IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ UBE三菱セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水硬性材料 図1
  • 特開-水硬性材料 図2
  • 特開-水硬性材料 図3
  • 特開-水硬性材料 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145481
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】水硬性材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20220926BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 A
C04B22/16 A
C04B22/08 B
C04B22/10
C04B22/12
C04B22/14 B
C04B22/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205917
(22)【出願日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021044908
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】門田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】下坂 建一
(72)【発明者】
【氏名】中川 昭人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友香
(72)【発明者】
【氏名】松島 正明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB04
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB12
4G112MB23
4G112MB42
4G112PA29
4G112PB07
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB10
4G112PB11
4G112PC12
(57)【要約】
【課題】ポルトランドセメントの使用比率が少なくても高強度のモルタル及びコンクリートを製造可能な水硬性材料を提供する。
【解決手段】水硬性材料は、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含んでいる。刺激剤は、ナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンまたはフッ化物イオンとが互いにイオン結合している化合物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ粉末及び刺激剤を含む水硬性材料であって、
前記刺激剤は、ナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンまたはフッ化物イオンとが互いにイオン結合している化合物であることを特徴とする水硬性材料。
【請求項2】
前記刺激剤は、2種類の前記化合物の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性材料。
【請求項3】
前記刺激剤は、リン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びリン酸三マグネシウムのうちの少なくとも1つ以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水硬性材料。
【請求項4】
前記刺激剤は、第1の刺激剤と第2の刺激剤とを含んでおり、
前記第1の刺激剤は、リン酸一水素ナトリウムまたはリン酸三マグネシウムの無水物または水和物であり、
前記第2の刺激剤は、亜硝酸カルシウムまたは塩化カルシウムの無水物または水和物であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性材料。
【請求項5】
前記第1の刺激剤に対する前記第2の刺激剤の質量比が1.5以上であることを特徴とする請求項4に記載の水硬性材料。
【請求項6】
前記高炉スラグ粉末に対する前記刺激剤の質量比が0.0400以上0.0700以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の水硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル及びコンクリートに使用される水硬性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ポルトランドセメント、無水石膏粉末及び高炉スラグ粉末と、骨材と、水とを練り混ぜることにより、高強度のモルタル及びコンクリートを製造できることが記載されている。この技術においては、水硬性材料100質量%に対するポルトランドセメントの質量の比率は1000質量%~5000質量%とされている。
【0003】
ところで、ポルトランドセメントを製造するためにはセメント焼成工程が必要である。このセメント焼成工程からは多量の二酸化炭素が排出される。このため、二酸化炭素排出量削減の観点からは、ポルトランドセメントの使用比率を減らすことが好ましい。しかしながら、下記特許文献1に記載の技術においては、ポルトランドセメントの使用比率を減らすとモルタル及びコンクリートの強度が不足するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-183338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者は、この点に関して種々の研究を進めた結果、ポルトランドセメントの使用比率が少なくても、所定の刺激剤を使用することにより高強度のモルタル及びコンクリートが製造可能になるという知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものであって、ポルトランドセメントの使用比率が少なくても高強度のモルタル及びコンクリートを製造可能な水硬性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一項目に係る水硬性材料は、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含んでいる。前記刺激剤は、ナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンまたはフッ化物イオンとが互いにイオン結合している化合物である。
【0007】
第一項目によれば、ポルトランドセメントの使用比率が少なくても高強度のモルタル及びコンクリートを製造することができる。なお、この点については、後述する試験例で詳細に説明する。
【0008】
本発明の第二項目に係る水硬性材料は、前記刺激剤が2種類の前記化合物の混合物であるものである。
【0009】
第二項目によれば、さらに高強度のモルタル及びコンクリートを製造することができる。なお、この点については後述する試験例で詳細に説明する。
【0010】
本発明の第三項目に係る水硬性材料は、前記刺激剤がリン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びリン酸三マグネシウムのうちの少なくとも1つ以上であるものである。
【0011】
第三項目によれば、さらに高強度のモルタル及びコンクリートを製造することができる。なお、この点については後述する試験例で詳細に説明する。
【0012】
上記の第一項目に係る水硬性材料から高強度のモルタル又はコンクリートを製造するためには、前記刺激剤が第1の刺激剤と第2の刺激剤とを含んでおり、前記第1の刺激剤がリン酸一水素ナトリウムまたはリン酸三マグネシウムの無水物または水和物であり、前記第2の刺激剤が亜硝酸カルシウムまたは塩化カルシウムの無水物または水和物であると特に好ましい。また、前記第1の刺激剤に対する前記第2の刺激剤の質量比が1.5以上であり、あるいは/かつ、前記高炉スラグ粉末に対する前記刺激剤の質量比が0.0400以上0.0700以下であるとさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、ポルトランドセメントの使用比率が少なくても高強度のモルタル及びコンクリートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の試験例における結果を示すグラフであって、刺激剤の比率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の試験例における結果を示すグラフであって、水硬性材料における刺激剤の種類とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の試験例における結果を示すグラフであって、水硬性材料における刺激剤の種類及び組み合わせとモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の試験例における結果を示すグラフであって、水硬性材料における高炉スラグ粉末含有率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る水硬性材料について説明する。水硬性材料には、高炉スラグ粉末及び刺激剤が含まれている。また、水硬性材料には、ポルトランドセメント、二水石膏粉末または無水石膏粉末が含まれていてもよい。
【0016】
本実施形態に係る水硬性材料から高強度のモルタル又はコンクリートを製造するためには、高炉スラグ粉末の比表面積は、3800cm2/g以上4300cm2/g以下であることが好ましく、4000cm2/g以上4300cm2/g以下であることが特に好ましい。この明細書において、比表面積とは、ブレーン空気透過装置を用いて測定される比表面積を意味している。この比表面積の具体的な測定法は「JIS R 5201」に規定されている。
【0017】
ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントのいずれか、あるいはこれらの2つ以上のものを混合したものを使用することができる。無水石膏粉末の比表面積は4000cm2/g以上であることが好ましい。
【0018】
刺激剤は、ナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンまたはフッ化物イオンとが互いにイオン結合している化合物である。この化合物は水和物であってもよい。
【0019】
高強度のモルタル又はコンクリートを製造するためには、刺激剤として2種類の上記化合物の混合物を使用することが好ましい。さらに、刺激剤として、リン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びリン酸三マグネシウムのうちの少なくとも1つ以上を使用することが好ましく、塩化ナトリウムを除く上記7つの刺激剤を使用することが特に好ましい。
【0020】
本実施形態に係る水硬性材料から高強度のモルタル又はコンクリートを製造するためには、刺激剤が第1の刺激剤と第2の刺激剤とを含んでおり、第1の刺激剤がリン酸一水素ナトリウムまたはリン酸三マグネシウムの無水物または水和物であり、第2の刺激剤が亜硝酸カルシウムまたは塩化カルシウムの無水物または水和物であると特に好ましい。第1の刺激剤に対する第2の刺激剤の質量比が1.5以上7.0以下であるとさらに好ましい。また、高炉スラグ粉末に対する刺激剤の質量比(すなわち、高炉スラグ粉末の質量に対する第1の刺激剤と第2の刺激剤との合計質量の比率)が0.0400以上0.0700以下であるとさらに好ましい。
【0021】
次に、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の試験例及びその比較例について説明する。表2に示す比較例1及び表6に示す比較例2においては、水硬性材料として刺激剤を用いずに普通ポルトランドセメント、無水石膏粉末及び高炉スラグ粉末のみを使用した。表2に示す試験例A1~A4、表3に示す試験例B1~B21、表6に示す試験例D1~D4、E1~E4及び表7に示す試験例F1~F7においては、水硬性材料として普通ポルトランドセメント、無水石膏粉末、高炉スラグ粉末及び刺激剤を使用した。なお、普通ポルトランドセメントとは、セメントクリンカ粉末及び二水石膏粉末からなる混合粉末である。無水石膏粉末としては、添川理化学社製の無水石膏(比表面積4680cm/g)を使用した。
【0022】
これら比較例において、ポルトランドセメント所定量と無水石膏粉末と高炉スラグ粉末との合計量450gと細骨材1350gと水225gとを秤取り、これらをJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じてホバートミキサにより練り混ぜて混練物を生成した。また、これら試験例において、ポルトランドセメント所定量と無水石膏粉末と高炉スラグ粉末と刺激剤との合計量450gと細骨材1350gと水225gとを秤取り、これらをJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じてホバートミキサにより練り混ぜて混練物を生成した。
【0023】
そして、これら比較例及び試験例において、この混練物を内寸法4×4×16cmの鋼製型枠を用いて24時間成形した。その後、成形した混練物を脱型して強さ試験の材齢まで20℃の室内で封かん養生した。これによりモルタルを得た。そして、このモルタルの圧縮強さをJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
【0024】
表1は、比較例1、試験例A1~A4及び試験例B1~B21において使用した高炉スラグ粉末のパラメータである化学組成(ig.lossから塩基度まで)、密度(g/cm3)及び比表面積(cm2/g)を示している。化学組成の単位は質量%である。
【0025】
【表1】
【0026】
表2は、刺激剤の比率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。ここで、刺激剤の比率とは、ポルトランドセメント、無水石膏粉末及び高炉スラグ粉末の合計質量に対する刺激剤の質量の比率を意味している。なお、表2に示す比較例1及び試験例A1~A4においては、いずれも上記合計質量に対するポルトランドセメント、無水石膏粉末及び高炉スラグ粉末の質量の比率をそれぞれ3%、30%及び67%とした。試験例A1~A4においては、刺激剤として亜硝酸カルシウムを使用した。
【0027】
【表2】
【0028】
表2において、「材齢3日」の項目は、モルタルの材齢が3日である時点におけるモルタルの圧縮強さ(以下「3日強度」という。)を示している。「材齢7日」の項目は、モルタルの材齢が7日である時点におけるモルタルの圧縮強さ(以下「7日強度」という。)を示している。「材齢28日」の項目は、モルタルの材齢が28日である時点におけるモルタルの圧縮強さ(以下「28日強度」という。)を示している。この点については、後述する表3、6及び7においても同様である。
【0029】
図1は、表2に示す比較例1及び試験例A1~A4における結果を示すグラフであって、刺激剤の比率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。図1に示すように、刺激剤の比率が増加するにつれて、モルタルの3日強度、7日強度及び28日強度が全て高まっている。つまり、水硬性材料として刺激剤を使用することにより、水硬性材料として刺激剤を使用しない場合に比較して高強度のモルタルを製造することができると考えられる。
【0030】
表3は、試験例B1~B21における刺激剤の種類、水硬性材料における配合パターン、水硬性材料における刺激剤含有率、及びモルタルの圧縮強さの関係を示している。ここで、配合パターンとは、表4に示す水硬性材料の組成を意味している。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
試験例B1~B21においては、表3に示す通り、刺激剤として亜硝酸ナトリウム(亜硝Na)、チオ硫酸ナトリウム(チオNa)、リン酸一水素ナトリウム(リンNa)、炭酸ナトリウム(炭酸Na)、塩化ナトリウム(塩化Na)、亜硝酸カルシウム(亜硝Ca)、塩化カルシウム(塩化Ca)、フッ化カルシウム(フッ化Ca)、炭酸カルシウム(炭酸Ca)、硫酸マグネシウム(硫酸Mg)、炭酸マグネシウム(炭酸Mg)または塩化マグネシウム(塩化Mg)を使用した。
【0034】
図2は、表3に示す試験例B1~B21のうちの一部における結果を示すグラフであって、水硬性材料における刺激剤の種類とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。図2に示す棒グラフは、左からそれぞれ試験例B1、B2、B4~B6、B8、B10~B14及びB16におけるモルタルの圧縮強さを示している。図2の横軸には、これらの試験例において使用した刺激剤の種類を記載した。
【0035】
表3に示すように、いずれの試験例においてもモルタルの28日強度は少なくとも10N/mm2程度までは高まっている。特に、刺激剤として、リン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムを使用した場合には、モルタルの28日強度がいずれも14N/mm2を超えている。さらに、上記のうち塩化ナトリウムを除く6つの刺激剤を使用した場合には、モルタルの28日強度がいずれも20N/mm2を超えている。
【0036】
図3は、表3に示す試験例B1~B21のうちの一部における結果を示すグラフであって、水硬性材料における刺激剤の種類及び組み合わせとモルタルの圧縮強さとの関係を示している。図3に示す棒グラフは、左からそれぞれ試験例B7、B8、B15、B16、B9、B10、B3、B4及びB17~B20におけるモルタルの圧縮強さを示している。図3の横軸には、これらの試験例において使用した刺激剤の種類及び組み合わせを記載した。
【0037】
表3に示すように、試験例B1~B16においては1種類の化合物を刺激剤として使用したのに対し、試験例B17~B21においては2種類の化合物の混合物を刺激剤として使用した。そして、表3に示すように、試験例B1~B16においてはモルタルの28日強度が最高で42.2N/mm2であったのに対し、試験例B17~B21においてはモルタルの28日強度がいずれも45N/mm2を超えた。
【0038】
図4は、表3に示す試験例B1~B21のうちの一部における結果を示すグラフであって、水硬性材料における高炉スラグ粉末含有率(表4の配合パターンも参照)とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。図4に示す棒グラフは、左から試験例B17~B21におけるモルタルの圧縮強さをそれぞれ示している。図4の横軸には、これらの試験例において使用した水硬性材料における高炉スラグ粉末含有率を記載した。なお、図4において、BFSとは高炉スラグ粉末を意味している。
【0039】
表3に示すように、試験例B20、B21においては同一の刺激剤を使用している。そして、図4に示すように、試験例B20においては高炉スラグ粉末含有率が65.33質量%であるのに対し、試験例B21においては高炉スラグ粉末含有率が77.90質量%である。このとき、試験例B20においてはモルタルの28日強度は54.0N/mm2であるのに対し、試験例B21においてはモルタルの28日強度が64.3N/mm2になっている。試験例B21においては、試験例B17~B19に比較しても高炉スラグ粉末含有率が高く、その分だけモルタルの28日強度が高くなっている。つまり、高炉スラグ粉末の使用比率が増加するとモルタルの強度も高くなると考えられる。
【0040】
そして、水硬性材料、細骨材及び水の練り混ぜ時において、水硬性材料における高炉スラグ粉末と刺激剤に含まれるイオンとが反応することにより、水硬性材料として刺激剤を使用しない場合に比較して高強度のモルタルを製造することができると考えられる。
【0041】
したがって、上述した試験例A1~A4、B1~B21及び比較例1から次の結論を導出することができる。高炉スラグ粉末及び刺激剤を含む水硬性材料において、表2に示す試験例A1~A4及び表3に示す試験例B1~B21において使用した刺激剤を使用すれば、刺激剤を使用しない場合に比較して高強度のモルタルを製造することができる。具体的に、この刺激剤としては、表3に示すように、亜硝酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムが挙げられる。
【0042】
特に、表3及び図3に示されるように、刺激剤として2種類の上記化合物の混合物を使用すれば、さらに高強度のモルタルを製造することができる。また、刺激剤としてリン酸一水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムを使用すれば、モルタルの28日強度を14N/mm2以上にすることができる。特に、刺激剤として上記のうち塩化ナトリウムを除く6つの刺激剤を使用すれば、モルタルの28日強度を20N/mm2以上にすることができる。
【0043】
ここで、上述したように、水硬性材料、細骨材及び水の練り混ぜ時において、水硬性材料における高炉スラグ粉末と刺激剤に含まれるイオンとが反応することにより、水硬性材料として刺激剤を使用しない場合に比較して高強度のモルタルを製造することができると考えられる。このため、各試験例において使用した刺激剤に含まれるイオンと同様のイオンが含まれる刺激剤であれば、水硬性材料として刺激剤を使用しない場合に比較してモルタルの28日強度を高めることができると考えられる。
【0044】
つまり、刺激剤として使用する化合物としては、ナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと、リン酸一水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオンまたはフッ化物イオンとが互いにイオン結合している化合物であればよいと考えられる。
【0045】
また、リン酸一水素イオンは、練り混ぜ時において、リン酸二水素イオンに変化してモルタルの28日強度を高めたと考えられる。このため、リン酸二水素イオンとナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンとがイオン結合している化合物を刺激剤として使用することもできる。また、水中でリン酸二水素イオンに変化するリン酸イオンとナトリウムイオン、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンとがイオン結合している化合物を刺激剤として使用することもできる。
【0046】
水硬性材料における刺激剤が1種類であるよりも2種類であるとモルタルの強度が高まることについては上述した通りである。さらに、表3に示す試験例B19~B21(刺激剤としてリン酸一水素ナトリウムと塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムとを組み合わせて使用したもの)と試験例B17、B18(刺激剤として塩化マグネシウムと塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムとを組み合わせて使用したもの)とを比較すると、試験例B19~B21のいずれにおいても、試験例B17、B18に比較してモルタルの3日強度、7日強度及び28日強度が全て高まっている。このことから、この2種類の刺激剤の組み合わせとしてリン酸一水素ナトリウムと塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムとを用いると特に好ましいことが分かる。
【0047】
塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムに組み合わせる刺激剤として、リン酸イオンを含む化合物を使用する場合には、リン酸一水素ナトリウムを使用する場合と同様、モルタルの製造工程(すなわち、ポルトランドセメントの混練工程)においてリン酸二水素イオンが生じて高炉スラグ粉末を刺激すると考えられる。このことから、リン酸一水素ナトリウムに代えてリン酸イオンを含む化合物を塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムと組み合わせて使用する場合においても、試験例B19~B21と同程度の強度のモルタルを製造することができると想定される。
【0048】
以下において、刺激剤としてリン酸三マグネシウム(リン酸イオンを含む化合物)と塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムとを組み合わせて使用する場合におけるモルタルの強度を確認及び比較検討するための、試験例D1~D4、E1~E4及びその比較例2について説明する。これらの試験例及び比較例に関しては、上述した試験例A1と異なる点についてのみ説明し、それ以外の点については説明を省略する。
【0049】
表5は、比較例2、試験例D1~D4及びE1~E4において使用した高炉スラグ粉末のパラメータである化学組成(「ig.loss」の項目から「Total」の項目まで)、密度(g/cm3)及び比表面積(cm2/g)を示している。化学組成の単位は質量%である。「Total」とは、表5に示す「ig.loss」から「MnO」までの項目の数値の合計値である。
【0050】
【表5】
【0051】
表6は、水硬性材料における刺激剤の種類及び割合とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。表6における「刺激剤の種類及び割合」の項目は、試験例D1~D4及びE1~E4において使用した刺激剤の種類と含有率とを意味している。
【0052】
【表6】
【0053】
表6に示す試験例D1~D4及びE1~E4においては、水硬性材料におけるポルトランドセメント含有率を3質量%とし、水硬性材料における高炉スラグ粉末含有率を82質量%とし、水硬性材料における無水石膏粉末含有率を10質量%とし、水硬性材料における刺激剤含有率(刺激剤を2種類使用する試験例E1~E4においては2種類の刺激剤の合計含有率)を5質量%とした。表6に示す比較例2においては、ポルトランドセメント含有率及び無水石膏粉末含有率については試験例D1~D4及びE1~E4と同じであるが、刺激剤を使用しない代わりに高炉スラグ粉末含有率を87質量%に調整した。
【0054】
表6に示すように、試験例D4においては、試験例D1~D3及び比較例2に比較してモルタルの28日強度が高まった。さらに、試験例E1~E4それぞれにおいては、試験例D1~D4のいずれよりも、モルタルの7日強度と28日強度とが高まった。また、モルタルの3日強度についても、試験例E1及びE3においては試験例D1~D4のいずれよりも高まり、試験例E2及びE4においては試験例D3及びD4を大きく上回って試験例D1及びD2とほぼ同程度まで高まった。さらに、試験例E2及びE4においては、試験例E1及びE3に比較してモルタルの28日強度が高まった。
【0055】
つまり、試験例D1~D4及び比較例2に基づけば、水硬性材料から高い強度(特に、3日強度、7日強度及び28日強度の中で、建築物の設計上、最も重要であると考えられている28日強度)を有するモルタルを製造するためには、水硬性材料における刺激剤としてリン酸三マグネシウムを使用することが特に好ましいといえる。
【0056】
また、表3に示す試験例B19~B21に基づけば、高強度のモルタルを製造するためには、水硬性材料における刺激剤としてリン酸一水素ナトリウムと塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムとを組み合わせて使用することが好ましいといえる。さらに、表6に示す試験例E1~E4に基づけば、リン酸一水素ナトリウムに代えてリン酸三マグネシウムを塩化カルシウム又は亜硝酸カルシウムと組み合わせても、高強度のモルタルを製造できることが分かる。
【0057】
なお、以下において、リン酸一水素ナトリウム又はリン酸三マグネシウムを「第1の刺激剤」と表記し、亜硝酸カルシウム又は塩化カルシウムを「第2の刺激剤」と表記する。
【0058】
以下において、第1の刺激剤と第2の刺激剤との合計含有率とモルタルの強度との関係、および、第1の刺激剤に対する第2の刺激剤の質量比とモルタルの強度との関係についての試験例F1~F7について説明する。なお、これらの試験例に関しては、上述した試験例E3と異なる点についてのみ説明し、それ以外の点については説明を省略する。
【0059】
表7は、水硬性材料の組成とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。表6に示す試験例E1~E4においては、第1の刺激剤と第2の刺激剤との合計含有率を5%で統一し、かつ、第1の刺激剤に対する第2の刺激剤の質量比を4で統一した。これに対し、表7に示す試験例F1~F7においては、第1の刺激剤と第2の刺激剤との合計含有率を3%、4%及び5%のいずれかとし、かつ、第1の刺激剤に対する第2の刺激剤の質量比を1.0、1.5及び4.0のいずれかとした。試験例F1~F7においては、第1の刺激剤としてリン酸一水素ナトリウム(リンNa)を使用し、第2の刺激剤として亜硝酸カルシウム(亜硝Ca)を使用した。
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示す試験例F1~F3を比較すると、水硬性材料における刺激剤含有率が増加するにつれて3日強度、7日強度及び28日強度がいずれも増加しており、試験例F2及びF3においては3日強度、7日強度及び28日強度がいずれも試験例F1よりも高くなった。さらに、試験例F2と試験例F3との間では、3日強度の差が1.0N/mm2であり、7日強度の差が3.5N/mm2であり、28日強度の差が6.6 N/mm2であり、このように全体的にモルタルの強度に大きな差は生じなかった。これに対し、試験例F1と試験例F2との間では、3日強度の差が3.8N/mm2であり、7日強度の差が9.3 N/mm2であり、28日強度の差が14.2N/mm2であり、このように全体的にモルタルの強度に大きな差が生じた。
【0062】
このことから、水硬性材料における刺激剤含有率(すなわち、第1の刺激剤と第2の刺激剤との合計含有率)が試験例F2、F3と同程度(3.5質量%以上8質量%以下)であると好ましいといえる。また、高炉スラグ粉末(刺激剤により刺激される材料)に対する刺激剤の割合についても、試験例F2、F3と同程度(0.0400以上0.0700以下)であると好ましいといえる。この割合は、試験例F1においては0.0357であり、試験例F2においては0.0482であり、試験例F3においては0.0610である。
【0063】
表7に示す試験例F3~F5を比較すると、リン酸一水素ナトリウムに対する亜硝酸カルシウムの割合が増加するにつれて3日強度、7日強度及び28日強度がいずれも増加しており、試験例F4及びF5においては3日強度、7日強度及び28日強度が試験例F3よりも高くなっている。さらに、試験例F4と試験例F5との間では、28日強度の差が0.2 N/mm2であって小さいのに対し、試験例F3と試験例F4との間では、28日強度の差が2.8N/mm2であって大きくなっている。
【0064】
このことから、第1の刺激剤に対する第2の刺激剤の割合が試験例F4、F5と同程度(1.5以上7.0以下)であると好ましいといえる。
【0065】
表7に示す試験例F4とF6とを比較すると、試験例F6においては、試験例F4よりもポルトランドセメント含有率が低いが、28日強度が高くなっている。また、表7に示す試験例F5とF7とを比較すると、試験例F7においては、試験例F5よりもポルトランドセメント含有率が低いが、28日強度が高くなっている。
【0066】
このことから、水硬性材料におけるポルトランドセメントの含有率が試験例F6、F7と同程度(0.5質量%以上2質量%以下)であると特に好ましいといえる。
【0067】
ところで、試験例D1、E1、E2で使用した塩化カルシウムは無水物であり、試験例D2、E3、E4で使用した亜硝酸カルシウムは一水和物であり、試験例D3、E1、E3で使用したリン酸一水素ナトリウムは十二水和物であり、試験例D4、E2、E4で使用したリン酸三マグネシウムは八水和物である。なお、試験例D3、E1、E3で使用したリン酸一水素ナトリウムの試薬名は「リン酸水素二ナトリウム十二水和物」である。
【0068】
モルタルの製造工程(すなわち、ポルトランドセメントの混練工程)においては、刺激剤が無水物であっても水和して水和物になるため、刺激剤として無水物を使用するか水和物を使用するかによってはモルタルの強度は大きく変動しないと考えられる。つまり、上述したリン酸一水素ナトリウム、リン酸三マグネシウム、亜硝酸カルシウム及び塩化カルシウムとしては、無水物及び水和物のいずれを使用しても同程度のモルタル強度が発現すると考えられる。
【0069】
このように、上記一実施形態によれば、従来技術に比較してポルトランドセメントの使用比率が少なくても、高強度のモルタルを製造することができる。特に、上記の表7に示す試験例F6、F7に係る水硬性材料を用いると、この水硬性材料におけるポルトランドセメント含有率が1質量%であるにもかかわらず、モルタルの28日強度を60N/mm2以上まで高めることができる。よって、ポルトランドセメントの使用比率を減少させて、セメント焼成工程から排出される二酸化炭素の量を約90%削減することができる。このため、モルタルの製造プロセス全体における二酸化炭素の発生量の削減に寄与することができる。
【0070】
コンクリートは、モルタルとは違って粗骨材を含むためにモルタルに比較して高い強度を発現しやすい。よって、上記一実施形態によれば、高強度のモルタルを製造することができるため、当然高強度のコンクリートを製造することができる。それゆえ、コンクリートの製造プロセスにおいても、ポルトランドセメントの使用比率を減少させて二酸化炭素の発生量を削減することができる。
【0071】
さらに、上記一実施形態によれば、20℃での養生により得たモルタル及びコンクリートに高い強度を発現させることができる。このため、モルタル及びコンクリートの強度を発現させるためのオートクレーブ養生、蒸気養生又は加熱養生を行う必要がなくなる。つまり、この混練物の養生に要するエネルギーを節約することもできる。
図1
図2
図3
図4