(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146327
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】FeGa合金単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/52 20060101AFI20220928BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20220928BHJP
F27B 14/10 20060101ALI20220928BHJP
F27B 14/06 20060101ALI20220928BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20220928BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220928BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C30B29/52
C30B11/00 Z
F27B14/10
F27B14/06
F27D11/02 B
F27D1/00 D
C22C38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047231
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】辰宮 一樹
【テーマコード(参考)】
4G077
4K046
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA09
4G077CD02
4G077EA01
4G077EG01
4G077EG25
4G077HA03
4G077MB04
4G077MB24
4G077MB33
4K046AA02
4K046BA05
4K046CA01
4K046CB02
4K046CB05
4K046CC03
4K046CD03
4K046CE09
4K051AA05
4K051AB03
4K051BB01
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA12
4K063CA03
4K063FA04
4K063FA10
(57)【要約】
【課題】垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、結晶育成において種結晶すべてが融解することを防止することができるFeGa合金単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】断熱材に囲まれ、円筒状のヒーターを備える第1育成炉と、鉛直方向で前記第1育成炉の下部に位置し、断熱材に囲まれてヒーターを備えない第2育成炉と、前記第1育成炉と前記第2育成炉をつなぐ円筒状の開口部を有する断熱層と、前記開口部を介して、坩堝を前記第1育成炉と前記第2育成炉とを昇降させる坩堝台と、を備える育成炉を使用する垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、前記坩堝内で原料の下部に配された種結晶を前記第1育成炉から前記開口部へ下降させて、前記ヒーターにより加熱されて融解した前記原料と、前記種結晶をシーディングするシーディング工程を含み、前記断熱層の開口部は、高さ/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状である、FeGa合金単結晶の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材に囲まれ、円筒状のヒーターを備える第1育成炉と、
鉛直方向で前記第1育成炉の下部に位置し、断熱材に囲まれてヒーターを備えない第2育成炉と、
前記第1育成炉と前記第2育成炉をつなぐ円筒状の開口部を有する断熱層と、
前記開口部を介して、坩堝を前記第1育成炉と前記第2育成炉とを昇降させる坩堝台と、
を備える育成炉を使用する垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、
前記坩堝内で原料の下部に配された種結晶を前記第1育成炉から前記開口部へ下降させて、前記ヒーターにより加熱されて融解した前記原料と、前記種結晶をシーディングするシーディング工程を含み、
前記断熱層の開口部は、高さ/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状である、FeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シーディング工程では、前記坩堝内の温度を鉛直方向に下から上へ高くなるように、かつ当該坩堝内の温度勾配が2.5~5.5℃/mmの範囲内となるように調整する、請求項1に記載のFeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記坩堝は、外寸が74mm角で高さが200mm、内寸が66mm角で高さが196mm、厚みが4mmである、請求項1または2に記載のFeGa合金単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ガリウム合金(FeGa合金)単結晶の製造方法に関し、特に、融液を坩堝中で固化させる、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman method、以下「VB法」と略記する場合がある)により形成された超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FeGa合金は、機械加工が可能であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
【0003】
さらに、FeGa合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができるため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材としての用途が最適であると考えられる。
【0004】
FeGa合金の多結晶の製造方法においては、粉末冶金法や、急冷凝固法(例えば、特許文献1)、液体急冷凝固法により製造した薄片状や粉末状の原料を加圧焼結して製造する方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。しかし、これらの種々の製造方法は、いずれも部材内は単結晶にならず多結晶となり、部材内の全ての結晶方位を磁気歪みが最大となる方位に一致させることは不可能で、単結晶の部材より磁歪特性が劣る。
【0005】
一方で、単結晶の製造には、引き上げ法がある。例えば、特許文献3には、引き上げ法(チョクラルスキー法)による単結晶の育成方法が記載されている。しかしながら、この方法は、高周波誘導加熱方式により原料融解を行うため、電源コストが高くなる。また、装置構成が複雑であり、装置コストが高いため、引き上げ法では結果的に製造コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4053328号公報
【特許文献2】特許第4814085号公報
【特許文献3】特開2016-28831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1~3に記載の従来の方法では、FeGa合金の単結晶を廉価かつ大量に製造することは困難である。
【0008】
これらと比較し、融液を坩堝中で固化させるVB法であれば、超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶を廉価に製造することができる。VB法では、予めFeGa合金種結晶とFeGa混合原料を入れた坩堝を、ヒーターで加熱してFeGa混合原料を融解させたあと、一定の速度で坩堝を低下させて坩堝をヒーターから遠ざけることで融液を固化させてFeGa単結晶を育成し、常温となったらFeGa単結晶を取り出す。その後、FeGa合金単結晶を所望のサイズに切断加工し磁歪板を得る。つまり、育成したFeGa合金単結晶が大きいほど多くの磁歪板が得られる。
【0009】
しかしながら、VB法においては、種結晶の上部に鉄とガリウムの混合物を配置し、当該混合物を融解した後に、種結晶の結晶方位を引き継ぎながら融解物を種結晶側から固化する必要がある。FeGa合金は不一致溶融性結晶であり、状態図において固相線と液相線が一致せず、ガリウム含有量が原子量%で17~19%の場合には固相線と液相線との温度差が約70~80℃となる。
【0010】
そのため、VB法で大きいFeGa合金単結晶を育成しようとすると、融解物が種結晶をすべて融解してしまい、目的の結晶方位で単結晶を育成できない状態が発生することがあった。
【0011】
そこで本発明は、このような事情に鑑み、垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、結晶育成において種結晶すべてが融解することを防止することができるFeGa合金単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、断熱材に囲まれ、円筒状のヒーターを備える第1育成炉と、鉛直方向で前記第1育成炉の下部に位置し、断熱材に囲まれてヒーターを備えない第2育成炉と、前記第1育成炉と前記第2育成炉をつなぐ円筒状の開口部を有する断熱層と、前記開口部を介して、坩堝を前記第1育成炉と前記第2育成炉とを昇降させる坩堝台と、を備える育成炉を使用する垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、前記坩堝内で原料の下部に配された種結晶を前記第1育成炉から前記開口部へ下降させて、前記ヒーターにより加熱されて融解した前記原料と、前記種結晶をシーディングするシーディング工程を含み、前記断熱層の開口部は、高さ/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状である。
【0013】
前記シーディング工程では、前記坩堝内の温度を鉛直方向に下から上へ高くなるように、かつ当該坩堝内の温度勾配が2.5~5.5℃/mmの範囲内となるように調整してもよい。
【0014】
前記坩堝は、外寸が74mm角で高さが200mm、内寸が66mm角で高さが196mm、厚みが4mmであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明であれば、垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、結晶育成において種結晶すべてが融解することを防止することができるFeGa合金単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】鉄ガリウム合金の単結晶を育成する育成炉1000の概略断面図である。
【
図3】VB法によるFeGa合金単結晶の製造方法の各工程における単結晶育成用坩堝10と抵抗加熱ヒーター120の配置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法について、図面を参照しつつ、より具体的に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
【0018】
[単結晶育成装置]
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、例えば
図1に示す鉄ガリウム合金の単結晶を育成する育成炉1000を使用することができる。育成炉1000は、第1育成炉100、第2育成炉200、断熱層300、坩堝台400を備える。
【0019】
〈第1育成炉100〉
第1育成炉100は、断熱材110に囲まれ、円筒状のヒーター120を備える。単結晶育成用坩堝10内に配されたFeGa合金の原料を溶解させ、その後シーディングを行うために用いられる炉である。
【0020】
(断熱材110)
断熱材110は第1育成炉100を円筒状に形成することができ、第1育成炉の内部に更にヒーター120が配され、ヒーター120の内側に単結晶育成用坩堝10を配する構成となっている。断熱材110の材質は、特に制限はなく、例えば、カーボン、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si3N4)、ムライト(3Al2O3・2SiO2~2Al2O3・SiO2)およびアルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
【0021】
(ヒーター120)
ヒーター120は、断熱材110の内側に配されており、カーボン製の抵抗加熱ヒーターを用いることができる。FeGa合金単結晶の育成時に、ヒーター120によりホットゾーンを形成することができる。ヒーター120としては、
図3に示すように上段ヒーター120a、中段ヒーター120bおよび下段ヒーター120cとで構成されたヒーターを用いてもよい。これらのヒーター120a~120cへの投入電力をそれぞれ調整することにより、ヒーター120の内側にホットゾーンを形成することができ、また、ホットゾーン内の温度勾配をより厳密に制御することが可能となっている。例えば、第1育成炉100内の上部が高温、下部が低温となる温度分布を実現することが可能となっている。
【0022】
〈第2育成炉200〉
第2育成炉200は、鉛直方向で第1育成炉100の下部に位置し、断熱材210に囲まれており、ヒーターは備えない炉である。シーディング後のFeGa合金の原料を冷却して固化させるために用いられる炉である。
【0023】
(断熱材210)
断熱材210は第2育成炉200を円筒状に形成することができる。断熱材210の材質は、特に制限はなく、例えば、カーボン、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si3N4)、ムライト(3Al2O3・2SiO2~2Al2O3・SiO2)およびアルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
【0024】
(電極220)
第2育成炉200には、ヒーター120に電流を加えるための電極220が配されている。ヒーター120はネジ130によって電極220に固定されている。電極220およびネジ130は例えばカーボン製のものを用いることができる。
【0025】
〈断熱層300〉
断熱層300は、第1育成炉100と第2育成炉200をつなぐ円筒状の開口部310を有する(
図1、2)。断熱層300は、鉛直方向で第1育成炉100と第2育成炉200の間に配され、開口部300の直径は円筒状の第1育成炉100および第2育成炉200の直径よりも小さく、単結晶育成用坩堝10を支持する支持台20を載せる融液受け皿30が若干の隙間を有して通過できる程度に開口している。このような狭い開口部310を有する断熱層300を第1育成炉100と第2育成炉200の間に配することで、単結晶育成用坩堝10を第1育成炉100から第2育成炉200へ移動させる際に、特に単結晶育成用坩堝10が開口部300を通過中に、ヒーター120により発せられた熱が第1育成炉100から第2育成炉200へ侵入することを抑制することができる。その結果として、第2育成炉200の内部温度の上昇を抑制できることで、シーディング後の種結晶が熱によって完全に融解してしまうことを防止できる。
【0026】
断熱層300の材質は、特に制限はなく、例えば、カーボン、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si3N4)、ムライト(3Al2O3・2SiO2~2Al2O3・SiO2)およびアルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
【0027】
(開口部310)
図2は、断熱層300の概略図であり、
図2(a)は断熱層300の平面図、
図2(b)は断熱層300の側面断面図である。断熱層300の開口部310は、高さH/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状である。開口断面積は、開口部の半径をrとすると、πr
2により算出する。
【0028】
高さH/開口断面積=0.0035以上の条件を満たすことにより、単結晶育成用坩堝10を第1育成炉100から第2育成炉200へ移動させる際に、特に単結晶育成用坩堝10が開口部310を通過中に、ヒーター120により発せられた熱が第1育成炉100から第2育成炉200へ侵入することを抑制することができる。その結果として、第2育成炉200の内部温度の上昇を抑制できることで、シーディング後の種結晶が熱によって完全に融解してしまうことを防止できる。
【0029】
なお、高さH/開口断面積=0.0035未満の場合には、断熱層300の断熱効果が不十分となり、単結晶育成用坩堝10が開口部310を通過中に、ヒーター120により発せられた熱が第1育成炉100から第2育成炉200へ侵入することを十分に抑制することができず、シーディング後の種結晶が熱によって完全に融解してしまう場合がある。
【0030】
〈坩堝台400〉
坩堝台400は、開口部310を介して、単結晶育成用坩堝10を第1育成炉100と第2育成炉200とを昇降させることのできる台である。坩堝台400は、融液受け皿30を載せるステージ410と、ステージ410を昇降させるアーム420、アーム420を収納する収納ボックス430を備える。
【0031】
坩堝台400が単結晶育成用坩堝10を第1育成炉100と第2育成炉200とを昇降させることで、ヒーター120を有する第1育成炉100でFeGa合金の原料を融解させ、種結晶とシーディングし、その後、ヒーターの無い第2育成炉200で原料を固化させてFeGa合金単結晶を育成することができる。
【0032】
(他の構成)
育成炉1000は、上記の構成に加え、更なる構成を備えてもよい。例えば、単結晶育成用坩堝10の温度を測定して単結晶育成用坩堝10内の原料、種結晶、固化したFeGa合金単結晶の温度を把握することのできる熱電対15、育成炉1000内を真空雰囲気に調整することのできる真空ポンプ、育成炉1000を覆って炉内の雰囲気を維持することのできるチャンバー、アルゴンや窒素等の不活性ガスをチャンバー内へ導入することのできる不活性ガス導入手段等を備えることができる。
【0033】
〈単結晶育成用坩堝10〉
単結晶育成用坩堝10の材質は、FeGa合金単結晶と化学的反応性が低く、高融点材料であるアルミナが好ましい。また、マグネシア、熱分解窒化ホウ素(Pyrolitic Boron Nitride)でもよい。また、上方側が開放された単結晶育成用坩堝10には、同じ材質の蓋を被せてもよい。
【0034】
単結晶育成用坩堝10内の下部に、FeGa合金種結晶16が充填され、このFeGa合金種結晶16の上に、鉄とガリウムの混合物17が充填される。
【0035】
単結晶育成用坩堝10をVB法に用いて、鉄とガリウムの混合物の融解物17を単結晶育成用坩堝10中で固化させることで、FeGa合金単結晶を育成することができる。
【0036】
図4に単結晶育成用坩堝10の一例として概略図を示す。
図4aは斜視図であり、
図4bは断面図である。単結晶育成用坩堝10は、原料を投入する部分10a、種結晶を投入する部分10c、部分10aと部分10cをつなぐテーパー状の部分10bを備える。例えば、外寸W1が74mm角、内寸W2が66mmで坩堝の厚みは均一であり、高さH1が200mm、部分10aの高さH3が150mm、部分10aと部分10bの高さの合計H2が170mm、内寸高さH4が196mmの坩堝を使用することができる。
【0037】
(支持台20)
支持台20は、単結晶育成用坩堝10が倒れないように支持する台である。単結晶育成用坩堝10は底に向けて細くなって重心が高いために倒れやすいので、支持台20で支えることで単結晶育成用坩堝10が倒れないようにする。例えば、アルミナ製で円筒状の台を支持台20として用いることができる。
【0038】
(融液受け皿30)
融液受け皿30は、FeGa合金単結晶の原料の融解やシーディング、単結晶の育成中に単結晶育成用坩堝10が万が一破損してしまった場合に、坩堝から漏れた原料融液を受け止める役割を担う。
【0039】
例えば、
図5の概略側面断面図に示すように、アルミナ製で底31と側壁32を備える皿を融液受け皿30として用いることができ、外寸の直径Rは108mmに設定することができる。
【0040】
また、融液受け皿30の直径Rと断熱層300の開口部310の直径との差を5mm~15mmに設定することができる。差がこの範囲内であれば、単結晶育成用坩堝10を第1育成炉100から第2育成炉200へ移動させる際に、特に単結晶育成用坩堝10が開口部310を通過中に、ヒーター120により発せられた熱が第1育成炉100から第2育成炉200へ侵入することを抑制することができる。その結果として、第2育成炉200の内部温度の上昇を抑制できることで、シーディング後の種結晶が熱によって完全に融解してしまうことを防止できる。
【0041】
[FeGa合金単結晶の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法として、
図1に示す育成炉1000を使用する製造方法について説明する。
【0042】
超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶は、例えば鉄とガリウムの融解物を坩堝中で固化させて育成することができ、本発明では、第1育成炉と、第2育成炉と、断熱層と、坩堝台と、を備える育成炉を使用し、VB法によりFeGa合金単結晶を育成する。なお、育成炉における断熱層の開口部は、高さ/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状である。
【0043】
〈シーディング工程〉
本発明の製造方法は、単結晶育成用坩堝10内で原料(鉄とガリウムの混合物17)の下部に配されたFeGa合金種結晶16を第1育成炉100から開口部310へ下降させて、ヒーター120により加熱されて融解した原料と、FeGa合金種結晶16をシーディングするシーディング工程を含む。
【0044】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、シーディング工程の他に、更なる工程を含んでもよい。以下、
図3を参照しつつ、坩堝配置工程、融解工程、気泡除去工程、シーディング工程、育成工程の各工程について説明する。
【0045】
VB法では、まず、単結晶育成用坩堝10の下部に主面方位が<100>方位のFeGa合金種結晶16を配置する。そして、FeGa合金種結晶16の上には、原料である鉄とガリウムの混合物17を必要量配置し(
図3(a)坩堝配置工程)、その後坩堝10に適宜蓋を被せる。
【0046】
次に、育成炉1000内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、育成炉1000内を不活性雰囲気に調整する。窒化ガリウム等が生成するおそれがある場合には、アルゴンガスを導入することが好ましい。育成炉1000内が不活性雰囲気となった後、単結晶育成用坩堝10を囲むように配置された上段ヒーター120a、中段ヒーター120bおよび下段ヒーター120cを作動して、昇温し、鉄とガリウムの混合物17の融解を開始し、原料融液18とする(
図3(b)融解工程)。
【0047】
鉄とガリウムの混合物17がほぼ融解して融解物となったら、真空ポンプを作動して、育成炉1000内を減圧し、融解物中の気泡を取り除く(気泡除去工程)。
【0048】
気泡除去工程後、育成炉1000内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、再び育成炉1000内を不活性雰囲気に調整した後、単結晶育成用坩堝10の内部でFeGa合金単結晶を育成する(
図3(d)育成工程)。具体的には、ヒーター120を用いて、FeGa合金種結晶16および融解物(鉄とガリウムの混合物17)が収納され、蓋を被せられた単結晶育成用坩堝10を、高さ方向の上方の温度が高く、下方の温度が低い温度分布となるように加熱する。この状態で、育成炉1000内の温度を、FeGa合金種結晶16が高さ方向の上半分位まで融解する位置まで可動用ロッド13を可動させて坩堝10を上昇させてシーディングを行う(
図3(c)シーディング工程)。
【0049】
その後、そのまま育成炉1000内の温度勾配を維持しながら、単結晶育成用坩堝10の降下速度を1~10mm/時間の範囲で設定し、一定速度でアーム420を可動させ単結晶育成用坩堝10を下降させてFeGa合金単結晶16を育成し(
図4(d)育成工程)、すべての融解物を固化させる。尚、単結晶育成用坩堝10の降下速度を1mm/時間以下に設定しても単結晶の育成が可能であるが、育成期間が長くなり生産性が落ちる。結晶組成の変化を抑えるために、単結晶育成用坩堝10の降下速度は5mm/時間以上とするのがよい。
【0050】
坩堝10の下降が終了して単結晶の育成が終了した後(
図3(e))、所定速度で冷却を行ってFeGa合金19を得る(冷却工程)。
【0051】
次に、育成炉1000内の温度が室温程度になったことを確認した後、育成された単結晶が入った単結晶育成用坩堝10を坩堝台400から取り外し、さらに蓋を取って単結晶育成用坩堝10から育成された単結晶を取り出す。
【0052】
ここで、シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度を鉛直方向に下から上へ高くなるように、かつ単結晶育成用坩堝10内のシーディング時の温度勾配が、2.5~5.5℃/mmとなるよう、シーディング位置およびヒーター120の投入電力は調整されている。このような温度勾配とすることで、FeGa合金種結晶16が完全に融解することをより確実に防止できる。
【0053】
単結晶育成用坩堝10内の温度勾配が2.5℃/mm未満の場合、FeGa合金種結晶16が高温となって完全に融解してしまうおそれがある。一方で、ヒーター出力上昇による消費電力の増加、および融解物上面からのガリウム蒸気の発生を抑えるために、上記温度勾配を5.5℃/mm以下とする。また、温度勾配が6.5℃/mmとなるシーディング位置を調査しようとしたが、高温のため白金ロジウム製の熱電対50が温度測定中に断線したため、中断した。
【0054】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法では、鉄ガリウム合金種結晶16がすべて融解することを防止できる。FeGa合金は不一致溶融性結晶のため、FeGa合金中のガリウム含有量が原子量%で18%の場合において、状態図上の固相線と液相線の温度差は約75℃となる。そのため、鉄ガリウム合金種結晶16を完全に融解させないためには、鉄ガリウム合金種結晶16の上下方向に75℃以上の温度差が必要になる。通常は、鉄ガリウム合金種結晶16の上下方向の長さを30mmにしているため、鉄ガリウム合金種結晶16を完全に融解させないためには、鉄ガリウム合金種結晶16の上下方向に75℃以上の温度差を設けるべく、単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を2.5℃/mm以上とする必要がある。
【0055】
シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を高く設定することで、より広い範囲での単結晶育成用坩堝10の降下速度での単結晶育成が可能となる。しかし、シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を高く設定すると、ヒーター出力が高くなる。これに伴い、融解物の蒸発量が増え、断熱材110、ヒーター120、坩堝台400等に付着し、清掃が必要となる。融解物の蒸発量を抑えるために、単結晶育成用坩堝10に蓋を被せる方が好ましい。融解物の蒸発量は、シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を6.0℃/mm以上に設定した場合に、ヒーターの出力により激しくなる。よって、シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を5.5℃/mm以下とするのがよい。
【実施例0056】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
まず、室温20℃の環境下で、化学量論比で鉄とガリウムの比率が82:18になるように、すなわちガリウム含有量が原子量%で18.0%となるように、メディアン径が約1mmの粒状鉄原料(純度:99.9%)とガリウム原料(純度:99.99%)を秤量した。秤量したガリウム原料をテフロン(登録商標)容器に投入し、湯煎により融解した。さらに、融解したガリウム原料へ鉄原料を投入し、容器内で攪拌を行った後、室温まで冷却し、混合原料である鉄とガリウムの混合物17を作製した。
【0058】
そして、
図4に示す外寸W1が74mm角、内寸W2が66mmで坩堝の厚みは均一であり、高さH1が200mm、部分10aの高さH3が150mm、部分10aと部分10bの高さの合計H2が170mm、内寸高さH4が196mmの緻密質アルミナ製の単結晶育成用坩堝10内の下部に、あらかじめガリウム含有量を調整したFeGa合金種結晶16(ガリウム含有量が原子量%で17%、直径5mmおよび長さ30mmの円柱形状)を充填し、かつ、当該FeGa合金種結晶16の上に鉄とガリウムの混合物17を充填した。このとき、FeGa合金種結晶16には、主面方位が<100>方位である結晶を使用した。
【0059】
次に、単結晶育成用坩堝10の開口部10dに、緻密質アルミナの焼結物製の蓋を被せた。そして、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17が充填された単結晶育成用坩堝10を、
図1に示すように、ステージ410に載置された融液受け皿30に配された支持台20に載せて、熱電対15の先端部を単結晶育成用坩堝10の側面に接触させた。融液受け皿30は、アルミナ製で底31と側壁32を備え、高さ90mm、外寸の直径Rは108mmのものを使用した。また、断熱材110、210および断熱層300はアルミナ製のものを使用した。
【0060】
図1に示す育成炉1000において、断熱層300としては、高さHが40mm、開口部310の半径が60mm、開口断面積が11300mm
2、高さH/開口断面積=0.0035の断熱層を用いた。
【0061】
次に、アーム420を駆動させてステージ410を第2育成炉200内の最下部にセットした。その後、育成炉1000内にアルゴンガスを導入し、育成炉1000内を大気圧のアルゴン雰囲気に調整した。また、カーボン製の抵抗加熱ヒーター120からなる上段ヒーター120a、中段ヒーター120bおよび下段ヒーター120cとしては、独立に制御可能なものを使用した。
【0062】
そして、上段ヒーター120aの温度を1500℃、中段ヒーター120bの温度を1400℃、下段ヒーター120cの温度を1300℃の温度幅で設定し、育成炉1000内の昇温を行った。昇温が終了して育成炉1000内の温度が安定した後、アーム420を駆動させてステージ410を上昇させることにより、単結晶育成用坩堝10を緩やかな速度で第1育成炉100へ上昇させた。第1育成炉100内には上部の温度が高く、下部の温度が低い温度勾配がつくられているので、第1育成炉100の上部に移動するに従って単結晶育成用坩堝10内の温度が上昇し、鉄とガリウムの混合物17が融解してその融解物が形成された。
【0063】
なお、上段ヒーター120aの温度1500℃は、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.5℃/mmになるように設定した。この時、中段ヒーター120bの温度を1400℃、下段ヒーター120cの温度を1300℃に設定し、単結晶育成用坩堝10の移動速度は、2mm/時間とした。FeGa組成はFeGa合金単結晶中のガリウム含有量が原子量%で18%であり、この場合のFeGa合金の固化温度が約1450℃であるので、熱電対15の先端の測定温度が1450℃となるときの単結晶育成用坩堝10の位置をシーディング位置とした。その結果、上段ヒーター12aの温度を1500℃とすればよいことがわかった。
【0064】
混合原料がほぼ融解して融解物となったら、育成炉1000内へのアルゴンガスの導入を抑え、真空ポンプを使用して350Paまで育成炉1000内を減圧し、そのまま、約30分間保持した。次に200Pa以下となるまで2.5Pa/分の勾配で60分かけて徐々に減圧し、融解物中の気泡を除去した(気泡除去工程)。気泡除去工程後、アルゴンガスの導入を再開し、育成炉1000内を1気圧の不活性雰囲気に調整した。
【0065】
上記融解物が形成された単結晶育成用坩堝10の位置する付近で、熱電対15の接触点位置の温度をモニターしながら、アーム420を駆動させて単結晶育成用坩堝10内の温度勾配2.5℃/mmに維持しつつ、単結晶育成用坩堝10をシーディング位置まで数mm上昇させて温度を安定させた。この工程を繰り返して、熱電対15の温度が安定した状態で1350~1400℃の範囲になるよう単結晶育成用坩堝10を上昇させた。単結晶育成用坩堝10を保持する位置が定まったら、3時間保持してシーディングを行った。シーディングを行った後、上段ヒーター120aの温度を1500℃、中段ヒーター120bの温度を1400℃、下段ヒーター120cの温度を1300℃に維持しつつ、アーム420を駆動させて単結晶育成用坩堝10の降下速度を2mm/時間として単結晶育成用坩堝10を降下させ、FeGa合金単結晶の育成を開始した。単結晶育成用坩堝10の降下距離が100mmとなった後、育成を終了した。
【0066】
実施例1において、原料の融解からシーディングまではヒーター120のある第1育成炉100に単結晶育成用坩堝10が配されており、シーディング後の単結晶育成は、原料融液18の上端位置(液面)が第1育成炉100の最下部付近まで移動した時に開始し、上端位置が断熱層300の開口部310の下端付近に移動した時に終了した。また、第1育成炉100から第2育成炉へ下降する際の坩堝の移動速度も、2mm/時間とした。
【0067】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出したところ、FeGa合金種結晶16の下端部には融解は見られず、FeGa合金種結晶16の全てが融解しなかったことから、正常にシーディングできたことを確認した。
【0068】
また、上記の工程を10回繰り返してインゴットを10本製造した。いずれの場合も上記と同様の結果となり、正常にシーディングできたことを確認した。
【0069】
[比較例1]
図1に示す育成炉1000において、断熱層300としては、高さHが20mm、開口部310の半径が60mm、開口断面積が11300mm
2、高さH/開口断面積=0.0018の断熱層を用いた。これ以外は、実施例1と同様に鉄とガリウムの混合物17を作製し、単結晶の育成を行った。
【0070】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出し、種結晶部分を切断して方位を確認したが、<100>方位から大きくずれており、種結晶が全て融解していた。
【0071】
また、上記の工程を10回繰り返してインゴットを10本製造したが、同様に種結晶が全て融解していた。
【0072】
実施例1および比較例1における断熱層300の開口部310の寸法およびFeGa合金種結晶16の完全融解の有無について、表1に示す。
【0073】
【0074】
結果として、断熱層300の開口部310が、高さH/開口断面積=0.0035以上の条件を満たす円筒状であることで、FeGa合金種結晶16の全てが融解せず、正常にシーディングできた。
【0075】
[まとめ]
以上より、本発明であれば、垂直ブリッジマン法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、結晶育成において種結晶すべてが融解することを防止することができるFeGa合金単結晶の製造方法を提供できることは、明らかである。