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特開2022-146290ツールホルダ装着状態検出方法及び装置、並びに工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146290
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ツールホルダ装着状態検出方法及び装置、並びに工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20220928BHJP
   B23Q 3/155 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B23Q17/00 B
B23Q3/155 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047175
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】杉本 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 夏希
【テーマコード(参考)】
3C002
3C029
【Fターム(参考)】
3C002HH06
3C002KK04
3C002LL01
3C029EE05
(57)【要約】
【課題】ツールホルダのフランジ部の切欠き及び精度に係らず、正常状態形状データ(マスタデータ)と、実稼働形状データ(測定データ)との位相を高精度に合わせる。
【解決手段】ツールホルダ装着状態検出装置において、フランジ部11Bの形状を測定するセンサ1と、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータ31と測定データ32とをそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出する位相限定相関関数算出手段30と、位相限定相関関数より、マスタデータ31と測定データ32との位相ずれ量を求める波形位置検出手段36と、位相ずれ量に基づいて、マスタデータ31と測定データ32との位相合わせを行う波形位置合わせ手段37と、位相合わせを行った後に装着異常の判定を行う装着異常の判定手段38とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出方法であって、
前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサを設け、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出し、
算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求め、
前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行い、前記位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行うことを特徴とするツールホルダ装着状態検出方法。
【請求項2】
前記フランジ部に切欠きがある場合は、前記切欠きを補間した前記マスタデータと前記測定データとを前記離散フーリエ変換することを特徴とする請求項1に記載のツールホルダ装着状態検出方法。
【請求項3】
前記マスタデータは、
予め正常装着状態で前記ツールホルダを装着し、1周分の前記測定データを回転角度に対応させた前記正常状態形状データとすることを特徴とする請求項1又は2に記載のツールホルダ装着状態検出方法。
【請求項4】
前記マスタデータは、
前記ツールホルダを用いて、前記フランジ部の外周面を前記センサで測定したデータを複数得て、それに基づいて統計的に修正等を行い作成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のツールホルダ装着状態検出方法。
【請求項5】
前記位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データに対して、離散フーリエ変換を行い、装着異常の判定は、それぞれの1山成分の振幅と位相を算出して行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のツールホルダ装着状態検出方法。
【請求項6】
ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出装置において、
前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサと、
予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出する位相限定相関関数算出手段と、
算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求める波形位置検出手段と、
前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行う波形位置合わせ手段と、
前記位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行う装着異常の判定手段と、
を備えたことを特徴とするツールホルダ装着状態検出装置。
【請求項7】
前記フランジ部に切欠きがある場合、前記位相限定相関関数算出手段は、前記切欠きを補間した前記マスタデータと前記測定データとを前記離散フーリエ変換することを特徴とする請求項6に記載のツールホルダ装着状態検出装置。
【請求項8】
ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出装置が組み込まれた工作機械において、
前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサと、
前記センサで測定された形状データに基づき、前記ツールホルダの装着状態を検出するデータ処理装置と、を備え、
前記データ処理装置は、
予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出する位相限定相関関数算出手段と、
算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求める波形位置検出手段と、
前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行う波形位置合わせ手段と、
前記位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行う装着異常の判定手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC(数値制御)加工機やマシニングセンタをはじめとするワーク(加工対象物、測定対象物)の加工を行う工作機械に係り、特に、工具を適宜選択して着脱する自動工具交換(ATC)装置を備え、工具が取り付けられるツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出方法及び装置、並びに工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ(MC)は、加工工程に従って各種工具を自動的に選択し、主軸に自動で装着して多種類の加工を行う装置である。このMCにおいて、工具の交換は自動工具
交換(ATC:オートツールホルダチェンジ)装置で行われ、ATC装置は工具が取り付けられたツールホルダを工具マガジンから自動で取り出し、主軸に自動で装着する。工具が取り付けられたツールホルダは、円錐状の嵌合部を有しており、この嵌合部を主軸に形成された円錐状の被嵌合部に嵌合させて装着されるが、この嵌合する部分に切り屑などが付着すると、軸が曲がって装着される。そして、この状態で加工を行うと、工具に振れが発生し、ワークの加工精度が著しく低下する。
【0003】
マシニングセンタは、工作テーブルを高速で回転させ、主軸にバイトを取り付けて旋削ができるものや、工具の代わりに寸法計測用のプローブを搭載する機種も登場してきている。加工対象物の加工途中や一応の加工処理が終了した時点で、自動測定するには寸法計測用のプローブを搭載することが望ましい。特に、ワークの加工誤差を加工処理に反映できるようにするため、測定用の光を出力する光源及び検出を行う光検出手段を有する光学式測定器を、マシニングセンタの工具主軸位置に装着、脱着が可能にすることが知られている。
【0004】
特許文献1は、プローブが装着されたツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサを設け、予め正常装着状態で測定した形状データである正常状態形状データと、実稼働中の測定において測定した実稼働形状データとの差に基づいて、装着異常と判定することを記載している。
【0005】
また、特許文献2は、正常状態形状データ及び実稼働形状データに対してFFT解析を行い、それぞれの1山成分の振幅と位相を算出して、真の偏心量を求め、それに基づいて装着異常の判定を行うことを記載している。
【0006】
さらに、特許文献3は、ツールホルダのフランジ部に2つの切欠きがある場合、センサが所定周期で検出したフランジ外周面の表面位置の検出データを補間処理して、所定周期より短い補間周期での補間検出データを算出した上で、データ無効期間を決定することが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献4は、位相限定相関(POC:Phase-Only Correlation)法を用いた波形位置合わせ方法として、入力波形信号と参照波形信号を離散フーリエ変換し、振幅成分と位相成分に分離した上で位相成分のみを抽出し、位相差信号を逆離散フーリエ変換し位相限定相関関数を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-89738号公報
【特許文献2】特開2002-200542号公報
【特許文献3】特開2008-93750号公報
【特許文献4】特開2007-240170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術において、特許文献1及び2に記載のものは、ツールホルダのフランジ部に切欠きがある場合、プローブを主軸位置に装着する際に生じる装着エラーによる振れを高精度に測定することが困難となる。
【0010】
また、特許文献1及び2に記載のものに、特許文献3の記載を適用しても、補完データによって、フランジ部に切欠きの影響による振れ測定の誤差を小さくできるが、実稼働形状データを検出するときのサンプリング開始位置のずれや回転速度のムラがあると、正常状態形状データと、実稼働形状データとの位相を合わせることが困難となり、装着エラーを高精度に測定することができない。
【0011】
さらに、単に、特許文献4に記載のものを適用しても、例えば、切粉の噛み込み等により振れが発生した場合、切欠きが2つありサンプリング開始位置が大きくずれた場合、ノイズが多い場合等では、位相限定相関関数に相関ピークモデルを当てはめる、スペクトル重み付け関数を適用した位相限定相関関数とする、周波数帯域を制限した帯域制限位相限定相関関数とする等の複雑な処理を必要とし、簡単に、かつ正しく位相を合わせて装着エラーを正確に判定できない。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、ツールホルダのフランジ部の切欠き、フランジ部の精度に係らず、正常状態形状データ(マスタデータ)と、実稼働形状データ(測定データ)との位相を簡単、かつ高精度に合わせることを可能とし、ツールホルダの主軸への装着異常(チャックミス)の検出精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出方法であって、前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサを設け、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出し、算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求め、前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行い、位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行う。
【0014】
また、上記のツールホルダ装着状態検出方法において、前記フランジ部に切欠きがある場合は、前記切欠きを補間した前記マスタデータと前記測定データとを前記離散フーリエ変換することが望ましい。
【0015】
さらに、上記のツールホルダ装着状態検出方法において、前記マスタデータは、予め正常装着状態で前記ツールホルダを装着し、1周分の測定データを回転角度に対応させた前記正常状態形状データとすることが望ましい。
【0016】
さらに、上記のツールホルダ装着状態検出方法において、前記マスタデータは、前記ツールホルダを用いて、前記フランジ部の外周面を前記センサで測定したデータを複数得て、それに基づいて統計的に修正等を行い作成したことが望ましい。
【0017】
さらに、上記のツールホルダ装着状態検出方法において、前記位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データに対して、離散フーリエ変換を行い、装着異常の判定は、それぞれの1山成分の振幅と位相を算出して行うことが望ましい。
【0018】
また、本発明は、ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出装置において、前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサと、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出する位相限定相関関数算出手段と、算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求める波形位置検出手段と、前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行う波形位置合わせ手段と、位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行う装着異常の判定手段と、を備えたものである。
【0019】
さらに、上記のツールホルダ装着状態検出装置において、前記フランジ部に切欠きがある場合、前記位相限定相関関数算出手段は、前記切欠きを補間した前記マスタデータと前記測定データとを前記離散フーリエ変換することが望ましい。
【0020】
また、本発明は、ツールホルダが主軸に正常に装着されたかを示す装着異常の判定を行うツールホルダ装着状態検出装置が組み込まれた工作機械において、前記ツールホルダのフランジ部における外周面の形状を測定するセンサと、前記センサで測定された形状データに基づき、前記ツールホルダの装着状態を検出するデータ処理装置と、を備え、前記データ処理装置は、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出する位相限定相関関数算出手段と、算出された前記位相限定相関関数より、前記マスタデータと前記測定データとの位相ずれ量を求める波形位置検出手段と、前記位相ずれ量に基づいて、前記マスタデータと前記測定データとの位相合わせを行う波形位置合わせ手段と、位相合わせを行った前記マスタデータと前記測定データとに基づいて装着異常の判定を行う装着異常の判定手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ツールホルダ装着状態検出方法において、予め正常装着状態で測定した正常状態形状データに基づくマスタデータと、実際に測定された実稼働形状データである測定データと、をそれぞれ離散フーリエ変換して位相成分のみを抽出し、得られた位相差信号を逆離散フーリエ変換することで位相限定相関関数を算出し、算出された位相限定相関関数より、マスタデータと測定データとの位相ずれ量を求めるので、ツールホルダのフランジ部の切欠き、フランジ部の精度に係らず、正常状態形状データ(マスタデータ)と、実稼働形状データ(測定データ)との位相を簡単、かつ高精度に合わせることを可能とし、ツールホルダの主軸への装着異常(チャックミス)の検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るツールホルダ装着状態検出装置のブロック図
図2図1のツールホルダとデータ処理装置との関係を示す平面図
図3】一実施形態における1周分の測定データを示すグラフ
図4】一実施形態における位相限定相関関数算出手段を示すブロック図
図5】位相限定相関関数が算出される例を示すグラフ
図6】一実施形態におけるツールホルダ装着状態検出方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
マシニングセンタは、ワークの取り付けを変えずに、フライス・穴あけ・中ぐり・ねじ立てなど種々の加工を行う数値制御工作機械である。工具マガジンは、多数の切削工具を格納し、コンピュータ数値制御の指令によって工具を自動的に交換して加工を行う。従って、加工を主目的としているため、マシニングセンタの設置された環境は、微粒子であるオイルミスト、粉塵があり、さらに、ワーク及びスピンドル周辺にはゴミ、切粉が存在する。
【0024】
図1は、本発明に係る工作機械に組み込まれたツールホルダ装着状態検出装置50の一実施形態を示すブロック図であり、ツールホルダ11は側面図を表している。ツールホルダ装着状態検出装置50は、ATC装置で主軸ヘッド26に装着されたツールホルダ11のチャックエラー(装着状態異常)を自動で検出する装置であり、主として測定手段であるセンサ1と装着状態判定手段であるデータ処理装置3とで構成されている。
【0025】
ワークの寸法を測定可能にされたプローブ9は、制御装置22がプログラムを実行することによって、ATC装置により自動で主軸ヘッド26に着脱できるように構成されている。つまり、測定部であるプローブ9は、ツールホルダ11に一体的に装着可能とされる。つまり、ツールホルダ11の嵌合部11Aは、主軸ヘッド26の円錐状の被嵌合部26Aに押し付けられる。これにより、嵌合部11Aが被嵌合部26Aと密着して装着(チャッキング)がなされる。
【0026】
ワークの測定は、制御装置22により加工対象物の加工途中や一応の加工処理が終了した時点で行われ、加工が適正に行われたかを確認する。ATC装置は、制御装置22によって、ワークの形状等を自動的に測定するとき、寸法計測用の測定器であるプローブ9を装着したツールホルダ11を装着するように制御される。
【0027】
センサ1は、主軸ヘッド26にブラケット10を介して取り付けられている。このセンサ1は渦電流センサであり、主軸ヘッド26に装着されたツールホルダ11のフランジ部11Bの外周面までの距離dを変位の電気信号として検出する。また、センサ1として渦電流センサを用いているが、センサ1は、ある特定の測定点からツールホルダ11の外周面までの距離dを測定できるセンサ1であれば渦電流センサに限らず、他のセンサを用いてもよい。この場合、センサ1は、渦電流センサのような非接触式のセンサに限らず、接触式のセンサを用いてもよい。
【0028】
データ処理装置3は、センサ1で測定された形状データに基づき、ツールホルダ11の装着状態を検出するもので、A/Dコンバータ4、CPU6、メモリ5、入出力回路7等を備えている。A/Dコンバータ4は、センサ1から出力された距離dを示す電気信号を、ディジタル信号に変換してCPU6に出力する。CPU6は、このディジタル信号に変換されたセンサ1の形状データに基づいて、ツールホルダ11の装着異常の判定、プローブ9の測定値に対する補正値を算出する。
【0029】
装着異常の判定及び補正値を算出するため、CPU6は、予め正常装着状態でツールホルダ11を装着し、距離dの1周分の測定データ32をツールホルダ11の回転角度に対応させてメモリ5に記憶する(このデータを正常状態形状データと称する)。記憶された形状データ(正常状態形状データ)は、フランジ部11Bの外周面の形状誤差等も含まれる。実稼働中の測定において、プローブ9が取り付けられたツールホルダ11を装着直後にフランジ部11Bの外周面をセンサ1で同様に測定して回転角度に対応させてメモリ5に記憶する(このデータを実稼働形状データと称する)。
【0030】
CPU6は、正常装着状態でメモリ5に記憶された正常状態形状データと実稼働形状データを比較して、装着状態の異常を判定する。CPU6による演算処理は、入出力回路7を介して制御装置22から測定開始の指令を受けて行われる。この測定は、ツールホルダ11を1周又は精度を向上させるために複数周回転させて平均しても良い。
【0031】
センサ1は、渦電流センサであり、主軸ヘッド26に装着された状態でフランジ部11Bの外周面までの距離dを電気信号として検出する。ツールホルダ11の形状は、嵌合部11Aのみならず、フランジ部11Bの外周形状も規格されて、同一化されている。従って、フランジ部11Bの外周形状を測定することにより、測定器の装着状態が分かる。外周形状は、ツールホルダ11を1回転させて距離dを測定することにより求められる。
【0032】
図2は、図1のツールホルダ11とデータ処理装置3との関係を平面図で示したものである。一般的に、ツールホルダ11のフランジ部11Bは、図2に示されるようにチャックのための切欠き11Cが2つ形成されていることが多い。
【0033】
図3は、1周分の測定データ32を示すグラフであり、横軸は位相(θ)、縦軸は変位(d)を示している。ツールホルダ11のフランジ部11Bに切欠き11Cが2箇所ある場合、1周分の測定データ32は、グラフ表示すると、例えば図3(a)に示されるようになる。同図に示されるように、測定データ32は2つの切欠き11Cの部分で急激に変化する。
【0034】
図3(b)は、切欠き11Cの部分をCPU6における切欠き補正手段33(図6参照)によって直線補完した後の測定データ32をグラフ表示したものである。なお、測定データ32の補完は、スプライン補間、ラグランジュ補間、多項式補間、ニュートン補間、ネヴィル補間、連分数補間などの補間方法に基づいて算出しても良い。
【0035】
装着異常の判定手段38(図6参照)の(a)は、特許文献2に記載のように、補完された正常状態形状データ及び実稼働形状データに対してFFT解析を行い、それぞれの1山成分の振幅と位相を算出して行う。また、正常状態形状データより得られた振幅は、基本偏心量、位相は基本偏心方向とする基本偏心ベクトルとして、実稼働形状データより得られた振幅を測定偏心量、位相を測定偏心方向とする測定偏心ベクトルとする。そして、測定偏心ベクトルと基本偏心ベクトルとの差は、真の偏心ベクトルとして算出する。さらに、真の偏心ベクトルの大きさは、真の偏心量とし、それに基づいて装着異常の判定を行う。
【0036】
あるいは、装着異常の判定手段38(図6参照)の(b)は、特許文献1に記載のように、記憶された正常状態形状データと実稼働形状データを比較する。そして、装着異常の判定手段38は、正常状態形状データの重心位置G1と実稼働形状データの重心位置G2とを求め、G1とG2との距離と角度を実稼働形状データを補正するための補正値として求める。さらに、補正した実稼働形状データが全周で閾値以上の場合は、データ処理装置3により装着異常と判定する。そして、装着異常の場合は、入出力回路7を介して制御装置22へ装着のやり直し、あるいは要確認を指示する。
【0037】
装着異常の判定手段38(a)、(b)いずれの場合も、正常状態形状データと実稼働形状データの位相は、正確に合わせる必要がある。また、ツールホルダ11に切欠き11Cがある場合は、2つある切欠き11Cのうちいずれが0度に位置するかを決定する必要がある。しかし、センサ1による測定は、ゆらぎやタイミングのずれが生じる虞があり、必ずしも位相が正確に合うとは限らない。例えば、正常状態形状データに対して、実稼働形状データを測定開始する位相(角度)が90度から270度の範囲でずれた場合は、2つある切欠き11Cのうち反対側の切欠き11Cに合ってしまう可能性がある。
【0038】
図4は、一実施形態によるCPU6における位相限定相関関数算出手段30を示すブロック図である。図4は、正常状態形状データをマスタデータ31、実稼働形状データを測定データ32としている。正常状態形状データは、予め正常装着状態での距離dの測定データ32として説明したが、マスタデータ31は、これに限ることがない。マスタデータ31は、例えば、代表的なツールホルダ11を用いて、フランジ部11Bの外周面をセンサ1で測定したデータを複数得て、それに基づいて統計的に処理、修正等を行う。そして、マスタデータ31は、あるべき理想的な正常状態形状データとして作成し、メモリ5に記憶する。図4の測定データ32は、マスタデータ31と区別され、実際に測定された実稼働形状データである。マスタデータ31と測定データ32との位相ずれは、位相限定相関法(POC:Phase Only Correlation)により求める。
【0039】
位相限定相関法は、フーリエ変換された信号の位相成分のみに着目した相関法である。位相限定相関関数算出手段30は、マスタデータ31と測定データ32の取得領域を指定した上で、それぞれ離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)して位相成分31―2、32―2のみを抽出し、得られた位相差信号34を逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse Discrete Fourier Transform)することで位相限定相関関数35を算出する。
【0040】
ツールホルダ11のフランジ部11Bに切欠き11Cが2箇所ある場合、マスタデータ31は、切欠き11Cを補間したデータを用いる。測定データ32は、実際に測定された実稼働形状データであるので、同様に切欠き11Cを補間したデータが得られる。サンプリングされたN点のマスタデータ31の信号波形はf(n)、同じく測定データ32の信号波形はg(n)とする。信号波形f(n)の離散フーリエ変換はF(k)、信号波形g(n)の離散フーリエ変換はG(k)とすると式(1)及び(2)となる。
【数1】
但し、Wは、
【数2】
であり、A(k)は、マスタデータ31の振幅成分31―1、A(k)は、測定データ32の振幅成分32―1である。
【0041】
【数3】
は、マスタデータ31の位相成分31―2である。
【数4】
は、測定データ32の位相成分32―2である。
【0042】
マスタデータ31の位相成分31―2と測定データ32の位相成分32―2との位相差信号34は、式(3)として算出される。
【数5】
FG(k)はマスタデータ31の信号波形f(n)の離散フーリエ変換F(k)、測定データ32の信号波形g(n)の離散フーリエ変換G(k)の位相差信号34を表す。
【数6】
は、G(k)の複素共役であり、θFG=θ(k)-θ(k)である。
【0043】
位相限定相関関数35は、rfg(n)としてRFG(k)の逆離散フーリエ変換(IDFT)として、式(4)ように取得できる。
【数7】
【0044】
図5は、位相限定相関関数35が算出される例を示すグラフであり、横軸は、サンプルポイントで、1周分の測定データ32に相当する。縦軸は、図5(a)で変位、図5(b)で算出された位相限定相関関数35を示している。なお、図5は、位相限定相関関数35の算出例を示すものであり、図示したマスタデータ31と測定データ32は実際のデータではなく、図5(a)は、マスタデータ31と測定データ32を同一波形とし測定データ32の位相のみずらした波形である。
【0045】
図6は、ツールホルダ装着状態検出方法を示すフローチャートである。
切欠き補正手段33は、図3で説明したように、フランジ部11Bにおける外周面の変位を測定したデータに対し、2つの切欠き11Cのデータ無効期間を補間したデータを生成する。
【0046】
マスタデータ31と測定データ32は、元々フランジ部11Bの外周面をセンサ1で測定したデータに基づいていることより、元々、近似した波形である。従って、位相限定相関関数35は、図5(a)で図示したマスタデータ31に対して図示した測定データ32のように位相がずれていた場合、それ以上複雑な処理をすることなく、図5(b)のように相関が強い箇所に一箇所のみ鋭いピークを持つ。
【0047】
このピークは、位相ずれの箇所となり、CPU6(図1参照)における波形位置検出手段36により、簡単な処理で位相ずれ量Mとして検出できる。つまり、波形位置検出手段36は、位相限定相関関数算出手段30により得られる位相限定相関関数35のピーク位置を検出するだけでマスタデータ31と測定データ32とのの位相ずれの量Mを求めることができる。
【0048】
マスタデータ31と測定データ32を実際のデータとした場合の位相限定相関関数35の算出は、嵌合部11Aと被嵌合部26A(図1参照)に切粉等が噛み込み、振れが発生したとしても、正確な位相ずれ量Mとなる。測定データ32は、振れが発生するとフーリエ変換した基本波周波数成分(1次成分)が大きく変化する。しかし、位相限定相関関数35の算出は、振幅情報を使用しないため振れ量による影響は受けないので正確な位相ずれ量Mを検出できる。
【0049】
CPU6における波形位置合わせ手段37は、波形位置検出手段36により検出された位相ずれ量Mに基づいて、マスタデータ31と測定データ32との位相合わせを高精度に行うことができる。装着異常の判定手段38は、位相合わせを行ったマスタデータ31と測定データ32に基づいて装着異常の判定を行う。既に述べたように、具体的には、装着異常の判定手段38は、(a)として、位相合わせを行ったマスタデータ31と測定データ32に対して、離散フーリエ変換(FFT解析)を行う。そして、装着状態の判定は、それぞれの1山成分の振幅と位相を算出し、測定データ32の真の偏心ベクトルを求め、その大きさを真の偏心量とする。そして、装着異常の判定は、真の偏心量に基づいて、あるいは(b)として、位相合わせを行ったマスタデータ31と測定データ32を比較し、それに基づいて装着異常の判定を行う。
【符号の説明】
【0050】
1…センサ
3…データ処理装置
4…A/Dコンバータ
5…メモリ
6…CPU
7…入出力回路
9…プローブ
10…ブラケット
11…ツールホルダ
11A…嵌合部
11B…フランジ部
11C…切欠き
22…制御装置
26…主軸ヘッド
26A…被嵌合部
30…位相限定相関関数算出手段
31…マスタデータ
31―1…振幅成分、31―2…位相成分
32…測定データ
32―1…振幅成分、32―2…位相成分
33…切欠き補正手段
34…位相差信号
35…位相限定相関関数
36…波形位置検出手段
37…波形位置合わせ手段
38…装着異常の判定手段
50…ツールホルダ装着状態検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6