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特開2022-146459二液混合型モルタル組成物及び吐出装置
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  • 特開-二液混合型モルタル組成物及び吐出装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146459
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】二液混合型モルタル組成物及び吐出装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/06 20060101AFI20220928BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 14/36 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20220928BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C04B28/06
C04B24/38 A
C04B24/06 A
C04B14/36
C04B14/28
E04B1/41 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047428
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】秋藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】弟子丸 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】首藤 宏志
【テーマコード(参考)】
2E125
4G112
【Fターム(参考)】
2E125AA71
2E125AF01
2E125AG13
2E125BA13
2E125BB08
2E125CA82
4G112PA10
4G112PA14
4G112PB17
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】アルミナセメント(主材)を含む第一の液と、アルミナセメントの硬化を開始させるためのアルカリ(活性剤)を含む第二の液とによって構成され、優れた貯蔵安定性を有する二液混合型モルタル組成物を提供する。
【解決手段】本開示に係る二液混合型モルタル組成物は、第一の液と第二の液を混合して使用されるものであり、第一の液がアルミナセメントを含み、第二の液が細骨材とセルロース系増粘剤とを含むアルカリ溶液である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の液と第二の液を混合して使用される二液混合型モルタル組成物であって、
前記第一の液がアルミナセメントを含み、
前記第二の液が細骨材とセルロース系増粘剤とを含むアルカリ溶液である、二液混合型モルタル組成物。
【請求項2】
前記セルロース系増粘剤がメチルセルロース系増粘剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤及びヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の二液混合型モルタル組成物。
【請求項3】
前記第一の液が抑制剤を更に含む、請求項1又は2に記載の二液混合型モルタル組成物。
【請求項4】
前記第二の液が無機微粉末を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二液混合型モルタル組成物。
【請求項5】
アルミナセメントを含む第一の液を収容する第一の容器と、
細骨材とセルロース系増粘剤とを含むアルカリ溶液である第二の液を収容する第二の容器と、
前記第一の液と前記第二の液とを混合する混合部と、
前記第一の液と前記第二の液の混合液を吐出する吐出口と、
を備える吐出装置。
【請求項6】
以下の不等式(1)で示される条件を満たすように、前記混合部において前記第一の液と前記第二の液が混合される、請求項5に記載の吐出装置。
1≦V1/V2≦10…(1)
[式(1)中、V1は前記第一の液の体積を示し、V2は前記第二の液の体積を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、第一の液と第二の液とによって構成される二液混合型モルタル組成物、並びに、これらの液を互いに分離した状態で収容しており、使用の際にこれらの液の混合液を吐出させる吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナセメントを含む主材と、アルミナセメントの硬化を開始させるためのアルカリ溶液である活性材とによって構成される二液混合型のモルタル材が知られている。例えば、特許文献1は、硬化性水相アルミナセメント成分Aと、硬化過程を開始するための水相状態にある開始剤成分Bとを含む2成分モルタル系留付け材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-500297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明の課題の一つは、使用前の一定期間安定的に保管できることである(特許文献1の段落[0011]参照)。しかし、本発明者らの検討によると、引用文献1に記載の2成分のうち、開始剤成分Bに含まれる鉱物充填剤が沈降及び凝集しやすく、貯蔵安定性の点において改善の余地があった。
【0005】
本開示は、アルミナセメントを含む第一の液と、アルミナセメントの硬化を開始させるためのアルカリを含む第二の液とによって構成され、優れた貯蔵安定性を有する二液混合型モルタル組成物を提供する。また、本開示は、第一及び第二の液を互いに分離した状態で収容しており、使用の際にこれらの液の混合液を吐出させる吐出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は二液混合型モルタル組成物に関する。この二液混合型モルタル組成物は、第一の液と第二の液を混合して使用されるものであり、第一の液がアルミナセメントを含み、第二の液が細骨材とセルロース系増粘剤とを含むアルカリ溶液である。
【0007】
本発明者らによる評価試験によると、第二の液に細骨材とセルロース系増粘剤が共存していることで、細骨材の沈降及び凝集が高度に抑制され、優れた貯蔵安定性を実現できる。この主因は必ずしも明らかではないが、セルロース系増粘剤が他の増粘剤と比較して高い親水性を有することに起因するものであると推察される。
【0008】
セルロース系増粘剤の具体例として、メチルセルロース系増粘剤、ヒドロキシエチルセルロース系粘剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤及びヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤が挙げられる。これらの増粘剤は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0009】
第一の液は抑制剤を更に含んでもよい。第一の液にアルミナセメントと抑制剤が共存していることで、第一の液と第二の液が混合した際、アルミナセメントが急激に硬化することを抑制できる。これにより、第一の液と第二の液が混合された後において、ある程度の期間にわたって混合液に流動性を持たせることができる。
【0010】
第二の液は無機微粉末を更に含んでもよい。第二の液が、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の微粉末を含むことで、第二液の水の分離を抑制するとともに吐出性を向上させることができる。
【0011】
本開示の一側面は上記二液混合型モルタル組成物のための吐出装置に関する。この吐出装置は、アルミナセメントを含む第一の液を収容する第一の容器と、細骨材とセルロース系増粘剤とを含むアルカリ溶液である第二の液を収容する第二の容器と、第一の液と第二の液とを混合する混合部と、第一の液と第二の液の混合液を吐出する吐出口とを備える。上述のとおり、第二の液が優れた貯蔵安定性を有している。このため、使用者が吐出装置全体を事前に振ったり振動を加えたりしなくても、混合部において第一の液と第二の液を容易に混合することができ、優れた吐出性を実現できる。
【0012】
本開示において、以下の不等式(1)で示される条件を満たすように、第一の液と第二の液が混合されることが好ましい。本開示に係る上記吐出装置の混合部において、この条件を満たすように、第一の液と第二の液が混合されればよい。
1≦V1/V2≦10…(1)
[式(1)中、V1は第一の液の体積を示し、V2は第二の液の体積を示す。]
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、アルミナセメントを含む第一の液と、アルミナセメントの硬化を開始させるためのアルカリを含む第二の液とによって構成され、優れた貯蔵安定性を有する二液混合型モルタル組成物が提供される。また、本開示によれば、第一及び第二の液を互いに分離した状態で収容しており、使用の際にこれらの液の混合液を吐出させる吐出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本開示に係る吐出装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<二液混合型モルタル組成物>
本実施形態に係る二液混合型モルタル組成物は、第一の液(アルミナセメント含有液)と第二の液(アルカリ溶液)を混合して使用されるものである。第二の液に、細骨材とセルロース系増粘剤が配合されている。第二の液に細骨材とセルロース系増粘剤が共存していることで、第二の液における細骨材の沈降及び凝集が高度に抑制され、優れた貯蔵安定性を実現できる。以下、第一の液及び第二の液について説明する。
【0017】
[第一の液(アルミナセメント含有液)]
第一の液は、アルミナセメントと水とを少なくとも含む。第一の液は、第二の液と混合されることによって水硬性を有するセメントモルタル(混合液)となる。
【0018】
アルミナセメントは、主に水硬性カルシウムアルミネートで構成されるカルシウムアルミネートセメントである。カルシウムアルミネートセメントの主な有効成分はモノカルシウムアルミネート(CaO・Al)やモノカルシウムジアルミネート(CaO・2Al)である。アルミナセメントの市販品として、ターナルホワイト(登録商標、イメリスアルミネート社、フランス)を例示できる。
【0019】
第一の液は、結合材としてアルミナセメントの他に、硫酸カルシウム、好ましくは硫酸カルシウム半水和物等の石膏類を含んでもよい。アルミナセメント中のカルシウムアルミネートが硫酸カルシウム混合物と反応することでエトリンガイトという水和物が生成する。エトリンガイトの生成は硬化組成物の膨張を誘致することが知られており、アルミナセメントの収縮を補償する働きを有する。硫酸カルシウム混合物の含有量は、アルミナセメント100重量部に対して好ましくは10~65質量部であり、より好ましくは15~60質量部であり、さらに好ましくは20~55質量部である。
【0020】
水は特に限定されないが、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水等を使用することができる。水の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~85質量部、更に好ましくは30~70質量部である。
【0021】
第一の液は、抑制剤、遮断剤、促進剤及び増粘剤から選ばれる成分を必要に応じて含んでもよい。
【0022】
抑制剤は、アルミナセメントの水和を遅延させるための成分である。抑制剤として、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、グルコン酸及びこれらの塩を使用できる。これらの成分のうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。抑制剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは0.01~1.5質量部であり、より好ましくは0.05~1.0質量部であり、更に好ましくは0.1~0.6質量部である。
【0023】
促進剤は、アルミナセメントの硬化を促進させるための成分である。促進剤と抑制剤を必要に応じて併用することで、セメントモルタルの硬化時間を調整することが可能である。促進剤として、例えば、硫酸リチウム、ギ酸リチウム、亜硝酸リチウム、リン酸リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム金属塩や硫酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのナトリウム金属塩、硫酸カルシウム、ギ酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム金属塩を使用できる。これらの成分のうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。促進剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは0.01~15.0質量部であり、より好ましくは0.05~10.0質量部であり、更に好ましくは0.1~5.0質量部である。
【0024】
遮断剤は第一の液においてアルミナセメントの水和を防止するための成分である。遮断剤として、例えば、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸を使用できる。これらの成分のうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。遮断剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは0.3~6.0質量部であり、より好ましくは0.5~5.0質量部であり、更に好ましくは1.0~4.0質量部である。
【0025】
増粘剤は、第一の液の粘度を調整するための成分である。増粘剤として、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、粘土鉱物系のベントナイト、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、水溶性ポリマー系増粘剤等を使用できる。これらのうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。増粘剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは0.01~1.6質量部であり、より好ましくは0.03~1.2質量部であり、更に好ましくは0.05~0.8質量部である。
【0026】
第一の液は、上記の成分の他に、細骨材、流動化剤、インク、顔料、分散剤、凝結調整剤、膨張材、収縮低減剤、消泡剤、防腐剤等を含有してもよい。
【0027】
細骨材は特に限定されず、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等を使用することができる。これらのうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。なお、JIS A 0203:2014「コンクリート用語」に規定されるように、細骨材とは10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材である。細骨材の最大粒径は、好ましくは0.4mmであり、より好ましくは0.35mmであり、更に好ましくは0.3mmである。第二の液における細骨材の沈降及び凝集を抑制する観点から、平均粒径が小さい細骨材を使用することが好ましい。その具体例として、7号珪砂(最大粒径:0.3mm程度)、8号珪砂(最大粒径:0.25mm程度)が挙げられる。第一の液における細骨材の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して好ましくは5~100質量部であり、より好ましくは15~90質量部であり、更に好ましくは35~80質量部である。
【0028】
使用時における第一の液の粘度範囲は、好ましくは30~200Pa・sであり、より好ましくは35~160Pa・sであり、更に好ましくは45~140Pa・sである。使用時における第一の液のTi値(チキソトロピーインデックス)は、好ましくは1.5~9.5であり、より好ましくは2.0~8.5であり、更に好ましくは2.5~8.0である。第一の液の粘度は、B型粘度計を使用し、20℃、回転速度20rpmの条件で測定された値を意味し、Ti値は回転数20rpmの粘度に対する2rpmの粘度の比率を意味する。粘度及びTi値が上記範囲内の第一の液は、貯蔵時における固液の分離が十分に抑制されているということができる。このような第一の液によれば、本実施形態に係る吐出装置等において吐出抵抗が小さく、また吐出時には連続的に吐出される材料特性を得ることができる。
【0029】
第一の液の貯蔵安定性は粘度変化率で評価することができる。粘度変化率は、調製直後(調製から1時間以内)の粘度vと、調製から一週間後(7日後)の粘度vから下記式(2)で算出される値である。なお、粘度v,vはいずれもB型粘度計を使用し、回転数20rpmの条件で測定される値を意味する。粘度変化率が-30%~30%(より好ましくは-20~20%)の範囲であれば、十分に高い貯蔵安定性を有すると判断できる。
粘度変化率[%]=(v-v)/v×100…(2)
【0030】
[第二の液(アルカリ溶液)]
第二の液は、活性剤と細骨材とセルロース系増粘剤とを含む溶液である。活性剤は、例えば、水酸化ナトリウム、アミン、アルカノールアミン、オルトケイ酸ナトリウム、水酸化リチウム、アミノメチルプロパノール、水酸化カルシウム等を含む溶液であってよい。活性剤を含有することで第二の液をアルカリ溶液とすることができる。第二の液のpHは7より大きく14以下であり、好ましくは9~14である。第二の液が第一の液と混合されることで、第一の液に含まれるアルミナセメントの硬化を開始させることができる。
【0031】
細骨材は特に限定されず、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等を使用することができる。これらのうち、一種を単独で又は二種以上を併用してもよい。なお、JIS A 0203:2014「コンクリート用語」に規定されるように、細骨材とは10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材である。細骨材の最大粒径は、好ましくは0.4mmであり、より好ましくは0.35mmであり、更に好ましくは0.3mmである。第二の液における細骨材の沈降及び凝集を抑制する観点から、平均粒径が小さい細骨材を使用することが好ましい。その具体例として、7号珪砂(最大粒径:0.3mm程度)、8号珪砂(最大粒径:0.25mm程度)が挙げられる。第二の液における細骨材の含有量は、活性剤100質量部に対して好ましくは60~300質量部であり、より好ましくは80~280質量部であり、更に好ましくは100~250質量部である。
【0032】
セルロース系増粘剤は、第二の液の粘度を調整するとともに、細骨材の沈降及び凝集を抑制するための成分である。第二の液がセルロース系増粘剤を含むことで、優れた貯蔵安定性を実現できる。セルロース系増粘剤の具体例として、メチルセルロース系増粘剤、ヒドロキシエチルセルロース系増粘剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤及びヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤が挙げられる。これらのうち、一種を単独又は二種以上を併用してもよい。
【0033】
第二の液におけるセルロース系増粘剤の含有量は、活性剤100質量部に対して好ましくは0.05~10.0質量部であり、より好ましくは0.1~8.0質量部であり、更に好ましくは0.2~5.0質量部である。この量が0.05質量部より少なくなると細骨材の沈降及び凝集が生じやすくなり、他方、10.0質量部より大きくなることで第二の液の粘度が過度に高くなり、流動性が失われる。
【0034】
セルロース系増粘剤の粘度はB型粘度計を用いた20℃における2%水溶液の粘度値で表される。第二液に使用するセルロース系増粘剤の20℃における2%水溶液の粘度は、好ましくは50mPa・s~12000mPa・s、より好ましくは300mPa・s~11000mPa・s、更に好ましくは3000mPa・s~10000mPa・sである。セルロース系増粘剤の20℃における2%水溶液の粘度が50mPa・s~12000mPa・sの範囲内にあることで、セルロース系増粘剤の添加量を極端に多く、もしくは少なくすることなく、モルタル組成物を設計することが可能となる。
【0035】
第二の液は無機微粉末(フィラーとも称される)を更に含んでもよい。無機微粉末は、細骨材よりも小さい粒径を有しており、第二液の水の分離を抑制するとともに、吐出性を向上させる役割を果たす。無機微粉末として、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等を使用できる。無機微粉末の平均粒径は、例えば、1~2μmであり、0.5~2.5μmであってもよい。無機微粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布計を使用して測定される値を意味する。第二の液における無機微粉末の含有量は、活性剤100質量部に対して好ましくは5~250質量部であり、より好ましくは15~200質量部であり、更に好ましくは25~150質量部である。この量が5質量部以上であることで、無機微粉末による上記効果が十分に発揮される傾向にあり、他方、250質量部以下であることで、第二液をスラリー状に安定的に保つことができる傾向がある。
【0036】
第二の液は、上記の成分の他に、インク、顔料、消泡剤、防腐剤等を含有してもよい。
【0037】
使用時における第二の液の粘度範囲は、好ましくは30~200Pa・sであり、より好ましくは35~160Pa・sであり、更に好ましくは45~140Pa・sである。使用時における第二の液のTi値(チキソトロピーインデックス)は、好ましくは1.5~9.5であり、より好ましくは2.0~8.5であり、更に好ましくは2.5~8.0である。第二の液の粘度は、B型粘度計を使用し、20℃、回転速度20rpmの条件で測定された値を意味し、Ti値は回転数20rpmの粘度に対する2rpmの粘度の比率を意味する。粘度及びTi値が上記範囲内の第二の液は、貯蔵時における固液の分離が十分に抑制されているということができる。このような第二の液によれば、本実施形態に係る吐出装置等において吐出抵抗が小さく、また吐出時には連続的に吐出される材料特性を得ることができる。
【0038】
第二の液の貯蔵安定性は、第一の液と同様、上記式(2)で算出される粘度変化率の値で評価することができる。粘度変化率が-30%~30%(より好ましくは-20~20%)の範囲であれば、十分に高い貯蔵安定性を有すると判断できる。
【0039】
[セメントモルタル]
第一の液と第二の液とを混合することによってセメントモルタルが得られる。以下の不等式(1)で示される条件を満たすように、第一の液と第二の液が混合されることが好ましい。
1≦V1/V2≦10…(1)
[式(1)中、V1は第一の液の体積を示し、V2は第二の液の体積を示す。]
V1/V2の値が1以上であることで、セメントモルタルから高い硬度のモルタル硬化物を得ることができ、他方、10以下であることで、第一の液と第二の液を短時間で十分均一に混合することができる。この値はより好ましくは1.2~6.0であり、更に好ましくは1.4~4.0である。
【0040】
粘度及びTi値が前述の範囲内である第一の液と第二の液とを混合することによって得られたセメントモルタルは、本実施形態に係る吐出装置等において吐出抵抗が小さく、また吐出時には連続的に吐出され、横向き、上向き施工しても液だれがない材料特性を得ることができる。
【0041】
[吐出装置]
図1は本実施形態に係る吐出装置を模式的に示す断面図である。この図に示す吐出装置10は水硬性を有するセメントモルタルを充填材料として利用するものである。吐出装置10は、第一の液を収容する第一の容器1と、第二の液を収容する第二の容器2と、これらの液を混合する混合器3と、混合器3の出口に設けられたノズル7と、容器本体部8とを備える。第一の容器1及び第二の容器2は容器本体部8に対して着脱自在に設けられている。混合器3において第一の液と第二の液が混合されることによってセメントモルタルが調製され、セメントモルタルがノズル7から吐出されるように構成されている。吐出装置10は、セメントモルタルの単位時間あたりの吐出量が、例えば、0.01~10L/分程度である。
【0042】
吐出装置10は、あと施工アンカー工法に適用されるものであり、具体的には孔にセメントモルタルを注入する工程において使用される。あと施工アンカー工法は以下の工程を含む。
(A)既設建築物の所定の位置にドリルで孔を形成する。
(B)孔の内面を清掃する。
(C)孔の深さを確認する。
(D)孔内に所定量のセメントモルタルを注入する。
(E)セメントモルタルが収容された孔内にアンカー筋を埋め込む。
(F)セメントモルタルを硬化させてアンカー筋を固定する。
あと施工アンカー工法においては、十分な強度を有するアンカーを構築するため、決められた深さの孔を形成すること、この孔に決められた量のセメントモルタルを確実に注入することが重要である。
【0043】
吐出装置10は、第一の容器1内の第一の液を混合器3に移送する第一の移送手段と、第二の容器2内の第二の液を混合器3に移送する第二の移送手段とを備える。本実施形態において第一の移送手段は、第一の容器1の内面に対して摺動する第一のピストン1aと、第一の容器1の先端部1cに設けられた流路1dとを含む。本実施形態において第二の移送手段は、第二の容器2の内面に対して摺動する第二のピストン2aと、第二の容器2の先端部2cに設けられた流路2dとを含む。第一の容器1の先端部1c及び第二の容器2の先端部2cは混合器3に対して着脱自在に接続されている。かかる構成の代わりに、第一及び第二の容器1,2と混合器3とをホース(不図示)を介してそれぞれ接続してもよい。
【0044】
第一のピストン1aは、手動、電動、油圧、エア式(ブランジャ)等の動力によって駆動し、第一の液の混合器3への移送量を調節できるように構成されている。第二のピストン2aは、手動、電動、油圧、エア式(ブランジャ)等の動力によって駆動し、第二の液の混合器3への移送量を調節できるように構成されている。なお、第一のピストン1a及び第二のピストン2aは、一軸で構成(シャフト1bとシャフト2bが一体的に形成)されていてもよく、二軸で構成(シャフト1bとシャフト2bが互いに独立して形成)されていてもよい。一軸で構成されている場合、第一のピストン1a及び第二のピストン2aの移動距離が同じであるから、第一の容器1及び第二の容器2の断面積によって二つの液の配合比率が決まる。他方、二軸で構成されている場合、両者を独立に制御することで、二つの液の配合比率を任意に設定することができる。
【0045】
以下、吐出装置10の各構成について説明する。
【0046】
第一の容器1は、第一の液を収容している。第二の容器2は、第二の液を収容している。第一の容器1及び第二の容器2は、容器本体部8に対して着脱自在に設けられている。このため、設備が整った製造工場で第一の液及び第二の液を調製し、これを収容した別の第一の容器1及び第二の容器2を施工現場に配送することで、残りが少なくなった第一の容器1及び第二の容器2との交換作業を容易に行うことができる。なお、第一の容器1及び第二の容器2は、分離可能であっても、一体化されたものであってもよい。
【0047】
第一の容器1及び第二の容器2の容量は、これらの容器が収容する第一の液及び第二の液の使用量に応じて適宜設定すればよい。セメントモルタルの調製に使用する第二の液の量を1体積部とすると、第一の液の使用量は、例えば、1~10体積部である(上記不等式(1)参照)。
【0048】
混合器3は、例えば、スタティックミキサーである。スタティックミキサーは動力が不要であり、省スペース且つ省エネルギーの効果がある。なお、混合器3は、第一の液と第二の液を十分均一に混合できるものであればよく、例えば、これらの液を収容するタンクと、タンク内の液体を撹拌するプロペラとによって構成されるものであってもよい。
【0049】
ノズル7は、セメントモルタルを吐出するためのものであり、混合器3の先端に対して着脱自在に設けられている。ノズル7の吐出口7aの形状は、セメントモルタルの粘度及び吐出速度、並びに、充填孔の態様等により適宜設定すればよい。上述のとおり、あと施工アンカー工法においては、孔に所定量のセメントモルタルを確実に注入することが重要である。したがって、例えば、セメントモルタルの充填時に孔内に空隙が生じないように、セメントモルタルを孔の底部に供給することが好ましい。すなわち、ノズル7を孔に挿入し、ノズル7の吐出口7aを孔の底部に近づけた状態でセメントモルタルを孔に供給することが好ましい。ノズル7は、例えば、図1に示すように、細長い形状を有する。ノズル7の長さは、例えば、30~450mmであり、好ましくは45~420mmである。ノズル7の外径は、例えば、3~65mmであり、好ましくは7~60mmである。
【実施例0050】
以下、本開示について、具体的な実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0051】
<使用材料>
以下の材料を準備した。
[1]第一の液(アルミナセメント含有液)を調製するための材料
(1)結合材
・アルミナセメント(商品名:Ternal White、Imerys社製、Al:68.7%)
・半水石膏(商品名:MB12RG、Imerys社製)
(2)増粘剤
・増粘剤1A:ガム系増粘剤(商品名:Kelco vis DG、KELCO社製)
・増粘剤2A:セルロース系増粘剤(商品名:メトローズSC-3403Q、信越化学社製)
(3)細骨材
・7号珪砂(商品名:N70珪砂、瓢屋社製、最大粒径:290μm)
・8号珪砂(商品名:N80珪砂、瓢屋社製、最大粒径:240μm)
(4)その他
・水
・抑制剤:酒石酸ナトリウム(商品名:L-酒石酸ナトリウム、扶桑化学工業社製)
・遮断剤:リン酸(濃度:85wt%)
・促進剤:硫酸リチウム(商品名:Peramin AXL80(Peraminは登録商標)、Peramin社製、)
・流動化剤:ポリアクリル酸系流動化剤(Sokalan PA25CL-FR(Sokalanは登録商標)、BASF社製)
[2]第二の液(アルカリ溶液)を調製するための材料
(1)活性剤
・水酸化ナトリウム水溶液(濃度:5wt%)
・2-アミノ-2-メチル-1プロパノール(商品名:AMP-90、ANGUS社製)
(2)細骨材
・7号珪砂(商品名:N70珪砂、瓢屋社製、最大粒径:290μm)
・8号珪砂(商品名:N80珪砂、瓢屋社製、最大粒径:240μm)
(3)フィラー(無機微粉末)
・水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:1.64μm)
・炭酸カルシウム粉末(平均粒径:1.21μm)
(4)増粘剤
・増粘剤1B:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、商品名:メトローズSC-3403Q、信越化学社製)
・増粘剤2B:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、商品名:メトローズSH-4000、信越化学社製)
・増粘剤3B:ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC、商品名:メトローズSEB-04T、信越化学社製)
・増粘剤4B:メチルセルロース(MC、商品名:メトローズSM-4000、信越化学社製)
・増粘剤5B:ガム系増粘剤(商品名:KELZAN、KELCO社製)
・増粘剤6B:鉱物系増粘剤(商品名:LAPONITE EP、BYK社製)
(5)混和剤
・消泡剤:非イオン性消泡剤(商品名:アデカネートB317F、ADEKA社製)
【0052】
表1に実施例に係る第一の液の組成を示す。表2に実施例及び比較例に係る第二の液の組成を示す。表1に記載の値の単位は質量部(アルミナセメント100質量部基準)である。表2に記載の値の単位は質量部(活性剤100質量部基準)である。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
[評価]
(1)貯蔵安定性の評価
表1に示す組成の第一の液及び表2に示す第二の液について、上記式(2)で算出される粘度変化率を求めた。B型粘度計(BROOKFIELD社製)を使用し、回転速度20rpmの条件で粘度を測定した。第一及び第二の液の養生温度は20℃とした。表3,4に結果を示す。なお、表3には、アルミナセメントの量(100質量部)を基準とした水及び細骨材の配合量(単位:質量部)を合わせて記載した。表4には、活性剤の合計量(100質量部)を基準としたフィラー及び増粘剤の配合量(単位:質量部)を合わせて記載した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】

比較例1B及び比較例2Bに係る第二の液は、調製から24時間後の時点において水が分離し、細骨材の沈降が認められ、粘度vを測定することができなかった。
【0058】
第二の液のチキソトロピー性を評価するため、B型粘度計(BROOKFIELD社製)を使用し、回転速度2rpmの条件で第二の液の粘度を測定した。表5に結果を示す。表中のTi値は「チキソトロピーインデックス」を意味し、回転数20rpmでの粘度に対する回転数2rpmでの粘度の比率である。表中のTi値変化率は、調製直後(調製から1時間以内)のTi値(Ti)と、調製から一週間後(7日後)のTi値(Ti)から下記式(3)で算出される値である。
Ti値変化率[%]=(Ti-Ti)/Ti×100…(3)
【0059】
【表5】
【0060】
本発明者らの検討によると、Ti値変化率が-20~50%(より好ましくは-20~20%)の範囲であれば、十分に安定したチキソトロピー性を有すると判断できる。
【0061】
(2)セメントモルタルの吐出性、並びにアンカー筋の引抜強度の評価
まず、二液混合型注入ガンを準備した。この注入ガンに、第一の液及び第二の液をそれぞれ収容するカートリッジを装着した。カートリッジの第一の収容部(容量:300ml)に第一の液を充填し、第二の収容部(容量:150ml)に第二の液を充填した。カートリッジの開口部にノズルを装着し、ノズル内で第一の液と第二の液が混合され、ノズルの先端からセメントモルタルが吐出されるようにした。第一の液及び第二の液の混合比率は2:1とした。表6に各試験例に係るセメントモルタルの組成を記載した。
【0062】
次のようにして孔内にアンカー筋を固定した。母材はFc=23.1N/mmのコンクリートブロックとした。まず、コンクリートブロックに孔(直径:20mm、深さ:100mm)を形成した。上記注入ガンを使用して孔に約19~25mLのセメントモルタルを充填した後、孔内にアンカー筋(直径:16mm)を埋め込んだ。孔内のセメントモルタルを硬化させてアンカー筋を孔内に固定した。孔にセメントモルタルを充填する際、約19~25mLのセメントモルタルをノズルの先端から連続的に吐出できた場合、吐出性が「良好」と評価し、他方、連続的に吐出できなかった場合を「不良」と評価した。材齢1日及び材齢7日の時点でアンカー筋の引抜強度を測定した。なお、引抜強度はボルト外径及び埋込み長より算出された単位面積あたりの平均付着強度として算出した。表6に結果を示す。
【0063】
【表6】
【符号の説明】
【0064】
1…第一の容器、2…第二の容器、3…混合器(混合部)、7…ノズル、7a…吐出口、8…容器本体部、10…吐出装置。
図1