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特開2022-146347有機ケイ素化合物、熱硬化性樹脂組成物、成形体、および光半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146347
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物、熱硬化性樹脂組成物、成形体、および光半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20220928BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220928BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20220928BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220928BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20220928BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C07F7/21 CSP
C09K3/10 G
C09K3/10 B
C08G77/20
H01L23/30 F
H01L33/56
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047255
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】養王田 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】西澤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】池野 浩章
【テーマコード(参考)】
4H017
4H039
4H049
4J246
4M109
5F142
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB15
4H017AD06
4H017AE05
4H039CA40
4H039CB10
4H049VN01
4H049VP09
4H049VP10
4H049VQ88
4H049VR21
4H049VR43
4H049VS88
4H049VT17
4H049VU29
4H049VU31
4H049VV06
4H049VW02
4J246AA03
4J246AB02
4J246AB07
4J246BA040
4J246BA04X
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA120
4J246CA12E
4J246CA12U
4J246CA12X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246CA250
4J246CA25M
4J246CA25X
4J246CA340
4J246CA34E
4J246CA34X
4J246CA400
4J246CA40U
4J246CA40X
4J246FA271
4J246FA291
4J246FA321
4J246FA371
4J246FA372
4J246FA451
4J246FB191
4J246FE04
4J246FE26
4J246FE27
4J246GA01
4J246GA02
4J246GB02
4J246GC18
4J246GC23
4J246GC31
4J246HA16
4J246HA29
4M109AA01
4M109EA10
4M109EB04
4M109EB08
4M109EC12
4M109GA01
5F142AA63
5F142CG05
5F142CG13
5F142DA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い光透過性とガスバリア性を有する成形体を得ることができる有機ケイ素化合物及び熱硬化性樹脂組成物、並びにこのような熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる成形体及び光半導体装置を提供する。
【解決手段】式(1-1)で例示される有機ケイ素化合物(A1)による。

(式中、Rは独立してフェニル又はフェニルを核水素化した六員環基;Rは独立してH又はOH;nは化合物の平均値として0≦n≦10を満たす数)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1-1)で表される有機ケイ素化合物(A1)、式(1-2)で表される有機ケイ素化合物(A2)、および式(1-3)で表される有機ケイ素化合物(A3)から選択される化合物。



式(1-1)、式(1-2)、および式(1-3)中、Rは独立して、フェニル、またはフェニルを核水素化した六員環基であり、R、R、およびRは独立して、水素またはヒドロキシであり、nは化合物の平均値として0≦n≦10を満たす。
【請求項2】
が、フェニルに対する核水素化による水素化率が、化合物として30%以上となる基を選択する、請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機ケイ素化合物(A1)と、式(2-1)および式(2-2)で表される化合物から選択された化合物とを、酸触媒下で平衡化重合して得られる有機ケイ素化合物(A4)。

式(2-1)中、nは3≦n≦8を満たす整数である。
式(2-2)中、mは0≦m≦50を満たす平均値であり、Viはビニルを表す。
【請求項4】
請求項1または2に記載の有機ケイ素化合物(A1)、有機ケイ素化合物(A2)、または有機ケイ素化合物(A3)のうち、R、R、およびRが水素である有機ケイ素化合物、または請求項3に記載の有機ケイ素化合物(A4)のうち、1種または2種以上の混合物からなる有機ケイ素化合物(A)
有機ケイ素化合物(A)以外の、分子内に複数の架橋性基を有する有機ケイ素化合物(B)、および
ヒドロシリル化触媒(C)
を含有し、
有機ケイ素化合物(B)が、有機ケイ素化合物(A)と架橋可能な化合物を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
有機ケイ素化合物(B)が式(3)で表される化合物を含む請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。

式(3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルであり、Xは独立して、式(X1)、式(X2)、または式(X3)で表される基である。
式(3)で表される化合物1分子あたりの式(X1)で表される基の平均数をx、式(X2)で表される基の平均数をx、式(X3)で表される基の平均数をxとしたとき、x+2x+x=4r、0<x<4r、0≦x<2r、かつ0<x<4rを満たし、rは、1~100を満たす平均値である。


式(X1)、式(X2)、および式(X3)中、*は、結合部位を示す。
式(X2)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。sは、2~20を満たす平均値である。
式(X3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。Rは、炭素数2~5のアルケニルである。Rは、Rと同じ炭素数のアルカンジイルであり、tは、2~20を満たす平均値である。
【請求項6】
有機ケイ素化合物(B)が式(4)で表される化合物を含む請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
式(4)中のyは0≦y≦50を満たす平均値であり、Rはビニルまたは水素である。
【請求項7】
有機ケイ素化合物(B)が3つ以上のSiH基を有する化合物を含む請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
有機ケイ素化合物(B)が、式(6-1)、式(6-2)、または式(6-3)で表される化合物を含む請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。



式(6-1)、式(6-2)、および式(6-3)中、nは化合物の平均値として1≦n≦10を満たす。
【請求項9】
有機ケイ素化合物(B)の含有量が30質量%以上である請求項4から8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)との合計100質量%に対して有機ケイ素化合物(A)が30質量%以上である請求項4から8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
密着性付与剤(D)をさらに含有し、
密着性付与剤(D)が、式(7)で表される化合物を含む請求項4から10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。

式(7)中、R18は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルであり、Zは独立して、式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、または式(Z41)で表される基である。
式(7)で表される化合物1分子あたりの式(Z1)で表される基の平均数をz、式(Z2)で表される基の平均数をz、式(Z31)、式(Z32)、または式(Z33)で表される基の平均数をz、式(Z41)で表される基の平均数をzとしたとき、z+2z+z+z=4w、0.5w≦z≦3w、0.5w≦2z≦2w、0.1w≦z≦2w、かつ0≦z≦wを満たし、wは、1~100を満たす平均値である。

式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、および式(Z41)中、*は、結合部位を示す。
式(Z2)中、R19は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルであり、iは、1~20を満たす平均値である。
式(Z41)中、R20は独立して、メチル、エチル、ブチル、またはイソプロピルである。
【請求項12】
密着性付与剤(D)の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である請求項11に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
蛍光体(E)または白色顔料(F)をさらに含む請求項4から12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項4から請求項13のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる成形体。
【請求項15】
請求項14に記載の成形体、およびこの成形体によって封止された光半導体素子を備える光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、熱硬化性樹脂組成物、成形体、および該組成物を用いて作製した光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の光半導体素子を備える光半導体装置は、各種照明装置、電光掲示板、信号機、液晶表示装置のバックライト、LEDディスプレイ等に実用化されている。これらの光半導体装置においては、光半導体素子が透明な封止材で封止されていることが一般的である。光半導体素子の封止材の一つとして、シリコーン樹脂が広く用いられている。シリコーン樹脂は、耐熱性や光透過性に優れるものの腐食性ガスや水蒸気バリア性が低いという課題がある。また素子の高出力化や高周波数化に伴い冷熱衝撃性や低誘電性も求められている。
【0003】
特許文献1には、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造と架橋性官能基を有する架橋性ケイ素化合物が光透過性や光屈折率性、冷熱衝撃に優れることが記載されている。しかしながら、上記架橋性ケイ素化合物はガスバリア性や低誘電性に対する記載が全くない。
【0004】
特許文献2には、上記架橋性ケイ素化合物とシルセスキオキサン構造を含むシロキサンポリマーを用いて得られた熱硬化性樹脂組成物は高温環境下でクラックが生じ難い成形体に優れることが記載されている。しかしながら、上記シロキサンポリマーは白濁粘性液体であることから光透過性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-280766号公報
【特許文献2】特開2020-090593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光透過性が良好でありながらガスバリア性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、光透過性に優れたシロキサンポリマーおよび冷熱衝撃性や低誘電性に優れた硬化物を提供することにある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、高い光透過性とガスバリア性を有する成形体を得ることができる有機ケイ素化合物及び熱硬化性樹脂組成物、並びにこのような熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる成形体及び光半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、フェニルを有するダブルデッカー型シルセスキオキサン構造を含む有機ケイ素化合物において、フェニルを30%以上核水素化することで得られる有機ケイ素化合物である。
【0009】
当該有機ケイ素化合物の例としては、式(1-1)で表される有機ケイ素化合物(A1)、式(1-2)で表される有機ケイ素化合物(A2)、または式(1-3)で表される有機ケイ素化合物(A3)が挙げられる。ここで、nは化合物の平均値として0以上10以下であり、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核水素化した六員環基、またはフェニルであり、R、R、およびRは独立して、水素またはヒドロキシである。
【0010】


【0011】
当該有機ケイ素化合物のRとしては、フェニルに対する核水素化による水素化率が、化合物として30%以上となる基の組み合わせを選択することが好ましく、60%以上となる組み合わせがより好ましく、90%以上となる組み合わせが更に好ましい。
【0012】
有機ケイ素化合物(A1)、有機ケイ素化合物(A2)、および有機ケイ素化合物(A3)において、nは化合物の平均値として0以上6以下であることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、有機ケイ素化合物(A1)と、式(2-1)および式(2-2)で表される化合物から選択された化合物とを、酸触媒下で平衡化重合して得られる有機ケイ素化合物(A4)である。

式(2-1)中のnは3≦n≦8を満たす整数である。
式(2-2)中のmは0≦m≦50を満たす平均値であり、Viはビニルを表す。
【0014】
有機ケイ素化合物(A4)を式(2-3)に示す。ここで、mは1~5を満たす平均値であり、nは2~50を満たす平均値であり、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核水素化した六員環基、またはフェニルであり、Viはビニルを表す。
【0015】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、
有機ケイ素化合物(A):有機ケイ素化合物(A1)、有機ケイ素化合物(A2)、または有機ケイ素化合物(A3)のうちR、R、Rが水素である有機ケイ素化合物、または有機ケイ素化合物(A4)、
有機ケイ素化合物(B):有機ケイ素化合物(A)以外の、分子内に複数の架橋性基を有する有機ケイ素化合物、
および
ヒドロシリル化触媒(C)を含有し、
有機ケイ素化合物(B)が、少なくとも有機ケイ素化合物(A)と架橋可能な化合物を含む熱硬化性樹脂組成物である。
【0016】
有機ケイ素化合物(B)が、式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。

式(3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。Xは独立して、式(X1)、式(X2)、または式(X3)で表される基である。
式(3)で表される化合物1分子あたりの式(X1)で表される基の平均数をx、式(X2)で表される基の平均数をx、式(X3)で表される基の平均数をxとしたとき、x+2x+x=4r、0<x<4r、0≦x<2r、かつ0<x<4rを満たす。rは、1~100を満たす平均値である。
【0017】

式(X1)、式(X2)、および式(X3)中、*は、結合部位を示す。
式(X2)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。sは、2~20を満たす平均値である。
式(X3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。Rは、炭素数2~5のアルケニルである。Rは、Rと同じ炭素数のアルカンジイルである。tは、2~20を満たす平均値である。)
【0018】
有機ケイ素化合物(B)が、式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。

式(4)中のyは0≦y≦50を満たす平均値であり、Rはビニルまたは水素である。
【0019】
有機ケイ素化合物(B)が3つ以上のSiH基を有する化合物を含むことが好ましい。
3つ以上のSiH基を有する化合物の例としては、式(5-1)~式(5-4)で表す化合物などが挙げられる。
【0020】
有機ケイ素化合物(B)が式(6-1)、式(6-2)、または式(6-3)で表される化合物を含むことが好ましい。



式(6-1)、式(6-2)、および式(6-3)中、nは化合物の平均値として1≦n≦10を満たす
【0021】
当該熱硬化性樹脂組成物においては有機ケイ素化合物(A)の含有量が30質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
【0022】
当該熱硬化性樹脂組成物においては有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)との合計100質量%に対して有機ケイ素化合物(A)が30質量%以上であることが好ましい。
【0023】
当該熱硬化性樹脂組成物は、密着性付与剤(D)をさらに含有し、密着性付与剤(D)が、式(7)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0024】
式(7)中、R18は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。Zは独立して、式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、又は式(Z41)で表される基である。式(7)で表される化合物1分子あたりの式(Z1)で表される基の平均数をz、式(Z2)で表される基の平均数をz、式(Z31)、式(Z32)、または式(Z33)で表される基の平均数をz、式(Z41)で表される基の平均数をzとしたとき、z+2z+z+z=4w、0.5w≦z≦3w、0.5w≦2z≦2w、0.1w≦z≦2w、かつ0≦z≦wを満たす。wは、1~100を満たす平均値である。
【0025】

式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、および式(Z41)中、*は、結合部位を示す。
式(Z2)中、R19は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。iは、1~20を満たす平均値である。
式(Z41)中、R20は独立して、メチル、エチル、ブチル、またはイソプロピルである。
【0026】
当該熱硬化性樹脂組成物においては密着性付与剤(D)の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
当該熱硬化性樹脂組成物は、蛍光体(E)または白色顔料(F)をさらに含むことが好ましい。
【0028】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる成形体である。
【0029】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、光半導体素子、及び上記光半導体素子を封止する当該成形体を備える光半導体装置である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高い光透過性とガスバリア性を有する成形体を得ることができる有機ケイ素化合物および熱硬化性樹脂組成物、並びにこのような熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる成形体および光半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物、熱硬化性樹脂組成物、成形体、および半導体装置について詳説する。
【0032】
<本発明の有機ケイ素化合物>
有機ケイ素化合物(A1)、有機ケイ素化合物(A2)、または有機ケイ素化合物(A3)を含む、本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物は、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位を核とし、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位のケイ素原子に直接結合したフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基を有し、末端基としてヒドロシリルまたはヒドロキシを有する。また、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位と末端基との間に連結されたジメチルシロキサン単位を有してもよい。
【0033】
当該有機ケイ素化合物のフェニル基の水素化率を(当該有機ケイ素化合物に付加した1分子当たりの平均の水素分子数)/(当該有機ケイ素化合物の原料であるフェニル基を有するダブルデッカー型シルセスキオキサン構造を含む有機ケイ素化合物に含まれるフェニル基の数×3)とする。例えば有機ケイ素化合物(A1)において平均で2.5個のフェニルがシクロヘキシルに核水素化された場合、水素化率は31%であり、例えば有機ケイ素化合物(A2)において平均で4個のフェニルがシクロヘキセニルに核水素化され、かつ平均で4個のフェニルがシクロヘキサンジイルに核水素化された場合、水素化率は50%である。
【0034】
当該有機ケイ素化合物のフェニルの水素化率を30%以上とすることで、ジメチルシロキサン構造とダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造との相溶性が向上し、相分離を起こしにくくなることにより、当該有機ケイ素化合物を含む熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる成形体の光透過性が向上する。この効果は水素化率を高めるほど顕著になり、水素化率は60%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0035】
当該有機ケイ素化合物のフェニル基の核水素化における水素化率を30%以上とすることで、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造同士のパッキングが密になり、当該有機ケイ素化合物を含む熱硬化性樹脂組成物を用いて得られる成形体のガスバリア性が向上する。この効果は水素化率を高めるほど顕著になり、水素化率は60%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0036】
当該有機ケイ素化合物のフェニル基の水素化は、芳香族化合物の水素化方法として一般的に知られている方法で実施可能である。
【0037】
<有機ケイ素化合物(A1)>
本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物(A1)は式(1-1)で表され、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位を核とし、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位のケイ素に直接結合したフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基を有し、末端基としてヒドロシリル基、またはヒドロキシを有する。また、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位と上記末端基との間に連結されたジメチルシロキサン単位を有してもよい。
【0038】
【0039】
式(1-1)中、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基、またはフェニルであり、Rは独立して、水素またはヒドロキシである。
【0040】
式(1-1)中のnは有機ケイ素化合物(A1)における2本のジメチルシロキサン単位の長さの平均値であり、0以上10以下が好ましく、0以上6以下がさらに好ましい。
【0041】
<有機ケイ素化合物(A2)>
本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物(A2)は式(1-2)で表され、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位を核とし、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位のケイ素に直接結合したフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基を有し、末端基としてヒドロシリル基、またはヒドロキシを有する。また、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位と上記末端基との間に連結されたジメチルシロキサン単位を有してもよい。
【0042】
【0043】
式(1-2)中、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核素化することで得られる炭化水素基、またはフェニルであり、Rは独立して、水素またはヒドロキシである。
【0044】
式(1-2)中のnは有機ケイ素化合物(A2)における4本のジメチルシロキサン単位の長さの平均値であり、0以上10以下が好ましく、0以上6以下がさらに好ましい。
【0045】
<有機ケイ素化合物(A3)>
本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物(A3)は式(1-3)で表され、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位を核とし、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位のケイ素に直接結合したフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基を有し、末端基としてヒドロシリル、またはヒドロキシを有する。また、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位と上記末端基との間に連結されたジメチルシロキサン単位を有してもよい。
【0046】
【0047】
式(1-3)中、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基、またはフェニルであり、Rは独立して、水素またはヒドロキシ基である。
【0048】
式(1-3)中のnは有機ケイ素化合物(A2)における4本のジメチルシロキサン単位の長さの平均値であり、0以上10以下が好ましく、0以上6以下がさらに好ましい。
【0049】
<有機ケイ素化合物誘導体(A4)>
本発明の一実施形態に係る有機ケイ素化合物(A4)は式(2-3)で表され、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位のケイ素に直接結合したフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基を有するダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造単位、ジメチルシロキサン単位、および末端基としてのビニルを有し、有機ケイ素化合物(A1)と式(2-1)または式(2-2)で表される化合物とを酸触媒下で平衡化重合することで得ることができる。
【0050】

【0051】
式(2-1)中のnは3≦n≦8を満たす整数である。
式(2-2)中のmは0≦m≦50を満たす平均値であり、Viはビニルを表す。
式(2-3)中、mは1~5を満たす平均値であり、nは2~50を満たす平均値であり、Rは独立して、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニルに代表されるフェニルを核水素化することで得られる炭化水素基、またはフェニルであり、Viはビニルを表す。
【0052】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、有機ケイ素化合物(A1)又は有機ケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、または有機ケイ素化合物誘導体(A4)(以下、「(A)有機ケイ素化合物」または「(A)成分」ともいう。)、有機ケイ素化合物(A)以外の複数の架橋性基を有する有機ケイ素化合物(以下、「(B)有機ケイ素化合物」または「(B)成分」ともいう。)、およびヒドロシリル化触媒(C)を含有する。有機ケイ素化合物(B)は、少なくとも有機ケイ素化合物(A)と架橋可能な化合物を含む。当該熱硬化性樹脂組成物は、有機ケイ素化合物(A)を含有するため、ジメチルシロキサン構造とダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造との相溶性が高く相分離を起こしにくいほか、ダブルデッカー型のシルセスキオキサン構造同士のパッキングが密になり、硬化して得られる成形体の光透過性及びガスバリア性に優れる。当該熱硬化性樹脂組成物は、さらに他の成分を含有していてもよい。以下、当該熱硬化性樹脂組成物を構成する各成分について詳説する。
【0053】
<(A)成分:有機ケイ素化合物(A)>
有機ケイ素化合物(A)は、上述した有機ケイ素化合物(A1)、有機ケイ素化合物(A2)、または有機ケイ素化合物(A3)のうちR、R、Rが水素である有機ケイ素化合物、または有機ケイ素化合物誘導体(A4)である。有機ケイ素化合物(A)は、1種または2種以上の混合物であってよい。
【0054】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物(A)の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%、30質量%がさらに好ましい場合もある。例えば、有機ケイ素化合物(A)が両末端にヒドロシリル基が存在する形態の場合、有機ケイ素化合物(A)の含有量を比較的小さくし、有機ケイ素化合物(B)の含有量を大きくすることで、得られる成形体の光透過性、ガスバリア性、熱衝撃性および誘電特性が向上する傾向がある。
【0055】
有機ケイ素化合物(A)の含有量を1質量%以上90質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性及びガスバリア性がより向上する。
【0056】
<(B)成分:有機ケイ素化合物(B)>
有機ケイ素化合物(B)は、分子内に複数の架橋性基を有する有機ケイ素化合物(有機ケイ素化合物(A)を除く)である。架橋性基としては、ビニル等のアルケニル、エチニル等のアルキニル、ヒドロシリル等を挙げることができ、ビニルおよびヒドロシリルが好ましい。有機ケイ素化合物(B)は、1種または2種以上の混合物であってよい。有機ケイ素化合物(B)は、有機ケイ素化合物(A)と架橋可能な少なくとも1種を含む。有機ケイ素化合物(A)の末端にビニルが存在する形態の場合、架橋性基としてヒドロシリル基を含む化合物が、ヒドロシリル化反応により有機ケイ素化合物(A)と架橋することができる。有機ケイ素化合物(A)の末端にヒドロシリルが存在する形態の場合、架橋性基としてビニルを含む化合物が、ヒドロシリル化反応により有機ケイ素化合物(A)と架橋することができる。有機ケイ素化合物(B)のうち、ヒドロシリル基を有する化合物としては、後述する有機ケイ素化合物(B1)、(B2)、(B3)、(B4)等が挙げられる。有機ケイ素化合物(B)のうち、ビニルを有する有機ケイ素化合物としては、後述する有機ケイ素化合物(B1)、(B2)等が挙げられる。
【0057】
当該熱硬化性樹脂組成物においては、有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)の少なくとも一種とがヒドロシリル化触媒(C)の下で架橋反応し、硬化物が得られることとなる。なお、有機ケイ素化合物(B)同士で架橋反応が生じてもよい。以下、有機ケイ素化合物(A)として好適な有機ケイ素化合物(B1)~(B4)について説明する。すなわち、有機ケイ素化合物(B)は、有機ケイ素化合物(B1)~(B4)のうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0058】
<有機ケイ素化合物(B1)>
有機ケイ素化合物(B1)は、ヒドロシリル、ビニル、およびシルセスキオキサン構造を有する有機ケイ素化合物である。有機ケイ素化合物(B1)は、シルセスキオキサン構造を有するため、得られる成形体の耐熱性をより高めることができる。有機ケイ素化合物(B1)としては、式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0059】
【0060】
式(3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。Xは独立して、式(X1)、式(X2)、または式(X3)で表される基である。式(3)で表される化合物1分子あたりの式(X1)で表される基の平均数をx、式(X2)で表される基の平均数をx、式(X3)で表される基の平均数をxとしたとき、x+2x+x=4r、0<x<4r、0≦x<2r、かつ0<x<4rを満たす。rは、1~100を満たす平均値である。
【0061】
としては、アルキルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0062】
は、rを超えることが好ましく、2rを超えることがより好ましい。また、xは、3r未満が好ましい。上記xは、r以下であることが好ましい。上記xは、rを超えることが好ましい。また、上記xは、3r未満が好ましく、2r未満がより好ましい。x>xを満たすことも好ましい。一形態として、xは0であってよい。このとき、rは1となる。
【0063】
式(X1)、式(X2)、および式(X3)中、*は、結合部位を示す。
【0064】

式(X2)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。sは、2~20を満たす平均値である。
【0065】
式(X3)中、Rは独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。Rは、炭素数2~5のアルケニルである。Rは、Rと同じ炭素数のアルカンジイルである。tは、2~20を満たす平均値である。
【0066】
としては、アルキルが好ましく、メチルがより好ましい。RおよびRの炭素数としては、2が好ましい。tの上限としては、10が好ましく、5がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0067】
式(3)で表される化合物は、例えば国際公開第2011/145638号に記載の方法にて合成することができる。
【0068】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物(B1)の含有量の下限としては、0.01質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい場合もある。有機ケイ素化合物(B1)の含有量を0.01質量%以上90質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性およびガスバリア性がより向上する。
【0069】
<有機ケイ素化合物(B2)>
有機ケイ素化合物(B2)は、式(4)で表される化合物である。
【0070】

式(4)中のyは0≦y≦50を満たす平均値であり、Rはビニルまたは水素である。
【0071】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物(B2)の含有量の下限としては、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。有機ケイ素化合物(B2)の含有量を0.5質量%以上20質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性およびガスバリア性がより向上する。
【0072】
<有機ケイ素化合物(B3)>
有機ケイ素化合物(B3)は、3つ以上のSiH基を有する化合物である。
【0073】
3つ以上のSiH基を有する化合物の例としては、式(5-1)~式(5-4)で表す化合物などが挙げられる。
【0074】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物の含有量(B3)の下限としては、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、3質量%または5質量%がさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%または20質量%がさらに好ましい場合もある。有機ケイ素化合物(B3)の含有量を0.5質量%以上40質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性及びガスバリア性がより向上する。
【0075】
<有機ケイ素化合物(B4)>
有機ケイ素化合物(B4)は、式(6-1)、式(6-2)、または式(6-3)で表される化合物である。
【0076】



式(6-1)、式(6-2)、および式(6-3)中、nは化合物の平均値として1≦n≦10を満たす
【0077】
式(6-1)、式(6-2)、および式(6-3)中のnは有機ケイ素化合物(B4)におけるジメチルシロキサン単位の長さの平均値であり、1以上10以下が好ましく、2以上6以下がさらに好ましい。
【0078】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物(B4)の含有量の下限としては、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、3質量%または5質量%がさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%または20質量%がさらに好ましい場合もある。有機ケイ素化合物(B4)の含有量を0.5質量%以上40質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性およびガスバリア性がより向上する。
【0079】
当該熱硬化性樹脂組成物における全有機ケイ素化合物に占める有機ケイ素化合物(B)の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましく、60質量%または75質量%がよりさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、90質量%が好ましく、70質量%または65質量%がより好ましい場合もある。有機ケイ素化合物(B)の含有量を10質量%以上90質量%以下とすることで、他の成分との混合比率が好適化されることなどにより、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる成形体の光透過性及びガスバリア性がより向上する。
【0080】
また、当該熱硬化性樹脂組成物における各成分の含有量に関し、全成分中の全てのヒドロシリルのモル数に対する全成分中の全てのビニルのモル数の比(ビニル/ヒドロシリル)の下限としては、0.6が好ましく、0.7がより好ましく、0.8がさらに好ましく、0.9がよりさらに好ましい。さらに、この比は1超がより好ましい場合もある。一方、この比の上限としては、1.6が好ましく、1.4がより好ましい。ヒドロシリル基とビニル基とのモル比が上記範囲内である場合、より効果的に架橋反応が進行し、耐熱性等をより高めることができる。
【0081】
<成分(C):ヒドロシリル化触媒(C)>
ヒドロシリル化触媒(C)としては、有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)等とのヒドロシリル化反応を生じさせる触媒であれば特に限定されるものではない。このような触媒としては、塩化白金酸、カルステッド触媒等の白金触媒を挙げることができる。
【0082】
当該熱硬化性樹脂組成物におけるヒドロシリル化触媒(C)の含有量の下限としては、例えば0.1ppmであり、0.5ppmが好ましい。ヒドロシリル化触媒(C)の含有量を0.1ppm以上とすることで、十分な反応を生じさせることができる。一方、この含有量の上限としては、例えば1,000ppmであり、100ppmが好ましく、10ppmまたは3ppmがより好ましい。触媒(C)の含有量を1,000ppm以下とすることで、得られる成形体の耐クラック性や光透過性等をより良好にすることができる。
【0083】
<(D)成分:密着性付与剤(D)>
当該熱硬化性樹脂組成物は、密着性付与剤(D)をさらに含有することが好ましい。密着性付与剤(D)としては、ヒドロシリルおよびエポキシを有する有機ケイ素化合物が好ましく、さらにアルコキシシリルを有するものであることがより好ましい。このような化合物は、当該熱硬化性樹脂組成物中の他の成分と架橋反応しつつ、当該熱硬化性樹脂組成物が積層される基材等の成分と結合反応することができ、得られる成形体の密着性を高めることができる。さらに、密着性付与剤(D)は、耐熱性などの点から、シルセスキオキサン構造を有するものであることがより好ましい。このような好適な密着性付与剤(D)としては、式(7)で表される化合物を挙げることができる。
【0084】
【0085】
式(7)中、R18は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。Zは独立して、式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、または式(Z41)で表される基である。式(7)で表される化合物1分子あたりの式(Z1)で表される基の平均数をz、式(Z2)で表される基の平均数をz、式(Z31)、式(Z32)、または式(Z33)で表される基の平均数をz、式(Z41)で表される基の平均数をzとしたとき、z+2z+z+z=4w、0.5w≦z≦3w、0.5w≦2z≦2w、0.1w≦z≦2w、かつ0≦z≦wを満たす。wは、1~100を満たす平均値である。
【0086】
18としては、アルキルが好ましく、メチルがより好ましい。z、z、z、およびzは、それぞれ、w≦z≦2w、0.3w≦z≦w、0.3w≦z≦w、かつ0.3w≦z≦wであることが好ましい。wの下限は、3であってよく、5であってもよい。また、wの上限は、30であってよく、15であってもよい。
【0087】
【0088】
式(Z1)、式(Z2)、式(Z31)、式(Z32)、式(Z33)、および式(Z41)中、*は、結合部位を示す。
【0089】
式(Z2)中、R19は独立して、炭素数1~4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニルである。iは、1~20を満たす平均値である。R19としては、アルキルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0090】
式(Z41)中、R20は独立して、メチル、エチル、ブチル、またはイソプロピルである。R20としては、メチルが好ましい。
【0091】
当該熱硬化性樹脂組成物における密着性付与剤(D)の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。密着性付与剤(D)の含有量を0.1質量%以上とすることで、十分な密着性を付与することができる。一方、この含有量の上限としては、10質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。密着性付与剤(D)の含有量を10質量%以下とすることで、他の成分との混合比率や得られる成形体の架橋密度が好適化されることなどにより、硬化して得られる成形体の高温環境下での耐クラック性がより向上する。また、密着性付与剤(D)は有機ケイ素化合物であってもよい。
【0092】
<(E)成分:蛍光体(E)>
<(F)成分:白色顔料(F)>
当該熱硬化性樹脂組成物は、蛍光体(E)または白色顔料(F)をさらに含むことが好ましい。蛍光体(E)または白色顔料(F)は、通常、当該熱硬化性樹脂組成物中に分散含有される。当該熱硬化性樹脂組成物が蛍光体(E)または白色顔料(F)をさらに含む場合、当該熱硬化性樹脂組成物は、光半導体素子の封止材等としてより好適に用いることができる。
【0093】
蛍光体(E)としては、YAG系蛍光体、TAG系蛍光体、シリケート系蛍光体等の無機蛍光体や、アリルスルホアミド・メラミンホルムアルデヒド共縮合染色物、ペリレン系蛍光体等の有機蛍光体を挙げることができる。
【0094】
白色顔料(F)としては、酸化チタン、アルミナ、チタン酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、無機中空粒子等を挙げることができる。
【0095】
<その他の成分>
当該熱硬化性樹脂組成物は、上述した(A)~(E)成分以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、充填剤、難燃剤、イオン吸着体、酸化防止剤、硬化遅延剤、硬化禁止剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0096】
(A)~(F)成分以外の他の成分の含有量は、用途等に応じて適宜設定することができる。一方、これらの他の成分は、少ない方が好ましい場合もある。当該熱硬化性樹脂組成物における(A)~(F)成分以外の他の成分の含有量の上限は、10質量%、1質量%、0.1質量%または0.01質量%が好ましい場合もある。一方、(A)~(F)成分以外の他の成分の含有量の下限は、例えば0.01質量%、0.1質量%または1質量%であってよい。
【0097】
当該熱硬化性樹脂組成物は、溶媒やその他の揮発性成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。但し、有機ケイ素化合物(A)は、通常、液状であるため、溶媒を用いなくても良好な流動性を示すことができる。また、実質的に溶媒等の揮発性成分を含まない組成とすることで、光半導体素子の封止材等としてより好適に用いることができる。当該熱硬化性樹脂組成物における溶媒又は揮発性成分の含有量の上限としては、1質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.01質量%がより好ましい。
【0098】
<調製方法>
当該熱硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されるものでは無い。当該熱硬化性樹脂組成物の調製方法は、例えばホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、三本ロール、ビーズミル等の混合機を用いて、常温または40℃から200℃などの加温下で、各成分を混合する方法が挙げられる。
【0099】
<用途>
当該熱硬化性樹脂組成物は、光半導体素子の封止材、その他の半導体素子の封止材、絶縁膜、シール材、光学レンズ等の形成材料、その他接着剤等として好適に用いることができる。中でも、硬化して得られる成形体が、光透過性及びガスバリア性に優れるため、光半導体素子の封止材として特に好適に用いることができる。
【0100】
<成形体>
本発明の一実施形態に係る成形体は、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる成形体である。すなわち、当該成形体は、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物である。本発明の一実施形態は、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物も含まれる。当該成形体としては、光半導体素子等の半導体素子の封止材、絶縁膜、シール材、光学レンズ等が挙げられ、これらの中でも光半導体素子の封止材であることが好ましい。
【0101】
当該成形体は、上述した熱硬化性樹脂組成物を加熱により硬化させることにより得られる。このときの加熱温度としては、例えば60~200℃であり、80~160℃が好ましい。また、加熱時間は、例えば1~24時間とすることができる。
【0102】
<光半導体装置>
本発明の一実施形態に係る光半導体装置は、光半導体素子、及び上記光半導体素子を封止する当該成形体を備える。
【0103】
上記光半導体素子としては特に限定されず、例えば、上記光半導体素子がLEDである場合、例えば基板上に半導体材料を積層して形成したものが挙げられる。この場合、半導体材料としては、例えばGaAs、GaP、GaAlAs、GaAsP、AlGaInP、GaN、InN、AlN、InGaAlN、SiC等が挙げられる。
【0104】
当該光半導体装置は、光半導体素子を本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を用いて封止することにより得られる。この封止方法は、例えば(1)モールド型枠中に当該熱硬化性樹脂組成物を予め注入し、そこに光半導体素子が固定されたリードフレーム等を浸漬した後、熱硬化させる方法、(2)光半導体素子を挿入した型枠中に当該熱硬化性樹脂組成物を注入し、熱硬化させる方法等が挙げられる。当該熱硬化性樹脂組成物を注入する方法としては、例えばディスペンサーによる注入、トランスファー成形及び射出成形が挙げられる。更に、その他の封止方法としては、例えば当該熱硬化性樹脂組成物を光半導体素子上へ滴下、印刷又は塗布等し、その後、熱硬化させる方法なども挙げられる。
【0105】
当該光半導体装置は、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物が封止材として用いられているため、その封止材が透明性に優れ、硫化ガスまたは水蒸気ガスに暴露されても素子不良を発生しない、かつ冷熱の激しい環境下でもクラックを発生しない信頼性に優れた光半導体装置となる。(また誘電特性に優れた絶縁膜を備えた光半導体装置となる。)当該光半導体装置は、各種照明装置、電光掲示板、信号機、液晶表示装置のバックライト、LEDディスプレイ等に用いることができる。
【実施例0106】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、化学式中「Me」はメチルを表し、「Vi」はビニルを表し、「Ph」はフェニルを表す。以下、合成した有機ケイ素化合物の分析方法を示す。
【0107】
<数平均分子量及び重量平均分子量>
日本分光(株)製の高速液体クロマトグラフシステムCO-1565plusを使用し、試料濃度1質量%のTHF溶液20μLを分析サンプルとして、以下の条件でのGPC法により測定した。ポリスチレン換算することにより、数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
カラム:Shodex KF402HQ、Shodex KF402.5HQ[昭和電工(株)製]
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶離液:THF
溶離液流速:0.3mL毎分
【0108】
<NMR(核磁気共鳴スペクトル)>
日本電子(株)製の400MHZのNMR測定装置を使用し、H-NMR及び13C-NMRについては測定サンプルを重クロロホルム(ACROS ORGANICS社製)に溶解して測定し、29Si-NMRについては測定サンプルをテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解して測定した。また、H-NMRまたは29Si-NMRの積分比より、合成した有機ケイ素化合物におけるフェニル基の核水素化率を計算した。また、H-NMR又は29Si-NMRの積分比より、合成した有機ケイ素化合物誘導体において導入された平均ポリシロキサン鎖長(式(2-3)におけるn)等を決定した。
【0109】
<UV-Vis吸収スペクトル>
日本分光(株)製のUV-Vis吸収スペクトル測定装置V-660を使用し、試料濃度1ミリモル%のTHF溶液を調製し、光路長10ミリメートルの石英セルに入れて測定した。フェニル由来の光吸収ピークの吸光度の比較により、合成した有機ケイ素化合物におけるフェニル基の核水素化率を計算した。
【0110】
<粘度>
東機産業(株)製のTV-22形粘度計コーンプレートタイプを使用し、恒温槽温度25℃にて、粘度を測定した。
【0111】
<MALDI-TOFMS>
Bruker Daltonics社製のMALDI-TOFMS測定装置autoflexIIIを使用し、Refractor Positive mode(測定範囲:m/z=400~2000)で測定した。測定用サンプルは、マトリックスとしてDIT、イオン化剤としてLiTFAを使用し、マトリックス/イオン化剤/対象試料=100/10/1のモル比で調製した。
【0112】
[合成例1]
<有機ケイ素化合物(8-1)の合成>
特許第4379120号公報記載の方法にて、式(8-1)で表される有機ケイ素化合物を合成した。
【0113】
【0114】
[合成例2]
<有機ケイ素化合物(B4-1)の合成>
温度計及び還流管を取り付けた反応容器にヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)18.0g、トルエン36.1gを仕込み攪拌しながら10℃以下まで冷却した。そこにジメチルクロロシラン(DMCS)6.4g、N,N-ジメチルホルムアミド(DEA)gを加え5時間熟成した。その後有機ケイ素化合物(8-1)20.0g、トルエン40.0gを投入し、トリエチルアミン(TEA)6.0gを滴下して一晩熟成した。続いてDMCS2.8gを投入し更に5時間熟成した後、反応液を酢酸水、重曹水、純水で洗浄し、エバポレーターで低沸成分を除去して白色粘性液体を得た。得られた液体は、分析結果から有機ケイ素化合物(B4-1)と判断される。
【0115】
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重アセトン):δ(ppm): 7.66-7.22 (40H), 4.76-4.67(2H), 0.38-0.34 (6H), 0.20-0.00 (42H).
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-3.9(s、0.4Si)、 -6.5(s、1.5Si)、 -19.5~-20.8(s、4.5Si)、 -62.9(s、0.3Si)、 -64.6(s、1.5Si)、 -78.5~-79.0(m、8.0Si).
粘度=3150mPa・s
数平均分子量:Mn=1435
重量平均分子量:Mw=1525
n=3.5
【0116】
【0117】
[合成例3]
<有機ケイ素化合物(8-2)の合成>
特許第4379120号公報記載の方法にて、式(8-2)で表される有機ケイ素化合物を合成した。
【0118】
【0119】
[合成例4]
<有機ケイ素化合物(B4-2)>
温度計及び還流管を取り付けた反応容器にヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)26.9g、トルエン53.9gを仕込み攪拌しながら10℃以下まで冷却した。そこにジメチルクロロシラン(DMCS)9.5g、N,N-ジエチルホルムアミド(DEA)8.1gを加え5時間熟成した。その後有機ケイ素化合物(8-2)15.0g、トルエン60.0gを投入し、トリエチルアミン(TEA)10.6gを滴下して一晩熟成した。続いてDMCS2.2gを投入し更に2時間熟成した後、反応液を酢酸水、重曹水、純水で洗浄し、エバポレーターで低沸成分を除去して白色粘性液体を得た。得られた液体は、分析結果から有機ケイ素化合物(B4-2)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重アセトン):δ(ppm):7.67-7.05 (40H), 4.88-4.66 (4H), 0.15- -0.01 (74H).
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-3.0(s、1.1Si)、-7.0(s、1.9)、-19.7~-20.9(m、5.6Si)、-78.7~-79.3(m、6.2Si)、 -106.2~-109.5(m、1.8Si).
粘度=663mPa・s
数平均分子量:Mn=1670
重量平均分子量:Mw=1951
n=3.1
【0120】

【0121】
[合成例5]
<有機ケイ素化合物(8-3)の合成>
特許第5704168号公報記載の方法にて、式(8-3)で表される有機ケイ素化合物を合成した。
【0122】
[合成例6]<有機ケイ素化合物(B4-3)の合成>
特開2012-031354記載の方法にて、式(B4-3)で表される有機ケイ素化合物を合成した。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重アセトン):δ(ppm):8.02-7.17 (40H), 4.90-4.65 (4H), 4.6- -0.19 (74H).
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-3.9(s、0.8Si)、 -7.0(s、3.5Si)、 -19.3~ -21.9(m、9.5Si)、 -75.3~-80.0(m、8.0Si).
粘度=1960mPa・s
数平均分子量:Mn=1592
重量平均分子量:Mw=1735
n=3.1
【0123】
【0124】
[比較合成例1]
特許第4379120号記載の方法で、シクロヘキシルトリメトキシシラン、水酸化ナトリウム、および2-プロパノールを原料として、式(9-1)で表される有機ケイ素化合物の合成を試みた。得られた化合物のNMR、MALDI-TOFMSなどの分析結果から、得られた化合物の主成分は式(9-2)で表される有機ケイ素化合物と判断される。


【0125】
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重THF):δ(ppm):0.49~0.68(m,8.0H)、0.97~0.1.24(m,40.9H)、1.45~1.87(m,41.4H)、5.55(s,1.4H)、5.82(s,1.5H)、6.42(s,0.7H)
29Si-NMR(溶剤:重THF):δ(ppm):-61.9(s、2.3Si)、-61.8(s、2.3Si)、―61.6(s、2.2Si)、―61.5(s、0.3Si)、―51.5(s、1.0Si)
MALDI-TOFMS:m/z=997.4 ([(9-2)+Li]
【0126】
その他、以下の有機ケイ素化合物の合成の際に使用した試薬等を以下に示す。
【0127】
<核水素化触媒>
・Ru/C, Bタイプ(Ru5%)(含水)(エヌ・イー ケムキャット社製)
【0128】
<式(2-1)で表される化合物>
・オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)
(式(2-1)におけるnが4である化合物)
【0129】
<式(2-2)で表される化合物>
・1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン(DVDS:信越化学(株)製)
(式(2-2)におけるmが0である化合物)
【0130】
<酸触媒>
・トリフルオロメタンスルホン酸(東京化成工業(株)製)
【0131】
[実施例1]
<有機ケイ素化合物(A1―1)の合成>
温度計と圧力計を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(8-1)37.8g、ジエチレングリコールジメチルエーテル143.0g、Ru/C3.8gを仕込んだ。反応容器内を水素置換した後、120℃、3.0MPaGまで昇温・昇圧して水素吸収が止まるまで5時間熟成した。続いて冷却、反応容器内を窒素置換した後、Ru/Cを濾別した。その後エバポレーターで溶媒を留去し、得られた固体をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して白色固体30.5gを得た。得られた固体は、下記の分析結果から有機ケイ素化合物(A1―1)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):0.16(s,6.0H)、0.60~0.79(m,7.5H)、1.11~1.38(m,48.8H)、1.61~1.89(m,38.4H)、2.33(s,1.7H)
13C-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-4.2(s)、22.5~24.5(m)、26.5~28.0(m)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-70.5~-69.8(m、3.3Si)、-68.7~-68.1(m、3.5Si)、-56.2~-55.6(m、2.0Si)
核水素化率:>99%
数平均分子量:Mn=874
重量平均分子量:Mw=884
【0132】
【0133】
[実施例2]
<有機ケイ素化合物(A1―2)の合成>
温度計と圧力計を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(8-1)15.3g、ジエチレングリコールジメチルエーテル57.4g、Ru/C1.5gを仕込んだ。反応容器内を水素置換した後、120℃、2.0MPaGまで昇温・昇圧して4時間熟成した。続いて冷却、反応容器内を窒素置換した後、Ru/Cを濾別した。その後エバポレーターで溶媒を留去し、得られた固体をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して白色固体12.3gを得た。得られた固体は、分析結果から有機ケイ素化合物(A1―2)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):0.14~0.41(m,6.0H)、0.48~0.86(m,4.6H)、0.86~1.47(m,23.1H)、1.47~1.92(m,24.8H)、2.19~2.84(m,1.3H)、6.06~6.44(m,0.3H)、6.98~7.80(m,15.5H)
13C-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-3.89(s)、23.1~24.5(m)、25.9~28.0(m)、127.3~128.3(m)、129.8~130.8(m)、133.7~134.5(m)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-80.8~-77.0(m、3.0Si)、-71.3~-65.8(m、4.3Si)、-56.8~-54.4(m、2.0Si)
核水素化率:74%
数平均分子量:Mn=884
重量平均分子量:Mw=896
【0134】
【0135】
[実施例3]
<有機ケイ素化合物(A1―3)の合成>
温度計と圧力計を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(8-1)37.8g、ジエチレングリコールジメチルエーテル143.1g、Ru/C3.8gを仕込んだ。反応容器内を水素置換した後、120℃、2.5MPaGまで昇温・昇圧して2時間熟成した。続いて冷却、反応容器内を窒素置換した後、Ru/Cを濾別した。その後エバポレーターで溶媒を留去し、得られた固体をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して白色固体24.0gを得た。得られた固体は、分析結果から有機ケイ素化合物(A1―3)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):0.15~0.39(m,6.0H)、0.51~0.87(m,2.7H)、0.87~1.46(m,13.6H)、1.46~2.15(m,16.9H)、2.32~2.74(m,1.7H)、7.00~7.78(m,15.5H)
13C-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-3.79(s)、23.1~24.5(m)、25.7~28.0(m)、127.4~128.1(m)、130.0~130.8(m)、133.7~134.4(m)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-79.3~-75.1(m、4.8Si)、-69.5~-64.9(m、3.0Si)、-55.4~-52.8(m、2.0Si)
核水素化率:34%
数平均分子量:Mn=885
重量平均分子量:Mw=899
【0136】
【0137】
[実施例4]
<有機ケイ素化合物(A1―4)の合成>
温度計と圧力計を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(B4-1)9.8g、ジエチレングリコールジメチルエーテル77.5g、Ru/C2.0gを仕込んだ。反応容器内を水素置換した後、150℃、5.0MPaGまで昇温・昇圧して水素吸収が止まるまで7.5時間熟成した。続いて冷却、反応容器内を窒素置換した後、Ru/Cを濾別した。その後エバポレーターで溶媒を留去し、得られた固体をヘプタンで洗浄した後、減圧乾燥して白色固体8.2gを得た。得られた固体は、分析結果から有機ケイ素化合物(A1―4)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-0.15~0.28(m,35.9H)、0.54~0.77(m,8.0H)、0.98~1.37(m,47.3H)、1.61~1.90(m,40.0H)、6.92~7.08(m,0.4H)、7.18~7.31(m)、7.32~7.49(m,0.5H)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-78.4(s、0.2Si)、-70.1(s、4.2Si)、-68.5(s、4.2Si)、-65.0(s、2.0Si)、-56.1(s、0.2Si)、-46.8(s、0.3Si)、-21.3~-18.9(m、5.6Si)、-14.0~-11.9(m、1.7Si)
核水素化率:>99%
【0138】
【0139】
[実施例5]
<有機ケイ素化合物(A3―1)の合成>
温度計と圧力計を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(B4-3)20.0g、ジエチレングリコールジメチルエーテル77.8g、Ru/C5.6gを仕込んだ。反応容器内を水素置換した後、150℃、5.0MPaGまで昇温・昇圧して10時間熟成した。続いて冷却、反応容器内を窒素置換した後、Ru/Cを濾別した。ろ液にシクロペンチルメチルエーテル(CPME)を加え塩酸、純水で洗浄した後、エバポレーターで溶媒を留去した後、減圧乾燥して褐色固体11.0gを得た。得られた固体は、分析結果から有機ケイ素化合物(A3―1)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-0.33~0.40(m,119H)、0.64~0.90(m,8.0H)、0.9~1.99(m)、4.92~5.30(m,3.6H)、6.82~7.90(m,18.9H)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-91~-88(m、1.6Si)、-82~-74(m、5.0Si)、-73~-62(m、14.5Si)、-46.7(s、0.2Si)、-25~-17(m、24.2Si)、-15~-12(m、4.0Si)
核水素化率:68%
【0140】
【0141】
[実施例6]
<有機ケイ素化合物誘導体(A4―1)の合成>
温度計と還流管を取り付けた反応容器に有機ケイ素化合物(A1―1)25.1g、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)25.4g、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン(DVDS)6.4g、トルエンを57.5g、トリフルオロメタンスルホン酸0.4gを仕込み、設定温度120℃で5時間熟成した。冷却後反応液を重曹水、純水で洗浄し、有機層からエバポレーターで低沸成分を留去して無色粘性液体29.6gを得た。得られた液体は、分析結果から有機ケイ素化合物誘導体(A4―1)と判断される。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-0.16~0.30(m,165.1H)、0.57~0.80(m、14.2H)、0.97~1.39(m、72.3H)、1.62~1.95(m、71.3H)、5.68~6.19(m,6.0H)
13C-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-2.9(s)、0.32(s)、0.7~1.6(m)、24.3(d)、26.9(d)、27.7(d)、131.7(s)、139.4(s)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):-69.3(s、4.4Si)、-67.8(s、4.3Si)、-64.3(s、2.0Si)、-21.0~-17.5(m、16.7Si)、-1.9(s、1.2Si)
粘度=14.5Pa・s
数平均分子量:Mn=3780
重量平均分子量:Mw=6460
n=12.0
m=2.5
【0142】
【0143】
[比較合成例2]
<有機ケイ素化合物誘導体(a-2)の合成>
特開2020-090593号記載の方法にて、式(a-2)で表される有機ケイ素化合物誘導体を合成した。
(分析結果)
H-NMR(溶剤:重クロロホルム):δ(ppm):-0.15~0.42(m,187.0H)、5.60~6.19(m,6.0H)、6.95~7.72(m,89.9H)
29Si-NMR(溶剤:THF):δ(ppm):―78.1~―76.9(m、9.0Si)、-63.4(s、2.0Si)、-21.3~-17.5(m、13.2Si)、-2.4(s、1.3Si)
粘度=11.6Pa・s
数平均分子量:Mn=3960
重量平均分子量:Mw=6760
n=9.5
m=3.2
【0144】
【0145】
以下の熱硬化性樹脂組成物の調製に用いた、合成した上記有機ケイ素化合物((A)有機ケイ素化合物)以外の成分を以下に示す。
【0146】
<(B)有機ケイ素化合物>
【0147】
・B2-1:式(B2-1)で表される有機ケイ素化合物(製品名「FM-1111」:JNC(株)製)

(式(4)におけるRが水素、yが10であるジメチルシロキサンポリマー)
【0148】
・B2-3:式(B2-3)で表される化合物(製品名「FM-2205」:JNC(株)製)

(式(4)におけるRがビニル、yが7であるジメチルシロキサンポリマー)
【0149】
・B3-1:テトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン(東京化成工業(株)製)
<ヒドロキシ化触媒(C)>
・C-1:カルステッド触媒(製品名「Pt-VTS-3.0X」:3wt%キシレン溶液、ユミコア社製)
【0150】
<その他の成分>
・硬化遅延剤:1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(MVS-H:GELEST社製)
・硬化禁止剤:1-エチニルシクロヘキサノール(ECYH-OH:東京化成(株)製)
【0151】
[実施例7~8、比較例1~2]
<組成物及び硬化物の特性評価>
表に示す配合で樹脂組成物を調製し、硬化物は下記の方法で組成物を150℃で2時間加熱して得た。
4mm厚硬化物:ガラス2枚に4mm径のナフロンSPパッキン(ニチアス(株)製)をスペーサーとして挟み、この中に樹脂組成物を流し込んだ。次いで加熱硬化させ、ガラスをはがして4mm厚の表面が平滑な硬化物を得た。
1mm厚硬化物:ガラス2枚に1mm厚のSUS板をスペーサーとして挟み、この中に樹脂組成物を流し込んだ。次いで加熱硬化させ、ガラスをはがして1mm厚の表面が平滑な硬化物を得た。
得られた組成物及び硬化物の特性評価を以下の方法で行なった。
【0152】
<粘度>
E型回転粘度計(TV-25:東機産業(株)製)にて、組成液の粘度(25℃)を測定した。
【0153】
<光透過率>
4mm厚硬化物を紫外可視分光光度計(V-650:日本分光(株)製)にて波長400nmにおける光の透過率を測定した。
【0154】
<硬度>
4mm厚硬化物を自動硬度計(GX-610II:(株)テクロック製)を用いてJIS K6301に準拠して測定した(タイプA)。
【0155】
<光屈折率>
30mm×10mm×4mm厚の板状試験片を作製し、アッベ屈折計(NAR-2T:(株)アタゴ製)によりナトリウムランプのD線を用いて、上記試験片の一か所の光屈折率を測定した。中間液は1-ブロモナフタレン(和光純薬工業(株)製)を用いた。
【0156】
<DMA>
30mm×10mm×1.0mm厚の板状試験片を作製し、動的粘弾性測定装置(DMS6100:日立ハイテクサイエンス(株)製)にて下記条件で測定して得られた貯蔵弾性率(
E´)と損失弾性率(E´´)の商で表される損失係数(tanδ=E´´/E´)の極大点の温度を求めた。
測定温度:-100℃~250℃(昇温速度:10℃/min)
測定周波数:10Hz
【0157】
<水蒸気透過率>
70mmΦ×1mm厚の試験片を作製し、JIS Z-0208(1976年)に準拠し、下記の装置および試験条件でカップ法に基づいて測定した。
装置:小型環境試験機(SH-242:エスペック(株)製)
試験条件:40℃、90%RH
【0158】
<密着性>
ガラス板にメチルシリコーン(OE-7340:ダウ・コーニング製)の硬化物(約0.1mm厚)を作製し、この硬化物の上に組成物(約0.1mm厚)を作製させて積層体を得た。この積層体をJIS K5600-5-6に準拠し、クロスカット法に基づいて下層との密着性を評価した。 切込間隔:2mm
カット数:10×10個
判定: ○:剥離面積≦30%
×:30%<剥離面積
【0159】
<誘電率>
9cm×7cmにカットしたクロム基板上に約30μm厚の硬化物を作製し、膜上に真空蒸着装置(VE-2030:(株)真空デバイス)でアルミニウムを蒸着させ電極を作成した。誘電率および誘電正接は、アジレントテクノロジー(株)製のLCRメータ(E4980A プレシジョン:Agilent製)を用いて測定した。
【0160】
<熱衝撃>
20mm長×3mm幅×1.0mm厚の板状試験片を作製し、熱機械的分析装置(TMA/SS7100:日立ハイテクサイエンス(株)製)にて、長さ制御モードで30℃からー80℃まで冷却(冷却速度:10℃/min)した際の応力を測定した。
【0161】
表1.樹脂組成物の組成および硬化物の特性評価結果1
【0162】
表1に示される通り、実施例bは波長400nmの光透過性が優れているのに対して、(A)成分を含有しない組成物である比較例bは波長400nmの光透過性に劣っていた。
【0163】
表2.樹脂組成物の組成および硬化物の特性評価結果2
【0164】
表2に示される通り、実施例cは水蒸気バリア性およびメチルシリコーン樹脂との密着性が優れているのに対して、成分(A)を含有しない組成物である比較例cは水蒸気バリア性およびメチルシリコーン樹脂との密着性に劣っていた。
【0165】
表3.樹脂組成物の組成および硬化物の特性評価結果3
【0166】
表3に示される通り、実施例dおよびeは低誘電性および急冷却時の熱応力が優れているのに対して、(A)成分を含有しない組成物である比較例dおよびeは低誘電性および急冷却時の熱応力に劣っていた。
【0167】
以上のことから、本発明の有機ケイ素化合物及びこれを含む熱硬化性樹脂組成物は、光透過性、ガスバリア性、低誘電性、および熱衝撃性に優れた硬化物を与えることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明の有機ケイ素化合物及びこれを含む熱硬化性樹脂組成物は、光半導体素子の封止材、その他の半導体素子の封止材、絶縁膜、シール材、光学レンズ等に用いることができる。