(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146296
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
E04B2/56 651D
E04B2/56 652J
E04B2/56 651W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047182
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】398041764
【氏名又は名称】株式会社カナイ
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】石山 央樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 実帆子
(72)【発明者】
【氏名】西岡 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】濱野 裕仁
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EB12
2E002FA03
2E002FB15
2E002LA03
2E002LB03
2E002LB13
2E002LC02
2E002MA09
(57)【要約】
【課題】建物としての魅力を損なわず、容易に施工可能な耐力壁を提供する。
【解決手段】木造建物の架構を構成する2本の柱間に設ける耐力壁であって、矩形の枠体と、前記枠体の内部に配置する斜め格子と、を有し、前記枠体は、前記2本の柱に沿って配置する2本の縦材と、前記2本の縦材の上端に亘って配置する上枠材と、前記2本の縦材の下端に亘って配置する下枠材と、からなり、前記斜め格子は、複数の長尺の板材からなる斜材を交差して形成し、前記斜材の端部を金具を介して前記枠体に係合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建物の架構を構成する2本の柱間に設ける耐力壁であって、
斜め格子と、前記架構に固定し、前記斜め格子と係合する金具と、を有し、
前記斜め格子は、複数の長尺の板材からなる斜材を交差して形成し、前記斜材の端部に前記金具を係合することを特徴とする、
耐力壁。
【請求項2】
請求項1に記載の耐力壁において、
前記金具は、前記架構に固定する平板状の固定部と、前記固定部から斜めに立設する斜材受け部と、を有することを特徴とする、
耐力壁。
【請求項3】
請求項2に記載の耐力壁において、
前記斜材の端部には、端部から長手方向に所定の長さ延びるスリットを有し、
前記金具の斜材受け部に設けたねじ孔に螺合した係合ボルトを前記スリットに係合し、前記斜材と前記金具を係合することを特徴とする、
耐力壁。
【請求項4】
木造建物の架構を構成する2本の柱間に設ける耐力壁であって、
矩形の枠体と、前記枠体の内部に配置する斜め格子と、前記枠体に固定し、前記斜め格子と係合する金具と、を有し、
前記枠体は、前記2本の柱に沿って配置する2本の縦材と、前記2本の縦材の上部に亘って配置する上枠材と、前記2本の縦材の下部に亘って配置する下枠材と、からなり、
前記斜め格子は、複数の長尺の板材からなる斜材を交差して形成し、前記斜材の端部に前記金具を係合することを特徴とする、
耐力壁。
【請求項5】
請求項4に記載の耐力壁において、
前記金具は、前記枠材に固定する平板状の固定部と、前記固定部から斜めに立設する斜材受け部と、を有することを特徴とする、
耐力壁。
【請求項6】
請求項5に記載の耐力壁において、
前記斜材の端部には、端部から長手方向に所定の長さ延びるスリットを有し、
前記金具の斜材受け部に設けたねじ孔に螺合した係合ボルトを前記スリットに係合し、前記斜材と前記金具を係合することを特徴とする、
耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐力壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、戦前あるいは昭和初期以前に建てられた長屋や古民家が、その優れた意匠や時代的価値などにより再評価されている。
特に大阪市には昭和初期に建設されたいわゆる大阪長屋が多数存在する。大阪長屋は和洋折衷や銅板張りの軒など意匠を凝らしたものも多く、さらに100年近い年月を経て風合いを備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの長屋や古民家の保存やリノベーション等の活動が広く行われている。
しかし、これらの建物の多くは現行の耐震基準に合致していないため、リノベーションによる価値向上には、耐震性能の向上も必要となる。
例えば、大阪長屋のように道路に面した開口部を多く有する建物の場合、従来の工法による耐震性能を向上するためには、開口部を無くして壁としたり開口部に太い筋かいを設けたりする必要があり、長屋の魅力を損なうおそれがある。
【0004】
本発明は、建物としての魅力を損なわず、容易に施工可能な耐力壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた本願の第一発明は、木造建物の架構を構成する2本の柱間に設ける耐力壁であって、斜め格子と、前記架構に固定し、前記斜め格子と係合する金具と、を有し、前記斜め格子は、複数の長尺の板材からなる斜材を交差して形成し、前記斜材の端部に前記金具を係合することを特徴とする。
本願の第二発明は、第一発明の耐力壁において、前記金具は、前記架構に固定する平板状の固定部と、前記固定部から斜めに立設する斜材受け部と、を有することを特徴とする。
本願の第三発明は、第二発明の耐力壁において、前記斜材の端部には、端部から長手方向に所定の長さ延びるスリットを有し、前記金具の斜材受け部に設けたねじ孔に螺合した係合ボルトを前記スリットに係合し、前記斜材と前記金具を係合することを特徴とする。
本願の第四発明は、木造建物の架構を構成する2本の柱間に設ける耐力壁であって、矩形の枠体と、前記枠体の内部に配置する斜め格子と、前記枠体に固定し、前記斜め格子と係合する金具と、を有し、前記枠体は、前記2本の柱に沿って配置する2本の縦材と、前記2本の縦材の上部に亘って配置する上枠材と、前記2本の縦材の下部に亘って配置する下枠材と、からなり、前記斜め格子は、複数の長尺の板材からなる斜材を交差して形成し、前記斜材の端部に前記金具を係合することを特徴とする。
本願の第五発明は、第四発明の耐力壁において、前記金具は、前記枠材に固定する平板状の固定部と、前記固定部から斜めに立設する斜材受け部と、を有することを特徴とする。
本願の第六発明は、第五発明の耐力壁において、前記斜材の端部には、端部から長手方向に所定の長さ延びるスリットを有し、前記金具の斜材受け部に設けたねじ孔に螺合した係合ボルトを前記スリットに係合し、前記斜材と前記金具を係合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)斜め格子は開口が形成されるため、建物の開口部を塞ぐことなく、通風や採光が可能である。
(2)斜め格子であり意匠性に優れ、既存建物の魅力を損なうことがない。
(3)斜め格子はそのまま棚やマガジンラックとして使用できる。
(4)斜材は金具に固定していないため、斜材が引張力により破損することがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の耐力壁を詳細に説明する。
【0009】
[実施例1]
(1)耐力壁の構成
本発明の耐力壁は、主に既存の木造建物において柱4a、4b、梁5、土台6からなる架構の、2本の柱4a、4b間に設けて木造建物の耐震性を向上するためのものである(
図1)。
耐力壁は、矩形の枠体1と、枠体1の内部に配置する斜め格子2と、を有する。
【0010】
(2)枠体
枠体1は、2本の柱4a、4bに沿って配置する2本の縦材11a、11bと、2本の縦材11a、11bの上部に亘って配置する上枠材12と、2本の縦材11a、11bの下部に亘って配置する下枠材13と、からなる。
縦材11a、11b、上枠材12、下枠材13はいずれも、木製の角柱材である。
上枠材12、下枠材13の長さは、2本の柱4a、4bの間隔、又は2本の縦材11a、11bの間隔と同じ長さとする。
2本の縦材11a、11bの長さは、木造建物の梁5や土台6、床(図示せず)等の位置や斜め格子2の格子間隔に合わせて適宜決定する。縦材11a、11bの長さを上枠材12の位置が天井より下、下枠材13の位置が床より上となる長さにすることで、天井や床を撤去せずに施工することができる。
枠体1に斜め格子2を地組により組み付けた状態で柱4a、4b間に配置し、枠体1を架構に固定するため、柱4a、4b間に容易に施工することができる。
また、枠体1全体を取り外して交換することもできるため、メンテナンス性にも優れる。
【0011】
(3)斜め格子
斜め格子2は、木製又は金属製の長尺の板材からなる斜材21を組み合わせて構成する(
図2)。
斜材21は、所定の間隔で切り欠き22を形成する。切り欠き22は、斜材21と同じ幅であり、幅の半分程度の深さに形成する。そして、2本の斜材21を交差し、互いの切り欠き22同士をかみ合わせることで、斜め格子2を形成する。
本実施例において、斜材22同士は直交して組み合わせるが、これに限定されず、交差角度は適宜決定する。
【0012】
(4)金具
枠体1と斜め格子の斜材21の端部が交わる部分には金具3を設けて、枠体1と斜材21とを連結する。
金具3は、枠材1に固定する固定部31と、固定部31の両端から略V字を形成するように突設する斜材受け部32からなる。
固定部31には、ビス孔311を設け、ビス43により枠材1に固定する。
【0013】
(5)斜材と金具の係合
金具3の斜材受け部32には、幅方向の中央にボルト孔321を形成する。そして、ボルト孔321は、係合ボルト33を螺合する(
図3)。
係合ボルト33は、ボルト孔321に螺合したときに斜材21の厚さと略同じ長さとなる円柱状の軸331と、軸の頭部に設ける軸331より大径の頭部332と、からなる。
斜材21の端部には、端部から長手方向に所定の長さ延びるスリット23を設け、金具3に螺合した係合ボルト33の軸331にスリット23を係合することにより、斜材21と金具3を係合する(
図4)。
【0014】
(6)斜材の動き
木造建物に地震等により力が作用すると、柱4a、4b、梁5、土台6からなる架構が変形する。
架構内部には枠体1と斜め格子2が設けられており、斜め格子2の斜材21がブレースとしての機能を有する。
図4の上側の斜材21のように圧縮方向の力には、斜材2のスリット23の端部が金具3の係合ボルト33の軸331に当接し、斜材2に作用する力が金具3を介して、枠体1および架構に分散される。
また、
図4の下側の斜材21のように引張方向の力には、スリット23により斜材21が枠体1から離れる方向に移動する。斜材21は金具3に固定していないため、斜材21が引張力により破損することがない。
係合ボルト33は頭部332を有するため、斜材21が金具3の斜材受け部32から離れる方向への動きは頭部332により抑制される。
【0015】
(7)作用・効果
本発明の耐力壁の斜め格子2は斜材21の間に開口が形成されるため、架構が開口部であっても塞ぐことなく、通風や採光が可能な状態で木造建物の耐震性能を向上することができる。
また、斜め格子2は、板材からなる斜材2を斜めに配置し、金具3を介して枠体1に固定して形成するため、見付け面積を小さくすることができ、意匠性に優れ、既存の木造建物の魅力を損なうことがない。そして、斜め格子2はそのまま棚やマガジンラックとして使用することもできる。
【0016】
[実施例2]
枠体1の下枠材13は、木造住宅の構造に合わせて、根太7や床板等の上面に配置してもよい(
図5)。
また、枠体1の内部には、斜め格子2の他に、斜め格子2の格子間隔に合わせてスペーサ14を設けてもよい。
【0017】
[実施例3]
上記実施例1、2は、斜め格子2を枠体1に組み付けて柱4a、4b間に固定するが、斜め格子2の斜材21を柱4aに直接固定した金具3により、柱4aと連結してもよい(
図6)。斜め格子2の上下には上枠材12、下枠材13を用いてもよいし、梁5、土台6に連結してもよい。また、斜め格子2の格子間隔に合わせて、スペーサ14を設けてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1…枠体、11…縦材、12…上枠材、13…下枠材、14…スペーサ
2…斜め格子、21…斜材、22…切り欠き、23…スリット
3…金具、31…固定部、311…32…斜材受け部、321…ボルト孔、33…係合ボルト、331…軸、332…頭部、34…ビス
4…柱
5…梁
6…土台
7…根太