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特開2022-145545ポリカーボネートジオール及びそれを用いたポリウレタン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145545
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】ポリカーボネートジオール及びそれを用いたポリウレタン
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20220926BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20220926BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20220926BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20220926BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G18/44
C09D175/06
C09J175/06
D06N3/14 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025871
(22)【出願日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021044870
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】白井 一彰
(72)【発明者】
【氏名】山中 貴之
【テーマコード(参考)】
4F055
4J029
4J034
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA06
4F055FA20
4F055GA03
4J029AA09
4J029AB01
4J029AB02
4J029AD01
4J029AD03
4J029AE02
4J029AE11
4J029AE13
4J029AE17
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA05
4J029BA07
4J029HC04A
4J029HC05A
4J029JA061
4J029JA091
4J029JA121
4J029JA161
4J029JA201
4J029JA261
4J029JB131
4J029JB171
4J029JF021
4J029JF031
4J029JF041
4J029JF051
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF151
4J029JF161
4J029JF221
4J029JF261
4J029JF271
4J029JF291
4J029JF321
4J029JF331
4J029JF341
4J029JF471
4J029JF481
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB05
4J034CC03
4J034CC12
4J034CC22
4J034CC23
4J034CC26
4J034CC33
4J034DA01
4J034DB04
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF12
4J034DF16
4J034DG02
4J034HA01
4J034HA06
4J034HA07
4J034HB11
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC63
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD12
4J034KE02
4J034RA02
4J034RA03
4J034RA07
4J034RA08
4J034RA09
4J038DG121
4J038DG261
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA08
4J038NA04
4J038PC09
4J038PC10
4J040EF121
4J040EF281
4J040KA14
4J040KA23
4J040MA07
4J040MA13
4J040NA05
4J040NA10
(57)【要約】
【課題】溶液安定性、低温柔軟性、耐薬品性、特に耐エタノール性の物性バランスに優れたポリウレタンの原料となるポリカーボネートジオールを提供する。
【解決手段】下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール。水酸基価が37.4mg-KOH/g以上140mg-KOH/g以下、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位とのモル比率が、(A)/(B)=89/11~51/49。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
(Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基。Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールであって、水酸基価が37.4mg-KOH/g以上140mg-KOH/g以下であり、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下であり、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位とのモル比率が、(A)/(B)=89/11~51/49であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
(上記式(A)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネートジオールの全構造単位中、前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位の合計の割合が50モル%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項3】
前記水酸基価が44.8mg-KOH/g以上125mg-KOH/g以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項4】
前記式(A)で表される化合物が、1,4-ブタンジオールである請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項5】
前記式(B)で表される化合物が、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール及び1,12-ドデカンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項6】
前記式(A)で表される化合物及び前記式(B)で表される化合物のうち少なくとも一方が植物由来である請求項1~5のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオールを用いてなるポリウレタン。
【請求項8】
請求項7に記載のポリウレタンを用いて製造した人工皮革または合成皮革。
【請求項9】
請求項7に記載のポリウレタンを用いて製造した塗料またはコーティング剤。
【請求項10】
請求項7に記載のポリウレタンを用いて製造した弾性繊維。
【請求項11】
請求項7に記載のポリウレタンを用いて製造した水系ポリウレタン塗料。
【請求項12】
請求項7に記載のポリウレタンを用いて製造した粘着剤または接着剤。
【請求項13】
ポリカーボネートジオールを用いて得られるポリウレタン溶液の-5℃以下での保管方法であって、前記ポリカーボネートジオールが下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含み、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位との比率が(A)/(B)=89/11~51/49であり、水酸基価が38.0mg-KOH/g以上140mg-KOH/g以下であり、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下である、ポリウレタン溶液の-5℃以下での保管方法。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
(上記式(A)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系ポリウレタンの原料として有用なポリカーボネートジオール及びそれを用いてなるポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業規模で生産されているポリウレタンの主たるソフトセグメント部の原料は、ポリテトラメチレンエーテルグリコールに代表されるエーテルタイプ、アジペート系エステルに代表されるポリエステルポリオールタイプ、ポリカプロラクトンに代表されるポリラクトンタイプ又はポリカーボネートジオールに代表されるポリカーボネートタイプに分けられる(非特許文献1)。
【0003】
このうちエーテルタイプを用いたポリウレタンは、耐加水分解性、柔軟性および伸縮性には優れるものの、耐熱性および耐候性が劣るとされている。一方、ポリエステルポリオールタイプを用いたポリウレタンは、耐熱性および耐候性は改善されるものの、エステル基の耐加水分解性が低く、用途によっては使用することができない。
【0004】
一方、ポリラクトンタイプを用いたポリウレタンは、ポリエステルポリオールタイプを用いたポリウレタンと比較すると耐加水分解性に優れるグレードとされているが、同様にエステル基があるために加水分解を完全に抑制することはできない。また、これらポリエステルポリオールタイプ、エーテルタイプおよびポリラクトンタイプを混合してポリウレタンの原料として使用することも提案されているが、それぞれの欠点を完全に補うことは出来ていない。
【0005】
これらに対して、ポリカーボネートジオールに代表されるポリカーボネートタイプを用いたポリウレタンは、耐熱性および耐加水分解性において最良な耐久グレードとされており、耐久性フィルムや自動車用人工皮革、(水系)塗料、接着剤として広く利用されている。
しかしながら、現在広く市販されているポリカーボネートジオールは、主に1,6-ヘキサンジオールから合成されるポリカーボネートジオールであるが、このものは結晶性が高いため、ポリウレタンとしたときに、ソフトセグメントの凝集性が高く、ポリウレタン溶液の安定性、低温における柔軟性、伸び、曲げが悪いという問題があり用途が制限されていた。
そこで前記問題を解決するために様々な構造のポリカーボネートジオールが提案されている。
【0006】
例えば、1,6-ヘキサンジオールと他のジヒドロキシ化合物を原料として共重合ポリカーボネートジオールとする方法があり、具体的には1,6-ヘキサンジオールと1,4-ブタンジオールを原料として共重合したポリカーボネートジオール(特許文献1)、1,6-ヘキサンジオールと1,5-ペンタンジオールを原料として共重合したポリカーボネートジオール(特許文献2)、1,3-プロパンジオールと他のジヒドロキシ化合物を原料として共重合したポリカーボネートジオール(特許文献3)が提案されている。
【0007】
また、ジヒドロキシ化合物由来部位の結晶性を阻害する有力な方法として主鎖に置換基を有するジヒドロキシ化合物を用いる方法が提案されており、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオールと他のアルキレングリコールを原料として共重合したポリカーボネートジオール(特許文献4)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと他のアルキレンジオールを原料として共重合したポリカーボネートジオール(特許文献5)などがある。
【0008】
他に、長鎖のジオールである2-メチル-1,8-オクタンジオールや1,9-ノナンジオールを原料としたポリカーボネートジオールを用いたポリウレタンが提案されている。(特許文献6)
さらに、耐薬品性、低温特性、耐熱性に優れたポリカーボネートジオールとして、ジオールの平均の炭素数が6を超えるポリカーボネートジオールについて提案されている。(特許文献7)
また、炭素数3~炭素数6のジオールを原料としたポリカーボネートジオールと、炭素数7~12のジオールを原料としたポリカーボネートジオールを混合して使用することで、柔軟性、耐薬品性等を改良したポリカーボネートジオールを用いたポリウレタンが提案されている。(特許文献8~10)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-51428号公報
【特許文献2】特開平2-289616号公報
【特許文献3】国際公開第2002/070584号
【特許文献4】国際公開第2006/088152号
【特許文献5】特開昭60-195117号公報
【特許文献6】特公平3-54967号公報
【特許文献7】特開2000-95852号公報
【特許文献8】特許第4177318号公報
【特許文献9】特許第4506754号公報
【特許文献10】特許第6347397号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“ポリウレタンの基礎と応用”96頁~106頁 松永勝治 監修、(株)シーエムシー出版、2006年11月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これら従前知られた技術、例えば特許文献1乃至3等に記載のポリカーボネートジオールでは、ポリウレタンとした際の低温柔軟性が不十分であった。また、特許文献4乃至5等に記載のポリカーボネートジオールではポリウレタンとした際の耐薬品性が劣るものであった。加えて、特許文献7乃至10等のポリカーボネートジオールにおいては、ポリウレタンとした際に耐薬品性や溶液安定性が劣るものであった。
【0012】
また、耐薬品性においては、昨今の社会的情勢から、殺菌、消毒に用いるエタノール製剤に対しての耐久性が強く要求されるようになってきている。
【0013】
本発明は前記従来技術で到達できなかった、溶液安定性、低温柔軟性、耐薬品性、特に耐エタノール性の物性バランスに優れたポリウレタンの原料となるポリカーボネートジオールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料として特定の構造の共重合ポリカーボネートジオールを用いて製造されたポリウレタンにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0016】
[1] 下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールであって、水酸基価が38.0mg-KOH/g以上145mg-KOH/g以下であり、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位とのモル比率が、(A)/(B)=89/11~51/49であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
(上記式(A)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基を示す。)
【0017】
[2] 前記ポリカーボネートジオールの全構造単位中、前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位の合計の割合が50モル%以上であることを特徴とする[1]に記載のポリカーボネートジオール。
【0018】
[3] 前記水酸基価が44.8mg-KOH/g以上125mg-KOH/g以下である[1]又は[2]に記載のポリカーボネートジオール。
【0019】
[4] 前記式(A)で表される化合物が、1,4-ブタンジオールである[1]~[3]のポリカーボネートジオール。
【0020】
[5] 前記式(B)で表される化合物が、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール及び1,12-ドデカンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール。
【0021】
[6] 前記式(A)で表される化合物及び前記式(B)で表される化合物のうち少なくとも一方が植物由来である[1]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール。
【0022】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールを用いてなるポリウレタン。
【0023】
[8] [7]に記載のポリウレタンを用いて製造した人工皮革または合成皮革。
【0024】
[9] [7]に記載のポリウレタンを用いて製造した塗料またはコーティング剤。
【0025】
[10] [7]に記載のポリウレタンを用いて製造した弾性繊維。
【0026】
[11] [7]に記載のポリウレタンを用いて製造した水系ポリウレタン塗料。
【0027】
[12] [7]に記載のポリウレタンを用いて製造した粘着剤または接着剤。
【0028】
[13] ポリカーボネートジオールを用いて得られるポリウレタン溶液の-5℃以下での保管方法であって、前記ポリカーボネートジオールが下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含み、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位との比率が(A)/(B)=89/11~51/49であり、水酸基価が38.0mg-KOH/g以上140mg-KOH/g以下であり、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下である、ポリウレタン溶液の-5℃以下での保管方法。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
(上記式(A)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基を示す。)
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、原料に特定の構造を導入することで、溶液安定性、低温柔軟性、耐薬品性、特に耐エタノール性の物性バランスに優れたポリウレタンの原料となるポリカーボネートジオールを提供することができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0031】
〔1.ポリカーボネートジオール〕
本発明のポリカーボネートジオールは、下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールであって、水酸基価が38.0mg-KOH/g以上145mg-KOH/g以下であり、下記式(A)で表される構造単位と下記式(B)で表される構造単位とのモル比率が、(A)/(B)=89/11~51/49であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
HO-R-OH・・・(A)
HO-R-OH・・・(B)
【0032】
(上記式(A)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基を示す。)
【0033】
<1-1.構造上の特徴>
本発明に係る前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位は、例えば、下記式(C)で表される。また、前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位は、例えば、下記式(D)で表される。
【0034】
【化1】
【0035】
(上記式(C)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数4の二価のアルキレン基又はポリメチレン基を示す。)
【0036】
【化2】
【0037】
(上記式(D)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基又はポリメチレン基を示す。)
【0038】
前記式(C)中、Rは1種類であっても複数種であってもよい。又前記式(D)中、Rは1種類であっても複数種であってもよい。
前記式(C)中、Rは、耐薬品性、低温柔軟性それぞれが良好となることより、無置換であることが好ましい。
【0039】
前記式(D)中、Rは置換若しくは無置換の炭素数8~20の二価のアルキレン基又はポリメチレン基であるが、置換基がある場合、置換基の炭素数は少ないほうが耐薬品性、低温柔軟性、それぞれが良好となることより好ましく、置換基の炭素数は2以下が好ましく、1以下がさらに好ましく、無置換がさらに好ましい。
【0040】
本発明のポリカーボネートジオールは、前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むことにより、ポリウレタンにしたときの良好な溶液安定性、耐薬品性及び低温柔軟性を得ることができる。更に前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位と前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位との割合(以下「(A)/(B)」と称す場合がある。)は、モル比率で、(A)/(B)=89/11~51/49が好ましく、85/15~55/45がより好ましく、80/20~60/40がさらに好ましく、75/25~65/35が最も好ましい。
【0041】
前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が多く、前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が少なくなりすぎると、ポリウレタンとしたときの溶液安定性が十分に得られなくなる場合や、低温柔軟性が十分でなくなる場合がある。前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が少なく、前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が多くなりすぎると、ポリウレタンとしたときの耐薬品性が十分得られない可能性がある。
【0042】
ポリカーボネートジオールの全構造単位に対する、前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位の合計の割合は、溶液安定性、耐薬品性、低温柔軟性の物性のバランス上、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上が特に好ましく、95モル%以上が最も好ましく、100モル%であってもよい。
【0043】
本発明のポリカーボネートジオールは、前記式(A)で表される化合物と前記式(B)で表される化合物とカーボネート化合物とを、エステル交換反応により重縮合することにより製造することができる。
【0044】
<1-2.ジヒドロキシ化合物>
本発明のポリカーボネートジオールの原料となるジヒドロキシ化合物である前記式(A)で表される化合物としては、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。中でも、ポリウレタンとしたときの耐薬品性と低温柔軟性のバランスから、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0045】
本発明のポリカーボネートジオールの原料となるジヒドロキシ化合物である前記式(B)で表される化合物としては、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,12-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール等が挙げられる。中でもポリウレタンとしたときの溶液安定性、耐薬品性、低温柔軟性のバランスが優れることより、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールが好ましく、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールがより好ましく、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールがさらに好ましく、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールが特に好ましく、1,10-デカンジオールが最も好ましい。尚、前記式(B)で表される化合物は1種であっても複数種であってもよい。
【0046】
前記式(A)で表される化合物は植物由来であることが、環境負荷低減の観点から好ましい。植物由来として適用可能な前記式(A)で表される化合物としては、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0047】
前記式(B)で表される化合物は植物由来であることが、環境負荷低減の観点から好ましい。植物由来として適用可能な前記式(B)で表される化合物としては、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,12-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール等が挙げられる。
【0048】
植物由来のジヒドロキシ化合物として、例えば1,4-ブタンジオールの場合、発酵法により得られたコハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン及びγ-ブチロラクトン等から化学合成により1,4-ブタンジオールを製造してもよいし、発酵法で直接1,4-ブタンジオールを製造してもよいし、発酵法により得られた1,3-ブタジエンから1,4-ブタンジオールを製造してもよい。この中でも発酵法で直接1,4-ブタンジオールを製造する方法とコハク酸を還元触媒により水添して1,4-ブタンジオールを得る方法が効率的で好ましい。
【0049】
また、1,10-デカンジオールはひまし油からアルカリ溶融によりセバシン酸を合成し、直接もしくはエステル化反応後に水素添加することにより合成できる。
【0050】
<1-3.カーボネート化合物>
本発明のポリカーボネートジオールの製造に使用可能なカーボネート化合物(「炭酸ジエステル」と称する場合がある)としては、本発明の効果を損なわない限り限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。このうち反応性の観点からジアリールカーボネートが好ましい。
【0051】
カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0052】
<1-4.原料等の使用割合>
本発明のポリカーボネートジオールの製造において、カーボネート化合物の使用量は、特に限定されないが、通常ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対するモル比率で、下限が好ましくは0.35、より好ましくは0.50、さらに好ましくは0.60であり、上限は好ましくは1.00、より好ましくは0.98、さらに好ましくは0.97である。カーボネート化合物の使用量が上記上限超過では得られるポリカーボネートジオールの末端基が水酸基でないものの割合が増加したり、分子量が所定の範囲とならない場合があり、前記下限未満では所定の分子量まで重合が進行しない場合がある。
【0053】
<1-5.エステル交換触媒>
本発明のポリカーボネートジオールを製造する場合には、重合を促進するために必要に応じてエステル交換触媒(以下、触媒と称する場合がある)を用いることができる。
ただし、その場合、得られたポリカーボネートジオール中に、過度に多くの触媒が残存すると、該ポリカーボネートジオールを用いてポリウレタンを製造する際に反応を阻害したり、反応を過度に促進したりする場合がある。
このため、ポリカーボネートジオール中に残存する触媒量は、特に限定されないが、触媒金属換算の含有量として100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0054】
エステル交換触媒としては、一般にエステル交換能があるとされている化合物であれば制限なく用いることができる。
【0055】
エステル交換触媒の例を挙げると、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の周期表第1族金属の化合物;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表第2族金属の化合物;チタン、ジルコニウム等の周期表第4族金属の化合物;ハフニウム等の周期表第5族金属の化合物;コバルト等の周期表第9族金属の化合物;亜鉛等の周期表第12族金属の化合物;アルミニウム等の周期表第13族金属の化合物;ゲルマニウム、スズ、鉛等の周期表第14族金属の化合物;アンチモン、ビスマス等の周期表第15族金属の化合物;ランタン、セリウム、ユーロピウム、イッテルビウム等ランタナイド系金属の化合物等が挙げられる。これらのうち、エステル交換反応速度を高めるという観点から、周期表第1族金属の化合物、周期表第2族金属の化合物、周期表第4族金属の化合物、周期表第5族金属の化合物、周期表第9族金属の化合物、周期表第12族金属の化合物、周期表第13族金属の化合物、周期表第14族金属の化合物が好ましく、周期表第1族金属の化合物、周期表第2族金属の化合物がより好ましく、周期表第2族金属の化合物がさらに好ましい。周期表第1族金属の化合物の中でも、リチウム、カリウム、ナトリウムの化合物が好ましく、リチウム、ナトリウムの化合物がより好ましく、ナトリウムの化合物がさらに好ましい。周期表第2族金属の化合物の中でも、マグネシウム、カルシウム、バリウムの化合物が好ましく、カルシウム、マグネシウムの化合物がより好ましく、マグネシウムの化合物がさらに好ましい。これらの金属化合物は主に、水酸化物や塩等として使用される。塩として使用される場合の塩の例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物塩;酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等のカルボン酸塩;メタンスルホン酸やトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸塩;燐酸塩や燐酸水素塩、燐酸二水素塩等の燐含有の塩;アセチルアセトナート塩;等が挙げられる。触媒金属は、さらにメトキシドやエトキシドの様なアルコキシドとして用いることもできる。
【0056】
これらのうち、好ましくは、周期表第2族金属から選ばれた少なくとも1種の金属の酢酸塩や硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、アルコキシドが用いられ、より好ましくは周期表第2族金属の酢酸塩や炭酸塩、水酸化物が用いられ、さらに好ましくはマグネシウム、カルシウムの酢酸塩や炭酸塩、水酸化物が用いられ、特に好ましくはマグネシウム、カルシウムの酢酸塩が用いられ、最も好ましくは酢酸マグネシウムが用いられる。
【0057】
エステル交換触媒の使用量は、原料ジヒドロキシ化合物の質量に対する金属の質量比として、上限が500質量ppmであることが好ましく、100質量ppmであることがより好ましく、50質量ppmであることがさらに好ましく、10質量ppmであることが特に好ましい。一方、下限は十分な重合活性が得られる量として、0.01質量ppmであることが好ましく、0.1質量ppmであることがより好ましく、1質量ppmであることがさらに好ましい。
【0058】
<1-6.反応条件>
エステル交換反応の際の反応温度は、実用的な反応速度が得られる温度であれば任意に採用することができる。通常反応温度の下限は70℃であることが好ましく、100℃であることがより好ましく、130℃であることがさらに好ましい。反応温度の上限は、通常250℃であることが好ましく、230℃であることがより好ましく、200℃であることがさらに好ましい。反応温度が上記下限以上であればエステル交換反応を実用的な速度で進行させることができる。反応温度を上記上限以下とすることにより、得られるポリカーボネートジオールが着色したり、エーテル構造が生成するなどの品質上の問題が生じるのを防ぐことができる。
【0059】
さらには、ポリカーボネートジオールを製造するエステル交換反応の全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることが好ましく、170℃以下とすることがより好ましく、160℃以下とすることがさらに好ましい。全工程を通じて反応温度を180℃以下とすることにより、条件によって着色し易くなるのを防ぐことができる。
【0060】
反応は常圧で行なうこともできるが、エステル交換反応は平衡反応であり、生成する軽沸成分を系外に留去することで反応を生成系に偏らせることができる。従って、通常、反応過程の後半には、減圧条件を採用して軽沸成分を留去しながら反応することが好ましい。或いは、反応の途中から徐々に圧力を下げて生成する軽沸成分を留去しながら反応させていくことも可能である。特に反応の終期において減圧度を高めて反応を行うと、副生したモノアルコール、フェノール類および環状カーボネートなどを留去することができるので好ましい。
この際の反応終了時の反応圧力は、上限が10kPaであることが好ましく、5kPaであることがより好ましく、1kPaであることがさらに好ましい。
【0061】
この際の反応終了時の反応圧力は、上限が10kPaであることが好ましく、5kPaであることがより好ましく、1kPaであることがさらに好ましい。
【0062】
軽沸成分の留出を効果的に行うために、反応系へ、窒素、アルゴンおよびヘリウムなどの不活性ガスを流通しながら該反応を行うこともできる。
【0063】
エステル交換反応の際に低沸のカーボネート化合物やジヒドロキシ化合物を使用する場合は、反応初期はカーボネート化合物やジヒドロキシ化合物の沸点近辺で反応を行い、反応が進行するにつれて、徐々に温度を上げて、さらに反応を進行させる、という方法も採用可能である。このようにすることで、反応初期の未反応のカーボネート化合物の留去を防ぐことができる。
【0064】
さらにこれら原料の留去を防ぐ目的で、反応器に還流管をつけて、カーボネート化合物とジヒドロキシ化合物を還流させながら反応を行うことも可能であり、この場合、仕込んだ原料が失われず試剤の量比を正確に合わせることができる。
【0065】
重合反応は、バッチ式または連続式で行うことができるが、製品の安定性等から連続式で行うことが好ましい。使用する装置は、槽型、管型および塔型のいずれの形式であってもよく、各種の撹拌翼を具備した公知の重合槽等を使用することができる。装置昇温中の雰囲気は特に制限はないが、製品の品質の観点から、窒素ガス等の不活性ガス中、常圧または減圧下で行うのが好ましい。
【0066】
重合反応は、生成するポリカーボネートジオールの分子量を測定しながら、目的の分子量となったところで終了する。重合に必要な反応時間は、使用するジヒドロキシ化合物、カーボネート化合物、および触媒の使用の有無および種類により大きく異なるので、一概に規定することは出来ないが、通常50時間以下であることが好ましく、20時間以下であることがより好ましく、10時間以下であることがさらに好ましい。
【0067】
<1-7.触媒失活剤>
前述の如く、重合反応の際に触媒を用いた場合、通常得られたポリカーボネートジオールには触媒が残存し、残存する触媒により、ポリカーボネートジオールの加熱により、分子量上昇や組成変化、色調悪化等が起こったり、ポリウレタン化反応の制御が出来なくなったりする場合がある。この残存する触媒の影響を抑制するために、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルの例えばリン系化合物等を添加し、エステル交換触媒を不活性化することが好ましい。さらには添加後、後述のように加熱処理等により、エステル交換触媒を効率的に不活性化することができる。リン系化合物としては、少量で効果が大きいことからリン酸、亜リン酸が好ましく、リン酸がより好ましい。
【0068】
エステル交換触媒の不活性化に使用されるリン系化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸などの無機リン酸や、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリフェニルなどの有機リン酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
前記リン系化合物の使用量は、特に限定はされないが、前述したように、使用されたエステル交換触媒とほぼ等モルであればよく、具体的には、使用されたエステル交換触媒1モルに対して上限が好ましくは5モル、より好ましくは2モルであり、下限が好ましくは0.6モル、より好ましくは0.8モル、さらに好ましくは1.0モルである。これより少ない量のリン系化合物を使用した場合は、ポリカーボネートジオールを加熱すると、ポリカーボネートジオールの分子量上昇、組成変化、色調悪化等が起こったり、エステル交換触媒の不活性化が十分でなく、得られたポリカーボネートジオールを例えばポリウレタン製造用原料として使用する時、該ポリカーボネートジオールのイソシアネート基に対する反応性を十分に低下させることができなかったりする場合がある。また、この範囲を超えるリン系化合物を使用すると得られたポリカーボネートジオールが着色したり、該ポリカーボネートジオールを原料としてポリウレタンとしたときに、ポリウレタンが加水分解しやすく、更に、リン系化合物がブリードアウトしたりする可能性がある。
【0070】
リン系化合物を添加することによるエステル交換触媒の不活性化は、室温でも行うことができるが、加熱処理するとより効率的である。この加熱処理の温度は、特に限定はされないが、上限が好ましくは180℃、より好ましくは150℃、さらに好ましくは120℃、よりさらに好ましくは100℃であり、下限は、好ましくは50℃、より好ましくは60℃、さらに好ましくは70℃である。これより低い温度の場合は、エステル交換触媒の不活性化に時間がかかり効率的でなく、また不活性化の程度も不十分な場合がある。一方、180℃を超える温度では、得られたポリカーボネートジオールが着色することがある。
リン系化合物と反応させる時間は特に限定するものではないが、通常0.1~5時間である。
【0071】
<1-8.精製>
反応生成物は、前記のようなポリマー末端に水酸基を有さない不純物、フェノール類、原料ジヒドロキシ化合物、カーボネート化合物、副生する軽沸の環状カーボネートおよび添加した触媒などを有しており、これらを除去する目的で精製することができる。
【0072】
その際の精製は、軽沸化合物については、蒸留で留去する方法が採用できる。蒸留の具体的な方法としては、減圧蒸留、水蒸気蒸留および薄膜蒸留など特にその形態に制限はなく、任意の方法を採用することが可能であるが、中でも薄膜蒸留が効果的である。
【0073】
薄膜蒸留条件としては特に制限はないが、薄膜蒸留時の温度は、上限が250℃であることが好ましく、200℃であることがより好ましい。また、下限が120℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましい。薄膜蒸留時の温度の下限を上記下限以上とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分となる。また、上限を上記上限以下とすることにより、薄膜蒸留後に得られるポリカーボネートジオールが着色するのを防ぐことができる。
【0074】
薄膜蒸留時の圧力は、上限が500Paであることが好ましく、150Paであることがより好ましく、70Paであることがさらに好ましく、60Paであることが特に好ましい。薄膜蒸留時の圧力を上記上限値以下とすることにより、軽沸成分の除去効果が十分に得られる。
【0075】
また、薄膜蒸留直前のポリカーボネートジオールの保温の温度は、上限が250℃であることが好ましく、150℃であることがより好ましい。また、下限が80℃であることが好ましく、120℃であることがより好ましい。
薄膜蒸留直前のポリカーボネートジオールの保温の温度を上記下限以上とすることにより、薄膜蒸留直前のポリカーボネートジオールの流動性が低下するのを防ぐことができる。一方、上記上限以下とすることにより、薄膜蒸留後に得られるポリカーボネートジオールが着色するのを防ぐことができる。
【0076】
また、水溶性の不純物を除くために、水、アルカリ性水、酸性水およびキレート剤溶解溶液などで洗浄してもよい。その場合水に溶解させる化合物は任意に選択できる。
【0077】
<1-9.分子鎖末端>
本発明のポリカーボネートジオールの分子鎖末端は主に水酸基である。しかしながら、ジヒドロキシ化合物とカーボネート化合物との反応で得られるポリカーボネートジオールの場合には、不純物として一部分子鎖末端が水酸基ではないものが存在する可能性がある。その具体例としては、分子鎖末端がアルキルオキシ基又はアリールオキシ基のものであり、多くはカーボネート化合物由来の構造である。
【0078】
例えば、カーボネート化合物としてジフェニルカーボネートを使用した場合はアリールオキシ基としてフェノキシ基(PhO-)、ジメチルカーボネートを使用した場合はアルキルオキシ基としてメトキシ基(MeO-)、ジエチルカーボネートを使用した場合はエトキシ基(EtO-)、エチレンカーボネートを使用した場合はヒドロキシエトキシ基(HOCHCHO-)が分子鎖末端として残存する場合がある(ここで、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す)。
【0079】
本発明のポリカーボネートジオールの分子鎖末端は、全末端数に対して、前記式(A)で表される化合物に由来する末端数と前記式(B)で表される化合物に由来する末端数の合計の数の割合が、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上、最も好ましくは99モル以上である。上記範囲にすることにより、ポリウレタンとしたときに所望の分子量とすることが容易となり、溶液安定性、耐薬品性、低温柔軟性のバランスに優れたポリウレタンの原料となることが可能となる。
【0080】
又、ポリカーボネートジオールの分子鎖末端がカーボネート化合物に由来する末端基の数の割合は、全末端数に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0081】
<1-10.水酸基価>
本発明のポリカーボネートジオールの水酸基価は、下限は通常37.4mg-KOH/g、好ましくは38.7mg-KOH/g、より好ましくは40mg-KOH/g、さらに好ましくは42mg-KOH/g、特に好ましくは44.8mg-KOH/g、とりわけ好ましくは45mg-KOH/gである。また、上限は通常140mg-KOH/g、好ましくは135mg-KOH/g、より好ましくは130mg-KOH/g、さらに好ましくは125mg-KOH/gである。水酸基価が上記下限未満では、粘度が高くなりすぎポリウレタン化の際のハンドリングが困難となる場合があり、上記上限超過ではポリウレタンとした時に耐薬品性や低温柔軟性などの物性が不足する場合がある。
【0082】
<1-11.分子量・分子量分布>
本発明のポリカーボネートジオールの水酸基価から求めた数平均分子量(Mn)の下限は好ましくは800であり、より好ましくは900、さらに好ましくは1000である。一方、上限は好ましくは2800であり、より好ましくは2700、さらに好ましくは2500である。ポリカーボネートジオールのMnが前記下限未満では、ウレタンとした際に低温柔軟性が十分に得られない場合がある。一方前記上限超過では粘度が上がり、ポリウレタン化の際のハンドリングを損なう可能性がある。
【0083】
本発明のポリカーボネートジオールの分子量分布である重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の下限は通常1.5であり、好ましくは1.8である。上限は通常3.5であり、好ましくは3.0である。分子量分布が上記範囲を超える場合、このポリカーボネートジオールを用いて製造したポリウレタンの物性が、低温で硬くなる、伸びが低下する等の傾向がある。分子量分布が上記範囲未満のポリカーボネートジオールを製造しようとすると、オリゴマーを除くなどの高度な精製操作が必要になる場合がある。
【0084】
ポリカーボネートジオールの分子量分布におけるポリカーボネートジオールの重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれポリスチレン換算の重量平均分子量及び数平均分子量であり、通常ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPCと略記する場合がある)の測定により求めることができる。
【0085】
<1-12.残存モノマー類等>
原料として例えばジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸ジエステルを使用した場合、ポリカーボネートジオール製造中にフェノール類が副生する。フェノール類は一官能性化合物なので、ポリウレタンを製造する際の阻害因子となる可能性がある上、フェノール類によって形成されたウレタン結合は、その結合力が弱いために、その後の工程等で熱によって解離してしまい、イソシアネートやフェノール類が再生し、不具合を起こす可能性がある。また、フェノール類は刺激性物質でもあるため、ポリカーボネートジオール中のフェノール類の残存量は、より少ない方が好ましい。具体的にはポリカーボネートジオールに対する質量比として好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、中でも100ppm以下であることが好ましい。ポリカーボネートジオール中のフェノール類を低減するためには、後述するようにポリカーボネートジオールの重合反応の圧力を絶対圧力として1kPa以下の高真空としたり、ポリカーボネートジオールの重合後に薄膜蒸留等を行ったりすることが有効である。
【0086】
ポリカーボネートジオール中には、製造時の原料として使用した炭酸ジエステルが残存することがある。ポリカーボネートジオール中の炭酸ジエステルの残存量は限定されるものではないが、少ないほうが好ましく、ポリカーボネートジオールに対する質量比として上限が好ましくは5質量%、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは1質量%である。ポリカーボネートジオールの炭酸ジエステル含有量が多すぎるとポリウレタン化の際の反応を阻害する場合がある。一方、その下限は特に制限はないが、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0質量%である。
【0087】
ポリカーボネートジオールには、製造時に使用したジヒドロキシ化合物が残存する場合がある。ポリカーボネートジオール中のジヒドロキシ化合物の残存量は、限定されるものではないが、少ないほうが好ましく、ポリカーボネートジオールに対する質量比として1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。ポリカーボネートジオール中のジヒドロキシ化合物の残存量が多いと、ポリウレタンとした際のソフトセグメント部位の分子長が不足し、所望の物性が得られない場合がある。
【0088】
ポリカーボネートジオール中には、製造の際に副生した環状のカーボネート(環状オリゴマー)を含有する場合がある。例えば前記式(A)で表される化合物として1,4-ブタンジオールを用いた場合、1,3-ジオキセパン-2-オンもしくはさらにこれらが2分子ないしそれ以上で環状カーボネートとなったものなどが生成してポリカーボネートジオール中に含まれる場合がある。これらの化合物は、ポリウレタン化反応においては副反応をもたらす可能性があり、また濁りの原因となるため、ポリカーボネートジオールの重合反応の圧力を絶対圧力として1kPa以下の高真空にしたり、ポリカーボネートジオールの合成後に薄膜蒸留等を行ったりしてできる限り除去しておくことが好ましい。ポリカーボネートジオール中に含まれるこれら環状カーボネートの含有量は、限定されないが、ポリカーボネートジオールに対する質量比として好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0089】
〔2.ポリウレタン〕
上述の本発明のポリカーボネートジオールを用いてポリウレタンを製造することができる。本発明のポリカーボネートジオールを用いて本発明のポリウレタンを製造する方法は、通常ポリウレタンを製造する公知のポリウレタン化反応条件が用いられる。
【0090】
<2-1.ポリイソシアネート>
本発明のポリカーボネートジオールを用いてポリウレタンを製造するのに使用されるポリイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族又は芳香族の各種公知のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0091】
例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1-メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
これらの中でも得られるポリウレタンの物性のバランスが好ましい点、工業的に安価に多量に入手が可能な点で、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと称する場合がある)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0093】
<2-2.鎖延長剤>
また、本発明のポリウレタンを製造する際に用いられる鎖延長剤は、後述するイソシアネート基を有するプレポリマーを製造する場合において、イソシアネート基と反応する活性水素を少なくとも2個有する低分子量化合物であり、通常ポリオール及びポリアミン等を挙げることができる。
【0094】
その具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖ジオール類;2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ヘプタンジオール、1,4-ジメチロールヘキサン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ダイマージオール等の分岐鎖を有するジオール類;ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のエーテル基を有するジオール類;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシエチルシクロヘキサン等の脂環構造を有するジオール類、キシリレングリコール、1,4-ジヒドロキシエチルベンゼン、4,4’-メチレンビス(ヒドロキシエチルベンゼン)等の芳香族基を有するジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類;N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン等のヒドロキシアミン類;エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、メチレンビス(o-クロロアニリン)、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、トリレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、N,N’-ジアミノピペラジン等のポリアミン類;及び水等を挙げることができる。これらの鎖延長剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
これらの中でも得られるポリウレタンの物性のバランスが好ましい点、工業的に安価に多量に入手が可能な点で、1,4-ブタンジオール(以下、1,4BDと称する場合がある)、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシエチルシクロヘキサン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、イソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンが好ましい。
【0096】
また、後述する水酸基を有するプレポリマーを製造する場合の鎖延長剤とは、イソシアネート基を少なくとも2個有する低分子量化合物であり、具体的には<2-1.ポリイソシアネート>で記載したような化合物が挙げられる。
【0097】
<2-3.鎖停止剤>
本発明のポリウレタンを製造する際には、得られるポリウレタンの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を使用することができる。
【0098】
これらの鎖停止剤としては、一個の水酸基を有するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族モノオール類、一個のアミノ基を有するジエチルアミン、ジブチルアミン、n-ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン等の脂肪族モノアミン類が例示される。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
<2-4.触媒>
本発明のポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応において、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなどのアミン系触媒又はトリメチルチンラウレート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジオクチルチンジネオデカネートなどのスズ系の化合物、さらにはチタン系化合物などの有機金属塩などに代表される公知のウレタン重合触媒を用いる事もできる。ウレタン重合触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
前記ウレタン化反応触媒の中でも、有機スズ系化合物が好ましい。有機スズ系化合物としては、例えば、スズ含有アシレート化合物、スズ含有メルカプトカルボン酸塩等が挙げられる。具体的には、オクチル酸スズ、モノメチルスズメルカプト酢酸塩、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩、モノブチルスズマレイン酸ベンジルエステル塩、モノオクチルスズマレイン酸塩、モノオクチルスズチオジプロピオン酸塩、モノオクチルスズトリス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、モノフェニルスズトリアセテート、ジメチルスズマレイン酸エステル塩、ジメチルスズビス(エチレングリコールモノチオグリコレート)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸)塩、ジメチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸)塩、ジメチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジステアレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレイン酸塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジブチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸)、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸アルキルエステル)塩、ジブチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸アルコキシブチルエステル)塩、ジブチルスズビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチルスズ(3-メルカプトプロピオン酸)塩、ジオクチルスズマレイン酸塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、ジオクチルスズビス(3-メルカプトプロピオン酸)塩等が挙げられる。
【0101】
特に、ポリイソシアネートとして、脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環族ポリイソシアネートを原料として使用する場合は、芳香族ポリイソシアネートより反応性が低いため、スズ系等のウレタン化反応触媒を使用するのが好ましく、特に反応性の低い4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いる場合はこれらのウレタン化反応触媒を使用することがさらに好ましい。
【0102】
<2-5.本発明のポリカーボネートジオール以外のポリオール>
本発明のポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、本発明のポリカーボネートジオールと必要に応じてそれ以外のポリオールを併用しても良い。ここで、本発明のポリカーボネートジオール以外のポリオールとは、通常のポリウレタン製造の際に用いるものであれば特に限定されず、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、本発明のポリカーボネートジオール以外のポリカーボネートポリオールが挙げられる。例えば、ポリエーテル系ポリオールとの併用では、本発明のポリカーボネートジオールの特徴である溶液安定性及び低温柔軟性を更に向上させたポリウレタンとすることができる。ここで、本発明のポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールを合わせた質量に対する。本発明のポリカーボネートジオールの質量割合は70%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましい。本発明のポリカーボネートジオールの質量割合が少ないと、本発明の特徴である溶液安定性、耐薬品性、低温柔軟性のバランスが失われる可能性がある。
【0103】
<2-6.溶媒>
本発明のポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応は溶媒を用いても良い。
好ましい溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0104】
これらの中で好ましい有機溶媒は、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン及びジメチルスルホキシド等である。
また、本発明のポリカーボネートジオール、ポリイソシアネート、及び前記の鎖延長剤が配合されたポリウレタン組成物から、水分散液のポリウレタンを製造することもできる。
【0105】
<2-7.ポリウレタン製造方法>
上述の反応試剤を用いて本発明のポリウレタンを製造する方法としては、一般的に実験ないし工業的に用いられる製造方法が使用できる。
その例としては、本発明のポリカーボネートジオール、それ以外のポリオール、ポリイソシアネート及び鎖延長剤を一括に混合して反応させる方法(以下、「一段法」と称する場合がある)や、まず本発明のポリカーボネートジオール、それ以外のポリオール及びポリイソシアネートを反応させて両末端がイソシアネート基のプレポリマーを調製した後に、そのプレポリマーと鎖延長剤を反応させる方法(以下、「二段法」と称する場合がある)等がある。
【0106】
二段法は、本発明のポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールとを予め1当量以上のポリイソシアネートと反応させることにより、ポリウレタンのソフトセグメントに相当する部分の両末端イソシアネート中間体を調製する工程を経るものである。このように、プレポリマーを一旦調製した後に鎖延長剤と反応させると、ソフトセグメント部分の分子量の調整が行いやすい場合があり、ソフトセグメントとハードセグメントの相分離を確実に行う必要がある場合には有用である。
【0107】
<2-8.一段法>
一段法とは、ワンショット法とも呼ばれ、本発明のポリカーボネートジオール、それ以外のポリオール、ポリイソシアネート及び鎖延長剤を一括に仕込むことで反応を行う方法である。
一段法におけるポリイソシアネートの使用量は、特に限定はされないが、本発明のポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールとの総水酸基数と、鎖延長剤の水酸基数とアミノ基数との総計を1当量とした場合、下限は、好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量、特に好ましくは0.95当量であり、上限は、好ましくは3.0当量、より好ましくは2.0当量、さらに好ましくは1.5当量、特に好ましくは1.1当量である。
【0108】
ポリイソシアネートの使用量が多すぎると、未反応のイソシアネート基が副反応を起こし、得られるポリウレタンの粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となったり、柔軟性が損なわれたりする傾向があり、少なすぎると、ポリウレタンの分子量が十分に大きくならず、十分なポリウレタン強度が得られなくなる傾向がある。
【0109】
また、鎖延長剤の使用量は、特に限定されないが、本発明のポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールの総水酸基数からポリイソシアネートのイソシアネート基数を引いた数を1当量とした場合、下限は、好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量、特に好ましくは0.95当量であり、上限は好ましくは3.0当量、より好ましくは2.0当量、さらに好ましくは1.5当量、特に好ましくは1.1当量である。鎖延長剤の使用量が多すぎると、得られるポリウレタンが溶媒に溶けにくく加工が困難になる傾向があり、少なすぎると、得られるポリウレタンが軟らかすぎて十分な耐薬品性や強度を得られなくなる場合がある。
【0110】
<2-9.二段法>
二段法は、プレポリマー法ともよばれ、主に以下の方法がある。
(a)予め本発明のポリカーボネートジオール及びそれ以外のポリオールと、過剰のポリイソシアネートとを、ポリイソシアネート/(本発明のポリカーボネートジオール及びそれ以外のポリオール)の反応当量比が1を超える量から10.0以下で反応させて、分子鎖末端がイソシアネート基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤を加えることによりポリウレタンを製造する方法
(b)予めポリイソシアネートと、過剰のポリカーボネートジオール及びそれ以外のポリオールとを、ポリイソシアネート/(本発明のポリカーボネートジオール及びそれ以外のポリオール)の反応当量比が0.1以上から1.0未満で反応させて分子鎖末端が水酸基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤として末端がイソシアネート基のポリイソシアネートを反応させてポリウレタンを製造する方法。
【0111】
二段法は無溶媒でも溶媒共存下でも実施することができる。
二段法によるポリウレタン製造は以下に記載の(1)~(3)のいずれかの方法によって行うことができる。
(1) 溶媒を使用せず、まず直接ポリイソシアネートとポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールとを反応させてプレポリマーを合成し、そのまま鎖延長反応に使用する。
(2) (1)の方法でプレポリマーを合成し、その後溶媒に溶解し、以降の鎖延長反応に使用する。
(3) 初めから溶媒を使用し、ポリイソシアネートとポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールとを反応させ、その後鎖延長反応を行う。
【0112】
(1)の方法の場合には、鎖延長反応にあたり、鎖延長剤を溶媒に溶かしたり、溶媒に同時にプレポリマー及び鎖延長剤を溶解するなどの方法により、ポリウレタンを溶媒と共存する形で得ることが重要である。
二段法(a)の方法におけるポリイソシアネートの使用量は、特に限定はされないが、ポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合のイソシアネート基の数として、下限が好ましくは1.0当量を超える量、より好ましくは1.2当量、さらに好ましくは1.5当量であり、上限が好ましくは10.0当量、より好ましくは5.0当量、さらに好ましくは3.0当量の範囲である。
【0113】
このポリイソシアネート使用量が多すぎると、過剰のイソシアネート基が副反応を起こして所望のポリウレタンの物性まで到達しにくい傾向があり、少なすぎると、得られるポリウレタンの分子量が十分に上がらず強度や熱安定性が低くなる場合がある。
鎖延長剤の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに含まれるイソシアネート基の数1当量に対して、下限が、好ましくは0.1当量、より好ましくは0.5当量、さらに好ましくは0.8当量であり、上限が好ましくは5.0当量、より好ましくは3.0当量、さらに好ましくは2.0当量の範囲である。
【0114】
上記鎖延長化反応を行う際に、分子量を調整する目的で、一官能性の有機アミン類やアルコール類を共存させてもよい。
【0115】
また、二段法(b)の方法における末端が水酸基であるプレポリマーを作製する際のポリイソシアネートの使用量は、特に限定はされないが、ポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合のイソシアネート基の数として、下限が好ましくは0.1当量、より好ましくは0.5当量、さらに好ましくは0.7当量であり、上限が好ましくは0.99当量、より好ましくは0.98当量、さらに好ましくは0.97当量である。
【0116】
このポリイソシアネート使用量が少なすぎると、続く鎖延長反応で所望の分子量を得るまでの工程が長くなり生産効率が落ちる傾向にあり、多すぎると、粘度が高くなりすぎて得られるポリウレタンの柔軟性が低下したり、取扱いが悪く生産性が劣ったりする場合がある。
鎖延長剤の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに使用したポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合、プレポリマーに使用したイソシアネート基の当量を加えた総当量として、下限が好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量であり、上限が好ましくは1.0当量未満、より好ましくは0.99当量、さらに好ましくは0.98当量の範囲である。
【0117】
上記鎖延長化反応を行う際に、分子量を調整する目的で、一官能性の有機アミン類やアルコール類を共存させてもよい。
【0118】
鎖延長反応は通常、0℃~250℃で反応させるが、この温度は溶媒の量、使用原料の反応性、反応設備等により異なり、特に制限はない。温度が低すぎると反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低い為に製造時間が長くなることがあり、また高すぎると副反応や得られるポリウレタンの分解が起こることがある。鎖延長反応は、減圧下で脱泡しながら行ってもよい。
【0119】
また、鎖延長反応には必要に応じて、触媒や安定剤等を添加することもできる。
【0120】
触媒としては例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ-ト、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸、スルホン酸等の化合物が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
安定剤としては例えば2,6-ジブチル-4-メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ-ト、N,N′-ジ-2-ナフチル-1,4-フェニレンジアミン、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト等の化合物が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、鎖延長剤が短鎖脂肪族アミン等の反応性の高いものの場合は、触媒を添加せずに実施してもよい。
【0121】
<2-10.水系ポリウレタンエマルション>
本発明のポリカーボネートジオールを用いて、水系ポリウレタンエマルションを製造する事も可能である。その場合、ポリカーボネートジオールを含むポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させてプレポリマーを製造する際に、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物を混合してプレポリマーを形成し、親水性官能基の中和塩化工程、水添加による乳化工程、鎖延長反応工程を経て水系ポリウレタンエマルションとする。
【0122】
ここで使用する少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物の親水性官能基とは、例えばカルボキシル基やスルホン酸基であって、アルカリ性基で中和可能な基である。また、イソシアネート反応性基とは、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基等の一般的にイソシアネートと反応してウレタン結合、ウレア結合を形成する基であり、これらが同一分子内に混在していてもかまわない。
【0123】
少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物としては、具体的には、2,2’-ジメチロールプロピオン酸、2,2-メチロール酪酸、2,2’-ジメチロール吉草酸等が挙げられる。また、ジアミノカルボン酸類、例えば、リジン、シスチン、3,5-ジアミノカルボン酸等も挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらを実際に用いる場合には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等のアミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ性化合物で中和して用いることができる。
【0124】
水系ポリウレタンエマルションを製造する場合、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物の使用量は、水に対する分散性能を上げるために、その下限は、本発明のポリカーボネートジオールとそれ以外のポリオールとの総重量に対して好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは10質量%である。一方、これを多く添加しすぎると本発明のポリカーボネートジオールの特性が維持されなくなってしまうことがあるために、その上限は好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、さらに好ましくは30質量%である。
【0125】
水系ポリウレタンエマルションを製造する場合、プレポリマー工程においてメチルエチルケトンやアセトン、あるいはNーメチル-2-ピロリドン等の溶媒の共存化に反応させてもよいし、無溶媒で反応させてもよい。また、溶媒を使用する場合は、水性エマルションを製造した後に蒸留によって溶媒を留去させるのが好ましい。
【0126】
また、水系ポリウレタンエマルションの合成、あるいは保存にあたり、高級脂肪酸、樹脂酸、酸性脂肪アルコール、硫酸エステル、スルホン酸高級アルキル、スルホン酸高級アルキル、スルホン酸アルキルアリール、スルホン化ひまし油、スルホコハク酸エステルなどに代表されるアニオン性界面活性剤、第一アミン塩、第二アミン塩、第三アミン塩、第四級アミン塩、ピリジニウム塩等のカチオン系界面活性剤、あるいはエチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコール又はフェノール類との公知の反応生成物に代表される非イオン性界面活性剤等を併用して、乳化安定性を保持してもよい。
【0127】
また、水系ポリウレタンエマルションとする際に、プレポリマーの有機溶媒溶液に、必要に応じて中和塩化工程なしに、乳化剤の存在下、水を機械的に高せん断下で混合して、エマルションを製造することも出来る。
【0128】
このようにして製造された水系ポリウレタンエマルションは、様々な用途に使用することが可能である。特に、最近は環境負荷の小さな化学品原料が求められており、有機溶剤を使用しない目的としての従来品からの代替が可能である。
【0129】
水系ポリウレタンエマルションの具体的な用途としては、例えば、コーティング剤、水系塗料、接着剤、合成皮革、人工皮革への利用が好適である。特に本発明のポリカーボネートジオールを用いて製造される水系ポリウレタンエマルションは、ポリカーボネートジオール中に前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を有していることから、柔軟性がありコーティング剤等として従来のポリカーボネートジオールを使用した水系ポリウレタンエマルションに比べて有効に利用する事が可能である。
【0130】
<2-11.添加剤>
本発明のポリカーボネートジオールを用いて製造した本発明のポリウレタンには、熱安定剤、光安定剤、着色剤、充填剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘着防止剤、難燃剤、老化防止剤、無機フィラー等の各種の添加剤を、本発明のポリウレタンの特性を損なわない範囲で、添加、混合することができる。
【0131】
熱安定剤として使用可能な化合物としては、燐酸、亜燐酸の脂肪族、芳香族又はアルキル基置換芳香族エステルや次亜燐酸誘導体、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルぺンタエリスリトールジホスファイト、ジアルキルビスフェノールAジホスファイト等のリン化合物;フェノール系誘導体、特にヒンダードフェノール化合物;チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオン酸エステル系等のイオウを含む化合物;スズマレート、ジブチルスズモノオキシド等のスズ系化合物等を使用することができる。
【0132】
ヒンダードフェノール化合物の具体例としては、Irganox1010(商品名:BASFジャパン株式会社製)、Irganox1520(商品名:BASFジャパン株式会社製)、Irganox245(商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0133】
リン化合物としては、PEP-36、PEP-24G、HP-10(いずれも商品名:株式会社ADEKA社製)Irgafos 168(商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0134】
イオウを含む化合物の具体例としては、ジラウリルチオプロピオネート(DLTP)、ジステアリルチオプロピオネート(DSTP)などのチオエーテル化合物が挙げられる。
【0135】
光安定剤の例としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系化合物等が挙げられ、具体的には「TINUVIN622LD」、「TINUVIN765」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製)、「SANOL LS-2626」、「SANOL LS-765」(以上、三共株式会社製)等が使用可能である。
【0136】
紫外線吸収剤の例としては、「TINUVIN328」、「TINUVIN234」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製)等が挙げられる。
【0137】
着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料などの染料;カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどの無機顔料;及びカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系等の有機顔料等が挙げられる。
【0138】
無機フィラーの例としては、ガラス短繊維、カーボンファイバー、アルミナ、タルク、グラファイト、メラミン、白土等が挙げられる。
【0139】
難燃剤の例としては、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素あるいは塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤が挙げられる。
【0140】
これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0141】
これらの添加剤の添加量は、ポリウレタンに対する質量比として、下限が、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、さらに好ましくは0.1質量%、上限は、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは1質量%である。添加剤の添加量が少な過ぎるとその添加効果を十分に得ることができず、多過ぎるとポリウレタン中で析出したり、濁りを発生したりする場合がある。
【0142】
<2-12.分子量>
本発明のポリウレタンの分子量は、その用途に応じて適宜調整され、特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として5万~50万であることが好ましく、10万~30万であることがより好ましい。Mwが上記下限よりも小さいと十分な強度や硬度が得られない場合があり、上記上限よりも大きいと加工性などハンドリング性を損なう傾向がある。
【0143】
<2-13.低温柔軟性>
本発明のポリウレタンは、後述の実施例の項に記載される方法で引張試験を行った場合の-10℃における100%モジュラスと23℃における100%モジュラスの比(100%モジュラス(-10℃)/100%モジュラス(23℃))が小さいことが好ましく、この比が小さい程、低温柔軟性に優れる。この比は4.0未満であることが好ましく、3.0未満であることがより好ましい。
【0144】
<2-14.耐オレイン酸性>
本発明のポリウレタンは、例えば後述の実施例の項に記載される方法での評価において、オレイン酸に浸漬前のポリウレタン試験片の質量に対する、オレイン酸に浸漬後のポリウレタン試験片の質量の変化率(%)が、16%未満であることが好ましく、8%未満がより好ましい。この質量変化率が上記上限超過では十分な耐オレイン酸性が得られない場合がある。
【0145】
<2-15.耐エタノール性>
本発明のポリウレタンは、例えば後述の実施例の項に記載される方法での評価において、エタノールに浸漬前のポリウレタン試験片の質量に対する、エタノールに浸漬後のポリウレタン試験片の質量の変化率(%)が、16%未満が好ましく、8%未満がより好ましい。この質量変化率が上記上限超過では十分な耐エタノール性が得られない場合がある。
【0146】
<2-16.溶液安定性>
本発明のポリウレタンを非プロトン性溶媒に溶解させた溶液(以下、「ポリウレタン溶液」ともいう。)について、後述の実施例の項に記載の方法で-10℃で1か月間保管した際、ポリウレタン溶液が変化しないことが好ましい。溶液安定性が低い場合は、保管中に結晶が析出したり、溶液粘度が増大する場合がある。
【0147】
本発明のポリカーボネートジオールを用いた本発明のポリウレタンは、ポリウレタン溶液としたときの低温での溶液安定性に優れ、-5℃以下、更には-10℃以下で保管した場合でもポリウレタン溶液に変化がなく、安定に保管することができる。
【0148】
本発明のポリウレタン溶液に好適に用いられる非プロトン性溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びジメチルスルホキシドが挙げられ、より好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0149】
ポリウレタン溶液中のポリウレタンの含有量は、ポリウレタン溶液の全質量に対して、通常1~99質量%であることが好ましく、より好ましくは5~90質量%、更に好ましくは10~70質量%、特に好ましくは15~50質量%である。ポリウレタン溶液中のポリウレタンの含有量を1質量%以上とすることにより、大量の溶媒を除去することが必要になることがなく、生産性を向上することができる。また、99質量%以下とすることにより、溶液の粘度を抑え、操作性又は加工性を向上することができる。
【0150】
<2-18.ポリウレタンフィルム・ポリウレタン板>
本発明のポリウレタンを使用してフィルムを製造する場合、そのフィルムの厚さは、下限が好ましくは10μm、より好ましくは20μm、さらに好ましくは30μm、上限は好ましくは1000μm、より好ましくは500μm、さらに好ましくは100μmである。
【0151】
フィルムの厚さが厚すぎると、十分な透湿性が得られない傾向があり、また、薄過ぎるとピンホールを生じたり、フィルムがブロッキングしやすく取り扱いにくくなる傾向がある。
【0152】
<2-19.用途>
本発明のポリウレタンは、溶液安定性、低温柔軟性、耐薬品性、特に耐エタノール性の物性バランスに優れることから、フォーム、エラストマー、弾性繊維、塗料、繊維、粘着剤、接着剤、床材、シーラント、医療用材料、人工皮革、合成皮革、コーティング剤、水系ポリウレタン塗料、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等に広く用いることができる。
【0153】
特に、人工皮革、合成皮革、水系ポリウレタン、接着剤、弾性繊維、医療用材料、床材、塗料、コーティング剤等の用途に、本発明のポリウレタンを用いると、溶液安定性、耐薬品性、低温柔軟性の良好なバランスを有するため、人の皮膚に触れたり、コスメティック用薬剤や消毒用のアルコールが使われたりする部分において耐久性が高く、また低温での柔軟性も十分で、かつ物理的な衝撃などにも強いという良好な特性を付与することができる。また、より厳しい低温での柔軟性が要求される自動車外装の中塗り塗料にも好適である。
【0154】
本発明のポリウレタンは、人工皮革の外表面用樹脂として使用できる。その具体的用途として、椅子、ソファ、家具、各種インテリアなどの表面材や壁材、自動車、鉄道車両、航空機、船舶などの内装材やシート表皮材、ジャケット、コート、靴、ベルトなどの衣料用材料、鞄、ハンドバックなどの小物類、リボンやワッペンなどの装飾品類などに用いることができる。
【0155】
人工皮革の製造方法は、公知の方法を使用することができる。具体的には、人工皮革の基布となる繊維素材の内部に本発明のポリウレタンを使用したウレタンエマルジョンを含浸または塗布した後、凝固、乾燥することにより該ポリウレタンを繊維素材内部に付与し、必要に応じて繊維素材表面を研磨することにより製造が可能である。
【0156】
繊維素材にポリウレタンエマルジョンを含浸または塗布する方法は公知の方法を使用でき、特に限定するものでない。例えば、含浸後にマングルロールなどで搾ってピックアップ量を調整する方法、フローティングナイフコーター、ナイフオーバーロールコーター、リバースロールコーター、ロールドクターコーター、グラビアロールコーター、キスロールコーターなどで直接塗布する方法などがある。
【0157】
繊維素材としては、従来から用いられる、不織布、織物、編物などを用いることが出来る。
【0158】
また、繊維素材は表面繊維層と織編物であるスクリムの2層構造以上の多層構造三次元交絡体を用いることも可能である。多層構造三次元交絡体を使用する場合は、表面繊維層と裏面繊維層にスクリムをサンドイッチ状に挟み込んだ3層構造以上の多層構造三次元交絡体とすることが好ましい。
【0159】
多層構造三次元交絡体を使用する場合は、表面繊維層のみ、又は表面繊維層及び裏面繊維層が抄造シートであることが好ましい。さらに、多層構造三次元交絡体は、水流交絡一体化がされていることが好ましい。
【0160】
繊維素材を構成する繊維としては、溶融紡糸法により直接紡糸されたものや、共重合ポリエチレンテレフタレートを海成分、レギュラーポリエチレンテレフタレートを島成分に用いた海島型繊維から海成分を溶解又は分解することによって除去して得られる極細繊維など、極細繊維発生型繊維から取り出したものなどが使用できる。
【0161】
繊維素材を構成する糸条は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。糸条の単繊維繊度は、柔軟な人工皮革が得られ易い点で5.5dtex以下が好ましい。
【0162】
繊維素材へのポリウレタンエマルジョンの付着量は、含浸の場合、基布100質量部に対して固形分で5~100質量部が好ましく、塗布の場合、乾燥後の塗膜厚みが0.1~10mmとなるような量であることが好ましい。
【0163】
本発明のポリウレタンは、注型ポリウレタンエラストマーに使用できる。その具体的用途として、圧延ロール、製紙ロール、事務機器、プレテンションロール等のロール類、フォークリフト、自動車車両ニュートラム、台車、運搬車等のソリッドタイヤ、キャスター等、工業製品として、コンベアベルトアイドラー、ガイドロール、プーリー、鋼管ライニング、鉱石用ラバースクリーン、ギア類、コネクションリング、ライナー、ポンプのインペラー、サイクロンコーン、サイクロンライナー等がある。また、OA機器のベルト、紙送りロール、複写用クリーニングブレード、スノープラウ、歯付ベルト、サーフローラー等にも使用できる。
【0164】
本発明のポリウレタンは、また、熱可塑性エラストマーとしての用途にも適用される。例えば、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等に使用できる。また、丸ベルト、Vべルト、平ベルト等のベルトとして、各種伝動機構、紡績機械、荷造り機器、印刷機械等に用いられる。また、履物のヒールトップや靴底、カップリング、パッキング、ポールジョイント、ブッシュ、歯車、ロール等の機器部品、スポーツ用品、レジャー用品、時計のベルト等に使用できる。さらに自動車部品としては、オイルストッパー、ギアボックス、スペーサー、シャーシー部品、内装品、タイヤチェーン代替品等が挙げられる。また、キーボードフィルム、自動車用フィルム等のフィルム、カールコード、ケーブルシース、ベロー、搬送ベルト、フレキシブルコンテナー、バインダー、合成皮革、ディピンイング製品、接着剤等に使用できる。
【0165】
本発明のポリウレタンは、溶剤系二液型塗料としての用途にも適用可能であり、楽器、仏壇、家具、化粧合板、スポーツ用品等の木材製品に適用できる。また、タールエポキシウレタンとして自動車補修用にも使用できる。
本発明のポリウレタンは、湿気硬化型の一液型塗料、ブロックイソシアネート系溶媒塗料、アルキド樹脂塗料、ウレタン変性合成樹脂塗料、紫外線硬化型塗料、水系ウレタン塗料等の成分として使用可能であり、例えば、プラスチックバンパー用塗料、ストリッパブルペイント、磁気テープ用コーティング剤、床タイル、床材、紙、木目印刷フィルム等のオーバープリントワニス、木材用ワニス、高加工用コイルコート、光ファイバー保護コーティング、ソルダーレジスト、金属印刷用トップコート、蒸着用ベースコート、食品缶用ホワイトコート等に適用できる。
【0166】
本発明のポリウレタンは、また、粘着剤や接着剤として、食品包装、靴、履物、磁気テープバインダー、化粧紙、木材、構造部材等に適用でき、また、低温用接着剤、ホットメルトの成分としても用いることができる。
本発明のポリウレタンは、バインダーとして、磁気記録媒体、インキ、鋳物、焼成煉瓦、グラフト材、マイクロカプセル、粒状肥料、粒状農薬、ポリマーセメントモルタル、レジンモルタル、ゴムチップバインダー、再生フォーム、ガラス繊維サイジング等に使用可能である。
【0167】
本発明のポリウレタンは、繊維加工剤の成分として、防縮加工、防皺加工、撥水加工等に使用できる。
本発明のポリウレタンを弾性繊維として使用する場合のその繊維化の方法は、紡糸できる方法であれば特に制限なく実施できる。例えば、一旦ペレット化した後、溶融させ、直接紡糸口金を通して紡糸する溶融紡糸方法が採用できる。本発明のポリウレタンから弾性繊維を溶融紡糸により得る場合、紡糸温度は好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以上235℃以下である。
【0168】
本発明のポリウレタン弾性繊維はそのまま裸糸として使用したり、また、他繊維で被覆して被覆糸として使用することもできる。他繊維としては、ポリアミド繊維、ウール、綿、ポリエステル繊維など従来公知の繊維を挙げることができるが、なかでも本発明ではポリエステル繊維が好ましく用いられる。また、本発明のポリウレタン弾性繊維は、染着タイプの分散染料を含有していてもよい。
【0169】
本発明のポリウレタンは、シーラント・コーキングとして、コンクリート打ち壁、誘発目地、サッシ周り、壁式PC目地、ALC目地、ボード類目地、複合ガラス用シーラント、断熱サッシシーラント、自動車用シーラント等に使用できる。
本発明のポリウレタンは、医療用材料としての使用が可能であり、血液適合材料として、チューブ、カテーテル、人工心臓、人工血管、人工弁等、また、使い捨て素材としてカテーテル、チューブ、バッグ、手術用手袋、人工腎臓ポッティング材料等に使用できる。
本発明のポリウレタンは、末端を変性させることによりUV硬化型塗料、電子線硬化型塗料、フレキソ印刷版用の感光性樹脂組成物、光硬化型の光ファイバー被覆材組成物等の原料として用いることができる。
【実施例0170】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0171】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における各種の評価方法は下記の通りである。
【0172】
[ポリカーボネートジオールの評価方法]
<水酸基価・数平均分子量>
JIS K1557-1に準拠して、アセチル化試薬を用いた方法にてポリカーボネートジオールの水酸基価を測定した。また、水酸基価から、下記式(1)により数平均分子量を求めた。
数平均分子量=2×56.1/(水酸基価×10-3) …(1)
【0173】
<ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定>
ポリカーボネートジオールを下記条件によるGPC測定によりポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)をそれぞれ求めた。
装置 :東ソー社製 HLC-8020
カラム :TSKgel GMHXL-L(7.8mmI.D.×30cmL
×4本)
溶離液 :THF(テトラヒドロフラン)
流速 :1.0mL/min
カラム温度:40℃
RI検出器:RI(装置 HLC-8020内蔵)
次いで、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0174】
<式(A)で表される化合物に由来する構造単位と式(B)で表される化合物に由来する構造単位のモル比率>
ポリカーボネートジオールをCDClに溶解し、400MHz H-NMR(日本電子株式会社製「AL-400」)を測定し、各成分のシグナル位置より、式(A)で表される化合物に由来する構造単位と式(B)で表される化合物に由来する構造単位のモル比率(A)/(B)を求めた。
【0175】
<フェノール類含有量>
ポリカーボネートジオールをCDClに溶解して400MHz H-NMR(BRUKER製「AVANCE400」)を測定し、各成分のシグナルの積分値より算出した。その際の検出限界は、フェノールの質量として100ppmである。
【0176】
<ポリカーボネートジオール中の触媒金属の含有量>
ポリカーボネートジオールを約0.1g測り取り、4mLのアセトニトリルに溶解した後、20mLの純水を加えてポリカーボネートジオールを析出させ、析出したポリカーボネートジオールをろ過にて除去した。そしてろ過後の溶液を純水で所定濃度まで希釈し、金属イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで分析した。なお、溶媒として使用するアセトニトリルの金属イオン濃度をブランク値として測定し、溶媒分の金属イオン濃度を差し引いた値をポリカーボネートジオール中の金属量とした。測定条件は以下の表1に示す通りである。分析結果と予め作成した検量線を使用し、マグネシウム濃度を求めた。
【0177】
【表1】
【0178】
[ポリウレタンの評価方法]
<分子量>
ポリウレタンをジメチルアセトアミドに溶解し、濃度が0.14質量%になるようにジメチルアセトアミド溶液とした。GPC装置〔東ソー社製、製品名「HLC-8220」(カラム:TskgelGMH-XL・2本)〕を用いて、該ジメチルアセトアミド溶液を注入し、標準ポリスチレン換算で、ポリウレタンの重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0179】
<引張試験>
ポリウレタン溶液を9.5milのアプリケーターでフッ素樹脂シート(フッ素テープニトフロン900、厚さ0.1mm、日東電工株式会社製)上に塗布し、60℃で1時間、続いて100℃で0.5時間乾燥させた。さらに100℃の真空状態で0.5時間、80℃で15時間乾燥させた後、23℃、55%RHの恒温恒湿下で12時間以上静置し、得られたポリウレタンフィルムから7cm×1cmの試験片を切り出し、この試験片について、JIS K6301(2010)に準じ、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III -100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃又は-10℃の温度条件、相対湿度55%で引張試験を実施し、試験片が100%伸長した時点での応力:100%モジュラスを測定し、-10℃/23℃の比率を算出した。この100%モジュラスの比率が小さいほど、低温柔軟性が優れている。算出した比率を用いて、下記の評価基準に従って低温柔軟性を評価した。
◎:100%モジュラスの-10℃/23℃比が3.0未満
〇:100%モジュラスの-10℃/23℃比が3・0以上4.0%未満
×:100%モジュラスの-10℃/23℃比が4.0以上
【0180】
<耐オレイン酸性の評価>
上記引張試験のために作成したポリウレタンフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出した。精密天秤で試験片の質量を測定した後、試験溶媒としてオレイン酸を50mLを入れた容量250mLのガラス瓶に投入して、80℃の窒素雰囲気下の恒温槽にて16時間静置した。試験後、試験片を取り出して表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した。質量変化率から耐オレイン酸性を下記基準で評価した。
◎:質量変化率が8%未満
〇:質量変化率が8%以上16%未満
×:質量変化率が16%以上
【0181】
<耐エタノール性の評価>
上記引張試験のために作成したポリウレタンフィルムから3cm×3cmの試験片を切り出した。精密天秤で試験片の重量を測定した後、試験溶媒としてエタノール50mLを入れた内径10cmφのガラス製シャーレに投入して約23℃の室温にて1時間浸漬した。試験後、試験片を取り出して表裏を紙製ワイパーで軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(増加率)を算出した。質量変化率から耐エタノール性を下記基準で評価した。
◎:質量変化率が8%未満
〇:質量変化率が8%以上16%未満
×:質量変化率が16%以上
【0182】
<低温溶液安定性>
ポリウレタンをジメチルホルムアミドに溶解したポリウレタン溶液(ポリウレタン濃度:30質量%)50mLをサンプル瓶に入れて-10℃の冷凍庫内で30日間静置し、その後のポリウレタン溶液の状態を目視観察し、下記の評価基準に従って評価した。
◎:結晶化なし、流動性あり
○:結晶化なし、流動性はやや落ちる
△:結晶化はしていないが、流動性はない
×:結晶化
【0183】
[ポリカーボネートジオールの製造と評価]
<実施例I-1>
撹拌機、留出液トラップ、及び圧力調整装置を備えた5Lガラス製セパラブルフラスコに1,4-ブタンジオール:837.2g、1,10-デカンジオール:629.6g、ジフェニルカーボネート:2533.4g、酢酸マグネシウム4水和物水溶液:6.6mL(濃度:8.4g/L、酢酸マグネシウム4水和物:56mg)を入れ、窒素ガス置換した。撹拌下、内温を160℃まで昇温して、内容物を加熱溶解した。その後、2分間かけて圧力を24kPaまで下げた後、フェノールを系外へ除去しながら90分間反応させた。次いで、圧力を9.3kPaまで90分間かけて下げ、さらに0.4kPaまで30分間かけて下げて反応を続けた後に、170℃まで温度を上げてフェノール及び未反応のジヒドロキシ化合物を系外へ除きながら60分間反応させて、ポリカーボネートジオール含有組成物を得た。その後、0.85質量%リン酸水溶液:2.6mL(リン酸として22mg)を加えて酢酸マグネシウムを失活させて、ポリカーボネートジオール含有組成物を得た。
【0184】
得られたポリカーボネートジオール含有組成物を約20g/分の流量で薄膜蒸留装置に送液し、薄膜蒸留(温度:170℃、圧力:53~67Pa)を行った。薄膜蒸留装置としては、直径50mm、高さ200mm、面積0.0314mの内部コンデンサー、ジャケット付きの柴田科学株式会社製 分子蒸留装置「MS-300特型」を使用した。
【0185】
薄膜蒸留で得られたポリカーボネートジオールのフェノール類の含有量は100質量ppm以下であった。また、マグネシウムの含有量は100質量ppm以下であった。
この実施例I-1で製造されたポリカーボネートジオールを「PCD-1」と称する。
このPCD1の性状及び物性の評価結果を表2に示す。
【0186】
[実施例I-2]
用いる原料の構成を表2に記載の量に変更した以外は実施例I-1と同様にしてポリカーボネートジオールを得た。実施例I-2で製造されたポリカーボネートジオールを「PCD-2」と称する。このPCD-2の性状及び物性の評価結果を表2に示す。
【0187】
[比較例I-1]
用いる原料の構成を表2に記載の量に変更した以外は実施例I-1と同様にしてポリカーボネートジオールを得た。比較例I-1で製造されたポリカーボネートジオールを「PCD-3」と称する。このPCD-3の性状及び物性の評価結果を表2に示す。
【0188】
[比較例I-2]
用いる原料の構成を表2に記載の量に変更した以外は実施例I-1と同様にしてポリカーボネートジオールを得た。比較例I-2で製造されたポリカーボネートジオールを「PCD-4」と称する。このPCD-4の性状及び物性の評価結果を表2に示す。
【0189】
【表2】
【0190】
[実施例II-1]
<ポリウレタンの製造>
実施例I-1で得られたPCD-1を原料として用いて、以下の操作でポリウレタンを製造した。
60℃のオイルバス上に、熱電対、冷却管及び撹拌装置を具備したセパラブルフラスコを設置し、あらかじめ80℃に加温したPCD1を69.8g、1,4-ブタンジオール(以下「1,4BD」と称することがある)を6.48g、脱水N,N-ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略記することがある。和光純薬工業株式会社製)を241.49g入れ、次いで、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」と称することがある。)24.00gを添加し、セパラブルフラスコ内を窒素雰囲気下、60rpmで撹拌しながら1時間程度で70℃に昇温した。70℃となった後、ウレタン化反応触媒としてネオスタンU-830(以下「U-830」と称することがある。日東化成株式会社製)0.026gを添加し、70℃で、さらに2時間程度撹拌した。その後、MDI3.24gを分割添加して(合計のMDI添加量は27.24g)分子量を調整し、分子量16.5万のポリウレタンを得た。このポリウレタンの性状及び物性の評価結果を表3に示す。
【0191】
[実施例II-2]
PCD-1の代わりにPCD-2を用い、原料を表3に記載の量に変更した以外は実施例II-1と同様にしてポリウレタンを得た。得られたポリウレタンの性状及び物性の評価結果を表3に示す。
【0192】
[比較例II-1]
PCD-1の代わりにPCD-3を用い、原料を表3に記載の量に変更した以外は実施例II-1と同様にしてポリウレタンを得た。得られたポリウレタンの性状及び物性の評価結果を表3に示す。
【0193】
[比較例II-2]
PCD-1の代わりにPCD-4を用い、原料を表3に記載の量に変更した以外は実施例II-1と同様にしてポリウレタンを得た。得られたポリウレタンの性状及び物性の評価結果を表3に示す。
【0194】
【表3】
【0195】
表3より次のことがわかる。
本発明の特定の共重合ポリカーボネートジオールを用いた実施例II-1,2のポリウレタンは、低温柔軟性及び溶液安定性に優れることが明らかである。また、耐薬品性、特に耐エタノール性にも優れる。一方、比較例II-1,2に記載のポリウレタンでは溶液安定性に劣り、低温柔軟性も悪化する。また、耐エタノール性も実施例記載のポリカーボネートジオールを用いたポリウレタンに及ばない。