe:Al=76.6:23.4であった。
【0035】
(供試粉体の平均粒子径)
上掲の「平均粒子径の求め方」に従い、前駆体粉の場合と同様の方法で平均粒子径を求めたところ、上記熱処理後の平均粒子径は104nmであった。
(供試粉体の平均円形度)
上掲の「平均円形度の求め方」に従い平均円形度を求めたところ、上記熱処理後の平均円形度は0.897であった。円形度の分散σは0.00654であった。
【0036】
(供試粉体の磁気特性)
本例供試粉体の磁気特性をVSM(カンタムデザイン社製、DynaCool)により測定した。測定条件は、最大印加磁場2T、掃引速度0.01T/sec、時定数1sec、振幅2mm、周波数40kHzである。温度10Kにおいて飽和磁化は123A・m/kg、残留磁化は4.3A・m/kg、保磁力は7.8kA/m(98Oe)であり、温度300Kにおいて飽和磁化は111A・m/kg、残留磁化は1.2A・m/kg、保磁力は0.95kA・m/kg(12Oe)であった。
【0037】
表1、表2に熱プラズマ法で合成した前駆体粒子を用いた各例の主な実験条件、結果を、まとめて示してある。
【0038】
[実施例2]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理において、保持時間10分としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。図10に、本例の供試粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.012であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0039】
[実施例3]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度450℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0040】
[実施例4]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度530℃、保持時間10分としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.011であり、上記熱処理によってD03型Fe3Al粒子が得られたことが確認された。
【0041】
[実施例5]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度600℃、保持時間10分としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.008であり、上記熱処理によってD03型Fe3Al粒子が得られたことが確認された。
【0042】
[比較例1]
本例では、上記の前駆体粒子Aの粉体(熱処理を施していないもの)を供試粉体として、実施例1と同様の測定を行った。
本例供試粉体(前駆体粒子Aの粉体)のX線回折パターンを図1に示してある。D03型FeAl結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、熱プラズマ法によって生成した粒子に熱処理を施さない場合は、D03型の規則格子構造が得られなかった。
【0043】
[比較例2]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度200℃、保持時間10分としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。熱処理温度が200℃と低い場合、D03型の規則格子構造は得られなかった。
【0044】
[実施例6]
(熱プラズマ法による前駆体粒子の合成)
Fe粉(高純度化学研究所社製、D90=6.8μm)およびAl粉(高純度化学研究所社製、D90=36.8μm)を、原子比においてFe:Al=75:25となるように秤量して混合し、原料である混合粉を用意した。その混合粉を用いて、熱プラズマ法により実施例1と同様の条件で金属粒子を合成した。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子B」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Bの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは79.3:20.7であった。また、前駆体粒子BのBET1点法による比表面積を測定したところ、6.38m/gであった。
【0045】
(熱処理)
前駆体粒子Bの粉体に、Ar雰囲気下で、保持温度500℃、保持時間10分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、実施例1と同様の実験に供した。図11に、本例の供試粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
【0046】
本例供試粉体のX線回折パターンを図2に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0047】
[実施例7]
前駆体粒子Bの粉体に施す熱処理の条件において、保持時間180分としたことを除き、実施例6と同様の実験を行った。図12に、本例の供試粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
本例供試粉体(前駆体粒子Bの粉体)のX線回折パターンを図2に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.007であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0048】
[比較例3]
本例では、上記の前駆体粒子Bの粉体(熱処理を施していないもの)を供試粉体として、実施例6と同様の測定を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図2に示してある。D03型Fe3Al結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、熱プラズマ法によって生成した粒子に熱処理を施さない場合は、D03型の規則格子構造が得られなかった。
【0049】
[比較例4]
前駆体粒子Bの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度200℃としたことを除き、実施例6と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図2に示してある。熱処理温度が200℃と低い場合、D03型の規則格子構造は得られなかった。
【0050】
[実施例8]
(熱プラズマ法による前駆体粒子の合成)
Fe粉(高純度化学研究所社製、D90=6.8μm)およびAl粉(高純度化学研究所社製、D90=36.8μm)を、原子比においてFe:Al=65:35となるように秤量して混合し、原料である混合粉を用意した。その混合粉を用いて、熱プラズマ法により実施例1と同様の条件で金属粒子を合成した。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子C」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Cの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは72.3:27.7であった。
前駆体粒子Cの粉体のX線回折パターンを図3に示してある。
【0051】
(熱処理)
前駆体粒子Cの粉体に、Ar雰囲気下で、保持温度500℃、保持時間180分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、実施例1と同様の実験に供した。
【0052】
本例供試粉体のX線回折パターンを図3に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.011であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0053】
[実施例9]
(熱プラズマ法による前駆体粒子の合成)
Fe粉(高純度化学研究所社製、D90=6.8μm)およびAl粉(高純度化学研究所社製、D90=13.9μm)を、原子比においてFe:Al=75:25となるように秤量して混合し、原料である混合粉を用意した。その混合粉を用いて、熱プラズマ法により実施例1と同様の条件で金属粒子を合成した。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子D」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Dの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは73.4:26.6であった。
図13に、前駆体粒子Dの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
前駆体粒子Dの粉体のX線回折パターンを図4に示してある。
【0054】
(熱処理)
前駆体粒子Dの粉体に、Ar雰囲気下で、保持温度500℃、保持時間180分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、実施例1と同様の実験に供した。
【0055】
本例供試粉体のX線回折パターンを図4に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.015であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0056】
[実施例10]
熱プラズマ法による前駆体粒子の合成において、Fe粉とAl粉を原子比でFe:Al=70:30となるように秤量して混合したことを除き、実施例9と同様の実験を行った。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子E」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Eの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは76.8:23.2であった。図14に、前駆体粒子Eの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。また、前駆体粒子Eの粉体および前駆体粒子Eの粉体に熱処理を施して得られた供試粉体のX線回折パターンを図4に示してある。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.012であり、熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0057】
[実施例11]
熱プラズマ法による前駆体粒子の合成において、Fe粉とAl粉を原子比でFe:Al=68:32となるように秤量して混合したことを除き、実施例9と同様の実験を行った。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子F」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Fの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは70.3:29.7であった。前駆体粒子Fの粉体に熱処理を施して得られた供試粉体のX線回折パターンを図4に示してある。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.007であり、熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0058】
[実施例12]
熱プラズマ法による前駆体粒子の合成において、Fe粉とAl粉を原子比でFe:Al=65:35となるように秤量して混合したことを除き、実施例9と同様の実験を行った。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子G」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Gの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは68.3:31.7であった。図15に、前駆体粒子Gの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが1μmに相当する。また、前駆体粒子Gの粉体および前駆体粒子Gの粉体に熱処理を施して得られた供試粉体のX線回折パターンを図4に示してある。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.007であり、熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0059】
[実施例13]
熱プラズマ法による前駆体粒子の合成において、使用するガスを、Arガスから、Ar:H=99:1の体積比である混合ガスに変更したことを除き、実施例9と同様の実験を行った。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子H」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Hの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは76.4:23.6であった。図16に、前駆体粒子Hの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。また、前駆体粒子Hの粉体および前駆体粒子Hの粉体に熱処理を施して得られた供試粉体のX線回折パターンを図5に示してある。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.018であり、熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0060】
[実施例14]
(ガスアトマイズ法による原料粉の作製および熱プラズマ法による前駆体粒子の合成)
Fe原料として線材切断品(JFEスチール社製、直径5.5mm×長さ10mm、純度99.9%以上)を用意した。Al原料としてショット状粒子(高純度化学研究所社製、粒径5~10mm、純度99.99%以上)を用意した。これらのFe原料とAl原料を、原子比でFe:Al=75:25となるよう秤量し、混合した。この混合物を、φ80mmの水冷銅坩堝に入れ、高周波誘導加熱により1500℃で15分間加熱処理を行い、FeAl合金の溶湯を作製した。窒化ホウ素製のノズル(内径2mm)を使用し、上記の溶湯をノズルから気相空間に押し出すとともに、その押し出された溶湯にArガスを吹き付けるガスアトマイズ法により、金属粒子を合成した。ガスノズル径はφ40mm、ガスの吹付圧力は6MPa、吹付角度は15°とした。得られた金属粒子を回収し、目開き20μmの篩によって分級することにより微小粒子を抽出した。抽出された粒子からなる粉体の組成をSEM-EDXにより分析したところ、FeとAlのモル比Fe:Alは75.0:25.0であった。また、この抽出された粒子の平均円形度は0.893、円形度の分散σは0.0161であった。
この抽出された粒子からなる粉体を原料粉に用いて、熱プラズマ法により実施例9と同様の条件で金属粒子を合成した。ここで得られた金属粒子を「前駆体粒子I」と呼ぶ。EDX分析の結果、前駆体粒子Iの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは73.2:26.8であった。
図17に、前駆体粒子Iの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
前駆体粒子Iの粉体のX線回折パターンを図6に示してある。
【0061】
(熱処理)
前駆体粒子Iの粉体に、Ar雰囲気下で、保持温度500℃、保持時間180分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、実施例1と同様の実験に供した。
【0062】
本例供試粉体のX線回折パターンを図6に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.013であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例15]
(ガスアトマイズ法による前駆体粒子の合成)
Fe原料として線材切断品(JFEスチール社製、直径5.5mm×長さ10mm、純度99.9%以上)を用意した。Al原料としてショット状粒子(高純度化学研究所社製、粒径5~10mm、純度99.99%以上)を用意した。これらのFe原料とAl原料を、原子比でFe:Al=75:25となるよう秤量し、混合した。この混合物を、φ80mmの水冷銅坩堝に入れ、高周波誘導加熱により1500℃で15分間加熱処理を行い、FeAl合金の溶湯を作製した。窒化ホウ素製のノズル(内径2mm)を使用し、上記の溶湯をノズルから気相空間に押し出すとともに、その押し出された溶湯にArガスを吹き付けるガスアトマイズ法により、金属粒子を合成した。ガスノズル径はφ40mm、ガスの吹付圧力は6MPa、吹付角度は15°とした。得られた金属粒子を回収し、目開き90μmおよび20μmの2種類の篩によって分級することにより、粒子径が20~90μmの粒子を抽出した。抽出された粒子を「前駆体粒子J」と呼ぶ。前駆体粒子Jの組成をEDXにより分析したところ、前駆体粒子Jの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは76.2:23.8であった。
図18に、前駆体粒子Jの粉体のSEM写真を例示する。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが10μmに相当する。
【0066】
(熱処理)
前駆体粒子Jの粉体について、管状炉を用いてNガスを20L/minで流しながらN雰囲気下で、保持温度300℃、保持時間180分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、実施例1と同様の実験に供した。
【0067】
本例供試粉体のX線回折パターンを図7に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0068】
表3、表4にガスアトマイズ法で合成した前駆体粒子を用いた各例の主な実験条件、結果を、まとめて示してある。
【0069】
[実施例16]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度350℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0070】
[実施例17]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度400℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.008であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0071】
[実施例18]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度450℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.012であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0072】
[実施例19]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度450℃、保持時間を10分としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図7に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.010であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0073】
[実施例20]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度500℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図7に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.020であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0074】
本例供試粉体の磁気特性を実施例1と同様の方法で測定したところ、温度300Kにおいて飽和磁化は144A・m/kg、残留磁化は5.3A・m/kg、保磁力は7.4kA・m/kg(93Oe)であった。
【0075】
[実施例21]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度550℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.006であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0076】
[比較例5]
本例では、上記の前駆体粒子Jの粉体(熱処理を施していないもの)を供試粉体として、実施例15と同様の測定を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンからは、D03型Fe3Al結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、ガスアトマイズ法によって生成した粒子に熱処理を施さない場合は、D03型の規則格子構造が得られなかった。
【0077】
[比較例6]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度250℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンにおけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.003であり、熱処理の保持温度が250℃と低い場合にはD03型Fe3Al粒子が十分に得られなかった。
【0078】
[比較例7]
前駆体粒子Jの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度650℃としたことを除き、実施例15と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンからは、D03型Fe3Al結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、熱処理の保持温度が650℃と高い場合にはD03型Fe3Al粒子が得られなかった。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18