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特開2022-145312D03型Fe3Al粒子粉の製造方法
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  • 特開-D03型Fe3Al粒子粉の製造方法 図1
  • 特開-D03型Fe3Al粒子粉の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145312
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】D03型Fe3Al粒子粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/52 20060101AFI20220926BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20220926BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220926BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20220926BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220926BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C30B29/52
C30B11/00 Z
B22F1/00 T
C21D6/00 Z
B22F9/08 A
C22C38/00 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046667
(22)【出願日】2021-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】平山 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
【テーマコード(参考)】
4G077
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4G077AA01
4G077AB08
4G077AB09
4G077AB10
4G077BA09
4G077CD10
4G077HA05
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017CA01
4K017CA07
4K017DA01
4K017DA07
4K017EB03
4K017EB04
4K017EB07
4K017FA03
4K017FA05
4K017FA07
4K017FA10
4K017FA11
4K017FA15
4K018AA24
4K018BA16
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC08
4K018BD04
4K018FA08
4K018KA33
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】所定形状の部品に加工しやすいD03型FeAl結晶の素材を提供する。
【解決手段】不活性ガス雰囲気の気相空間中で、FeとAlで構成される溶融金属の溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより、前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、FeとAlのモル比Fe:Alが80.0:20.0から70.0:30.0までの範囲にある組成のFe-Al合金の金属粒子を合成する、金属粒子合成工程、
前記金属粒子を275~575℃で加熱保持することにより、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させる、規則格子化工程、
を有する、D03型FeAl粒子粉の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気の気相空間中で、FeとAlで構成される溶融金属の溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより、前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、FeとAlのモル比Fe:Alが80.0:20.0から70.0:30.0までの範囲にある組成のFe-Al合金の金属粒子を合成する、金属粒子合成工程、
前記金属粒子を275~575℃で加熱保持することにより、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させる、規則格子化工程、
を有する、D03型FeAl粒子粉の製造方法。
【請求項2】
前記規則格子化工程において、X線回折パターンにおけるD03型FeAl規則格子の{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上である、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させる、請求項1に記載のD03型FeAl粒子粉の製造方法。
【請求項3】
前記加熱保持の温度を300~550℃とする請求項1または2に記載のD03型FeAl粒子粉の製造方法。
【請求項4】
長径による平均粒子径が1~500μmである粒子粉を得る、請求項1~3のいずれか1項に記載のD03型FeAl粒子粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物の粒子からなる粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物は、大きな異常ネルンスト効果を示す物質であることが知られており、熱流センサーや熱電発電デバイスを構築するための素材として有望視されている。これまでにD03型FeAl結晶の作製例としては、非特許文献1に、分子線エピタキシー法(MBE;Molecular beam epitaxy method)による薄膜の作製例と、チョクラルスキー法(回転引き上げ法)による単結晶の作製例が報告されている。
【0003】
熱流センサーを構成するための熱電変換素子はミクロンオーダーの厚さを有することが望ましい。また、熱電発電デバイスを実現するための熱電変換素子の場合には厚さ数ミリメートル程度のバルク体であることが望まれる。分子線エピタキシー法やスパッタリング法などの製膜技術は、数百ナノメートルオーダーの薄膜試料の作製には利用できるが、製膜時間やコストの面でD03型FeAl結晶の素子を工業的に製造するための手段としては適さない。チョクラルスキー法によればサイズの大きいD03型FeAl単結晶を得ることが可能である。しかし、FeAl単結晶体は非常に硬い。FeAl単結晶体から所定サイズの素子を切り出すこと、特にミクロンオーダーといった薄い素子を採取することは非常に難しい。また、FeAl単結晶体を砕いて粉体化することも困難である。したがって、バルク状のD03型FeAl単結晶を得る技術も、熱流センサーや熱電発電デバイスの素子を工業的に製造するための手段としては適さない。
【0004】
一方、非特許文献2には、Fe-Al合金インゴットを水素プラズマアークにより溶融させてチャンバー内に気化させた後、凝固した粉体を回収する方法により、Fe-Al合金のナノ粒子を作製した実験が示されている。この文献の記述によれば、D03構造のFeAlナノ粒子が得られたとのことである。しかしながら、Cu-Kα線によるX線回折パターン(Fig.3)には、D03構造のFeAl結晶に特有の{200}ピーク(2θ=30.9°付近)が全く観測されないことから、実際に生成したFe-Al合金ナノ粒子の結晶構造は、文献の記述とは異なり、D03型規則格子構造ではないと考えられる。おそらく不規則構造のFe-Al合金相が主体の粒子が生成したものと推察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Akito Sakai et al. Iron-based binary ferromagnets for transverse thermoelectric conversion. Nature 581 (2020) 53-57.
【非特許文献2】Tong Liu et al. Preparation and characteristics of Fe3Al nanoparticles by hydrogen plasma-metal reaction. Solid State Communications 125 (2003) 391-394.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでD03型の規則格子構造を持つFeAl金属間化合物は、薄膜や単結晶体の形態として得られている。しかし、それら薄膜や単結晶体の素材を用いて所定形状の部品を工業的に製造することは、上述のように、極めて困難である。本発明は、所定形状の部品に加工しやすいD03型FeAl結晶の素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、不活性ガス雰囲気の気相空間中で、FeとAlで構成される溶融金属の溶湯に不活性ガスの気流を吹き付けることにより、前記溶湯の粒子を急冷凝固させるガスアトマイズ法によって、FeとAlのモル比Fe:Alが80.0:20.0から70.0:30.0までの範囲にある組成のFe-Al合金の金属粒子を合成する、金属粒子合成工程、
前記金属粒子を275~575℃で加熱保持することにより、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させる、規則格子化工程、
を有する、D03型FeAl粒子粉の製造方法によって達成される。
【0008】
前記規則格子化工程において、X線回折パターンにおけるD03型FeAl規則格子の{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上である、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させることが好ましい。前記275~575℃での加熱保持の時間は例えば5~300分とすることができる。前記加熱保持の温度を300~550℃とすることがより好ましい。
【0009】
上記のD03型FeAl粒子粉のサイズは、例えば長径による平均粒子径が1~500μmである範囲に調整することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、D03型FeAl結晶の粒子で構成される粉体を得ることが可能である。この粉体を用いると、D03型FeAl金属間化合物を利用した所定形状の部品を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、5、6の供試粉体についてのCo-Kα線によるX線回折パターン。
図2】前駆体粒子Aの粉体のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明者らは研究の結果、急冷凝固により生成したFeAlの化学量論的組成またはその組成から少しずれた組成を持つFe-Al合金の微細粒子に対して、500℃程度の温度に加熱保持する熱処理を施すことによって、D03型規則格子構造のFeAl相を主体とする微細粒子が得られることを見出した。ここでは、特に球状の粒子からなるD03型FeAl粒子粉を製造する上で好適な、ガスアトマイズ法によるFe-Al合金粒子の合成と、熱処理を組み合わせた製造方法を開示する。
【0013】
[金属粒子合成工程]
ガスアトマイズ法によりFe-Al合金の粒子を合成する。原料としてFeとAlからなる金属原料を使用する。例えばFe粉とAl粉の混合粉や、予め用意された所定組成のFe-Al合金粉などを用いる。るつぼ内で原料の金属を融解し、その金属溶湯を出湯ノズルから気相空間に押し出す。気相空間のガスはN、Ar等の不活性ガスとする。ノズルから気相空間に出た溶湯流に、不活性ガスを高圧で吹き付ける。溶湯の粒子は気相中で急冷凝固し、FeAlの化学量論的組成を挟んだ所定の組成範囲にあるFe-Al合金の粒子が合成される。ガスアトマイズ法によれば、平均粒子径が例えばミクロンオーダーの、球状粒子を得ることができる。
【0014】
ガスアトマイズ法で合成されたFe-Al合金の固体粒子は、まだD03型の規則格子構造を有するFeAl粒子にはなっていない。したがって、合成直後の粒子は後述の「規則格子化工程」でD03構造への規則格子化を行うための前駆体粒子と言うことができる。発明者らの検討によれば、Fe-Al合金からなる前駆体粒子のFeとAlのモル比Fe:Alが80.0:20.0から70.0:30.0までの範囲において、結晶構造がD03型規則格子であるFeAl金属間化合物の相を得ることができる。すなわち、FeAlの化学量論的なFeとAlのモル比はFe:Alが75.0:25.0であるが、その周辺の上記組成範囲においてD03型規則格子構造を呈するD03型FeAl粒子を得ることができる。ここで、本明細書で言う「D03型FeAl粒子」は、FeAlの化学量論的組成またはその組成から少しずれた組成を持つFe-Al合金の粒子であって、その粒子からなる粉体がD03型構造の規則格子に基づくX線回折パターンを呈するものを意味する。
【0015】
[規則格子化工程]
ガスアトマイズ装置から回収された前述の前駆体粒子を、熱処理に供することにより、D03型の規則格子構造を持つFeAl相を生成させ、「D03型FeAl粒子」を得る。D03型FeAl粒子を安定して得るため、本発明では、FeとAlのモル比Fe:Alが80.0:20.0から70.0:30.0までの範囲にあるFe-Al合金粒子(前駆体粒子)に熱処理を施す。その熱処理は、前駆体粒子を275~575℃で加熱保持することによって行うことができる。その温度での保持時間については5~300分の範囲内で最適条件を見出すことができる。特に、保持温度は300~550℃の範囲とすることがより効果的であり、保持時間は10~180分の範囲とすることがより効果的である。温度が低すぎる場合、加熱保持時間が短すぎる場合、および温度が高すぎる場合は、いずれもD03構造への規則化が十分に達成されない。加熱保持時間が長すぎるとB2構造(Fe-Al相)とbcc構造(α-Fe)への相分離が生じる傾向が見られる。加熱中の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気または真空とすればよい。ここでいう真空の雰囲気は、圧力1Pa以下の状態を意味する。
【0016】
[X線回折ピーク高さの強度比]
Fe-Al合金の粉体が「D03型FeAl粒子」の粉体であるかどうかは、当該粉体についてCu-Kα線またはCo-Kα線によるX線回折(XRD)パターンを測定することによって判定することができる。D03型FeAl結晶では、B2型FeAl金属間化合物結晶やα-Feのbcc結晶のX線回折ピークが観測されない回折角2θの位置に、D03型結晶の{111}ピークが観測される。D03型結晶の{111}ピークは、X線源がCu-Kα線である場合には2θ=26.7°付近、Co-Kα線である場合には2θ=31.1°付近に現れる。一方、D03型FeAl結晶の最も強度の高いX線回折ピークは{220}ピークであり、これはX線源がCu-Kα線である場合には2θ=44.2°付近、Co-Kα線である場合には2θ=51.9°付近に現れる。
【0017】
ここでは、D03型構造のFeAl規則格子における{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}が0.005以上であるX線回折パターンを呈するFe-Al合金粉体を、D03型FeAl粒子の粉体であると判定する。上記強度比I{111}/I{220}が0.005以上であるFe-Al合金粉体では、規則格子としての原子配列の秩序化が高いレベルで達成されていると評価できる。完全なD03型構造のFeAl規則格子における計算上の上記強度比I{111}/I{220}は、X線源がCu-Kα線の場合0.067、Co-Kα線の場合0.07であるとされ、X線源によらず概ね同等であることが判っている。
【0018】
D03型FeAl結晶の最も強度の高い{220}ピークは、B2型FeAl結晶の最も強度が高い{110}ピーク、およびα-Fe結晶の最も強度が高い{110}ピークと回折角2θが近いので、それらのピークが同時に現れるX線回折パターンでは、互いのピークが重畳する。そのような場合、D03型FeAl結晶の{220}面のピーク強度I{220}は、重畳した1つのピークの高さを採用して定めればよい。
【0019】
D03型結晶では、上記{111}ピークの他に、{200}ピークも観測される。D03型FeAl結晶の{200}ピークは、X線源がCu-Kα線である場合には2θ=30.9°付近、Co-Kα線である場合には2θ=36.0°付近に現れる。ただし、この{200}ピークの位置は、B2型FeAl結晶の{100}ピークの位置と近い。したがって、上記の2θ付近に現れるピークの存在のみでD03型FeAl結晶を同定することはできない。D03型FeAl結晶の生成を判定するためには、B2型FeAl結晶や不規則相からの回折ピークと重畳しない2θ位置に現れる上述の{111}ピークの存在に着目することが極めて有効である。なお、本発明のD03型FeAl粒子の粉体においては、上述の強度比I{111}/I{220}が0.005以上であることに加え、{200}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{200}/I{220}についても0.005以上であることがより好ましい。
【0020】
ここで、X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}は、以下のようにして求めることができる。
(X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}の求め方)
対象となる粉体について、X線源にCu-Kα線またはCo-Kα線を使用してX線回折パターンを測定する。{hkl}面のピーク強度I{hkl}は、{hkl}ピーク両側のバックグラウンド部分を含む所定範囲の2θにおける測定データを抽出し、擬フォークト(pseudo-Voigt)関数f(2θ)を用いて最小二乗法でフィッティングした場合のピークの最大値Iとする。擬フォークト関数の式は下記のものを使用できる。このとき、バックグラウンドは直線近似とし、A+B2θで表現される。Cはピークの規格化定数である。n,m,Hはフィッティングパラメータである。ピークの最大値Iは下記(1)式により定まる。
【数1】
【0021】
I{hkl}を定めるためのデータを抽出する2θの範囲、すなわち上述の「{hkl}ピーク両側のバックグラウンド部分を含む所定範囲」としては、例えばX線源にCo-Kα線を使用する場合、I{111}測定用の2θの範囲は30~33°、I{200}測定用の2θの範囲は35~37°、I{220}測定用の2θの範囲は50~55°とすることができる。なお、上記の擬フォークト関数を用いたフィッティングによるX線回折パターンの解析手法については以下の文献が参考になる。
参考文献:虎谷秀穂、「6.プロファイル関数とパターン分解法」、日本結晶学会誌34,86(1992)
【0022】
[粒子の形状]
D03型FeAl粒子は、球状であることがより好ましい。粒子の形状が球状であることによって、例えば熱電素子を形成する際の形成する際の焼結密度の向上や、焼結用ペーストに加工する際の流動性や充填率の向上といった点で有利となる。より具体的には、粉体を構成する粒子の平均円形度が0.80以上であることが望ましい。後述の製造技術に従えば、球状のD03型FeAl粒子で構成される粉体を得ることができる。平均円形度は以下のようにして求めることができる。
【0023】
(平均円形度の求め方)
測定対象である粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子とする。各測定対象粒子について、下記(2)式により円形度を求める。
円形度=4πS/L …(2)
ここで、Sは当該粒子の画像上の面積(μm)、Lは当該粒子の画像上の周囲長(μm)である。
上記円形度の測定を、測定対象粒子の総数が50個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行い、個々の粒子の上記円形度の総和を測定対象粒子の総数で除した値を、当該粉体を構成する粒子の平均円形度とする。
【0024】
[粉体の平均粒子径]
本発明では粒子サイズがミクロンオーダーであるD03型FeAl粒子粉を得ることができる。例えば、SEM画像から求められる長径による平均粒子径が1~500μmの範囲にあるものが対象となる。粒子合成装置の使用に応じて、長径1~300μmの範囲で調整してもよいし、5~100μmの範囲で調整してもよい。ここで、ここで、「長径」は、SEM画像上の粒子の輪郭線を楕円近似した楕円の長軸の長さである。ただしその楕円が真円である場合はその円の直径である。平均粒子径は、以下のようにして求めることができる。
【0025】
(平均粒子径の求め方)
測定対象である粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子し、各測定対象粒子について画像上で長径を測定する。この長径の測定を、測定対象粒子の総数が500個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行う。測定対象粒子についての長径rのヒストグラムを、次式、
【数2】
で表される対数正規分布関数f(r)を用いてフィッティングし、次式、
【数3】
で表される値を算出し、この値を当該粉体の平均粒子径とする。ここで、θ、μはフィッティングパラメータである。
【0026】
また、分級を行ったり、平均粒子径が異なる2種以上の粉体を混合したりすることにより、粒度分布を調整することもできる。
【実施例0027】
[実施例1]
(ガスアトマイズ法による前駆体粒子の合成)
Fe原料として線材切断品(JFEスチール社製、直径5.5mm×長さ10mm、純度99.9%以上)を用意した。Al原料としてショット状粒子(高純度化学研究所社製、粒径5~10mm、純度99.99%以上)を用意した。これらのFe原料とAl原料を、原子比でFe:Al=75:25となるよう秤量し、混合した。この混合物を、φ80mmの水冷銅坩堝に入れ、高周波誘導加熱により1500℃で15分間加熱処理を行い、FeAl合金の溶湯を作製した。窒化ホウ素製のノズル(内径2mm)を使用し、上記の溶湯をノズルから気相空間に押し出すとともに、その押し出された溶湯にArガスを吹き付けるガスアトマイズ法により、金属粒子を合成した。ガスノズル径はφ40mm、ガスの吹付圧力は6MPa、吹付角度は15°とした。得られた金属粒子を回収し、目開き90μmおよび20μmの2種類の篩によって分級することにより、粒子径が20~90μmの粒子を抽出した。抽出された粒子を「前駆体粒子A」と呼ぶ。前駆体粒子Aの組成をEDX(エネルギー分散型X線分析法)により分析したところ、前駆体粒子Aの粉体のFeとAlの原子比Fe:Alは76.2:23.8であった。EDX装置は、SEM(走査型電子顕微鏡)に付属のBruker社製、XFlash6130を使用した(以下の各EDX分析例において同じ。)。
図2に、前駆体粒子Aの粉体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。SEM観察はJEOL製、JSM-7800Fにより行った(以下の各例において同じ。)。写真下部中央付近に示される白のスケールバーの長さが10μmに相当する。
【0028】
(前駆体粒子の平均粒子径)
上掲の「平均粒子径の求め方」に従い、SEM観察によって撮影した画像から平均粒子径を求めた。ソフトウェアとして「Origin 2020」を使用した。Binの幅を30nmとしてLevenberg-Marquardt法により対数正規分布関数f(r)にフィッティングし、フィッティングパラメータθ、μを決定した。そのθ、μに基づいて平均粒子径を算出した。その結果、前駆体粒子Aの平均粒子径は54.7μmと求まった。
(前駆体粒子の平均円形度)
上掲の「平均円形度の求め方」に従い平均円形度を求めたところ、前駆体粒子Aの平均円形度は0.785であった。円形度の分散σは0.136であった。
【0029】
(熱処理)
前駆体粒子Aの粉体について、管状炉を用いてNガスを20L/minで流しながらN雰囲気下で、保持温度300℃、保持時間180分の熱処理を施した。
この熱処理後の粉体を供試粉体として、以下の実験に供した。
【0030】
(供試粉体のX線回折強度比)
供試粉体について、X線回折装置(Malvern Panalytical社製、Empyrean)により、Co-Kα線、管電圧45kV、管電流45mAの条件でX線回折パターンを測定した。得られたX線パターンにはKα1とKα2によるピークが重畳しているため、Rachinger法を用いてKα2由来のピークを除去しKα1由来のピークのみからなるX線回折パターンを取得した。このときKα1とKα2の強度比をKα1/Kα2=0.5とし、X線回折解析ソフトウェア(Malvern Panalytical社製、HighScore Plus)用いて計算した。このKα1由来のピークのみからなるX線回折パターンについて、前掲の「X線回折パターンにおける{hkl}面のピーク強度I{hkl}の求め方」に従い、グラフ解析ソフトウェア(OriginLab Corporation社製、Origin)によりD03型FeAl結晶の{111}面および{220}面の回折ピークの高さを求め、{111}面と{220}面の回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}を算出した。ここで、I{111}測定用の2θの範囲は30~33°、I{220}測定用の2θの範囲は50~55°とした。
【0031】
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例における回折ピーク高さの強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0032】
(供試粉体の組成)
EDX(エネルギー分散型X線分析法)で測定したところ、本例供試粉体のFeとAlの原子比はFe:Al=76.3:23.7であった。
【0033】
(供試粉体の平均粒子径)
上掲の「平均粒子径の求め方」に従い、前駆体粉の場合と同様の方法で平均粒子径を求めたところ、上記熱処理後の平均円形度は53.5μmであった。
(供試粉体の平均円形度)
上掲の「平均円形度の求め方」に従い平均円形度を求めたところ、上記熱処理後の平均円形度は0.840であった。円形度の分散σは0.129であった。
【0034】
表3、表4に各例の主な実験条件、結果を、まとめて示してある。
【0035】
[実施例2]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度350℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.005であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0036】
[実施例3]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度400℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.008であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0037】
[実施例4]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度450℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.012であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0038】
[実施例5]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度450℃、保持時間を10分としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.010であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0039】
[実施例6]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度500℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンを図1に示してある。本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.020であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0040】
本例供試粉体の磁気特性をVSM(カンタムデザイン社製、DynaCool)により測定した。測定条件は、最大印加磁場2T、掃引速度0.01T/sec、時定数1sec、振幅2mm、周波数40kHzである。測定の結果、温度300Kにおいて飽和磁化は144A・m/kg、残留磁化は5.3A・m/kg、保磁力は7.4kA・m/kg(93Oe)であった。
【0041】
[実施例7]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度550℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例におけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.006であり、上記熱処理によってD03型FeAl粒子が得られたことが確認された。
【0042】
[比較例1]
本例では、上記の前駆体粒子Aの粉体(熱処理を施していないもの)を供試粉体として、実施例1と同様の測定を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンからは、D03型Fe3Al結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、ガスアトマイズ法によって生成した粒子に熱処理を施さない場合は、D03型の規則格子構造が得られなかった。
【0043】
[比較例2]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度250℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンにおけるX線回折強度比I{111}/I{220}は0.003であり、熱処理の保持温度が250℃と低い場合にはD03型Fe3Al粒子が十分に得られなかった。
【0044】
[比較例3]
前駆体粒子Aの粉体に施す熱処理の条件において、保持温度650℃としたことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例供試粉体のX線回折パターンからは、D03型Fe3Al結晶の{111}ピークは観測されなかった。すなわち、熱処理の保持温度が650℃と高い場合にはD03型Fe3Al粒子が得られなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
図1
図2