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  • 特開-プリプレグおよび振動板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146201
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】プリプレグおよび振動板
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20220928BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20220928BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20220928BHJP
   B29C 70/30 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20220928BHJP
   H04R 7/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08J5/04 CES
B29C70/16
B29C70/68
B29C70/30
B32B5/28 101
H04R7/02 G
H04R7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047041
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】高村 聡
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F205
5D016
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB15
4F072AB22
4F072AB28
4F072AD04
4F072AD53
4F072AG03
4F072AH06
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL12
4F100AD11A
4F100AK01A
4F100AK07A
4F100AL07A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01B
4F100DG04A
4F100DG12A
4F100DH01A
4F100EJ82A
4F100GB41
4F100JB16A
4F100JH00A
4F100JK04A
4F100YY00A
4F205AA11
4F205AC03
4F205AD16
4F205AD17
4F205AG03
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HC05
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
5D016DA06
5D016EA05
5D016EC02
5D016HA07
(57)【要約】
【課題】接着剤を使用することなく、積層型の振動板を作製することが可能なプリプレグおよび当該プリプレグを用いた振動板を提供する。
【解決手段】炭素繊維と含浸樹脂とを有するプリプレグであって、前記含浸樹脂が、酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とするプリプレグを提供する。発泡体1の少なくとも片面に、プリプレグ2を積層することにより、振動板3を作製することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と含浸樹脂とを有するプリプレグであって、
前記含浸樹脂が、酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、40重量%以上の酸変性ポリプロピレンを含有することを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記炭素繊維が、直径5~18μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記炭素繊維が、繊維重量が40~250g/mの炭素繊維層を形成していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記炭素繊維が、連続繊維であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記炭素繊維が、UD(一方向)材またはクロス(織物)材であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記プリプレグ中で前記炭素繊維が占める体積比であるVf値が、35%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記プリプレグが、振動板用プリプレグであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項9】
発泡体の少なくとも片面に、請求項1~8のいずれか1項に記載のプリプレグを積層してなることを特徴とする振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグおよび振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電子機器等に用いられるスピーカーには、電気信号を音波に変換するため、振動板が設けられている。
特許文献1には、耐熱性を高くするため、ポリアミド6またはポリアミド66およびポリプロピレンを含む本体部と、本体部の外周において、ポリプロピレンによる海構造と、架橋エチレンプロピレンジエンゴムによる島構造から形成されたエッジ部を備えたラウドスピーカー用の振動板が記載されている。
【0003】
特許文献2には、軽量化、量産化を意図して、ジシクロペンタジエン樹脂の内部にカーボンファイバーフィラーを含有しているスピーカー用振動板が記載されている。この場合、炭素繊維(カーボンファイバー)は、射出成形金型に注入して、樹脂とともに流れることが可能なフィラーとされている。
【0004】
特許文献3には、熱可塑性樹脂フィルム層と、熱硬化性樹脂が付着した無機繊維層からなるスピーカー用振動板が記載されている。無機繊維としてはカーボン繊維、熱可塑性樹脂としてはポリアミド、熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂が例示されている。
【0005】
特許文献4には、繊維強化材で強化されたポリアミド樹脂からなるスピーカー振動板が記載されている。繊維強化材としては、カーボン繊維クロスが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-82744号公報
【特許文献2】特開2018-157285号公報
【特許文献3】特開昭62-109497号公報
【特許文献4】特開平1-229600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
振動板の小型化、軽量化等に伴い、発泡体を弾性材料に積層した複合構造が提案されている。しかし、従来の複合構造においては、発泡体を弾性材料に接着するために接着剤が必要であり、製造コストが高くなっていた。また、環境問題の観点から使用する接着剤にはVOC規制、アウトガスフリーが求められる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用することなく、積層型の振動板を作製することが可能なプリプレグおよび当該プリプレグを用いた振動板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、炭素繊維と含浸樹脂とを有するプリプレグであって、前記含浸樹脂が、酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とするプリプレグを提供する。
【0010】
前記熱可塑性樹脂が、40重量%以上の酸変性ポリプロピレンを含有してもよい。
前記炭素繊維が、直径5~18μmであってもよい。
前記炭素繊維が、繊維重量が40~250g/mの炭素繊維層を形成していてもよい。
前記炭素繊維が、連続繊維であってもよい。
前記炭素繊維が、UD(一方向)材またはクロス(織物)材であってもよい。
前記プリプレグ中で前記炭素繊維が占める体積比であるVf値が、35%以上であってもよい。
【0011】
前記プリプレグが、振動板用プリプレグであってもよい。
【0012】
また、本発明は、発泡体の少なくとも片面に、前記プリプレグを積層してなることを特徴とする振動板を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素繊維に酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂を含浸してなるプリプレグを用いることにより、酸変性ポリプロピレンの接着性を利用して、プリプレグを発泡体に積層することができる。また、プリプレグが炭素繊維を含浸基材としているため、弾性率および剛性が高い。炭素繊維と酸変性ポリプロピレンとを複合することにより、音波の伝搬速度が速く、密度が低く、内部損失が大きい振動板用プリプレグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】プリプレグを用いた振動板の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0016】
実施形態のプリプレグは、炭素繊維と含浸樹脂とを有するプリプレグであって、含浸樹脂が、酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする。これにより、振動板用プリプレグに好適なプリプレグが得られる。
【0017】
図1に、実施形態のプリプレグを用いた振動板の一例を示す。図1に示す振動板3は、発泡体1の厚さ方向の両面に、それぞれプリプレグ2が積層されている。
【0018】
振動板3は、(1)曲げ弾性率が高いこと、(2)曲げ剛性が高いこと、(3)密度が低いこと、(4)内部損失が大きいことの4つの物性が重要である。
【0019】
曲げ弾性率(Pa)をE、密度(kg/m)をρ、媒質中を伝搬する音速(m/s)をVとするとき、平方根を1/2乗として、V=(E/ρ)1/2で表される。例えば空気中の音速は約340m/sであるが、ポリスチレン(PS)で約2400m/s、鉄で約6000m/s、アルミニウムで約6400m/s、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で約6000~6500m/sとなる。
【0020】
このため、弾性率が大きく、密度が低いほど、音速が速くなり、優れた振動特性が得られる。また、振動板が強度不足で、弾性率が低いと、高音域などにおいて音質が低下するおそれがある。内部損失(tanδ)が適度に大きいと、振動板を変形させる運動エネルギーが熱エネルギーとして放出されて、振動が減衰しやすく、振幅を抑制することができる。
【0021】
実施形態のプリプレグは、熱可塑性樹脂を含浸させる繊維基材として、炭素繊維を用いる。炭素繊維は、有機繊維を加熱により繊維状のまま炭化した材料であればよい。炭素繊維の原料となる有機繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)であってもよく、ピッチを紡糸して得られた紡糸ピッチでもよい。すなわち、炭素繊維は、PANを主原料としたPAN系炭素繊維でもよく、紡糸ピッチを主原料としたピッチ系炭素繊維でもよい。
【0022】
炭素繊維の直径は、プリプレグの厚さより小さいことが好ましく、例えば、直径5~18μmであってもよい。炭素繊維の平均直径が5~18μmの範囲内であってもよい。平均直径の算出方法としては、炭素繊維を長さ方向に垂直な切断面における直系の数平均としてもよい。炭素繊維が適度な直径を有することにより、熱可塑性樹脂の含浸が容易になるとともに、高弾性、高剛性のプリプレグを得ることができる。
【0023】
炭素繊維は、連続繊維であることが好ましい。連続繊維の長さ方向は、プリプレグの厚さ方向に対して、略垂直に配列されることが好ましい。連続繊維は、単繊維でもよく、複数の単繊維から構成されるフィラメントでもよい。炭素繊維は、UD(一方向)材であってもよく、クロス(織物)材であってもよい。
【0024】
炭素繊維がUD(一方向)材である場合、プリプレグの厚さ方向の全体にわたり、炭素繊維が同一方向に並列されてもよい。また、厚さ方向の層ごとに炭素繊維が同一方向に並列され、異なる層の炭素繊維は互いが交差するように積層されたクロスプライ構造であってもよい。
【0025】
炭素繊維がクロス(織物)材である場合、縦横に交差する炭素繊維が、所定の方式で上下を入れ替えることにより組織化される。織物の組織構造は特に限定されず、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。
【0026】
多数の単繊維から構成されるフィラメントを開繊加工することにより、厚さ方向の繊維本数が少なく、幅が広くなるように加工した開繊シートは、含浸基材として好適である。繊維束の開繊方法としては、丸棒状の治具を用いて繊維束をしごく方法、水流や気流を当てて繊維束を分散させる方法、超音波を照射して繊維束を分散させる方法などが挙げられる。
【0027】
実施形態のプリプレグにおいて、炭素繊維に含浸される含浸樹脂(マトリックス)は、熱可塑性樹脂である。実施形態のプリプレグに用いられる熱可塑性樹脂は、酸変性ポリプロピレンを含有する。
【0028】
熱可塑性樹脂における酸変性ポリプロピレンの割合は、40重量%以上が好ましく、70重量%以上、80重量%以上、100重量%等でもよい。酸変性ポリプロピレン以外の熱可塑性樹脂を併用する場合は、酸変性ポリプロピレンと相溶する熱可塑性樹脂が好ましく、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0029】
ポリプロピレン(PP)としては、プロピレンの単独重合体(ホモPP)、プロピレン-エチレン共重合体(ランダムPP)あるいはブロック共重合体(ブロックPP)でもよく、プロピレンとその他のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。その他のビニル系モノマーとしては、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、α-オレフィン等から選択される1種類の使用または2種類以上の併用が挙げられる。酸変性ポリプロピレンに含まれるモノマーの51重量%以上が、プロピレンであることが好ましい。
【0030】
プリプレグの曲げ弾性率の特性から上記酸変性ポリプロピレンの融点は120℃以上200℃以下が好ましく、より好ましい範囲は135℃~170℃であり、さらに好ましい範囲は140℃~150℃である。融点120℃未満の酸変性ポリプロピレンを含浸させても、プリプレグの曲げ弾性率が大きくなりにくい。融点200℃超の酸変性ポリプロピレンでは、炭素繊維への含浸が困難となる。融点の具体例としては、三井化学株式会社製アドマー(登録商標)QF551の融点135℃、QE060の融点140℃、QF580の融点145℃、QF550の融点165℃等が挙げられる。
【0031】
酸変性ポリプロピレンの製造方法は特に限定されないが、ラジカル重合開始剤を用いて、未変性のポリプロピレンに酸性官能基含有モノマーをグラフトさせて得られるグラフト共重合体でもよい。プロピレンと共重合させる他のビニル系モノマーとして、酸性官能基含有モノマーを用いてもよい。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物などが挙げられる。
【0032】
酸性官能基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、酸、テトラヒドロフタル酸などのα,β-不飽和カルボン酸モノマーや、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。酸変性ポリプロピレンにおいて、酸性官能基含有モノマーは、1種類でもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、無水マレイン酸変性のポリプロピレンが好ましい。
【0033】
酸変性ポリプロピレンに含まれる酸性官能基含有モノマーの割合(変性率)は、例えば、0.01~10重量%が挙げられ、0.05~2.5重量%がより好ましい。変性率は、酸変性ポリプロピレンに含まれる酸性官能基を、赤外線吸収スペクトル法、核磁気共鳴スペクトル法、滴定法等で定量した後、酸性官能基含有モノマーの分子量を考慮することで、算出することが可能である。酸性官能基の定量においては、酸性官能基を直接検出してもよく、酸性官能基から誘導される他の官能基を検出してもよい。
【0034】
酸変性ポリプロピレンは、含浸および接着に適した物性を有することが好ましい。酸変性ポリプロピレンの分子量は、特に限定されるものではないが、例えば10万~100万程度が挙げられる。
【0035】
含浸樹脂となる熱可塑性樹脂は、樹脂以外の添加剤として、所望の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、離型改良剤、着色剤、難燃剤、可塑剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、造核剤、アンチブロッキング剤、耐候剤、中和剤、無機フィラー、ゴム成分等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0036】
実施形態のプリプレグは、酸変性ポリプロピレンを含有する熱可塑性樹脂を含浸しているため、接着性が優れるとともに、二次加工が容易になる。プリプレグは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含有していないことが好ましい。酸変性ポリプロピレンが接着性を有するため、接着剤等の硬化性材料を用いる必要はないが、性能および後工程に影響を及ぼさなければ使用しても構わない。酸変性ポリプロピレンは熱可塑性樹脂であるため、プリプレグを加工する際、加熱で酸変性ポリプロピレンを軟化または溶融させることにより、繰り返し接着性を発揮させることができる。
【0037】
炭素繊維からなる含浸基材に熱可塑性樹脂を含浸させる方法としては、フィルム状に成形した熱可塑性樹脂を含浸基材に積層し、熱プレスする方法が挙げられる。熱プレスにより軟化または溶融した熱可塑性樹脂が炭素繊維の隙間に浸入することにより、熱可塑性樹脂が含浸される。
【0038】
開繊した炭素繊維束からなる開繊糸を含浸基材にする場合は、所望の数の開繊糸を幅方向に広がるシート状の炭素繊維層に形成し、その少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムを重ね合わせてプリフォームを作製した後、熱プレスしてもよい。炭素繊維層の繊維重量は、例えば、40~250g/mであってもよい。
【0039】
開繊糸の糸幅としては、1~30mm程度が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムの幅に合わせて、所望の数の開繊糸を幅方向に並列させてもよい。
熱可塑性樹脂フィルムの幅は、特に限定されないが、100~1000mmまたはそれ以上にすることも可能である。
【0040】
熱プレスの際には、加工対象物である含浸基材および熱可塑性樹脂フィルムを厚さ方向に重ね合わせたプリフォームの両側に、離形フィルムを介して金型を配置してもよい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムが溶融しても、金型に付着しにくくなる。
【0041】
プリプレグ中で炭素繊維が占める体積比であるVf値は、35%以上であることが好ましく、50%以上であってもよい。Vf値は、75%以下であることが好ましい。Vf値が75%以上では、樹脂が十分に含浸できずにボイドが入りやすいため、曲げ弾性率が低下する。
【0042】
実施形態のプリプレグは、発泡体の少なくとも片面に積層することにより、振動板を製造するために用いることができる。発泡体の気泡が、振動板の厚さ方向の両面に表れないように、発泡体の両面にプリプレグを積層してもよい。
【0043】
発泡体を形成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリルイミド(PMI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)等の樹脂が好ましい。これらのなかでも、PS、PET、PEIが好ましい。発泡体を形成する樹脂が、1種類でもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
樹脂を発泡させて発泡体を形成する方法は特に限定されないが、樹脂中にガスを過飽和させる方法、樹脂中に発泡剤を配合する方法、樹脂中にフィラーを充填した成形体を延伸してフィラーの周囲に隙間を形成する方法が挙げられる。発泡剤としては、熱分解によりガスを放出する熱分解型発泡剤でもよく、低沸点の液体が加熱によりガス化する揮発性発泡剤でもよい。揮発性発泡剤としては、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等の有機化合物が挙げられる。
【0045】
発泡体に含まれる気泡の径は特に限定されないが、例えば、0.1~100μmの範囲内から適宜設定することが可能である。発泡体に含まれる気泡は、連続気泡でもよく、独立気泡でもよい。
【0046】
発泡体の厚さは、適宜設定することが可能であるが、例えば、0.05~4.0mm程度が挙げられる。プリプレグの厚さは、適宜設定することが可能であるが、例えば、20~300μm程度が挙げられる。
【0047】
発泡体およびプリプレグを積層する方法としては、発泡体とプリプレグとを積層した状態で、熱シール、熱プレス等により、プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂を軟化または溶融させてもよい。これにより、発泡体とプリプレグとを有するシート状の積層体を製造することができる。
【0048】
発泡体およびプリプレグを積層して振動板を形成する際、振動板のサイズより大きなシート状の積層体を積層した後、振動板のサイズに成形してもよい。振動板は、平面状でもよく、コーン型、ドーム型、ホーン型等の立体状に成形されてもよい。
【0049】
振動板を立体状に成形する際、プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂を軟化または溶融させることで、積層体の接着が可能である。また、振動板をスピーカー等の音響機器に組み付けるための取り付け部を一体に形成してもよい。取り付け部は、振動板の本体部とは異なる方向に曲げ等の成形を施してもよい。
【0050】
実施形態の振動板は、スピーカー、マイクロホン等の音響機器に用いることができる。スピーカーにおいて、電気信号を音波に変換するには、電気信号を含む電流が流れるボイスコイルおよびマグネット(永久磁石)を振動板と組み合わせてもよい。ボイスコイルの振動を振動板に伝達させることで、電気信号に表現された音声が空気中に再現される。
【0051】
実施形態の振動板は、小型化が容易なため、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、携帯型端末装置等の電子機器用音響機器に好適である。酸変性ポリプロピレンの耐熱性が高いため、電子機器の内部が熱を帯びても、性能の劣化を抑制することができる。電子機器の部品を高密度に配置することができるため、電子機器を小型化することができる。
【0052】
実施形態の音響機器は、自動車等の輸送機器、音声操作機器、産業機器、家庭用品等にも好適に用いることができる。
【0053】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0054】
酸変性ポリプロピレンは、各種の樹脂、アルミニウム等の金属等に対して優れた接着性を有するため、実施形態のプリプレグは、各種の接着用途に用いることができる。炭素繊維に含浸させるマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であり、熱硬化性を有しないため、プリプレグの状態でも保存性に優れる。常温に冷却した状態ではタック(付着性)を有しないことにより、取扱い性も良好となる。
【0055】
また、実施形態のプリプレグは、炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた熱可塑性プリプレグであるため、プリプレグを成形して得られる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、マトリックス樹脂が熱硬化せず、熱可塑性を保持するため、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)となる。成形後もマトリックス樹脂が熱成形性を有するため、熱プレス等の熱成形工程を2回以上行うことも容易である。
【0056】
プリプレグの含浸基材となる炭素繊維が連続繊維であることにより、炭素繊維の導電性を利用することも可能である。炭素繊維は機械的強度に優れるため、構造材の用途に用いることも可能である。
【実施例0057】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0058】
熱可塑性樹脂として酸変性ポリプロピレン(融点140℃)をフィルム状に成形し、炭素繊維(CF)のUD(一方向)材(CFUD)と重ね合わせてプリフォームを作製した。プリフォームを熱プレス機に投入して、170℃で10分間保ち、圧力1MPaで加熱加圧した。これにより、実施例のプリプレグが得られた。
【0059】
JIS K7074(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)に従い、実施例のプリプレグについて、曲げ強度および曲げ弾性率を測定したところ、曲げ強度645MPa、曲げ弾性率152.7GPaであった。
【0060】
JIS K7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法)に従い、実施例のプリプレグについて、炭素繊維の体積含有率Vf値を測定したところ、48.5%であった。
【0061】
炭素繊維の曲げ弾性率(425GPa)をEfとし、実施例のプリプレグの曲げ弾性率(152.7GPa)をEpとし、実施例のVf値を0.485とするとき、式(Ep/Ef)×(100/Vf)(%)により、弾性率の発現率を求めた。実施例のプリプレグでは、弾性率の発現率が74%であった。
【符号の説明】
【0062】
1…発泡体、2…プリプレグ、3…振動板。
図1