(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146499
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 495/22 20060101AFI20220928BHJP
C09B 47/00 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C07D495/22
C09B47/00 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047493
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】今堀 博
(72)【発明者】
【氏名】梅山 有和
【テーマコード(参考)】
4C071
【Fターム(参考)】
4C071AA03
4C071AA08
4C071BB03
4C071CC04
4C071CC22
4C071EE13
4C071FF03
4C071GG01
4C071GG03
4C071GG05
4C071JJ01
4C071KK01
4C071KK11
4C071KK14
4C071LL05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】近赤外域以上に吸収・発光特性を有し、発光材料への適用が可能な新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1-1)又は下記式(1-2)で表される化合物。
[R
1~R
2、R
7~R
12は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基等を、R
3~R
6は、置換基を有していてもよいアルキル基等を、M
1は、2つの水素原子、2価以上の金属原子等を、環Ar
1、環Ar
2は、置換基を有してもよい芳香族複素環等を表す。]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)又は下記式(1-2)で表される化合物。
【化1】
[式(1-1)及び(1-2)において、
R
1~R
2、R
7~R
12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有しても良いシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、それぞれ隣接する基同士で結合して環を形成していてもよい。
R
3~R
6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
M
1は、2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR
20R
21-を表し、
R
20及びR
21は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
環Ar
1及び環Ar
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有してもよい芳香族複素環を表す。]
【請求項2】
環Ar1及び環Ar2の少なくとも一方がチオフェン環である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1及びR2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物に関するものである。本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、OLED、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の選別、認識等は目視によるものが主流であったが、科学技術の発展とともに、少子高齢化に伴う労力低減への要求も相重なって、近年はロボットを利用した選別・認識へとシフトしつつある。目視による選別・認識では可視光を利用する必要があるが、ロボットを利用する場合には目視では捉えられない近赤外発光も利用することが可能となり、選別・識別精度の向上が期待できる。さらに近赤外光は細胞を透過するので、バイオイメージングやバイオセンサー、医療診断薬、PDTなど医療分野への展開も期待できる。
【0003】
従来、近赤外蛍光色素として、インドシアニングリーン(ICG)、ポルフィリン(Por),フタロシアニン(Pc)、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(BODIPY)色素が知られている。中でも、Porは強い吸光と高い発光量子収率を有することから、特に注目を集めているが、Porは平面性が高く、凝集しやすい骨格であることから、改良が必要とさていた。
Porの改良技術として、例えば、非特許文献1にメチレンブリッジされた骨格を有するポルフィリン誘導体が記載され、近赤外線領域に強い吸収を有し、太陽電池用途として有用であることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yuma Kurumisawa,Tomohiro Higashino,Shimpei Nimura,Yukihiro Tsuji,Hitomi Iiyama and Hiroshi Imahori J.Am.Chem.Soc.2019,141,9910-9919
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1で開示された化合物は、光電変換デバイス用途に開発されたものであり、発光材料への適用に関しては検討されていない。
【0006】
本発明はこの問題に鑑み、近赤外域以上に吸収・発光特性を有し、発光材料への適用が可能な新規化合物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、メチレンブリッジされた特定の骨格を2つ有することにより、発光材料としての適用が可能であることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] 下記式(1-1)又は下記式(1-2)で表される化合物。
【0009】
【0010】
[式(1-1)及び(1-2)において、
R1~R2、R7~R12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有しても良いシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、それぞれ隣接する基同士で結合して環を形成していてもよい。
R3~R6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
M1は、2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR20R21-を表し、
R20及びR21は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
環Ar1及び環Ar2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有してもよい芳香族複素環を表す。]
【0011】
[2] 環Ar1及び環Ar2の少なくとも一方がチオフェン環である、[1]に記載の化合物。
【0012】
[3] R1及びR2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基である、[1]又は[2]に記載の化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、近赤外域以上に吸収・発光特性を有する新規化合物が提供される。
本発明の化合物は、発光材料としての適用が可能である。例えば、近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、OLED、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例で得られた化合物のUV-vis-NIR吸収スペクトルと発光スペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0016】
[式(1-1)又は(1-2)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記式(1-1)又は下記式(1-2)で表される新規化合物である。
【0017】
【0018】
[式(1-1)及び(1-2)において、
R1~R2、R7~R12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有してもよいシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環を表し、それぞれ隣接する基同士で結合して環を形成していてもよい。
R3~R6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環を表す。
M1は、2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR20R21-を表し、
R20及びR21は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
環Ar1及び環Ar2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有してもよい芳香族複素環を表す。]
【0019】
(本発明の化合物が本発明の効果を奏する理由)
上記式(1-1)又は式(1-2)で表される本発明の化合物が、本発明の効果を奏する理由は、以下のように考えられる。
即ち、環Ar1及び環Ar2の導入により共役系が拡張することで、近赤外領域まで吸収および発光を伸ばすことが可能となり、さらに、R3~R6によって共役面の上下に置換基が張り出すことにより、分子間の会合が抑制できることにより、高効率化が達成できる。
また、本発明の化合物が有するメチレンブリッジにより、共役系を固定し、共役の拡張と振動抑制による高効率化、可溶性基導入による溶解性の向上が可能となる。
【0020】
(R1~R2、R7~R12)
R1~R2、R7~R12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有しても良いシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。また、これらの基はそれぞれ隣接する基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0021】
アルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、置換されていてもよい。該アルキル基の炭素数は1以上16以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。
該アルキル基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0022】
アルキニル基は、直鎖でも分岐していてもよく、置換されていてもよい。該アルキニル基の炭素数は2以上20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。
該アルキニル基が有していてもよい置換基としては、シリル基、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいカルボキシ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0023】
アミノ基としては、置換基を有していないアミノ基(-NH2)、1つ又は2つの水素原子がアルキル基で置換されたアルキルアミノ基、1つ又は2つの水素原子がヒドロキシアルキル基で置換された(ヒドロキシアルキル)アミノ基、アミノアルキルアミノ基等を挙げることができる。該アルキル基の炭素数は特に限定されないが、1以上16以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。また、置換部分は直鎖でも分岐していてもよい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。
該アミノ基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
アルキルオキシカルボニル基は、無置換でも置換基を有していてもよく、直鎖でも分岐でも環状であってもよい。該アルキルオキシカルボニル基の炭素数としては、2以上8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。アルキルオキシカルボニル基としては、具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基及びブトキシカルボニル基などが挙げられる。
該アルキルオキシカルボニル基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0025】
アリールオキシカルボニル基は無置換でも置換基を有していてもよい。該アリールオキシカルボニル基の炭素数は、7以上30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。アリールオキシカルボニル基としては、具体的にはフェノキシカルボニル基及び4-メチルフェノキシカルボニル基などが挙げられる。
該アリールオキシカルボニル基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、オキソ基、これらの基の組み合わせなどが挙げられる。これらの中でも置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素数は1以上12以下が好ましい。
【0026】
アルキルカルボニル基は、無置換でも置換基を有していてもよく、直鎖でも分岐でも環状であってもよい。該アルキルカルボニル基の炭素数としては、2以上8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。アルキルカルボニル基としては、具体的にはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基及びブチルカルボニル基などが挙げられる。
該アルキルカルボニル基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0027】
アリールカルボニル基は無置換でも置換基を有していてもよい。該アリールカルボニル基の炭素数は、7以上30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。アリールカルボニル基としては、具体的にはフェニルカルボニル基及び4-メチルフェニルカルボニル基などが挙げられる。
該アリールカルボニル基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、オキソ基、これらの基の組み合わせなどが挙げられる。これらの中でも置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素数は1以上12以下が好ましい。
【0028】
アルコキシ基は、直鎖でも分岐していてもよく、置換されていてもよい。該アルコキシ基の炭素数としては、1以上20以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。
該アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基等の直鎖アルコキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、3,7-ジメチルオクチルオキシ基等の分岐アルコキシ基が挙げられる。
該アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、スルファニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、これらの基の組み合わせ等が挙げられる。
【0029】
置換基を有していてもよいアルキルチオ基は、直鎖でも分岐していてもよい。アルキルチオ基の炭素数としては、1以上30以下が好ましく、20以下がより好ましい。炭素数がこれらの範囲であることで溶剤溶解性が向上する傾向にある。
該アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、n-オクチルチオ基、n-ドデシルチオ基、n-ヘキサデシルチオ基等の直鎖アルキルチオ基、イソプロピルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基、3,7-ジメチルオクチルチオ基等の分岐アルキルチオ基が挙げられる。
該アルキルチオ基は置換基を有していてもよく、置換基としては、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0030】
置換基を有していてもよいアリールチオ基の炭素数としては、6以上30以下が好ましく、20以下であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内であることで、化合物の溶解性が向上する傾向にある。
該アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、1-ナフチルチオ基、2-ナフチルチオ基が挙げられる。
該アリールチオ基は置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0031】
シリル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0032】
芳香族炭化水素基は、単環基であってもよく、縮合環基であってもよく、置換基を有していてもよい。芳香族炭化水素基の芳香族炭化水素環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環が、置換基同士でスタッキングしにくく、凝集を抑制する傾向にあるため好ましい。
【0033】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基は、単環基であってもよく、縮合環基であってもよく、、置換基を有していてもよい。芳香族複素環基の芳香族複素環としては、具体的には、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、イミダゾール環等が挙げられる。これらの中でも、チオフェン環が化合物の発光が長波長化できる傾向にあるため好ましい。
【0034】
これら芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基は特に限定されないが、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、オキソ基、これらの基の組み合わせなどが挙げられる。これらの中でも置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素数は1以上12以下が好ましい。
【0035】
R1~R2、R7~R12は上記の中でも、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基からなる群から選択されるものであることが、耐候性の理由により好ましい。
また、R1~R2に水素原子以外の置換基を有することが、本発明の化合物の凝集による濃度消光を抑制し、発光効率が向上する傾向にあるため好ましく、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基であることが、発光効率が向上する傾向にあるため特に好ましい。
R1及びR2と後述のR3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一であることが、製造容易性の観点から好ましい。
【0036】
(R3~R6)
R3~R6はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
上記の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基は、R1~R2、R7~R12で挙げたものとそれぞれ同義であり、好ましい範囲、有していてもよい置換基も同義である。
【0037】
(環Ar1、Ar2)
環Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有してもよい芳香族複素環を表す。
環Ar1、Ar2は特に限定されないが、同一であることが、製造容易性の観点から好ましい。また、環Ar1、Ar2は置換基を有してもよい芳香族複素環であることが、本発明の化合物の発光が長波長化できる傾向にあるため好ましい。
【0038】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、特に限定されない。該芳香族炭化水素環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環が、溶解性の向上の点で好ましい。
置換基を有していてもよい芳香族複素環は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、特に限定されない。該芳香族複素環としては、具体的には、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、イミダゾール環、インドール環等が挙げられる。これらの中でも、チオフェン環が、本発明の化合物の発光が長波長化できる傾向にあるため好ましい。
【0039】
これら芳香族炭化水素環、芳香族複素環が有していてもよい置換基は特に限定されないがR1~R2、R7~R12として例示した置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、オキソ基、シアノ基、これらの基の組み合わせなどが挙げられる。これらの中でも置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、該アルキル基の炭素数は1以上12以下が好ましい。
【0040】
(M1)
M1は、2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR20R21-を表す。
【0041】
M1の2価以上の金属原子としては特に限定はなく、ポルフィリン環内部に配位し得るものであればよい。例えば、Al、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Pt、Au等が挙げられる。
【0042】
R20及びR21は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基である。該置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、R1~R2、R7~R12として例示したものが挙げられる。これらのアルキル基、アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、1以上12以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0043】
M1としては、これらの中でも、2つの水素原子、2価のMg、Zn、Sn、3価のAlR*、GaR*、-SiR20R21-が、本発明の化合物の発光及び吸収が容易になる傾向にあるため好ましい。ここで、R*はクロロ原子、アルコキシル基、アリールオキシ基、又はヒドロキシル基である。
【0044】
式(1-1)又は(1-2)で表される本発明の化合物の具体例を以下に示すが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。なお、下記化合物中に記したMeはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Buはsec-ブチル基又はtert-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
[式(1-1)又は(1-2)で表される化合物の製造方法]
式(1-1)又は(1-2)で表される本発明の化合物の製造方法は特に限定されず、“J.Am.Chem.Soc.2019,141,9910-9919”等を参考に製造することができる。例えば、以下に示すスキームが挙げられる。
【0052】
【0053】
上記スキームにおいて、Mは式(1)のM1を表し、Rは式(1)のR3~R6を表し、Etはエチル基を表す。上記スキーム内に複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
【0054】
[式(2)で表される化合物]
本発明はまた、下記式(2)で表される構造を有する新規化合物を提供するものである。
【0055】
【0056】
[式(2)において、
R51~R52、R57~R62は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有しても良いシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、それぞれ隣接する基同士で結合して環を形成していてもよい。
R53~R56は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
M2は2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR63R64-を表し、
R63及びR64はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
Ar31は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表し、
nは正の整数を表す。]
【0057】
式(2)で表される化合物は、共役が拡張することにより長波長化が期待できる。
【0058】
(R51~R52、R57~R62)
R51~R52、R57~R62はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルキニル基、カルボキシ基、スルホ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有しても良いシリル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、それぞれ隣接する基同士で結合して環を形成していてもよい。
上記各基は、式(1-1)、(1-2)のR1~R2、R7~R12と同義であり、好ましい炭素数、有していてもよい置換基も同義である。
【0059】
R53~R56はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
上記各基は、式(1-1)、(1-2)のR3~R6と同義であり、好ましい炭素数、有していてもよい置換基も同義である。
【0060】
(Ar31)
Ar31は、2価の、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表す。置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基は、式(1)のAr1及びAr2の置換基を有してもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有してもよい芳香族複素環に基づく基と同義である。これらの中でも、複素環基が、式(2)で表される化合物の発光が長波長化できる傾向にあるため好ましい。
【0061】
(M2)
M2は2つの水素原子、2価以上の金属原子又は-SiR63R64-を表す。M2の2価以上の金属原子としては特に限定はなく、式(1)のM1の2価以上の金属原子として挙げたものと同義である。
R63及びR64は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアルコキシ基は、式(1)のR20及びR21と同義であり、炭素数、有していてもよい置換基も同義である。
【0062】
これらの中でも、M1としては、2つの水素原子、2価のMg、Zn、Sn、3価のAl、Ga、-SiR63R64-が、式(2)で表される化合物の発光及び吸収が容易になる傾向にあるため好ましい。
【0063】
式(2)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。なお、下記化合物中に記したBuはsec-ブチル基又はtert-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0064】
【0065】
式(2)で表される化合物は、数平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。また、50万以下であることが好ましく、40万以下であることがより好ましい。数平均分子量の測定方法は特に限定されないが、サイズ排除クロマトグラフィーにて測定することができる。
【0066】
[式(2)で表される化合物の製造方法]
式(2)で表される化合物の製造方法は特に限定されず、式(1-1)又は(1-2)で表される化合物の製造方法として上述した製造方法等より製造することができる。
【実施例0067】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例及び合成化合物に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい範囲と同様に、本発明の好ましい範囲を示すものであり、本発明の好ましい範囲は前記した実施態様における好ましい範囲と下記実施例の値又は実施例同士の値の組合せにより示される範囲を勘案して決めることができる。
【0068】
【0069】
脱水DMF18mLに化合物1(0.303g,0.302mmol)、Cs2CO3(0.516g,1.58mmol)、エチル2-ブロモチオフェン-3-カルボキシレート(0.240g,1.02mmol)を加え,さらにPd(PPh3)4(0.136g,0.118mmol)の脱水トルエン(40mL)溶液を加えた後、80℃で昼夜撹拌した。室温まで冷却した後、水を加え抽出後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後減圧下にて濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開液 ヘキサン/CH2Cl2=1:1→1:4)を行うことにより、化合物2(0.217g,収率:68%)を得た。
【0070】
【0071】
化合物2(0.202g,0.191mmol)の脱水THF(72mL)溶液を-78℃まで冷却した後、1.6M n-BuLiヘキサン溶液(2.0mL,3.2mmol)を加え、-78℃で30分撹拌した。水を加えた後、分液し、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥後、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物に脱水塩化メチレン(28mL)を加え、BF3・(OEt)2(1.4mL,13mmol)を室温で滴下し、10分撹拌した。得られた混合物にNaHCO3水溶液を加え、洗浄後、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、減圧下で濃縮した。さらに、得られた混合物にジクロロメタン(40mL)、メタノール(26mL)、Zn(OAc)2・2H2O(0.350g,1.59mmol)を加え、室温で昼夜撹拌した。その後抽出を実施し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開液 ヘキサン/CH2Cl2=3:1)を行うことにより目的物A(syn:anti=1:1の異性体混合物、0.071g)を32%の収率で得た。
【0072】
【0073】
0℃に冷やした脱水DMF(0.60mL,7.8mmol)にホスホリルクロリド(0.60mL,6.4mmol)を目的物A(87mg,0.075mmol)の無水1,2-ジクロロエタン溶液(6.0mL)に少しずつ加えた後、2日間還流した。得られた混合物を酢酸ナトリウム水溶液でクエンチした後、水洗を行い、有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、ろ過後減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をジクロロメタン(20mL)とメタノール(17mL)に溶かし、Zn(OAc)2・2H2O(0.170g,0.774mmol)を加え、室温で2日間撹拌した。反応溶液に水を加えて水洗した後、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、減圧下に濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開液 ヘキサン/CH2Cl2=1:2→0:1)で精製することにより、目的物B(syn:anti=1:1の異性体混合物、0.034g、収率:37%)を得た。
【0074】
【0075】
化合物B(9.9mg,0.0081mmol)、1,1-ジシアノメチレン-3-インダノン(8.9mg,0.046mmol)に脱水クロロホルム(3.0mL)とピリジン(0.06mL)を加え、昼夜還流した。室温まで放冷した後、メタノールで再沈を行い、ろ過後、カラムクロマトグラフィー(展開液 ヘキサン/CH2Cl2=1:3)で精製することにより、目的物C(syn:anti=1:1の異性体混合物、8.2mg、収率:42%)を得た。
【0076】
<光学特性の評価>
上記で得られた目的物Cの10
-5Mジクロロメタン溶液を調製し、UV-vis-NIR吸収スペクトル測定と発光スペクトル測定を行った。結果を
図1に示す。
図1に示されるように、この目的物Cは、波長900nm以上に近赤外吸収を有し、波長1000nm付近に発光が確認された。
なお、UV-vis-NIR吸収スペクトルはPerkin Elmer Lambda 900UV/vis/NIR spectrometerを用いて測定を実施した。蛍光スペクトル測定は、HORIBA NanoLog spectrofluorometerを用いて行った。