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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145417
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】電解質組成物、シート及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20220926BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220926BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20220926BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/05
H01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123965
(22)【出願日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2021044725
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 梨恵
(72)【発明者】
【氏名】松島 桃加
(72)【発明者】
【氏名】古賀 尚悟
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CA23
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM11
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】伝導率に優れる電池を実現することができる電解質組成物、該電解質組成物を含有するシート、及び該電解質組成物又は該シートを有する電池を提供する。
【解決手段】ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下である、電解質組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下である、電解質組成物。
【請求項2】
ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を主鎖に有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下である、電解質組成物。
【請求項3】
前記ポリマー(A)が硫黄原子を1分子に2個以上有する、請求項1又は請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記ポリマー(A)がチオカルボニル基、チオカルボニルチオ基、及びトリチオカーボネート基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する、請求項1~3のいずれかに記載の電解質組成物。
【請求項5】
前記ポリマー(A)の30℃における角周波数0.1rad/sの時の複素粘度が1000Pa・s以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記ポリマー(A)が、炭素数が5以上であるアルキル基を側鎖に有するポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
前記ポリマー(A)と前記硫化物系固体電解質(B)との合計を100vol%とした際に、前記ポリマー(A)を0.01vol%以上30vol%以下含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
前記ポリマー(A)の分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電解質組成物を含有する、シート。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電解質組成物、または請求項9に記載のシートを有する、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物、シート及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池には一次電池や二次電池等があり、各電池の特性に応じて様々な用途で使用されている。一次電池は、一時的な大電流を必要とせず長期間無交換が好まれる多様な電源として用いられ、主な用途は、リモコン、時計、電子メーターといった各種小型電子機器やLEDキーホルダー、電気浮き、住宅用火災警報器などである。二次電池は、エネルギー密度及び出力密度等に優れ、小型、軽量化に有効であるため、ノート型パソコン、タブレット型端末、携帯電話及びハンディビデオカメラ等の携帯機器の電源としてその需要は急激な伸びを示している。二次電池はまた、電気自動車や電力のロードレベリング等の電源としても注目されている。
【0003】
一次電池や二次電池では、通常、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造及び材料面での改善が必要となる。また、高温下では、発火やガス発生のおそれ、ガスによるセル内部の圧力の上昇に起因する機器の破損のおそれ等、安全面での問題も生じていた。
そこで近年、電解液に代えて固体電解質を用いた電池の開発が進められている。固体電解質を用いた電池では、電池内に有機溶媒が用いられないので、安全装置の簡素化による製造コストや生産性の向上、また、発火やガス発生、機器の破損等の抑制による安全性の向上、熱的安定性や化学的安定性の向上が期待されている。
【0004】
固体電解質の技術開発は多岐にわたり、固体電解質だけでなく、固体電解質同士を接着させるバインダーに関する開発も行われている。例えば、特許文献1には、無機固体電解質と、特定の構造を有する高分子化合物で構成されたバインダーを用いることで、固体電解質の界面抵抗の上昇抑制や良好なイオン伝導度等が実現された全固体二次電池を提供することができる技術が開示されている。また、特許文献2には、特定の構造を有する非球状ポリマー粒子、分散媒体、及び固体電解質を用いることで、イオン伝導度の低下抑制及び良好な結着性が実現された全固体二次電池を提供することができる技術が開示されている。
【0005】
特許文献1においては、実施例の一部に、硫化物系固体電解質を無機固体電解質として用い、カルボキシル基あるいはホスホン酸基を含有するポリマーをバインダーとして用いた例が記載されているが、このような材料では硫化物系電解質とバインダーとの親和性が十分でなく、ポリマーが電解質表面に対し不均一に配置するため膜中の空隙が多く、硫化物固体電解質単体のイオン伝導率と比較すると低下し、プレス圧力が十分でない条件ではその差が顕著である。
特許文献2においても、実施例の一部に、硫化物系固体電解質を無機固体電解質として用い、特定の官能基を含有するポリマーをバインダーとして用いた例が記載されているが、同じくポリマーが電解質表面に対し不均一に配置するため膜中の空隙が多く、硫化物固体電解質単体のイオン伝導率と比較すると低下し、プレス圧力が十分でない条件ではその差が顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/017758号
【特許文献2】特開2015-167126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、固体電解質は、製造コストや生産性、安全性等の観点からは電解液よりも優れている。しかし、伝導率の観点からは固体電解質よりも電解液の方が有利であり、より高性能な電池を開発するため改善の余地がある。また、固体電解質では、電解液と比較して材料の種類の検討が十分なものとはいえず、材料の種類の幅を拡大することが望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、伝導率に優れる電池を実現することができる電解質組成物、該電解質組成物を含有するシート、及び該電解質組成物又は該シートを有する電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定の固体電解質と、ガラス転移温度または融点が特定温度以下のポリマーを用いることにより、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下である、電解質組成物。
[2] ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を主鎖に有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下である、電解質組成物。
[3] 前記ポリマー(A)が硫黄原子を1分子に2個以上有する、[1]又は[2]に記載の電解質組成物。
[4] 前記ポリマー(A)がチオカルボニル基、チオカルボニルチオ基、及びトリチオカーボネート基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の電解質組成物。
[5] 前記ポリマー(A)の30℃における角周波数0.1rad/sの時の複素粘度が1000Pa・s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の電解質組成物。
[6] 前記ポリマー(A)が、炭素数が5以上であるアルキル基を側鎖に有するポリマーである、[1]~[5]のいずれかに記載の電解質組成物。
[7] 前記ポリマー(A)と前記硫化物系固体電解質(B)との合計を100vol%とした際に、前記ポリマー(A)を0.01vol%以上30vol%以下含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の電解質組成物。
[8] 前記ポリマー(A)の分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の電解質組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の電解質組成物を含有する、シート。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の電解質組成物、または[9]に記載のシートを有する、電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、伝導率に優れる電池を実現することができる電解質組成物、該電解質組成物を含有するシート、及び該電解質組成物又は該シートを有する電池を提供することができる。
さらに、固体電解質は、固体であるが故に、外的な負荷により屈曲した場合に破損してしまう問題が発生し得る。しかし、本発明により提供される電解質組成物は、耐屈曲性に優れるため、このような問題が生じにくい点で有利である。また、想定されるシート型電
池として用いた場合、その製造プロセスの1つとしてロール・ツー・ロールが挙げられる点を考慮しても、耐屈曲性に優れる点は有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
また、2つ以上の対象を併せて説明する際に用いる「独立して」とは、それらの2つ以上の対象が同じであっても異なっていてもよいという意味で使用される。
また、本明細書において、「複数」とは、「2以上」を意味する。
【0013】
[1.電解質組成物]
本発明の一実施形態である電解質組成物(単に「電解質組成物」や「組成物」とも称する)は、ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)とを含有し、かつ前記ポリマー(A)が、硫黄原子を有し、かつ、前記ポリマー(A)のガラス転移温度または融点が50℃以下であることを特徴とする、電解質組成物である。該ポリマー(A)は、硫化物系固体電解質(B)同士を接着する、及び/又は硫化物系固体電解質(B)と他の部材(例えば、集電体、活物質、又は活物質の表面の界面接合材等)とを接着するバインダーとして機能する。
上記の電解質組成物は、硫化物系固体電解質に加えて特定のポリマーを含有しているため、高い伝導率を得ることができる。この効果の要因の一つとして、ポリマー(A)が硫黄原子を有することにより、硫化物系固体電解質表面との親和性が高くポリマーが硫化物系固体電解質の表面により均一に配置し、膜中の空隙が少なくなり、更にポリマー(A)の硫化物固体電解質への吸着が促されることで硫化物系固体電解質粒子同士の結着が促進され複合膜における硫化物系固体電解質の体積分率が上昇することで硫化物系固体電解質単体からのイオン伝導率低下を最小限に抑えることが可能になる。更に、硫化物固体電解質表面にポリマーが均一に配置した電解質組成物を製膜後加圧した際、電解質組成物中のポリマー(A)のガラス転移温度または融点が低く柔軟性が高いために、膜中の空隙が更に少なくなり、硫化物系固体電解質粒子の表面同士がより接触あるいは近くなる。さらに、上記の電解質組成物は、耐屈曲性にも優れることが本発明者らによって見出されたが、この効果についても、ポリマー(A)の硫化物系固体電解質表面における均一な配置且つガラス転移温度または融点が低く柔軟性が高いことにより、屈曲された際にかかる応力が緩和されて膜の破損を抑制していると考えられる。
【0014】
<1-1.ポリマー(A)>
ポリマー(A)の構造は、硫黄原子を有していれば特段制限されず、直鎖のみから構成されていてもよく、分岐鎖を有していてもよく、環状構造を有していてもよい。また、電解質組成物は、ポリマー(A)を1種類で用いても、2種類以上で併用してもよい。
また、ポリマー(A)は側鎖に置換基を有していてもよい芳香環、アルキル基、オキシアルキレン基、リン酸基、アミノ基、イミダゾール基、又はシロキサン基などを有していてもよく、この限りではない。上記に含まれる硫黄原子は、スルホニル基由来でない硫黄原子であることが、イオン伝導率低下を抑える点で好ましい。
ポリマー(A)は、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、置換基を有していてもよいアルキル基を側鎖に有することが好ましく、アルキル基の炭素数としては、通常4以上であり、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、12以上であることが特に好ましく、また、通常24以下であり、22以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましく、16以下であることが特に好ましい。
上記の「置換基を有していてもよい」における「置換基」は、ハロゲン、シアノ基、アミノ基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、又はセレノ基等の基を表す。これは、特段の断りがない限り、以下の説明でも同様とする。また、側鎖に有し得る上記のアルキル基は置換基を有していてもよいが、有していなくともよい。
【0015】
ポリマー(A)の1分子に含まれる硫黄原子の数は、1個以上であれば特段制限されないが、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、2個以上であることが好ましく、3個以上であればより好ましく、上限は特に設定することを要しないが、通常300個以下である。
ポリマー(A)が含有する硫黄原子の場所としては、ポリマー(A)の主鎖であっても側鎖であってもよい。中でも、伝導率向上の観点から主鎖であることが好ましい。
ポリマー(A)における硫黄原子を含む基又は構造としては、例えば、
チオケトン基等のチオカルボニル基、チオール基、スルフィド(チオエーテル)基、モノチオエステル基、スルホキシド基、チオウレタン基、もしくはチオカルバメート基等の硫黄原子が1個の基又は構造;
ジチオベンゾアート基、ジチオカルバメート基、キサンタート基、もしくはジチオエステル基等のチオカルボニルチオ基(下記式(1)で表される構造)、ジチオール基、もしくはジスルフィド基等の硫黄原子が2個の基又は構造;
トリチオカーボネート基(下記式(2)で表される構造)、トリチオール基、もしくはトリスルフィド基等の硫黄原子が3個の基又は構造;又は、
ポリスルフィド等の硫黄原子が4個以上の基又は構造、スルホニル基が挙げられるが、スルホニル基由来でないものがガラス転移点あるいは融点を50℃以下に調整しやすい点で好ましい。ポリマー(A)は、これらの基又は構造を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、構造式中の波線は、他の原子や構造との結合部分を表す。
【0016】
【化1】
【0017】
上記の基及び構造の中でも、イオン伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、ポリマーに、チオケトン基等のチオカルボニル基、スルフィド(チオエーテル)基、モノチオエステル基、もしくはスルホキシド基;ジチオベンゾアート基、ジチオカルバメート基、キサンタート基、もしくはジチオエステル基等のチオカルボニルチオ基(上記式(1)で表される構造)、もしくはジスルフィド基;トリチオカーボネート基(上記式(2)で表される構造);又は硫黄原子が4個以上のポリスルフィドを有することが好ましい。
特に、ポリマーに、モノチオエステル基;ジチオベンゾアート基、ジチオカルバメート基、キサンタート基、もしくはジチオエステル基等のチオカルボニルチオ基(上記式(1)で表される構造);トリチオカーボネート基(上記式(2)で表される構造)を有する
ことが好ましく、さらにジチオベンゾアート基、ジチオカルバメート基、キサンタート基、もしくはジチオエステル基等のチオカルボニルチオ基(上記式(1)で表される構造);トリチオカーボネート基(上記式(2)で表される構造)を有することが好ましく、チオカルボニル基、チオカルボニルチオ基、及びトリチオカーボネート基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有することがより好ましく、さらにトリチオカーボネート基(上記式(2))を有することが最も好ましい。
【0018】
ポリマー(A)における硫黄原子を含む基又は構造以外の構造は、特段制限されないが、イオン伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、下記式(3)で表される構造をポリマーの主鎖に有することが好ましい。
【0019】
【化2】
【0020】
上記式(3)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは、一価の有機基を表す。
本明細書において、一価の有機基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアミド基、シアノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、もしくは置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は、これらの基に、これらの基から1個の水素原子を除いた二価の有機基を1つ以上連結させた基を表す。
また、上記(3)において、lは、1~2000の整数、好ましくは1~1500の整数、より好ましくは1~1000の整数、さらに好ましくは1~500の整数、特に好ましくは1~100の整数を表す。lの好ましい範囲が上記である理由は、塗布プロセスに適した粘度を有する組成物を調製することができ、ポリマー(A)が硫化物系固体電解質(B)表面により均一に塗布できる点が挙げられる。
【0021】
上記式(3)で表される構造は、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、下記式(4)で表される構造であることが好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
上記式(4)において、Rは上記式(3)におけるRと同様である。Rは、一価の有機基を表すが、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、炭素数5~15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数8~13のアルキル基であることが好ましい。
また、上記(4)において、lは、上記式(3)におけるlと同様である。
【0024】
上記式(4)で表される構造は、硫黄原子を含む基又は構造に隣接して結合されることが好ましい。さらに、ポリマー(A)は、下記式(5)で表される構造で示されるように、硫黄原子を含む基又は構造の両末端に、上記式(4)で表される構造が結合した構造を有することが好ましい。
【0025】
【化4】

上記式(5)において、R及びR’は、独立して、上記式(4)におけるRと同様である。
及びRは、独立して、一価の有機基を表す。
また、上記式(5)において、R及びRは、独立して、上記式(4)におけるRと同様である。
また、上記(5)において、l及びl’は、独立して上記式(3)におけるlと同様である。
【0026】
さらに、上記式(5)で表される構造は、下記式(6)で表される構造であることが好ましい。
【0027】
【化5】
【0028】
上記式(6)において、R、R’R、R、l、l’は、それぞれ上記式(5)におけるR、R’、R、R、l、l’と同様である。
また、上記式(6)において、環A及び環A’は、独立して、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、特に、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基であることが好ましく、芳香族炭化水素環基、中でもフェニレン基であることがより好ましい。
また、上記式(6)において、R及びRは、独立して、一価の有機基を表す。
【0029】
ポリマー(A)の具体例を下記式(7)~(10)に示すが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化6】
【0031】
上記(7)において、R及びR’、R及びR’、並びにl及びl’は独立に、それぞれ、上記式(4)におけるR、R、及びlと同様である。
10、R10’としては、独立して下記の構造が挙げられる。なお、下記の構造中の波線は、上記式(7)におけるフェニレン基との結合箇所を表す。
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
上記(8)において、R及びR’、R及びR’、並びにl及びl’は独立に、それぞれ、上記式(4)におけるR、R、及びlと同様である。
11としては下記の構造が挙げられる。なお、下記の構造中の波線は、上記式(8)
における繰り返し単位との結合箇所を表す。
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
上記(9)において、R及びR’、R及びR’、並びにl及びl’は独立に、それぞれ上記式(4)におけるR、R、及びlと同様である。
12としては下記の構造が挙げられる。なお、下記の構造中の波線は、上記式(9)
における繰り返し単位との結合箇所を表す。
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
上記(10)において、R、R及びlは、それぞれ上記式(4)におけるR、R及びlと同様である。
13としては下記の構造が挙げられる。なお、下記の構造中の波線は、上記式(10)における繰り返し単位との結合箇所を表す。
【0041】
【化13】
【0042】
上記の具体例の中でも、特に(7)で示すポリマーが好ましい。
【0043】
電解質組成物中のポリマー(A)の含有量は、特段制限されないが、十分な伝導率及び耐屈曲性を確保する観点から、通常0.01vol%以上であり、0.05vol%以上であることが好ましく、0.1vol%以上であることがより好ましく、0.3vol%以上であることがさらに好ましく、0.5vol%以上であることが特に好ましく、また、通常30vol%以下であり、25vol%以下であることが好ましく、20vol%以下であることがより好ましい。
【0044】
ポリマー(A)の構造形態は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ジブロックコポリマー、トリブロック以上のマルチブロックコポリマー、グラジエントコポリマー、グラフトコポリマー、又はスターコポリマー等いずれでもよいが、結着性の観点から、中でもホモポリマー、ランダムコポリマー、又はジブロックコポリマーであることが好ましい。
【0045】
ポリマー(A)のガラス転移点又は融点は、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、50℃以下であるが、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、10℃以下であることがさらに好ましく、また、所望のハンドリング性や機械物性を確保する観点から、通常-200℃以上であり、-100℃以上であることが好ましく、-90℃以上であることがより好ましく、-80℃以上であることがさらに好ましく、-60℃以上であることがさらに好ましく、-40℃以上であることがさらに好ましく、-20℃以上であることがさらに好ましい。ポリマーは、ガラス転移温度及び融点の両方を有するものであっても、ガラス転移温度及び融点のいずれか一方のみを有するものであってもよい。
上記のガラス転移点、及び融点は、示差走査熱量計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製のDSC7000X)を用いて下記条件で測定し評価することができる。
・昇温温度:10℃/min
・測定開始温度:-150℃
・測定終了温度:160℃
・試料パン:アルミニウム製パン
・測定試料の質量:5mg
・ガラス転移温度(Tg)の算定:室温から-150℃まで30℃/min程度にて急冷し、-150℃にて5分間保持した後、昇温過程において、潜熱を伴わない比熱の変化に由来する、DSC曲線のベースラインシフトの、シフト開始温度とシフト終了温度の中間温度をTgとする。
・融点の算定:融解に由来するDSC曲線の吸熱ピーク温度をTmとする。
(Tg又は/及びTmが複数存在する場合は、Tg及びTmのうち最も低い温度を適用することとする。)
【0046】
ポリマー(A)の30℃における角周波数0.1rad/sの時の複素粘度は、特段制限されないが、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、通常5000Pa・s以下であり、2000Pa・s以下であることが好ましく、1000Pa・s以下であることがより好ましく、100Pa・s以下であることがより好ましく、10Pa・s以下であることがさらに好ましく、通常1Pa・s以上であり、5Pa・s以上であることが好ましい。この複素粘度は、例えば、ポリマー(A)の分子量や形態を調整することにより制御することができる。
上記の複素粘度は、レオメーター(例えば、ティー・エイ・インスツルメント社製のDHR-3)を用いて、以下の条件で測定することにより評価することができる。
・測定モード:周波数分散
・ジオメトリー:25mmアルミニウム製パラレルプレート
・温度:30℃
・角周波数:0.1~100rad/s(0.1rad/sの時の数値を採用する)
【0047】
ポリマー(A)の数平均分子量(Mn)は、特段制限されないが、通常5000g/mol以上であり、8000g/mol以上であることが好ましく、10000g/mol以上であることがより好ましく、12000g/mol以上であることがさらに好ましく、また、通常500000g/mol以下であり、200000g/mol以下であることが好ましく、150000g/mol以下であることがより好ましく、120000g/mol以下であることがさらに好ましい。
ポリマー(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特段制限されないが、通常5.0以下であり、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましく、また、特に下限を設定することは要しないが、通常1.0以上である。分子量分布は、重合方法の選択、再沈などの精製処理で減少させることができる。
上記の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、株式会社島津製作所製のNexera-i LC-2040C 3D(PDAモデル))、及びカラム(例えば、昭和電工株式会社製のKF-602.5、KF-603、KF-604)を用いて下記条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として評価することができる。
・カラム温度40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン、流量0.5mL/min
【0048】
ポリマー(A)の合成方法は、特段制限されず、公知の合成方法を用いる、又は複数の公知の合成方法を組み合わせることにより行うことができる。
【0049】
ポリマー(A)の合成方法は、特に限定されず、例えばラジカル重合、イオン重合、重付加、重縮合などの公知の重合方法を選択でき、またポリマーは、これらの公知の方法で合成したポリマーの誘導体や変性体であってもよい。なかでも合成手法が簡便であることから、ラジカル重合法を用いて合成されるポリマー、あるいはラジカル重合を用いて合成されるポリマーの変性体が好ましい。ラジカル重合としては、フリーラジカル重合、又は可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を含むリビングラジカル重合(可逆的不活性化ラジカル重合)が挙げられ、中でも伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合が好ましい。
【0050】
(モノマー)
重合するモノマーとしては、特に限定されず公知のものを使用することができる。例えば、下記のものが挙げられる。
【0051】
芳香環含有モノマー(芳香族複素環含有モノマー又は芳香族炭化水素環含有モノマー):ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングレコール(メタ)アクリレート、2-ナフチル(メタ)アクリレート、9-アントラセニル(メタ)アクリレート、1-ピレニルメチル(メタ)アクリレートスチレン、ビニルナフタレン、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-t-ブトキシスチレン、m-t-ブトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4-ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレン、ビニルフェノール、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン、又はベンジルビニルエーテルなど。
【0052】
脂肪族炭化水素基含有モノマー:このモノマーを用いる場合、脂肪族炭化水素基は、直鎖状、環状、分岐状のいずれであってもよい。
[直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基を有するモノマー]
エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレー
ト、i-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(ドデシル)(メタ)アクリレート、i-ラウリル(ドデシル)(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレートエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のジカルボン酸エステル誘導体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸ビニル、又は酢酸イソプロペニル等のビニルエステル類など。
[環状の脂肪族炭化水素基を有するモノマー]
シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、もしくはアダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類、又はシクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5-シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1-クロロ-1,5-シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、5-ノルボルネン-2-カルボン酸メチル、もしくは5-ノルボルネン2,3-ジカルボン酸ジメチル等の環状オレフィン類など。
【0053】
オキシアルキレン鎖含有モノマー:
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール-テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、プロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、又はノニルフェノキシポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)(メタ)アクリレートなど。
【0054】
アニオン性モノマー:
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、或いはこれらの塩等のカルボン酸系モノマー、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミドエタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミドエタンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4-アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2-メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4-メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、もしくはこれらの塩等のスルホン酸系
モノマー、又はビニルホスホン酸、メタアクリロキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-メタクリロイロキシエチルホスフェート、もしくはジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート或いはこれらの塩等のリン酸系モノマー。
【0055】
カチオン性基を有するモノマー:
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピルなどの第1級アミノ基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸エチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンなどの第2級アミノ基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノプロピルなどの第3級アミノ基を有するモノマー、これら第1-3級アミノ基を有するモノマーのハロゲン化水素、硫酸、硝酸、有機酸等による中和塩、ハロゲン化アルキル、ベンジルハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等による四級化物、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、N-ビニルピロリドン、2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、N-ビニルオキサゾリドン、2-N-ピロリドンエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルカプロラクタム、9-ビニルカルバゾール、N-ビニルフタルイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、又はアジリジン環含有モノマーなどのヘテロ環を有するモノマーなど。
【0056】
ニトリル基を有するモノマー:
アクリロニトリル、又はメタクリロニトリルなど。
【0057】
親水性ノニオン性モノマー:
(メタ)アクリルアミド、炭素数1~6のN-アルキル(メタ)アクリルアミド、炭素数1~3のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエタノール(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-(2-(ポリエチレングリコール)エチル)(メタ)アクリルアミド、もしくはN,N-(2,2’-(ポリエチレングリコール)ジエチル)(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、もしくは2-ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの水酸基を含有するモノマー、グルコース、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、マンノサミン、もしくはガラクトサミン等の六炭糖類、アラビノース、キシロース、もしくはリボース等の五炭糖類、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラミナリビオース、キトビオース、キシロビオース、マンノビオース、もしくはソホロース等の2糖類、その他、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マンノトリオース、もしくはマンニノトリオース等のオリゴ糖、セルロース、変性セルロース等の多糖類に由来するような構造を持ちグリコシル基を有するモノマー、例えばグルコシルエチルメタクリレート等のようなモノマー、又はポリビニルアルコール構造を有するモノマーなど。
疎水性ノニオン性モノマー:
グリシジル(メタ)アクリレート、もしくは4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのグリシジル基を含有するモノマー、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどのイソシアネート基を含有するモノマー、又はビニレンカーボネート、もしくはビニルエチレンカーボネートなどのカーボネート基を含有するモノマーな
ど。
【0058】
(重合反応溶媒)
ラジカル重合反応は、無溶媒又は溶媒の存在下に行なうことができるが、溶媒存在下で重合反応を行うことが好ましい。
重合反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、もしくはジメトキシベンゼン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、もしくはN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、もしくはベンゾニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、もしくはプロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、もしくはイソアミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、もしくはキシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、又は四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、中でも、重合反応溶媒としては水性溶媒が好ましい。
水性溶媒とは、水100%もしくは水と極性有機溶媒とを任意の比率で混合した溶媒を指す。ここで用いる極性有機溶媒は、水と任意の比率で混合可能なものであればよく、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジチルスルホキシド、又はテトラヒドロフラン等が例示される。これらの中で、特にメタノール、エタノール、又はイソプロパノールが好ましい。
これらの溶媒は1種類のみからなる単一溶媒でもよいし、2種類以上からなる混合溶媒でもよい。
【0059】
(重合開始剤)
ポリマーを合成する際のラジカル重合反応には公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤でも油溶性の重合開始剤でも使用できる。
【0060】
<水溶性重合開始剤>
水溶性の重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン}ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、もしくは2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6,-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等のアゾ化合物系開始剤、過硫酸カリ、過硫酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、もしくは過酸化水素等の酸化剤単独、又は亜硫酸ソーダ、次亜硫酸ソーダ、硫酸第1鉄、硝酸第1鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、もしくはチオ尿素等の水溶性還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
<油溶性重合開始剤>
油溶性の重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビスシクロヘキサン1-カーボニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2
’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、もしくは2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物系開始剤、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、3,5,5-トリメチルヘキサノニルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、プロピオニトリルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシラウレート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジベンゾイルパーオキシヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソブチルジパーオキシフタレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジt-ブチルパーオキシヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ピナンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド及びクメンパーオキサイド等のパーオキサイド重合開始剤、又はヒドロペルオキサイド(tret-ブチルヒドロキシペルオキサイド、クメンヒドロキシペルオキサイド等)、過酸化ジアルキル(過酸化ラウロイル等)もしくは過酸化ジアシル(過酸化ベンゾイル等)等の油溶性過酸化物と、第三アミン(トリエチルアミン、トリブチルアミン等)、ナフテン酸塩、メルカプタン(メルカプトエタノール、ラウリルメルカプタン等)、もしくは有機金属化合物(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素及びジエチル亜鉛等)等の油溶性還元剤とを併用する油溶性レドックス重合開始剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
(添加剤)
ラジカル重合反応には、上記の重合開始剤に加え、得られるポリマーを好ましい分子量に調節するために、連鎖移動剤、連鎖停止剤、又は重合促進剤等、公知のものを添加使用することができる。連鎖移動剤としては例えばチオール化合物が挙げられ、メルカプトエタノール、n-ラウリルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、又はシクロヘキシルメルカプタンなど挙げられる。これらの中でも、硫化物固体電解質と複合化する際に用いる溶媒への溶解性の点で、n-ラウリルメルカプタン、又はn-オクチルメルカプタンが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
<可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤>
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合でポリマーを合成する際に用いられるRAFT剤としては、公知のものが挙げられ特に限定されるものではない。ジチオカルバメート型のRAFT剤としては、例えば4-クロロ-3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸2’-シアノブタン-2’-イル、3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸2’-シアノブタン-2’-イル、3,5-ジメチルピラゾール-1-カルボジチオ酸シアノメチル、N-メチル-N-フェニルジチオカルバミン酸シアノメチル、ベンゾジチオ酸2-シアノプロパン-2-イル、4-シアノ-4-[(チオベンゾイル)スルファニル]ペンタン酸、4-メトキシベンゼンカルボジチオ酸フェニルメチルエステル、ベンゾジチオ酸酢酸エチルエステル、ベンゾジチオ酸ベンジル、メチル(フェニル)カルバモ
ジチオ酸シアノメチル、2-[(エトキシカルボノチオイル)チオ]プロピオン酸エチル、ベンゾジチオ酸2-フェニルプロパン-2-イル、S-(チオベンゾイル)チオグリコール酸、2-Cyanobutan-2-yl 4-chloro-3,5-dimethyl-1H-pyrazole-1-carbodithioate、2-Cyanobutanyl-2-yl 3,5-dimethyl-1H-pyrazole-1-carbodithioate、もしくはCyanomethyl (3,5-Dimethyl-1H-pyrazole)-carbodithioate;又は
トリチオカルバメート型のRAFT剤としては、例えばトリチオ炭酸=ビス[4-(アリルオキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸ビス{4-[エチル-(2-ヒドロキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸=ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィド、4-[(2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]-4-シアノペンタン酸、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-シアノ-2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、4-シアノ-4-[[(ドデシルチオ)カルボノチオイル]チオ]ペンタン酸、トリチオ炭酸ドデシルシアノメチル、トリチオ炭酸ドデシル2-シアノ-2-プロピル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミジル、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタノール、S,S-ジベンジルトリチオカルボネート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート、シアノメチルドデシルトリチオカーボネート、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸メチル、3,5-Bis(2-dodecylthiocarbonothioylthio-1-oxopropoxy)benzoic acid、3-Butenyl 2-(dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionate、Cyanomethyl [3-(trimethoxysilyl)propyl] trithiocarbonate、2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic acid 3-azido-1-propanol ester、
もしくは2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic acid N-hydroxysuccinimide ester、Phthalimidomethyl butyl trithiocarbonateなどが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、トリチオ炭酸=ビス[4-(アリルオキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸ビス{4-[エチル-(2-ヒドロキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、又はトリチオ炭酸=ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]、などが挙げられる。
また、伝導率、耐屈曲性の観点から、ベンゾジチオ酸2-シアノプロパン-2-イル、トリチオ炭酸=ビス[4-(アリルオキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸ビス{4-[エチル-(2-ヒドロキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸=ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸ドデシルシアノメチル、トリチオ炭酸ドデシル2-シアノ-2-プロピル、トリチオ炭酸ドデシル2-シアノ-2-プロピル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸
が好ましく、トリチオ炭酸=ビス[4-(アリルオキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]、トリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸ビス{4-[エチル-(2-ヒドロキシエチル)カルバモイル]ベンジル}、トリチオ炭酸=ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]がより好ましく、又はトリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバモイル]ベンジル}が最も好ましい。
【0065】
(重合条件)
重合反応を行う際、モノマー、重合反応溶媒、及びラジカル開始剤等の添加順序等は任意であるが、例えば、モノマー、重合反応溶媒、及びラジカル重合開始剤を反応容器に一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が挙げられる。この場合、モノマーあるいはラジカル重合開始剤をそのままの状態あるいは溶液にして追加添加してもよい。また、別の方法としては、重合性モノマー、及び重合反応溶媒を反応容器に仕込んで温度を上昇させた後に、ラジカル重合開始剤を含有するモノマー溶液、重合反応溶媒、又はこれらの混合物を、連続的に又は分割して添加し、重合反応を行う方法等が挙げられる。
これらの中でも操作の簡便性から、原料を一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が好ましい。
重合反応溶媒の使用量は特に限定されないが、モノマー100重量部に対し、通常1重量部以上、通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
重合開始剤の使用量は、用いる重合開始剤の種類によっても異なり、特に限定されないが、モノマー100重量部に対して、通常0.5重量部以上、15重量部以下である。
重合温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0066】
(精製)
重合により得られたポリマーは未精製のまま使用しても特に問題はないが、常法に従って精製し、次の工程へ供されるのが好ましい。精製方法としては、ポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒へポリマー溶液を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す再沈などの精製、ポリマー溶液にポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す分別沈澱精製、加熱蒸留や、減圧蒸留等によって未反応モノマーや反応溶媒を除去した後に、溶媒を水及び/又は水性溶媒に置換する方法、さらには限外濾過膜や透析膜などを用いて低分子不純物や低分子量オリゴマー成分を除去する方法などが挙げられる。
(変性)
重合で得られたポリマーとチオール変性剤とを反応させ、側鎖の末端官能基(グリシジル基、イソシアネート基、又はカーボネート基など、これらに限られたものではない)にS原子を導入する方法などが挙げられる。
【0067】
<1-2.硫化物系固体電解質(B)>
硫化物系無機固体電解質は、硫黄(S)を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、SおよびPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的または場合に応じて、Li、SおよびP以外の他の元素を含んでもよい。
【0068】
例えば下記一般式(11)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
Laaa1Maab1c1d1Aaae1 (11)
一般式(11)中、LaaはLi、NaおよびKから選択される元素を示し、Liが好
ましい。Maaは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。これらの中でも、B、Sn、Si、Al、又はGeが好ましく、Sn、Al、又はGeがより好ましい。Aaaは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示し、I又はBrが好ましく、Iが特に好ましい。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~1:1:2~12:0~5を満たす。a1はさらに、1~9が好ましく、1.5~4がより好ましい。b1は0~0.5が好ましい。d1はさらに、3~7が好ましく、3.25~4.5がより好ましい。e1はさらに、0~3が好ましく、0~1がより好ましい。
一般式(11)において、Laa、Maa、P、S及びAaaの組成比は、好ましくはb1、e1が0であり、より好ましくはb1=0、e1=0で且つa1、c1及びd1の比(a1:c1:d1)がa1:c1:d1=1~9:1:3~7であり、さらに好ましくはb1=0、e1=0で且つa1:c1:d1=1.5~4:1:3.25~4.5である。各元素の組成比は、後述するように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0069】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、PおよびSを含有するLi-P-S系ガラス、またはLi、PおよびSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、[1]硫化リチウム(LiS)と、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、[2]硫化リチウムと、単体燐および単体硫黄の少なくとも一方、または[3]硫化リチウムと、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))と、単体燐および単体硫黄の少なくとも一方、の反応により製造することができる。
Li-P-S系ガラスおよびLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは65:35~85:15、より好ましくは68:32~80:20である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0070】
具体的な化合物例としては、例えばLiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。具体的には、LiSP、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiSP-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiSGeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、又はLi10GeP12などが挙げられる。これらの中でも、LiS-P、LiS-GeS-Ga、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-GeS-P、もしくはLi10GeP12からなる結晶質、もしくは非結晶質又は結晶質と非晶質との混合物等の原料組成物が、高いリチウムイオン伝導性を有するので好ましい。このような原料組成物を用いて硫化物固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカ
ニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、これらの中でもメカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0071】
電解質組成物中の硫化物系固体電解質(B)の含有量は、特段制限されないが、十分な伝導率及び耐屈曲性を確保する観点から、通常10vol%以上であり、15vol%以上であることが好ましく、20vol%以上であることがより好ましく、25vol%以上であることがさらに好ましく、30vol%以上であることが特に好ましく、また、通常99.99vol%以下であり、99.95vol%以下であることが好ましく、99.9vol%以下であることがより好ましく、99.7vol%以下であることがさらに好ましく、99vol%以下であることが特に好ましい。
また、ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)との合計を100vol%とした際のポリマー(A)の含有比率は、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、通常0.01vol%以上であり、0.05vol%以上であることが好ましく、0.1vol%以上であることがより好ましく、0.3vol%以上であることがさらに好ましく、また、通常40vol%以下であり、30vol%以下であることが好ましく、25vol%以下であることがより好ましく、20vol%以下であることがさらに好ましい。
また、ポリマー(A)と硫化物系固体電解質(B)との合計を100vol%とした際の硫化物系固体電解質(B)の含有比率は、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、通常60vol%以上であり、70vol%以上であることが好ましく、75vol%以上であることがより好ましく、80vol%以上であることがさらに好ましく、また、通常99.99vol%以下であり、99.95vol%以下であることが好ましく、99.9vol%以下であることがより好ましく、99vol%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
<1-3.その他の材料>
電解質組成物は、上記のポリマー(A)及び硫化物系固体電解質(B)以外の材料を含んでいてよく、例えば、分散媒体、負極活物質、正極活物質、導電助剤、増粘剤、又は上記のポリマー(A)以外のバインダー等と併用することができる。
【0073】
(分散媒体)
本実施形態に係る固体電解質組成物においては、分散媒体を用いてもよい。分散媒体としては、有機溶媒を用いることができ、有機溶媒の種類は特に限られるものではないが、硫化物系固体電解質との反応性が低い観点で、非水溶性有機溶媒が好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
・芳香族化合物溶媒
ベンゼン、トルエン、アニソール、又はテトラリンなど
・脂肪族化合物溶媒
ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ペンタン、シクロペンタン、又はデカンなど
・含ハロゲン化合物溶媒
ジクロロメタン、又はジクロロエタンなど
・ニトリル化合物溶媒
アセトニトリルなど
【0074】
上記の分散媒体の具体例の中でも、硫化物系固体電解質との反応性が低く硫化水素の発生が抑えられるという点から、ベンゼン、トルエン、アニソール、テトラリン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ペンタン、シクロペンタン、デカン、ジクロロメタン、又はジクロロエタンが好ましく、組成物の安定性の観点からトルエン、アニソール、テトラリン、オクタン、ペンタン、シクロペンタン、デカン
、又はジクロロエタンがより好ましい。
【0075】
<組成物の製造方法>
(分散)
無機固体電解質組成物は、機械分散または粉砕処理を行ってもよい。無機固体電解質組成物中の無機固体電解質を粉砕する方法としては、例えば機械分散法が挙げられる。機械分散法としては、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー、又はディスクミルなどが用いられる。
ボールミルのボールの材質は、メノー、シンタードアルミナ、タングステンカーバイト、クローム鋼、ステンレンススチール、ジルコニア、プラスチックポリアミド、ナイロン、窒化珪素、又はテフロン(登録商標)等があげられる。
ボールミルの分散中、使用するボールは同一のものを用いてもよいし異なるボールを2種以上用いてもよい。途中、ボールを追加することや、形状や、大きさ、又は材質の異なるボールに変更してもよい。
容器に対する好ましいボールの量は特に指定されず、満充填してもよい。
固体電解質組成物の分散物中には、機械分散による衝撃で発生するボールや装置由来のコンタミの量は特に指定されない。10ppm(質量基準)以下に抑えることもできる。
固体電解質は単一種または2種以上を同時に分散することもできる。
【0076】
分散は1段階であっても2段階以上であってもよい。段階の間で活物質、固体電解質、バインダー、分散剤、分散媒、導電助剤、又はリチウム塩等の添加をすることもできる。段階が異なるとき、分散にかかる装置のパラメータ(分散時間、分散スピード、又は分散基材等)を変えることもできる。
分散方法は分散媒を含有する湿式分散であっても、分散媒を有さない乾式分散であってもよい。
分散媒は分散中に固体電解質の一部を溶かすものであってもよい。溶解部は乾燥時に加熱することでもとの固体電解質に再生することもできる。
分散媒が含水溶媒(水分100ppm以上(質量基準))の場合においても、分散後に加熱乾燥または真空加熱乾燥して無機固体電解質を再生させることもできる。
分散時間は特に指定されないが一般的には10秒から10日である。分散温度も特に指定されないが一般的には-50℃~100℃の範囲である。
上記のように分散された無機固体電解質は、通常平均粒子径が0.01μm以上であり、0.05μm以上であり、0.1μm以上であり、通常500μm以下であり、100μm以下であり、10μm以下であり、5μm以下である。
電極活物質は分散工程の前後で元の形状を維持していてもよいし、形状が変化していてもよい。
【0077】
(乾燥)
乾燥は、分散工程を経た後に容器に移して乾燥させてもよいし、塗布により作製した電極シート、固体電解質シート、それらを組み合わせた2層以上のシートおよび電池シートを作製した後に塗布溶媒を乾燥させてもよい。乾燥方法としては送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥などいずれの方法も用いることができる。
【0078】
(塗布)
塗布に使用する固体電解質組成物は、上記分散操作で用いた分散媒をそのまま用いてもよいし、異なる溶媒を追加させてもよいし、一度乾燥させたのちに異なる分散媒に再分散させてもよい。
塗布に使用する固体電解質組成物は、分散過程の違いにより粒子の分散度や粒子径の異なる2種類以上のスラリーを混合して作製してもよい。
塗布に使用する固体電解質組成物は、固体電解質と分散媒のみを分散させたのち電極活
物質を後添加してもよいし、一括で添加して分散させてもよい。バインダーの添加は固体電解質の分散前でもよいし後でもよい。
塗布は湿式塗布および乾式塗布のいずれでもよい。少量での塗布はバーコート法、又はアプリケーター法を用いることができ、コーター機械を使用する場合はダイコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、ナイフコーター、又はリップコーターなど、任意の種類のコーターを使用することができる。
塗布のスピードは無機固体電解質組成物の粘度によって変更することができる。
塗布膜は塗布の始まりから終わりまでにおいて均一な膜厚であることが望ましい。バーコート法を用いた塗布の場合、一般的には塗布の最初は厚く終わりになるに従って薄くなる、また中心部よりも周辺部に従って薄くなる傾向がある。これらを防ぐためにバーコートと塗布台のクリアランスが塗り始めよりも塗り終わりにしたがって大きくなるように設計することもできる。また塗膜が乾燥しきらないうちに振動を与え塗膜の膜厚バラつきを均質化する方法もある。
正極層、固体電解層および負極層を乾燥させながら段階的に塗布したり、複数の異なる層を湿式のまま重層塗布を行うこともできる。異なる層を塗布する場合には隣接する層とは異なる溶媒で塗布することもできる。
無機固体電解質層は硫化物と酸化物、元素組成、および結晶構造において1種であっても2種以上であってもよい。電極層に接する部分と固体電解質層内部で異なる固体電解質を用いてもよい。
【0079】
(プレス)
塗布固体電解質シート、電極シートを形成または全固体二次電池を作製したあとに加圧してもよい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機、等が挙げられる。加圧の圧力としては一般的には5MPa~1500MPaの範囲である。加圧と同時に加熱を行ってもよい。加熱温度としては一般的には30℃~300℃の範囲である。
無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
存在するバインダーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一般的にはバインダーの融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒をあらかじめ乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒が残存している状態で行ってもよい。
加圧中の雰囲気としては大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(たとえばアルゴン、ヘリウム、又は窒素など)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(たとえば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。電極シート以外、例えば電池の場合には中程度の圧力をかけ続けるには全固体電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧は塗布シート面に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0080】
<1-4.組成物の特性評価>
<インピーダンス測定及びイオン伝導率(伝導率)>
インピーダンス測定及びイオン伝導率(伝導率)は、以下の方法で評価することができる。
電解質組成物を直径1cmの円盤状に切り出し、同じく直径1cmの円盤状に切り出した厚み0.02mmのSUS箔で電解質組成物をはさみ、8.2MPaで加圧した後全固体電池評価セル(例えば、KP-SolidCell、宝泉株式会社製)に入れてセルを作製する。
上記で得られたセルを用いて、25℃で交流インピーダンス測定装置(例えば、Sol
artron1255B及びSolartron1287、Solartron Analytical社製)を用いて以下条件で測定し、インピーダンス測定の結果からイオン伝導率を求める。
・電圧:50mV
・周波数範囲:1Hz~1MHz
【0081】
上記の方法により得られる伝導率は、特段制限されないが、電池として用いる場合、通常1.3×10-4S/cm以上であり、1.5×10-4S/cm以上であることが好ましく、1.8×10-4S/cm以上であることがより好ましく、2.4×10-4S/cm以上であることがさらに好ましく、2.9×10-4S/cm以上であることが特に好ましく、また、上限は特段設定することは要しないが、通常1×10-2S/cm以下である。
【0082】
<耐屈曲性>
耐屈曲性は、円筒形マンドレル屈曲試験器(例えば、オールグッド株式会社製)を用いて、JIS-K5600-5-1に沿って評価を行うことができる。
該評価において、ヒビ、ワレが生じるマンドレルの径は、特段制限されないが、電池として用いる場合、通常8mm未満であり、6mm未満であることが好ましく、4mm未満であることがより好ましく、また、下限は特段設定することは要しないが、通常1mm以上である。
【0083】
[2.シート]
本発明の別の実施形態であるシート(以下、単に「シート」とも称する。)は、上記の電解質組成物を含むシートである。電池において、このシートは、電解質層として利用することができ、また、負極活物質を含ませることにより、負極層として利用することができ、また、正極活物質を含ませることにより、正極層として利用することができる。これらの電解質層や負極活物質層、正極活物質層の態様については、後述する。
シート中の上記の電解質組成物の含有量は、特段制限されないが、伝導率向上及び耐屈曲性向上の観点から、通常10vol%以上であり、15vol%以上であることが好ましく、20vol%以上であることがより好ましく、25vol%以上であることがさらに好ましく、30vol%以上であることが特に好ましく、また、通常99.99vol%以下であり、99.95vol%以下であることが好ましく、99.9vol%以下であることがより好ましく、99.7vol%以下であることがさらに好ましく、99vol%以下であることが特に好ましい。
【0084】
シートの厚さは、特段制限されず、例えば、通常0.001mm以上であり、0.01mm以上であることが好ましく、0.015mm以上であることがより好ましく、0.020mm以上であることがさらに好ましく、また、通常1mm以下であり、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。
【0085】
シートの製造方法は特段制限されず、例えば、上記の電解質組成物を含む混合物を、プレス成形や射出成形等の公知の方法を用いて成形する方法が挙げられる。
【0086】
[3.電池]
本発明の別の実施形態であるシート(以下、単に「電池」とも称する。)は、上記の電解質組成物、又は上記のシートを有する電池である。
電池の使用態様は特段制限されず、公知の態様とすることができ、例えば、正極層と負極層とで固体電解質層と有する電極群を有する態様や、正極層と負極層とセパレータと電解液とを有する電極群を有する態様とすることができる。これらの電池の構成要素のうち
、上記の電解質組成物又はシートは、正極層や負極層、固体電解質層で用いることができ、少なくともこれらのうちのいずれかの構成要素が上記の電解質組成物又はシートを有していればよいが、特に、少なくとも固体電解質層が上記の電解質組成物又はシートを有している、つまり全固体電池であることが好ましい。これらの構成要素における具体的な使用態様については後述する。
上記の電池は、一次電池であっても、二次電池であってもよいが、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型又は角型などを挙げることができる。
以下、電池を構成し得る各部材について詳細に説明する。
【0087】
<3-1.正極層>
正極層は、正極活物質が結着剤(バインダー)とともに正極集電体上に形成されてなる構造を有するものを採用してもよいが、上記の電解質組成物及び正極活物質を含む正極複合材が正極集電体上に形成されてなる構造、又は該正極複合材をシート状にして成形したものが正極集電体上に積層されてなる構造を有するものを採用してもよい。正極複合材は、これらの材料以外にも、必要に応じて、導電材や増粘剤等を含んでいてもよい。
また、正極層は、電解質組成物及び正極活物質を含む正極複合材を、液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより、或いは乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着することにより作製され得る。
【0088】
<正極活物質>
以下に正極に使用される正極活物質について説明する。
(1)組成
正極活物質としては、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出可能なものであれば特に制限はないが、例えば、リチウム等の金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。
【0089】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、又はCu等が好ましく、具体例としては、LiCoO等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiMnO、LiMn、もしくはLiMnO等のリチウム・マンガン複合酸化物、又はLiNiO等のリチウム・ニッケル複合酸化物、等が挙げられる。また、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、又はSi等の他の金属で置換したもの等が挙げられ、具体例としては、リチウム・コバルト・ニッケル複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、又はリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物等が挙げられる。
【0090】
置換されたものの具体例としては、例えば、Li1+aNi0.5Mn0.5、Li1+aNi0.8Co0.2、Li1+aNi0.85Co0.10Al0.05、Li1+aNi0.33Co0.33Mn0.33、Li1+aNi0.45Co0.45Mn0.1、Li1+aMn1.8Al0.2、又はLi1+aMn1.5Ni0.5、xLiMnO・(1-x)Li1+aMO(M=遷移金属)等が挙げられる(0≦a≦3.0)。
【0091】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物は、LiMPO(M=周期表の第4周期の4族~11族の遷移金属からなる群より選ばれた一種の元素、xは0<x<1.2)を基本組成として表すことができ、上記遷移金属(M)としては、V、Ti、Cr、Mg、Zn、
Ca、Cd、Sr、Ba、Co、Ni、Fe、MnおよびCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることが好ましく、Co、Ni、Fe、Mnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることがより好ましい。例えば、LiFePO、LiFe(PO、もしくはLiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、LiMnPO等のリン酸マンガン類、もしくはLiNiPO等のリン酸ニッケル類、又はこれらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、もしくはSi等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
なお、上述の「LiMPO」とは、その組成式で表される組成のものだけでなく、結晶構造における遷移金属(M)のサイトの一部を他の元素で置換したものも含むことを意味する。さらに、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損等した非化学量論組成のものも含むことを意味する。上記他元素置換を行う場合は、通常0.1mol%であり、好ましくは0.2mol%以上である。また、通常5mol%以下であり、好ましくは2.5mol%以下である。
上記正極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
(2)表面被覆
上記の正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質(以後、適宜「表面付着物質」という。)が付着したものを用いることもできる。表面付着物質の例としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、もしくは酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、もしくは硫酸アルミニウム等の硫酸塩、又は炭酸リチウム、炭酸カルシウム、もしくは炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0093】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、正極活物質表面に付着させることができる。
【0094】
正極活物質の表面に付着している表面付着物質の質量は、正極活物質の質量に対して、通常0.1ppm以上であり、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、また、通常20%以下であり、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。しかし、付着量が上記範囲を下回ると、その効果は十分に発現せず、また上記範囲を上回ると、リチウムイオンの出入りを阻害するために抵抗が増加する場合があるため、上記範囲が好ましい。
【0095】
(3)形状
正極活物質粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状又は楕円球状であるものが好ましい。
通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。従って、一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐためである。
また、板状等軸配向性の粒子よりも、球状又は楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作製する際の導電材との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0096】
(4)タップ密度
正極活物質のタップ密度は、通常0.4g・cm-3以上であり、0.6g・cm-3以上が好ましく、0.8g・cm-3以上がさらに好ましく、1.0g・cm-3以上が特に好ましく、また、通常4.0g・cm-3以下であり、3.8g・cm-3以下が好ましい。
タップ密度の高い金属複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。従って、正極活物質のタップ密度が上記範囲を下回ると、正極活物質層形成時に必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。また、タップ密度は一般に大きいほど好ましく特に上限はないが、上記範囲を下回ると、正極活物質層内における非水系電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合がある。
【0097】
タップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から密度を算出する。該測定で算出されるタップ密度を、本実施形態における正極活物質のタップ密度として定義する。
【0098】
(5)メジアン径d50
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いても測定することができる。
メジアン径d50は、通常0.1μm以上であり、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、また、通常20μm以下であり、18μm以下が好ましく、16μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。メジアン径d50が、上記範囲を下回ると、高嵩密度品が得られなくなる場合があり、上記範囲を上回ると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池特性の低下や、電池の正極作製すなわち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の現象が生じる場合がある。
なお、異なるメジアン径d50をもつ正極活物質を2種類以上、任意の比率で混合することで、正極作製時の充填性をさらに向上させることもできる。
【0099】
メジアン径d50の測定は、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒にして、粒度分布計として堀場製作所社製LA-920用いて、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24に設定して測定する。
【0100】
(6)平均一次粒子径
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合、正極活物質の平均一次粒子径は、通常0.03μm以上であり、0.05μm以上が好ましく、0.08μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましく、また、通常5μm以下であり、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。上記範囲を上回ると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。また、上記範囲を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等、電池の性能を低下させる場合がある。
なお、平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0101】
(7)BET比表面積
正極活物質のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値が、通常0.1m・g-1以上であり、0.2m・g-1以上が好ましく、0.3m・g-1以上がより好ましく、また、通常50m・g-1以下であり、40m・g-1以下が好ましく、30m・g-1以下がより好ましい。BET比表面積の値が、上記範囲を下回ると、電池性能が低下しやすくなる。また、上記範囲を上回ると、タップ密度が上がりにくくなり、正極活物質形成時の塗布性が低下する場合がある。
【0102】
BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて測定する。試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定する。該測定で求められる比表面積を、本実施形態における陽極活物質のBET比表面積と定義する。
【0103】
(8)正極活物質の製造法
正極活物質の製造法としては、本発明の要旨を超えない範囲で特には制限されないが、いくつかの方法が挙げられ、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。
特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えばその1つとして、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、又はLiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0104】
また、別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、又は酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、LiCO、又はLiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
さらに別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、又は酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、LiCO、又はLiNO等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0105】
正極複合材中の固体電解質の含有量は、特段制限されない。
【0106】
正極複合材は、本発明の効果が得られる範囲で、上記の固体電解質及び正極活物質以外の物質を含んでいてもよい。
【0107】
<正極集電体>
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、又はタンタル等の金属材料や、カーボンクロス、又はカーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、又は発泡メタル等;炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、又は炭素円柱等が挙げられる。
なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0108】
<結着剤>
正極複合材の層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電
極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、もしくはニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、もしくはエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、もしくはスチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、もしくはプロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、もしくはポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、又はアルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、上記の電解質組成物を用いる場合、ポリマー(A)が結着剤としての役割を果たす。この場合、ポリマー(A)は単独で用いてもよいが、上述で列挙した結着剤と併用してもよい。
【0109】
固体電解質組成物に対しては、その固形成分中、バインダーの含有量は、0.1vol%以上であることが好ましく、0.3vol%以上であることがより好ましく、0.5vol%以上であることが特に好ましい。上限としては、30vol%以下であることが好ましく、20vol%以下であることがより好ましく、15vol%以下であることが特に好ましい。
バインダーを上記の範囲で用いることにより、一層効果的に無機固体電解質の固着性と界面抵抗の抑制性とを両立して実現することができる。
【0110】
正極複合材層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、80質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、リチウム遷移金属系化合物を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
【0111】
<導電材>
正極複合材層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。
その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、又はニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、又はアセチレンブラック等のカーボンブラック、又はニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。
なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正極複合材層中の導電材の割合は、通常0.01質量%以上、50質量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0112】
<液体媒体>
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物を含む正極複合材、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル
、ジエチルトリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、又はヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。
なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
正極複合材層中の正極複合材の含有割合は、通常10質量%以上、99.9質量%以下である。
【0114】
また、正極複合材層の厚さは、通常10~200μm程度である。
ここで、正極の極板密度としては、3.0g/cm以上である。また、3.2g/cm以上であることが好ましく、3.3g/cm以上であることがより好ましく、3.4g/cm以上であることがさらに好ましく、3.6g/cm以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、入出力特性の低下が起こりづらいため4.2g/cm以下であることが好ましく、4.1g/cm以下であることがより好ましく、4.0g/cm以下であることが特に好ましく、3.9g/cm以下であることが最も好ましい。
正極の極板密度を上記範囲まで高めるには、塗布、乾燥後の正極複合材層をロールプレスにより圧密化することで実現可能である。所望の極板密度を得るには、ロールプレスの圧力を適宜調整すればよい。
【0115】
<3-2.負極層>
負極層は、負極活物質が結着剤(バインダー)とともに負極集電体上に形成されてなる構造を有するものを採用してもよいが、上記の電解質組成物及び負極活物質を含む負極複合材が負極集電体上に形成されてなる構造、又は該負極複合材をシート状にして成形したものが負極集電体上に積層されてなる構造を有するものを採用してもよい。負極複合材は、これらの材料以外にも、必要に応じて、増粘剤等を含んでいてもよい。
また、負極層は、電解質組成物及び負極活物質を含む負極複合材を、液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、負極集電体に塗布、乾燥することにより、或いは乾式で混合してシート状にしたものを負極集電体に圧着することにより作製され得る。
【0116】
<負極活物質>
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、又はリチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
炭素質材料としては、(1)天然黒鉛、(2)人造黒鉛、(3)非晶質炭素、(4)炭素被覆黒鉛、(5)黒鉛被覆黒鉛、又は(6)樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。
【0117】
(1)天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状又は楕円体状の黒鉛が特に好ましい。
【0118】
(2)人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、又はイミド樹脂等の有機化合物を、通常
2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で黒鉛化し、必要に応じて粉砕及び/又は分級して製造されたものが挙げられる。この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。また、ピッチの熱処理過程で分離したメソカーボンマイクロビーズを黒鉛化して得た人造黒鉛が挙げられる。更に一次粒子からなる造粒粒子の人造黒鉛も挙げられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズや、コークス等の黒鉛化可能な炭素質材料粉体とタール、ピッチ等の黒鉛化可能なバインダーと黒鉛化触媒を混合し、黒鉛化し、必要に応じて粉砕することで得られる、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した黒鉛粒子が挙げられる。
【0119】
(3)非晶質炭素としては、タール、ピッチ等の易黒鉛化性炭素前駆体を原料に用い、黒鉛化しない温度領域(400~2200℃の範囲)で1回以上熱処理した非晶質炭素粒子や、樹脂などの難黒鉛化性炭素前駆体を原料に用いて熱処理した非晶質炭素粒子が挙げられる。
【0120】
(4)炭素被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の有機化合物である炭素前駆体を混合し、400~2300℃の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、非晶質炭素が核黒鉛を被覆している炭素黒鉛複合体が挙げられる。複合の形態は、表面全体または一部を被覆しても、複数の一次粒子を前記炭素前駆体起源の炭素をバインダーとして複合させたものであってもよい。また、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛にベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、又は芳香族系の揮発分等の炭化水素系ガス等を高温で反応させ、黒鉛表面に炭素を堆積(CVD)させることでも炭素黒鉛複合体を得ることもできる。
【0121】
(5)黒鉛被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の易黒鉛化性の有機化合物の炭素前駆体を混合し、2400~3200℃程度の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、黒鉛化物が核黒鉛の表面全体又は一部を被覆している黒鉛被覆黒鉛が挙げられる。
【0122】
(6)樹脂被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、樹脂等を混合、400℃未満の温度で乾燥し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、樹脂等が核黒鉛を被覆している樹脂被覆黒鉛が挙げられる。
また、上記(1)~(6)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0123】
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(すなわち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズの単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
負極活物質として炭素質材料を用いる場合、以下の物性を有するものであることが望ましい。
【0125】
(X線パラメータ)
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、通常0.335nm以上であり、また、通常0.360nm以下であり、0.350nm以下が好ましく、0.345nm以下が更に好ましい。また、学振法によるX線回折で
求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることが更に好ましい。
【0126】
(体積基準平均粒径)
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましく、7μm以上が特に好ましい。また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。
体積基準平均粒径が上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また、上記範囲を上回ると、塗布により電極を作製する際に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。
【0127】
(BET比表面積)
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g-1以上であり、0.7m・g-1以上が好ましく、1.0m・g-1以上が更に好ましく、1.5m・g-1以上が特に好ましい。また、通常100m・g-1以下であり、25m・g-1以下が好ましく、15m・g-1以下が更に好ましく、10m・g-1以下が特に好ましい。
BET比表面積の値がこの範囲を下回ると、負極材料として用いた場合の充電時にリチウムの受け入れ性が悪くなりやすく、リチウムが電極表面で析出しやすくなり、安定性が低下する可能性がある。一方、この範囲を上回ると、負極材料として用いた時に非水系電解液との反応性が増加し、ガス発生が多くなりやすく、好ましい電池が得られにくい場合がある。
【0128】
(電極密度)
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上が更に好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましい。また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下が更に好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。
集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0129】
負極複合材中の固体電解質の含有量は、特段制限されない。
【0130】
負極複合材は、本発明の効果が得られる範囲で、上記の固体電解質及び負極活物質以外の物質を含んでいてもよい。
【0131】
<結着剤(バインダー)>
結着剤としては、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、又はエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、又は芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン、又はスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン
との共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン、又はポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン又はジメチルホルムアミド等を用いることができる。
なお、上記の電解質組成物を用いる場合、ポリマー(A)が結着剤としての役割を果たす。この場合、ポリマー(A)は単独で用いてもよいが、上述で列挙した結着剤と併用してもよい。
【0132】
固体電解質組成物に対しては、その固形成分中、バインダーの含有量は、0.1vol%以上であることが好ましく、0.3vol%以上であることがより好ましく、0.5vol%以上であることが特に好ましい。上限としては、30vol%以下であることが好ましく、20vol%以下であることがより好ましく、15vol%以下であることが特に好ましい。
バインダーを上記の範囲で用いることにより、一層効果的に無機固体電解質の固着性と界面抵抗の抑制性とを両立して実現することができる。
【0133】
<増粘剤>
スラリーに添加する増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、もしくはヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール、又はポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘剤は負極複合材100重量部に対して、通常0.1~10重量部、特に0.2~7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0134】
<負極集電体>
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、又は炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット又はパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0135】
集電体に負極複合材と結着剤のスラリーを塗布および乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された負極複合材層の密度を大きくして負極複合材層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。負極複合材層の密度は1.2~1.8g/cmの範囲にあることが好ましく、1.3~1.6g/cmであることがより好ましい。負極複合材層の密度を上記下限値以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、負極複合材層の密度を上記上限値以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0136】
本実施形態の負極複合材を用いて形成した負極複合材層の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容量は、0.05mL/gであることが好ましく、0.1ml/g以上であることがより好ましい。細孔容量を0.05mL/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0137】
<3-3.固体電解質層>
固体電解質層は、固体電解質と結着剤(バインダー)とで形成されてなる構造を有するものを採用してもよいが、上記の電解質組成物から形成されてなる構造を有するもの、又は該電解質組成物を含むシートを採用してもよい。固体電解質層は、これらの材料以外にも、必要に応じて、他の材料等を含んでいてもよい。
固体電解質層のサイズは特段制限されず、用途に応じて適宜設計し得るが、薄膜電池と
して用いる場合の固体電解質層の厚さは、通常1μm以上であり、5μm以上であることが好ましく、また、10mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0138】
<3-4.電解液>
電解液は、特段制限されず公知のものを用いることができ、例えば、公知の非水系溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートもしくはビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、もしくはγ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフランもしくは1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、又は1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。これらのなかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0139】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン又はジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル又はシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0140】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)又はLiC(CFSO等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5~2mol/Lであり、好ましくは0.6~1.5mol/Lである。
【0141】
<3-5.電極群>
正極層と負極層と固体電解質層とを有する電極群の構造は、例えば、正極層と負極層とで固体電解質層を挟持してなる積層構造、又は正極層と負極層とで固体電解質層を挟持したものを渦巻き状に捲回した構造とすることができる。
また、正極層と負極層とセパレータと電解液とを有する電極群の構造は、例えば、セパレータを挟んで正極と負極を配置し、これらの電極を電解液に含侵させた構造とすることができる。
【0142】
電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましい。また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、更には、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0143】
<3-6.保護素子>
保護素子を用いる場合、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使
用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0144】
<3-7.外装体>
電池は、通常、上記の電極群等を外装体(外装ケース)内に収納して構成されていてよい。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキ鋼板、ステンレス、アルミウムもしくはその合金、マグネシウム合金、ニッケル、又はチタン等の金属類、又は樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、又は超音波溶接等により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。
特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0145】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、又は大型等のいずれであってもよい。
【0146】
<3-8.電池の製造方法>
電池の製造方法は、上述した電池を得ることができる方法であれば、特段限定されず、一般的な電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、正極層と負極層とで固体電解質層と有する電極群を用いる場合、その製造方法の一例としては、正極を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、及び負極を構成する材料を順次プレスして積層することにより発電要素を作製し、この発電要素を外装体内部に収納し、外装体をかしめて電池を製造する方法を挙げることができる。
【実施例0147】
以下、実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0148】
[試料の作製]
<ポリマー(A)の合成>
<合成例1>
硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-1))の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.031g、RAFT剤としてトリチオ炭酸=ビス{4-[エチル-(2-アセチルオキシエチル)カルバルモイル]ベンジル}(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.1g、溶媒としてトルエン8.0g、モノマーとしてラウリルアクリレート40gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで60分かけて上昇させ、70℃で4時間重合反応を行った。
重合終了後、重合液を室温まで冷却し、エバポレーターで重合液を42gになるまで減圧濃縮した後、アセトニトリル/ヘキサン=20/1(体積比) 800mLに濃縮した
重合液を滴下して生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られたポリマーを80℃に加熱し減圧乾燥することにより、下記に示す硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-1))を得た。
【0149】
【化14】
【0150】
ポリマー(A-1)について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記の条件で求められる数平均分子量(Mn)は15300、重量平均分子量(Mw)は16800、分子量分布は(Mw/Mn)は1.10で、かつ、lは34であった。該GPC測定は、以下の全ての合成ポリマーでも同様に適用した。
<GPCの測定条件>
装置:Nexera-i LC-2040C 3D(PDAモデル)(株式会社島津製)使用カラム:Shodex KF-602.5、KF-603、KF-604
・カラム温度40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン、流量0.5mL/min
【0151】
<合成例2>
硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-2))の合成
RAFT剤として2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸(Aldrich社製)0.69gに変更した以外は合成例1と同様に仕込み、重合反応を行った。
重合終了後、重合液を室温まで冷却し、アセトニトリル 800mLに重合液を滴下し
て生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られたポリマーを80℃に加熱し減圧乾燥することにより、下記に示す硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-2))を得た。
【0152】
【化15】
【0153】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求められる、このポリマー(A-2)の数平均分子量(Mn)は16900、重量平均分子量(Mw)は18900、分子量分布は(Mw/Mn)は1.11で、かつ、lは39であった。
【0154】
<合成例3>
硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-3))の合成
RAFT剤としてトリチオ炭酸ドデシルシアノメチル(TCI製)0.60gに変更した以外は合成例1と同様に仕込み、重合反応を行った。
重合終了後、重合液を室温まで冷却し、アセトニトリル 800mLに重合液を滴下し
て生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られたポリマーを80℃に加熱し減圧乾燥することにより、下記に示す硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-3))を得た。
【0155】
【化16】
【0156】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求められる、このポリマー(A-3)の数平均分子量(Mn)は15700、重量平均分子量(Mw)は17100、分子量分布は(Mw/Mn)は1.09で、かつ、lは35であった。
【0157】
<合成例4>
硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-4))の合成 重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.016g、RAFT剤としてベンゾジチオ酸2-シアノプロパン-2-イル(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.21gに変更した以外は合成例1と同様に仕込み、重合反応を行った。
重合終了後、重合液を室温まで冷却し、アセトニトリル 800mLに重合液を滴下し
て生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られたポリマーを80℃に加熱し減圧乾燥することにより、下記に示す硫黄原子を含有するポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-4))を得た。
【0158】
【化17】
【0159】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求められる、このポリマー(A-3)の数平均分子量(Mn)は23100、重量平均分子量(Mw)は26400、分子量分布は(Mw/Mn)は1.14で、かつ、lは95であった。
【0160】
<合成例5>
硫黄原子を含有しないポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-5))の合成 重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.42g、溶媒としてトルエン123g、モノマーとしてラウリルアクリレート20gに変更した以外は合成例1と同様に仕込み、重合反応を行った。
重合終了後、重合液を室温まで冷却し、エバポレーターで重合液を123gまで減圧濃縮した後、メタノール 800mLに濃縮した重合液を滴下して生成したポリマーを沈殿
させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、得られたポリマーを80℃に加熱し減圧乾燥することにより、下記に示す硫黄原子を含有しないポリ(ラウリルアクリレート)(ポリマー(A-5))を得た。
【0161】
【化18】
【0162】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求められる、このポリマー(A-3)の数平均分子量(Mn)は12300、重量平均分子量(Mw)は27800、分子量分布は(Mw/Mn)は2.27で、かつ、lは51であった。
【0163】
<組成物の作製>
<実施例1>
露点-60度以下のグローブボックス内で、2mL容器にポリマー(A)としてポリマー(A-1)を0.03g、硫化物系固体電解質(B)としてLPS(MSE社製、Li-25 1×10-3S/cm(1mS/cm)at room temperature)を0.27g、分散媒のトルエンを0.32g入れて超音波ホモジナイザー(ビオラモ超音波ホモジナイザー、アズワン製)で5分攪拌した。このスラリーを厚み0.02mmのSUS箔に、ギャップ500μm、幅5cmのアプリケーターで塗布し、1時間真空乾燥して実施例1の電解質組成物を得た。
【0164】
<実施例2>
ポリマー(A-1)をポリマー(A-2)に変えた以外は実施例1と同様に実施し、実施例2の電解質組成物を得た。
【0165】
<実施例3>
ポリマー(A-1)をポリマー(A-3)に変えた以外は実施例1と同様に実施し、実施例3の電解質組成物を得た。
【0166】
<実施例4>
ポリマー(A-1)をポリマー(A-4)に変えた以外は実施例1と同様に実施し、実施例4の電解質組成物を得た。
【0167】
<比較例1>
ポリマー(A-1)をポリマー(A-5)に変えた以外は実施例1と同様に実施し、比較例1の電解質組成物を得た。
【0168】
下記表1における「部」は、ポリマーと電解質組成物との合計重量を「100重量部」としたときの重量部を表す。
【0169】
[特性の評価]
<ガラス転移点及び/又は融点の測定>
ポリマーのガラス転移点及び/又は融点は、示差走査熱量計(DSC7000X、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて下記条件で測定した。測定は同一試料で2回実施し、2回目の測定結果を採用した。この測定結果を下記表1に示す。
・昇温温度:10℃/min
・測定開始温度:-150℃
・測定終了温度:160℃
・試料パン:アルミニウム製パン
・測定試料の質量:5mg
・ガラス転移温度の算定:室温から-150℃まで30℃/min程度にて急冷し、-1
50℃にて5分間保持した後、昇温過程において、潜熱を伴わない比熱の変化に由来する、DSC曲線のベースラインシフトの、シフト開始温度とシフト終了温度の中間温度をTgとした。
・融点の算定:融解に由来するDSC曲線の吸熱ピーク温度をTmとした。
(Tg又は/及びTmが複数存在する場合は、Tg及びTmのうち最も低い温度を採用した。)
【0170】
<複素粘度の測定>
ポリマーの複素粘度は、レオメーター(DHR-3、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて以下条件で測定し、角周波数0.1rad/sの時の複素粘度の値を採用した。この測定結果を下記表1に示す。
・測定モード:周波数分散
・ジオメトリー:25mmアルミニウム製パラレルプレート
・温度:30℃
・角周波数:0.1~100rad/s
【0171】
<インピーダンス測定及びイオン伝導率(伝導率)の測定>
電解質組成物を直径1cmの円盤状に切り出し、同じく直径1cmの円盤状に切り出した厚み0.02mmのSUS箔で電解質組成物をはさみ、74MPaで加圧した後全固体電池評価セル(KP-SolidCell、宝泉株式会社製)に入れてセルを作製した。
上記で得られたセルを用いて、25℃で交流インピーダンス測定装置(Solartron1255B及びSolartron1287、Solartron Analytical社製)を用いて以下条件で測定し、インピーダンス測定の結果からイオン伝導率を求めた。このインピーダンスの測定結果及びイオン伝導率の評価結果を下記表1に示す。・電圧:50mV
・周波数範囲:1Hz~1MHz
【0172】
<耐屈曲性>
電解質組成物を、円筒形マンドレル屈曲試験器(オールグッド株式会社製)を用いて、JIS-K5600-5-1に沿って評価を行った。ヒビ、ワレが生じた際のマンドレルの径を下記表1に示す。
A:4mm未満
B:4mm以上6mm未満
C:6mm以上8mm未満
D:8mm以上
【0173】
【表1】
【0174】
上記の表1から、比較例1においてはポリマーが硫黄原子を含有しないため、実施例1~4に比べて伝導率が低く、かつ屈曲性に劣ることが分かった。
【0175】
以上に示す通り、本発明によれば、伝導率に優れる電池を実現することができる電解質組成物、該電解質組成物を含有するシート、及び該電解質組成物又は該シートを有する電池を提供することができる。