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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146360
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】金属粉末焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
B22F3/10 M
B22F3/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047274
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 英子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 到
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA03
4K018BA04
4K018CA29
4K018DA05
4K018DA13
4K018DA14
4K018DA22
4K018DA32
4K018DA39
(57)【要約】
【課題】有機成分の熱分解生成物を含む放出ガスに起因する焼結体の品質劣化を簡易な手段で抑制可能な金属粉末焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】脱脂体作製工程では、成形体を内包して周囲を覆う第1ハウジングを配置しかつ、成形体と第1ハウジングの間にチタン、ニオブ、または、チタンとニオブの混合物からなる第1金属材料を配置し、焼結体作製工程では、脱脂体の周囲を覆う第2ハウジングおよびこの第2ハウジングを内包して周囲を覆う第3ハウジングを配置し、かつ、第2ハウジングと第3ハウジングの間にチタン、ニオブ、または、チタンとニオブの混合物からなる第2金属材料を配置し、上記した第1ハウジング、第2ハウジングおよび第3ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金およびセラミックスのうちの1種類または複数種類で構成する、金属粉末焼結体の製造方法とする。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体から有機成分を第1加熱により除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程と、前記脱脂体を構成する金属粉末を第2加熱により焼結して焼結体を作製する焼結体作製工程と、を含み、
前記脱脂体作製工程では、前記成形体を内包して周囲を覆う第1ハウジングを配置するとともに、前記成形体と前記第1ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第1金属材料を配置し、
前記焼結体作製工程では、前記脱脂体の周囲を覆う第2ハウジングおよび前記第2ハウジングを内包して周囲を覆う第3ハウジングを配置するとともに、前記第2ハウジングと前記第3ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第2金属材料を配置し、
前記第1ハウジング、前記第2ハウジングおよび前記第3ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成する、金属粉末焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記脱脂体を構成する金属粉末を前記第2加熱よりも低温の第3加熱により焼結して仮焼体を作製する仮焼体作製工程を含み、
前記仮焼体作製工程では、前記脱脂体を内包して周囲を覆う第4ハウジングを配置するとともに、前記脱脂体と前記第4ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第3金属材料を配置し、
前記第4ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成し、
前記焼結体作製工程では、前記脱脂体に替えて、前記仮焼体を用いる、請求項1に記載の金属粉末焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末が、50質量%以上のTiと、B、C、Al、Si、V、Cr、Ni、Zr、NbおよびMoのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる、請求項1または2に記載の金属粉末焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記金属粉末が、50質量%以上のNiと、B、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、TaおよびWのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる、請求項1または2に記載の金属粉末焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末焼結体の製造方法に関し、詳しくは、金属粉末および有機成分を含む混合物から作製された成形体を用いる、金属粉末焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末焼結体の製造方法の一つとして、金属粉末射出成形法(MIM:Metal Injection Molding)が知られている。一般的なMIMは、金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体(グリーン体)を作製する成形工程と、成形体から有機成分を除去して脱脂体(ブラウン体)を作製する脱脂工程と、脱脂体を構成する金属粉末を強く焼結して焼結体を作製する焼結工程と、を含む。また、必要に応じて、脱脂体を構成する金属粉末を弱く焼結して仮焼体を作製する仮焼結工程を含み、脱脂体に替えて、仮焼体を構成する金属粉末をさらに強く焼結して焼結体を作製する焼結工程が採用される。
【0003】
一般的なMIMの加熱脱脂および焼結に関し、多くの提案がなれている。たとえば、特許文献1は、炉材に黒鉛を含む加熱炉(黒鉛炉)を用いて、Cr(クロム)、Mn(マンガン)またはSi(ケイ素)などの難還元性元素を含む金属粉末および有機成分を含む成形体を、加熱脱脂後にセラミックスからなるセッターに載置し、高真空下で焼結を行う方法を開示する。このセラミックスは、高真空下で蒸発しにくいアルミナ、窒化硼素または炭化ケイ素のいずれかを95質量%以上含む。
【0004】
たとえば、特許文献2は、金属粉末および有機成分を含む成形体を、セラミックスからなるセッターに載置し、高真空下で加熱脱脂し、高真空下で焼結を行う方法を開示する。このセラミックスは、金属粉末と反応しにくい酸化物系セラミックスからなり、加熱脱脂および焼結で発生するCOガスと反応しにくい、黒鉛、六方晶窒化硼素、窒化アルミウム、酸化ベリリウム、炭化珪素またはこれらの2以上の複合材からなる、ベース材に積層される。
【0005】
たとえば、特許文献3は、金属粉末および有機成分を含む成形体を脱脂用セッターに載置し、大気下で加熱脱脂し、脱脂体を焼結用セッターに載置し、Ar(アルゴン)を導入した真空下で焼結を行う方法を開示する。この脱脂用セッターは、アルミナを95質量%以上含み、気孔率が50%~60%のセラミックスからなる。焼結用セッターは、アルミナを99質量%以上含み、気孔率が10%以下のセラミックスからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-057617号公報
【特許文献2】特開平4-210405号公報
【特許文献3】特開平11-117005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したMIMの脱脂工程において、有機成分を加熱により除去する加熱脱脂を行う場合、有機成分が熱分解する温度の加熱を行う。たとえば、主たる有機成分がポリオレフィン系の場合は420℃以上、ポリスチレン系の場合は380℃以上の加熱を行う。この加熱によって、成形体に含まれる有機成分が熱分解され、C(炭素)やO(酸素)を含むガスとして炉内に放出される。ガス化した熱分解生成物(有機成分)の多くは、加熱によって圧力が上昇した炉内から炉外へ排出される。しかし、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が、脱脂体に付着して吸収されることや、炉内に堆積することがあった。
【0008】
上記したMIMにおいて、仮焼結工程を含む場合、焼結工程よりも低温であるが、金属粉末が焼結により緻密化し始める程度の高温の加熱を行う。この加熱によって、脱脂体に有機成分が残留していればCやOを含むガスが炉内に放出されるし、炉内の堆積物もガス化する。このとき、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が炉内から炉外へ排出されずに、仮焼体に付着して吸収されることや、再び炉内に堆積することがあった。
【0009】
上記したMIMの焼結工程では、金属粉末からなる焼結体が相応の密度(相対密度)となる高温で、加熱を行う。この高温の加熱によって、炉内の堆積物がガス化する。ガス化した熱分解生成物(有機成分)は、多くが炉外に排出される。しかし、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が、焼結体に付着して吸収されることや、炉内に堆積することがあった。焼結体に付着して吸収された熱分解生成物(有機成分)は金属成分と反応し、炭化物や酸化物を過分に含む焼結体が形成される。過分な炭化物や酸化物は、焼結体の品質劣化(たとえば、密度低下、特性低下など)の原因になる。
【0010】
こうしたガス化した有機成分(熱分解生成物)に起因する不具合は知られていたが、この放出ガスを適切に制御することができる簡易な手段は提案されていなかった。たとえば、特許文献1は、セッターからのセラミック成分の蒸発は考慮されているが、成形体や炉内の堆積物からの放出ガスの制御は考慮されていない。たとえば、特許文献2は、成形体からの放出ガス(COガス)とセッターおよびベース材との反応は考慮されているが、COガス成分が脱脂体や焼結体に吸収される問題や、炉内の堆積物からの放出ガスの制御は考慮されていない。たとえば、特許文献3は、脱脂および焼結におけるセッターの気孔率などを考慮しているが、成形体からの放出ガスに起因する問題は考慮されていない。
【0011】
この発明の目的は、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガス(熱分解生成物)に起因する焼結体の品質劣化を、簡易な手段で抑制することができる金属粉末焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガスの挙動を多様な視点で検討し、ガス流動を一方向化する簡易な手段によって上記課題が解決できることを見出し、この発明に想到することができた。
【0013】
この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体から有機成分を第1加熱により除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程と、前記脱脂体を構成する金属粉末を第2加熱により焼結して焼結体を作製する焼結体作製工程と、を含み、前記脱脂体作製工程では、前記成形体を内包して周囲を覆う第1ハウジングを配置するとともに、前記成形体と前記第1ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第1金属材料を配置し、前記焼結体作製工程では、前記脱脂体の周囲を覆う第2ハウジングおよび前記第2ハウジングを内包して周囲を覆う第3ハウジングを配置するとともに、前記第2ハウジングと前記第3ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第2金属材料を配置し、前記第1ハウジング、前記第2ハウジングおよび前記第3ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成する。
【0014】
この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、前記脱脂体を構成する金属粉末を前記第2加熱よりも低温の第3加熱により焼結して仮焼体を作製する仮焼体作製工程を含み、前記仮焼体作製工程では、前記脱脂体を内包して周囲を覆う第4ハウジングを配置するとともに、前記脱脂体と前記第4ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第3金属材料を配置し、前記第4ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成し、前記焼結体作製工程では、前記脱脂体に替えて、前記仮焼体を用いることができる。
【0015】
この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、前記金属粉末が、50質量%以上のTiと、B、C、Al、Si、V、Cr、Ni、Zr、NbおよびMoのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる場合に、特に好ましい効果を奏する。
【0016】
この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、前記金属粉末が、50質量%以上のNiと、B、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、TaおよびWのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる場合に、特に好ましい効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガス(熱分解生成物)に起因する焼結体の品質劣化を、簡易な手段で抑制することができる。そのため、この発明は、比較的低コストで、焼結体の品質の安定化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、脱脂体作製工程および仮焼体作製工程で適用可能なハウジングの構成例を示す図である。
図2】この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、脱脂体作製工程および仮焼体作製工程で適用可能なハウジングの構成例を示す図である。
図3】この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、焼結体作製工程で適用可能なハウジングの構成例を示す図である。
図4】この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、焼結体作製工程で適用可能なハウジングの構成例を示す図である。
図5】この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、焼結体作製工程で適用可能なハウジングの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。なお、この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、ここに例示する内容に限定するものではない。この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれると解することが相当である。
【0020】
この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含み、必要に応じて、下記(3)の工程の前に下記(4)の工程を行うことができる。
(1)金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製する成形体作製工程
(2)成形体から有機成分を第1加熱により除去して脱脂体を作製する脱脂体作製工程
(3)脱脂体を構成する金属粉末を第2加熱により焼結して焼結体を作製する焼結体作製工程
(4)脱脂体を構成する金属粉末を第2加熱よりも低温の第3加熱により焼結して仮焼体を作製する仮焼体作製工程
【0021】
以下、上記(1)、(2)、(4)および(3)の工程の順に説明するが、この発明は上記(4)の工程を行う構成に限定されない。また、上記(3)の工程で作製した焼結体は、その寸法精度や諸特性などの仕様に応じて、歪取りや矯正を行う工程、切削や研削や研磨などの機械加工を行う工程、HIP(Hot Isostatic Pressing)処理などの熱処理を行う工程、あるいは、洗浄やめっき処理などの表面処理を行う工程などを行ってもよい。
【0022】
<成形体作製工程>
この発明において、成形体作製工程では、金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製する。この場合、一般的なMIMでは、成形体の形状に対応するキャビティを備える金型を搭載した射出成形機を用いる。成形体は、適度な加熱により可塑化させた混合物を金型のキャビティ内に射出して冷却することによって、作製することができる。混合物は、金属粉末に対して適量の有機成分を混合し、十分に混錬し、適度な大きさに造粒することによって、作製することができる。一般的なMIMにおいて、金属粉末は、たとえば、積算体積分布曲線におけるメジアン径(d50)で、5μmから50μmのものを用いることができる。金属粉末は、50質量%以上含まれて合金の基となる主元素と、合計で50質量%未満含まれて合金を構成する添加元素と、不可避的不純物とからなり、用途や所望の諸特性に応じて選定することができる。一般的なMIMにおいて、有機成分は、C(炭素)を含む有機物であって、たとえば、熱可塑性を有する高分子化合物(熱可塑性樹脂)、油脂状の化合物(ワックス、ワックスエステル)などである。有機物は、加熱によって、COガス(一酸化炭素)またはCOガス(二酸化炭素)を生成する化合物を意図する。
【0023】
この発明において、金属粉末は、主元素がTi(チタン)、すなわち、50質量%以上のTiを含むTi基合金粉末であってよい。この発明において、金属粉末がTi基合金粉末の場合、添加元素はB(硼素)、C(炭素)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、およびSn(錫)のうちの1種類または複数種類であってよい。この発明は、金属粉末が、50質量%以上のTiと、炭化物や酸化物を生成しやすいB、C、Al、Si、V、Cr、Ni、Zr、NbおよびMoのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる場合に、特に好ましい効果を奏する。上記金属粉末は、炭化物や酸化物を生成しやすい上記元素のうちの1種類または複数種類を含む。そのため、この発明を適用すれば、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガス(熱分解生成物)に起因する焼結体の品質劣化を十分に抑制することができる。
【0024】
この発明において、金属粉末は、主元素がNi(ニッケル)、すなわち、50質量%以上のNiを含むNi基合金粉末であってよい。この発明において、金属粉末がNi基合金粉末の場合、添加元素はB(硼素)、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta(タンタル)およびW(タングステン)のうちの1種類または複数種類であってよい。この発明は、金属粉末が、50質量%以上のNiと、B、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、TaおよびWのうちの1種類または複数種類と、不可避的不純物とからなる場合に、特に好ましい効果を奏する。上記金属粉末は、炭化物や酸化物を生成しやすい上記元素のうちの1種類または複数種類を含む。そのため、この発明を適用すれば、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガス(熱分解生成物)に起因する焼結体の品質劣化を十分に抑制することができる。
【0025】
<脱脂体作製工程>
この発明では、成形体作製工程の後に、脱脂体作製工程を行う。この発明において、脱脂体作製工程では、成形体から有機成分を第1加熱により除去して脱脂体を作製する。成形体から有機成分を第1加熱により除去する処理を加熱脱脂という。第1加熱とは、炉内に配置した成形体に含まれる有機成分(有機物)が熱分解する温度以上で、成形体に含まれる金属粉末が焼結し始める温度よりも低温(たとえば、800℃以下)の加熱を意図する。主たる有機成分(有機物)が、たとえば、ポリオレフィン系の場合は420℃以上800℃以下、ポリスチレン系の場合は380℃以上800℃以下の範囲で加熱を行うことを意図する。この第1加熱によって、成形体に含まれる有機成分が熱分解され、炉内にC(炭素)やO(酸素)を含むガスが放出される。このとき、従来は、放出ガスの一部が炉内を流動し、ガス化した熱分解生成物(有機成分)が成形体(脱脂体)に付着して吸収されることや、炉壁に堆積することがあった。
【0026】
上記放出ガス対策として、この発明では、脱脂体作製工程において、成形体を内包して周囲を覆う第1ハウジングを配置するとともに、成形体と第1ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第1金属材料11、21を配置する。
【0027】
図1および図2に、この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、脱脂体作製工程で適用可能なハウジング(第1ハウジング)の構成例を示す。
【0028】
図1に示す成形体10は金属粉末および有機成分を含む混合物からなる。一般的なMIMでは、成形体は、たとえば、アルミナ系、ジルコニア系、イットリア系、炭化ケイ素などのセラミックスからなる治具(セッター)上に載置された状態で、炉内に配置される。これに対して、図1に示す成形体10は、第1ハウジング12の内部に配置された状態で、炉内に配置される。この発明では、第1ハウジングは、成形体を内包して成形体の周囲を覆うことが可能で、成形体を含む空間(内部空間)の雰囲気と成形体を含まない炉内(外部空間)の雰囲気とを区分する機能をもつ構造物を意図する。成形体を内包して周囲を覆うとは、成形体の側方および上方を覆う場合(蓋のある形態)を意図し、成形体の上方を覆わず成形体の側方のみを覆う場合(蓋のない形態)を含まない。
【0029】
図1に示す第1ハウジング12は、平板状のベースプレート12aと箱状のケース12bとにより構成される。箱状のケース12bは、平板部と環状の壁部とにより構成される。ベースプレート12aの上面には成形体10が載置される。ケース12bは、成形体10の側方および上方を覆うように、ベースプレート12aの上に配置される。ベースプレート12aの上面とケース12bの下端面とは互いに接して空間14と炉内とを区分しているが、後に成形体10から作製された脱脂体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ベースプレート12aとケース12bの間には隙間13が存在する。この構成により、第1ハウジング12内の空間14(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しつつ、隙間13によって第1ハウジング12内の空間14と炉内とを繋ぐことができる。
【0030】
なお、図1に示すような構成の場合、ケース12bをこの発明に係る第1ハウジングと解し、ベースプレート12aを成形体10に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ベースプレート12aの上に置いて使用することができる。また、ベースプレート12aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0031】
こうした第1ハウジング12を脱脂体作製工程で用いると、第1加熱によって成形体10から熱分解生成物(有機成分)を含むガスが放出されたときに、第1ハウジング12の内部(空間14)の圧力が上昇する。この第1加熱によって生じる圧力差を利用して、放出ガスを、相対的に圧力が低くなった第1ハウジング12の外部(炉内)へ流動させることができる。そのため、成形体10からの放出ガスの流動が第1ハウジング12の内部(空間14)から外部へと一方向化されて、放出ガスが再び第1ハウジング12の内部に流れ込んで成形体10の表面に触れることを抑制することができる。その結果、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が脱脂中の成形体10および脱脂体に付着して吸収されるのを抑制することができる。
【0032】
第1ハウジング12は、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成される。モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスは、ガス化した熱分解生成物(有機成分)と反応しにくく、第1ハウジング12を構成するのに適する。また、一般的に減圧下で行われるため熱伝達性が低下する第1加熱において、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスは、上記した従来の治具(セッター)を構成するセラミックスよりも熱伝導率が十分に高く、熱容量が十分に小さいため、第1ハウジング12の内部(空間14)の均熱化に有利である。第1ハウジング12の内部(空間14)が均熱化しやすい構成であると、内部に配置される成形体10の均熱化に有利である。第1ハウジング12は、好ましくは、タングステン、タングステン合金およびセラミックスと比べて、加工が容易でメンテナンスを行いやすい、モリブデンまたはモリブデン合金により構成される。また、第1ハウジング12の一部または全部をセラミックスで構成する場合、好ましくは気孔率が20%以下のセラミックスで構成し、セラミックスの内部をガス化した熱分解生成物(有機成分)が通過するのを十分に抑制する。
【0033】
図2に示す成形体20は金属粉末および有機成分を含む混合物からなる。成形体20は、第1ハウジング22の内部に配置された状態で、炉内に配置される。図2に示す第1ハウジング22は、平板状のベースプレート22aと、平板状のルーフプレート22bと、環状のサイドウォール22cとにより構成される。環状のサイドウォール22cは、平板材やパイプ材などで容易に作製することができる。ベースプレート22aの上面には成形体20が載置される。ルーフプレート22bは、成形体20の上方を覆うように、ベースプレート22aの上方に対向配置される。環状のサイドウォール22cは、成形体20の周囲を囲んで側方を覆うように、ベースプレート22aとルーフプレート22bとの間に配置される。ベースプレート22aの上面とサイドウォール22cの下端面とが互いに接するとともに、ルーフプレート22bの下面とサイドウォール22cの上端面とが互いに接し、空間25(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しているが、後に成形体20から作製された脱脂体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ベースプレート22aとサイドウォール22cの間には隙間23が存在し、ルーフプレート22bとサイドウォール22cの間には隙間24が存在する。この構成により、第1ハウジング22内の空間25(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しつつ、隙間23、24によって第1ハウジング22内の空間25と炉内とを繋ぐことができる。
【0034】
なお、図2に示すような構成の場合、ルーフプレート22bおよびとサイドウォール22cで構成される構造物をこの発明に係る第1ハウジングと解し、ベースプレート22aを成形体20に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ベースプレート22aの上に置いて使用することができる。また、ベースプレート22aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0035】
こうした第1ハウジング22を用いると、第1加熱によって成形体20から熱分解生成物(有機成分)を含むガスが放出されたときに、第1ハウジング22の内部(空間25)の圧力が上昇する。この第1加熱によって生じる圧力差を利用して、放出ガスを、相対的に圧力が低くなった第1ハウジング22の外部(炉内)へ流動させることができる。そのため、成形体20からの放出ガスの流動が第1ハウジング22の内部(空間25)から外部へと一方向化されて、放出ガスが再び第1ハウジング22の内部に流れ込んで成形体20の表面に触れることを抑制することができる。その結果、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が脱脂中の成形体20および脱脂体に付着して吸収されるのを抑制することができる。
【0036】
第1ハウジング22は、図1に示す第1ハウジング12と同じ理由で、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成される。なお、第1ハウジングは、加工およびメンテナンスの容易性の観点で、好ましくは、図2に示す平板状のルーフプレート22bと平板またはパイプで構成可能な環状のサイドウォール22cを用いて構成する。また、第1ハウジング22の一部または全部をセラミックスで構成する場合、好ましくは気孔率が20%以下のセラミックスで構成し、セラミックスの内部をガス化した熱分解生成物(有機成分)が通過するのを十分に抑制する。
【0037】
この発明では、脱脂体作製工程において、成形体と第1ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第1金属材料を配置する。図1に示す構成では、第1金属材料11は、第1ハウジング12のケース12bと成形体10との間であって、隙間13近傍のベースプレート12a、22aの上に配置する。図2に示す構成では、第1金属材料21は、第1ハウジング22のサイドウォール22cと成形体20との間であって、隙間23近傍のベースプレート22a、22aの上に配置し、好ましくは隙間24近傍にも配置する。図1および図2に示すように、第1金属材料11、21を隙間13、23、24近傍に配置すれば、成形体10、20からの放出ガスが第1ハウジング12、22の内部(空間14、25)から外部(炉内)へ流動する際に、第1金属材料11、21の表面に触れやすくなる。
【0038】
図1に示す第1ハウジング12の構成では下方の1か所に隙間13があり、図2に示す第1ハウジング22の構成では下方および上方の2か所に隙間23、24がある。下方の1か所に隙間13がある図1に示す第1ハウジング12の構成は、成形体10から放出されたガスの流路が下方の1か所に制限される。そのため、第1金属材料を隙間13の近傍に配置すればよい図1に示す第1ハウジング12の構成は、第1金属材料の総量の低減および第1金属材料によるガスの吸着の効率向上に有利である。
【0039】
上記した構成によって、成形体10、20から第1ハウジング12、22の内部(空間14、25)に放出されたガスの多くが第1金属材料11、21の表面に触れるようになる。ガス化した熱分解生成物(有機成分)が第1金属材料11、21の表面に触れると、その多くが第1金属材料11、21に吸着される。そのため、第1ハウジング12、22の内部(空間14、25)の放出ガスに含まれる熱分解生成物(有機成分)を減少させることができる。また、第1ハウジング12、22の内部(空間14、25)から外部(炉内)へ流動する放出ガスに含まれる熱分解生成物(有機成分)を減少させることができる。放出ガスに含まれる熱分解生成物(有機成分)の減少によって、脱脂中および脱脂後の成形体10、20(脱脂体10、20)への熱分解生成物(有機成分)の吸収を抑制することができるし、炉壁への熱分解生成物(有機成分)の堆積を抑制することができる。
【0040】
この発明では、第1金属材料は、チタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる。チタン材料は、C(炭素)およびO(酸素)と強い親和性があるため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)を効率よく吸着することができる。チタン材料は、たとえば、スポンジチタン、チタン粒子、チタン箔またはチタン箔片などを用いることができる。スポンジチタンは、比表面積が大きく吸着サイトが多いため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)を効率よく吸着することができる。スポンジチタンは入手しやすい。ニオブ材料は、炭化ニオブを容易に生成するため、特にC(炭素)の吸着に有利である。ニオブ材料は、たとえば、ニオブ粒子、ニオブ箔(ニオブ箔片)などを用いることができる。ニオブ箔(ニオブ箔片)は、入手しやすく、切断加工が容易である。Zr(ジルコニウム)などのCの吸着能を有する添加元素を含むニオブ箔(ニオブ箔片)も使用することができる。チタン材料とニオブ材料の混合物は、たとえば、スポンジチタンとニオブ箔を混在させた物であってよい。
【0041】
この発明では、たとえば、成形体に含まれる有機成分にワックス類を含む場合、好ましくは、脱脂体作製工程において、溶媒脱脂の後に、第1加熱を伴う加熱脱脂を行う。溶媒脱脂とは、ワックス類を可溶する溶媒中に成形体を浸漬し、成形体に含まれるワックス類を溶出させて除去し、脱脂体の前駆体を作製する処理を意図する。これにより、脱脂体作製工程において、成形体から溶媒脱脂により脱脂体の前駆体を作製し、前駆体から加熱脱脂により脱脂体を作製することができる。溶媒脱脂を経た成形体(脱脂体の前駆体)は、溶媒脱脂を経ない成形体と比べて、成形体(脱脂体の前駆体)に残存する有機成分が低減されている。そのため、加熱脱脂によって成形体(脱脂体の前駆体)に残る有機成分を円滑かつ十分に除去することができる。
【0042】
<仮焼体作製工程>
この発明では、上記した脱脂体作製工程(加熱脱脂)の後、後述する焼結体作製工程の前に、好ましくは、仮焼体作製工程を行う。この発明において、仮焼体作製工程では、脱脂体を構成する金属粉末を第2加熱よりも低温の第3加熱により焼結して仮焼体を作製する。第2加熱とは焼結体作製工程で行う加熱である。第3加熱とは、炉内に配置された脱脂体を構成する金属粉末が焼結し始める温度以上(たとえば、700℃以上)となる加熱で、かつ、焼結後の密度が90%未満となる加熱を意図する。第3加熱によって脱脂体を構成する金属粉末を焼結させる処理を仮焼結(仮焼)という。仮焼結によって作製された仮焼体は気孔が多い。そのため、仮焼体は、上記(3)の焼結体作製工程で作製された焼結体よりも密度が低く、たとえば、80%未満である。
【0043】
たとえば、脱脂体に有機成分が残存する場合、脱脂体に含まれる有機成分が第3加熱により熱分解され、炉内にC(炭素)やO(酸素)を含むガスが炉内に放出される。このとき、従来は、放出ガスが流動して脱脂体(仮焼体)の表面に触れるため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が脱脂体(仮焼体)に付着して吸収されることがあった。あるいは、放出ガスが炉内を流動して炉壁の表面に触れるため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が炉壁に堆積することがあった。
【0044】
上記放出ガス対策として、この発明では、仮焼体作製工程において、脱脂体を内包して周囲を覆う第4ハウジングを配置するとともに、脱脂体と第4ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第3金属材料を配置する。そして、第4ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成する。
【0045】
図1および図2に示す脱脂体作製工程で適用可能なハウジングの構成例は、仮焼体作製工程にも適用可能である。ここで、図1および図2は、脱脂体作製工程で適用可能な第1ハウジングの構成例として示したものであるが、成形体10、20を仮焼体10、20とし、第1ハウジング12、22を第4ハウジング12、22とし、第1金属材料11、21を第3金属材料11、21とすることによって、仮焼体作製工程で適用可能な第4ハウジングおよび第3金属材料の構成例となる。よって、仮焼体作製工程で適用可能な第4ハウジングおよび第3金属材料の構成例についての詳細な説明は、脱脂体作製工程で適用可能な第1ハウジングおよび第1金属材料の構成例の説明を参照し、ここでは略す。
【0046】
こうした第4ハウジング12、22を仮焼体作製工程で用いると、脱脂体作製工程の場合と同様に、第3加熱によって生じる圧力差を利用して、放出ガスを、相対的に圧力が低くなった第4ハウジング12、22の外部(炉内)へ流動させることができる。そのため、脱脂体10、20からの放出ガスの流動が第4ハウジング12、22の内部(空間14、25)から外部へと一方向化されて、放出ガスが再び第1ハウジング12、22の内部に流れ込んで脱脂体10、20の表面に触れることを抑制することができる。その結果、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が仮焼結中の脱脂体10、20および仮焼体に付着して吸収されるのを抑制することができる。なお、第4ハウジング12、22の一部または全部をセラミックスで構成する場合、好ましくは気孔率が20%以下のセラミックスで構成し、セラミックスの内部をガス化した熱分解生成物(有機成分)が通過するのを十分に抑制する。
【0047】
<焼結体作製工程>
この発明では、焼結体作製工程は、脱脂体作製工程の後に行うが、仮焼体製工程を行った場合は仮焼体製工程の後に行う。この発明において、焼結体作製工程では、脱脂体(または仮焼体)から有機成分を第2加熱により除去して焼結体を作製する。金属粉末を第2加熱により焼結させる処理を本焼結という。第2加熱とは、炉内に配置された脱脂体(または仮焼体)を構成する金属粉末の焼結が進む温度以上(たとえば、850℃以上)となる加熱で、かつ、焼結後の密度が90%以上となる加熱を意図する。本焼結によって作製された焼結体は、気孔がほとんどない緻密な焼結組織となる。そのため、焼結体は、密度が高く、たとえば、90%以上である。
【0048】
ここで、上記した焼結体(仮焼体)の密度は、相対密度である。相対密度は、実体密度と理論密度との比(実体密度/理論密度)を百分率で表した値である。つまり、相対密度(%)=実体密度/理論密度×100である。実体密度とは、金属(金属元素)で構成された焼結体(仮焼体)の実体の質量を実体の寸法から求めた体積で除した値である。理論密度とは、焼結体(仮焼体)の焼結組織中の金属(金属元素)が個々に独立して存在していると仮定して使用原料の配合組成から求めた値とする。理論密度を求める場合、例えば使用原料の全質量に対する配合比が1質量%以下の金属元素など、他の金属元素に比べると微量であって、相対密度に及ぼす影響が無視できると推測される金属元素については考慮しなくてもよい。
【0049】
焼結体作製工程では、たとえば、炉内に有機成分の熱分解生成物が堆積している場合、第2加熱によって、炉内に堆積している熱分解生成物の一部が再びガス化して炉内に放出される。このとき、従来は、放出ガスが流動して脱脂体(または仮焼体)の表面に触れるため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が脱脂体に付着し、最終的には焼結体に吸収されることがあった。また、たとえば、脱脂体に有機成分が残存する場合、第2加熱によって、脱脂体に含まれる有機成分が熱分解され、炉内にC(炭素)やO(酸素)を含むガスが炉内に放出される。このとき、従来は、放出ガスが流動して脱脂体の表面に触れるため、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が脱脂体に付着し、最終的には焼結体に吸収されることがあった。
【0050】
上記放出ガス対策として、この発明では、焼結体作製工程において、脱脂体(または仮焼体)の周囲を覆う第2ハウジングおよび第2ハウジングを内包して周囲を覆う第3ハウジングを配置するとともに、第2ハウジングと第3ハウジングとの間にチタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第2金属材料を配置する。そして、第2ハウジングおよび第3ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成する。第2ハウジングと第3ハウジングとの間に第2金属材料を配置することにより、上記した第1金属材料の場合と同様、第2加熱によってガス化した熱分解生成物(有機成分)を吸着することができる。また、第2金属材料を第2ハウジングの外側に配置することにより、第2加熱によって第2金属材料が昇華または浮遊して焼結中の脱脂体(または仮焼体)または焼結体に付着して反応するのを抑制することができる。
【0051】
図3図4および図5に、この発明に係る金属粉末焼結体の製造方法の実施形態であって、焼結体作製工程で適用可能なハウジング(第2ハウジング、第3ハウジング)の構成例を示す。
【0052】
図3図4および図5において符号30、符号40および符号50で示す物体は、それぞれ、脱脂体または仮焼体である。符号30、符号40および符号50で示す脱脂体および仮焼体は金属粉末からなる。なお、脱脂体には有機成分が残存していることがあるが、仮焼体には有機成分の実質的な残存はないと考えてよい。一般的なMIMでは、脱脂体(または仮焼体)は、セラミックスからなる治具(セッター)上に載置されて、炉内に配置される。これに対して、図3に示す脱脂体30(または仮焼体30)は、脱脂体30(または仮焼体30)の周囲を覆う第2ハウジング32、および、第2ハウジング32を内包して周囲を覆う第3ハウジング34を配置した状態で、炉内に配置される。また、図4に示す脱脂体40(または仮焼体40)は、脱脂体40(または仮焼体40)の周囲を覆う第2ハウジング42、および、第2ハウジング42を内包して周囲を覆う第3ハウジング45を配置した状態で、炉内に配置される。また、図5に示す脱脂体50(または仮焼体50)は、脱脂体50(または仮焼体50)の周囲を覆う第2ハウジング52、および、第2ハウジング52を内包して周囲を覆う第3ハウジング55を配置した状態で、炉内に配置される。
【0053】
この発明における第2ハウジングは、脱脂体または仮焼体の周囲を覆う機能をもつ構造物を意図する。脱脂体または仮焼体の周囲を覆うとは、脱脂体または仮焼体の側方を覆い上方を覆わない構成(蓋のない形態)を含み、脱脂体または仮焼体の側方および上方を覆う構成(蓋のある形態)を含む。図3に示す第2ハウジング32は蓋のない形態であって、脱脂体30(または仮焼体30)を含む空間33(最内部空間)の雰囲気と、それを含まない空間36(内部空間)の雰囲気とを区分しない構造物である。なお、図3に示す二点鎖線は、空間33と空間36とを区分する模式的な境界線である。
【0054】
また、この発明における第3ハウジングは、脱脂体または仮焼体を内包して脱脂体または仮焼体の周囲を覆うことが可能で、脱脂体または仮焼体3を含む空間(内部空間)の雰囲気と脱脂体または仮焼体を含まない炉内(外部空間)の雰囲気とを区分する機能をもつ構造物を意図する。脱脂体または仮焼体を内包して周囲を覆うとは、脱脂体または仮焼体の側方および上方を覆う場合(蓋のある形態)を意図し、脱脂体または仮焼体の上方を覆わず脱脂体または仮焼体の側方のみを覆う場合(蓋のない形態)を含まない。
【0055】
図3に示す構成]
図3に示す第2ハウジング32は、平板状の底部32aと環状の壁部32bとで構成されるケースである。脱脂体30(または仮焼体30)は、第2ハウジング32の底部32aの上面に配置され、その周囲が第2ハウジング32の環状の壁部32bに覆われている。この構成により、脱脂体30(または仮焼体30)の側方において、第2ハウジング32内の空間33(最内部空間)と、その外側の第3ハウジング34内の空間36(内部空間)とを区分することができる。
【0056】
なお、図3に示すような構成の場合、環状の壁部32bをこの発明に係る第2ハウジングと解し、底部32aを脱脂体30(または仮焼体30)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、底部32aの上に置いて使用することができる。また、底部32aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0057】
また、図3に示す第3ハウジング34は、平板状のベースプレート34aと箱状のケース34bとにより構成される。箱状のケース34bは平板部と環状の壁部とにより構成される。ベースプレート34aの上面には脱脂体30(または仮焼体30)が載置される。ケース34bは、脱脂体30(または仮焼体30)の側方および上方を覆うように、ベースプレート34aの上面に配置される。ベースプレート34aの上面とケース34bの下端面とは互いに接して空間36(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しているが、後に焼結体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ベースプレート34aとケース34bの間には隙間35が存在する。この構成により、第3ハウジング34内の空間36(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しつつ、隙間35によって第3ハウジング34内の空間36と炉内とを繋ぐことができる。
【0058】
なお、図3に示すような構成の場合、ケース34bをこの発明に係る第3ハウジングと解し、ベースプレート34aを脱脂体30(または仮焼体30)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ベースプレート34aの上に置いて使用することができる。また、ベースプレート34aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0059】
図4に示す構成]
図4に示す第2ハウジング42は、箱状のケース42aと平板状のルーフプレート42bとにより構成される。箱状のケース42aは、平板状の底部と、環状の壁部とにより構成される。ケース42aの底部の上面に脱脂体40(または仮焼体40)が載置される。ルーフプレート42bは、脱脂体40(または仮焼体40)の上方を覆うように、ケース42aの底部に対向して、上方に配置される。ケース42aの環状の壁部の上端面とルーフプレート42bの下面とが互いに接し、空間44とその外側の空間48とを区分しているが、後に焼結体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ケース42aとルーフプレート42bの間には隙間43が存在する。この構成により、第3ハウジング45内において第2ハウジング42内の空間44(最内部空間)と第2ハウジング42外の空間48(内部空間)とを区分しつつ、隙間43によって空間44と空間48とを繋ぐことができる。
【0060】
なお、図4に示すような構成の場合、ケース42aの環状の壁部およびルーフプレート42bで構成される構造物をこの発明に係る第2ハウジングと解し、ケース42aの底部を脱脂体40(または仮焼体40)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。また、ルーフプレート42bを使用せず、天地を反転させたケース42aを上方から被せて、脱脂体40(または仮焼体40)を覆うこともできる。この場合、第2ハウジングと第3ハウジング(ベースプレート45a)との隙間が第2金属材料41の近傍に位置し、空間48から空間44に向かおうとする放出ガスが第2金属材料41に触れやすくなるので好ましい。なお、耐火物(セッター)を使用する場合、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ケース42aの底部の上に置いて使用することができる。また、ケース42aの底部の表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0061】
また、図4に示す第3ハウジング45は、平板状のベースプレート45aと、平板状のルーフプレート45bと、環状のサイドウォール45cとにより構成される。環状のサイドウォール45cは、平板材やパイプ材などで容易に作製することができる。ベースプレート45aの上面には脱脂体40(または仮焼体40)が載置される。ルーフプレート45bは、脱脂体40(または仮焼体40)の上方を覆うように、ベースプレート45aに対向して、上方に配置される。環状のサイドウォール45cは、脱脂体40(または仮焼体40)の周囲を囲んで側方を覆うように、ベースプレート45aとルーフプレート45bとの間に配置される。ベースプレート45aの上面とサイドウォール45cの下端面とが互いに密着するとともに、ルーフプレート45bの下面とサイドウォール45cの上端面とが互いに接し、空間48(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しているが、後に脱脂体40(または仮焼体40)から作製された焼結体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ベースプレート45aとサイドウォール45cの間には隙間46が存在し、ルーフプレート45bとサイドウォール45cの間には隙間47が存在する。この構成により、第3ハウジング45内の空間48(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しつつ、隙間46、47によって第3ハウジング45内の空間48と炉内とを繋ぐことができる。
【0062】
なお、図4に示すような構成の場合、ルーフプレート45bおよびとサイドウォール45cで構成される構造物をこの発明に係る第3ハウジングと解し、ベースプレート45aを脱脂体40(または仮焼体40)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ベースプレート45aの上に置いて使用することができる。また、ベースプレート45aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0063】
図5に示す構成]
図5に示す第2ハウジング52は、箱状のケース52aと平板状のルーフプレート52bとにより構成される。箱状のケース52aは、平板状の底部と、環状の壁部とにより構成される。ケース52aの底部の上面に脱脂体50(または仮焼体50)が載置される。ルーフプレート52bは、脱脂体50(または仮焼体50)の上方を覆うように、ケース52aの底部に対向して、上方に配置される。ケース52aの環状の壁部の上端面とルーフプレート52bの下面とが互いに接し、空間54とその外側の空間57とを区分しているが、後に焼結体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ケース52aとルーフプレート52bの間には隙間53が存在する。この構成により、第3ハウジング55内において第2ハウジング52内の空間54(最内部空間)と第2ハウジング52外の空間57(内部空間)とを区分しつつ、隙間53によって空間54と空間57とを繋ぐことができる。
【0064】
なお、図5に示すような構成の場合、ケース52aの環状の壁部およびルーフプレート52bで構成される構造物をこの発明に係る第2ハウジングと解し、ケース52aの底部を脱脂体50(または仮焼体50)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。また、ルーフプレート52bを使用せず、天地を反転させたケース52aを上方から被せて、脱脂体50(または仮焼体50)を覆うこともできる。この場合、第2ハウジングと第3ハウジング(ベースプレート55a)との隙間が第2金属材料51の近傍に位置し、空間57から空間54に向かおうとする放出ガスが第2金属材料51に触れやすくなるので好ましい。なお、耐火物(セッター)を使用する場合、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ケース42aの底部の上に置いて使用することができる。また、ケース42aの底部の表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0065】
また、図5に示す第3ハウジング55は、平板状のベースプレート55aと箱状のケース55bとにより構成される。箱状のケース55bは平板部と環状の壁部とにより構成される。ベースプレート55aの上面には脱脂体50(または仮焼体50)が載置される。ケース55bは、脱脂体50(または仮焼体50)の側方および上方を覆うように、ベースプレート55aの上面に配置される。ベースプレート55aの上面とケース55bの下端面とは互いに接して空間57(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しているが、後に焼結体を取り出すため溶接やろう接などによる接合はされていない。そのため、ベースプレート55aとケース55bの間には隙間56が存在する。この構成により、第3ハウジング55内の空間57(内部空間)と炉内(外部空間)とを区分しつつ、隙間56によって第3ハウジング55内の空間57と炉内とを繋ぐことができる。
【0066】
なお、図5に示すような構成の場合、ケース55bをこの発明に係る第3ハウジングと解し、ベースプレート55aを脱脂体50(または仮焼体50)に含まれる金属粉末に適する耐火物(セッター)で構成することもできる。この場合、耐火物(セッター)は、気孔率が小さい、たとえば20%以下のものを使用する。気孔率が大きい、たとえば20%を超えるような耐火物(セッター)は、ベースプレート55aの上に置いて使用することができる。また、ベースプレート55aの表面に粉状の耐火物を塗布または敷き詰めて、あるいは噴き付けて、使用することもできる。
【0067】
上記した図3に示すような構成を用いると、第2加熱によって脱脂体30から熱分解生成物(有機成分)を含むガスが放出されたときに、第3ハウジング34の内部(空間33、36)の圧力が上昇する。あるいは、上記した図4または図5に示すような構成を用いると、第2加熱によって脱脂体40、50から熱分解生成物(有機成分)を含むガスが放出されたときに、第2ハウジング42、52の内部(空間44、54)の圧力が上昇し、第3ハウジング45、55の内部(空間48、57)の圧力が上昇する。この第2加熱によって生じる圧力差を利用して、放出ガスを、相対的に圧力が低くなった第3ハウジングの外部(炉内)へ流動させることができる。そのため、脱脂体からガスが放出された場合、その放出ガスの流動が第3ハウジングの内部から外部へと一方向化されて、放出ガスが再び第3ハウジングの内部に流れ込んで脱脂体の表面に触れることを抑制することができる。また、図4または図5に示す構成を用いると、脱脂体40、50から放出されたガスの流動が第3ハウジング45、55の内部(空間48、57)から外部へと一方向化されて、放出ガスが再び第3ハウジング45、55の内部に流れ込んで脱脂体40、50の表面に触れることを抑制することができる。このように、図3図4または図5に示す構成を用いることによって、ガス化した熱分解生成物(有機成分)の一部が焼結中の脱脂体30、40、50および焼結体に付着して吸収されるのを抑制することができる。
【0068】
また、有機成分の実質的な残留がない脱脂体または仮焼体から焼結体を作製する場合、その脱脂体または仮焼体からはガスが放出されないため、第3ハウジングの内部には第2加熱による圧力の上昇が生じない。しかし、炉壁に堆積していた熱分解生成物(有機成分)が第2加熱によってガス化し、炉内(外部)から隙間を通って第3ハウジングの内部へ、熱分解生成物(有機成分)を含むガスが侵入することがある。この対策として、この発明では、図3図4および図5に示すように、第2ハウジング32、42、52と第3ハウジング34、44、54との間に、チタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第2金属材料31、41、51を配置する。
【0069】
図3図4および図5に示す構成では、第2金属材料31、41、51は、第2ハウジング32、42、52と第3ハウジング34、45、55との間であって、隙間35、46、56の近傍のベースプレート34a、45a、55aの上に配置されている。このように、第2金属材料31、41、51が隙間35、46、56の近傍に配置されていれば、炉内(外部)から、隙間35、46、56を通って第3ハウジング34、45、55の内部(空間36、48、57)へ侵入したガスが、第2金属材料31、41、51の表面に触れやすくなる。ガス化した熱分解生成物(有機成分)が第2金属材料31、41、51の表面に触れると、その多くが第2金属材料31、41、51に吸着される。そのため、図3図4または図5に示す構成によれば、いずれも、第3ハウジング34、45、55の内部(空間36、48、57)に侵入したガスに含まれる熱分解生成物(有機成分)が減少し、熱分解生成物(有機成分)が焼結中の脱脂体30、40、50または焼結体に付着して吸収されるのを抑制することができる。
【0070】
なお、こうした構成は、脱脂体30、40、50からの放出ガスにも有効である。図3に示す構成では、第3ハウジング34の内部(空間33、36)から隙間35を通って外部(炉内)へ流動するガスが、第2金属材料31の表面に触れやすくなる。図4に示す構成では、第2ハウジング42の内部(空間44)から隙間43を通って第3ハウジング45の内部(空間48)へ流動し、さらに、第3ハウジング45の内部(空間48)から隙間46を通って外部(炉内)へ流動するガスが、第2金属材料41の表面に触れやすくなる。図5に示す構成では、第2ハウジング52の内部(空間54)から隙間53を通って第3ハウジング55の内部(空間57)へ流動し、さらに、第3ハウジング55の内部(空間57)から隙間56を通って外部(炉内)へ流動するガスが、第2金属材料51の表面に触れやすくなる。そのため、図3図4または図5に示す構成によれば、いずれも、炉内に流動したガスに含まれる熱分解生成物(有機成分)が減少し、熱分解生成物(有機成分)が炉壁に堆積するのを抑制することができる。
【0071】
図3に示す第2ハウジング32は、図4および図5に示す第2ハウジング42、52と比べて、ルーフプレート42b、52bを有さないことによって、構造が簡素になるので有利である。なお、図3に示すケースのような第2ハウジングは、平板状のベースプレートと環状のサイドウォールとによっても構成することができる。このように構成された第2ハウジングは、ベースプレートとサイドウォールの間に隙間が形成されるが、構造が簡素で、加工の容易性およびメンテナンス性の観点で有利である。
【0072】
図4および図5に示す第2ハウジング42、52は、図3に示す第2ハウジング32と比べて、ルーフプレート42b、52bを有することによって、外部(炉内)からのガスが第2ハウジング42、52の内部(空間44、54)に侵入しにくくなるので有利である。なお、図4および図5に示す第2ハウジング42、52は、ケース42a、52aに替えて、平板状のベースプレートと環状のサイドウォールとによっても構成することができる。このように構成された第2ハウジングは、ベースプレートとサイドウォールの間に隙間が形成されるが、構造が簡素で、加工の容易性およびメンテナンス性の観点で有利である。
【0073】
図3および図5に示す第3ハウジング34、55は、下方の1か所に隙間35、56がある。図4に示す第3ハウジング45は、下方および上方の2か所に隙間46、47がある。図3および図5に示す第3ハウジング34、55のような構成であれば、隙間35、56を下方の1か所に限ることによって、炉内(外部)から内部へ侵入するガスの流路、あるいは脱脂体30、50から放出されたガスの流路を、下方の1か所に制限することができる。そのため、図3および図5に示す第3ハウジング34、55のような構成であれば、第2金属材料を隙間35、56の近傍に配置すればよいので、第2金属材料の総量の低減および第2金属材料によるガスの吸着の効率向上に有利である。
【0074】
この発明では、第2ハウジングおよび第3ハウジングを、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスのうちの1種類または複数種類により構成する。モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、および、セラミックスは、ガス化した熱分解生成物(有機成分)と反応しにくく、融点が高く、熱伝導率が酸化物よりも十分に高く、熱的安定性および耐熱衝撃性に優れ、室温から約2000℃の加熱の繰り返しに耐えることができるため、第2ハウジングおよび第3ハウジングを構成するのに適する。好ましくは、タングステン、タングステン合金およびセラミックスよりも加工が容易でメンテナンスを行いやすい、モリブデンまたはモリブデン合金により構成された第2ハウジングおよび第3ハウジングである。また、第2ハウジングの一部または全部をセラミックスで構成する場合、あるいは、第3ハウジングの一部または全部をセラミックスで構成する場合、好ましくは、気孔率が20%以下のセラミックスで構成する。これにより、セラミックスの内部をガス化した熱分解生成物(有機成分)が通過するのを十分に抑制することができる。このように第2ハウジングの材質および第3ハウジングの材質を構成するのは、上記した第1ハウジングの場合と略同等の効果を得るためである。よって、焼結体作製工程で適用可能な第2ハウジングの材質および第3ハウジングの材質についての詳細な説明は、脱脂体作製工程で適用可能な第1ハウジングの材質の説明を参照し、ここでは略す。
【0075】
この発明では、図3図4および図5に示すように、第2ハウジング32、42、52と第3ハウジング34、45、55との間に、チタン材料、ニオブ材料、または、チタン材料とニオブ材料の混合物からなる第2金属材料31、41、51を配置する。このように第2金属材料31、41、51を構成するのは、上記した第1金属材料11、21の場合と略同等の効果を得るためである。よって、焼結体作製工程で適用可能な第2金属材料についての説明は、脱脂体作製工程で適用可能な第1金属材料の説明を参照し、ここでは略す。なお、第2金属材料31、41、51に低融点化合物が含まれている場合、第2金属材料31、41、51と脱脂体30、40、50との間を遮るように第2ハウジング32、42、52が配置されていることによって、高温(たとえば、1200℃以上)に加熱された第2金属材料31、41、51から揮発した低融点化合物が脱脂体30、40、50(または仮焼体30、40、50)に付着するのを抑制することができる。
【0076】
次に、この発明に係る導電性金属粒子(粒子群)の製造方法の有効性を確認するために行った、実験1~8について説明する。実験1、5で用いた製造方法に係る構成および作製された焼結体は、本発明例である。実験2-4で用いた製造方法に係る構成および作製された焼結体は、実験1との比較例である。また、実験6-8で用いた製造方法に係る構成および作製された焼結体は、実験5との比較例である。
【0077】
[実験1]
実験1では、成形体作製工程において、USA ASTM Alloy 713LC相当のNi基合金粉末(C:0.0920質量%、O:0.0176質量%、メジアン径d50:約33μm)に、パラフィンワックス、ポリプロピレン、ポリオレフィン系の樹脂およびスチレン系の樹脂からなる有機バインダーを混合し、混錬し、Ni基合金粉末の割合が約65%となるコンパウンドを作製した。このコンパウンドを射出成形装置に投入し、成形体を作製した。射出成形では、コンパウンドの射出温度を145℃、射出圧力を120MPaとした。成形体は、直径8mm、長さ50mmの円柱体(丸棒)とした。
【0078】
Ni基合金粉末は、50質量%以上のNiを含み、炭化物や酸化物を生成しやすいC、O、Al、Ti、Cr、Zr、NbおよびMoを含み、さらに不可避的不純物を含む。製造ロットにもよるが、含有する可能性がある不純物は、たとえば、N(窒素)、P(リン)、S(硫黄)の他、B、Si、V、Mn、Fe、TaおよびWなどである。
【0079】
次いで、脱脂体作製工程において、成形体の加熱脱脂を図1に示す構成で行い、脱脂体を作製した。このとき、図1に示すように、成形体10を第1ハウジング12のMo製のベースプレート12aの中央部に載置し、成形体10の周囲が第1ハウジング12のMo製のケース12bの環状の壁部で覆われ、成形体10の上方がMo製のケース12bの底部で覆われるようにした。この構成により、第1ハウジング12が成形体10を内包して周囲を覆う状態とした。そして、成形体10と第1ハウジング12のケース12bの環状の壁部との間に、成形体10の大きさに合う適量のスポンジチタン(第1金属材料11)を配置した。スポンジチタンは成形体10の周囲に配置した。
【0080】
脱脂のための加熱パターン(第1加熱に対応)は、アルゴンガスを約5L/minで供給しながら真空ポンプで排気する炉内雰囲気とし、次いで約30℃/hで昇温し、650℃に達した後はそのまま約2時間の保持を行うようにした。これにより、脱脂体を作製した。
【0081】
次いで、仮焼体作製工程において、脱脂体の仮焼結を脱脂体作製工程から続けて図1に示す構成で行い、仮焼体を作製した。このとき、図1に示すように、脱脂体10は第4ハウジング12のMo製のベースプレート12aの中央部に載置されているため、脱脂体10の周囲は第4ハウジング12のMo製のケース12bの環状の壁部で覆われている。また、脱脂体10の上方にはMo製のケース12bの底部があるため、脱脂体10はケース12bで覆われている。この構成により、第4ハウジング12が脱脂体10を内包して周囲を覆う状態となっている。また、脱脂体10と第4ハウジング12のケース12bの環状の壁部との間には、脱脂体10の大きさに合う適量のスポンジチタン(第3金属材料21)が配置された状態となっている。
【0082】
仮焼結のための加熱パターン(第3加熱に対応)は、脱脂のための加熱から続けて、アルゴンガスを供給しながら適時の排気によって炉内の圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約150℃/hで昇温し、1000℃に達した後はそのまま約2時間の保持を行うようにした。これにより、仮焼体を作製した。
【0083】
次いで、焼結体作製工程において、仮焼体を構成するNi基合金粉末の焼結を図5に示す構成で行い、焼結体を作製した。このとき、図5に示すように、仮焼体50を第2ハウジング52のMo製のケース52aの底部の中央部に載置し、仮焼体50の周囲がケース52aの環状の壁部で覆われるようにした。また、ケース52aの上部にMo製のルーフプレート52bを設置し、仮焼体50の上方がルーフプレート52bで覆われるようにした。また、第2ハウジング52を第3ハウジング55のMo製のベースプレート55aの中央部に載置し、第2ハウジング52の周囲が第3ハウジング55のMo製のケース55bで覆われるようにした。また、高温に加熱されたNi基合金粉末がMo製のケース52aの底部と反応する可能性があるため、仮焼体50とケース52aの底部との間にジルコニアセラミックス製の平板を配置した。この構成により、第3ハウジング55が第2ハウジング52を内包して周囲を覆う状態になるようにした。また、第2ハウジング52のケース52aの環状の壁部と第3ハウジング55のケース55bの環状の壁部との間に、仮焼体50の大きさに合う適量のスポンジチタン(第2金属材料51)を配置した。スポンジチタンは仮焼体50の周囲に配置した。
【0084】
Ni基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第2加熱に対応)は、炉内を1Pa以下の真空度に調整し、次いで約260℃/hで昇温し、1280℃に達した後はそのまま約3時間の保持を行うようにした。これにより、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)に対応する略円柱形(丸棒)の焼結体を作製した。
【0085】
[実験2]
実験2では、実験1で用いたNi基合金粉末からC(炭素)を低減したNi基合金粉末(C:0.0037質量%、O:0.0198質量%、メジアン径d50:約31μm)を使用した。このNi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体を作製し、脱脂体を作製し、仮焼体を作製した。次いで、焼結体を作製した。但し、成形体は、幅20mm、長さ80mmおよび厚さ3mmの直方体とした。
【0086】
焼結体作製工程では、仮焼体を構成するNi基合金粉末の焼結を図1に示す構成と略同等の構成で行い、焼結体を作製した。このとき、実験1で用いた内側のハウジング(図5に示す第2ハウジング52を参照)を用いずに、仮焼体を外側のハウジング(図5に示す第3ハウジング55を参照)のMo製のベースプレートの中央部に載置した。また、実験1と同様な理由で、仮焼体と外側のハウジングのベースプレートとの間に、ジルコニアセラミックス製の平板を配置した。この構成により、外側のハウジングが仮焼体を内包して周囲を覆う状態とした。また、実験1と同様に、スポンジチタン(第2金属材料)を仮焼体の周囲に配置した。
【0087】
Ni基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第2加熱に対応)は、実験1と同様とした。これにより、成形体(幅20mm、長さ80mm、厚さ3mmの直方体)に対応する略直方形の焼結体を作製した。
【0088】
[実験3]
実験3では、実験2で用いたNi基合金粉末と同様のNi基合金粉末(C:0.0037質量%、O:0.0198質量%、メジアン径d50:約31μm)を使用した。このNi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体を作製し、脱脂体を作製し、仮焼体を作製した。次いで、焼結体を作製した。但し、成形体は、実験2と同様に、幅20mm、長さ80mmおよび厚さ3mmの直方体とした。
【0089】
焼結体作製工程では、仮焼体を構成するNi基合金粉末の焼結を図5に示す構成と略同等の構成で行い、焼結体を作製した。このとき、実験1で用いたスポンジチタン(第2金属材料)は用いなかった。
【0090】
Ni基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第2加熱に対応)は、実験1と同様とした。これにより、成形体(幅20mm、長さ80mm、厚さ3mmの直方体)に対応する略直方形の焼結体を作製した。
【0091】
[実験4]
実験4では、USA ASTM Alloy 718相当のNi基合金粉末(C:0.0600質量%、O:0.0580質量%、メジアン径d50:約15μm)を使用した。このNi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)を作製した。次いで、成形体から有機バインダーを除去し、さらにNi基合金粉末を焼結することによって、焼結体を作製した。なお、仮焼体作製工程は略した。すなわち、成形体を用いて、脱脂体作製工程での加熱(第1加熱に対応)、仮焼体作製工程での加熱(第3加熱に対応)、および、焼結体作製工程での加熱(第2加熱に対応)を連続して行うことによって、焼結体を作製した。
【0092】
Ni基合金粉末は、50質量%以上のNiを含み、炭化物や酸化物を生成しやすいC、O、Al、Ti、Cr、Fe、NbおよびMoを含み、さらに不可避的不純物を含む。製造ロットにもよるが、含有する可能性がある不純物は、たとえば、N、P、Sの他、B、Si、V、Mn、Fe、Zr、TaおよびWなどである。
【0093】
脱脂体作製工程および焼結体作製工程では、成形体を構成する有機バインダーの除去およびNi基合金粉末の焼結を図1に示す構成と略同等の構成で行って、成形体から焼結体を作製した。この工程の場合、成形体が加熱脱脂によって脱脂体となり、脱脂体が焼結によって仮焼体を経て焼結体となる。このとき、実験1の焼結体作製工程で用いた内側のハウジング(図5に示す第2ハウジング52を参照)を用いずに、成形体を外側のハウジング(図5に示す第3ハウジング55を参照)のMo製のベースプレートの中央部に載置した。また、実験1と同様な理由で、脱脂体(成形体)とベースプレートとの間に、ジルコニアセラミックス製の平板を配置した。この構成により、外側のハウジングが成形体を内包して周囲を覆う状態とした。なお、実験1で用いたスポンジチタン(第2金属材料)は用いなかった。
【0094】
有機バインダーの除去およびNi基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第1加熱および第2加熱に対応)は、約650℃まで昇温してから水素ガスを導入して約2時間の保持を行い、次いで100℃/hで約750℃まで昇温して約2時間の保持を行い、次いで窒素ガスで水素を置換した炉内雰囲気とし、次いでアルゴンガスを供給しながら適時の排気により炉内圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約63℃/hでさらに昇温し、1250℃に達した後はそのまま約4時間の保持を行うようにした。これにより、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)に対応する略円柱形の焼結体を作製した。
【0095】
[実験5]
実験5では、Al(約29質量%)、Nb(約18質量%)およびFe(約0.03質量%)を含む、Ti基合金粉末(C:0.0590質量%、O:0.0864質量%、メジアン径d50:約36μm)を使用した。このTi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)を作製し、脱脂体を作製し、仮焼体を作製し、焼結体を作製した。
【0096】
Ti基合金粉末は、50質量%以上のTiを含み、炭化物や酸化物を生成しやすいC、O、Al、FeおよびNbを含み、さらに不可避的不純物を含む。製造ロットにもよるが、含有する可能性がある不純物は、たとえば、N(窒素)、P(リン)、S(硫黄)の他、B、Si、V、Cr、Ni、ZrおよびMoなどである。
【0097】
焼結体作製工程では、仮焼体を構成するTi基合金粉末の焼結を図5に示す構成と略同等の構成で行い、焼結体を作製した。このとき、実験1で用いたジルコニアセラミックス製の平板は用いず、仮焼体をMo製のベースプレートに直に配置した。
【0098】
Ti基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第2加熱に対応)は、アルゴンガスを供給しながら適時の排気によって炉内の圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約145℃/hで昇温し、1450℃に達した後はそのまま約4時間の保持を行うようにした。これにより、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)に対応する略円柱形の焼結体を作製した。
【0099】
[実験6]
実験6では、実験5で用いたTi基合金粉末と同様のTi基合金粉末(C:0.0530質量%、O:0.0976質量%、メジアン径d50:約41μm)を使用した。このTi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)を作製した。次いで、成形体から有機バインダーを除去し、さらにTi基合金粉末を焼結することによって、焼結体を作製した。なお、仮焼体作製工程は略した。すなわち、成形体を用いて、脱脂体作製工程での加熱(第1加熱に対応)、仮焼体作製工程での加熱(第3加熱に対応)、および、焼結体作製工程での加熱(第2加熱に対応)を連続して行うことによって、焼結体を作製した。
【0100】
脱脂体作製工程および焼結体作製工程では、成形体を構成する有機バインダーの除去およびNi基合金粉末の焼結を図1に示す構成と略同等の構成で行って、成形体から焼結体を作製した。この工程の場合、成形体が加熱脱脂によって脱脂体となり、脱脂体が焼結によって仮焼体を経て焼結体となる。このとき、実験1の焼結体作製工程で用いた内側のハウジング(図5に示す第2ハウジング52を参照)を用いずに、成形体を外側のハウジング(図5に示す第3ハウジング55を参照)のMo製のベースプレートの中央部に載置した。また、高温に加熱されたTi基合金粉末がMo製のベースプレートと反応する可能性があるため、成形体とベースプレートとの間にイットリアセラミックス製の平板を用いた。この構成により、外側のハウジングが成形体を内包して周囲を覆う状態とした。また、成形体の周囲には、実験1と同様に、スポンジチタン(第2金属材料)を配置した。
【0101】
有機バインダーの除去およびTi基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第1加熱および第2加熱に対応)は、アルゴンガスを約5L/minで供給しながら真空ポンプで排気する炉内雰囲気とし、次いで約30℃/hで昇温し、650℃に達した後はそのまま約2時間の保持を行い、次いでアルゴンガスを供給しながら適時の排気によって炉内の圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約98℃/hで昇温し、1430℃に達した後はそのまま約8時間の保持を行った。これにより、成形体(直径8mm、長さ50mmの円柱体)に対応する略円柱形の焼結体を作製した。
【0102】
[実験7]
実験7では、Al(約32質量%)、Nb(約5.4質量%)、Cr(約2.3質量%)およびFe(約0.05質量%)を含む、Ti基合金粉末(C:0.0100質量%、O:0.1250質量%、メジアン径d50:約35μm)を使用した。このTi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体を作製した。次いで、成形体から有機バインダーを除去し、さらにTi基合金粉末を焼結することによって、焼結体を作製した。なお、仮焼体作製工程は略した。すなわち、成形体を用いて、脱脂体作製工程での加熱(第1加熱に対応)、仮焼体作製工程での加熱(第3加熱に対応)、および、焼結体作製工程での加熱(第2加熱に対応)を連続して行うことによって、焼結体を作製した。但し、成形体は、直径41mm、高さ34mmの円錐形に近似の円錐体とした。
【0103】
Ti基合金粉末は、50質量%以上のTiを含み、炭化物や酸化物を生成しやすいC、O、Al、Cr、FeおよびNbを含み、さらに不可避的不純物を含む。製造ロットにもよるが、含有する可能性がある不純物は、たとえば、N(窒素)、P(リン)、S(硫黄)の他、B、Si、V、Ni、ZrおよびMoなどである。
【0104】
脱脂体作製工程および焼結体作製工程では、成形体を構成する有機バインダーの除去およびTi基合金粉末の焼結を図1に示す構成と略同等の構成で行って、成形体から焼結体を作製した。この工程の場合、成形体が加熱脱脂によって脱脂体となり、脱脂体が焼結によって仮焼体を経て焼結体となる。このとき、成形体を外側のハウジング(図5に示す第3ハウジング55を参照)のMo製のベースプレートの中央部に載置し、成形体の全周囲をニオブ箔で覆う構成とした。そのため、実験1の焼結体作製工程で用いた内側のハウジング(図5に示す第2ハウジング52を参照)は用いなかった。なお、高温に加熱されたTi基合金粉末がニオブ箔を溶融してMo製のベースプレートと反応する可能性があるため、成形体とベースプレートとの間にイットリアセラミックス製の平板を用いた。この構成により、外側のハウジングがニオブ箔に覆われた成形体を内包して周囲を覆う状態とした。また、成形体の周囲には、実験1と同様に、スポンジチタン(第2金属材料)を配置した。
【0105】
有機バインダーの除去およびTi基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第1加熱および第2加熱に対応)は、アルゴンガスを約5L/minで供給しながら真空ポンプで排気する炉内雰囲気とし、次いで約30℃/hで昇温し、650℃に達した後はそのまま約2時間の保持を行い、次いでアルゴンガスを供給しながら適時の排気によって炉内の圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約98℃/hで昇温し、1430℃に達した後はそのまま約8時間の保持を行った。これにより、成形体(直径41mm、高さ34mmの円錐体)に対応する略円錐形の焼結体を作製した。
【0106】
[実験8]
実験8では、実験7で用いたTi基合金粉末と同様のTi基合金粉末(C:0.0100質量%、O:0.1250質量%、メジアン径d50:約35μm)を使用した。このTi基合金粉末を用いて、実験1と同様に、成形体(直径41mm、高さ34mmの円錐形に近似の円錐体)を作製した。次いで、成形体から有機バインダーを除去し、さらにTi基合金粉末を焼結することによって、焼結体を作製した。なお、仮焼体作製工程は略した。すなわち、成形体を用いて、脱脂体作製工程での加熱(第1加熱に対応)、仮焼体作製工程での加熱(第3加熱に対応)、および、焼結体作製工程での加熱(第2加熱に対応)を連続して行うことによって、焼結体を作製した。
【0107】
脱脂体作製工程および焼結体作製工程では、実験7と同様、成形体を構成する有機バインダーの除去およびTi基合金粉末の焼結を図1に示す構成と略同等の構成で行って、成形体から焼結体を作製した。このとき、実験7と同様に、成形体の全周囲をニオブ箔で覆う構成とし、イットリアセラミックス製の平板を用いた。この構成により、外側のハウジングがニオブ箔に覆われた成形体を内包して周囲を覆う状態とした。なお、実験7で用いたスポンジチタン(第2金属材料)は用いなかった。
【0108】
有機バインダーの除去およびTi基合金粉末の焼結のための加熱パターン(第1加熱および第2加熱に対応)は、アルゴンガスを約5L/minで供給しながら真空ポンプで排気する炉内雰囲気とし、次いで約30℃/hで昇温し、650℃に達した後はそのまま約2時間の保持を行い、次いでアルゴンガスを供給しながら適時の排気によって炉内の圧力を約13.3kPaに調整し、次いで約98℃/hで昇温し、1430℃に達した後はそのまま約8時間の保持を行った。これにより、成形体(直径41mm、高さ34mmの円錐体)に対応する略円錐形の焼結体を作製した。
【0109】
上記した実験1~8において、使用した金属粉末と、作製した仮焼体および焼結体について、C量(炭素量)を分析した。金属粉末、仮焼体および焼結体のC量の分析には、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製EMIA-920、燃焼-赤外線吸収法、ASTM E1019対応規格)を使用した。
【0110】
表1に、実験1~8における金属粉末、仮焼体および焼結体のC量(質量%)、金属粉末に対する仮焼体のC量(質量%)の比率(仮焼体/金属粉末)および金属粉末に対する焼結体のC量(質量%)の比率、を示す。表1中の「-」は、仮焼体作製工程を略したため、仮焼体の形態での分析ができなかったことを示す。以下、C量(質量%)の比率を「C比」と表記し、仮焼体/金属粉末を「仮焼体のC比」、焼結体/金属粉末を「焼結体のC比」という。
【0111】
【表1】
【0112】
また、上記した実験1~4において、使用した金属粉末と、作製した仮焼体および焼結体について、O量(酸素量)を分析した。金属粉末、仮焼体および焼結体のO量の分析には、酸素・窒素分析装置(堀場製作所製EMGA-920、不活性ガス融解-赤外線吸収法、ASTM E1019対応規格)を使用した。なお、超耐熱材料として広く利用されているAlloy 713LCやAlloy 718などのNi基合金粉末は、酸化物生成元素を多く含むためO(酸素)の影響を受けやすい。この点を考慮し、Ni基合金粉末を用いた実験1~4について、Oに係る評価を行った。
【0113】
表2に、実験1~4における金属粉末、仮焼体および焼結体のO量(質量%)、金属粉末に対する仮焼体のO量(質量%)の比率(仮焼体/金属粉末)および金属粉末に対する焼結体のO量(質量%)の比率、を示す。表1中の「-」は、仮焼体作製工程を略したため、仮焼体の形態での分析ができなかったことを示す。以下、O量の比率を「O比」と表記し、仮焼体/金属粉末を「仮焼体のO比」、焼結体/金属粉末を「焼結体のO比」という。
【0114】
【表2】
【0115】
Ni基合金粉末を用いた実験1(本発明例)では、C量が0.0920質量%の金属粉末に対して、仮焼体のC比が1.24、焼結体のC比が1.15となった。これより、C量は、金属粉末から仮焼体となって24%増大し、仮焼体から焼結体となって9%減少し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも15%増大することが分かった。また、O量が0.0176質量%の金属粉末に対して、仮焼体のO比が0.70、焼結体のO比が0.34となった。これより、O量は、金属粉末から仮焼体となって30%減少し、仮焼体から焼結体となってさらに36%減少し、最終的に焼結体のO量は金属粉末よりも66%減少することが分かった。
【0116】
Ni基合金粉末を用いた実験2(比較例)では、C量が0.0037質量%の金属粉末に対して、仮焼体のC比が10.54、焼結体のC比が4.49となった。これより、C量は、金属粉末から仮焼体となって954%増大し、仮焼体から焼結体となって605%減少し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも349%増大することが分かった。また、O量が0.0198質量%の金属粉末に対して、仮焼体のO比が1.54、焼結体のO比が1.16となった。これより、O量は、金属粉末から仮焼体となって54%増大し、仮焼体から焼結体となって38%減少し、最終的に焼結体のO量は金属粉末よりも16%増大することが分かった。
【0117】
Ni基合金粉末を用いた実験3(比較例)では、C量が0.0037質量%の金属粉末に対して、仮焼体のC比が10.54、焼結体のC比が9.73となった。これより、C量は、金属粉末から仮焼体となって954%増大し、仮焼体から焼結体となって81%減少し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも873%増大することが分かった。また、O量が0.0198質量%の金属粉末に対して、仮焼体のO比が1.54、焼結体のO比が2.40となった。これより、O量は、金属粉末から仮焼体となって54%増大し、仮焼体から焼結体となってさらに86%増大し、最終的に焼結体のO量は金属粉末よりも140%増大することが分かった。
【0118】
Ni基合金粉末を用いた実験4(比較例)では、C量が0.0600質量%の金属粉末に対して、焼結体のC比が3.07となった。これより、C量は、金属粉末から焼結体となって207%増大し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも207%増大することが分かった。また、O量が0.0580質量%の金属粉末に対して、焼結体のO比が7.84となった。これより、O量は、金属粉末から焼結体となって684%増大し、最終的に焼結体のO量は金属粉末よりも684%増大することが分かった。
【0119】
Ti基合金粉末を用いた実験5(本発明例)では、C量が0.0590質量%の金属粉末に対して、仮焼体のC比が1.27、焼結体のC比が1.32となった。これより、C量は、金属粉末から仮焼体となって27%増大し、仮焼体から焼結体となって5%増大し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも32%増大することが分かった。
【0120】
Ti基合金粉末を用いた実験6(比較例)では、C量が0.0530質量%の金属粉末に対して、焼結体のC比が1.74となった。これより、C量は、金属粉末から焼結体となって74%増大し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも74%増大することが分かった。
【0121】
Ti基合金粉末を用いた実験7(比較例)では、C量が0.0100質量%の金属粉末に対して、焼結体のC比が2.90となった。これより、C量は、金属粉末から焼結体となって190%増大し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも190%増大することが分かった。
【0122】
Ti基合金粉末を用いた実験8(比較例)では、C量が0.0100質量%の金属粉末に対して、焼結体のC比が10.40となった。これより、C量は、金属粉末から焼結体となって940%増大し、最終的に焼結体のC量は金属粉末よりも940%増大することが分かった。
【0123】
Ni基合金粉末からなる焼結体について、Ni基合金粉末からなる焼結体を作製した実験1(本発明例)と実験2~4(比較例)との対比により、Ni基合金粉末に対する焼結体のC量およびO量の抑制効果を確認することができる。具体的には、実験1(本発明例)では、Ni基合金粉末のC量およびO量に対して、焼結体のC量は+15%となって比較的小さく抑制することができ、焼結体のO量は-66%となって大きく抑制することができた。一方、実験2~4(比較例)では、Ni基合金粉末のC量およびO量に対して、焼結体のC量は、それぞれ、+349%、+873%、+207%となって小さく抑制することができず、焼結体のO量は、それぞれ、+16%、+140%、+684%となって小さく抑制することができなかった。
【0124】
この結果、Ni基合金粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製し、その成形体から有機成分を加熱により除去して脱脂体を作製し、その脱脂体を構成するNi基合金粉末を加熱により焼結して焼結体を作製する、Ni基合金粉末焼結体の製造方法において、この発明に係る構成の適用によって、Ni基合金粉末のC量およびO量を比較の基準として、焼結体のC量およびO量の増加の抑制効果を確認することができた。
【0125】
Ti基合金粉末からなる焼結体について、Ti基合金粉末からなる焼結体を作製した実験5(本発明例)と実験6~8(比較例)との対比により、Ti基合金粉末に対する焼結体のC量の抑制効果を確認することができる。具体的には、実験5(本発明例)では、Ti基合金粉末のC量に対して、焼結体のC量は+32%となって比較的小さく抑制することができた。一方、実験6~8(比較例)では、Ti基合金粉末のC量に対して、焼結体のC量は、それぞれ、+74%、+190%、+940%となって小さく抑制することができなかった。
【0126】
この結果、Ti基合金粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製し、その成形体から有機成分を加熱により除去して脱脂体を作製し、その脱脂体を構成するTi基合金粉末を加熱により焼結して焼結体を作製する、Ti基合金粉末焼結体の製造方法において、この発明に係る構成の適用によって、Ti基合金粉末のC量を比較の基準として、焼結体のC量の増加の抑制効果を確認することができた。
【0127】
上記した実験1~8の結果を勘案すれば、金属粉末および有機成分を含む混合物から成形体を作製し、その成形体から有機成分を加熱により除去して脱脂体を作製し、その脱脂体を構成する金属粉末を加熱により焼結して焼結体を作製する、金属粉末焼結体の製造方法において、この発明に係る構成の適用によって、金属粉末を比較基準としたときの焼結体のC量およびO量の増加の抑制効果を確認することができる。
【0128】
以上より、この発明によれば、加熱による成形体、脱脂体、仮焼体、および、炉内の堆積物からの放出ガス(熱分解生成物)に起因する焼結体の品質劣化を、簡易な手段で抑制することができることが判明した。それゆえ、この発明は、金属粉末焼結体の品質の安定化に寄与する技術として期待される。
【符号の説明】
【0129】
<脱脂体作製工程><仮焼体作製工程>
10 成形体または脱脂体
11 第1金属材料または第3金属材料
12 第1ハウジングまたは第4ハウジング
12a ベースプレート
12b ケース
13 隙間
14 空間
<脱脂体作製工程><仮焼体作製工程>
20 成形体または脱脂体
21 第1金属材料または第3金属材料
22 第1ハウジングまたは第4ハウジング
22a ベースプレート
22b ルーフプレート
22c サイドウォール
23 隙間
24 隙間
25 空間
<焼結体作製工程>
30 脱脂体または仮焼体
31 第2金属材料
32 第2ハウジング
32a 底部
32b 壁部
33 空間
34 第3ハウジング
34a ベースプレート
34b ケース
35 隙間
36 空間
<焼結体作製工程>
40 脱脂体または仮焼体
41 第2金属材料
42 第2ハウジング
42a ケース
42b ルーフプレート
43 隙間
44 空間
45 第3ハウジング
45a ベースプレート
45b ルーフプレート
45c サイドウォール
46 隙間
47 隙間
48 空間
<焼結体作製工程>
50 脱脂体または仮焼体
51 第2金属材料
52 第2ハウジング
52a ケース
52b ルーフプレート
53 隙間
54 空間
55 第3ハウジング
55a ベースプレート
55b ケース
56 隙間
57 空間

図1
図2
図3
図4
図5